暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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展開の都合上、少しだけ内容が前後します。
そして加筆した結果2万字超えそうなので、半分で区切ります!!思ってたよりも内容が濃くなりました。多分!

今回もよろしくお願いします!


102話 殺し技の時間

 

 

 

「死んで!死んで!!死んでェッ!!!

 

 

 

 止まない嵐のような触手の猛攻に、誰1人として私たちE組生徒の中で間に入ることが出来る人はいなかった。……ううん、唯一渚くんがあの中へ飛び込もうとしてたんだけど……何の対策もないままあの場所へ行ったら、あの、人の域を超えてる勢いについていけなくなって終わりだ。

 カエデちゃんが『殺せんせーを自分の手で殺す』目的を果たすことに対して、部外者でしかない存在(私たち)に配慮することなんて頭にないだろうから。私たちには無理でも……と、普段なら頼ってしまいそうな烏間先生やイリーナ先生も、あの中にはさすがに入っていけないらしく、難しい顔をしている。

 

「なんとかなんねーのかよ……茅野が侵食されてるのを見るしか……ッ」

 

「でも、どうしたらいいの……?」

 

 こんなの、見ていられない……見ていたくない。多少の違いはあれど、そうみんなが思った時だった。「みなさん!」という呼びかけと一緒に、目の前に殺せんせーの顔だけドアップの分身がいくつも現れたのは。

 殺せんせーが言うには、カエデちゃんの攻撃に隙が見つけられなくて、顔だけ伸ばして残像を作っているんだとか……器用なことをしてるとは思うけどこっちの方が難しい気がするのは、どうなんだろ。

 

「手伝ってください!一刻も早く茅野さんの触手を抜かなくては!!彼女の触手の異常な火力は……自分の生存を考えてないから出せるものです!1分もすれば生命力を触手に吸われて死んでしまう!」

 

 触手とカエデちゃんの殺意が一致している間は、触手の『根』が宿主の神経に癒着している……だからカエデちゃんはその代わりとして『殺せんせーを殺す』ために、触手を自分の手足のように自由自在に操れるんだ。

 時間があるのなら、イトナくんの時みたいに時間をかけて殺意を無くすよう意思を切り離せばいい……だけど生命力がギリギリな状態のカエデちゃんには、もう説得している時間が無い。戦闘を終えて時間をかけて触手を抜くのでは間に合わないなら……なんとか戦闘を終える前に、戦ってる最中に抜くしかない。

 

「彼女の……というより、触手の殺意を叶えるため、先生はあえて最大の急所である心臓を突かせます。触手が先生の心臓に深々と刺さり、〝殺った〟という手応えを感じさせれば……少なくとも『触手の殺意』は一瞬弱まる。その瞬間、君達の誰かが『茅野さんの殺意』を忘れさせる事をして下さい」

 

「……殺意を……」

 

「一致している殺意を切り離すためってことは分かるけど、どうやって?」

 

「方法は何でもいい、思わず暗殺から考えが逸れる何かです。寺坂君がイトナ君にやったように、君達の手で彼女の殺意を弱めれば……一瞬ですが触手と彼女の結合が離れ、最小限のダメージで触手を抜けるかもしれない」

 

 確かに、その方法なら……カエデちゃん助けられる確率は上がるかもしれない。でも、触手を抜くまでの間、殺せんせーの心臓にはカエデちゃんの触手が刺さったままってこと……先生は上手いこと死なない程度の場所を狙わせるつもりらしいけど、急所には変わりない。それでも、クラス全員が無事に卒業できないのが、自分が死ぬよりも嫌だと、こんな状況なのに先生は笑って言った。

 猶予はもうほとんどない……30秒ほど交戦したら決行すると言い残して、殺せんせーの残像は消えてしまった。またカエデちゃんの攻撃を受け流すことに専念し始めたんだろう。

 

「あの闘いに乱入してカエデの殺意を忘れさせろって……どーすんのよ、ガキ共に一発芸でもさせろっての?」

 

「一発芸……ハッ、そうだ三村」

 

「ん?」

 

