暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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編集前の第一部が残りあと少しになってきました。
第一部が終わるまでは投稿ペースを落とさずにいきます。

今回もよろしくお願いします!



101話 正体の時間

 

「……木がなぎ倒されてる……これ……、……相当な力で引きちぎられた跡……土がえぐれた跡まである……」

 

 

 

「……確か、昨日あそこにも同じような跡が残ってた……」

 

 

 

「…………まさか、日本(こっち)に魔物がいるなんてことは、ない、よね……?聞いたことないし、……烏間先生も、そんな事言ってなかったし……」

 

 

 

「……、……もう少し、もう少しだけ見て回ろう。もし、ホントに魔物の仕業だとしたら……今、これに対処できるのは……」

 

 

 

 

 

 ────プルルル……ピッ

 

 

 

 

 

「…………こんばんは、烏間先生……E組の真尾です。椚ヶ丘市内に、おかしな場所を見つけました。今から少しだけ範囲を広くして見て回ろうと……いえ、無理なんてしてません。だって、お姉ちゃんと烏間先生が認めてくれる限り……そして、私が選ぶまでは……私はただの中学生でいられるんですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 演劇発表会が終わり、私たちが次に集中すべき舞台は、夏休みに次ぐ長期休暇という名の暗殺のチャンス……冬休みだ。烏間先生が政府に便宜を計ってくれたおかげで、私たち学生の考えた突拍子もない暗殺方法を実行するだけの予算や場所を確保してもらえた。

 この1年間、時期とか道具の関係で直ぐに実行は出来ない計画も、世間を知る大人だからこそ実行できない夢物語のような計画も、思いついたものは全て記録してある。政府公認で好きにやらせてくれるんだ、これを生かさない手はないよね。

 

「外が猛吹雪のペンションの中で暗殺!逃げ場を塞いだ狭い空間なら暗殺できるんじゃない?」

 

「不破のそれって絶対なんかの漫画の影響受けてるだろ……『かまいたちの夜』的な」

 

「あ、バレた?あのセリフはぜひ矢田さんに言って欲しいわ……」

 

「うーむ、殺せんせーの弱点を上手く使いたいよな……雪山の雪を溶かして水にするとか……」

 

「雪崩ならぬ濁流的な?だったら夏休みみたいに集団戦法が一番いいのかな……」

 

 様々な意見をみんな隠しもせずに堂々と話し合う……少し前に殺せんせーが教室を出ていったからこそできる話し合いだ。いつの間にか渚くんとカエデちゃんもいないし……でもあの2人だけで暗殺をしかけに行ったとは思えないから、なにか用事があったとかなんだろうな。

 

「アミーシャ、少なめのEPで使えるアーツ書き出してよ。《火》なら俺も試したいし」

 

「あ、さっき言ってた雪崩を水にって案で使えそうだもんね……ちょっと待ってて」

 

「や、単に俺が使える可能性があるのを把握しときたいだけなんだけど……って、もう聞いてないよねー」

 

 いつもの様に煮オレ片手に(今日はサバ煮オレだ……生臭くないのかな)私の所へ来たカルマは、暗殺に生かせそうなアーツを聞きに来たみたい。

 私もそっち方面でなら専門的にサポートできそうだし丁度いいと思って、ノートを破って書き出していく。低位属性から順番に書き出していると、カルマは私の手元を覗き込んで何やら考えているようだった。

 

「……戦術導力器(オーブメント)ってすごいよね。最初こそ戦うためだけに超常現象を起こす器械だったんでしょ?それが今では通信というかスマホ的な機能まで兼ね揃えててさ」

 

「ホント……私からしたらこっちに来てスマホに驚いてたのに、いつの間にか向こうがこっちに追いついた気分だもん。向こうなんて最初は建物に備え付けの通信機くらいでしか連絡って取れなかったんだよ?エニグマになって個人端末同士で通信できるようになったと思ったら……」

 

「……固定電話みたいなものか……いや、それより古いな、公衆電話しかないみたいな感じ……」

 

「こーしゅーでんわってなに……?」

 

「うわ、カルチャーショックってやつだ。まあそもそも椚ヶ丘にもあんま無いしねぇ」

 

