カンピオーネ 明星の王   作:ノムリ

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人の皮を被った妖狐

 高速道路を走る車を次々に追い越して行く。

 後部座席からスピードメーターを覗くと80を超え、横に座る新実さんはシートベルトを握って言葉に出来ない恐怖を味わっているようだが、俺はまだ見ぬまつろわぬ神に興奮が収まらない。

 

「現場で監視をしている担当からの連絡ではまつろわぬ神は着物の女性の姿をしているそうです。出現場所は街から離れていますが、近くに寺があるのであまり騒ぎを大きくすると民間人に気づかれる危険性がありますのでご注意ください」

 

 ハンドルを片手で握りもう一方の手でスマホを耳に当てて電話をしながら聞いたことを口頭で教えてくれた。

 

「女性に着物か、着物なら日本の神で間違いないけど、女性だとイナザミとか月読(ツクヨミ)とかかな。日本の神は日本人でも知らない神が多いからな一回調べておく必要があるか」

 

 スマホで日本の女神の情報を片っ端から調べて行くがどれが正しいかわからない。

 そうこうしているうちに車は高速を降りて一般道路を先ほどより少しスピードを落として走行する。度々クラクションの音が聞こえるが、そこは国の危機なので目を瞑ってもらいたい。

 

「もうすぐ現場に到着しますので準備してください月宮様」

 

「わかった」

 

 返事をしながら静かに目を閉じて自分の存在に集中する。

 感じる二つの力。

 片方は星、片方は魂。

 

 今だ完全には掌握出来て居ないがある程度は微調節も利くようになった。

 きっと今回は凄まじい事になるという予感がある。別に予言じゃない、あくまで勘だ。本能と言った方が正しいかもしれない。

 

 キキ、と車は森の前で停車した。

 

「到着しましたよ。月宮様」

 

 数秒立てど皿木の声に返事が返ってくることは無く、不審に思った皿木と新実が流樹を見ると二人は固まった。今まで見ていた流樹とは今、この瞬間ここにいる流樹が別人に感じられたからだ。

 

 身に纏う雰囲気が違う。

「ああ、案内は此処まででいいよ。もう分かるから」

 そう、分かる。

この先に明確な敵が居ることが、本能が叫ぶ殺せと叫んでいる。

 

 車から降りて一歩踏み出した瞬間、流樹の姿は黒い煙となって高速で森の奥へと進んでいった。

 

「あれは、アヌビスの神速ですか」

「黒王子の神速と若干、違いますが、速さは尋常じゃないですね」

 

 二人に出来るのは此処までだ。王を戦場まで連れてくること、ただの人はまつろわぬ神の前では無力。

 

 

@@@

 

 木の間を黒い煙となって進んでいく。

 傍から見れば幽霊やゴーストと言われそうだが神の権能なのだオカルトの一種と考えられなくもない。

 

 女神が視認できる距離まで近づくと神速を解除し息を潜めて様子を伺う。

 

 肩に触れる長さの黒髪、白い花柄の着物、年齢は十五、六といったところだろうか、とはいえ神の見た目はあまり宛にならない

 

「覗き見とは趣味が悪いぞ、神殺しよ」

 空を眺めたままの状態で女神は此方に視線を向けずに声をかけてきた。

 

「バレてたか、え~と、まつろわぬ神でいんだよな。やっぱ姿を見てもどの女神か分かんないな」

 

 女神はキョトンとした顔をした後に声を上げて笑いだした。

「ハハハハ!妾は女神でわないよ。女神の様に美しいとは、よく言われたが」

 

 女神じゃない?なら、女の姿をした神なんて女神位しか浮かばないぞ。

 イザナミは冥府に降ったからある意味では女神では無くなったが、それなら一時期は女神だったと言うはずだ。

 

 ニヤリと妖艶な雰囲気を纏いながら口元を袖で隠す。

「妾は玉藻前よ、九尾の妖狐とも呼ばれているがな」

 女神いや、玉藻前の辺りからぬらりと伸びる白い九本の尻尾。頭には狐の耳が生える。

 

「そういや、九尾の妖狐が人間に化けたのが玉藻前って話があったな。だから姿は人で現れたのか」

 