「エアギターやれ、テメーの超絶技を見せてやれ」

 

この局面で!?いい事思いついたってドヤ顔するなよ吉田!むしろ俺に殺意が向くよ!!」

 

「いいからやれって!」

 

「いや無理でしょ!!」

 

「じゃあどうすんだよ!!」

 

 ……猶予はたったの30秒……いきなり殺意を忘れさせる何か、なんて言われても、そうすぐには思いつくはずがない。吉田くんは三村くんに無茶振りし出すし……さすがのカルマもこんな場面ではからかったり軽口を言ったりは出来ないみたいで、口元に手を当てながら考え込んでいる。

 カエデちゃんの好きな物、思わず驚くようなもの、見入ってしまいそうなもの……思いついたものを上げてみてもどれもしっくりこない。実行する人に危険があったり、間に合いそうもなかったり、カエデちゃんが傷ついてしまうようなものしかなくて……できること、あることにはあるけど……ダメだ、もう、時間が……迷ってるくらいなら行くしか、ない……ッ

 

「……アミサちゃん」

 

「!」

 

「茅野が殺せんせーの心臓に触手を刺した瞬間……僕があのリングの中に入れるように、あの炎の壁をなんとか出来る?」

 

 私が前に足を踏み出したのとほぼ同時に、渚くんが私の肩に手を置いて話しかけてきた。私に話しかけてるけど、目はカエデちゃんをじっと見つめていて……きっと渚くんには、何か考えがあるんだろう。

 みんながみんな慌てている中、決心したように前を向く彼が、その一手のために私を頼ってくれた……だったら、私の答えは1つしかない。

 

「……やる、やってみせるから、信じて!」

 

「……お願い」

 

 そう言って炎の壁に向かって歩き出した渚くんを見つめながら、導力器の蓋を開け……いくつかのクオーツをなぞる。あそこまで動き回っている対象を避けてアーツを放つのは出来なくはないけど難しい。

 周りを巻き込まず、攻撃しないで、炎だけに対して直接的に働きかけるなんてちょうどいいアーツは存在しない……だけど、これなら上手くいくかもしれない。

 

 

 

 ──ズドンッ!

 

 

 

「殺ッ……タ……、──ッ!?」

 

「君のお姉さんに誓ったんです。君達からこの触手()を放さないと」

 

 ついに殺せんせーが、今までかばっていた心臓を守る触手をどけてカエデちゃんの攻撃を受け入れた。作られたその大きな隙をカエデちゃんが見逃すはずがなく……殺せんせーの体に勢いよく触手が突き刺さった。

 一瞬動きの止まった彼女の体を、殺せんせーが触手で抱きしめて動きを止めているけど……カエデちゃんは先生へトドメを刺すために捕まったまま触手をねじ込もうとしていて、殺せんせーは堪らず口から体液を吐いた。……ここだ、

 

「──概念を弾け、A─リフレックス(魔法反射アーツ)───ッ渚くん!」

 

「!」

 

「渚……!」

 

「渚君……」

 

 《空》属性を示す金色の光が渚くんに集まっていき、彼が炎の壁を通り過ぎる瞬間に炎を弾いて道ができた。

 《A─リフレックス》は本来は1度だけアーツや導力現象を反射することが出来るアーツだけど……炎を物理的なものと考えないなら、これで体から弾くことが出来るかもしれないと考えた。近くにクラスメイトがいたら、炎が反射されて火の粉が飛んでいたから危なかったかもしれないけど……、うん、範囲外でよかった。

 

 ……静かに、だけど足を止めることなく真っ直ぐに、渚くんはカエデちゃんへと近づいていく。誰も手を出せずにいた中、たった1人で何かしようとしている。みんなが固唾を飲んで見守る中、渚くんは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──カエデちゃんにキスをした。

 

 

 

「「「なぁっ!?」」」

 

「「わぁ……」」

 

「ふふ……」

 

「「チャンス!」」

 