「電話といえばアミサちゃん浅野ちゃんと電話することあったんだねぇ。メッセージ送りあってるのはみんな知ってたけど〜」

 

「……ねぇ、その時も言った気がするけどその呼び名は気が抜ける……」

 

「あはは、みんな呼び名は自由でいいでしょっ!カルマ君もちゃん付けにしよっか?」

 

「それで倉橋さんの男子の呼び方に当てはめると、俺『赤ちゃん』になるじゃん。絶対ヤダ」

 

「言うと思った〜!」

 

 こーしゅーでんわの謎がそのままスルーされちゃった……後で調べてみようと思う。そうそう、陽菜乃ちゃんの言う通り演劇発表のあと、本校舎はホームルーム終わりくらい、私たちは絶賛ずれ込んだお弁当中って時間に学秀くんから電話がかかってきたんだよね。

 私は教室の外で出ようと思ってたんだけど、周りからの要望もあって学秀くんには黙ってスピーカーモードにしつつ通話したんだ。もし声とか入っても教室のすぐ外にいるから入っただけって誤魔化せ!ってカンペ出されたし、バレたらちゃんと対応してくれるって言うからその場でスピーカーモードにして出たんだ。

 

 

 

〝……あ、学秀くん……?出るの少し遅くなっちゃった、ごめんね。A組も発表終わったんだよね……お疲れ様〟

 

«いや、E組は昼食中だろう?こっちこそ突然かけて済まなかったね。周りが静かだが……野次馬はいないのかい?»

 

〝〝〝…………〟〟〟

 

〝(いないって言ってくれ!)〟

 

〝い、いないよ?〟

 

«……そうかい?E組のことだから聞いてそうなものだが……まぁいいか……アミサさんも演劇発表お疲れ様。とりあえず他のE組の奴等には伝言として言っておいてくれ、2本目はともかく1本目、性懲りも無くお前らは何をやってるんだ、と»

 

〝(向こうも名前呼びしてんじゃねえか。いいのかよカルマ)〟

 

〝(いいわけなくない?でも割り込む間もなく話が進んでたから飲み込んでるだけ……交際断られたからその代わりってなんだよ……ブツブツ……)〟

 

〝あ、あはは……脚本担当の子がね、どうせやるなら爪痕を残してナンボって言ってたよ?〟

 

«爪痕どころじゃないだろう、あの後の発表は僕等だぞ?!あの空気の後に僕等の演劇に集中できるわけないだろ……2本目は特に、だ。なんだあの考察捗る内容、僕も自分の劇そっちのけで考えてやろうかと思ったくらいだ。まあ、やるからには完璧に終わらせるのが僕等選ばれしA組だが?……というか続編希望がでてたぞ、主に後輩から»

 

〝(よし、そういう意味じゃ目的達成)〟

 

〝(だな。2本目のウケが良かったのも想定内だし)〟

 

〝(続編なぁ……1年生の頃からのリアリティショーだろ。さすがに無理じゃね?登場人物が真尾と渚とカルマだけになるのもだけど、いじめっ子なんてやりたくねーぞ)〟

 

〝(あとカルマにやられる不良役もな……絶対寺坂抜擢されるし)〟

 

〝(嫌だっての!!)〟

 

«その2本目といえば……アミサさんはあのラストシーン、よくオーケーしたな»

 

〝……?現代の椚ヶ丘ってところ……?〟

 

«いや……まああの頃の様な長髪も久しぶりに見て可愛らしかったがそれではなく。……うん、濁すと伝わらないからハッキリ言おう……赤羽とのキスシーンだ»

 

〝……う、……言われる気はしてたけど……〟

 

«もちろん言うさ、つい最近までの恋敵とのラブシーンとか。……はぁ、すまないキミに言っても仕方がないな、どうせ赤羽のリクエストだろうし……それでもよく人前なのにオーケーしたな、と。しかもキミからだろう?»

 

〝(しっかりカルマのリクエスト要素ってバレてるな。当たり前か)〟

 

〝(……ふん)〟

 

〝……学秀くんでも気づいてなかったんだ。ちゃんとできてたんだね、よかった〟

 

«ん?»

