お昼ご飯をカルマくんと渚くんと一緒に食べた後、残りの授業をいつもと違って気分が晴れやかなまま全部終わることができた。それだけでも幸せだったのに、いつものように一人で帰ろうとした時、B組に二人がまた顔を出しに来てくれて……なんでも昨日の今日で私を一人で帰すのは心配だから一緒に帰ろうとお誘いに来てくれたらしい。最初は仲のいい二人の邪魔をしたくなくて断ろうとしたのだけど、渚くんにはものすごく心配され、カルマくんには遠まわしな心配の言葉と「それでも来ないならここから家まで担いでいく。」とまで言われてしまい、お言葉に甘えて送ってもらうことになりました。……というか、
唐突だが、私はお姉ちゃんとお互いの様子を確認しあう連絡を定期的に取りあっているとはいえ、諸事情あって中学生の年齢ながら一人暮らしをしている。寂しくないかと言われれば寂しいけど……私が一人で日本に来ることになった理由も、私一人だけが故郷から出された背景も、分かってるつもりだから……これは我慢じゃない、私が頑張ることなんだ。とはいえ、
学校帰りのちょっとした買い食いはもちろん、一人では入ろうとしたことも無かった生活必需品以外の買い物ができるお店へ行くために駅前まで出てみたり、本屋さんで過ごしてみたり、ゲームセンター……というところで二人の対戦を眺めたり……なんて、いつも、どこへ連れて行ってもらっても、新鮮なことばかり。
そして、今日はというと……
「かわいい……動物さんのぬいぐるみがいっぱい……!」
小さな小物や動物のぬいぐるみなどを取り扱っている雑貨店だった。一つ一つ見た目が違う……全部
「ふぅ、……毎回こんなに喜んでもらえると、連れてくるかいがあるよね」
「はは……なんでカルマ君セレクトって、僕たち男が入りにくい店ばかりなの……」
「アミサちゃんがいろーんな初体験するんだからさ、万人受けもいいけど、どうせなら女の子らしいとこの方がいいじゃん?実際喜んでるし」
「はぁ……アミサちゃんだって友達と行きたいとことかあるんじゃないの?最近僕達が連れ回しちゃってるけど」
ふわふわした手触りのぬいぐるみたちを触っていると聞こえてきた二人の会話。隠れて話してるわけでもなさそうなので近づいてみると、渚くんは私が友達と過ごす場を無くしてるんじゃないかって心配してくれていたようで……そういえば、言ったことなかった気がする。
「……私、友達って二人が初めてだから……」
小さなぬいぐるみのキーホルダーを手に持ちながら二人の方へ向き直る。めったに会話に割り込まない私に気づいた二人は、ちょっと驚いたような表情をしていた。
「え、初めてって……小学生の時はどうしてたの?」
「私、小学校には通ってないの。教会の日曜学校っていうところに行ってたんだ」
「そうなんだ……」
「……あれ、日曜学校って確かキリスト教の宗教教育だよね……日本で義務教育の小学校に通ってないって……アミサちゃんって外国育ちだったりするの?」
「……んー、半分当たり、かな。外国育ちは確かだけど、私の信仰はキリスト教じゃないの。私の生まれた国……カルバード共和国で信じられていたのは
日本に来て驚いた。なんせ、誰であっても信仰する・できる宗教がものすごく多いのだから……いや、さすがに多種多様すぎないだろうか?そのせいで行事や祝日が入り乱れていて理由のわからないことになっているのに、いいとこ取りというやつなのかみんな平然としているから不思議でしかない。ゼムリア大陸だと、信仰は基本的に空の女神一択……だからこそ、教会が力を持っているんだろうけど……
「なるほどね〜……ところでずっと持ってるそのぬいぐるみは?」
私の話に耳を傾けつつ、チラチラ視線が来るなとは思っていたが、ついにカルマくんが私がずっと手に抱いていた2つのぬいぐるみのキーホルダーを指差す。ふわふわした毛糸で作られた、赤毛のネコと青毛のウサギだ。
「これ、なんか、二人に似てるなぁって……つい」
「そ、そうかな?」
