UA127000ありがとうございます!
前回と今回を合わせて『後悔の時間』です。これは1話にまとめちゃダメだと思ったので、あえて分けました。この小説全体のルールとして原作にない話は閑話扱いにしてるんですが、この小説で結構重要な場面だと考えてるので、今回はあえて閑話扱いしないことにします。
閲覧注意な描写はないですが、若干鬱展開っぽいです。
今回もよろしくお願いします!
カルマside
茅野ちゃんによる自分の命を省みない捨て身の暗殺後、突然現れたのは幾度となく俺等の邪魔をし続けてきたシロ。……あの話ぶりからして茅野ちゃんの事情を知った上で彼女の暗殺を利用してたみたいだし、またアミーシャを連れてこうと声をかけてきた。すぐに背後に隠したアミーシャは当然反発してるし、何度も
隣にいる黒い変な奴の存在すらわけが分からないのに、シロが呼び出したのはアミーシャ曰くここにいてはいけない、いるはずのない魔獣という存在。……あのアルカンシェルへ行った日に魔獣を見てみたいとは言ったけど、こんな対面は望んでないんだよね……
「ブレードクーガーって!?」
「ざっくり言うと、夏休みの沖縄で私が飲まされた神経毒を作った組織が調教して、今だと《猟兵》が使役してたり野良になって手配魔獣になってたりする戦闘用の軍用魔獣……ッ!」
「その組織サイッテーだね!知ってたけど!」
最初こそ銃を構えた烏間先生とビッチ先生がいたから俺も通常心でいられたんだけど、すぐにのんびりしている余裕はないことを思い知らされた……シロの指示を待つことなく、銃を向けられていることもお構い無しに突っ込んできたソレを避けるのに精一杯になったから。
いかなり方向転換をするような動き方ではなく、かなり直線的に突っ込んできて、一瞬振り抜く姿勢をとるためかその場で止まった後に口にくわえた刃を振る、という動きだけではあるけど、その『だけ』のスピードが尋常じゃない。1年間、普段の生活の中で殺せんせーのマッハな動きを見てきたから避けるだけならできるけど、あまりにも続くようだと体力的に辛くなってくるに決まってる。
「イッ……な、なんだコレ……腕が重い……ッ」
「菅谷、無理すんな!腕だけなら足は動くな?!とりあえず距離取れ!」
「……ッ、千葉、悪いけど手、引いて……急に何も見えなくなった……」
「!?……目潰しか……了解、いくぞ」
一部のクラスメイトから、あの魔獣の攻撃がかすったのか……自分の体に異変が起きたようでそれぞれ近くにいる者同士で声をかけ合う声が聞こえ始めた。だいぶ前の話だけど、夏休みの肝試してアミーシャが怖がっていたのも突然自分に起きる状態異常だったことを思い出す。
……俺自身が傷ついたわけじゃないけど、目の前でその様子を見てしまえば、傷つくのを怖がる彼女の理由が分かった気がする。……何も出来ないままに仲間が傷つくのを見るしかないのは、確かに怖い。
「……っ茅野、平気?」
「うん……ごめん、渚……」
「神崎さん、こっち!」
「うん、わかった」
「奥田さんも近くに来といて……アミーシャはこっち!」
「は、はい!」
「…………」
もともと戦闘というより運動そのものがあまり得意じゃない奥田さんや、神崎さんの2人を避ける方向へ誘導するために近くに立つ俺と杉野、そしてそれに着いてくるのは、眉間に皺を寄せて苦しそうに悩んでいる表情のアミーシャ。
ちなみに茅野ちゃんはまだダメージが抜け切ってなくて動けないから、渚君がおぶっている。……こんな状況じゃなければ写真撮った上でからかってやるのになー……そんなことを考えられるだけ、俺は余裕だったのかもしれない。
「まずい、こっちにくる!」
「アミーシャ、早く……え、」
「……、……ッ」
あちらこちらへと突っ込んでいる分、安全な時もあったのに、俺等の中に明らかな
俺等や杉野達は多分なんとかなる、でも渚君や茅野ちゃんは大きく動けない……どうすればいい、とにかく逃げようと隣の存在を近くに寄せようと引っ張ろうとした手が、……空を切った。
「なん……でッ」
