暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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食卓の時間

無事に怒涛の……忙しい……波乱の……?……なんて言えばいいのかわからないけど、ひさしぶりに会えたお姉ちゃん達も一緒のなかなか濃かった1日が終わった。臨時指導教官として私たちE組の訓練をしてくれた特務支援課のみなさんと、いつの間にかいなくなってたかと思えばイリーナ先生とおしゃべりしてきたらしいイリアお姉さんとシュリさんが先に帰り、残った私たちは簡単な注意・連絡事項を烏間先生から聞いて、この日は解散することになった。学園祭の総合結果は明日以降に本校舎で発表されるみたい……ゆーじくんのおかげで、1日目は程々だった売上も2日目にだいぶ挽回したと思うんだけど……結果はどうなったのかな。

 

「私、エリィさんのところに行ったんだけど、あの人すごいんだよ!移動しながらでも狙った場所に百発百中!」

 

「ノエルさんは早撃ちだよな。BB弾ってあんなに早く装填できるものだっけ……」

 

「千葉や速水を固定式とするなら、あの人達は移動式か……」

 

「……千葉、付き合いなさい」

 

「ああ、いつもの場所でいいか?」

 

「お前ら、言葉が足りなくて全然違う意味に聞こえるぞ」

 

エリィさんとノエルさんのところはやっぱり射撃中心だったんだ。凛香ちゃんと千葉くんは早速訓練の予定立て始めてるし……いい感じに刺激になったんだと思う。

 

「……節々、痛い……」

 

「今痛みが来てるんなら若い証拠だって……」

 

「大丈夫かよ?」

 

「ランディさん、とにかく説明よりはパターンに慣れろって感じでさ……とにかく普段使わない筋肉動かした感じがやばい」

 

「そういうワジさんの方はどうだったの?」

 

「……言われて考えてみると、あんまり疲れがないかも。むしろいつもより体が軽い気がする」

 

「身体の動かし方全般を教えてもらったよね。代わりに対先生武器を一切使ってないから、それと組み合わせたら動けるかがまだわかんないけど」

 

ランディさんは武器を使った模擬戦形式、ワジさんは武器なし素手での模擬戦形式って感じだったのかな。武器を介するかどうかで身体の感覚は全然違ってくるし、次はどう感覚を合わせるかが課題だと思うな。あとランディさんグループが筋肉痛気味なのは、普段使わない筋肉を使ったからというより、ランディさんのハルバードの一撃を受け止めようとしたからだと思う……

 

『早速導力ネットワークを破ったことを報告したら、ティオさんに褒められました!』

 

「それって褒められていいことなの!?」

 

「目を輝かせてそのデータを覗き込んでたぞ」

 

「ティオさん……」

 

『あ、でも。報告の後にヨナさんへ通信して静かに怒ってましたね』

 

「……そりゃあ主任はティオさんだけど、ヨナさんは導力ネットワーク管理者の1人だから……律がプログラムだからある意味無敵だとしても、情報取られてる時点で問題だからね……」

 

ティオさんは主に情報や機械関連だったんだろう……律ちゃんやイトナくん、映像関連で三村くんなんかも熱心に聞いてたんだろうな。……律ちゃんが相手じゃヨナさんは不憫だけど、立場的にしょうがないよね。

 

「……この時は10人小隊を組んで正面突破が1番被害も負担も少ないんじゃないか?スペースの関係からこの場所から敵は少人数ずつしか出てこれないし、分隊の陽動は必要ないわけだから……」

 

「いや、この場合はここにあるスペースをうまく使うのが肝だろう。6人小隊で役割をわけ、陽動、支援、防御、交渉……ここで1部隊は待機して強襲する、なんてのはどうかな?」

 

「悪くない気もするけど……この視界の範囲を見る限り、これだけ見渡せるってことは、その分相手からも狙われるってことだよな?リスクを考えると俺はあまり人数を配置したくないな……」

 

「だが、……」

 

磯貝と竹林(おまえら)は何をいまだに言い合ってんの?」

 

「あー……ロイドさんに出された『約30人でこの図面の場所へ潜入・交戦する場合』にどうするかって問題なんだけどさ。……お前なら見せた方が早いな……カルマ、お前ならこれどう解く?」

 

「はァ?…………、……俺ならこのスペースに偵察を置く。入り口側の味方に状況をリアルタイムで伝えられる環境を作って、あとはその情報しだいで決める」

 

「いや、この場所は敵からも見えるだろう?だから……」

 

E組(ウチ)には律もいるんだからさ、機械と同期させておけば安全じゃない?偵察用ドローンとかさ」

 

「……E組?」

 

「そんな前提はどこにも……」

 

「磯貝が言ったんじゃん、〝約30人でこの図面の場所へ潜入・交戦する場合〟って。これ、ロイドさんがハッキリ言ってないだけで俺等を想定してるでしょ?」

 

「「…………あ。」」

 

「それを察して作戦を立てるのも課題だったんじゃない?」

 

ロイドさんは戦闘訓練をするよりも、頭を使う系……兵法というか戦略についてなどを指導してたみたい。E組の中でも参謀役を担いそうなメンバーがここに集まっていたようで、磯貝くんや竹林くんのようなまじめな人たちは、今も何やら議論を繰り広げていた。何をあんなに頭を突合せて話してるんだろう……私と同じく気になったらしいカルマが様子を見に行って、一緒になって盛り上がってる。