 

〝あれ、角度ズラしてそう見えるようにしてただけだよ?すぐに消える演出するのもあったから、一瞬キスするフリしてただけ〟

 

«……そ、そうだったのか……»

 

〝……?うん〟

 

«……はぁ、僕も盲目だな。赤羽に言っておけ、少なくとも僕が知る限りの奴等には効果覿面だったぞ、と。多分それで伝わる»

 

 

 

 最後の伝言はカルマにだけ伝わればいいって頼まれちゃったからよく分からないままだったけど、スピーカーモードでリアルタイムに聞いてたカルマは無言でガッツポーズしてた。何に対してのガッツポーズだったんだろう……

 そもそもあのフリだけのキスシーン……ホントにしてって言われたら人前なんてイヤだから逃げちゃおうと思ってたけど、してるように見せるだけなら別に恥ずかしいとは思わないし、リアリティ出すならアレくらいしなきゃって思ってたから別にいいんだけど、実際に触れてなくてもそんな、喜ぶことだったんだ……?

 

 ちなみに舞台袖にいたE組目線でもキスしてるように見えたらしい。……練習の時、目の前でみんな見てたよね!?台本にもちゃんとフリって書いてあったのに……わかばパークで台本無視して寺坂くんを殴ってたカルマだから本番にこっそりホントにしてそう?……信頼ないなぁ。

 

「はい、これがごちゅーもんの品、低位属性の私のENIGMA Ⅱ(エニグマ Ⅱ)で使えるアーツ一覧……お姉ちゃんたちが使ってるARCUSⅡ(アークス Ⅱ)は触ったことないし、さすがにアーツ構成わかんないけど……」

 

「ん、サンキュ。……ねぇ、アミーシャ、冬休みに入ったらクロスベルに里帰りする予定とかあったりしないの?」

 

「え、一応お姉ちゃんにせっかくクロスベルも安全になったから1回帰っておいでって言われてるけど……」

 

「……それにさ、俺着いていきたいんだけど、だめ?」

 

「ふぇっ、……旅行しに行きたいってこと……?」

 

「うん、まあ、そんな感じ。アルカンシェルしか見れてないからさ〜……アミーシャの故郷、ちゃんと見てみたいんだよね。行ってみたいところとか結構あるし……カジノとかもあるんでしょ?覗いてみたいよね!」

 

「もう、こっちじゃ違法なんだから、………………?」

 

「ん、どうかしたの?」

 

「……今、なにか聞こえなかった?重たいものを地面にぶつけるような、そんな音……」

 

「……別に聞こえなかったけど……」

 

 頼まれてたアーツの一覧を書いたノートの切れ端を手渡したら、カルマが私の里帰りに着いてきたいって……、目的にカジノがあるあたり手放しでいいよって言えないのがね。それに着いてくること自体はダメじゃないけど、私は私の目的もあって帰ろうと思ってたから、ずっとカルマについててあげることができないし……最悪特務支援課のみなさんにお願いするとか?……ありかもしれない。

 そんなことを考えながら返事をしていたら、ドーンって、地面に響くような低くて重たい音が外から聞こえた気がして、会話を中断して顔を上げた。でも、すぐそばにいたカルマは聞こえなかったって言うし、教室の中のみんなだっていつも通り……私の気の所為だったのかな。

 

 そう、流してしまおうとした時だった。

 

 

 

 ────ドゴォォン!!

 

 

 

「「「!?」」」

 

「な、何今の音!!」

 

「校舎の中じゃない……多分、外……道具倉庫の方だよ!」

 

「行こう、こういうのは分からないままでいる方が危ない!」

 

 私が聞いた音とは比にならない轟音と大きな揺れが教室中に響き、ここにいたみんなが声を上げる。教室から飛び出していく何人かの後に続いて、私も追いかけた。教室の揺れから考えても、校舎内から聞こえた音じゃない……方向的に、校庭近くの道具倉庫からだと考えていいと思う。そう、前を走る人に向かって声をかけると、なんとか聞こえたのか手を挙げてそちらへ進路を変えて先導してくれて……たどり着いたそこには、教室にいなかった殺せんせーたちがいた。