「……ごめんね、いけない。……叶うなら、見せたくなかった。……さいごまで知られたくなかったな」
名前を呼んだ俺へ苦しそうに笑ってみせたアミーシャが、一緒に逃げていた足を完全に止めてしまったから。俺達4班って逃げる集団から距離の空いた、1人だけポツリと魔獣の動線で立っている彼女にあの魔獣が目をつけないわけがなくて、狙いを茅野ちゃんからアミーシャへと変えたのが分かる。
アミーシャは故郷では確かに強いのかもしれない、だけど見た限り彼女は対殺せんせー武器以外持っているようには見えないのに……対抗するための武器を持って無いのに……血の気が引いた俺達が声をかける間もなく、彼女は踵を返して、あの突っ込んでくる魔獣の方へと駆け出した。
「──みんな下がってて、私が殺るッ!」
俺等の代わりにあの直撃をくらったんじゃ……そう思うしかない状況だったけど、よくよく見れば違うと分かる。器用に走りながら着ていたロングコートを脱いで、あの飛び込んできた魔獣の顔に上手く被せた彼女は、バックステップで距離を取り、烏間先生とビッチ先生の近くに移動していた。
「あの魔獣は状態異常付与の攻撃前には必ず溜めがあるんですが……状態異常の中には即死効果の攻撃も存在します。だから万が一に備えて烏間先生、イリーナ先生は絶対に近づかないで……実弾の用意だけお願いします!」
「いいんだな?得物は……よし、予備もある、いつでもいい!」
「わかったわ……アンタの誕プレ持ち歩いてて、本トの意味で役に立つ日が来るなんてねっ」
「あれ程度、持ち合わせだけで十分です。でも、少しだけ時間を稼いでください。弱点は変わらないはずだから先にアーツで削ります……エニグマ、駆動!」
「イリーナ、当たらなくてもいいから足元を狙え!」
「ええ、動きを止めればいいのねッ」
アミーシャから魔獣の情報だと思われることを聞いた烏間先生が銃の弾を確認し、ビッチ先生がコートの中にしまっていたらしいケースの中から眼鏡を取り出してかけている。ビッチ先生の目が悪いなんて聞いたことないし、伊達メガネでも無さそう……と思えば、アミーシャがあの時渡していた誕生日プレゼントって眼鏡だったねそういえば。ただの眼鏡じゃなくて、なんか暗闇無効とか命中率上げるとか言ってた気がするし、現状めちゃくちゃ使えるアイテムになってるじゃん。
アミーシャのコートを顔面から剥がしたブレードクーガーは、邪魔されたこともあってか彼女の方へ勢いよく走り出そうとした……ところで、進行方向や足元を狙った先生2人の射撃に邪魔されてたたらを踏んでいる。……そうか、アイツは直線的な動きばかりしてるから、邪魔されるとそこで硬直するタイミングがあるのか。それを数回繰り返している間に、戦術導力器を構えていたアミーシャの用意が整ったらしい。
「……駆動完了、ブレードクーガーの有効属性は《水》……落ちろ水球!≪
アミーシャが導力器ごと手を頭上にかざすと、さっき茅野ちゃんの生み出した炎を消した巨大な水球がブレードクーガーの頭上に現れ、体全体を包み込むように展開し……そのまま爆発するように弾けた。当たるか当たらないかギリギリの牽制で撃たれた先生達の射撃と違ってしっかりとダメージが入ったみたいで、魔獣が呻くような鳴き声を上げている。が、まだ崩れ落ちもしなければ普通に首を振って刃を振り回しているし、四つ足でどこか庇う様子もみられないまま立っているから余裕そうだ。
アミーシャからしたらアーツで倒し切るつもりは一切なくて、アーツがまともに当たってダメージを与えたってだけでよかったんだろう……アーツを発動してほとんど間を置かずにアレの方へと走り出していた。魔獣の方はアミーシャの走り出しから少し遅れてではあるけど好機とばかりに刃を大きく振りかぶっている……獲物が自分から飛び込んできたようなものなんだ、そうもなるだろう。アミーシャはもう目隠しができるようなものも持って無さそうだし、直接突っ込んでいったら危険なんじゃ、そう思ってたのに。
───ギィンッ
「……っ、真尾、平気なのかッ!」
