馬鹿4人によるFGO SS 1週間1本勝負   作:作家活動から逃げるな。

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四人で協議した結果、先週上げさせていただいた拙作『海賊王の休息 後編』を二つに分けそれぞれ『海賊王の休息 中編』『海賊王の休息 後編』とあげなおす事を他の3人に許可してもらいました。読者の方々に同じものを二回読んでいただくのは心苦しい限りですが、どうかご容赦ください

※注意 この短編にはFGO1.5部 『アガルタの女』のネタバレが含まれています。ご了承ください
※注意 こちらは中編です。先に一つ前の前編『海賊王の休息 (前編)』をお読みください


海賊王の休息 中編 (獣八)

黒髭エドワード・ティーチの生前の記憶の九割以上は、腐りかけた木と火薬、すえた野郎と檸檬の混ざり合う、生ごみと糞便をぶちまけたような混沌とした悪臭だった。

18世紀当時、航海中に体を洗う方法は存在せず、海賊の頭として香水を買える財力を持っていた黒髭はともかく、その他船員はどうしようもなかった。

食物に関しても酷いもので、壊血病を防ぐための柑橘類以外に生と言える物は無かった。航海で求められたものはどれだけ長く保存できるかであって、それが食い物と言えるかどうかは二の次だったからだ。

汚臭にまみれた部下を従え、檸檬と乾物で飢えをしのぐ。

それが最後の海賊と言われた男の、伝説として語り継がれた姿の実状だった。

故に、海賊という生き方が廃るのは至極道理であった。

 

では何故、黒髭は最期まで海賊を続けたのだろうか。

黒髭が船団の長として活躍した期間は案外少なくたった二年間だった。だがその二年間で海賊の頂点へと上り詰めた人間であり、一年目の終わりには既に海賊王であった事は間違いない。そして彼が稼いだ財産はその一年の間に稼いだものが大半だった。

海賊王として一年、その一年で一生涯分の財産を築いた彼ならば、それこそ彼を海賊として育てたベンジャミン・ホーニーゴールドの様に、いやそれ以上の優雅な隠遁生活を送る事も可能だったであろうに、何故?

……そしてこの謎の解答も、黒髭本人からしてみれば自明の理だった。

 

それ(・・)が好きだったのだ。

 

それ(・・)とはこの世の汚物を煮込みきった、海上での惨状の事では無い―――いや、正確にはそれも含むのだろうか。

 

それ(・・)とは、海賊という尋常ではない生き方のみが得られる、掴み取れる救済(・・)だった。

 

―――喉の渇きを癒す時、その渇きが強ければ強い程、潤った時の喜びは強いだろう。

 

―――空腹を満たす時、その空腹が強ければ強い程、満たされた時の幸福は増すだろう。

 

―――海と言う凶悪強大な世界を潜り抜けた時の安寧は、富を得た時の利福は、勝利を得た時の陶酔感は。

 

困窮する程(・・・・・)絶望的である程(・・・・・・・)その後に得られる救いはより大きくなる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

それが、黒髭が辿り着いた真理だった。

平和な日常など要らなかった。永い平穏など望んでいなかった。苦痛の無い快楽は快楽足り得なかった。そんなものは本物ではなかった(・・・・・・・・・・・・・・)

 

そう、つまり、一言で纏めるならば。

黒髭は壊れていたのだ。人間として。

 

 

 

―――ダユーとの戦闘を初めて数分。

状況は、打開のしようがない膠着に陥っていた。どちらも動かなかった……いや動けなかった。

最初からこうして固まっていたわけでは無かった。一度づつ、双方から仕掛けた。だが両方とも徒労に終わった。

黒髭は決定打に持ち込むまでのリーチと人手が、ダユーは決定打を与える為の戦略が、それぞれ足りていなかったのだ。

 

黒髭が一度でもダユーに触れる事が叶うのなら、勝負は一瞬で付くだろう。だがそれは彼女が短銃によって牽制を行い、常に一定以上の距離を保っている限り不可能に近かった。対峙している黒髭の主力は格闘であり、牽制射撃をされるだけでも反撃手段の乏しい黒髭にとっては苦しい。

苦心しながら距離を詰めたとしても、配下の海賊がここぞとばかりに襲いかかる。

かたや歴戦の英霊、かたや雑兵、それは勝負にすらなっていない。だがその対処には数秒かかる。そしてその数秒はダユーに再度の射撃を許す間としては十分だった。

 

一方、鉄壁の布陣を構築しているダユーも、攻めるとなると話は別だった。

守る場合は迫る黒髭を迎撃し、近寄られたら配下をけしかけ、黒髭をもう一度下がらせるだけだ。

だが攻めるには知識が不足していた。いくらその体が撃鉄の引き方を、効率のいい身体の動作を覚えていたとしても、戦いとは無縁であったダユーはそれらを十全には扱う術を知らないのだ。

そしてそれは戦略の稚拙さとして表れていた。圧倒的優位を築きながら黒髭を追い詰められなかったのだ。

 

