今回、閲覧かなり注意です。
ギリギリR-15でいけるはず。
渚side
ずっと、僕等の側で守ってきたつもりだったアミサちゃんが、これまでに何度も僕等を助けてくれていた《
今思えば……《銀》が僕等の前に姿を現していたのは、夏休みの特訓でカルマ曰くアミサちゃんが風邪で寝込んでいた時、死神にやられて気を失っている間にアミサちゃんがどこかへ迷い込んでしまった時、そして、夜中に母さんに連れられてここで殺し屋と対峙した時。全てアミサちゃんが僕等の近くにいない時だった。E組とまあまあ関わりのあった《銀》なのに、《
「そろそろ、動けるくらいには修復できましたよね……、超生物さん?」
「アミサさん……、……なぜ……、私は、あなたのお姉さんから、リーシャさん自身が《銀》なのだと聞かされて……あなたは、家業には関わっていないと……」
「ふふ、やっぱり殺せんせーにはそう伝えてたんだ……当代の《銀》はお姉ちゃんであってるよ。色々理由があって、本来は一子相伝の家業なんだけど私も例外として『道』を継承してる『影』のようなものなんだ。《銀》は歴代ずっとただ1人の同一人物のように振る舞うことができるように、技も口調も対応の仕方も全てを継承する……この1年間みんなの前に姿を見せてた《銀》は全部私。……気づかなかったでしょ?」
「ええ……お見事でした」
「それより、質問に答えてください……ある程度なら、いけますか?」
「……ええ、完全には程遠いですが」
再び構え始めた2代目の触手を見てか、感情の見えない無機質にも聞こえる声色でアミサちゃんが破れた黒衣を脱ぎ捨て、リーシャさんの戦闘装束と同じ服装になりながら殺せんせーに声をかけた。フラつきながらも立ち上がった殺せんせーは、僕等を背に守り続けながら《銀》……アミサちゃんの元へと近付いていく。彼女がこの場へ来てから、全ての攻撃を引き受けて時間を稼いでいたおかげで、殺せんせーは完全回復は無理でも動ける程度には回復できていたらしい。
……それでも、2代目死神の
「連携されるから手が回らない……だったら分断してしまえばいい。手負いの超生物さんはあの男の人をなんとかしてきてください。私が2代目さんを引き受けます」
「「「な……っ!?」」」
「な……、な、何を言ってるんですかッ!?先程までの柳沢は、可能なら殲滅、次いで貴女の仮面を割って正体を明るみにすることに攻撃を集中させていたかのように見えます!その目的を達した以上、先ほどよりも攻撃に遠慮は……!」
「だからこそ、です。それに体力的にも私の方が戦える」
「それでも触手を移植したとはいえ柳沢より2代目の方が強い!せめて逆でしょう!?」
「……じゃあ、あの人、殺していいの?」
「……、……えっ、殺すって……」
「なんの冗談……」
「……?冗談じゃないよ。ここでの会話は最初から聞いてたけど、あの2代目は触手の代償で元に戻せない上にもう命の期限が決まってるから殺してあげるしかない。でもあの人に関しては国がバックに着いてるから殺すわけにいかない……教会に外法認定されてるわけでもないし、そもそも依頼もなしに手をくだせない。それでも私はこれから殺す気で相手をするし、殺していいなら私があの人を相手にしてもいいけど……」
キョトンと、当たり前のように彼女が話すそれは、僕等からすれば衝撃的な倫理観でしかなくて……だけど僕等とは違って元々暗殺者として、生きているものの命に向き合ってきたアミサちゃんからしたら当たり前の感覚なんだろう。……これが、
殺すしかない2代目死神と、殺してはいけないが倒す必要のある柳沢……殺すという行為に躊躇いがないだけでアミサちゃんの言ってることそのものは間違ってないから、殺せんせーも何も言えなくなっている。それに、アミサちゃんから見ても、これは殺す気で向き合わなければ勝てない戦いなんだ。
「それに、これ以上の全力戦闘を相手にするのは、
