馬鹿4人によるFGO SS 1週間1本勝負   作:作家活動から逃げるな。

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すいません、遅れてしまいました……大変申し訳ない……

今回はギャグです


SDVGWM (獣八)

カルデアに地獄が訪れていた。

一面の銀世界にポツンと存在する、温もりある明かりを漏らしているその建物は、いつもと変わらぬ豪雪の雄叫びの中、ただただ静かに佇んでいるように見えるだろう。

だが、もし外に誰か居たのなら―――カルデアが6000メートルの高地にある以上、これは有り得ない仮定だが―――耳をすませば、きっと暴風の中に漂う異音が聴こえたに違いない。

獣の唸り声のような低音。金属を何かで引っ掻いた様な高音。それらが不規則に混じり、この世のものとは思えない不協和音の奏を高らかに歌い上げる。

魔獣の産声にも思えるそれは、だがしかし、確かに人の声だった。

その音は様々な雑音を含みながら単語を紡いでいた。カルデアでも何度も聴こえた単語だった。

―――呻きの合間合間に「ジャンヌ」と。

キャスター・ジル・ド・レェは、その名前に万感の思いを込め、歓喜に体をうち震わせながら、つぶやき続けていたのだった。

視界を四角い箱の様な物体ですっぽりと覆い、周囲に触手を荒ぶらせながら、いつまでも。

 

事の発端は、ダヴィンチだった。

「面白いものを作ったんだ!」そう言って彼女/彼が皆に見せたのは、水中ゴーグルを大げさにしたような、四角い箱が付いた艶光(つやびかり)するヘッドホン付きの眼鏡。

眼鏡の名前は「スーパーダヴィンチゴーグル」―――有り体に言うと、VR装置だった。

VRとは「バーチャルリアリティ(Virtual Reality)」の略称だ。現実ではないはずの世界が、まるで現実の様に感じられる、そんな体験を与える技術の体系をさす。

人理が取り戻されてほぼ一年。現代の流行にインスピレーションを受けたダヴィンチが、クリスマスプレゼント代わりに皆に披露したもの。それがSDVGWM(スーパーダヴィンチゴーグルの略らしい。「WM」が何処から来たかさっぱり分からない)だった。

VR部分はリアリティある視覚世界を、眼前に提供する―――いわゆる普通のVRゴーグル機能と、付属ヘッドホンを駆使したサラウンド音声による臨場感あふれるサウンドの二つ。

まるでその場に登場人物がいるような、そんな錯覚すら起こす極上体験―――妙に嘘臭く聞こえるキャッチフレーズだが、事実それは本当らしく、体験した人全員が「やばい」と語彙を失っていた。

最初に笑いながら試したクーフーリンが、装着してしばらくするとその場で叫びながら周りを飛び回り、一息ついて「師匠が殺しに来た」と真顔で言い、一言二言交わした後に部屋を去ったのも大きかったのだろう。「あのクーフーリンが負けた」と半ば曲解混じりに噂が広がり、カルデアの中でも広い部類であるはずの休憩室は中々の混雑具合を見せていた。

 

そしてこのゴーグルにはもう一つ不思議な噂がたっていた。見る人々によって見える世界が違うらしいのだ。

クーフーリンは前述の通り「師匠に殺されかける世界」、ティーチは「パイケット帰りにドレイクに会い必死に誤魔化す世界」、メディアは「運命の出会いをことごとく僧侶に邪魔される世界」etc...とその人が微妙にうれしいような、困るような、まるで傍から見てて面白い、を基準に設定されたような……

そんな何とも言えない、微妙な世界のみが設定されているのだ。

これは、二重の意味で不思議であった。

 

まず一つに、個別に世界が設定されていた事。

世間で出回ってるVRは、基本的には設定された世界を探索したり、設定されたゲームをやる、というものであって、プレイヤー独自の世界は決して与えられない(・・・・・・・・・)

 