「アミーシャ……!」
「だいじょぶ……ッこの程度なら、普通だから……!だから、みんなは絶対に攻撃が当たらない場所まで下がってて……ッ!」
どこから取り出したのか……いや、いつから持ち歩いていたのか、が正しいのだろう。人間に大して影響のない柔らかい対先生ナイフとは違った、鈍い光沢のある黒い金属……いつの間にか彼女は本物の
時間にして十数秒もなかった。その位の時間で拮抗していた両者の間で突然、ギイイ……という金属のこすれるような嫌な音を響かせた。ブレードクーガーの刃がアミーシャのクナイの表面を滑った事で、金属と金属を引っ掻き合わしたような嫌な音が鳴ったんだ。刃を滑らせた事で体勢を保てなくなったブレードクーガーが若干バランスを崩す。その隙を見逃さなかったアミーシャは、力強く手に持った武器で魔獣の刃をバランスを崩した方向へ押し流し、それを反発の力にして大きく跳躍することで距離をとった。そのまま上着の中へ手を突っ込み、何かを取り出して……
「────《
「えっ……爆雷符って、……アンタ、まさか……、……」
……それを躊躇いも狙いを定める動作すらなく、まっすぐ魔獣に向けて投擲した。かなりの速さで真っ直ぐ投げられたそれは、寸分たがわず魔獣に突き刺さり、当たった瞬間に魔獣を巻き込む小規模な爆発を引き起こして……甲高い悲鳴を上げたブレードクーガーは動きを止め、その場で弾けるように消えてしまった。魔獣が消えたと同時にその場へパラパラと7色の石が飛び散り、それ以外には何も残っていない……これは勝った、討伐した、ということなんだろうか。
誰も、何も言えなかった中、ふとアミーシャの強さや今の戦いとは別のことに驚いたような声を上げたビッチ先生が気になった。最後に何かを投擲するまでは援護の姿勢を崩さなかったのに、今は何かに気づいたのか……銃口を足元に向けたままかなり驚いた表情で彼女の方を見ている。
「……さすがに1匹みたいだね」
あれだけ俺等を翻弄した魔獣に臆することなく立ち向かっていった度胸。意図を察してその通りに動いた烏間先生とビッチ先生も相当だけど……あんな攻撃手段を持つ大人を利用して隙を作り出す戦略。そして的確に攻撃を当てながら距離を詰め、決定打を与える攻撃で魔獣を1人で倒してしまった実力……
たった数分のバトルだけで、普段から自分を盾にしてみんなを守ろうとする以外で前に出ることの少ない彼女の行動に対する驚きもしたけど、実際の命をかけた戦闘を消耗もなく軽々と終わらせてしまった彼女に話しかけられる人は誰もいなくて。
「真尾さん、怪我は」
「……ありません。先生たちも……?」
「ああ、イリーナ、お前は平気か」
「……!え、ええ、私は遠距離射撃だけだもの、怪我はしてないわ」
「……よかった。……あのままにしておくとどんな影響が出るか分からないので、先にセピスだけ回収してきます」
いや、誰もは間違いか。戦える大人として彼女を援護していた先生達2人がアミーシャを気遣いに行っている。淡々としたやりとりの後、魔獣が消えた地面の方へアミーシャがクナイ片手に警戒したまま近づいていった。……俺等は全員、しゃがみこんで地面に落ちている7色の石を拾って制服のポケットへ入れている彼女をただ見ているしかできなかった。
───パチパチパチパチ
と、そこへ全てを見ていた俺等E組以外の奴……シロの笑い声と拍手の音が響き、彼女は静かに立ち上がる。
「はっはっはっはっ……手配魔獣相当の大型魔獣の討伐に対して躊躇うこともせずほぼ瞬殺か。見たところ《爆雷符》は即死耐性がない限り一撃必殺のクラフト技といった所か?流石は全てを偽り続けた化け物……生きる世界の違う者の強さは別格だな」
「────ッ!」
──ぞくっ
シロの言葉を聞いた瞬間、冷たく締め付けられるような感覚が襲ってきて、寒気のような感覚とともに体が震える。それを向けられているのはシロのはずなのに、アミーシャより後ろにいる俺等まで感じられるほど強いもの……俺は、こんなこと思いたくないのに、よく知っているはずの彼女を『怖い』と思ってしまった。多分、あれは彼女の本気の怒り……殺してやりたいと本気で思った、シロに向けた殺気だったんだろう。