いつもなら家の近い人とか仲のいい人で集まって帰るんだけど、今日は駅まで終始こんな感じにE組みんなで一緒に山道を降りる。普通ならあの学園祭での大盛況の話とかで盛り上がるんだろう……でも、ほとんどの口から出てくるのは戦闘訓練でのことばかり。誰かに話したくてしょうがないっていうのが伝わってくる……同時に自分が行かなかった他のグループでは何をしてたのかを聞いている姿もある。ここは一応外だし、もし公にしてバレたら危ないものはさすがにぼかしてるけど……みんな、いまだに結構興奮してるみたいだ。

 

「じゃあ皆、今日はゆっくり休んで」

 

「また月曜日ね!」

 

「さて、僕等はA組相手にどこまで勝負できたんだろうね……」

 

「じゃあね〜!あ、カエデちゃん、許可が貰えたらでいいから写真よろしくね〜っ!可能ならアミサちゃんとのツーショットがいい!」

 

「あはは、うん、撮ってもよさそうだったら倉橋さんの個人チャットに送るよ!」

 

「……私?」

 

E組みんなで一緒に帰ってるといっても大所帯だから程々に分かれてるし、家が近い優月ちゃんたち数人とは早いうちにバイバイして、椚ヶ丘駅に着く頃にはみんなほとんどバラバラだ。それでも、どんなに短い時間でも、こうやってクラス全員が仲良く行動できるのってすごいことだと思うんだ。……だからこそ、E組は居心地がいい。眩しすぎて時々私がいるのはおかしいことだって思う時もあるけど、同時にさいごまで残りたいっていう思いもない、とは言えないから、余計にそう感じてる。

いつもならカエデちゃんとも別々になる分かれ道で、元気に手を振って走っていった陽菜乃ちゃんがカエデちゃんに向かって、なにやら気になることを言っていた。……今、私の名前が出てきたような。そっと手を繋いでいたカエデちゃんの顔に視線を上げて問いかけると、にこりと笑った彼女が口元に人差し指を当てて少し考えるように空へと視線を向けた。

 

「なんかね、アミサちゃんとキーアちゃんのツーショット写真が欲しいんだって。色々ご利益ありそうだから、待受にしたいらしいよ」

 

「……キーアちゃんはともかく、私なんかにご利益はないと思うんだけど……」

 

「え、茅野ちゃん、俺等が夕食一緒すること倉橋さんに話したの?」

 

「まさか。誰にも言ってなかったんだけど、なんかバレてた。倉橋さん、皆が解散する前にキーアちゃんと話してたからそこ経由かな……」

 

「あー……倉橋さんも子ども受けいいからね……」

 

女神の早すぎた贈り物と呼ばれる至宝を模した、元・至宝であるキーアちゃんならご利益は多分期待できる。本人曰く、至宝の力はなくなったから時間や空間、認識の操作は出来なくなったけど、人の間に結ばれた因果はまだ見えてるらしいし。……で、なんで私?……あとなんでカルマと渚くんは「わかる」って頷いてるんだろう?

E組からの帰り道は真っ直ぐ帰る日もあれば寄り道する日もあるし、イリーナ先生の放課後塾が開かれる日もあるから、私は普段からいろんな人と帰り道を歩いてる。その中でも特に修学旅行以来は4班+誰かって形で帰ることが多いけど、今日は私の家に招待したカルマと渚くんとカエデちゃんの3人だけが最後まで一緒。いつもなら私とカルマと渚くんの3人で歩く道を、今日はカエデちゃんも一緒に歩く。私はカエデちゃんと並んで手を繋いで家までの道を歩く。カルマと渚くんはお隣同士で後ろをついて歩いてる。いつもと少し違うっていうのがなんか嬉しくて、彼女とつないだ手に力を込めた。

 

「……ていうかさ、茅野ちゃんそろそろ代わってよ。そこ俺の場所」

 

「カルマ君;」

 

「えー、アミサちゃんどうする?」

 

「……今日はカエデちゃんなの。カルマは明日」

 

「だって」

 

「はは、ふられちゃったねカルマ君……痛っ!」

 

「渚クーン、……その口塞いであげるから大人しくしてて……」

 

「い、いたたたたっ……もうなんでカルマ君ってホントに、アミサちゃんのこととなるとそんなに心が狭くなるのっ?」

 

なんでもない日の、とりとめのない日常が。私の存在意義が分からなくなるくらい、幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

 

「おかえりなさーい!」

 

「わぷっ!」

 

「っ!……おー、いいタックル」

 

「カルマありがとー!それロイドにいつも言われるー!」

 

「いつも言われるくらいロイドさんに飛びついてるんだね、キーアちゃん……えっと、お邪魔します」

 

「お、お邪魔します!」

 

玄関の扉を開けた瞬間、なんだかいい香りと自分たちを迎える声とともに黄緑色の弾丸が飛びこんできた。先にお姉ちゃんや兄ぃたちが家の中にいるのは知ってたけど、このお出迎えは想定してなかった……到着予定の時間は知らせてあったから、この様子だと少し前から玄関で待機してたんだと思う。慌てて踏ん張ろうとしたけどバランスを崩して、すぐ後ろにいたカルマが私ごと受け止めてくれた。私にひっつきながら顔を上げたキーアちゃんが、動けない私の分までカルマにお礼を言う。

