雲の中を突き進み地上から見ることのできない上空を神速で移動し続ける。
「生贄をそろえて神の召喚とかゲームとかの悪魔の召喚とあんま変わらないよなっと、ここだな」
皿木さんに頼んで送ってもらったまつろわぬ神招来の儀を執り行う場所。
嘗ては神聖な場所として祀られ時代が進み廃れた今は遺跡と呼ぶべき場所をヴォバンは儀式場として選んだ。
流樹は視界に捉えた儀式場に気配を消してゆっくりと近づき足を地につけた。
神を祀り、昔はこれと同じよう儀式を行っていたのだろう。台座などがいくつも石を削り作られている。
簡易な服装の魔女と巫女たち。ざっと見ただけでも五十人以上はいる。
離れた場所で鉄と鉄がぶつかり合う音が僅かに聞こえてくることから儀式が成功し、生贄は放置されたままでヴォバン侯爵はまつろわぬ神と戦っているのだろう。
魔女や巫女たちは床に伏せっている者もいれば、朦朧とした意識の中で他の者を助けようと動く者もいた。
「この中から一人を見つけ出すのは苦労するよな」
歩きながら万理谷祐理を探す。
ある程度見て回るがまず、日本人が見つからない。
「万理谷祐理どこだ〜」
「は、はい!私です!」
前方で若干変な声で返事をした少女。
茶髪に少女ながら整った顔立つ、肌に感じる魔力。
確かにカンピオーネに依頼をしてでも連れ戻したい才能の持ち主だな。
「正史編簒委員会のお使いだ、明星の王って言えば通じるだろ」
明星の王の名前を聞いた瞬間、ポカンとしたのちに恐怖が顔に現れた。目の前の万理谷以外にも会話を聞いていた少女たちも恐怖を抱いた。
「まあ、いいや。お前を連れて行けば依頼は完了だな」
俗に言うお姫様抱っこ万理谷を持ち上げ神速を発動しようとした時、
「待ってください。他の方々はどうするのですか?」
「俺の依頼はお前を連れて帰ることだ、他の奴等のことは知らないよ」
「そんな!生きている者もいるのですよ!」
周りの見渡せば確かに儀式後ではあるが生きている者もいる、生贄とされながら生きていたのは運が良かったというべきだろう。
「言ったろ、今回は依頼だ。委員会から呪具を一つ譲られる対価にお前を連れて帰るだけ、お前は俺を動かすだけの対価が払えるのか?払えないなら黙ってろ」
助けが来た少女と助けが来ない少女たち。
カンピオーネに頼んででも命を救う価値のある生まれながらの天才と組織から仕方ないと切り捨てられた生贄。
万理谷は流樹の腕に抱えられながら首だけを動かして後ろを見た。
視界の端に捉えて自分に向かって手を懸命に伸ばし、声にならない声を上げた。
–––助けて。
「おい!暴れんなよ」
痛む身体を無理やり動かし流樹の腕の中から抜け出し、手を伸ばしている少女の元まで走る。伸ばされた手を掴み取り固く握り締めた。
「私が依頼します。彼女たちを助けてください!」
頭を掻きながら意見を曲げない彼女に問いかけた。
「お前は俺に何を払える、巫女と言ったって発展途上、金を持っているわけでもなく、勝手に出来る呪具があるわけでもない」
「……し、出世払いで」
どこから手に入れた知識なのか今時、真面目に出世払いという奴はいないだろう。
言った本人も若干顔を赤くしている。
「ハハハ!出世払いとかそれはある意味、払わないって言ってるのと同じ意味だぞ!」
腹を抱えながら笑う流樹に対してどうしたらいいか分からない万理谷。
「面白いから貸一つでお前の頼み引き受けてやるよ」
「え!いいんですか!?」
「まずは、倒れている奴意識の確認と動ける奴は倒れている奴を安全な場所に退避させろ。さっさと動け!」
「「「は、はい!」」」
二人のやりとり眺めているだけだった数人は流樹の指示に従って倒れている子に声をかけていく。
「精気なき肉体よ。冥界へ渡る魂よ。我は汝らを導きし先導者にして管理人。肉体は静かに眠り、魂は冥界で裁きを受けるだろう」
体のあちこちから包帯を生み出し運ばれてきた怪我人を片っ端から包帯を巻きつけていく。
包帯を巻いた対象の状態を維持する効果を使い悪化させないように移動することができる。
「全員終わったな」
ポケットからスマホを取り出し”皿木さん”をタッチして電話をかけた。
『はい、どうなさいました』
「万理谷祐理の依頼で儀式場にいる生贄にされた魔女と巫女、全員助けることになったから」
『なぜそんなことに!?』
電話越しにバタバタと音が聞こえて来る恐らく上司に伝えに行ったのだろう。
「儀式場から一番近い魔術結社に連絡して迎えに来るように言ってくれる。俺の名前を出せば嫌とは言わないでしょ」
『言わないでしょうがよろしいのですか?下手したら委員会からの報酬は受け取ることができなくなりますが』
「いいよ、代わりに面白いことになったから。じゃあ、よろしく」
通話を切って作業をしている万理谷に声をかけた。
「万理谷!委員会に連絡して近くの魔術結社に迎えを寄越すように頼んでもらったからな」
「はい!分かりました。もう少し辛抱だからね」
名前も知らない少女の手を握りながら声をかけ続けている。
「明星の王」
「ん?」
声をかけてきたのは銀髪をポニーテールにした少女だった。
「私は『青鋼黒字十字』の魔女の一人リリアナ・クラニチャールと申します。今回は助けていただきありがとうございました」
ペコリ、とお辞儀をしながらそれでいて礼儀を忘れないしゃべり方。
「ああ『青鋼黒字十字』って確か『赤鋼黒字十字』とこのライバルのとこか」
「その認知で間違いはありません」
「座ればいいよ立ってると辛いだろ」
儀式に生き残ったとはいえ体から魔力は殆ど抜け、意識がある者の方が少ない。
「では、御言葉に甘えて」
地面に正座で座るリリアナだが、丈の短い事に加えてリリアナが年端も行かない美少女であるため若干、犯罪臭と扇情的な気もするが気にしないでおこう。
ゴロゴロゴロッ!!
雷の音が最初の頃より近くなった。
「ヴォバン侯爵は嵐を操るから近くに来ているかどうかは雷の音で判断出来るけど、戦いたくはないな」
数日前にドニと決闘をしたばかなのだ、すぐに他のカンピオーネと戦いたくなんてないがそんなもん関係は無かったようだ。
「生贄共がゴソゴソしているから何かと思えば新しき王が来ていたのか」
白髪にツリ目、獰猛そう笑い方。
黒いコートに連れてあるく数十匹の狼の群れ。
そこに立っていたのはまつろわぬ神と戦っていると思っていた、ヴォバン侯爵その人だった。