夜の海に豪華客船を沈めようと、蠢く五本の足が豪華客船に絡みついていく。
船の中から叫び声が流樹の耳には入ってくるが、気にしている余裕など無かった。
何せ、ここは海の上なのだ。
豪華客船が沈めば真冬の海に投げ出される。それはカンピオーネである流樹にとっても死に直結している。
「クラーケンと豪華客船とか、B級映画が一本出来そうだな。空に浮かびし星にして空を舞いし鳥。灰からいでて星となり輝く光と炎を放つ、流れる星は絶えず空を鳥の如く飛び渡る」
左右の揺れに耐えながら聖句を即座に唱え、空に輝く月を還しての太陽の光を集める。体の周りに生み出された光鳥は羽を羽ばたかせて、豪華客船に絡みついた足に直撃して爆ぜた。
足を黒く焦がし一部が吹き飛び、引き剥がされたクラーケンの足はウネウネと奇妙な動きをしながら海中へと戻っていった。
「これで、終わりなわけないか。ファルナ、初仕事だ!豪華客船の中の魔術師を統率して、魔術でも避難用のボートでも使って船から退避させろ。足手纏いが居たんじゃ戦えないからな!」
床で蹲っていたファルナに仕事を言い渡す。
「はい!見事にやり遂げて見せますよ!」
二つ返事でヒールとは思えない軽やかな速さで、階段を駆け下りて行った。
「さて、こっから本番か」
海中が盛り上がり、ザヴァ!と滝が流れ落ちるような音と共に姿を現したのはクラーケンの足ではなく、クラーケンの本体だ。
全体的に濃い藍色の体に、電球のような丸っこい頭に、黄色に光る二つの眼、ウネウネと動く合計八本の足。
「デカすぎだろ。タコ焼き何個作れるんだ?」
クラーケンの全体像を見てタコ焼きを思い浮かべるのは、恐らく世界広しと言えど流樹だけだろう。
ゆっくりと、三本の足を上に伸ばし、攻撃の準備をするクラーケン。流樹もそれに合わせて、光を集めて光鳥を数匹生み出すが、今の月は三日月だ。太陽の光を元に作っている光鳥は量産することができず、最大数で十二体しか作り出せない。
「■■■■■■■■■!」
人間には聞き取ることの出来ない奇声を上げながら、振り下ろされる足に向かって光鳥をぶつけた。
衝突し合う光鳥とクラーケンの足。
白い光と赤い炎が発生して一瞬で消え、白い煙と焼け焦げた匂いと共にクラーケン本体も苦悶の声を上げた。
「■■■■■■■ッ!?」
「足を破壊するには数が足りないか。変えるか、精気なき肉体よ。冥界へ渡る魂よ。我は汝らを導きし先導者にして管理人。肉体は静かに眠り、魂は冥界で裁きを受けるだろう」
権能を『明星の光源《ルミナス・スター》』から『監督官の冥狼《ストゥム・ソウル》』に切り替え、攻撃の準備をする。
右腕から包帯を数十本産みだし螺旋状に薄く巻きつけていく、さながらロボットアニメの剣と腕が一体化した武器のように。
腕を振りながら可動範囲を確かめていく、初めてにしては上手く出来たか。
「やってみるとできるもんだな」
剣を構え、槍や鞭のように襲い掛かってくるクラーケンの足に左腕から伸ばした包帯を巻きつけ、ロープアクションをしながら回避行動を取りつつ足を切っては移動を繰り返していく。
自分の足の間を飛び回る流樹を叩き落とそうとクラーケンもクネクネと足を動かすが、対象が小さく素早く動く為捉えることが出来ずにいる。
その間に増えていく足の傷。
傷こそは小さく足を断ち切るには至ってないが、傷が増えれば増える程、流樹の有利は増していく。
「旦那様!避難が済みました!」
デッキに立ち、手をメガホン代わりにして大声で叫んでいるファルナの姿がそこには有った。
ほぼ同時に、流樹とクラーケンの意識はファルナに向き、クラーケンが戦いの最中に現れた獲物を捕らえようと動き出すまでそう時間は掛からなかった。
三本の足が槍のように先端を尖らせてフェルナに向かって真っすぐに突き進んでいく
@@@フェルナ視点
あ、死んだ。
それが私の思った最初のことだった。
先祖が悪魔と契約して、呪いを受けて手に入れた魔術の才能は容易に死を感じ取ることができた。
自分の身体能力では回避不可能な速度の攻撃、いくら魔術に優れていも発動できなければ意味はない。
ゆっくりと近づいてくるクラーケンの足。その足を止めようと焦りながら腕から包帯を伸ばしている姿がフェルナには見えた。
自分を助けよと動いている流樹の姿を見ながら、フェルナは折角好きな人が出来たのにな、と言葉にして口に出すが、クラーケンと流樹の戦いの音にかき消されていった。
私は明星の王―――月宮流樹様に嘘を言った。
確かに先祖は悪魔と契約して、魔術の才能と引き換えに呪いを受けた所まではあっているけれど、呪い内容は嘘の内容を伝えた。本当の呪いの内容は、”心の底からの恋を20歳までにしなければ死亡する”という呪いだった。でも、この呪いには抜け道があって、呪いに掛かるのは一番最初に生まれた子供だけ。二人目、三人目は悪魔の呪いにはかからない、結社で私の立場を奪ったのは後輩じゃなくて私の妹
結局、私は家と親の決めた道を途中まで歩いてそして、あの日の事件を切っ掛けに自由を手に入れた。
正直に言っちゃえば『まつろわぬ神招来の義』に生贄として呼ばれた時は、死に場所が神か悪魔によって用意されていたんだ、と思ってた。
それも違っていたけど、会ったのは、初めてこの人の為に自分の全てを捨てても良いと思える程に、心を燃え上がらせる程に熱い恋。
だから、もし、自分のせいで