 目が飛び出るほどに見開いて驚く人がたくさんいる中、いきなりのラブシーンに頬を染めている人、不敵に笑う人、……写真なのかムービーなのかスマホを構える人。みんながみんなそれぞれが()()()反応を見せる中、渚くんはカエデちゃんに向き合い続けている。

 ……あれって、もしかしなくてもイリーナ先生直伝のキステクというやつ、かな……カエデちゃんに危害を加えず、尚且つ殺意を忘れさせる手段にこれを選ぶって。……むしろ、よく思いついたと思う。

 

「~っ!?!?ん、んんっ!!」

 

「………ッ」

 

 最初は殺意をもったまま抵抗していたカエデちゃんだったけど、途中で自分を取り戻したのか違う抵抗に変わっていたように見える。渚くんが逃げないように頭を押さえていたおかげで、最終的に意識を飛ばしてしまったみたいだ。

 

「殺せんせー、これでどうかな?」

 

「満点です渚君!今なら抜ける……ッ!!」

 

 触手の殺意が薄れ、カエデちゃん自身の殺意も渚くんによって鎮められた瞬間、殺せんせーは猛スピードで触手の根を抜き始めた。初めは目の近くまで赤黒い血管が浮かんでいた皮膚が少しずつ元の色を取り戻し始め……ズルンと2本の触手がカエデちゃんの首元から摘出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「茅野さん……!」

 

「待って、火を消すから……、落ちろ水球、ブルードロップ(水属性攻撃魔法)

 

「サンキュ、真尾!」

 

 駆け寄ろうとしたクラスメイトを止めて、まだ炎を上げているすすき野原に大きな水泡をいくつか落とす……水の塊とはいえ攻撃性があるから、さっきはどうしても使えなかったアーツだ。火元であるカエデちゃんの触手は摘出されたし、このまま火は消えていくと思う……今度こそ、私たちはカエデちゃんと殺せんせーの元へと揃って駆け寄る。

 

「これで……茅野さんは大丈夫になったんですか?」

 

「……ええ、おそらく。しばらく絶対安静は必要ですが」

 

 愛美ちゃんがカエデちゃんを膝に乗せて楽に寝られる体勢を作る……呼吸も穏やかだし、命の危険はなくなったんだと思いたい。殺せんせーからの要請とはいえ、カエデちゃんを気絶させるしかなかった渚くんも安心したように大きく息を吐いていた。

 

 ……と、ここで今回の功労者(渚くん)の元へと近づく影が……

 

「王子様〜、キスで動きを止めるとはやるじゃないか」

 

「ちゃんと写真も動画もバッチリ撮れてるから、後でグループに流しとくね」

 

「殺意を一瞬忘れさすには有効かと思って。茅野には後でちゃんと謝るよ……って、やめてよカルマ君!?」

 

「え、もう送信しちゃった」

 

「カルマ君ッ!!?」

 

「その動画、私にも後で送りなさい。そ・れ・よ・り・も……キス10秒で15HITなんて……まだまだね。この私が強制無差別ディープキスで鍛えたのよ?40HITは狙えたはずね」

 

「……へ、HIT……?」

 

 あ、メッセージアプリの3年E組グループチャットに早速動画と写真が……早速ネタにしているカルマと莉桜ちゃんが渚くんをからかいに行ったかと思えば、イリーナ先生まで乱入してる。

 ……でぃ、でぃーぷきすって、授業中にご褒美だとかお仕置きだとかで問答無用にイリーナ先生がしてて、……カルマが、前に仕掛けてきた……あの舌を入れるキスのこと、だよね……、あれってHITとかあったの?ちょっと前の放課後塾でイリーナ先生が作ってた『3年E組キステクランキング』なるものの上位に入ってた前原くんやメグちゃんは20HITは超えるって漏らしてる。でも、今回の渚くんのは目的がキスじゃないわけだし、そんなにHITが上がらなくても……イリーナ先生的にはよくないみたいだね、ごめんなさい。

 

「……ゲホッ」

 

「「「殺せんせー!?」」」

 

「……平気です。ただ、さすがに心臓の修復には時間がかかる。先生から聞きたい事があるでしょうが……もう少しだけ待って下さい」

 