 砂埃をあげる倉庫と地面、大穴の空いた地面の隣に泥だらけになってしゃがみこんでいる殺せんせー、慌てたように倉庫から飛び出してきた渚くん、そして、倉庫の屋根の上に立っているのは、

 

「……か、」

 

「……茅野さん……何、その触手?」

 

 首元から2本の触手を生やしたカエデちゃんだった。いつものツーサイドアップの髪型を下ろし、別人のように険しい表情をした彼女は、冷たい目をして私たちを見下ろしていた。

 

「あーあ、懇親の一撃だったのに。逃がすなんて甘すぎだね、私」

 

「茅野さん、君は一体……」

 

「ごめんね、茅野カエデは本名じゃないの。私もアミサちゃんと一緒……この教室に入るために名前を変えたんだ。……雪村あぐりの妹……そう言ったらわかるでしょ?人殺し」

 

 ……雪村あぐり……それって、

 

「しくじっちゃったものは仕方ない、切り替えなきゃ。明日また殺るよ、殺せんせー、場所は直前に連絡する。触手を合わせて確信したよ……必ず殺れる、今の私なら」

 

 そう、一方的に殺せんせーへの約束を取りつけたカエデちゃんは、触手を使ってどこかへと消えていった。みんな、いきなりのカエデちゃんの豹変に何も言うことができなかった。その様子を見ていた、同じように触手を持っていたイトナくんが信じられないとばかりにカエデちゃんがいなくなった方向を見ている。触手を移植していたからこそ分かる、痛み、苦しみ……それらを表情に出すことなく今の今まで耐えていた事実に驚いて。

 

 そしてもう1つ、E組のほとんど全員を驚かせた事実があった。『雪村あぐり』……律ちゃんとイトナくんは会ったことがない相手だけど……殺せんせーがE組に来る前の、E組の担任の先生の名前だ。私とカルマだって停学中に課題を届けるために会いに来てくれてただけで、この教室では一度も会うことがなかった人。私たちが停学を終えて教室に入った時にはもう、担任の席には殺せんせーがいて……雪村先生はいなくなっていたから。

 

「……俺、どっかで茅野を見たことあると思ってたんだ」

 

「んー……雪村先生とは似てなかったと思うけどな」

 

「いや、それより前だ。キツめの表情と下ろした髪で思い出した……磨瀬榛名って憶えてるか?どんな役でも軽々こなした天才子役の。休業して結構経つし、髪型も雰囲気も全然違うから……気付かなかった」

 

 カエデちゃんの顔を正面に見た時から、スマホに目を落として何かを探していた三村くんが、写真フォルダの中から1人の女の子の写真を表示させる。見せてもらったそこに映っていたのは長い黒髪を下ろして、キツめの表情を浮かべた10歳前後の女の子……カエデちゃんと全然違うように見えるけど、どこか面影がある。

 

 

 

 茅野カエデは偽名……E組のクラスメイトだけど、ホントはどこにも存在しない女の子。

 

 磨瀬榛名は芸名……今ではテレビに映らない、長期休業中の元天才子役。

 

 雪村あぐりの妹……私たちの知らない、触手を持った1人の復讐者。

 

 

 

 

 

「……どれが、彼女の本当の顔なんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殺してやる!!あんたみたいな人でなし!!』

 

「……言われてみれば、確かに茅野だ」

 

 律ちゃんが三村くんのスマホと繋いで、磨瀬榛名の代表作とも言える作品の名場面らしい……下卑た笑い声を上げる男の人に、ボロボロの服を着た今よりずっと幼いカエデちゃんが掴みかかって悲鳴のような叫び声を上げている映像を再生する。

 私がこっちに来た時には既に休業中だったから存在すら知らなかった、子役……いつも教室で見ていた彼女と全然違う印象を受けるソレは、このE組の人たちのほとんどが見た事のあるドラマらしく……1年間一緒の部屋にいたのに気づけなかったことを悔しがるよりも、どこか納得していた。この演技力があったから、誰にもバレることなく正体を隠していられたんだ、と。

 

「カエデちゃん……」

 

「きっと、あの巨大プリンの暗殺もダミーだったんだ」

 

「そっか、何もしないと逆におかしいから……」

 