「!!……お見通し、ですか……それでも任せるわけにはいきません。貴女が認めなかろうと、アミサさんは……アミーシャ・マオさんは私の大事な生徒です!生徒を守らない先生なんていませんから!」
名称を伏せられてなんの事だか分からない会話を経ても、アミサちゃんは全く折れる様子がなくて……心配して守ろうとする殺せんせーにそっと向けられた視線は、さっきまでの温度をなくしたものでは無く、あたたかいものだった。
「……だったら……アミサもちゃんと耐え切るから。さっさと倒して……助けに来てね、……殺せんせー」
「!……仕方ありませんねぇ……ええ、もちろんです!」
ふわ、と少し痛々しい笑顔を向けた彼女は、さっきまで『
立場を変えただけで状況が変わったわけじゃないけど、アミサちゃんが折れるつもりがないこと、そして先生を信じているんだと暗に言っているのを察して、殺せんせーは提案を飲むことに決めたらしい。すぐさま柳沢の方へと飛んで行った殺せんせーを見送ったアミサちゃんは、僕等の方へと振り返った。
「……前も言ったけど……私、みんなのこと大好きだよ」
バチバチと音を立て始めた2代目死神の触手を横目に笑った彼女は、これまでずっと見てきた姿となんにも変わらない、小さくてどこかに強さを秘めているままだった。でも、すぐそこにいるはずなのにこっちを見つめる雰囲気はとても儚げで……今にも消えてしまうんじゃないかってほど、危ない雰囲気しか感じなかった。……あれ、さっき、アミサちゃんの一人称……まさか、
「待ってよアミーシャ……」
カルマも気付いたようで、少し血の気の引いた表情で声をかけているけど……アミサちゃんは止まらない。
「多分、私が覚えてる限りじゃ、隠し事はこれで全部。……ありがと、こんなに偽りだらけの私と一緒にいてくれて。……これが終わったら、ホントにさよならするから」
「真尾……?」
「アミサちゃん……何言って……」
「……暗い闇の世界しか知らなかった私に、たくさんの光の世界を教えてくれたE組のみんな……気づいても、知っても私の事情を誰にも話さないでいてくれた烏間先生とイリーナ先生。私が外を見るきっかけをくれた渚くん、世界を開いてくれた殺せんせー……私にたくさんの感情を、……人を愛するって気持ちを教えてくれたカルマ。みんな、みんな私の大切だから……だから、この《銀》としての力でみんなを守るのが、私の最後の役目。私の進む道は……大事なものを守るために、戦うことだって決めたから!」
そう言うやいなや、僕等の制止の声も聞かずに飛び出して行ったアミサちゃんは、再び2代目死神の触手とぶつかり始めた。先程以上のスピードと威力になった触手による怒涛の攻撃についていく彼女は、仮面を付けていた黒衣の時の戦闘より格段にスピードも、大剣を使った攻撃の威力も上がっているように見える。
上から突き刺さる触手をなんてことも無いように飛んで避け、触手を足場に駆け上がっては本体を大剣で斬りつける。弾き飛ばされれば空中で体勢を立て直し、クナイや符を使った飛び道具を飛ばして攻撃の手を弛めない。《銀》としての実力は何度か見てきてたけど、それが彼女だと分かった上での戦いは初めて見る……なんというか、まるで踊っているようで。
「……あの子……あんなに強かったの……?」
「あんな気迫……訓練でもどこでも見たことない」
「……真尾さんは、君達にだけはバレたくないとかなり注意を払っていたからな。正体がバレないために能力のセーブ、そして内功を使って見た目を偽る体型操作などに力の幾分かを回していたから、今までは本気を出せなかったんだろう」
「烏間先生!」
「ビッチ先生も……」
僕等と同じく離れた所で様子を見ていた烏間先生だけど、アミサちゃんと殺せんせーに戦力が分散した今、僕等の所へ来る余裕はできたらしい……ビッチ先生と一緒に生徒の無事を確認しに来てくれた。
