第一部、ラストスパートです。
今回もよろしくお願いします!
カルマside
──殺せんせーの過去を聞いた、あの日から。
〝ここだ……っ!……あ、〟
〝残念ですねぇ、気配は上手く消せてましたが意識をそらす策がまだ甘い。……それにコレは……2人用の作戦ですね?〟
〝くっそ……そーだよ、アミーシャと2人で殺る前提で立ててた作戦なんだから〟
〝…………〟
〝殺せんせー、明日も殺るから逃げんなよ〟
〝ヌルフフフ……懲りませんねぇ。さて、手入れの準備は整ってます。今日はどれにしましょうか……〟
〝……前から疑問だったんだけどさ、なんで俺に対する手入れ道具だけ、毎回そんなに変なやつばっかりなわけ?猫耳に化粧に女装に……そういうのって専門は渚君じゃん。……うっわ、俺の髪色に合わせたウィッグまであるし……何目指してんの?〟
〝最近渚君はコスプレに慣れすぎてて、全然動じなくなってますから、反応がイマイチなんですよねー〟
〝だからって俺にコスプレさせないでよ……〟
冬休みの間、俺は時間が許す限り殺せんせーが学校にいることを確かめては、様々な暗殺を仕掛けていった。俺が来るって分かってて殺せんせーは校舎に必ずいてくれたし、元々冬休みにやろうとしてた暗殺計画はいくつか練ってたから、イタズラを含めて殺るネタは尽きなかった。それに、……殺せんせーも真面目に向き合ってくれたからやりがいがあった。
だけど元々アミーシャの協力もあって成功確率の上がる予定だったものや複数人で挑むべき暗殺なんて、たった1人でやっても結果はたかが知れてる……でも、誰も動こうとしないなら、仕方ないし。
〝才能ある奴ってさ、何でも自分の思い通りになるって勘違いするよね。ねぇ、渚君……ずいぶん調子乗ってない?〟
〝で、でもできるかはわかんなくても……殺せんせーの命を助ける方法は、もしかしたら……〟
〝『もしかしたら』。……そんな夢物語なんて信じてるの?今ここにいるE組で1番暗殺力がある渚君がそれって……全力で楽しい暗殺教室にしてきてくれた殺せんせーにも、暗殺こそ恩返しって信じるヤツらにも失礼って分からない?〟
〝それでも!僕は先生に卒業してからもお世話になりたいって思うから!カルマ君はそうじゃないの……ッ?〟
〝だーかーらー!それが甘ちゃんだって言ってんの!殺意が鈍ったらこの教室は成り立たない!その努力もわかんねーのかよ!!身体だけじゃなくて頭まで小学生か?!〟
〝……僕だって……半端な気持ちで言ってないっ!〟
〝コイツ……ッ!〟
そのまま冬休みが明けて殺せんせーはいつも通りだったけど、暗殺を続けるもやめるも……俺のようにハッキリとした答えを出した生徒は1人もいなかったようで、クラスの誰もに覇気がなかった。
でも静かな教室に落とされたビッチ先生の言葉で何か考えさせられることでもあったのか、渚君が信じられない提案をE組に投げかけて……気が付いた時にはE組全体を巻き込んだ、俺と渚君が出会ってからはじめて起こした本気の大喧嘩になっていた。
〝ナイフを使わず格闘戦で俺に勝つ。俺を殺すにはそれが最適解だったとはね……完敗だ、殺せんせーを助けたいんだろ?言うこと聞くよ〟
〝……いいの?本トに?〟
〝ていうかさ、いい加減俺等呼び捨てで良くね?こんだけのことしといて今更君付けする気がしないわ〟
〝……今更?〟
〝それなら俺だけ呼ぶよ。……それでいいの?『渚』〟
〝……分かったよ、『カルマ』〟
E組を分裂させてまでの大騒動にはなったけど、今までこんなに自分の本心をさらけ出したことなんてなかったから……変な感じだ。それに、発端はアレだけど全力で真っ直ぐぶつかったから、クラス一丸になってまとまった結論にもっていけた。……ここに、彼女がいればもっとよかったのに。
それから、殺せんせーによる無理難題ってぐらいありえない提案の実現のために、またE組で作戦をたて、訓練をして、いざ
