カンピオーネ 明星の王   作:ノムリ

12 / 14
剣と狼と明星

「で、何があったの?」

 流樹の自宅で、机を間に挟み向かい合うように椅子に座る二人。

 机には、マフィン、マドレーヌ、ショコレート、ケーキ、高級ステーキ、ワイン、シャンパン等の飲食物から、タオルケット、マグカップ、ワイングラス等の日用品が入った箱が山になっている。全てが高級品であり、全てが流樹宛に海外から直達便で届けられたものだ。

 

「儀式の時に助けた、生贄だった子たちの所属する結社とか家からの送り物、か」

 

 新実ははぁ、とため息をつきながら山の中から箱を一つ手に取り、名前を見るとニュースで取り上げられる程の有名店の名前であり、それが他にも同じようなものがいくつも見つかった。

 

「命をかけたわりに、高級お菓子とブランド日用品ね、まあ、元は取れたんじゃない?そういえば、ヴォバン侯爵には勝ったの?負けたの?」

 

「いや、決着はつかなかった」

「どういうこと?」

「実はさ」

 

 流樹は送られてきたお礼を整理しながら、ヴォバン侯爵との戦いのことを新実に話した。

 

 

 

 

 

 

 振るわれる腕を避けながら尻尾を鞭ようにしならせて脇腹に打ち込み。

 繰り出されたもう、一方の腕の攻撃は避けきることができずに、胸に五本の縦線が抉られた。

 

 ヴォバン侯爵は爪と怪力を。

 流樹は爪と尻尾を。

 お互いが獣の特性を活かした攻撃を繰り出す。

「その尻尾邪魔で仕方がないな」

「アンタだって体は大きくなってるし、爪だって切れ味あるだろ」

 

 流樹は体に包帯を巻き、流れる血を止めようとする。

 

「なかなかの実力だな。まつろわぬ神と戦えなかったが、代わりに良い敵と巡り会えたぞ!」

互角に戦える相手に出会えた事に喜び、叫ぶ。ヴォバン侯爵の高揚に比例して強くなる嵐。

 

「こっちは少し前に、ドニと戦ったからな。正直、戦う気は無かったけど、始めると滾るもんだな」

 

自分の周りに青い炎の狐火を生み出し、群がる狼を焼き払う。

戦場を狼が埋め尽くせば、青い炎が飲み込み。青い炎を、ヴォバン侯爵が腕を振るいかき消す。

 

「熱くなる戦いも良いが、そろそろ決着といくか」

 

 呪力を大量に消費する代わりに、伴って大きくなる狐火。

 煌々と燃える狐火は、さっきのとは比較にならないほどの大きさであり、熱量を放っていた。

 

「なら、私も見せるとしよう」

 

 ヴォバン侯爵は使わずに隠していた権能を使うために人の姿に戻り、権能を発動しようもした瞬間、流樹とヴォバン侯爵の間に、人の形をした影が飛び込んできた。二人は警戒し動きを止め、砂煙が収まると、そこに居たのは、今回は、流樹とヴォバン侯爵が戦う原因にもなっ"サルバトーレ・ドニ"が肩に剣を担ぎ、体の周りには輝くルーン文字が浮かんでいる。

 

 後にグリニッジ賢人議会から『鋼の加護(マン・オブ・スチール)』と名付けられる権能をドニは簒奪して数分の間に使用している。

 この無茶苦茶な辺りがカンピオーネというべきか、それとも、ドニだからできるのかは不明なところだ。

 

「ズルいじゃないか。戦いなら、僕も混ぜてくれないと」

 

 いい感じに決着を着けて終わるという状態だった二人の間に割って入り、ヴォバン侯爵の獲物だったまつろわぬ神を横取りしていった、サルバトーレ・ドニにヴォバン侯爵が怒りを向けないわけもなく。

 

「貴様!一度私の獲物を横取りしただけでは飽きたらず、二度も私の戦いの邪魔をしてくれたな!許さんぞ!」

 

 ヴォバン侯爵の怒りに伴い発動した権能『劫火の断罪者』の神すら灼き殺す焔が全方向に広がる。

 

「おっと!」

 ドニは肩に担いでいた剣を振り下ろし、流樹は地面を強く蹴り、近くにあった石柱の上に着地する。

 剣で焔を斬り払うドニもこれには堪らないと、剣を強く振り逃げ道を作り出しそそくさ、と逃げ始めた。

 

「これは、ちょっとマズイかな。今日はまつろわぬ神を戦えたから満足しておくよ!じゃあね」

 

 辺りを一瞬で焔の海にした関接的な元凶は、何食わぬ顔をして颯爽と走り去る。

「逃がすか!サルバトーレの小僧!」

 一層激しさを増し、焔の海が広がっていく。

 

「決着がどうとかって言う前に、燃えて灰になりそうだな。俺も燃えないうちに逃げるとするか」

 

 石柱の上からジャンプして後に空中で神速を発動して、体は黒い煙となって空を走るように移動していく。

 

「委員会に、なんの呪具もらうか考えておかないとな」

 空を移動する中でヴォバン侯爵とドニのことは既に頭になく、もらう呪具のことで流樹の頭の中はいっぱいだった。

 

 

 

 

 

「こんな感じのことがあった」

「サルバトーレ卿とヴォバン侯爵も素晴らしい位に大暴れしたけど、流樹も同じ位こっちも迷惑かけたわよね」

 

 頭に手を当てて頭痛がすると言いたそうな表情をしている新実。

 現にその通りだ。正史編纂委員では、流樹からの「近くの魔術結社に迎えを頼んどいて」の対応に大忙しだった。現地周辺の魔術結社も儀式の事を隠したり、誤魔化したりで手一杯だったところに、いきなりのカンピオーネ名義で依頼。断る事も出来ずに、足りていない人員を余計に別のところに回す必要が出てきた。

 

 皿木さんから聞いた話では、儀式に生贄として集められていた少女たちの治療は終わり、無事に各地に送られたそうだ。

 

 現場を焔の海にしたヴォバン侯爵の方は、ドニと流樹が居なくなったことでやることもなくなり、権能を解除後、主に活動しているバルカン半島辺りにある住処に帰ったそうだ。

 

「ヴォバン侯爵、相手だと権能の相性が悪いし、次、会ったらマジで殺されそうだ。結局、ドニの邪魔が入って決着も着かなかったし」

 

「そういえば、委員会から報酬に渡す呪具を決めといてくれって、伝言ね。あと、これ」

 

鞄から取り出し、机の上に置いたのは一つの封筒。

封蝋には、マークがあるものの初めてみるもの。封を開けて、中に入っている手紙を読む。内容は、海上で行われるパーティーへの招待だ。

 

「助けた生贄の子の所属する、魔術結社からよ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。