次からお話広げていきたい
桃色の海に倒れこむと、いやに柔らかい感触が全身に返ってきた。天蓋なんてものがついている時点で想像はしていたが、元の家で使っていた部屋よりも上等なベッドであるらしい。
男の自分にしてみれば毒々しさすら感じるような色調の室内。これから一年弱をこの部屋で過ごすのだと考えると、女子校に通うという話を聞かされたとき以上に頭痛がしてくる。 一体自分は前世でどんな悪いことをしたのだろうか。ここの所、最早天罰としか考えられないような事態に見舞われてばかりである。
それでも、いつかは慣れる日が来るのだろう。ピンク一色で統一された部屋でリラックスできる男子というのはそれはそれでおかしい気がするが──とりあえず、この問題についてこれ以上考えるのはやめておく方がいいと判断する。
「睦月さんも言ってた通り、暫くは自分が環境に慣れるのを優先しないと倒れそうだ」
たった一日で心労が溜まってばかりである。女子校という未知の環境。付け焼刃の礼儀作法。新しく出来た『妹』。不安の種はいくらでもある。
それでも、やらなければいけない。幸敬さんから頼まれ、それを僕がやり遂げたいと感じたからだ。風早織女という
まずは知ることだ。初めての自由を与えられた彼女が、何を望んでいるのか。それがわからない内は、どうしようもない。
「差し当たって、やらないといけないことは……鏡子さんとの話し合いか」
その名前を口にすると、かあっと顔が熱くなる。つい数分前まで間近で凝視していた彼女の姿が克明に思い出せる。身体つきが、体温が、表情が。下半身に熱が集まっていることを自覚して、必死に浮かんでくるそれらを頭から消そうとする。
「今、顔を合わせても冷静な話し合いは無理かな。時間も時間だし、明日にしよう」
時計を確認すると、そろそろ日付も変わる頃合いだった。
寮のみんなはまだ勉強中だろうか。試験準備期間の最中でも、歓迎会という形で時間を割いてもらって少し申し訳なさを感じる。短い時間だったが、彼女たちが悪い人ではない事は理解できたし、少しずつ打ち解けていければいいなと思う。既に性別のことを騙している心苦しさはあるけれど。
「元々、上手く人間関係の構築が出来てた訳じゃないしね」
思えば、自分に友人と呼べるような相手はいただろうか。元の学校では孤立していた、という程ではないが、転入にあたり別れの挨拶をした相手はいなかった。それが答えだった。
改めて考えてみると、あまりにも灰色な学生生活を送っているものである。今回の件は、目的は護衛という仕事ではあるにせよ、僕にとっても心機一転のチャンスなのだ。
頑張ろう。最近はそう思うことが増えたように感じる。
「関係、と言えば」
ふと、学園で出会った女性を思い出す。
確か、仲邑茉理だったか。女の子らしいふんわりとした雰囲気の彼女。少し会話を交わしただけだったが、強く印象に残っている。美貌もそうだが、距離感の詰め方が新鮮だったのが理由だろうか。
機会があれば、もう少し話をしてみたい。同じクラスではないという話だが、同じ学校に通っているのだから全く出会わないという事もないだろう。
布団を寝転がる。
寝心地が悪くないことだけが、今の僕にとって唯一の救いだった。