だけどそれは、この1年をこの教室で一緒に生活してきた俺等だからこそ納得できるもので……世間一般には、受け入れられないものだということに、気が付いていなかった。
〝怪物が捕獲された安堵の心境を一言ください!〟
〝おい、泣いてるこの子寄りで撮れ!使えるぞ!〟
〝君、そう言えってあの怪物に言われてたの?辛かったでしょ……もう正直に言っていいのよ〟
〝1%という数字はね……地球を賭けのチップにするには、あまりに高すぎるんだ〟
対先生バリアにE組の裏山全体が囲まれ、その遥か上空からこれまた対先生エネルギーによるレーザー砲で狙うそれは、烏間先生ですら直前まで知らされず、1年の間秘密裏に進んでいた政府の計画……影響があるのは殺せんせーにのみ。
当然、納得できなかった俺等は抵抗したし、軍の検問を突破して殺せんせーのいるE組の校舎へ突入する計画だって立てた。でも、殺せんせーを助けたいと行動するのは俺等E組のたった28人、危険な超生物を排除しようと影から表から動くのは地球上のそれ以外の全人類……まだまだガキでしかない俺等に太刀打ちできるはずがなかった。
……悔しかったし、怒りが沸いた。E組のことを知らないくせに殺せんせーをただ悪く言う奴も、面白おかしく嘘ばかり並べるマスコミも、俺等を信じようともしない大人達も、……肝心な時に何もできない自分自身も。だけど、そんな中でもちゃんと信じられる大人はいたんだ。
〝……ほら、最後の授業よ。さっさと行きなさい〟
〝ビッチ先生も烏間先生と一緒に来てよ!2人とも私達の大事な先生なんだから!〟
〝っ!……、……仕方ないわね!〟
──ビッチ先生。
〝なぁ、家に帰って新聞見たんだけどさ……〟
〝ああ、E組を擁護する記事だったな……あれだけ殺せんせーを悪く印象操作されてる中不思議だよな……?〟
〝……多分、理事長だよ。E組だけじゃなくて学校自体のイメージも払拭させてるあたり、らしくないかな?〟
──浅野理事長先生。
〝……ッ!?み、みなさん少しだけ待ってください!通信が入ってます!〟
〝この突入直前に!?誰から……〟
〝『……E組のみなさん』〟
〝〝〝!?!?〟〟〟
〝……リーシャさん〟
〝『……私達の方にも情報が降りてきました。各国共同の……最後の、確実に仕留めるための暗殺が決行されたと。……そして、確実なツテから依頼されました。……【みんなが先生に会いに行こうとしてる。だから邪魔をさせないで欲しい】と』〟
〝!それって……〟
〝『遅くなってすみません……それに機密が多くて私からみなさんに言えるのはコレだけです。ですがリツさんを通して別の機密はお伝えできるので役立ててください』〟
〝いや機密なのに伝えちゃっていいんすか……〟
〝それに役立てるって、……ッ!?カルマ、これ!僕等を拉致して、今は山の中にいるっていう傭兵の詳細!〟
〝!〟
〝『ロイドさんとワジさんのお二人から推薦されてましたよ……カルマさん。この情報を誰よりも上手く使いこなすのはあなたしか居ないと。アミーシャに、
〝……さいっこーだよ、ありがとう〟
───リーシャさん含む、特務支援課の人達。
〝よく聞け、渚君……
〝……アイツらなんか俺等のこと、めっちゃ見くびってんな〟
〝それもこれも烏間先生のおかげだよ……周りに悟らせないように私達に情報を落としてくれたんだ〟
〝じゃあ、それに報いる動きをしなくちゃだね!〟
──烏間先生。
〝音だけでも……恐ろしい強敵を仕留めたのが分かりました。成長しましたね、皆さん〟
〝〝〝殺せんせー!!〟〟〟
────…………殺せんせー。
俺等には、助けてくれる人がいた。さり気なくついでのように守ってくれる人がいた。激励し、情報を預けてくれる人達がいた。信じて任せてくれる人もいた。一緒に経験を、想いを、感情を共有してくれる……恩師がいた。
だから、最後の時間が近づいていても……幸せ、だったんだ。
◆
カルマside
対先生バリアによって囲まれたドームの中……そこには
