Fate/Broken ideal   作:Lychee

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遅くなってしまったすいません

言い訳をさせてもらうと、自分は今受験生なのですが受験勉強が忙しく書き溜めをしてる分を加筆修正しているだけなのですが遅くなってしまいました。
これからも遅くなることがあるとは思いますが、温かい目で見守ってくれると幸いです。

それではどうぞ


彼女の事情

桜と美遊が風呂から出て来て俺も風呂に入ることにした。

体と髪を手早く洗いゆっくりと湯船に入る。体を洗って十分にあったまっていたと思ったが、風呂に入ると体の芯から温まって心も温まっていくように感じた。

さっきこの風呂に桜も入ってたんだよな、なんてことを考えると急に顔が熱くなった。

 

 

風呂に浸かっていると次第に頭がぼうっとしてくる。

風呂は停電中のため、窓から入ってくる月明かりと風呂の端にある懐中電灯だけが光源になっていた。

「そういえば雨上がってたんだな」

俺は窓からさっきまで雲に覆われていた空を見上げるとそこにはいつも以上に明るい満月が見えた。

俺は懐中電灯の灯りを消した。

一つ光源が減っただけなのに風呂場を闇が支配する。でもそれも一瞬で、目が慣れてくると次第に月明かりに風呂場が照らされた。

「あれからもう4年か」

俺と切嗣が美遊を連れ出してから既に4年の月日が流れていた。魔術のことなんてど素人の俺が何か分かるわけではないのだが、俺は切嗣の残したノートと朔月家の人々がこれまでに残して来たノートをひたすらに読み込んでいた。

結局、俺の中にあるのは未だにどうしたらいいのかわからない美遊への気持ち。そして朔月家のノートを見直すたびに思うこれまでの朔月家の親族からの神稚児たちへの想い。

その想いは、徐々に俺を正義の味方から引き離している気がした。

何度もそれを読むのはやめようとは思うのだがそれでも何かに縛り付けられるようにおれは朔月家のノートを見返すことを止めることができずにいた。

このままで世界を救うことができるのか、そもそも美遊に願いを叶えるための願望機としての価値はまだあるのか、

もしも、願望機としての機能がなくなったとしたら、俺は美遊を………

そんな思考の迷路をずっと繰り返している。

切嗣は言った。

『人類救済という願いを叶え続けるために、美遊という器は魂ごと永久に世界に縛られることになる』

それがどんなに残酷なことなのかは分かっている。仏教の観点からすると人間の魂は簡単に言うと何度も生まれ変わってくるそうだが、もしも願いを叶える願望機て使えばいつまでも美遊は救われることはなく、この星が終わるまでずっと縛られ続ける。

スケールの大きい話すぎて想像の及ばない世界だが、その世界には確実に『美遊の幸せ』だけは含まれていない。

………俺はあの時切嗣と約束したんだ。世界を救うって

だから……俺は………………

そこで俺は暗い思考の海に沈んでいった。

 

 

 

 

 

………………さん……ろうさん!…士郎さん!

俺は薄く目を開けると美遊が俺の肩を揺らしていた。

「よかった。士郎さんお風呂でのぼせちゃったみたいだったから」

「そうか、我ながら情け無い。ごめんな美遊」

「ううん、士郎さんも疲れてたみたいだったから仕方ないよ」

俺の謝罪に美遊はなんでもないことのように否定の言葉を述べた。

最近は美遊に苦労ばかりかけている気がする。食事も以前は俺が作っていたのに今となっては美遊に作ってもらってるし、バイトに行ったり弓道部にいる時なんかは殆どの家事を美遊に任せてしまっていた。

