浜面達と別れてから数分後。
上条兄妹は日が沈み薄暗くなってきた道を歩いていた。
こちらも人通りは少なく、周りには上条兄妹の二人しかいなかった。
「ん~!なんか疲れたな」
「まあ色々あったからね」
冬樹は、大きく伸びをし溜め息を吐いた。
思い返してみれば、確かに今日は色々あった。
変態の粛清だったり、銀行強盗の制圧だったり、変態×2の粛清(二回目)だったりと、普通の高校生にしてはハードなスケジュールだった。
といっても、学園で六人しかいない
する。
「でもまあ今日も楽しかったよ!」
「麻琴がそうならよかったよ」
麻琴の言葉に、自分のことのように嬉しそうする冬樹。
この辺りが周り(特にエセ忍者)からシスコンと言われる由縁なのだが、本人は気づいていない。
「あっ!」
「?どうした」
しばらく歩いた後、ふと麻琴が何かを思い出したような声をだした。
そして、慌てて鞄やポケットの中を弄り、やがて冷や汗をたらたら流しだした。
「...どうした」
「....ケータイどっかいった」
麻琴の口から出た言葉に、冬樹はまたも溜め息を吐いた。
麻琴は、父の上条当麻に似たのか、かなりおっちょこちょいな面がある。
まあ、上条当麻の場合おっちょこちょいとは別の原因があるのだが。
幼い頃から妹の側にいた兄の冬樹にとっては慣れたものである。
「しかたねえな、ちょっと待ってろ。お前のケータイに電話してやる」
「ありがとー!」
子供の用に喜ぶ麻琴を見て、微笑ましく笑みを浮かべ、冬樹はポケットからケータイを取り出した。
..瞬間、バチィィッ!と冬樹の周りを雷撃が迸った。
「ぐぁっ!」
いつの間にか、冬樹の真後ろにいたジャージを来た高校生ほどの少年が、雷撃をモロに喰らい倒れた。
「ちっ!バレていたか!」
「当たり前だろ、下手糞共」
「なっ」と、うめき声も出ず、小声で喋ったはずの、樹の陰に隠れていたこれまた高校生ほどの少年の首に、一本の針が刺さり、青い火花が走ったと思うと、体を痙攣させながら、少年は倒れた。
見ると、他にも少年と同じように建物の影に隠れていた少年達が倒れているのが見えた。
「ば...か..な...!.?」
「馬鹿はお前だ。こちとらほぼ毎日エセ忍者相手してんだぞ?」
さして何ともないように答える冬樹。
冬樹には
「ったく、なにもしないでいたら麻琴を寮まで送り届けた後に始末してやろうと思っていたのによ」
遅いか早いかの違いで、どっちにしろ、おまえらに後はない。
もはや眼中にも無いようにそう言われた少年達は、その言葉に怒りを覚え、しかし体を動かそうとしても痺れてなにも出来ないでいた。
「く...っそ...が..あぁァッ!?」
バチィッ、と青白い火花が散り、少年は意識を落とした。
「さて...っと、怪我ないか麻琴」
「うん、大丈夫だよ。全部兄ちゃんがやっちゃったし」
麻琴も、一応少年達の存在に気づいており、冬樹が襲われた時攻撃を行おうと思ったが、その前に冬樹が全員倒してしまった。
謎の集団に襲われたという状況にかなり軽い様子の二人だが、なにはともあれ、危機、ともこの二人にとってはい言えないが、は去った。
「さってと、
そう思っていた冬樹の後ろに、突然気配が現れた。
ほぼ反射で頭を下げると、その真上を何かが通り過ぎた。
そのまま、前のめりに倒れこむように受身を取って距離を取り、相手を見た。
それは、長い黒髪をした女性だった。
黒色の長袖のジャージのズボンをはき、上にはそれと同じジャージを羽織り、中には黒い色の無地のTシャツを着ていた。
「ほう、あれを避けますか。流石は
冷静な口調でそう言った彼女は、手に持ったものを一振りした。
「木刀...?」
冬樹はそれを見て不振に思った。
彼女はなかなかの手練れだ。
冬樹が、真後ろに来るまでまったく気配が読めなかったことからそれは明白である。
ではなぜそんな奴が木刀なんという獲物を選んだのか。
確かに殺傷能力は低くはないが、それでも普通の刀のほうが確実に決まっている。
そこから導き出されること、つまり、
(木刀で十分、ってわけか。舐めやがって)
冬樹はすかさず手に針を持ち、ジャージの女に投げつけた。
それを、当然のように彼女はなぎ払う。その太刀筋はまったく見えなかった。
(早すぎるだろ!?神埼さんかよ)
思わず心の中でそう思った冬樹だが、今度は手元に火花を散らし、雷撃の塊を作ると、それを思いっきり地面に叩き付けた。
冬樹を中心に、青白い雷撃が円状に地面を迸る。
それを、ジャージの女は真横に飛んでかわし、壁を蹴って一瞬で冬樹に接近した。
なんとかその動きを目で追い、真横に倒れこむようにかわし、その首筋に針を投げつけた。
(空中では身動きが取れないはず...!)