第二に、そこに出てくるキャラクターがどうにも生臭い(・・・)、という事だ。

生臭い、とは別に実際に魚の饐えたような匂いがする訳では無い。そんな匂いは黒髭一人で十分だ。もっと直示的に言うなら「出てくる人物がまるで生きている様に感じる」というものだ。

まず呼び掛けて来るのは相手側、つまりはVR上の住人だ。クーフーリンと対峙したスカサハなら「ほら、修行だぞ」なり、ティーチの前に表れたドレイクなら「何やってるんだい、あんた」等々……そうして相手側からこちらに近づき、まるで会話の様が成立している様に振る舞う。これが普通のVRの常だった。

だが、SDVGWMは違った。最初こそ同じだが、次第にこちらのぼやきに登場人物が対応してくるのだそうだ。

先程から何度も例に出しているクーフーリンだが、「冗談じゃねえぞ……!」というぼやきに対し「冗談?そんな寝言をいうなら更に試そうか」などと受け答えられ、より一層酷い目にあったと本人が証言していた。

ぼやき以降元から喜劇染みていた動きが、周りから見ても明らかな程より一層滑稽味を増したので、誰も疑うものもいなかった。

そしてダヴィンチに訊いても「さあ、どうだろねぇー?」と要領を得ない返事ではぐらかすばかりで、一つも進まない。

―――そんなある種のミステリアスさが、SDVGWMの人気をより一層加速させる。

そうして、SDVGWMには職員とサーヴァントの長蛇の列と笑いが出来上がっていったのだった。

 

だが、そんな不安定ながらも温和な空間が一変した。

キャスター・ジル・ド・レェだった。

一言で言うなら、暴走したのだ。

最初は良かった。まだ安定していた。「おお、ジャンヌ……」と呟きながら相好を崩して微笑ましかった。

だが、途中から様子が怪しくなっていった。具体的にはVRのガラス越しに目玉が飛び出ている事が確認できた。いつも異様な、病気にかかった金魚のような眼球が、灰色がかってより一層気持ち悪い。

考えてみれば、この時止めるべきだったのは明白だった。だが誰も止めなかった。一体どんなリアクションが起こるのか、皆の好奇心が勝った。

 

そして、それは起こるべくして起こった。

「おおおおおおおおおおおおおお、ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

歓喜の叫び声とともに、触手が顕現したのだ。何をやらかしたVRジャンヌ。

おそらく、精神汚染が影響しているのだろう。そんなどうでもいい考えがその場にいた全員の場に一瞬よぎる。

 

―――阿鼻叫喚だった。とはいえパニックによる傷害行為は起こっていなかった。

サーヴァントと常に暮らし続けてきたカルデア職員は伊達ではないのだ。

だがパニックは起きずとも、難事に陥っているのは事実だった。

この触手を止めるにはジルをどうにかして落ち着かせるしか手はない。だが、大量の職員の手前、大振りなサーヴァントは身動きが取れず、お世辞にも安心して任せられる、とは言えない。

ではアサシンは?―――これも否だ。確かに、近づけさえすればアサシンなら一瞬だろう。だが今度はジルの周りを漂う触手が問題として立ちはだかる。

触手と一対一では無論負けないが、アサシンに気付いた触手の数が2、4、8……と倍々で増えるとなると話は別だ。

しかも、部屋の混雑具合から自由に送り込める人数も限られており、百貌のハサンによる人海戦術も困難だった。

……詰まるところ、打つ手無し?

まさかであった。七つの特異点を修復し、生き延びた魔神柱と対峙し、打ち勝ってきた我々が、負ける?しかも身内の事故で?