「……ああ、イライラするわ……早く死んでしまえばいいのに……」

千日手の最中、ダユーが不意に言葉を紡ぐ。そこから彼女は堰が切れたように、黒髭への不満を、その流れのまま様々な事柄への呪詛を吐き続ける。

望むがままに奪い続けてきた彼女の人生の中で、現在の様な経験は一度も無かった。たった今壁を突き付けられ、道理を捻じ曲げられない事へ愚痴を垂れ流すその姿は、まさに癇癪(かんしゃく)を起こした子供だった。

 

―――そんな彼女の恨み節が唐突に遮られる。

「……糞ガキの愚痴に付き合う趣味はねえんだ。黙ってろ」

それまで口を開かなかった黒髭が、バッサリとダユーの言葉を切る。その声の調子は先程と全く変わらず、むしろより一層凍り付く様な殺気と侮蔑で彩られていた。

言葉を遮られた。しかも侮蔑を込められて。

それはこの都市の王であるダユーにとって経験した事の無い、最悪の侮辱だった。

そうして激情のまま怒りを吐き出そうとした時、彼女は、黒髭を殺すための処刑場が整った事に気付いた。自らの怒りをぐっと堪え、逆に黒髭に微笑みを向けながら喋りかける。

「まあ、何とでも言うがいいわ……どうせあなたはここで死ぬのだもの」

 

何時の間にか、ティーチの周りに褐色の輪が出来ていた。

倒すための戦略が分からないなら(・・・・・・・・・・・・・・・)戦略を考える必要(・・・・・・・・)が無い物量で押し潰せばいい(・・・・・・・・・・・・・)

ダユーが辿り着いた戦術は、手下で圧殺する人海戦術だった。

しかも仲間の負担が減った訳では無かった。騒ぎを察知したイースの海賊が更に集まってきたのだ。

「ほら、さっきの威勢のよさはどうしたの……ねえ何か言ってごらんなさいよ」

圧倒的有利が、黒髭が感じているであろう絶望を想像した愉悦が彼女を饒舌へと導く。

「……何も言えないわよねぇ。それはそうよね。だって今まで耐えてきたあなたの努力、無駄だったのよ……?」

押し黙ったままの黒髭へ自分の有利を誇るように、いや勝利を宣言する様に、ダユーは高らかに紡ぎ続ける。

「……ああ、なんて最高なのかしら……妄言を吐いて必死に頑張っていた男が潰れる様を見るのは……ねぇ、あなたの今の気持ちを教えてよ、ねえ……!」

加熱する加虐心、手下を従えた安心、勝利を確信した圧倒的な優越感。そうした、心休まる実感が、彼女の思考を更にこの戦闘の後へと進める。

「まずこの汚物とレジスタンスのリーダーを晒し首にして反乱の目を潰す。その後はメインディッシュ……あのセイバーとライダー、そして子供とカルデアのマスターを楽しむ―――ああ、それぞれがどのタイミングで命乞いを始めるのかしら……ああ、ああ!」

何て素晴らしいのかしら!

そう続けようとした言葉は、唐突に遮られた。

 

「勝手に興奮して、気持ち悪い妄想で騒ぐんじゃねえよ。弱虫」

 

黒髭だった。

「私が―――」

私が弱虫?

そう問いかけようと、黒髭の顔を見たダユーは絶句する。

 

笑っていた(・・・・・)

 

黒髭は、笑っていたのだ。しかも戦いを始める前よりも、大きく。

 

「―――さっきからずっと聞いてたけどよ、てめえ、自分が安全だと思ったら途端に饒舌になるみたいだな」

顔に三日月を浮かべたまま、逆にダユーへと。

「それはおかしい事じゃねえ。確かに安心したらその安心を味わいたいよな……基本誰だってそうさ。そんな奴はごまんと見て来た。巨大な商社のガレオン船も、護衛に護衛を重ねた貴族も、戦力の差で押し潰そうとする海賊船団(どうぎょうしゃ)ですらそうだった」

 

―――だけど、そういう奴らは全員三流だ。全員倒した俺が言うんだから間違いない。

きっぱりと、黒髭はそう断言する。

 

―――何を。

この男は、何を言っているんだ。

それはダユーの理解外の世界だった。絶望的な状況でありながら、奮起する訳でも無く、悲観にくれる訳でも無く、ただ飄々としゃべり続ける。

理解不能であることが、同じ人間であるはずなのに異物として立ちはだかる実感が彼女を恐怖へ陥れる。

……だが恐怖の中、侮辱されている事だけは理解できた。その実感を怒りに変え、恐れを押し留め、黒髭に問いを投げかける。

「……何が言いたいの」

「まあ、分かんねえよな……まあ一つヒントやるから、死にながらゆっくり考えろよ。」

 

てめえはさ、生きてないんだよ。

 

そう言い、ゆっくりと、次第に走りながら、状況を自分の最期(・・)と重ね、これから訪れる救済(・・)に心の内で震える。

 

膠着したふりをして待った甲斐のある、最高の状況。

―――さあ、黒髭無双の始まりだ。

誰かが、確かにそう言った気がした。

 




『海賊王の休息 後編』に続きます
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