『もらった!』と心の中で勝利を確信した冬樹。
だが、ジャージの女は、手に持った木刀を前の地面につき立て、縦に半回転してそれをかわした。
「なっ..!」
「終わりです」
冬樹が、思いもしなかった動きに驚き、その隙に、うまく地面に着地したジャージの女が冬樹に切りかかった。
一瞬の隙を狙われ、その神速の太刀に反応が遅れた冬樹の首に、その木刀が吸い込まれていく。
瞬間、その間に、右手に雷撃を宿した麻琴が割り込み、ジャージの女に叩きつけた。
ジャージの女は、冬樹への攻撃を止め、その雷撃をぎりぎりのところでかわした。
「あっぶねえ、サンキュー麻琴」
「大丈夫?あの人かなり強いよ」
麻琴に礼をいい、立ち上がりジャージの女を見る冬樹。
さっきの冬樹の雷撃を、麻琴が喰ったのだ。
「上条麻琴。
ジャージの女は、麻琴を見据えてそう言った。
「お前ら...なにが目的だ?」
恐らく、というか間違いなく彼女はさっきの少年達の仲間だろう。
聞いてみたものの、なんとなく彼女らの目的は、冬樹には分かっていた。
「私が依頼されたのは、君達の制圧と、幻想喰いの捕縛です」
「..まあ、だろうな」
麻琴は、原石である。しかも、相手の能力を
まあ、恐らく親の遺伝かなにかだとは思うが、そんな能力を、悪用しようとした者達はいくらでもいた。
だいたいは、この学園の理事長がなんとかするか、もし襲われても撃退していた。
今回は後者だったのだが、思わぬジョーカーが出てきてしまったようだ。
「神埼さん...まではいかないだろうけど、それに匹敵する強さだよ、たぶん」
横で麻琴がそう言った。
「まあいい、あっちがやる気なら、俺らもやるぞ...!」
「うん...!」
バチィィ!と手に雷撃を生み出す二人。
それに答えるかのように、ジャージの女は木刀を一振りし、
「いいでしょう、なら私も少し本気を出すとしましょう」
そう言って、木刀を構えた。
「来るぞ!」
その瞬間、視界から、ジャージの女が消えた。
そして、ほぼ反射的に、冬樹は目の前に針を投げ、それを追うように、雷撃の拳を放った。
目の前には、いつの間にか距離を詰めていたジャージの女が木刀を冬樹に向かって振り下ろしていた。
麻琴も、反射的にジャージの女に雷撃の槍を放っていた。
二人が繰りだした、三つの攻撃は、ジャージの女の攻撃より、少し速かった。
その攻撃が、ジャージの女に吸い込まれていき、当たった。
―――――と思ったら、すり抜けた。
「ッ!?」
「こっちです」
何が起こったか確認する間も無く、冬樹の後ろから、ジャージの女の声と、真横に衝撃が走った。
「ガッ!?」
「兄ちゃん!」
そのまま、真横に吹っ飛び壁に激突した。
木刀じゃなかったら死んでいた。いや、木刀でも下手したら死んでいただろう。
手加減したのかもしれない。
「グ...!」
「大人しくしていてください。そうすれば貴方には危害は加えません」
そう言って、麻琴のほうを振り向くと、目の前に、青白い雷撃の槍が迫っていた。
さらに、一瞬で後ろに回りこんだ麻琴の雷撃を帯びた蹴りでジャージの女を挟み撃ちにしていた。
ジャージの女は、その絶体絶命的な状況に、動揺も見せず、雷撃の槍をあろうことか木刀で下からすくい上げ、そのまま麻琴にたたきつけた。