そして誰かが止める間もなく再び飛び出した彼女は、クナイを構えたままシロの元へと走り、躊躇い無くそれを振るう……が、その刃はシロに当たることは無かった。隣にいた黒服の奴が、手に持っていたライフルで盾となってシロを庇ったからだ。
「クク、図星を刺されたからと俺を狙うのは感心しないよ?」
「……許さない、魔獣を放つとか……戦えないみんなのことを巻き込むなんてッ!雑魚相手とは訳が違う!!それに、政府との契約でも私たちE組の生徒を狙うことは禁じられてる……今のは明らかに殺せんせーの暗殺に関係なかった!!」
「ああ、そうだが?」
「………………………………………え……」
「あの魔獣を利用したのも、あくまでもお前を戦闘へ引き出すために必要だったからに過ぎない。加えて対人、対魔物の戦闘に長けたお前を相手にするのだから、雑魚を大量に連れてきたところで意味が無い。だが、ここにいる2代目はまだ調整中……だったらお前と同等かそれ以上の戦力を当てるのが手っ取り早いだろう?ちょうど手に入ったからな」
「……最初から、狙いは殺せんせーじゃなくて、私……ッ?」
「その通り。仲間思いの君なら友達を襲えば無理やりにでも封印を解いて、あわよくばあの超生物をも巻き込んで暴走してくれるかと思ったんだが……君の実力を見誤っていたよ。それに星杯騎士の法術は伊達じゃないか、そこは計算違いだったね……別の方法も用意しておくべきだった」
「それだけのために……こんな……ッ」
「ついでにあの娘のように、この教室にいるには異質な存在だと自覚すればいいと思ってのことだったが……それはどうやら成功のようだ」
「……ッ」
黒服の奴に止められながら未だに殺気を向け続けるアミーシャに対して、余裕そうに話すシロの言葉は俺等のところまで届いていた。今まで、俺等の前に現れた時からずっと殺せんせーを殺すために色んな策をめぐらせてきたシロの狙いが、最初からアミーシャの
喜ぶことではないけど、シロの想定を裏切ってアミーシャがあの魔獣より相当強かったことで、彼女が調子を崩すことなく、俺等も軽い状態異常で済んだ程度の被害で魔獣が倒されたのはよかった結果なのかもしれない。俺等も彼女自身も把握してない、クロスベルからきた彼女の身内が封印するほど、アミーシャが暴走する可能性がある
……ただ、シロに言われた何かによって動揺したのか動きを止めた彼女を黒服が突き飛ばす。体勢を崩しながらもバク転を駆使して少し離れた所へ危なげなく着地したアミーシャは、もうシロへと向かっていこうとはしなかった。その様子を見て、シロは今度こそ背を向けてどこかへ歩いていく。
「行こう、2代目……3月には……呪われた
最後まで黒服は一言も話さないまま、シロの後を追って夜の闇の中へと消えていった。
◆
カルマside
シロたちが去った後、アミーシャは明らかに様子がおかしかった。シロによって唯一小さく、彼女にのみ聞こえるように告げられたのだろう言葉……多分、それのせいなんだろうけど。
しばらく誰もが動くこともできず、何も話すこともない沈黙の時間が流れていたけど、呆然とシロ達が消えていった方を見ていたアミーシャが立ち上がってクナイをしまった。そこでようやく時間が動き出したように感じて、少しの躊躇はあったみたいだけど、全員でアミーシャへと近寄って声をかける。
「……アミサちゃん、ありがとう」
「助かったぜ……お前、本当に強いんだな!」
「あんな人と同じように武器を使ってくる犬とかあんなのが魔獣として故郷に蔓延ってるとか……やばいな」
「それをほとんど1人で倒しちゃうとかすごいよ!」
「な、ロイドさん達がお前を絶賛してたわけがよく分かったぜ!」
「すごくかっこよかったよ〜!」
「…………、………………駆動、……《