 やっぱり、心臓……致死点を何とかズラしたのだとしても急所を貫かれて、何ともないということは無いようで。ボタボタと口から液体……色は違うけど、私たちで言う血液なんだろうそれを吐き出した殺せんせーは、どこか冷や汗をかいているようにも見えた。

 ここまで弱っている殺せんせーを見るのははじめてで……ホントなら、これをチャンスと考えて暗殺を仕掛けるべきなんだろうけど……できなかった。多分みんな、この1年の間隠されてずっと気にし続けてきた殺せんせーの過去を聞くって、決めていたからだと思う。

 

「……殺せんせーの回復待ちで時間あるし、今のうちに聞いとこ。ねぇアミーシャ、さっき誰よりも先に茅野ちゃんの前に出ようとしてたでしょ。結果的に渚君が出てくれたけどさ」

 

「っ!そうだよ、僕が炎を抜けるために協力頼もうとした時、行こうとしてたよね?僕等が聞いた時、茅野に攻撃できないから無理って言ってなかった?」

 

 殺せんせーもカエデちゃんも無事なことを確認した渚くんと、渚くんをからかうのをやめたらしいカルマが私のところまで来て、あの時の私の行動について聞きに来た。きっとみんなは反対する手段を取ろうとした後ろめたさはあったけど、別に隠すことでもなかったから、正直に答える。

 

「……、……アーツを使わなくても1つだけ、意識をそらす方法を思いついてたの」

 

「攻撃術を使わなくてもいい方法?」

 

「どんな方法かって聞いていいの?」

 

「それは……言いたくない。ごめんなさい」

 

「あー……よっぽどなことしようとしてたんだね。じゃあこれだけ、……茅野を助ける代わりに、アミサちゃんが傷つかないといけないような自己犠牲しようとしたわけじゃない?」

 

「……見方によったら自己犠牲かもしれないけど……この方法だったら私もカエデちゃんも、殺せんせーも身体的には大きな怪我をしないで済んだ、と思う。……でも、カエデちゃんは……ううん、カエデちゃんだけじゃなくて、E組みんなの心も傷つけてたかもしれない、正直ね、そんな方法だったと思う」

 

「茅野だけじゃなくて、殺せんせーも急所を抉られずに済んだ方法……?」

 

「…………、自己犠牲じゃないのに自己犠牲で、攻撃アーツを使うわけでもなくて……、見てる俺等にショックを与えそうな手段、か」

 

「……誰も、カエデちゃんを助ける方法を思いつかなかったらやるしかないと思ってた、から……渚くんが動いてくれて、よかった。……ありがとう」

 

「……ううん、結果的に全員を守れたからよかったよ」

 

 私がくわしく話したがらない時点で、相当ひどい手段を取ろうとしてたんだと察したんだろう……2人とも眉を寄せていたけど、一応は納得してくれたみたい。まだなにか言いたそうなカルマは別として、渚くんはここで追求を収めてくれるみたい。この手段は、できたら使いたくなかったから、言わないで済むなら言いたくないし知らせたくない……ホントに。

 

「……う、ん……」

 

「っ!おい、殺せんせーは後でいいだろ、それよりこっちだ……目ェ覚ましたぜ」

 

「茅野さん……よかった」

 

 弱々しく微笑みながらもカエデちゃんが無事に命を繋いだことを喜ぶ殺せんせーの声を聞いてか、彼女はゆっくりと首を傾けながら周りを見回している。E組のみんなで……先生もみんな揃ってカエデちゃんを見ていることに気づいたのか、少し気まずそうに視線を落とした。

 

「……最初は、純粋な殺意だったんだ。お姉ちゃんの仇を殺したい……って。だけど、殺せんせーと過ごすうちに殺意に自信が持てなくなっていって……この先生には私の知らない別の事情があるんじゃないか、殺す前に確かめるべきじゃないかって。でもその頃には……触手に宿った殺意が膨れ上がって、思い止まることを許さなかった。……バカだよね、皆が純粋に暗殺を楽しんでたのに、私だけ1年間ただの復讐に費やしちゃった」