そんなやり取りをしていると、私たちが帰ってきたことに気づいたんだろう……リビングに繋がる扉が開いてワジさんとランディさんが顔を出した。

 

「お、きたきた。キー坊なんて30分も前からそこで待ってたぜ〜」

 

「おかえりアミーシャ、いらっしゃい3人とも。ロイドが料理作りながら待ってるよ」

 

「あ、ランディさんとワジさん」

 

「……お邪魔してます」

 

「道理でいい匂いがすると……え、ちょっと待って……〝作りながら〟……?え、なんでお客さんのロイドさんが夜ご飯作ってるんですかっ!?それ私のお仕事ですっ!!」

 

「やりたくてやってるんだから、やらせとけばいいじゃない。女性陣も張り切ってたから僕達は迎える役に回ったんだよ」

 

「私がおもてなししたかったのに……!キーアちゃん、ちょっと離れてっ、先に中入ってるからカルマたちはゆっくり来て……っ!」

 

「あ、キーアも手伝うー!」

 

あまりにも自然に私たちを玄関まで迎えに来て、ゆっくりしていってねとまで言い出しそうな〝この家の住人〟感を出してるから流すところだったけど、ここ、私の家……!だからお客さんは迎えに来たワジさんたちであって、間違っても私じゃない。なのにここまでいい匂いがしてるって、ほとんど料理終わっちゃってるんじゃない……!?

 

「あと盛り付け程度だからいってもやることないよ……って、行っちゃったか。……別に、たまには休めばいいのにね」

 

「だな。俺等が来た時くらい兄姉に甘えろっての」

 

「てことで、3人は僕達と一緒に行こうか」

 

「は、はい!」

 

「お願いします!」

 

「……ちなみに、ワジさん達は本トに俺等を迎える役割だったの?」

 

「まさか。自主的に決まってるだろう?それに僕は軽食系やカクテル系の飲み物が得意なんだ。適材適所ってやつだね」

 

「せっかくの(メシ)なのに男の料理が並ぶよりいいじゃねーか」

 

「「「(聞こえはいいけどこの人達、サボってるだけだ)」」」

 

慌てて靴を脱ぎ捨てながら、追いかけてきたキーアちゃんと一緒にリビングへ飛び込んだ私は、ワジさんの止める気もないくらいやんわりとした静止の声を全く聞いてなかった。……多分、聞いてたとしても飛び込んでたと思うけど。そして、お客さん(ゲスト)であるカルマたちを玄関に残すってことは私にとってのお客さん(ゲスト)であるワジさんとランディさんの2人に案内させることになるってことも、完全に頭から抜け落ちていた。……あとから考えるとおかしいよね、なんでお客さんがお客さんを案内してるんだって。

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

慌ててリビングに入ると、お姉ちゃんやエリィさんたち女の人達が出来上がった大皿料理をテーブルに運んでいる最中で、キッチンの中にいたロイドさんはといえば、既にエプロンを外しているところだった……お、終わっちゃってた……。

 

「おかえりアミーシャ。手は洗ったか?」

 

「……まだ。シュリさん、なんで止めてくれなかったの……」

 

「俺は、というか俺とイリアさんとリーシャ姉は止めたぞ?絶対アミーシャは夕飯作る気で帰ってくるから、俺等で作るにせよせめて一緒に作ってやれよって。聞かずに始めたのはロイド(アイツ)だから」

 

「ロイドさんっ!!!」

 

「わ、悪かったって!毎日頑張ってるアミーシャに今日くらいはご褒美としてなんかしたくてだな……本当なら完成させて出迎えたかったんだけどさ」

 

「気持ちは嬉しいけど私がやりたかったのに……っ!……ついでに言うけどシュリさんの持ってるカゴも私のお仕事……」

 

「……?風呂洗いと買い出しはリーシャ姉がやったぞ」

 

「お姉ちゃんまで……」

 

何やらカゴ……私がいつも洗濯で使ってるやつだ……を抱えて窓際から歩いてきたシュリさんが私に声をかけてくれた。止めたっていっても言い方からして絶対本気で止める気はなかったと分かる。……あの、ロイドさんが勝手に料理し始めたって感じに話してるけど、空のカゴを持ってる時点でシュリさんも家事に手をつけてる気がするんですが……しかもやるのが当たり前とばかりに返されてしまった。色々言いたいことはあったけど、終わってしまったものは終わってしまったんだからしょうがない……でも分かっていても納得はできない。私は不機嫌な顔をしてるんだろう……慌てたようにこっちに近づいてきたロイドさんに頭を撫でてもらいつつ、まだ作ってなかったらしいデザートは私が作るということで妥協したことにする。なんとか折り合いがついたところでワジさんたちが部屋へと入ってきた。

 

「あ、やっぱり拗ねてる」

 

「ワジ!お前、料理の途中で消えるなよ。……俺は違うって顔してるけどランディもだぞ!」

 

「お客さんが到着したんだから出迎えるのは当たり前だろ?……あと、僕達までこっちにいたらもっとアミーシャが不貞腐れるのが目に見えてたしね」

 

「むー、お迎え役はキーアがいたのにー……」

 

「キーア、こっちに来てください」

 

「……よしよし、ワジさんはあんなこと言ってますけど、キーアちゃんと同じで彼等に早く会いたかっただけだと思いますよー」

 