……みんな、彼女の殺気を少しとはいえ浴びたというのに、そして強さを目の当たりにしたっていうのに、強敵を倒したことを褒めて、感謝するだけで、それ以外は今までと全く変わらない態度を崩さなかった。その事実を目の当たりにして動揺している俺がいた。それはいつかの……夏休みに鷹岡を倒して当たり前のようにみんなの中に戻ってきた渚くんと同じように……警戒できない、怖くないと思ってしまったから。
その動揺をどうにか昇華させようとしている間に、彼女は誰の感謝や賞賛にも返事をすること無く、静かにアーツを発動させた。これは確か……状態異常を回復させるアーツだったか。さっきのブレードクーガー戦によって、全員直撃は避けたとはいえ、身体に異常が出ていた菅谷や速水さんら数人が、回復した部分に触れて、動かして確認している。
だけど……おかしかった。E組のクラスメイト達にはいつの間にか懐いて、みんなの妹分としてかわいがられていたアミーシャが、大切に思うクラスメイトからの言葉に対して、態度に対して、出会った時のように壁を作ったのか心を閉ざしてしまったのか、何の反応を見せないことが。当然、俺じゃなくても分かりやすいその変化に、他の奴等も不思議そうにし始める。
「……アミサちゃん……?」
「真尾、アイツに何か言われたのか?嫌なこと言われたんなら聞いてやるくらいならできるから言ってくれよ」
「私達じゃ、あの魔物には手も足も出なかったけど、悩みとかに寄り添うことはできるよ。アミサには28人の仲間と、3人の先生達っていう絶対的な味方がここにいるんだから」
「……何も、おかしなことは言われてないよ。あの人が言ってたのは全部真実だもん……ずっと、考えないようにしてたことをあの人に思い出させてもらっただけだから」
「それって、クロスベルの皆さんが言ってた記憶ってやつ……?」
「……ううん。それはワジお兄ちゃんに封印し直してもらったから、私が馬鹿なことしなければもう思い出すことは無いよ。だからそれとは違うこと。……私が、ここで生きるのは眩しすぎるって当たり前のことを、自覚できただけ」
アミーシャが、ここに……E組にいるのはおかしいって……?そんな、おかしいことなんて、彼女じゃなくても、人が生きる場所を場違いだとか思う必要なんてないのに……
俺等全員が彼女の言葉の意味を分からないまま見ているしかない状況で、アミーシャはみんなの間を素通りして烏間先生の前へと歩いていった。彼女は真っ直ぐ烏間先生の顔を見つめて、烏間先生も何も言うことなく静かに彼女を見返し、何を言い出すのかと待っている。
「烏間先生……アレの流れてきた道を洗い出してきます。もし何も知らない人たちの前に現れたりしたら……対処できるのは、きっと私しかいないから」
「……それは防衛省の戦力を利用してはいけないのか?俺をはじめとして戦闘訓練をつんだ精鋭も多く在籍する。今回は手持ちがなかったために全面的に任す形にはなったが、普段なら……」
「……それでも、人や兵器相手でしょう?魔獣や魔物との戦闘をしたことがない人たちでは、特徴や弱点を知ってるわけが無い……さっきのブレードクーガーだって《水》のアーツが有効だって知ってましたか?それに、魔獣の中には銃の効かない相手、アーツしか効かない相手だっています。さっきのブレードクーガーのように即死の状態異常攻撃を持つ奴だっています。それに……いつでも戦える人でなければ、今回のように意味が無いです」
「……それはそうかもしれないが……、いや、それ以前に君は、俺が認める限りはこの教室の〝生徒〟だろう?」
「そう、思いたかったけど……もういいんです。少しだけタイムリミットが早くなっただけ。……申し訳ありませんが、防衛省との契約は、この場で破棄させて下さい」
「…………そうか」
「あと、虫のいいことを言う自覚はありますが、私のことはみんなに伏せておいてくれると嬉しいです……私と違って光の中に住んでるみんなは、こんな世界、知らなくていいから」
見たことがないほどの無表情で、烏間先生と言葉を交わしたアミーシャは、言外に普段から戦えなければ足でまといだと言っているようだった。俺達には伏せておきたいことってなんだ……?きっと、教えてくれないんだろうけど。