 

 悲しそうに俯きながら、自分の思いを吐き出していくカエデちゃんを、私たちは黙って見つめていた。だって、そんな思いを抱えていたなんて……誰一人気づいてなかったから。いつも明るく楽しく、笑って、怒って、……そんな表面上の顔ばかり見ていて、心の奥で泣いていることに、気づいてあげられなかったから。

 

「……茅野にさ、この髪型を教えてもらってから……僕は自分の長い髪を気にしなくて済むようになった」

 

 そんな空気の中、話し始めたのはやっぱり渚くんだった。1番、誰よりもカエデちゃんの近くにいて、1番彼女のことをよく見てきたから。

 

「茅野も言ってたけど、殺せんせーって名前……皆が気に入って1年間使ってきた。目的が何だったとかどうでもいい、茅野はこのクラスを一緒に作りあげてきた仲間なんだ」

 

 隣にいても、カエデちゃんの苦しみは分かってあげられなかった。

 

 隣にいても、カエデちゃんの心の奥のことは察してあげられなかった。

 

 ……隣にいても、たくさん一緒に笑った毎日が全部(演技)だなんて思えなかった。思いたく、なかった。

 

 だって笑顔で過ごしている彼女も、復讐に真っ直ぐ全力をぶつける彼女も、全部ひっくるめての『E組の茅野カエデ』なんだから。そんな彼女とこの1年、同じクラスで過ごしてきたんだから。

 

「……ね、だから先生の話、皆で一緒に聞こうよ」

 

「……うん、ありがと……もう演技、やめていいんだ」

 

 ボロボロと涙を流し始めたカエデちゃんは、もう復讐にとらわれた表情をしていなかった。今まではきっと、殺せんせーを殺すために……そして触手の意思に飲まれないためにって、たくさんたくさん自分を押し殺してきたんだと思う。それこそ、本心なんてないし全部を演技だって言いきれちゃうくらいだったし……。

 だけど、そうやって溜め込み続けた感情を、やっと、ダムが決壊するように一気に吐き出すことが出来たんだと思う。

 

「……殺せんせー、茅野はここまでして先生の命を狙いました。並大抵の覚悟や決意じゃできない暗殺だった。これは……先生の過去とも、雪村先生とも、そして俺等とも関わりがあるって言えます。……話して下さい。どんな過去でも、真実なら俺等は受け入れます」

 

 そんなカエデちゃんの様子を確認してから、私たちみんなを代表して、磯貝くんが殺せんせーに訴えかけるように話し出した。多分、今、この時……E組みんなの求めているものは1つになっていたから。

 

「……できれば、過去の話は最後までしたくなかった。けれど……しなければいけませんね。君達の信頼を、君達との絆を失いたくないですから」

 

 誰も何も言わない時間が流れ、ザザザ、とすすき野原を冷たい風が通り過ぎていく。ゆっくりと殺せんせーが体を起こし、重たい口を動かして話出そうとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 ──ヒュ……ビシッ!

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

「な……」

 

「銃撃……!?どこから……」

 

 ……空気をきるような鋭い音が響き、狙われていた殺せんせーが慌てて地面に体を伏せる。伏せたそのすぐ上を通っていったソレは、先生が避けたことで地面に当たって小さな穴を開けている……勢いからしてライフルによる銃撃だと思う。

 12月の午後7時過ぎって、野外では電灯がなければだいぶ暗くて視界が狭い。さっきまではカエデちゃんの生み出した炎で明るかったけど鎮火してしまったから、私たちを照らすものといえば空の上から見下ろす月明かりくらい。だからといって何も見えないわけじゃないし、だいぶ暗闇に目が慣れてきた。静かに射線の先をたどると私たち以外に立っている人物たち……離れたところの小さな丘、林に続く木々を背にした2つの人影が見える。

 

「使えない娘だ。自分の命と引き換えの復讐劇なら……もう少し良いところまで観れるかと思ったがね」

 

「……シロ!」

 

「大した怪物だよ……いったい1年で何人の暗殺者を退けて来ただろうか。だが……ここにまだ数人ほど残っている」

 

 私が声を挙げなくても、名前を呼んだイトナくんを筆頭にみんなシロさんたちの存在に気づいたみたいだ。この暗さの中でも目立つ白い衣装のシロさんはハッキリ分かる……でも、あそこにいるのはシロさん1人じゃなくて……、……誰?