その言葉から、烏間先生はアミサちゃんが《銀》であると知った上でこの1年を過ごしてきたんだということがわかる。烏間先生には言えて、僕等には言えない事情だったのか。殺せんせーの暗殺という生死に関わることに一緒に関わってきたのに、信じてもらえてなかったのか。そんな思いからだろう……何人かのクラスメイトが烏間先生へ詰め寄る。
「なんで、言ってくれたら!」
「先生達は知ってたんでしょ?なんで私達には……っ」
「言ったところで、君達は受け入れられたか?」
「……っそれは、」
「彼女を暗殺者と知らず、同じ教室の中でずっと一緒に生活していた……真尾さんは凶手として既に仕事とはいえ人に手をかけているんだ。とっくに汚れてる自分を受け入れてもらえないのが怖い、暗殺者と一般人は生きるべき場所が違うし、影の道を行く自分が光の道を歩く君達を巻き込みたくない、……そう言っていた」
「そんな……」
「……私ですらアミサが《銀》だって知ったのは、あのカエデの暗殺の夜なのよ?まさか《銀》が2人いるなんて思わないし……しかも学園祭の時には当代が自分でバラしてくるし。完全に騙されてたわ」
「……そっか、ビッチ先生は元々知り合いって言ってたもんね」
「そんで思ってた以上にリーシャさんが暗躍してる……」
「徹底的に真尾が《銀》とは無関係だって思わせるために騙してるわけだもんな」
「そう。同業者である私にすら偽って……全部抱え込むのと同時にそうして隠すことで周りを守ってたのよ。アンタ達が平和に授業を受けてられたのも、あの子が昼間に襲撃してくる殺し屋の内、あのタコが対応できない分を全部掃除してたから」
「……え、アミサちゃんは一緒に授業受けてたよ?中抜けしたことなんてないはず……」
「アンタ達も1度目にしてるわよ、そのカラクリを」
ス、と僕等からアミサちゃん達へ移したビッチ先生の目線の先を追えば、接近戦ばかり仕掛けていた彼女が触手を弾く反発の力を利用して後ろへ下がり、大剣を構え直したところだった。
そのまま踊るようにその場で一回転した時には……そうとしか表現しようがないんだけど、アミサちゃんが
「……え、えぇっ!?」
「殺せんせーのような分身……あ、夏休みのプールでの事前訓練してくれた時の……」
「《分け身》ってクラフトよ。使い手はほとんど見た事ないけど、本体より体力の劣る分身になる代わりに、それ以外の性能はまるで同じ……あのタコの分身と違って独立した実体だから実質戦力は2倍、さらに分け身を作れば3倍ね。多分あの子が柳沢じゃなくて2代目の討伐に名乗りを上げたのはこれも理由よ……人間相手じゃ過剰戦力だからって……ほんとバカな子……」
先生達も隠したくて隠していたわけじゃない。……アミサちゃんの思いを知っていたから、そしてこの1年の間たくさん頑張ってきたことを知ってるからこそ、無理をしてきた代わりにその思いを最後まで叶えてあげたかったんだ。
きっと暗殺者として依頼した《銀》としてだけでなく、1人の生徒として見ていた烏間先生、元々同じ暗殺者として友人関係を築いていたビッチ先生だって、今、この場を彼女1人に任せなければならない状況に苦しんでる。
「……私、何も知らなかったら怖がったり避けたりしちゃってたかもしれません……でも、今は違います!ここまでいろんな苦楽を共にしてきたんですから……っ」
「俺もそう思う……あの子はただ、怖がりなだけだよ。それに相変わらずの勘違いと自己評価の低さだよね」
そんな空気の中、先陣を切るように奥田さんがぎゅ、と胸の前で手を握りしめて言った言葉は、僕等の中に1つの波紋を生み出した。そうだ、過去では受け入れられないかもしれないけど、今の僕等だったら。
そして、奥田さんに続くようにここまで黙りを続けていたカルマがやっと口を開いた。はぁ、と呆れたように息を吐いた彼は不安の色を目に映しながらもあの戦闘から目を離さないでいて……
「……カルマ」
「自分がどれだけこの教室で愛されてきて、俺を含めてどれだけの奴に影響を与えてきたのか分かってないんだから、そう言うしかないっしょ?俺等がどう思ってるのか分かってないなら、分からせてやればいいんだよ……全部終わったら、連れ戻す」