次にビッチ先生へと視線を向ける。魔獣にトドメを指したあたりから何かに気づいた様子だった先生には驚きの表情隠していなかった。
「……アミサ、もしかしてアンタが……」
「……やっぱりバレちゃいましたか。イリーナ先生、この教室でまた会えて嬉しかったです」
「……全然気付けなかったわ……当代の対応も完璧だったし、さすがね。ああ、アンタが望むならガキ共に言うつもりはないから安心して」
「ありがと、ございます」
「……それよりも、……ねぇ、本トに行くの?ガキ共を全員置いて?全てを道に捧げてきたアンタが初めて光と見定めたカルマはどうすんのよ?私も少し話す機会があったけど、当代は受け入れて……」
「私はっ、……私にはできない。今日みたいなことがもう二度と起こらないとはいえない……私はみんなを少しでも危険から遠ざけたいの。それに、……私には初めから無理だったんです……〝死と隣り合わせで生きてきた時点で悪〟なんでしょ……先生」
「……ぁッ、あの時のってそういう……!?そ、それは私の事であってアミサの事だなんて……!」
「ごめんなさい、本心でどう思ってるか聞きたかったから、ワザと先生のことって感じで聞いたの。……やっぱり、今回の件は完全に私がいたからなんです……後のことを考えられなかった、私がダメだったの」
「……アミサ……」
ビッチ先生とアミーシャは、この教室で出会う前から知り合いだったというのか。そういえばアミーシャは初対面のあの時から、人をまだ怖がってる時期だったにもかかわらずビッチ先生に対して怯えてる素振りを見せたことは1度もなかった気がする。
色々と周りに聞かれても問題ないようにぼやかされた内容は全然理解できなかったけど、何故か2人の会話の途中で俺の名前が出てきた。その後の会話で何となく……アミーシャがやろうとしていることに検討がついた。
彼女は、俺等の前から居なくなろうとしているのだ、と。
「アミサさん、あなたは……」
「殺せんせー、たくさん、お世話になりました。先生の過去を話す約束、みんなに果たしてあげてください」
「にゅや……しかし!私の教室に来たからには君だって私の生徒でッ!」
「……ごめんなさい。でも先生は、みんなとさいごまで一緒にいてあげて……お願い」
殺せんせーにかけた言葉は、烏間先生達と比べてとても少なかった。それだけ言って殺せんせーからの返事を待たず、アミーシャは俺等に一言もないままに背を向けて歩き出す。
「「「アミサちゃん!!」」」
「「「真尾!!」」」
「……アミサちゃん、」
「アミーシャ……ッ」
俺等にはなんの説明もなく離れていこうとする彼女に、慌ててみんなで呼びかけたけど……彼女は一切足を止めることがなくて。シロ達がいなくなった丘の先、林の手前でようやく足を止めてくれた。
「……なぁに?みんな」
「……どこに、行くの」
「……、さぁ、行ってみなきゃ、わかんないや」
「わかんないって……」
「……私ね、みんなには言ったこと無かったけど、みんなと同じように生きてきたわけじゃないの。私とみんなの生きてる世界は真逆なんだ。私と、みんなは同じ位置に立てるはずないんだから……深く考える必要は無いよ。……私さえここにいなければ……みんなは危険じゃなくなるはずだから。……、ねぇ、カルマ」
答えになっているような、いないような……それでいて、どこかで聞いたことがあるような言葉を話す彼女は、振り向いて俺の名前を呼んだ。
「……っ、何……?」
「……私ね、カルマのこと、ホントに大好きだった。……誰よりも、ホントに愛してたの。でも、ごめんね……もう一緒にいられない。……こんなひどい別れ方するんだから忘れてくれてもいい、だから……サヨナラしよう」
「ッ!」
「待て、真尾ッ!!」
「アミサちゃんッッ!!」
「────バイバイ、みんな。大好きだったよ」
一方的な別れの言葉を残して、誰も彼女を止めることも出来ないまま、アミーシャは宵闇の中を駆けて行ってしまった。