最初こそ自らに触手を埋め込んだ柳沢の援護により、姿形も、能力も、全て改造されて殺せんせーを軽く超える2代目死神の圧倒的な力によって、一方的に攻撃を受け続けていた殺せんせー。だけどこれまでの経験を活かして、少しずつ攻撃を見切り、かわし、工夫で戦力差を埋めるようになった。
でも、教師として生きようとする殺せんせーにとって、俺等生徒は守るべき存在……それを逆手に取られて、殺せんせーではなくE組の生徒達を狙う攻撃を代わりに全て引き受け絶体絶命に。次元を超える戦いでは足手まといでしかない俺等が、何も、逃げることすらできない中、楽しい教室を終わらせる原因になってしまったという罪悪感から、たった1人で茅野ちゃんが立ち向かってしまった……の、だけど。
「ひゃはははははははは!!姉妹そろって俺の前で死にやがった!!本当に迷惑な奴等だなぁ!!姉の代用品として飼ってやってもよかったが……あいにく穴の空いたアバズレには興味無くてねぇ……ひゃっははははっ!!」
ドームの中に響き渡る、バカにするような柳沢の
俺等がその事実を受け止めきれず、衝撃と絶望とで動けなくなって。ピクリとも動かなくなった茅野ちゃんへにじり寄り、彼女に触手を伸ばした殺せんせーが、ドス黒い怒りのオーラを纏って柳沢と2代目死神の元へと向かおうとした、まさにその時だった。
「見ていられないな……《崩月輪》──砕け散れ!」
どこかで……いや、何度か聞いたことのある声とともに、巨大な物体がバリアの向こう側から……森の中から勢いよく飛んできたんだ。E組関係者には当たらないように、されど視界に入って意識をそらすに十分なソレが顔の目の前を横切って、さすがの殺せんせーも怒気を忘れて思わず動きを止めてしまっていた。当然しっかり狙われて忙しなく辺りを窺う柳沢や2代目にも何が起きたのかわかっていないようだ。俺等だって突然の乱入者に反応することもできず、なんとか状況を把握しようとあたりを見渡す。今の声、飛んできた物体……1mかそれ以上の長さはある大剣を、俺等は1度目にした覚えがあった。
飛んできたソレには刃の部分に対先生物質でも仕込んであるのか、大剣の通り道にあった2代目死神の触手を数本引きちぎりながら、ブーメランのように投げた人物の元へと戻っていく。それを目で追うと、大剣が戻っていった先には身の丈程もある真っ黒な大剣を手にしている……俺等が予想した通り黒衣の人物が立っていた。
「……!あれは……!」
「「「《
「──潮田渚、彼女を連れてすぐに下がれ」
「は、はい!」
「なんだ貴様は……ッ!」
「フン、このクラスを嗅ぎ回っていたくせに私の存在を知らないとはな……我が名は《銀》。お前達の相手は私がしてやろう」
黒衣の彼からいきなり名指しされての指示に、渚は慌てたように茅野ちゃんの元へ走り出した。突然の乱入に動揺したのか、柳沢と2代目死神の意識は殺せんせーや茅野ちゃんから外れ、《銀》へと向いている。その隙を縫って茅野ちゃんの元までたどり着いた渚は、邪魔されることなく彼女を静かに抱き上げて俺等の方へと戻ってきた。みんなで慌てて渚と茅野ちゃんを囲んで、再び始まるであろう戦闘からできるだけ離そうと後ろに庇う。
……ピクリとも動かない茅野ちゃんの腹は超体育着の強度をものともせず穿たれた酷い傷跡で見ていられず、茅野ちゃんだって見られたくないだろうと俺の超体育着の上着を脱いで被せてやった。その時に傷跡を見て、察してしまったんだ……見たことのない酷さなのに、血がほとんど流れていなくて、……ソレは流れ切ってしまったのだと、……おそらく彼女は、もう……。それでもなんとか命を繋げないかと呼びかけ続ける渚や何人かを尻目に、俺や数人のクラスメイト達は《銀》と柳沢達へと視線を戻した。
「《銀》さん、貴方まで……!」
「おい、いくら君でも……!」
「《銀》……アンタ……」
「……お前、相当子ども達を庇って攻撃を受けたな?動けない超生物は回復するなり移動するなりしてさっさと体勢を整えろ、その間の時間稼ぎは私が引き受ける。……カラスマ、イリーナ、お前達は子ども達を守れ」