「そういえばさっき電気会社の人たちが来てあと30分くらいで停電が治るって」

「そうか、わかったよ」

本当に美遊には苦労ばかりかけてるな

「よし!最近は美遊にばかり作ってもらってるし今日は久しぶりに俺が夜ご飯を作るよ。何か食べたいものってあるか」

「私士郎さんの料理だったらなんでも好きだよ」

「そ、そうか」

「うん」

ほんとは美遊の好物が聞きたかったんだけど…まあ、今度でいいか

俺の提案に美遊は大人びた雰囲気を崩して少しだけ子供っぽく笑ってくれた。

「それじゃあ俺はもう出ないとな」

俺がそう言って立ち上がろうとすると、美遊は顔を赤くして風呂場から出て行ってしまった。

しまった、美遊ももう10歳だもんな。俺ももうちょっとデリカシーに気をつけることにしよう。

衛宮士郎は気づかないその思考をすでに何度も繰り返しているということに………

 

 

 

 

 

 

脱衣所を出て居間へと続く廊下に出ると間隔をあけて蝋燭が置かれていた。俺はそれに従うように居間に向かう。その途中で客間を見ると月明かりと数本の蝋燭が部屋を照らしていた。部屋の中央には桜が俺のジャージを着て布団の中で眠っている。

薄暗い室内と女の子が自分の服を着ている状況に少しだけ顔が赤くなるが、俺は煩悩を振り払うように頭を振り桜を起こさないように足音を殺しながら早足でリビングに向かった。

居間には客間と同じように数本の蝋燭の灯りを立てている。

日本家屋の雰囲気も相まって少しだけ怪しげに部屋を照らしていた。

台所では美遊が懐中電灯を美遊のすぐそばに置き、流し台には風呂桶が置かれていた。

「美遊、桜の様子はどうだ?」

「あの人桜さんっていうの?」

「ああ、さっきちょっとだけ話した時に聞いたんだ。それで美遊は今何をやってるんだ?」

「桜さん、少しだけ熱があるみたいだから濡れタオルで少しでも楽になってくれたらなって」

美遊の返答に俺は顔を綻ばせた。俺の教育が良かったなんて言うつもりはないが美遊が優しい子に育ってくれて本当に良かったと思う………本当に………

「士郎さん?」

美遊が声をかけると同時に部屋に明かりが戻った。

「停電治ったみたいだな、じゃあ電話も復活してるだろうし桜に保護者の方の連絡先を聞いてみるよ」

 

居間にかけてある時計を見ると時刻はすでに午後8時を回っていた。

もう遅い時間だし少しだけ桜を起こして保護者の方に連絡を取ってみるか。保護者の方も心配してるだろうしな。

「うん、私もあとで濡れタオルとりんごを剥いたのを持っていくね」

「じゃあ宜しく頼む」

俺はそう言うと桜が眠っている客間に移動した。

客間を少しのぞいてみると桜が上半身だけを起こして周りを見回している。どうやら突然ついた明かりで目が覚めたみたいだ。桜の顔から熱で頰を赤らめているのとぼうっとした瞳の中に動揺が見てとれる。

桜の不安を和らげるように俺はできる限り優しく声をかけることにした。

「起きてたんだな、良かった」

俺が声をかけると桜はぼうっとした様子で俺を見つめた

「俺は衛宮士郎、君が道端で倒れてたからここまで運んできたんだけど…覚えてるか?」

「……はい…微かにですけど誰かに背負われてたのはわかりました」

桜はそう言うと自分の格好を見回す。するとどうしたことか熱で赤くなった頰をさらに赤くした。さながら熟れたトマトのような赤さだ。

「この服ってあなたの衛宮さんのですよ…ね?」

「ああ…そうだけど」

「もしかしてさっき私をお風呂に入れてくれたのって………その…」

「っ⁈ちがうちがう!桜のことを風呂に入れてくれたのは俺の…その…妹みたいな存在の美遊って子なんだ」

「ああ…そうだったんですね……ごめんなさい。私勘違いしちゃってたみたいで…」

「いやこちらこそごめん。先に言っておくべきだったな」

そうだよな、女の子が俺みたいな見ず知らずの男に裸を見られたなんてわかったら羞恥心で寝込んじまうかもしれない。勝手な想像だけど……

こんなんだから俺は時々美遊に怒られるんだな。自分では割と意識してるつもりなんだけど…うまくいかないもんだなあ。

「そう言えば衛宮さんはなんで私の名前を知ってたんですか?」

「あれ、さっき玄関先で聞いたんだけど覚えてないか?」

「ぼうっとしすぎててちょっと思い出せません、ごめんなさい」

「いや、そんなに気にすることじゃないさ。そういえば桜は俺のいた中学の後輩なんだ」

「どうしてわかるんですか?」

「え?いや桜の服装が俺の通ってた中学の女子用制服だったからさ」

「ああ、そうですよね。単純なことに気づきませんでした。じゃあ今からは先輩って呼ぶことにしますね」

「いや、別に衛宮さんとか士郎さんとかでもいいんだぞ?」

いや、さすがに士郎さんは気安すぎるか?