俺は彼女の実力を垣間見るたびに気付かないフリを、見て見ぬフリをしていたんだ。彼女の言う通り、どこか生きている世界が違うのは、なんとなく伝わってきていたから……今回でいうなら俺等が逃げ惑うしかなかった魔獣に単身立ち向かい、いとも簡単に倒してしまった実力者……そしてあとのことも淡々と処理して、シロへと単身向かっていった。
でも、それって当たり前のように魔獣のいるゼムリア大陸で戦闘経験がある、戦わなければ生きていけないってだけじゃなかったのか……?分からない、分からない事だらけで自分にムカつく。
「……行ってしまいましたか。まさかあそこまで思い詰めていたとは……彼女を止めるには力及ばずすみません」
「殺せんせー……」
「アミサさんが何かしら自分の立場に悩んでいることは進路相談をした時から気付いていました。ですが、彼女の願いだった身内との再会が叶った今……あとは夢を見つけて、子どもらしく生きていけばいいと楽観視してしまった……先生のミスです」
「……私達、茅野さんのように一緒にいても気付かなったことがたくさんあります。アミサちゃんがずっと悩んでたこと……気付いてあげられなかった」
「俺等がどうにもならなくて、真尾がああやって前に出てくれて、全部任せていいんだって傍観に回っちゃったのも……強引に1人でやんなくていいって言えればよかったのかな」
「いや、君達はアレに対して手を出さなくて正解だ。下手に戦闘に参加してもっと多くの状態異常や最悪死者が出ていたらシロの思う壺だったからな」
「……俺、一緒にいるのは間違いなんかじゃないって……言えなかった。もっと強かったら……あんな顔、させたくなかったのに……ッ」
「カルマ君……」
あんな、出会った頃によく見ていた全てを諦めたような表情、もう見たくなかったのに───
いろいろあって時間が遅くなってしまったこと、アミーシャがこの場からいなくなってしまったこと、茅野ちゃんの体調の関係から、殺せんせーは過去の話を明日に回したいと提案した。正直俺等は、茅野ちゃんの事、シロの事、魔獣の事、そしてアミーシャの事と色々な事が一気に起きすぎて混乱していたから……必ず話すとも約束されたこともあって、その方がありがたくて二つ返事で頷いた。
いなくなってしまったとはいえアミーシャに対する連絡手段はあるし、何やら烏間先生から直通でなにか連絡できる方法もあるらしいから、明日以降のことも伝わるだろう。
この時、俺は疲れていようが、動揺していようが、アミーシャを追いかけたり、何か事情を知っていそうな烏間先生とビッチ先生に問いただすべきだったんだ。
先生達も、彼女の隠していることの一片だけでも知っている理解者だからと諦めずに話すべきだったのかもしれない。それに、もっと前から……それこそ、彼女が1人で覚悟を決めてしまう前に、色々な面で気を付けておくべきだったのだろう。
でも、きっと今彼女は何かを悩んでいて整理する時間が必要なんだと、そう考えていたから全然大した事じゃないとさえ、思えていた。
そして、俺等は全員……先生達も含めて全員が、きちんと双方が納得できるまで話さなかった事を後悔することになる。……冬休み以降、あの、最後の日まで。アミーシャが学校に姿を現すことは1度も無かったから。
「イトナ、何持ってんだ?」
「……多分、これがセピスだ。色も小さいのを合わせれば7色あるし」
「セピス?……うわぁ、すごく綺麗な石……」
「石というか宝石だな。どうしたんだ、それ?」
「……アミサが倒した魔獣の跡に残ってた。ほとんど拾ってったみたいだけど」
「お前はいつの間にそんなことしてたんだよ……」
「お前らがアミサを囲んでた時……俺はアミサが力を隠してるのはなんとなく分かってたから、そこまで寄らない方がいいかと思って」
「…………は……?」
「どういうことだよ?」
「初めて目にした時から、アミサは一般人じゃないとは思っていた、ということだ」
「……はじめてって……お前が転校初日の壁突き破ってきた日か?」