「ふーん……買うの?」
「うん、2人と会えない時でも、一緒な感じがするなぁって……私のお守りにするの」
赤毛のネコは自由気ままなカルマくん。ちょっとツリ目なとことか口からのぞく八重歯とかが似てると思う。青毛のウサギはおだやかな渚くん。まんまるフワフワしてて、でも目はまっすぐで……時には強い所がありそうな表情が、すごく彼らしい。このお店に入ってきてから、ずっと気になっていたコーナーに置いてあり、売り場には他にもいろんな色、種類のぬいぐるみがあったけど、色といい表情といい、これはピッタリだと思ってしまってからは、どうしても手放せなかったからずっと腕の中に抱えていた。
「……じゃあアミサちゃんのは?僕達だけじゃなくてさ」
「……え、私……?」
「んー……これ、とか?この子どもみたいな表情、大きさといい、好きなものを抱え込むように持ってるとこといい、なんか似てると思うんだけど」
そう言ってカルマくんが差し出したのはどんぐりを抱えた紺色の毛のリス。他のリスは長めの毛で目が隠れてたり、伏せ目がちだけど、この子は見上げているような顔。子どもみたいって言うのは聞かなかったことにするけど渚くんも否定しないし、二人に私はこんな感じに見えてるのかな……?これで3人揃ったと内心嬉しくなって差し出されたそれを受け取ってから、ずっと3つのぬいぐるみキーホルダー達を手放さずに店内を見て回る私を見ていた二人は、私が3つとも自分用に買おうとしているのに気づいたのだろう。今まで見守るだけだった二人が私の近くで一緒に店内を回り始め、いつの間にか私の手からキーホルダーは消えていた。気がついたときには二人ともレジへ向かっていた……はやい。それぞれ自分の動物を一つずつ買ってそれぞれが持つことを二人が提案してくれたけど……二人は男の子だし、カバンにつけてくる、なんてことはないだろう。だけど私の、初めてのおそろいは動物のぬいぐるみキーホルダー……初めての友達との思い出、大事な宝物だ。
◆
「と、届かない……っ」
今日も一緒に帰ることになっていた放課後ですが、渚くんは部活の吹奏楽部で集まりがあって、カルマくんは私のこととは別件の喧嘩騒ぎで先生に呼ばれて二人ともに用事が出来てしまいました。部活メールの一斉送信で呼び出された渚くんはともかく、カルマくんに関しては校内放送で呼び出されてたけど、だいじょぶかな……カルマくんは大野先生も一緒だから平気って笑って言ってたけど。自分のクラス以外には基本出入りしない私だけど、カルマくんに呼ばれてD組へ行った時、二人の担任である大野先生と少しお話しをする機会があった。喧嘩早いけど成績優秀なカルマくんの、その真っ直ぐ過ぎるくらいな正義感を認めてくれているいい先生だった。うまく周りと付き合えず、中々環境に溶け込めてない私のことも「俺は正しいやつの味方だ、だからそんな不安がるな」って味方になってくれたんだ。……その先生と一緒なんだから、きっとだいじょぶ、だよね。
そんなこんなで二人にはすぐに用事を済ませてくるから待っててと言われた私。二人と出会う前まで私は一人で帰っていたのだから、一人でも帰れるよ、と、そろそろ守ってもらう心配はないんじゃないかという意味を込めて言ってみたんだけど、すぐさまダメと言われてしまったので大人しく図書室で待つことにしました。終わり次第迎えに来てくれるっていう二人に申し訳ない気持ちはあるけど、私のことを見て、心配してくれるそれが、ちょっと嬉しかったりもする。どうせ待つのなら何か読んでいようと思って本棚へ足を運んだのだけど、椚ヶ丘の図書室って参考書も含めてかなり充実してるから一つ一つの本棚の背がかなり高い。私の身長は140と少しだから、少しでも上の方を取ろうと思うともう届かなくて……一応読みたいものは見つかったのだが案の定届かず、いつもそのあたりに無造作に置かれているはずの踏み台も見つからないため、今、背伸びをしているところ……っあと、ちょっと……!
