カンピオーネ 明星の王   作:ノムリ

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人狼と人狐

 リリアナ・クラニチャールたち『まつろわぬ神招来の儀』の生贄として集められた自分たちを外からの侵入しようとする敵を拒み、隠すように囲む草木―――茂み。

 それは神の神話を体現した権能の一つ。

 

「……すごい、一瞬でこのような」

 初めて見る権能は、今まで自分が学んできた魔術とは全く違うものだった。

「…隠すは赤子の身……草木の茂み……不倫の子…」

 傍に座っていた巫女の万理谷が無表情で口にしたのは天啓、この権能に関する情報を無意識に受け取ったのだ。

 

「お前等そっからでてくるなよ。出てこない限りは、安全だ。リリアナ、お前が指揮を取れ。迎えが来たら他の奴らを連れて行け」

 茂みの外にいる流樹の声は、戸惑っていたリリアナの意識を現実に引き戻すのに十分な効果があった。 

「分かりました。ご武運を!」

 

 月宮との会話が終わると外では戦いが始まったのか、様々な音が聞こえてくる。狼の鳴き声、正確に聞き取れない聖句、王同士の会話。

 

「全員迎えが来たらすぐに動ける準備をしろ!私たちが此処にいるだけで明星の王の邪魔になってしまう!」

 

 もしも、自分たちを守っていたせいで負けたとなれば、問題になるどころか一族全員殺されかねない。それほどまでに、王の命は重い。

 

「誰か遠くを見ることが出来る術を使える者は居ないか」

 呼びかけた中で手を上げた数人には、各自違う方角を見るように頼んだ。

 これで迎えを見逃すことも無くなるだろう。

 

 リリアナは、自分たちを守る為に権能を使いながら、今だ戦っている流樹の事を思った。  

 片や”まつろわぬ神”を招来させる為に自分たちを生贄にし、片や、自分たちを庇ってくれた。

「ヴォバン侯爵とは随分と違う方だ」

 少なからず流樹に良い印象を浮かべ、同時に好感も持てた。

 

「見つけました!術者の乗った車が数台こちらに向かってきてます。東の方角に約160メートルです!」

 

 寝込んでいた者も、治療にあたっていた者もワッと歓声が上がった。

 自分も歓声を上げたいのを抑え、全員に指示を出す。

 

「此処で待っていては王の戦いに巻き込まれる。こちらからも車の居る方角に向かって歩こう。全員速やかに準備をしてくれ」

 全員が急いで移動の準備を始めた。

 まともに動くことが出来ない者には肩を貸したり、おぶることで対象する。

 

「明星の王よ!迎えが来たので私たちは移動を始めます!」 

 大声で茂みの向こう側に居る流樹に声を掛けた。

 

「分かった。こっちもそいつ『身を隠れの茂み』を使ってるせいで、権能が一つ使えないからな。早めに移動してくれ!」

 

 やはり、自分たちは足を引っ張っていたか、と申し訳なさに歯噛みしながら、流樹の声を聞いた全員がより一層急いで移動を始めた。

 

 

 

 

 流れる血。

 腕、足、肩、背中、尻尾、体のあちこちから流れる血が服をドス黒く染め、息切れを整えようとすれば再び死者たちが動き始める。

 

「明星の王よ!迎えが来たので私たちは移動を始めます!」

 茂みの中から聞こえてくる声にやっとか、と思いながら空気を吸って、大声で返事を返した。

 

「分かった。こっちもそいつ『身を隠れの茂み』を使ってるせいで、権能が一つ使えないからな。早めに移動してくれ!」 

 死者の肩を踏み台にジャンプすることで攻撃をかわし権能『身を隠す茂み』をキャンセルする。

 遠くには早足で移動する万理谷やリリアナの後ろ姿が微かに見えた。

 茂みはドーム状の包帯に変わり、ゆらゆらと動く。

 

「精気なき肉体よ。冥界へ渡る魂よ。我は汝らを導きし先導者にして管理人。肉体は静かに眠り、魂は冥界で裁きを受けるだろう」

 地面に足が触れると、揺れていた包帯は一斉に槍のように死者たちに向かっていく。

 

 死者たちは剣や杖を使って包帯を防ぐが、数百本という数の前には全てを防ぐことは出来ずに攻撃を受けた。

 攻撃を受けて軽く蹌踉めくが、所詮は包帯。威力があるものではない。

「包帯を操る権能か。どうやら、攻撃に適した権能ではないようだな。……何!?」

 ヴォバン侯爵が目にしたのは、膝を付き剣や杖を落とし、ヒビが包帯の当たった箇所から次第に全身へと広がっていき。最後にはバラバラに砕け、塵となって夜風に消えていった。

 

 『死せる従僕の檻』はヴォバン侯爵が殺した者の魂を縛りつける権能だ。対して流樹の『監督官の冥狼』は包帯で触れた相手から精気を奪い取りミイラに変える権能であり、肉体が無くとも魂に干渉し精気を奪い取れる。加えてアヌビスには魂を冥界に運ぶという役目もあるため、魂に干渉することができる。

 

「俺の権能は死者に関係するからなアンタの死体とは相性が悪いようだな」

 立っていた死者たちは皆、塵となって消えていった。

 

 ヴォバン侯爵は手下を減らされたことに苦虫を噛み潰したかのような顔をしながら新しい権能を発動した。

「従僕共を消した位で調子に乗るなよ小僧!私には他の権能もあるのだよ!」

 

 ウオォォォ!!雄叫びを上げながら新しい権能を発動した。

 全身の筋肉が膨張し着ていたコートを内側から破き、肌は灰色の毛に覆われる。ヴォバン侯爵は人から人狼へと変貌を遂げたのだ。

 

「貴様と同じ自身に関する権能だよ」

 睨み合う人狼と人狐

 ()同士の殺し合いは始まった

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