 誰とでも仲良しなカエデちゃん……だけど、同じくらい誰とでも深くかかわろうとしなかった。この教室は『暗殺教室』……そこで明るく楽しく()()()()危険のない茅野カエデを演じることで、今日、今の今まで殺せんせーに警戒させなかった。

 

「……殺せんせー。茅野……先生の事、人殺しって言ってた。……過去に何があったんだ?」

 

「こんだけ長く信頼関係築いてきたから……もう先生をハナっから疑ったりはしないよ」

 

「でも、もう、殺せんせーの過去の話……してもらわなくちゃ、誰も今の状況に納得出来ない。そういう段階なんです」

 

 私たちだけじゃない……事態を知って駆けつけた烏間先生とイリーナ先生からも真剣なは表情を向けられて、殺せんせーは大きくため息をついた。

 

「……、……わかりました。先生の……過去の全てを話します。ですがその前に、茅野さんはE組の大事な生徒です。話すのは……クラス皆が揃ってからです」

 

 そう、殺せんせーが絞り出すように言った時だった。ブー、ブー、とバイブの音……殺せんせーのスマホからだ。あの時、私たちの前から去る直前、カエデちゃんはスマホを差し出して連絡すると言っていた……これがその連絡なんだろう。

 

 殺せんせーがそっと私たちに見せてくれたメール画面……そこには『今夜7時、椚ヶ丘公園奥のすすき野原まで』と、カエデちゃんらしくない簡潔な文面で、要点だけが書かれていた。

 それを見た私たちの心はすぐに決まった。彼女は殺せんせー1人だけで来るように、なんて条件は付けてない、だったらみんなで説得に行こう。真実を、知るために。

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 午後7時……カエデちゃんに指定された椚ヶ丘公園の奥にあるすすき野原には、殺せんせーと烏間先生、イリーナ先生、そして制服のままではあるけど上から防寒着を羽織った私たちが集合していた。ここは、辺りにすすきがたくさん生えていること以外に何も無い平坦な場所……遮るものも何もないから、その真ん中で1人佇んでいるカエデちゃんを見つけるのはとても簡単なことだった。

 

「来たね。じゃ、終わらそ!」

 

 触手を生やしている以外にはいつも見ていた笑顔と、全く変わらないそれを浮かべるカエデちゃんは、この12月という寒い季節に着るにはおかしい……ノースリーブのワンピースに厚手のマフラーという服装をしていた。あれは……寒さを感じていないの……?

 そして、私たちが来たことに気づいた彼女は触手を振るい、目の前のすすきを薙ぎ払った。その部分だけすすきの背が低くなり、より私たちとの間を遮るものがなくなる。

 

「殺せんせー……先生の名付け親は私だよ?ママが「滅ッ」してあげる」

 

「茅野さん、その触手をこれ以上使うのは危険すぎます。今すぐ抜いて治療をしないと命にかかわる」

 

「何が?すこぶる快調だよ。ハッタリで動揺狙うのやめてくれる?」

 

「茅野……全部、演技だったの?楽しい事色々したのも……苦しい事皆で乗り越えたのも」

 

「演技だよ。これでも私役者でさ……渚が鷹岡先生にやられてる時、じれったくて参戦してやりたくなった。不良に攫われたり死神に蹴られた時なんかは……ムカついて殺したくなったよ。理事長先生の暗殺の時は焦ったなぁ……もしかしたら復讐する前に殺られちゃうかもって思ったから。……でも耐えて、耐えてひ弱な女子を演じたよ。殺る前に正体バレたら……お姉ちゃんの仇が討てないからね」

 

 殺せんせーの訴えにも、渚くんの問いかけにも動揺も躊躇いもなく即答していくカエデちゃん……そのまま触手とともに殺せんせーを指差して、表情には影がさす。この行動原理は自分のためじゃなくて、お姉さんのため……カエデちゃんはそれだけ、お姉さんのことが大好きだったんだろう。

 

「この怪物に殺されて……さぞ無念だったろうな。教師の仕事が大好きだった、皆の事もちょっと聞いてたよ」

 

「知ってるよ、茅野。2年の3月……2週間ぽっちの付き合いだったけど、熱心ですごくいい先生だった」

 