「本当よ、特にカルマ君……だったかしら。ワジ君かなり気に入ったみたいだし」

 

「え」

 

「うん、懐かない猫みたいでかわいい」

 

「……え゛」

 

何度か来たことがあるから勝手知ったるとばかりに荷物を置くカルマと渚くんに続いて、カエデちゃんはキョロキョロと部屋を見回しながら着いて部屋に入ってきた。ロイドさんはワジさんとランディさんに突っかかってるけど、2人は2人で軽く流してる……こっちに来る前によく見てた光景だなぁ……。私と同じように役割を取られた形のキーアちゃんもぶすくれていて、ティオさんが彼女を近くに呼び、ノエルさんとエリィさんが抱きしめてなだめていた。若干カルマに飛び火してる気がするけど……まあ、ワジさんが気に入ったということはカルマは彼等が認めるくらいの素質……うーん、潜在能力?とにかく気になる部分があったんだろう。

 

「ま、話は食べながらにしよう。せっかく作ったのに冷めたらもったいないし」

 

「…………」

 

「……う、視線が痛い……ほら、誰と座るんだ?」

 

「……カルマとキーアちゃんがいい。渚くんとカエデちゃんとお姉ちゃんも、近くがいいなぁ……」

 

「あとは!?見事に手伝いしてた組省かれてるんだけど、」

 

「わーい、キーアもアミーシャと座るー!ティオ、隣になろ!」

 

「……!もちろんです!」

 

「あはは……って、うわ、」

 

「……おい、イリアさん!次から次に広げんなっていつも言ってんだろ!アンタホント私生活となるとだらしないな……」

 

「なーにー?私の家のようにくつろげる空間ってことじゃない。お酒飲んでるわけじゃないんだから〜」

 

「そんなの当たり前だろ!?くつろげてもここはアミーシャの家だし客も来てんだから、ちょっとは舞台上のイリア・プラティエらしくしてくれよ……!」

 

「……イリア・プラティエさんって……」

 

「あー……僕等がアルカンシェルに行った時も思ったよ。普段と舞台とでかなりギャップがあるよね」

 

「これって、ギャップで片付けていいものなのかな……」

 

……完全に好意だけだとしても勝手にご飯を作ったという、私にとってはお仕事を取られた発端であるロイドさんが、何事も無かったかのように食卓につこうと促してきて、つい無言で睨んでしまった。ちょっと自分と隣になろうってアピールされてた気もしたけど、今日のところは近くを私の好きな人たちで埋めさせてもらおう……キーアちゃんもわざとなのか天然なのかロイドさんの抗議しかけた声を遮ってティオさんを誘ってくれたし。そして、いざ席につこうとしたら……テーブル近くの椅子では、何かを飲みながらイリアさんが既にくつろいでた。

上着とか何かしらに使ったタオルとかをイリアさんがくつろぐ周辺に無造作にちらかされていて、それを見たシュリさんが怒る。あ、それお酒じゃなかったんだ。初めて普段のイリアさんを見たカエデちゃんが印象の変わりように目を白黒させていて、一応見た事のある渚くんとカルマは目を逸らした。

 

「……今になっちゃってからでなんなんだけど……ホントによかったんですか?皆さんアミサちゃんに逢いに来て、今日は家族水入らずって感じなのに」

 

「ふふ、もちろんいいに決まってます。むしろ誘ったのはこちらですし」

 

「アミーシャと俺達だったらこれからいつでも会えるけど、君達も交えて、なんて機会はもう早々取れないだろう?」

 

「ですから、気にすることはありません。さあ、そんなことよりも早く食べましょう……ロイドさんの料理でしたらものすごく美味しいものができてることは少ない代わりに、そうそう失敗もないので安心です」

 

「……なあ、ティオ……それ褒めてるか……?」

 

「いえ、事実を言ってるだけです」

 

「ロイドって、デザート系は壊滅的だもんね」

 

「……ぐ、否定できない」

 

「はいはい、ロイドもティオちゃんもキーアちゃんもその辺にしなさい。ホントに冷めちゃうじゃない」

 

「ごめんなさい、私達にとってはいつもの事なんですけど……ビックリされたでしょう?」

 

「いや、その……まあ」

 

「うん、アミーシャがちょっとやそっとじゃ動じない理由がよく分かったよ」

 

「カルマ君!そんなハッキリ、もう……」

 

席に着いてから申し訳なさそうにする渚くんとカエデちゃんに対して、ロイドさんを貶すことで認める兄ぃたち……ロイドさん、前以上にいじられるようになってる。でも、多分こういう扱いをするのは信頼するリーダーだからこそ、なんだと思う。だって、なんでもできる人ってだけだとどうしても距離を感じてしまうし、いつまでたっても追いつけないような気がしちゃうから……いじれる距離感っていうのが大事、なんだと思うな。E組でも、そんな感じだし……ただ信じて任せるだけじゃなくて、軽いノリも忘れないというか……。

あ、ちなみに得意料理がどうとかっていうのは、言葉通り兄ぃたちの料理の腕前のこと。見事なくらいみなさんバラバラなんですよね……ご飯ものは男性陣、軽食やデザート系は女性陣が得意で、よく失敗してはねこまんまなどを作るのはエリィさんやティオさんだったりする。

 

「たっく……じゃあ、全員席に着いたところで。いただきます」

 

「「「いただきます!」」」

 