「……これかい?」
「!?」
すっと、背後に影が差したかと思えば、私の後ろに立った誰かは、私が苦戦していた高さの本をいとも簡単に取ってしまった。すぐに振り返ると少し上から見下ろしている紫の瞳と目が合い……そこには、オレンジがかった茶色い髪のイケメンさんが立っていた。
「あ、……ありがとうございます」
「いや、気にしなくていい……君は、B組の子だね」
「!!……な、なんで……」
お礼を言う私に対して目の前の彼が発したのは私の所属クラス。少なくとも1年生だけでも180人近くの生徒がいるこの学校……私はクラスでは浮いている自覚があるが、外では特に目立ったことはしていないはず。それなのに、私のことを知っているのはなぜ?それにこの人とは今まで接点がなかったと思うし、私自身この目の前の人のことを知らない。私がいつでも逃げられるように体制を変え、明らかに警戒しているのがわかったのだろう。彼はすぐに私から一歩距離をとって話し出した。
「すまない、驚かせたね。……君、今回のテストで30位以内に入っていただろう?A組以外でそこに食い込む生徒は珍しいからね、だから名前を覚えていたというわけさ。肝心の名前は……ほら、」
「……あ、」
彼の指した物……私の履いている上靴には、小さいが名前が書いてある。それを見て彼は私の名前とクラス、顔を瞬時に一致させたということだろうか……だとしてもあの順位表を覚えているのもすごい。かなり頭の回転が早い人のようだ。
「立ちっぱなしもなんだし、僕も相席していいかな。……少し、君と話してみたかったんだ」
「え、あ、……、……ど、どうぞ……?」
言葉にないところの圧力に負け、思わず許可を出してしまった……どうやら残りの待ち時間は、この人とお話することになりそうです。
◆
「へぇ、『闇医者グレン』……医者に興味があるのかい?」
「いえ、えっと……おねえちゃ……姉が、集めたことがあると言っていたので、気になって」
「ふふ、話しやすい話し方でいいよ。ところで、僕の名前はわかって……ないみたいだね」
「ご、ごめんなさい……私、初めて会ったです…よね?」
『闇医者グレン』はお姉ちゃんが、というか仲間の一人が集めていたと送られて来た近況報告の手紙に書いてあった。なんでもコレクターが集めているものらしく、全部集めると譲ってもらえるものが必要だったとかなんとか……だから少し興味はあったけど、まさか外国の本がこの中学校の図書室にあるとは思わなかった。……他にも『カーネリア』や『人形の騎士』を見つけたので今度来たら読もうと決めている。
相席している彼は、私から話をすることが苦手だと気づいたのか話題を振ってくれるのだけど……私のわかる話題であっても知らない相手に話を続けられては、どうしても固くなってしまう。……それでも、彼は笑顔を崩していなかったから表面上は安心しているフリを続けることができた。ただ、あくまでも表面上……どうも彼は本音を隠しているように見えて、少し、怖い。そして彼は私が名前をわかっている前提で話しかけていたらしく、わからないと答えると一瞬〝なぜ?〟という感情を出した。……むしろ、こちらがなぜ、なのだけども……この人はどうして初めて会う人の名前を私が知っていると思ったのだろう?
「そうか。……一応、入学者代表挨拶で前に立ったから見覚えくらいはあるかと思っていたのだが………浅野学秀だ。A組に所属している」
「浅野くん……知ってるかもしれないけど一応私も、…B組の真尾有美紗です…よろしくお願いします。それと……本、ありがと」
「いや」
なんと代表挨拶をした方でした。入学式にはちゃんと出席していたけど、正直全く周りを見ていなかったから記憶に残っていなかったみたい……名前はともかく姿はわかっているべきだった、これは申しわけなかった。
「真尾さんは入学テストであまり力を出しきれなかったのか?今回のテスト結果を見る限り、A組に入っていてもおかしくないと思うが…」
「どうなのかな……私、勉強って中学に入ってからだから……。入学テストはまだ何の力もついてない時にやったものだもん、今回のテストは授業を受けて内容がちゃんと理解ってから受けたものだから、今回の結果になったと思う、の」
「そうか……勉強経験の浅さからして、もしかして、帰国子女なのか?」
「……そんな感じだよ」
カルマくんと渚くんは仲良くなったから詳しく話してもいいかな、と思えたけど、彼はまだ知り合いでしかない……だから、私の事情とかは濁して伝えることにした。むやみに情報を渡すのは良くないって聞くしね。
「……もっと早く出会えていれば、僕が教えてあげれたのに。そうすれば今頃確実にA組に入れただろうに……もったいない」