 銃を持っていることから、殺せんせーを狙撃したのはこの人なんだろうけど、真っ黒な服で顔までファスナーを上げているのか……性別すらも判別できない。

 

「最後は()だ。全て奪ったおまえに対し……命をもって償わせよう」

 

「…………」

 

 口元でゴソゴソと、何かを取り外すような手の動きを見せていたシロさんは、次の瞬間声色が変わっていた……、……ううん、逆だ。多分、今取り外したのは変声機なんだろう……それを外したから元の声に戻ったんだ。

 シロさんと、彼曰く『2代目』というらしい黒い人は、何かしら殺せんせーに関係があるのだろうけど……なんのことだか全然わからない。黒い人に関しては顔を隠してるから表情も感情も全く読み取れないけど、殺せんせーの納得したような表情とシロさんの恨みが篭もった声色から、彼等は私たちが知らない過去の因縁の相手同士だとは予想できる……でも、それだけだ。

 

 それだけ宣言をして去っていくかと思えたのに、シロさんは私たちに背を向けてすぐに立ち止まった。何かを思い出したようにもう一度こちらへ向き直る。

 

「……ああ、そうだ。あれからだいぶ経ったが……真尾さん、気は変わらないか?俺達に着いてくれば失われた記憶も、触手以外でも君の望む力も与えてあげられるよ……むしろその抑えつけられた呪縛から解放してやろう」

 

「───ッ」

 

「シロが、真尾の忘れている6年間を知ってるって?」

 

「それに抑えつけられたって……リーシャさん達はアミサちゃんを守るためにって……」

 

「アミーシャ、」

 

「……、……だいじょぶ」

 

 みんながいる中で堂々と声をかけてきたシロさん……しつこい。私は、ついて行かないと何度も言っているにもかかわらず……あの下着泥棒の件で一緒にいた人たち以外は、戸惑っているけど、私の気持ちはあの時と一切変わらない。

 それに、ワジお兄ちゃんに再封印って形でより強固に抑えつけてもらった、きっと、忌まわしいのだろう6年間の記憶……それが無くても私は生きていける、もう、必要ない。シロさんに声をかけられた瞬間、私の前に立って盾になろうとしてくれたカルマが心配そうに声をかけてくれた……私の答えは決まってる。

 

「何度でも言います……なんでも手駒のように使うあなたに与えられる力なんて、いりません。それに、……私はもう、思い出さなくてもいいって決めたの!」

 

「そうか、ならば仕方がない。……ふふ、ちょうどいい、最近触手以外にも面白いものを手に入れてね……君なら知っているだろう、ぜひ遊んでやってくれたまえ」

 

「え……」

 

 シロさんがゆるく片手を頭上に掲げ、私たちに向かって振り下ろした……瞬間、ザワりと肌が泡立つような感覚を覚える。

 

 

 

 ──シロさんたちのいる、林の中から……頭上から、なにかが降ってくる。

 

 

 

 ────ウオォォォォン!

 

 

 

「え、え、犬……?」

 

「なんか、死神の時に烏間先生が相手したやつに似てる気がするけど……赤い装甲?」

 

「いや、あの時は銃器背負ってたよな?あいつ、なんかくわえてねーか……?」

 

 警戒する私たちの目の前へ大きな遠吠えと共に現れたのは、殺せんせーまでは行かないけど大人より少し大きな体格の〝犬のような生き物〟。唸り声を上げながらこちらに近づいてくるソレを見て、みんなが戸惑ったように色々と予想を立てている。

 シロさんが連れてきたようなものだ……今までの周りを巻き込む戦術や犠牲を厭わない策略から考えても碌でもないものに決まってる、そんな思いがあったんだと思う。だけど。

 