「そんな雪村先生を、殺せんせーはいきなり殺すかな?そういう酷い事……俺等の前で1度もやった事ないじゃん」

 

「ね、だから確認しよ?殺せんせーの話だけでも聞いてあげようよ、カエデちゃん」

 

 カエデちゃんは、私たちの呼びかけを静かに目を伏せて聞いてくれている……これはもしかしたら、声が届いているのかもしれない。でも、静かに向けられる殺気は、ずっと変わらない。それがどういう意味かは分かっていたけど、何もしないで見てるだけなんて……もしかしたらに賭けたくて……声をかけ続ける。

 

「停学中の俺とアミーシャの事を家まで訪ねてくるような先生だったよ……ね?」

 

「うん。確か……兄妹だっけとか、中学生で同棲するなんてとか、ふじゅんいせーこーゆーがどうとか……色々言われた気がする」

 

「……雪村先生の前でもそれが通常運転だったんだな、お前ら」

 

「……雪村先生のそれ、世間一般当たり前の反応だと思うぞ」

 

「……でも、それ以外にも人を信じたくなかった私が、話を聞こうって思えるくらいお人好しな人だって思った。わざわざ家まで来るなんて変な人だなって……」

 

「本トだよ……服装も変だったし」

 

「ダメだ、この2人だけじゃなくて雪村先生も通常運転だったわ」

 

 停学中、課題を届けるために何度か家まで来てくれていた雪村先生。最初は勢いが怖くてカルマ任せにしていたけど、何度も顔を合わせるうちに会話は出来ない代わりに近くで話を聞くくらいはできるようになった。この人は建て前で話してない、本心からホントに思ってることを口にしているだけだって分かったから。私を見て話してくれていると感じたから。

 そんな人が、E組に行ってみたらいなくて……どれだけ驚いたことか。誰も知っている人がいなかったから聞くにも聞けなくて、ずっと不思議だったんだ。まさか……亡くなっているとは思わなかったけど。

 

「とにかく……茅野ちゃん、本トにこれでいいの?今茅野ちゃんがやってる事が……殺し屋として最適解だとは、俺には思えない」

 

「現状、体が熱くて首元だけ寒いはず……触手の移植者特有の代謝異常だ。その状態で戦うのは本気でヤバい。熱と激痛でコントロールを失い、触手に生命力を吸い取られ、最悪……死……」

 

 イトナくんもなんとか止めようと言葉を続ける。イトナくん自身も触手持ちだったからこそ向けられる経験談には、死のリスクが含まれていた。リスクの無い挑戦だったら止められないかもしれない、でも、自分の命がかかっているなら……

 

「……うるさい、部外者達は黙ってて」

 

 

 

 そんな希望は、顔を上げたカエデちゃんの触手に音を立てて燃え盛った炎によって、砕かれた。

 

 

 

「どんな弱点も欠点も、磨き上げれば武器になる……そう教えてくれたのは先生だよ。体が熱くて仕方ないなら……もっともっと熱くして、全部触手に集めればいい!」

 

「だめだ、それ以上は……!」

 

 殺せんせーが止める声も間に合わず、殺せんせーとカエデちゃん……2人の周りを炎のリングが囲い、私たちとの間に炎の壁ができて、分断されてしまった。

 

「最っ高の状態(コンディション)だよ……全身が敏感になってるの、今ならどんなスキでも見逃さない」

 

「やめろ茅野!こんなの違う!」

 

 今にも炎の壁も気にせずに飛び出そうとしている渚くんを、近くにいた莉桜ちゃんと杉野くんが押さえつけている。前に進めない分声を飛ばす……誰だって、仲間が死に向かうことを黙って見ていられるはずがないから。

 

「僕も学習したんだよ!自分の身を犠牲にして殺したって……後には何も残らないって!」

 

「……自分を犠牲にするつもりなんてないよ、渚。ただコイツを殺すだけ……そうと決めたら、一直線だから!!」

 