ご飯を食べる前から色々バタバタしてたけど、なんとか夜ごはんはそろって食べ始めることができた。ひさしぶりのロイドさんのご飯だ……あっちにいた時以来だから、3年ぶりくらい?食べていても楽しそうに話を振ってくるのはランディさんやイリアさん、それにキーアちゃん。静かで綺麗な食べ方なのはエリィさんやお姉ちゃんにカエデちゃん、それに意外とカルマも。普通に食べながらちょこちょこ騒がしくなる彼らを見て呆れ顔なのがティオさんやノエルさん。いじられて疲れ顔なロイドさん、ツッコミ疲れてきてるのがシュリさんや渚くんでそれを煽るのがワジさん。なんだろ、珍しいこの光景がとてもまぶしいものに感じる……それになつかしい、 たのしい、おいしい、うれしい……あたたかい。

 

「……アミーシャ、どうしたの?笑ってるのに泣きそうだよ?どこか痛いの?」

 

「……えへへ、んーん。また、こうやってお姉ちゃんと、みなさんと一緒にご飯できて嬉しいなって」

 

「……そっか!キーアも一緒、みんな一緒で嬉しい!」

 

…………あたたかい。

……ご飯も、だけど。

なによりもお姉ちゃんがいて、ロイドさんたち特務支援課の人たちがいて、イリアさんとシュリさん、それにカルマたちがいる。

私の大好きな人たちがここに集まっている。

それが、あたたかい。

……この2度と見れるか分からないくらいあたたかい光景は、きっと忘れられない。

…………わすれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────そこで、ガツンと言ってくれたわけですよ!あれはカッコよかったなぁ〜……」

 

「なにそれ、俺知らないんだけど」

 

「鷹岡先生の授業サボったのはカルマ君のせいでしょ」

 

「えー……」

 

「はっはー、なるほどな!それにやっぱりお前さんらは仲がいい!……で、アミ姫はいきなり顔覆ってどうした?」

 

「うぅ……こうなるだろうなって予想はしてたけど、なんで本人()の前で私の話をするの……」

 

「嘘偽りのない第3者目線でアミーシャのことを教えてもらうなら今しかないじゃない。通信もこっちとあっちとじゃなかなか時間も取れないし、アミーシャは重大なことほど隠すから」

 

「あ、じゃあやっぱり外せないのはあの話でしょ。ついでにカルマ君のアピール話も……」

 

「あぁ、ようやく通用したかに見えたのにアミサちゃんは理解してなかったアレね」

 

「……ちょっと、俺にまで流れ弾来たんだけど」

 

やっぱりというかなんというか、ロイドさんたちがカルマと渚くんとカエデちゃんを夜ごはんに招待したのは、私のことを聞くためだったらしい。確かに心配かけたくなくて、私からの通信は基本危険なこととかをぼやかしてた……とはいえ、あったことはだいたい伝えてたのに。でも、ここぞとばかりにカルマたちから語られる話は、私が気付いてなかったこととか気に止めてもなかった細かいことで……むしろそんなことあったっけ?というレベルである。怒られそうな話は正直辞めて欲しいのだけど、たまにむず痒くなるような話も入れてくるからいたたまれない。潜入慣れしてるワジさんとか、交渉事が得意なエリィさんとかが上手く話題にあげてくるから止められないし……味方はいないの?!と思ってたら、カルマも隣で突っ伏した。黒歴史、というやつらしい。

 

「──で、この後のことも絶対アミサちゃんは話してないと思うんですけど、」

 

「~~~っ、で、デザート作ってきます!」

 

「あ、……えっと、やりすぎちゃったかな?」

 

「んー、いいんじゃない?妹ちゃんには妹ちゃんの考えがあったんだとしても、私達に話さなかったらあとからこんな形でバレることになるって分かっただろうし」

 

「そうだよな。俺らに黙ってただけならともかく、家族であるリーシャ姉にすら黙ってたのは納得いかない。だからお前ら、今のうちに色々教えてくれよ?」

 

「シュリちゃんまで必死ね……」

 

「……一応、あいつは俺の妹分だからな。血は繋がってなくても、心配くらいはさせてくれたっていいだろ」

 

「………」

 

「あれ、カルマ君どこ行くの?」

 

「手伝ってくる。この人数だし作ろうとしてるのって、一気に作れるアレだろうから……材料あったっけ……」

 

全然終わる気配をみせない私が既に話したこと+αな過去話(カエデちゃんが言うには『アミーシャ伝説』らしい)に、終わるのを待たずに私がキャパオーバーだ。たまらずキッチンに逃げ込むことにする……隣だから話し声は聞こえてくるけど構わない、だってみんなに囲まれてない分心に余裕ができるから。調理器具を出しながらテーブルの上に使う材料を出していたら、横から食材を持つ手が差し出されてきて……顔を向けるとカルマが手伝いに来てくれていた。なんでもそろそろ自分を標的にされる話題が来そうだったから手伝いを理由に逃げてきたんだそうで。だったら私の時点で止めてよ、とは思ったけど。

カルマとならイトナくんとの夜ご飯会でよく一緒に料理するから、慣れたもの。1人でやるよりは手際よく、それでいてちょっとしたイタズラを込めながら手を動かしていった。

 

 

 

 

 

 

 

「「「……………」」」

 