「……そうだね……うん、それがいいよ。信じるからこそ今はアミサに任せよう」
「ここにいても足手まといにしかならないしね……、皆、向こうまで逃げよう!……それで、全部終わったら僕等E組で……全員で迎えに行こうよ!」
もちろん、茅野も一緒に。戦いに巻き込まれないように、戦うアミサちゃんや殺せんせーの邪魔にならないように、それでいて様子は見えるように……それを考えると、触手を持たないアミサちゃん以外は通り抜けられないバリアの外が1番安全だ。腕の中で眠るように動かない茅野をもう一度抱き直し、僕はE組の先陣を切るように走り出した。
僕等に危険は少ないだろう場所へ避難してから振り返ると……、アミサちゃんがここまでに生み出していた分身が全て消えてしまったところだった。そして、本体であるアミサちゃん自身がいくら僕等より強いとは言ってもさすがに1人での戦闘はそろそろ辛いものがあるんだろう……動きは変わらないように見えるのに、少し落ち着いたところで見ると最初に比べて明らかにボロボロになっているのが分かってしまった。
……それは、そうだよね。いくら一騎当千の実力だと称されていても、伝説の魔人の片割れだとしても、彼女の本質は
「……っ、ねぇ、あーちゃん、もうボロボロだよ……っ」
「回復アーツ、使わないの……?体力を戻して、怪我も治せるんでしょ……」
「……1人であの最高速度マッハ40の怪物を相手にしているのよ。導力魔法はどうしても駆動時間がかかるの、アーツを使う時間を稼ぐ余裕も無いから選択肢にすらない……だからあの子は、即時発動のクラフトしか使わない」
「茅野さんと同じだ。1年、
一緒に攻撃する分身がいなくなっても、2代目死神と戦う彼女の勢いが止まることはなかった。まるでここがステージの上かのように月明かりに照らされながら戦う姿は、舞を踊っているかのように優雅で儚いと感じるのに、僕等と比べて何倍も力強い。
プロの殺し屋であるイリーナ先生も、人間を辞めてるような烏間先生も強いけど、それはあくまでも人間相手での話であって、音速のバトルには割り込めない。割り込めるかもしれないけど、対等に戦えてるアミサちゃんと、万が一でも同士討ちになってもいけないから……2人とも心底悔しそうに戦闘を見ている。
と、急にアミサちゃんが顔を上げたかと思えば、今までとは違う構えをとってかなり大きく跳躍した。
「《……我が舞は夢幻……去りゆく者へ手向けを》」
「ッ!?三日月が……丸く……」
「キレイ……あれは、幻……?」
「まさか、幻の力を使ってるんじゃ」
「いえ……あれは、《銀》のSクラフト……《幻月の舞》。《銀》に伝わる術だからあの子の幻の力じゃないわ」
アミサちゃんがふわりと1回、あの空に浮かぶ崩壊した三日月を背に舞を踊るように回ると、ブワッと銀色の光が見えたかと思えば、ありえない光景が僕等の視界に入ってきた。殺せんせーを生み出した触手細胞……もとい、反物質によって崩壊させられた三日月が、満月になって空から見下ろしていたから。
最初こそ禁止された力を使ったんじゃないかと思ったけど、まっすぐ目を離さないで見つめるビッチ先生によって否定された。Sクラフトってことは……《銀》の暗殺術の中でも奥義にあたるものってことだ。
「《眠れ、
空中から先端に鉤爪の付けられた長い鎖が2代目死神に向けて幾つも放たれ、2代目の戦うために前傾していた身体、そしてその他の触手にも巻きついていき、それらに絡み合いながら更に地面にも突き刺さって2代目の身体を拘束していく。ほとんどの触手を押さえつけられて身動きが取れなくなった2代目は身体を暴れさせて逃れようとしてるけど、ミシミシと壊れそうな音を立てながらも鎖は切れない。
「《滅ッ!》……っ……!」
そこにアミサちゃんが飛び込んで行き、大きく振り被った大剣を叩きつけるように斬りかかった、時だった。
────ズリュッ!