「……ッ、分かったわよ……!でもアンタも無事じゃなきゃ許さないわよ!」
「恩に着る!」
「……確かに、貴方程の実力があれば私の速さにも軽く対応できてしまうのでしょう……私には弱点も多くありますから。しかしアレは倍のマッハ40が出せる上に全てが未知数、死をも恐れない故に最初から最後まで全力です。……殺さず手入れに徹するものと最初から殺すつもりで向かってくるものとでは比べ物にならないッ!」
「……問題ない、超大型の手配魔獣……いや、幻獣とみれば戦えない相手ではないだろう。それに……《
「ほう、そこまで言い切るのならお望み通り試してやろう……!殺れ、2代目」
「……エニグマ駆動……時よ進め≪
ドーピングを追加するように、柳沢は化け物と化した2代目死神へさらに注射器を突き刺した。ほぼ同じタイミングで《銀》の身体を青い光……戦術
最初こそ睨み合う時間があったけど、先に動いたのは2代目死神の方……さっきまで以上に脈打つ不気味な身体を動かし、2代目死神はバチバチと赤黒い光を放つ腕を大きく振りあげ、轟く声をあたりに響かせながら《銀》に襲いかかる。
「イヤ……ッ」
「あんなの喰らったら、死んじまう……ッ」
クラスメイトの何人かは明らかに違う体格差に見ていられないと顔を背けていたけど、……俺は、始まったあの戦いから何故か目を離せなかった。俺等には一切目もくれずに《銀》1人に集中していて上から振り下ろされる2代目死神による大きな一撃を、《銀》は手にする大剣を盾がわりにしながら、受け止めては上へ弾き、下へ流し、時にはなんて事もないように避けていく。
一撃、二撃と次々に落ちてくる重い攻撃を、彼は軽々ひらりひらりと踊るように捌いていて……時々触手が刃に触れているのか、2代目死神の触手がパチュんパチュんと音を立てながら弾けているのも目に入ってきた。
「す、すごい……!まだ1回も直撃受けてないよ!?」
「剣で受けた時に触手が弾けてる……攻撃を受け止める時に対先生物質に当たるよう調整してるんだ」
「マジかよ……あの状況で!?」
「……でも、いくらなんでも《銀》さんだって、マッハ40の怪物相手じゃ……」
「数でこられたら……目が追いつかないんじゃ……」
誰かがそれに気付いたかどうか、というタイミングで、2代目死神は重い一撃を与える攻撃からスピードを活かした手数の多いものへと変化させ始めた。その動きは、例えるならフェンシングの突きを超高速でしているようなもので……でも普通ならありえない、マッハ40の触手だからこそ可能な一呼吸で数十、数百回という連続の突きだ。
ズドドドドッという轟音を立て、《銀》の周囲を巻き込むようなその攻撃は、あたり一面に土煙を巻き上げていて、離れたところで見ているはずの俺等も思わず腕で顔を覆ってしまう程……顔を上げた時には煙のせいで彼の姿が見えなくなってしまった。
そう長くは攻撃し続けられないのか、はたまた攻撃対象がどうなったの様子見のためなのか……2代目死神が動きを止めたことで少しずつ土煙が晴れていく。2人のいる向こうへと目を凝らせば、だんだん視界がはっきりしていくその場所に、黒衣の腕や体が数箇所裂けてはいるものの、大剣を右手に構えたまましっかりと立っている《銀》の姿が見えた。
「…………っ…………」
「立ってる……!あの人、あの触手の猛攻を耐えきったんだ!」
「《銀》さん、あれだけの触手の動きを全部避けるか捌いて凌いだってこと……!?」
「……チッ、2代目、まだ奴を殺れないのか!?」
殺せんせーでもあの触手の動きに対応できるまでにしばらくかかったのに、超生物化してるわけでもなく生身の人間がこんな短時間で適応するなんて……さすが、伝説の魔人と呼ばれる存在なだけある。しかも対応してるだけじゃなくて確実に戦力を削ぎ続けている……2代目も殺せんせーと同じように切り落とされた触手を再生するために体力を消耗するなら、だいぶ削れてるんじゃない?