「妾は名を名乗った、お主の名も聞こうか」

 

「月宮流樹だ。まつろわぬ玉藻前」

 

 二人の間にもう言葉は必要なかった。名も名乗った。お互いが敵だと認めた。さすれば後することは一つだけだった。

「では、殺し合おうか」

 

 先に動いたのは玉藻前だった。

 宙に一つ青い炎が灯った。炎は狐の操る炎、名は狐火。

 

 ゴォ!と音を発てて狐火は小さな灯火から大火力の火炎放射機の様に俺に向かって放たれた。

 

「小さい火の玉なのにどんな火力だよ!」

 

 ギリギリで動き炎を避けると、元いた場所は黒く焦げて湯気が上がっていた。

 植物だけならまだしも土も一瞬で燃やすとは、尋常じゃない熱量だ。

 

「ほう、避けたか」

 

 こっちも攻撃させてもらおうか、何より時間がないしな。

「空に浮かびし星にして空を舞いし鳥。灰からいでて星となり輝く光と炎を放つ、流れる星は絶えず空を鳥の如く飛び渡る」

 

 ケツアルコアトルから簒奪した『明星の光源』(ルミナス・スター)の聖句を唱え権能を発動する。

 流樹の周りに白色の光が集まり、宙に出現した光は形を形成した。

 形成した形は猛禽類、嘴と爪に折り畳んだ羽。羽を畳んだ光の鳥は流樹の命令に忠実に従う光鳥のようでもある。

 

「いけ」

 一言、流樹が命令を下す。

 命令を皮切りに忠実だった光鳥は羽を広げ、獲物『玉藻前』を狩り取る捕食者となった。

 

「光で出来た鳥とは風情があるが、ちと眩し過ぎる」

 

 光鳥を叩き落とそうとゆらり、と九本の尻尾を動かした。光鳥は攻撃を羽を動かし、高度を変え、角度を変え、方向を変えて避けながらも確実に獲物に近づき、九本の尻尾を回避しきった光鳥たちは獲物に傷をつけようと、爪を前に突き出した。

 爪で玉藻前の肩や頬、腕に傷を負わせた光鳥たちは旋回をして再度傷を負わせようと戻っていく。

 

「ふむ見た目だけだと思ったが、なかなか威力があるな」

 頬から首筋にかけて垂れる赤い血を指ですくい、ニヤリと笑いながら舐め取る。

 

「攻撃受けて、笑ってるとか頭おかしいだろ」

 尻尾によって落とされている光鳥を繰り返し作り出し、玉藻前を攻撃するように命令をあたえる。

 

 やばい、そろそろ時間切れになる。

 西の方角を見ると、木の間から地平線に沈んでいく太陽が見えた。

 

 『明星の光源』は星の光を使う権能だ。

 星の光のほとんどは太陽の光が星に反射しているものだ。夕暮れ時は太陽が沈み月が出るまでに時間があり、確かに星は出ているが光自体が弱く行使するには光度が足りていない。

 つまり、日の出と夕暮れの僅かな時間が『明星の光源』の弱点となる。

 太陽が沈みきり月が出てきさえすれば、『明星の光源』はもう一度効果を発揮できる。

 

「この鳥は太陽の光がなくては使えないようだな」

 

 太陽が沈みきってしまったため、効力を失った光鳥は淡く溶けてしまった。

 

 辺りに街灯もない森の中は既に暗く普通の人なら歩くことすらままならないだろう、だがここにいるのは片やまつろわぬ神、片や神殺し。暗い程度で殺し合いが止まることはない。

 

「お主もおもしろいモノを見せてくれたのだ、妾も見せようか」

 

 そういうと玉藻前の姿がだんだんと曖昧にぼやけていく。体を白いモヤが覆う。モヤは次第に大きさを増し、大きさは二階建ての家と大差ない大きさまで肥大化した。

 

 そして、モヤが晴れるとそこにいたのは、人の姿をした玉藻前ではなく。九尾の妖狐の姿をした玉藻前だった。

 

 九本の尻尾の靡かせ、四肢がしっかりと大地を掴みその巨体を支えている。

 

「では、続きと行こうか」

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