「アグァ!?」
理不尽すぎる力技を肩に受けた麻琴は、自分の雷撃に痺れ、そのまま倒れこんだ。
「さて..と、これで依頼は完了ですね」
一息終えたジャージの女は、聞こえてきた車の音のほうを振り向いた。
こちらに向かってくるワゴン車が一台。
ジャージの女の横で停まると、中から白衣を纏った眼鏡の男が現れた。
「ごくろうだった。
周りを見渡し、白衣の男は関心を見せた。
そして、倒れている少年達を見て顔をしかめた。
「まったく、あれほど大見得切っておいて、役立たずどもが」
ジャージの女は、そのいいようにとくに反応もせず、手を差し出した。
「報酬を...」
「まあまて、それは私を安全に送り届けてからだ。中にはまだ『
そう言って、白衣の男は、麻琴を乱雑に持ちあげ、ワゴン車に運ぼうとした。
「ま...て.....」
「あぁ?」
とその時、そのうめき声に似た声が聞こえてきた。
「俺の..妹、から...離れやがれッ!!」
気絶したはずの冬樹が、白衣の男に雷撃の槍を放った。
「うおぉ!?」
目の前までせまった雷撃の槍に、ビビッた白衣の男だったが、それを、ジャージの女が木刀で地面にたたきつけた。
その瞬間に、冬樹が白衣の男に急接近し、麻琴を奪い取ろうと雷撃を纏った拳をたたき付けた。
がしかし、それもジャージの女の蹴りを真横から受け、吹っ飛んで失敗に終わる。
「....あ、焦らせやがって。死に損ないがッ!」
そう言って、麻琴と一緒にワゴン車に乗った。
ジャージの女も乗ろうとしたその時、
「おおおおおおおおおおッ!」
吹っ飛んだはずの冬樹の叫び声と共に、閃光を放ちながら巨大な雷撃が襲ってきた。
彼の母、旧名御坂美琴の代名詞である、”
地面を抉りながら向かってくるそれを見て、ジャージの女は、木刀では敵わないと悟り、木刀の刃を持ち、そっと抜くと、中から、見事な刀が現れた。
仕込み刀である。
それを、寸前まで迫っている超電磁砲に叩き付けた。
瞬間、視界が閃光に包まれた。
「はぁ、はぁ」
ぼやけた視界の中、冬樹は晴れた光の奥を見て、絶望した。
抉れた地面が、二股になってジャージの女を避けていた。
切ったのだ、あの、冬樹の全力を。
「うそ...だろ...」
冬樹は、そのまま前に倒れこんだ。
それを見たジャージの女は、こんどこそワゴン車に乗り込み、その場を去った。
それを、冬樹はただ見ていることしかできなかった。
視界はぐらぐらになり、何がなんだか分からなくなっていた。
しばらくした後、誰かの声が聞こえてきた。
「....!....、....!」
「............」
しかし、何を言っているかまではわからなかった。
だが、目の前にいた人物を見て、ぼやけてまったく見えなかったが、彼は、動かない口を力を振り絞り開かせた。
「麻琴が...攫われた....」
その言葉に、目の前に人物は、少しばかり驚いた様子だった。
そして、体を震わしている、ように見えた。
それを見て、なぜか、彼は心の底から安堵し、
「....頼む...」
そう言って、意識を闇に落とした。
気を失った冬樹を見て、目の前の人物、浜面皇仕は、静かに、言った。
「任せろ」