「……導力器、料理、戦闘、……ホント、彼ってどれだけゼムリア大陸側の文化に適応してるんだろう」

 

「アミーシャと一緒にいるためにってだけで、すごい研究してそうね」

 

「あ、あはは……料理に関しては、ここに来てないですけどイトナってクラスメイトと一緒によく夜ご飯を作りあってますよ?あの2人」

 

「最近はアミサちゃんの料理手帳見ながら、いかに魔獣食材を使わずに再現できるかにこだわってるらしいです。……変なのばっかできるらしいですけどね」

 

「そりゃ書かれた材料以外を使ったらそうなるわな」

 

 

 

 

 

────ボンッ

 

「「うわっ」」

「あー、やっぱりダメかー。魔獣の種をクコの実に変えてシロップ系を変更しただけなのに」

「なんで杏仁豆腐がプリン化してるんだろ……」

「さあ?……今回のは食えそうだからさ、もうこのまま出しちゃおうよ」

「うーん、……いっそ中にこれ入れちゃえばごまかせると……」

「あ、それナイスアイディア!……じゃあ俺はー……」

 

 

 

 

 

「「「…………」」」

 

「……た、タイムリー……」

 

「単に予想外料理が出来たわけじゃなさそうなのがまたな……」

 

「というか、後半の会話が不穏なんだけど……食べれるもの、出てくるわよね?」

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

完成した〝つるつる杏仁豆腐〟……一部〝ぷるぷるプリン〟っていう予想外料理が出来上がったそれをみんなのところへ持っていくと、待っていた全員が揃ってこちらを見てきて思わず固まる。え、と……なんでそんなに怖い顔してるんだろう……もしかして、嫌いだったかな杏仁豆腐(と、プリン)。カルマが鼻歌を歌いながらデザートの乗ったお盆をテーブルに置くと、渚くんが小さく手招きして私を呼んだ。呼ばれるまま近くに行くと、渚くんは耳元に顔を近づけてきて小さな声で尋ねられる。

 

「アミサちゃん、一応聞いとくけど……変なもの入れてないよね?」

 

「?なんで……?」

 

「あ、いやー、2人が作ってる時の会話が怖かったとかそんなことないんだけど、カルマ君が一緒なのがちょっと警戒対象っていうか……」

 

「俺信用ないねー。大丈夫大丈夫、食べれるものしか入れてないって」

 

「入れてるじゃん……十中八九イタズラ仕込んでるじゃん……!」

 

「……えーと、ナギサ君。確かに会話は不穏だったけど、そんなに絶望する程なのか……?」

 

「見た目、おいしそうな杏仁豆腐とプリンにしか見えないけど……」

 

「……甘くみないでくださいよ……学園祭で出してた見た目美味しそうなモンブランに、カラシとわさびを仕込んでたカルマ君が何もしてないとは思えない……」

 

「「「え゛」」」

 

「お盆乗せる時に適当に混ぜちゃったから、俺もどれに何が入ってるか分かんないからね〜。簡易ロシアンルーレット的な?」

 

「『的な?』じゃないよ、その一言のおかげでおいしそうなコレが恐怖の権化だよ!」

 

私が見てた限りでは変なの入れてる素振りなかったけどな……ちなみに私も関与してないとは言ってない。お盆の上に乗っている杏仁豆腐とプリンは見た目では違いが全然わからない……基本底に沈めてあるから分かったら分かったで怖いのだけど。それぞれが手を伸ばし、思い思いの器を……慎重な何人かは下から覗き込んでみたり軽く匂いを嗅いで見分けようとしてるみたいだけど、とりあえず1人1つ選んだところで私たちも席に座る。

 

「……い、いただきます!」

 

「「「いただきます」」」

 

「…………、……あれ、普通においしい」

 

「……ん、これカラメルソースの代わりに蜂蜜入れた?」

 

「お、なんだこれ……なんかコリコリしてんぞ……」

 

「……私のはジャムですね。イチゴのつぶつぶが美味しいです」

 

「キーアのチョコレート入ってた!」

 

「カエデちゃんのプリン爆殺計画が楽しかったから……やってみたの。ここにあるものを適当に選んだから、そんなにいいものはないと思うけど……」

 

「ていうかさ、アミーシャが発案者なんだからそうそう変なものは入らないって思わなかったの?」

 

「それ、ほとんどカルマ君の言い方のせいだと思うよ……」

 

恐る恐るというようにそれぞれがスプーンですくい、口にしていく……と次第にほわっとした笑顔とともに美味しいという感想が。味変するのもおもしろいと思ってやってみたんだけど……結構好評なようで安心した。ちょっとイタズラじみた言い回しをしちゃったのは申し訳なかったけど、これくらいの反撃くらいは許して欲しいな。

 

「っ!?なんだコレ、パチパチいってるんだけど!」

 

「あ、それ俺が入れたわたパチだ」

 

「……コリコリしてんの、噛んだら舌が痺れるんだが」

 

「それは山椒の実。甘いのばっかじゃ飽きると思って、クコの実の皮めくって中に詰めてみた」

 

「……結局変なのも混ざってるじゃん!」

 

「『そうそう』って言ったでしょ?『全く入れてない』なんて一言も言ってないよ」

 

「くっ、弁の立つ……!」

 