「「「!!!!」」」
「っ……、なら、これでトドメッ!!───ッぐ、ぁ」
ほぼ同じタイミングで、2代目死神はアミサちゃんの鎖で拘束しきれなかった触手を盾にするように集め、斬りつける大剣を受け止めてしまった。対触手物質が刃に仕込まれているからか、叩きつけた勢いのまま幾分かは沈み込んでいったみたいだけど、大剣は触手に絡め取られてしまっていて……きっと、メイン武器としてはもう使えないんだろう。
2代目死神が鎖で拘束しきれない体の隙間から新たに触手らしきものを勢いよく生み出したせいで土埃が巻き起こり、それによって僕等側にはアミサちゃんの姿が隠されてしまったのだけど……見えなくなる直前、すぐさま大剣を手放していた彼女は、別の小さな何かを構えて2代目死神の懐に潜り込むと、体の中心目掛けて勢いよく突き立てていた。
「グァ……」
殺せんせーが人間から超生物に変わっても、体の中心に弱点である心臓があるように……2代目死神だって、あの位置にあるのは……心臓だ。Sクラフトそのものもその部分を狙っていたんだろうけどそれが叶わないと察した瞬間、アミサちゃんは対触手ナイフで直接刺しに行ったんだろう。
ゲボッと、2代目死神の口から体液のようなものが吐き出され、苦痛の声が聞こえる。あの化け物のような体に秘められたエネルギーが漏れ出すように、光りながらひび割れていく。……やった、ついにアミサちゃんが決定打を与えたんだ。僕等の誰もがそう思ったのも束の間、誰よりも先に赤髪の彼が彼女の元へと走り出していた。
「───アミーシャァッ!!!」
悲痛な、悲鳴のような声で彼女の名前を叫びながら。
……土埃が晴れていく。
暗い夜の中、光となって消えていく2代目死神と違って、闇に溶けて消えそうな小さな女の子の姿が、僕等からは不思議とよく見えた。
────2代目死神から生えた鎌のような触手に体を貫かれた、その姿が。
◆
渚side
「なんで、……君は、」
「……ねぇ、貴方は何も伝えなくてもいいの……?」
「……僕は、あの人に……先生みたいに、なりたかった……ただ、見て欲しかっただけなんだ」
「……うん、伝えてあげる……私が、貴方とせんせーの、最後の会話を奪っちゃった代わりに……」
「…………ありがとう」
蛍のような光の粒子となって、2代目死神が夜の闇に溶けていく────魔人と称される暗殺者《銀》であるアミサちゃんと、人ならざるモノと化した2代目死神との戦いが終わった。
皆、あまりの光景に、身体も心も動かなくなってしまったかのように、空気が凍っていた。目の前で2代目死神が最後の光となって空へ昇っていった……だけど、2代目死神が消えるということは。
穿ったと同時に穴を塞ぐ栓の役割をしていた触手が消えた瞬間、彼女の腹部からおびただしい量の血が溢れ出し……自力で自分の身体を支えられなくなった彼女は、重力に従って静かに地面へと倒れこんだ。そこでようやく、金縛りのように動けなくなっていた僕等は皆、反射的に走り出す。
「アミーシャ、アミーシャッ!!」
「赤羽君、そのまま押さえながら呼びかけ続けろ!!すぐに圧迫止血を行う!」
「タオル……!先生、ハンカチなら!他にもなんでもいいから布がある人出して!!」
「なんでッ!避けてもう一度立て直せば……ッ!」
1番最初に駆け出して既にアミサちゃんを抱き上げ仰向けに直してやってからお腹の傷を押さえて呼びかけ続けるカルマに続き、三者三様……そんな言葉があっているほど、E組のクラスメイト達はアミサちゃんに駆け寄り叫ぶように名前を呼ぶ。
《銀》としての戦闘装束……彼女のお腹から流れ出た血液で赤黒く染まっているのが、この暗さでもよくわかった。倒れたまま全然動かない彼女を揺すっていいのかすら分からない……せめて止血だけでもしたくて、タオルやハンカチなどをかき集めた烏間先生がカルマと2人がかりで圧迫してるけど……苦しむ様子もなく、その表情はまるで眠っているだけのようで……
「…………ぅ、……」