「──ッ!!あれって、まさか……ッ」

 

「真尾さん、アレはただの犬じゃないんだな!?」

 

「アミサ、アレを知ってるの?」

 

 でも、多分……ううん、絶対にソレの正体に気づいたのは私だけだろう……あんなの、ただの〝犬〟なわけが無い。それに……ホントなら日本(こっち)に存在するはずのない生き物なんだから、私しか違和感をもてなくても当たり前だ。

 シロさんが隠しもせず、明らかに私に向けて話していたことと、あの生き物を見た瞬間放置しておくには危険な存在だと、警戒を高めたイリーナ先生と烏間先生が私のすぐ近くまで来て実銃を構えた。クラスメイトたちも警戒してくれてるけど……いきなり戦闘態勢に入った先生たち、警戒度を上げた私を見て戸惑ってるのも見て取れる。

 

「……ッ正気?!なんでブレードクーガーなんて魔獣をここに連れてきてるの!?まさか野良を飼い慣らしてるとでも……ッ?!」

 

「は、魔獣……?あの犬がか?!」

 

「でかいだけじゃなくて……?」

 

「真尾さん、詳細を教えてくれ!」

 

「ただの犬じゃないですッ!あれは手配魔獣相当……《猟兵》が使役することもある、軍用魔獣です!」

 

「何ッ!?」

 

「さすがだね、すぐに気が付いた。気付いたからには……ほら、さっさと動かないと大事な友達が殺されてしまうよ」

 

 シロさんが呼び出した魔獣とはいえ、まともに使役しているわけではないのか、指示がなくても飼い主以外を襲うよう調教が済んでいるのか……さすがに戦闘指示は出すと思っていたのに、シロさんが何も言わなくてもブレードクーガーはいきなり私たちの方へと突っ込んできた。

 

「きゃあぁッ!!」

 

「うお、あぶな……っ!」

 

「下手に固まるな!距離をとれ!」

 

 ブレードクーガー……結社《身喰らう蛇(ウロボロス)》によって調教された、見た目は大型の軍用犬だけど名前の通り剣を口にくわえて切りかかってくる立派な魔獣だ。その攻撃はかすっただけでも最悪死に至る効果がある技があるし、その他上手く体を動かせなくなったり目潰しされたりなどと状態異常を引き起こす技も合わせ持つ……加えて一撃が重たい。幸い、状態異常耐性のないタイプみたいなのが救いだと思う。

 ……今は暗殺っていう非日常に身を置いてるけど、基本的に平和な日本で生きてきたみんながあのレベルを相手に出来るわけがない。暗殺訓練を受けていたこともあって、直撃を食らったクラスメイトはいないけど、あの魔獣がいつ、即死効果のある技を使ってくるかも分からない……もう、このまま後ろに下がったままでいるには時間がなさすぎた。

 

 イリーナ先生だって専門はハニートラップってこともあって至近距離からの小型ナイフでの暗殺や小型銃器での射撃以外で戦闘はからっきしだし、みんなに大声で指示を出して退避させている烏間先生なんて近接()()戦闘のスペシャリスト……人相手には戦えるとはいえ、魔獣相手にまともに戦えるわけがない。殺せんせーは手負いで無理させるわけにいかないし……、もう覚悟を決めるしか、私に選択肢は残されていなかった。

 

 

 

 

 

「────みんな下がってて、私が殺るッ!」

 

 

 

 

 





みんなを守るために使うって決めた。

ここで使わなかったら、後悔する。

大切な誰かを失うくらいなら……私は、武器を取ることを躊躇わない。



++++++++++++++++++++



カエデを止めるシーンはほとんど原作そのままです。ただ、あれだけの炎のリングを作り上げておいて渚がサラッと中に入るのは難しいのでは……と思ったので、そこだけオリ主に手伝ってもらいました。適当な技もアーツもなくて、かなり無理矢理な感じにはなりましたが、無傷で入れた理由にはなったかな、と思ってます。

次回、魔獣戦から始まります。
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