夕日も沈み、人だかりも少なくなってきた頃、浜面は中華屋さてんに戻っていた。
「むはーっ!あやうくこれを忘れるところだったぜ」
そう言って浜面が箸で口に運んでいるのは、ほかほかの餃子である。
浜面が一口噛めば、餃子の焦げ目から出るパリッっとした音が鳴り、口の中は熱々の肉汁と具であふれた。
「うめええぇぇぇぇぇっ!やっぱ佐天さんの餃子は一味違う!」
「俺にも一個ちょーだい」
「断る」
『えーケチー』と浜面の横で文句を呟いたのは、あの後赤い何かが服にこびり付いた冬樹が引きず...もとい連れて来た、赤い何かまみれの顔面をした服部である。
彼は彼で、餡かけチャーハンの御代わりを食べている。
「中華屋に来て餃子食わねえなんてもったいないぜ。万死に値する」
「じゃー一個チョーだい」
「断る。自分で頼め」
「ひどいっ!顔面血まみれの怪我人に慈悲の一つも無いなんて...!浜っちの鬼!」
「自業自得じゃねーか」
因みに上条兄妹はここにはいない。
麻琴は寮の門限があるためで、冬樹は『夜に妹を一人で帰らせれるか!』と言って麻琴を送りについて行った。
え、変態ツインテール?知らない人ですね。
「しょうがないな。ほら、サービス」
そう言って佐天は焼きたてほやほやの餃子を、二人の皿に乗せた。
『わーい、あざまーっす』と両手を挙げて喜ぶ二人。
「いーよいーよ。その変わり、あの二人のことお願いね」
その佐天の言葉に、『?』を頭上に浮かべる二人。
「ははは、いやーあの二人危険なことに自分から突っ込んでいくでしょ?」
その佐天の言葉に、『ああ』と、深く納得する二人。
上条兄妹は、今日の銀行強盗みたいに事件が起きると、自分から事件の中心に突っ込んで行っている。
浜面たちも、たびたびそれに巻き込まれている。
「あの二人、ほんっと親にそっくりなんだよねー」
「美琴さんと当麻さんにですか?」
浜面が聞くと、佐天は昔を懐かしむかの用に頷いた。
「当麻さんのことはあんまり知らないけど御さ..美琴さんは昔から人が困っていたら駆けつける人だったよ」
「ああ~、あの二人もそんなとこありますよね」
「カミやんは美琴さんの能力モロ貰っちゃってるし、麻琴ちゃんに至っては当麻さんより凄い能力だしねぇ」
『遺伝って怖いね~』と三人で深く頷き合っている。
「でもなぁ。だからといって危険なのには変わりないしねぇ。あの二人のこと任されちゃってる身としては心臓に悪いんだよね。っても、止めさせる訳にもいかないし、止める訳ないし」
「確かに」
「ほんとねー」
幼少の頃からあの二人と付き合ってきた浜面達にとって、佐天の思いには深く共感できた。
あの二人は完全に善意から動いている。いや、それが善行とも思っておらず、当たり前のことだと思っている。
だから躊躇わない。だから止める理由がない。
それを知っているからこそ、あの二人を止めることが浜面達にはできなかった。
「だから、あの二人にもしものことがあったら...頼んだよ、二人とも」
佐天の言葉に、箸を止めて黙った二人は、しばらくして二カーっと笑い、
「...
「ほんと、あの二人一応
そう言って、二人とも皿に残ったものを全て平らげた。
「っふー、ごちそーさまです」
「代金置いときますねー」
それぞれの代金をカウンターにおいて、二人は店を出た。
そんな彼らの後ろ姿を見て、佐天は小さく笑うと、
「....あの二人より断然強いくせして、なーに言ってんだか」
そう言って、二人の食器を片付けた。
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「あっ、おーいそこの君達!」
さてんを出た二人に、男性が一人近寄ってきた。
服装を見る限り
「なんすか?」
「いやね、君達あの上条兄妹の知り合いだろ?これ、渡しといてくれないかな」
そう言って警備員が渡してきた物は、一つのケータイだった。
今時珍しいそのガラパゴスケータイは、ピンク色の女の子らしい色合いで、カエルのストラップがついていた。
「分かりました、ありがとうございます」
浜面がそう言うと、警備員はまだ仕事があるらしく、どこかに行ってしまった。
「麻琴ちゃんのケータイ?」
後ろから服部が覗きこんでそう言った。
「だな。たぶん銀行強盗の奴らと戦ってるときに落としたんだろ」
浜面の推測は大当たりで、銀行強盗の一人、通称ブルーにドロップキックをかましたときに落としてしまったのだ。
「しょーがねえ。持ってってやるか」
「暇だし、俺もついてくよ」
そう言って二人は、上条兄妹が向かった麻琴の寮に向け歩き始めた。