「ああ。あの日、カルマがこのクラスで1番強いと言った……そう思った事に嘘はないが、アミサを見た瞬間気が変わった。全てを押し殺している小動物のくせに、端々から感じる気配のおかしさ……俺の触手が怯えていた」
「……俺にも言ったやつか?『爪を隠した小動物にすら勝てないだろう』って」
「……寺坂に言ったことは覚えてないが、言ったんならそうだと思う。というかよく覚えてたな、寺坂のくせに」
「……お前の言い方はとことんムカつくが、……アレ、やっぱり真尾の事だったのかよ……」
「仕方ないだろう、触手を移植されている時は頭が働かないんだ」
「………………」
「カルマ君……」
「……、アミーシャの……バイバイって言葉が、頭の中をグルグル回ってるんだ……胸騒ぎしかしない」
「あ、明日のことは伝えるんですよね?烏間先生からも連絡入れてくれるらしいですし……」
「僕等では無理でも、カルマ君の言葉ならアミサちゃんは聞いてくれるよ。だから、きっと……うん、きっと届いてるって信じよう?」
「……俺、何か間違えた気しかしないよ。……あー……悪い、一人で帰るわ……明日までに頭冷やす」
「あ、はい、……おやすみなさい、カルマ君」
「また明日ね」
「……カルマ君、へこんでましたね」
「だね……いつも自信たっぷりのカルマ君はどうしちゃったんだろ」
「アミサちゃん関係の事だから、で説明できちゃいそうなのがあのカップルですけど……」
「奥田さんも言うようになったよね……その通りなんだけどさ」
「…………」
「…………」
「……でも、私も引っかかってるんです」
「……バイバイって言葉?」
「はい。だって、普通友達が相手でしたら別れる時の挨拶は『またね』ではありませんか?先程の渚君のように……」
「確かに…………明日になったら、全部無かった事になってればいいのにね」
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カエデの後悔、ある意味シロの後悔、オリ主の後悔、殺せんせーの後悔、E組の後悔。後悔することの無い人はいないと思いますが、別の話でならともかく、ここまで数話に集結することはほとんどない気がします。書き終わって私もビックリ。
シロによる、魔獣投入の件について。
オリ主の離脱は元々考えていて、そのために決定打となるあるセリフを言わせる必要がありました(透明文字にしてあります)。ちょうど良かったのがこの魔獣:ブレードクーガー……碧の軌跡では傭兵が引き連れていたり中ボスだったりと、対策さえしていれば敵じゃない代わりに素早いので色々めんどくさい相手です。戦闘範囲内を移動しまくりますし……。オリ主の強さを強調するために、ほぼ一撃でお亡くなりになっていただきましたが、本当は強いんです。こんな所で魔物の弁護をされてもとか、え、本当に?と思う方は、ぜひぜひゲームをれっつぷれい←
(クロスオーバー先の『零の軌跡』『碧の軌跡』の前作にあたる『空の軌跡』がフルリメイクされるんですよッッ!!!英雄伝説軌跡シリーズを知らない読者様、世界観を知るいい機会です!!ちなみに作者は限定版で既に予約済みでホクホクしてます(笑))
暗殺教室のお話はまだ3ヶ月分あるのにもうエンドなのか、という理由は今回のオリ主の離脱にあります。次回、先生の過去話の回なのですが、それ以降オリ主不在ということで場面が一気に飛ぶからです。
もちろんもう1つのエンドでは残り全てのお話を回収するのでご安心下さい!では、また次回の物語で会いましょう。
ちなみに第一部でのこれまでの選択ミスが積み重なって『オリ主の離脱』という形になって現れる場面を描写したつもりです。いくつかの場面で明確に書いた選択肢以外にも、どこかの場面で違う選択肢を選んでいたら違う展開になっていました。
生きてる上で毎日私たちは取り返しのつかない選択をして生きてるんだよってことをこの小説でやってみてるんだと、神様目線で言ってみます。こういうことをやってみたかった。