馬鹿4人によるFGO SS 1週間1本勝負 作:作家活動から逃げるな。
※注意 この短編にはFGO1.5部 『アガルタの女』のネタバレが含まれています。ご了承ください
※注意 こちらは後編です。先に一つ前の前編『海賊王の休息 (前編)』及び『海賊王の休息 (中編)』をお読みください
自分の最期ははっきりと覚えていた。
血と硝煙の匂いにまみれ、意識が消えるその最期まで自分が
敵を殴り倒した時の実感、死にたくないから地を這ってでも生きようとする執着、そして傷を受けた時の痛み。
それらは全て、生きているが故に感じる事の出来るものだった。
だからこそ死ぬ間際まで、そして死の淵から転げ落ち、生を惜しんでいたその瞬間ですら
痛みこそが休息であると、そう確信していたのだ。
そして今現在、黒髭がアガルタで立たされてる状況は自分の最期と瓜二つだった。
自分の周囲に広がる圧倒的な兵士に、目の前から正確な射撃を行う指揮官。そして自らの仲間はほぼ頼れない。
―――これだけ状況が被っていて、思い返さないわけが無かった。
違う点があるとするならば、軍団としての練度が低い事と、自分が英霊である事。
―――そして、守るものがある事。
後ろを振り返っても見えるものは褐色の肉塊の山ばかりだった。だがそれでも自分のマスターが、こちらを信じてしっかり見ている事を確かに感じていた。
そもそも、自分を信じてダユーの元へと送り届ける采配をしたのも彼女だった。「ティーチなら出来る」とただ一言、橙色の髪を揺らし、信念のこもった瞳でじっと、こちらを信じて。
―――その期待に応えないわけにはいかなかった。黒髭は味方の子供に優しいと相場は決まっているのだ。
黒髭が駆けだした瞬間、ダユーが弾丸を、そして左右と後方からその配下が襲い掛かる。
絶体絶命、その筈なのに。
黒髭はまたしても笑っていた。今度はまるで予想通りだといわんばかりに。
黒髭が取った行動は至ってシンプルだった。
左右から襲い掛かってきた配下の胸ぐらを掴み―――
まるでごく自然な様に弾丸は配下の身体へ突き刺さり、いくつも朱色の彼岸花をその体に咲かせる。直後に悲鳴があがる。その一連の様子を見て、配下の動きが戦慄で止まる。
配下が集まるまで待っていた理由、それはいたって単純。
―――弾除けとなる肉壁を、出来るだけ多く確保するためだ。
「―――お前ら、何をやっている!」
黒髭あいつを止めろ!
そう叫ぶダユーの顔も恐怖に歪んでいた。配下を撃ってしまったという後悔では無かった。絶対に崩れるはずの無い勝利が、自分の理外から崩される。
そんな困惑と畏怖が混ざっていた。
そして、止める必要がある鬼気迫る状況なのも事実だった。黒髭は着実にダユーへと近づいていたのだ。
自分達のリーダーを守るため、海賊達も黒髭へと襲い掛かる。だがその足取りは非常に重く、一切の士気が感じられない。黒髭に近づけば弾除けとして扱われるのだから当たり前といえば当たり前なのだが。
「あなた、一体何なのよ……!」
血化粧に三日月の笑みを浮かべた黒髭が近づけば近づくほどダユーは狂乱へと陥り、短銃を連射し続ける。
それが更に配下を怯えさせ、萎縮させる。萎縮すると余計に腕はにぶり、盾とすることがより容易になる。
まさしく悪循環だった。
とはいえ、乱射されると黒髭も無傷では済まなかった。体格の問題で黒髭の身体全てを肉塊で守る事は出来なかったし、盾と成り得ない肉片を新品と入れ替える間に一、二発は受けてしまう。
だがそれでも、いやだからこそ笑っていた。
自分はまだ生きていると実感できるからこそ、彼は笑い続けていた。
「何なのよ……何なのよ……何で痛みで叫ばないのよ……なんで、なんで……」
ダユーはどうにかして距離を取ろうとして身をよじり、そして気付く。
後ろが壁である、と。もう逃げられないのだ、と。
実際は黒髭の間合いになるまで走って5,6歩の距離があった。だがもはやダユーにとって距離は問題では無かった。「敵が近づいてきている」という事実そのものが最大の敵だった。
もう限界だったのだろう。
唐突に、ダユーの中で何かが切れた。ブツブツと呟きながら、異次元からなにかを召喚する。
黒地に金で縁取られた無数の巨砲。
ドレイクが持つ兵器の中で最大威力の武器、カルバリン砲だった。
「私の、私の前から……」
―――消えろぉぉぉぉぉォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!