焦れたように2代目死神へ叫ぶ柳沢と、それを聞いてか再びいくつもある触手を操って攻撃を再開する2代目死神……《銀》は上下左右から襲ってくる触手の手を素早く避けながら冷静に処理していっている。
「アイツらにあれ以上の奥の手はさすがにないだろ!」
「それを耐えきったってことはさ、もう、怖いものなんて……」
────ピシッ
「?」
「何、今の音……」
スピードはかなりのものだけど、何故か俺でも何となく軌道が見える程度の単調な攻撃しか見せなくなった2代目の様子を見て、もう《銀》が使える手全てに対応しきったことによる悪足掻きなんじゃないか、この調子でいけば勝つのも夢じゃないんじゃないか、皆が思ったその時だった。何かが軋むような……金属にヒビが入るようなそんな音がどこからか響いた。
音が響いた瞬間、初めて2代目死神から距離をとった《銀》が訝しげに確認したのは彼が手にしている黒い大剣で……当たり前だ、身近な金属で1番壊れると困るのはそれだから。だけど特に問題なかったのか構え直した彼を見ていた柳沢は、焦ったり動揺したりすることなく……、ニンマリと不気味に笑う。
「ふん……所詮人間の理からは外れていない暗殺者。触手を凌ぎ切った反応は素晴らしいが、その触手を受けいれた2代目の能力には劣るな」
「……、……何……?」
「あれだけの猛攻の中、自らは無事でも
「───ッ!?《銀》殿!仮面だ!」
「……ッ!?」
2代目死神は最高瞬間速度マッハ40という尋常じゃない速さを持つ化け物……殺せんせーを基準にして『もう勝てる』って考えが浮かんだけど、殺せんせーだって弱点が多すぎてついつい忘れがちになるだけで、マッハ20の怪物だ。……2代目の半分の速さ?とんでもない、いつまで経っても殺せなかった殺せんせーにそう思うこと自体が間違ってるのに、それ以上と言われる相手をそんな簡単に倒せるわけがなかったんだ。
柳沢の言う通り、《銀》は身体能力を活かして、あるいは大剣を駆使して、直接的な打撃自体は全て避けきったのだろう。だけどあれだけ激しい攻撃中に打撃以外を受けていないわけがない……例えば風圧なんてどうだ?それに殺せんせーが死神だった時に使った戦法でもあったじゃないか……砂粒でも十分武器になるって言ってたじゃん。
「……あれ……あの色の服、金属のアームカバー……見たことあるような……」
「ッ!あれだよ、リーシャさんの戦闘装束!」
「てことは《銀》さんの正体って……リーシャさんってこと!?」
烏間先生の慌てたような声に反応して、仮面の上から顔を抑えて顔を伏せた《銀》の全身は月明かりに照らされていて、2代目死神の攻撃によって裂けた黒衣から紫を基調とした布の一部が、鳥の羽のような両袖が裂けて金属の鱗のようなアームカバーが顔を出しているのが見える。黒衣でほとんど隠れているし、一部だけとはいえ、あの特徴のある服装は……アミーシャと連絡がつかなくなった時に通信したリーシャさんが身に付けていたものにそっくりだ。
クラスの奴等もチラホラとそれに気が付いて心強い援軍だと声を上げる中、俺は疑問も感じていた。確かに、クロスベルの人達が絶賛する戦力の人が手助けしてくれてるならかなり助かることに違いは無い……実際殺せんせーが休める分の時間もしっかり稼げてるし。だけど、気になるのはさっきの烏間先生の一言だ。
〝───ッ!?《銀》殿!仮面だ!〟
戦闘後らしい特務支援課の人達を映した通信をした時に、俺達E組は全員リーシャさんの戦闘装束を見ているおかげで、顔を見ていなくても《銀》の正体にたどり着いている。なのに、烏間先生はわざわざ『仮面』を抑えろと叫んだ……それを聞いた《銀》も慌てて顔を見られないように立ち回っている。
もう俺達全員に正体はバレてるんだから、顔を出しても問題ないと思うんだけど……それなのに、顔を隠さなくちゃいけない理由。
それは、《銀》の正体がリーシャさんではない場合……じゃあ誰が?リーシャさんの関係者で、体格が近くて、しゃべり方も、些細な動きも、仕草も模倣することが可能なのは……、
「……ッ!?……ま、さか……」
そんな人物、俺の知る限り……1人しかいない。
────ピシ、パキパキパキ……パリン
「「「!!?」」」
抑えるのも虚しく、金属のヒビ割れていくような音が響き……ついに、《銀》の顔を半分以上覆っていた仮面があの人の手の中で崩れた。今まで口元しか覗かせず、俺等を含め《銀》という存在を知るほぼ全ての者が見たことのなかっただろう、彼の……いや、
諦めたように顔を上げて、フードを取り払ったその素顔は……当たって欲しくなかった、俺の予想通り……リーシャさんでは、なかった。
白い髪紐でツーサイドアップにされたリーシャさんより色素の薄い夜色の髪を揺らし、顔立ちはリーシャさんより明らかに幼く、開いた瞳はリーシャさんのような紫色ではなく───深い海のような蒼い色。
「……、バレちゃった。……ひさしぶり、みんな」
「…………うそ、だろ…………?」
「…………なんで…………」
「…………アミーシャ…………」
仮面の下から現れたのは……冬休み前から連絡もつかず行方不明になっていたE組のクラスメイトで、……俺にとって誰よりも大切で最愛の存在、アミーシャ・マオその人だった。
「はははははっ!これは傑作だ!!