「ふふ、でも私は今が好きだから……だいじょぶ、だよ」
そう、私は今に満足している。今でも表面化していないだけで蹴落としあいがあるとはいえ、差別化が公然と明確になるのは中学三年生になってから。それまではみんな横並び……まだ、まだ成績で上下関係は完成していない今だからこそ、特進クラスなA組以外はみんな対等なはずだ。
「自分から好き好んで下に居るとはな……」
「今はまだ、下とか上とかはないですから。……あってもA組か、それ以外か、ですよ。でも、浅野くんはいかにも上に立つのが当たり前って感じ……だね」
「当然だ。僕は常にトップでいなくてはならない……そして全てを支配する。それこそ親を超えるほどに力をつけて、飼い慣らしてやるのさ」
「支配……」
聞いたことのある苗字だとは思っていたけど、今、ハッキリした。彼は、この中学校の理事長……浅野學峯先生の息子さんだ。たしかにどことなく面影がある気がする。そして先程感じた彼が隠している本音が垣間見た……私を〝支配〟したいと考えている、ということを。
「君ならもっと上がってこれる。どうだい、君さえよければ僕達の所へ来ないかい?年度内でも理事長に掛け合えば……
「アミサちゃーん、終わったけど…………そいつ、誰?」
……どうかな?」
やっと浅野くんの隠されていた
「……お誘いありがとう……でも、……ごめんなさい、私はカルマくんたちと一緒にいる方が心地いい、です。……だから、その誘いには乗れない」
「……ふん、まあいい。また機会を見て声をかけることにするよ」
もう一度重ねた手を軽くなでると、またね、と言って浅野くんは図書室から出ていった。……一応本を手に持っていったし、私に声をかけたのはついでとかだったのだろうか。ぼーっとその後ろ姿を見ていると、パタパタと足音が響いて渚くんが図書室にやってきた……どうやら浅野くんと入れ替わりだったみたいだ。
「ごめん、遅くなっちゃったね……って、何かあったの?」
「……あれ誰なの?何なの?」
「何なのって……、浅野学秀くん、A組の人みたい。……んと、本が取れなくて、取ってくれたの。その後、お話したいって言われて……断れなくて」
「アミサちゃん、小さいからね〜……、……ごめんって」
身長は気にしてるんだから、言ったカルマくんが悪い。むっとしつつ、図書閲覧用の席を立ちながら無言で軽く背中を叩いておいた。二人を待つ間に読もうと思って持ち出した本は結局読めなかったし、どうしても今借りたい訳では無いから返すことにする。図書室は来ようと思えばいつでも来れるしね。『闇医者グレン』が置いてあった本棚へ向かう途中、手に持っていた本は自然とカルマくんによって私の手から抜き取られていた。
「……あとね、僕の近くに来ないかって。なんかあの人、みんなのことを引っ張って一番上に立ちたいって言うのは嘘じゃないんだろうけど……A組以外はみんな下の立場で当然って感じに見てるように感じちゃって……」
「え……アミサちゃんA組に行くの?」
「……行かないよ、だってカルマくんと渚くんの近くが私に優しい居場所、だもん」
「……そっか」
カタン、とカルマくんの手によって本が棚へ戻される。元あった場所へ、綺麗に。本棚の本と同じように、椚ヶ丘中学校の中にも私の〝あるべき場所〟はきっと存在するはず……そこにはまってこそ、私は正しくあれるんだろうけど、今の私にとってのその場所は、きっとここ、カルマくんと渚くんの近くなんだと心から思う。そんな気持ちを再確認した私のカバンでは、おそろいのキーホルダーが小さく揺れていた。
「……さて、帰ろカルマくん、アミサちゃん。今日は遅くなっちゃったし寄り道は無しだね」
「そうだね〜……んー、話長かった……」
「二人とも、お疲れ様でした。……………あ」
「ん?」
「どうかしたの?」
「……ううん、なんでもないよ。……ただ、そう……嬉しいなって」
「「??」」
(渚くんが水筒を探そうとした時、カルマくんのチャックを閉めていないカバンが揺れた時。二人のカバンの中に私たちが一緒に買ったキーホルダーが見えたから)
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★用語説明★
『闇医者グレン』:英雄伝説零の軌跡の作中にて出てくる、ゼムリア大陸北部に位置するレミフェリア公国が舞台の全14巻の娯楽小説。天才的な技量を持ちながらも下町の闇医者に収まる医師グレンと看護師シェリーが難病《結晶病》に立ち向かう物語。
ゲーム中では、この『闇医者グレン』と『クロスベルタイムズ』というすべての書籍を集めると実績が開放され、この書籍とキャラ別最強装備を作成するために必要な材料と交換することができる収集要素である。