「……!意識が戻った!!」
「アミサちゃん、アミサちゃんッ!!」
もう死んでしまったのではないか、そう思った矢先に小さく反応したうめき声が聞こえた。意識が朦朧としているのだろう……あれだけ気配に敏感で、どんなに小さな音にでもすぐに反応を返していた彼女が誰が声をかけても大きく反応を見せないでされるがままになっている。
烏間先生に圧迫止血を任せたカルマが彼女の上半身を軽く地面から抱き上げたところで、かすかに表情が動き、目が開いた。虚ろな瞳でカルマの顔あたりをぼんやりと見ている……カルマ君に向ける彼女の視線がズレてるような気がするけど、まさか……
「……アミーシャ、なんで……」
「……最初から、カルマにはバレてたね……私が、刺し違えてでも、殺すつもりだって……」
「バカだよ、大バカだ……それに、……ずっと、守ってくれてたんだろ……もっと早く俺等の所に戻ってくればよかったのに……」
「ずっとって……」
「この山に潜入直前のリーシャさんからの通信……山の上は通信も電源も全てカットされてるからって、あのタイミングで繋げられたのも。確実なツテの正体も。俺等が、俺が求めてた情報を的確に用意できたのも……全部、見てなきゃ知らないことだから。それに《銀》は殺せんせーを殺す側の存在なのに守ろうとしたのも……俺等が殺せんせーが死ぬ確率がほぼないって確信して、助けようとしてたのを知らなきゃ、できないでしょ」
「「「…………」」」
「……もう、かなわないなぁ……ホントは最後まで……見てるだけのつもりで……もう、私はE組じゃないからって……なのに、カエデちゃ、みてたら……えへへ、つい、とびだしちゃった……」
「関係ないなんて……ここがアミーシャの居場所じゃんか!……そうだエニグマッ!《水》は不発だったけど《風》ならッ」
「もう、いーよ……なんにも、見えないもん……まにあわないって……わかってる」
「……簡単に諦めんな!」
……やっぱり、自分に向けられた声と体の揺れに反応して視線を向けているだけだったんだ。……彼女の、……アミサちゃんの目は、もう何も映していない。だんだんと呂律が回らず鈍くなっていく反応に、カルマ君は慌てながらもエニグマを探そうとしてたけど、多分装着してた金具がちぎれてるのを見て周囲を見回している。
前に特務支援課の人が言っていた……他人の導力器でも使えないことはないって。知識だけならイトナ君にもありそうだけど、発動経験があるのはカルマだけ……以前試した時はは苦手な属性だったせいで不発だったけど、それじゃなければ発動するかもしれない。感覚を知っているからこそ、彼に賭けるしかない、そう思ったのに。
「…………カルマ」
「ッ!イトナ、ナイス!早くそれ貸して、」
「…………使えない。多分あの時一緒に触手に潰されて」
「貸してッ!!──────、」
何処からか導力器を見つけてきたらしいイトナ君へ、カルマは嬉しそうに手を差し出したけど……見つめるだけでいつまで経っても渡そうとしない。絞り出すように告げられたソレを受け入れられるわけもなくて、ひったくるように奪った導力器の蓋を開いたカルマは……一気に青ざめた。横から覗いた僕でも分かった……導力器の中の回路は潰れたり捻れたりしてぐちゃぐちゃで、いくつかセットされていたガラス玉は砕けてしまっていたから……ここまでボロボロだとそう短時間で直せるものじゃないって事くらい察しがつく。
この場で唯一この機械の修理をできる可能性がある、落ちているのを見つけてきた本人であるイトナ君を振り返ってみたけど、彼は静かに目を閉じて首を横に振った……直せない、そういう事だろう。
「……私は、《銀》だから……いらないものは捨てたはず、だったのになぁ……」
「……そんなの、アミーシャが《銀》だからじゃない……アミーシャがアミーシャだからでしょ……俺等を『いらないもの』じゃなくて『大切だ』って思ってるからの行動だろ!」
「……そっ……かぁ……、大切……。……ねえ、みんなのこと……まもれたよね……?」