……前言撤回。カルマは普通にイタズラ仕込んでた。すぐさま渚くんのツッコミが飛んだけど、当の本人は飄々と言い逃れてる……確かに、変なもの入れてないって言ってはないから、嘘ではないよね。むしろ、食べれるものなら入れたってハッキリ言ってたよね、私も何入れたかまでは知らなかったけど。

ちなみにわたパチに当たったのはロイドさんで、山椒はランディさんだったみたい。わたパチはともかく、山椒……中華に和を合わせるなんて発想はなかったな……確かに色々料理するからってことで、キッチンにはいろんな調味料だったり香辛料だったりを揃えてあるけど。カルマ自身、お父さんお母さんの影響なのかお土産で揃えてる世界各国の香辛料が好きで詳しいけど。

 

「はい、あーん」

 

「?あー……、……あ、オレンジピール……」

 

「杏仁豆腐に合うかと思って。ちょうど俺のに当たったからさ」

 

「……ありがと。カルマも私の食べる……?」

 

「ん、ちょーだい」

 

唐突にスプーンを差し出されて、特に何も考えずに口を開けると、放り込まれたのは杏仁豆腐……ほのかにオレンジの香りがして、おいしい。今度は上からかけるソースを別で作ってみてもいいかもしれない……そんなことを頭の片隅で考えながら、私も自分のプリンをカルマの口へと運んでいた。

 

 

 

 

 

 

「……無駄な気もするが、一応聞いとくな。アレってわざとか?わざと俺らに見せつけてねーか?」

 

「いえ、いつもの光景です」

 

「食べさせあいっこも、1つのものを分けて食べるのも見慣れたよね……ここでもやるとは思わなかったけど」

 

「……カルマ君が確信犯なのは何となく分かった、……アミーシャはどう思ってるんだ?」

 

「これが普通のことだって思ってそう……そう教えちゃったのも僕等なんですけど」

 

「駄菓子も知らなかったもんね……思わず、色々試したいなら分け合いっこすればいいって、私も言っちゃったし、E組女子会やるたびにみんなアミサちゃんに餌付け並に分けてるからなぁ……」

 

「あ、キーアもあーんする!チョコと交換だよー!」

 

「うん、いいよ……はい」

 

「……なんだかんだやらかしてくれるけど、やっぱり可愛いわよね」

 

「天使が2人……癒されます」

 

「ふふ、愛されてるようでよかったです」

 

「そこでこの感想が出てくるのがこの子達よねぇ」

 

「リーシャ姉……エリィさんにティオさんまで……」

 

「いいなー……私も混ざりたい……」

 

「ノエルもか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デザートまで食べ終わり、そろそろ解散の流れになってきた。私の家に泊まっていくお姉ちゃんやロイドさんたちはともかく、カルマと渚くんとカエデちゃんの3人は遅くなり過ぎないうちに帰らなくちゃいけない。玄関を出たところで別れの挨拶をする3人は、律ちゃんというプログラムを通して何かあった時に連絡するために周波数や暗号通信の仕方などを聞いていた。こっちでいう、メッセージアプリの通話みたいな感じかな……律ちゃんの学習次第でビデオ通信とかもできるようになりそうで怖い。既に《ARCUS》では実装されてるそうだから、無理じゃないんだろうけど……。

ここまで楽しいのはひさしぶりだったから、お別れするのが名残惜しくて……表に出さないように努力してたんだけど、少しは沈んだ感情が見えてたんだろう。ロイドさんが何か考えるように口元に手をやっていて、カエデちゃんに声をかけた。

 

「……カエデちゃん。キーアとアミーシャの写真を撮るって言ってなかったっけ。帰る前に撮らなくていいのか?」

 

「あ、そうだった!うーん、どこで撮るのがいいかなー」

 

「まだ夜ご飯の片付けの終わってないリビングよりは、私のお部屋とかのがいいかな……?」

 

「わかった!カエデーッいこー!」

 

「あ、うんっ!……渚!カルマ君!先に玄関行っててーっ!」

 

「ひ、引っ張らないで……っころぶ、ころんじゃうっ」

 

陽菜乃ちゃんに頼まれていた、私とキーアちゃんのツーショット写真……キーアちゃんに聞いてみたらすんなりオーケーされて、カエデちゃんはすごく喜んでた。どうせならカエデちゃんも一緒に写ればいいのに、『私よりも2人を撮る方が価値があるの!』……だそうで。嬉嬉として私の腕を引く2人に連れていかれる形で、私たち3人は家の中に逆戻りすることになる。

 

 

 

 

 

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ロイドside

言い方は悪いが『ちびっ子3人組』が家の中へと駆け戻っていったのを見送り、俺達は彼女らがいては話しにくかったことを口にし始める。主に、見たことがないほど自分を出し、小さなことではあるがイタズラに加担したアミーシャの変化についてだ。

 

「……かなりハイテンションだったな」

 

「ですね。普段の彼女でしたらもう少し自分を押さえ込んでてもおかしくなかったのに」

 

「かわいいイタズラもありましたしね」

 

「……そんなに違うんですか?」

 

「ああ、あそこまで表情がくるくる変わるアミーシャを見たのは初めてかもしれない。……ありがとな、2人とも」

 

「っ、そんな」

 

「な、なにもしてませんって!」

 

唐突なお礼に、ナギサ君とカルマ君は目を見開き、慌てたように否定してきた。それでも、俺達が与えられなかった彼女の存在意義を、価値を認めてくれたのは、やはりこの2人なんだろう。