「…………」
「ああいい、2代目……。しかし全ての力を解放せずとも2代目と十二分に渡り合えるその実力、……実に惜しいな。完全解放した君ならあの超生物を殺すのに必ず役に立つというのに、生憎その手段の持ち合わせもなくてね」
「…………」
「まさかこのタイミングで来るとは。俺達という存在を警戒してわざわざ自分から離れたというのに……クラスメイトが惜しくなったのか?」
淡々と話す彼女の声はさっきまでの《銀》を演じるために作られたような声色と全然違う……いなくなるまで毎日のように聞いていたアミーシャの声そのものだ。
再び笑い声を上げた柳沢から視線を外さない彼女に対して、2代目死神は俺等の驚愕も柳沢の嘲りも全てを無視して《銀》……アミーシャへと攻撃を仕掛けようと腕を振り上げたけど、柳沢が手を挙げてやめさせた。ここにきて動揺でも狙っているのか追い詰めようとでもしているのか、煽るように声を上げ続ける柳沢……アミーシャは、それらを黙って聞き流しているようだった。
……けど。
「クラスメイト達の反応はどうだ?ずっと隠してきたのだろう……?秘密を晒された気分は!?」
「……秘密……、そっか、バレちゃったから、もう隠さなくていいんだ」
ピクリとはじめて反応を返したアミーシャは、そこでやっとE組の面々の方へ顔を向けた。衝撃的すぎて何も言えない……様子を見ていることしかできない俺等を端から端までゆっくりと見渡して。
彼女は……勘違いじゃなければ、俺と目を合わせて一瞬動きを止め、そのままふわりと微笑んだ。ただ、それは今までに何度も見てきたような幸せそうな暖かなものではなくて。
「このE組で生きてきた、平和な世界で生かされてきた『真尾有美紗』はもうどこにもいない……もう、暗い世界で、闇の道で生きることを決めた私には必要ないの。我が名は《
───泣きそうなのに何かを覚悟した、悲痛で力強い微笑みだった。
ついに、この小説でいちばん私が頑張っていた伏線を回収……!読者様のどれだけの方がこの小説に出てくる《銀》=オリ主(アミーシャ)ということに気づいていながら黙って読んでくださっていたのでしょうか……!
(クロスオーバー先のゲームではリーシャ・マオが《銀》本人のため)リーシャが登場して力を貸してるんだと思ってた!という方も、そう取れるように頑張って書いてたので、それはそれで嬉しいです。
ネタバレなくここまで来れたのはその方やワクワクしながら読んでくださった方々のおかげです!……最後のお礼っぽいですが、最終回ではありません。
軌跡シリーズを知っていて読んでくださっている方にとっては『リーシャの妹』と設定している時点で、早々にバレていたと思います。わざと、ゲーム本編とほぼ同じ方法での身バレであり、この話らしい流れで公開とさせていただきました。こっちのエンドではこの方が合っていて……
次回、第一部最終話。
小説情報に載せているタグ通り、残酷な表現や描写が多く、かなり閲覧注意のお話になる予定ですが、ぜひ、把握した上でお読みいただけたらと思います。ガッツリ鬱展開です。