「……ッ、それは……」
「……カエデちゃんは、へーきだよ。殺せんせーが……それが見え、から……あのタイミングで介入し、ゴホッごぽ……ッ」
「そ、そうだよ、殺せんせー、殺せんせーは今どうなってんの!?」
「……あっちで今なんか光った……前にも使ってたエネルギー砲だよ!」
「そうか、吹き飛ばすだけなら……!アイツも触手を埋め込んでて、バリアは越えられないから……!」
アミサちゃんから『皆を守れたか』と聞かれて、咄嗟に答えられず言葉に詰まってしまった。アミサちゃんが来る前に2代目に殺られてしまった茅野は、僕の腕の中で息もしないで横たわっている……なのに、それを見たアミサちゃんは大丈夫だと笑う。殺せんせーが……何?最後まで言い終わる前に、何度も苦しそうに咳き込んだ上に血を吐き出してしまった。
皆、アミサちゃんが助かる最後の希望を殺せんせーに託している……向こうの方で純白のエネルギー光が見えるし、こっちに来てくれるのも時間の問題だろう。それまで何とか意識をつなごうと、皆で代わる代わる話しかけ続けた……だけど、大きく咳き込んだあと、小さく笑った彼女は首を横に振った。
「……ね、せんせーに、でんごん……2代目、は……ころせんせ、みたいに、なりたかったんだって……見てほしかったんだって……かわりに、おねがい……」
「……自分で伝えればいいじゃん!あと少しだから……ッ!!」
「殺せんせーが来れば、もしかしたらがあるかもしれないんだから!」
どんなに訴えても、彼女は自分がどうなるのか理解しているように小さく微笑むばかりで……茅野の時点で鼻をすすっていた倉橋さんや神崎さん、奥田さんなんかは、この先を察して泣き出してしまっている。
「……アミーシャ……ッ」
「……へへ、……なんで、かな……もう、いたくないの……さむいのに……カルマはあったかい、ねぇ……」
「……ッ!ねえ、諦めんなって言ってんじゃん!ずっと一緒に居るって誓っただろ……ずっと見てるって……どんな秘密があってもアミーシャを恋人としてそばに置くって約束した、1人にしないって……!」
「………そ、かぁ……おぼえてて、くれて……うれし、な……。……ねー、カル……、なか、ないで……、──────」
「何、聞こえな……!」
「──ありがと、だいすき……あいしてた」
約束を、誓いを、カルマが今でも覚えているのだと知って、アミサちゃんは本当に嬉しそうに笑顔を浮かべながら何か言おうと口を動かしている。だけど、もうヒューヒューという空気の音しか聞こえなくて、カルマが何とか聞き取ろうと彼女の口元に耳を近づけ……目を見開いて彼女の顔を凝視した。
ゆら、とアミサちゃんの手が上がり、すぐ近くに近付けているカルマの頬を1度だけ撫でて……パタリと、力なく地面に落ちて、
「……アミーシャ?……ありがとって……、……ねぇ、」
「……………………………」
「冗談でしょ……?やっとE組に、……俺の前に戻ってきたのに……全部終わったんだから、これからずっと一緒にいられんだよ……?大好きも愛してるも、こんなボロボロの時じゃなくてさ、ちゃんと、言ってよ……」
「……………………………」
「ほら、起きて……、E組みんなで労ってやるからさぁ……そんで、悪いとこは叱って、おかえりって言わせてよ……前みたいに、いつもみたいに『ただいま』ってさ……言ってよ……ッねぇってば!」
「……………………………」
「……カルマ、真尾はもう……」
「なんで……、 なんでなんだよ……ッ!!……う、あああぁぁ……ッ!」
……カルマの腕の中で、静かに息を引き取った。ピクリとも動かなくなったアミサちゃんを抱えたカルマの超体育着がどんどん彼女の血を吸い込んでいく。
彼女の死に顔は今にも起き出しそうな寝顔にしか見えなくて、目覚めることを願って何度も何度も声をかけて、それで、……初めて、カルマは僕等全員の前で隠しもせずに涙を流した。どんな時でも飄々とした態度を取り続け、表情を取り繕い、泣きそうに顔を歪めていても涙ひとつ見せたことがなかったのに……この教室の中で1番付き合いの長い僕ですら、初めて見た涙だった。