 

「何もしてないってことはないと思うよ。事実、アミーシャのそばに居続けてくれてるのは君達だろう?」

 

「多分、()()アミーシャを見てもお二人は……いえ、カエデさんも入れて3人ともがあの子に対する態度を変えませんでした。それが嬉しかったんだと思いますよ」

 

アミーシャの戦闘……きっと一番仲がいいと見えるこの2人にすら、自分の暗殺者としての側面は見せたことがなかったのだろう。だからこそ、ひさしぶりにリーシャと組手をして周りが見えなくなった彼女は、暗殺者としての力の一端を見せることになってしまったことに怯えている。巻き込んでしまわないか、利用されたりしないか、なにより……嫌われないか。今までの意識をガラッと変えてしまう出来事を目撃して、態度を変えないというのは存外難しい。それが信用、信頼しているよく知っていると思っていた存在なら尚更だ。アミーシャにとってはカルマ君、ナギサ君がそうなんだろう。

 

「あー、いい写真撮れた!私も待ち受けにしていい?」

 

「いいよー!」

 

「な、なんでカエデちゃんまでっ……!?」

 

「……さ、そろそろ戻ってきそうだね」

 

「また、学校でも仲良くしてあげてください。……そういえば、もうすぐ定期テストがあるって聞きましたけど、どうです?」

 

「う、現実が戻ってきた……」

 

「……さあね、俺はバカだから難しいことは分かんないや」

 

当たり障りのない態度で接しながらも、明るく引っ張りつつ相手も立てる、女の子らしいカエデちゃん。

大人しくてフォローに回ることが多いだろう、どこか得体の知れない強さを秘めているナギサ君。

そして。アミーシャをすくい上げ、様々な感情や経験を教え、一緒に歩もうとしてくれているカルマ君。

怖がりで小さなあの子は彼等と過ごす毎日が変わらないことを望んでいて、彼等は無意識にでもそれに応えてくれている。俺達としても、彼女の滅多にない数少ない望みは叶えてやりたい。だけど……どうしたって、アミーシャが《(イン)》であり、既に裏の道を歩いているという事実はいつまでも付きまとう。

きっといつか……いや、近いうちにでもその力を使わざるを得ない時が来るんじゃないか、そんな予感があって。

これからこの地を離れる俺には、俺達には、彼等が笑顔で中学生活を終えることができるよう、静かに祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 




「うーん、どこで撮るのがいいかな〜」
「どこでもいいよ。写って困るものがあるわけじゃないし……」
「あーっ!!」
「「っ!?」」
「キーアちゃん?」
「ど、どうしたの?」
「ホワイトストーンが1個しかないよ!?キーアと、アミーシャと、シュリの3人で3つずつ分けたのにっ!」
「ホワイトストーンって?……うわぁ、白くてキレイな石だね。宝石みたい」
「キーアとアミーシャとシュリのお揃いなのに……」
「あ、あのね……実は、カルマと渚くんにあげたの」
「……へ?」
「渚達に?」
「う、うん。2年前のクリスマスに、カルマの誕生日がその日だってことを知って……その時の私がすぐに渡せるものって言ったら、それくらいしか思いつかなくて」
「へぇ……」
「そーなんだ、ならいいやー。捨てちゃったとかだったら嫌だったけど、カルマとナギサなら大事にしてくれてるだろうし」
「……残り1個にはなっちゃったけど、キーアちゃんともシュリさんとも、それにカルマや渚くんとも繋がってる気がするから……」
「繋がり……うん、分かる気がする」
「いいなー……ねぇ、私もアミサちゃんとお揃い持ちたい!」
「え……カエデちゃん、いいの……?」
「うん、もちろん!……でも、もうすぐ期末に演劇発表会でしょ?今すぐじゃなくていいの、落ち着いてから何か選ぼうよ!」
「……うんっ、楽しみにしてる」



「キーホルダーもお揃いなんだよね、だったら他ので何かいいものないかなー……普段使うもの……ハンカチ、シャーペン……消しゴム……お守り?あ、いいかも」
「……茅野は何を悩んでるの?」
「消耗品のことかと思えば神頼みって……テストの願掛けとか?」
「女の子の秘密!男の子はそんなに意識してないかもしれないけど、女の子にとってのお揃いは大きな意味があるんだよ!」
「なるほど、茅野ちゃんは俺等がアミーシャとお揃いのものを持ってるから嫉妬してたわけね」
「な、何故それを……!」
「いや、茅野が自分で言ってたから……」


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大変遅くなりましたが、学園祭後、オリ主の家での夕食風景でした。自由なイリアさんとワジさん。苦労しているロイドさんとシュリさんなどなど、色々書きたい人物像を書いては消してを繰り返し、やっと形になりました。

料理手帳について。
軌跡シリーズには切っても切れないシステムのひとつです。操作キャラクターごとに大得意料理・得意料理・苦手料理などが決まっていて、それによって大成功・成功・予想外・失敗に確率で料理ができます。『あ、それっぽい』と思える設定ばかりなので飽きません。ちなみに失敗作も食べれます。

ホントは、料理対決みたいな展開もいいと思ってましたが、今回あえて共同イタズラ料理を作ることになりました。なんでだろう。これが小説の不思議、キャラクターが勝手に動く。


では、次回は2学期末テスト(2周目)に突入です。


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