「いえ先輩って呼ばせていただきます。その…私は部活には入ってなかったから実は先輩って呼ぶのにちょっと憧れもあったんですよ」

「まあそう言うことなら」

「はい、先輩」

自分の頰が赤くなるのを感じる。俺も何度か下級生の手伝いをして先輩と呼ばれたことはあるがこうも正面から言われたのは実は初めてだった。俺は桜の赤く染められた頰の下にいたずらっぽい笑みを見た。どうやら少しからかわれてしまったみたいだな。

さっきみたいなかなり遠慮がち(もっと誇張してもいいくらいだが)な態度とは打って変わってしまっていて少しだけ面食らった。

いったいどっちの桜が本当の桜なのかとふと疑問に思ったが今は桜の保護者の連絡先を聞きださないと

「桜の保護者の電話番号って聞いてもいいか?」

俺がそう聞くと、桜は一瞬口ごもった。

「その…慌てないでくださいね」

「あ、ああ」

「私の家族は5年前の事故でみんないなくなっちゃったんです」

俺はその瞬間自分を殴り飛ばしたくなった。今この冬木にいる人の中で5年前の災害で家族を無くした人が多いことなんてもうわかりきっているはずなのに!俺はなんて軽率なんだろうか!本当にこんな時に気が利かない俺自身に腹が立った。

俺は客間の畳に地面を擦り付けるようにして頭を下げた。

「…ごめん桜。言いにくいことを聞いてしまって」

「いえ、本当に気にしないでください。もうずっと昔にもう割り切っていることですから」

「それでも…ごめん」

俺は顔を下げたまま桜の顔が見られなかった。

桜の今の表情が見えない。怒っているのか、悲しんでいるのか。

俺がいつまでたっても顔を上げられなかった。

そしてふと俺の頰に桜の熱で暖かくなった手が触れた。その手から桜の体温が伝わってきて徐々に俺を安心させてくれた。

「顔を上げてください。言いましたよね。私はもうずっと昔に割り切っていますから。今更そんなことを蒸し返された方が腹が立つってものです」

俺は桜の言葉に顔を上げる。そこには可愛らしく頰を膨らませた桜がいた。

桜の手は今も頰に当てられている。

表情から本当に桜が考えていることを見破るなんて芸当は俺にはできないけれど、この話題には触れないようにしようと決めた。

 

 

「士郎さん、桜さんの具合はどう………」

俺が廊下の方に顔を向けると、美遊が廊下で風呂桶を両手に持ちながら微かに震えている

「どうしてさっきまで熱で倒れてた桜さんが涙目になった士郎さんを撫でてるの?」

「いやこれには色々な事情があってだな…」

美遊は風呂桶をおれと桜の間に無理やりねじ込んだ。

必然的に桜の熱から俺は引き剥がされる。もう少しだけその熱に浸っていたいと思ったが、俺はそれ以上に目の前にある小さな女の子に凄まじい目つきで睨まれていた。

「あの、美遊さん?何か怒っていらっしゃる?」

「ううん、そんなことないですよ士郎さん」

これはまずい。美遊が俺に対して敬語を使う時は大抵俺に怒っている時だと、俺はこれまでの美遊との生活の中で学んでいた。

美遊は普段はおとなしいのだが切嗣が亡くなって2人きりの生活になってから少しだけ表情豊かになり、そして怒るときはかなり怖くなったように思う。早く何とかせねば。

それからは俺と桜でさっきあったことの事情を説明してなんとか落ち着いてもらえたのだった。

 

 




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