実際は負けるもへったくれも無い。何せ避難が完了以後、順次触手を叩けばいいのだから。

だが、それで皆の憩いの場が壊滅するのも事実だった。もうすぐ監査官が来るからどうなろうと、カルデアの一部が壊滅しようと正直知った事ではない……ないのだが、数年過ごした、いわばマイホームの様なこの場所を、壊れたまま退去するのはよく分からない心残りとなる。

皆の何とも言えないニュアンスを(たた)えた顔がそう物語っていた。

 

「―――ご心配なく、私に、任せてください!」

―――そうして皆が焦りに焦っていた時、救いの女神は現れた。

正確には救いの聖女だったが、その場にいた全員にとって表記上の誤差だった。ある哲学者をヴィトゲンシュタインと書くか、ウィトゲンシュタインと書くか、その程度だった。それよりも中身が重要だった。

旗が揺らめく。世界が揺れる。皆が沸き立つ。彼女も沸き立つ、主に怒りで。

―――ルーラー、ジャンヌ・ダルク。

ジルの、正真正銘のストッパー、天敵だった。

彼女の怪力の前では、触手は無力だった。旗の一触が一瞬で無数の触手を宙に飛ばす。鋭利じゃない分引き裂かれた触手も痛そうに身悶えして消えている。

数秒後の残酷な未来図を横目に、それでも触手はジルを守ろうと必死にジャンヌに立ち向かっていく。大義も無ければ理由も無い、実はひたすら及び腰の触手達。だがそれでも()務をまっとうせんとする姿に皆が涙を流すのは自然の道理だった。

そんな皆の感情を知ってか知らずか―――間違いなく面倒臭くなったに違いない―――ジャンヌは触手を一気に通り越そうと、旗を支点として、棒高跳びの要領で大きく跳躍する。

―――それはとても綺麗だった。健全な精神は健全な肉体に宿ると古代ローマ人は言ったが、彼女の跳躍を見たら万人がその正しさに納得する。それほどの美しさだった。触手への応援はすっかり止んでいた。哀れ触手。

 

―――ジィィィィィィィィィィィィィィルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!

憤怒の声が、リラクゼーション用のクラシックが愉快に鳴り響く休憩室にこだまする。

惨事を止めるは必殺の二指(にし)だった。人差し指と中指を真っ直ぐ伸ばしたそれが、黒縁の箱眼鏡へと吸い込まれる。

―――いわゆる目潰しが、SDVGWMを突き破り、ジルの突き出た目玉に叩き込まれる。

直後に悲鳴があがり、余りの痛みにジルが気絶する。おそらくVRゴーグルの破片が目玉に突き刺さったのも大きいく、いつも以上に痛かったのだろう。

そうして事態が収まって残ったのは、鳴り続けるクラシックと、肩で息をする聖女と、呆然と見つめる職員達。

―――つまりは、どこにも投げつけようの無い虚無だけだった。

 

 

こうして、後に「クリスマスの惨劇」と呼ばれる事件は落着を得るのだが、この話には後日談がある。

散らばったゴーグルの破片や触手の破壊痕を掃除していた際、クーフーリンがある箱を持って来たのだ。

人一人はゆうに入るであろうその箱には、手足を縛られたマーリンが一人。

「こいつ、変声機片手にノリノリでジャンヌを演じてやがった」とは捕獲したクーフーリンの談。

 

「いやー、僕ってマギ☆マリやってたんだよね~いやはや、まさかあの時の演技がこんな風に役に立つなんて思ってもなかった」

「舞台設定も凄く凝ってただろ?幻術を使ってまで作り込んだ甲斐があるってもんさ」

「宮廷道化ってあるじゃないか。僕実はあれやってみたくてね!アルトリアの時は堅すぎてそんな事出来なくて……おや君達、その手に持ってるエモノは何だい。グランドとはいえ、僕はか弱いキャスターなんだよ?君達慈悲って物を、それにダヴィンチだって、ねえちょっと―――」

この一群の弁明が、その年最後のマーリンの言葉になったそうな。

 

 

 

 

 

スーパー・ダ・ヴィンチ・ゴーグル・ウィズ・マーリン 完

 




お読みいただき、ありがとうございました。
前作が長くなり過ぎ&シリアスだったので今作は量それなり+ギャグを目指しました。
楽しんでいただけたら、幸いです。

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