―――瞬間、光の束が走る。轟音と残骸が遅れて世界を包み込む。
そうして残ったものは、えぐれた大地と多くの血痕、そして肉片の地獄だった。
黒髭が死んだ。
その事実に安堵し、狂乱の中涸らした声で、上を向いて精一杯笑おうとした。
だが笑えなかった。
見上げたその空に、あってはならない姿があった。
黒髭だった。
それまでの肉塊を足場として上へ跳躍する事で、必殺の一撃を回避していたのだ。
そしてその跳躍の軌道は、真っ直ぐにダユーへ向かう。
黒髭の豪拳が胸部へ叩き込まれる寸前、ダユーが見たものは
――――血染めの、三日月だった。
どれ程時間が経っただろうか。
ぱちりと、黒髭は目が覚めた。そのまま先程までの経緯を思い出し、恐らく後ろの壁とぶつかったであろうと結論出す。どれだけダユーを殴りつけ衝撃を緩和したとしても、そのまま後ろの壁へとぶつかる事だけは避けられなかった。
あの糞尼は何処に?そう考えた瞬間―――短銃が突き付けられた。
ダユーだった。先程よりも衰弱し、至る所から血を出しながらも、しっかりと黒髭を憎悪のこもる目で見つめていた。
「……今度こそ終わりよ」
息も絶え絶えに、そう告げる。
そこにあるのは先程までの勝者の余裕ではなく、殺意と畏怖だった。
「この私に迫った事は褒めてあげる……そのまま地獄に落ちなさい」
そう言いながら、ゆっくりと引き金に手をかける。
周りを見るとカルバリン砲から逃れた配下の生き残りも集まっていた。まるで彼こそが諸悪の根源だと言わんばかりに殺意を漲みなぎらせている。
「……ああ、今度こそ終わりだな」
そう言いながら、見上げた黒髭の顔は。
また笑っていた。いや過去に類を見ない満面を狂気と勝利に染め上げた、会心の笑みだった。
「あなた……何でまだ笑えるの……」
引き金を引く手が震える。それを見た黒髭はダユーの手を弾き弾丸の軌道を逸らし、そのままできる限り壁際へと逃れる。
「まだ足掻く気なの……いい加減にしなさい……あなたの後ろは壁なのよ……!」
恐れを怒りで隠しながら強気に迫るダユーに、黒髭はゆっくりと告げる。
「いいや足掻くんじゃない……さっきも言ったろ、終わらせるのさ」
「何を―――」
何を言ってるの。
そんなダユーの問いかけは後方からの轟音でかき消される。
爆撃だった。後方から何らかの無数の爆撃が飛んできていた。
デオンも、アストルフォも、レジスタンスのライダーも戦っていた。カルデアのマスターと少年もその場に立っていた。
では一体誰が?
思わず口から洩れたダユーの疑問に、黒髭は高らかに宣言する。
―――アン女王の復讐クイーンアンズ・リベンジ
―――これが俺の宝具だ。
黒髭にとって、全てが計算通りだった。
前方からただ撃つだけでは、敏捷の高いドレイクの身体だと躱かわされてしまうし、他の戦闘しているサーヴァントの動きまで制限してしまう。
ならば、
更にここは運河に据えられた水上都市。|水辺が近いならアン女王の復讐号我が戦友も簡単に召喚出来る。
自爆も上等だった。確かに痛いだろうがそれ《・・》は味わったことが無かったし、これでダユーが倒せるならいいと、そう思っていた。
そして事はここまでうまく進んだ。配下も予想外の形で巻き込んでいるが、むしろ好都合だ。
―――さあ後は意地の張り合いだ。
四十門の砲撃の轟音が、最後の戦いの合図だった。
我に返ったダユーがこちらに短銃を向ける。だが接近戦では、こちらに分があるのは当たり前のことだ。ダユーよりも早く拳を突き出そうとした、その瞬間だった。
ぐらりと、世界が揺れる。
―――ダメージが想像以上に溜まっていたらしい。身体が倒れかける。
―――っけ、ここまでか。
ここまで一人で押し切ったのだから、他の味方が余力を残してダユーを撃破出来るのは間違いないだろう。
だが、だがそれでも。
―――こいつだけは俺が倒したかった。そんな後悔が黒髭を包み込む。
昔体験した死ぬ間際のように、視界がゆっくり進む。その間に何度も他の手段を含めた計算を行う。だがこれ以上の解はどこにも見当たらなかった。
―――ならば仕方がない。
そう思い、全てを投げ出そうとしたその時だった。
声が、聞こえた。
よく聞いた声だった。特別美しいわけじゃない、普通の可愛らしい声だった。
「ティーチ」と、四文字目を大きく伸ばし叫びながら。
負けるなと言わんばかりに、願いを込めて。
―――急に身体が軽くなる。応急手当、と何度も聞いたエフェクトが
一瞬、海賊の誉れがティーチの身体に意志を漲らせる。この瞬間のみにおいては、ティーチは大英雄ヘラクレスを超えていた。
雄叫びをあげる。前かがみになっていた身体を無理矢理上へと逸らす。ダユーに向かって最後の一撃を加える為に。
どこか不格好なアッパーカット。それが最後の、一撃。
直後ダユーの身体が一瞬宙へと浮かび、重力に従い地に落ちる。
―――動く気配は無かった。
ティーチが安息の息を洩らし、後ろを見る。
先程とは違う破顔を、マスターに向けながら。
新しい休息と安寧へ、その体を委ねるのだった。
次回はmkdn先生の執筆になります。ご期待ください