 だけど、既に触手の力を解放してしまっているカエデちゃんには、渚くんの必死な声は届かなかった。炎を宿した触手、それはまるで火山弾のように縦横無尽に降り注ぐ激しい攻撃……見事なくらい殺せんせーの触手の動きをよんで触手を操るセンス……これが、カエデちゃんがこの1年近く、ずっと押し殺してきた本心……なんだろうか。

 

「イトナ、元触手持ちという観点から見て、あれはどーなんだよ」

 

「……俺よりもはるかに強い。今までの誰よりも殺せんせーを殺れる可能性がある……けど、」

 

「きゃははっ、ちぎったちゃったぁ……ビチビチうごいてる♡」

 

「……わずか十数秒の全開戦闘で、もう精神が触手に侵食され始めている」

 

「……あんなの、もう、カエデちゃんの意思じゃないよ……」

 

「もうアレは茅野の意思以上の攻撃……あそこまで触手に侵食されたらもう手遅れだ。復讐を遂げようが遂げまいが、戦いが終わった数分後には……死ぬと思う」

 

「そんな……っ」

 

 カエデちゃんと殺せんせーの戦闘は、外にいる私たちから見ても一方的だった。

 

 カエデちゃん……と触手は殺せんせーを『殺す』ために急所を狙い、自分の体力、生命力……全て(仇討ち)が終わったあとに自分が生きている可能性を省みないで全力をぶつけている。対して殺せんせーはカエデちゃんを『殺さないで助ける』ために攻撃を避けたり触手を操ったりしている……だから反撃なんて出来ないし、あの猛攻の中、常に受け身でいるしかない。

 

 

 

「ホラ、死んでッ殺せんせー!死んで!死んで!!死んでッ!!」

 

 

 

 声を上げているカエデちゃんの方が死んでしまいそうな、悲痛な叫び声。一撃一撃が重たくて、殺せんせーが避けきれなければ切断された触手が飛び、避ければ地面に大穴を開け、新たな炎を燃やしていく。

 炎を纏った触手は広範囲にわたってムチのように振るわれているから、当たらない位置にいるはずの私たちの方にまで、火の粉が舞い、中へ入ることを許さない。

 

 

 

 

 

 このまま、何も出来ずに見てることしか許されないのかな……何も、出来ないのかな……?

 

 

 

 

 





「……ダメ元で聞くよ、アミーシャ。茅野ちゃんを止められる?」

「そ、そうだよ!アミサちゃんのアーツならこんな炎のリングも関係なく……!」

「……止められないことは、ないかもしれない。だけど、それをしちゃった時点でカエデちゃんの命の保証はできない」

「なんで!?やってみなきゃ……!」

「今、カエデちゃんは殺せんせーを殺すことに()()執着してる……そこに部外者が入り込んだらどうなるのか全然予想がつかないから。それに……あそこまでの全力戦闘を相手にするなら、手を抜いた方が死んじゃう……」

「……つまり、殺すつもりじゃないと乱入はできないってことか」

「それに、……アーツはアーツ……攻撃手段、なんだよ。私には、カエデちゃんを攻撃することは……できないよ……」

「……っ」

「……そう、まあダメ元だったし」





 カルマは私に、『カエデちゃんを止められるか』と聞いた。それを聞いていたクラスメイトは『アーツを使って』止められないかと方法を限定した。

 だから私は……他の方法を使って止めに入ることについては、答えなかった。意図的に、黙ってた。

 策が、ないわけじゃなかったけど……あの戦場の中に入ることが出来て、その方法を使ったとして……カエデちゃんを助けられるかどうかは賭けでしかなかった。……きっと、今の私じゃ、入れさせてももらえなかっただろうし。

 それに、お姉ちゃんとも約束したんだから……私は、大切なものを守るために『私』を使うって。死なせるために使うわけじゃない。だから、黙ってた。





 ──だまってた、のに……予想できないことって、いつ起きるのか分からないものなんだね。



++++++++++++++++++++



ついにカエデの正体が明かされるお話まで到達しました。戦闘描写を書くよりもE組みんな(主にオリ主ですが)の心情を書く方が大事かと思い、そちらを優先しましたが……

以前から予告していました1つのエンドまで、残り少しになってきました。……暗殺教室はまだ終わらないはず?そうなのですが、何故そうなるのかは……次回で!
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