茅野が倒れアミサちゃんまでもが……大きすぎる犠牲に誰も、勝利を喜ばない……喜べない。慟哭するカルマの叫ぶような声に、みんな悲痛な面持ちで顔を背けたり俯いたり……生徒だけじゃなく烏間先生達も彼等を見ていられなくて、誰もが彼等から意識を外した。カルマにとってはクラスメイトが亡くなったってだけじゃない、半身のように大切にしていた最愛の恋人を犠牲に生き残ったようなもの……失った喪失感は茅野の犠牲以上だろう。
……僕も、こんな不安定な腕の中なんかじゃなくて、安全な地面に茅野を下ろしてやりたい。グラウンドのド真ん中を目指すよりは、校舎の近くの方が近いし安全だと、敷くものを取ってくるという千葉君に甘えて、カルマとアミサちゃんはしばらく2人きりにしてあげようと背を向けた。
──────……
皆の悲痛な悲鳴を頼りに、柳沢をなんとか無効化して近付いてきた殺せんせーは、僕の腕にいる茅野と、地面に座り込んで動こうとしないカルマと、その腕の中で事切れたアミサちゃんを見て、たった一言……『そうですか』と呟いた。
そして、ゆっくりと空中から降りてきたのは……殺せんせーの細い触手によって保管されていたらしい、茅野の血液や体細胞……あの激しいバトルの中で回収なんてしてたんだ。こんなに酷い傷口なのに茅野の血が全然流れていないと感じたのは、殺せんせーが回収して保管していたから。
「アミサさんは、気付いていました。温存しているとはいえ、2代目を相手にしていてもしもがあっては茅野さんを助けられないかもしれないと。それなら厄介ながら少しでも危険の少ない柳沢に……私の因縁そのものとの決着を付けるよう誘導したんでしょう」
アミサちゃんが殺せんせーに代わって2代目死神の相手を引き受けた本当の理由は、茅野の生命線を守るためだったんだ。僕等が気付いてないだけで、アミサちゃんも殺せんせーも僕等を守り続けてたんだ。
……そして、針も糸も使うことなく、殺せんせーの触手による茅野の手術が行われた。それによって、跡1つ残さずに傷口がふさがっていく……電気ショックで再び動き出した心臓により、茅野は息を吹き返した。
──────……ザザッ……
「……また、助けてもらっちゃった……」
「何度でもそうしますよ……お姉さんでもそうしたでしょう」
皆、茅野の蘇生を一様に喜んだ。飛びついたり、抱きしめたり、胴上げなんてしようとした人すらいた。その場にいさえすれば、体をバラバラにされても蘇生できるよう備えていたと言う殺せんせー……僕等は、これでアミサちゃんもが助かると一気に希望をもった。……だけど。
「……すみません……、アミサさんは……」
アミサちゃんの致命傷となった傷は、2代目を殺す直前……殺せんせーが柳沢と交戦している最中だった。茅野の時のように、その現場を見ていたり精密な触手の操作をして飛び散ったそれらを集めたりする事が、殺せんせーには出来なかった。その上、何とか血を止めようと殺せんせーが動く前に血も、細胞も地面に落ちて汚れてしまっていた……タイミングが悪かったんだ。
……今、はっきりと理解した、……せざるを得なかった。大切な1人の友達の死を、僕も、誰も、止めることができなかったのだ、と。
──────……ザザザザッ……
クラスメイトを失った上に……恩師まで、自分達の手で殺さなくちゃいけないのか。
それくらい、いつもこの教室の中心にいた彼女の存在は大きかったんだ。
酷な選択を迫っているのは分かっているが、決めて欲しいと先生達は言う。
僕等の頭の中はもう、ぐちゃぐちゃだった。
……だけど、決めなくちゃいけない。
レーザーの発射時刻は迫っていて……決断の時は迫っていた。
僕等は、僕等の決断は───────
──────ザザッ……ザー…………………
朝、目覚めて外を見ると、早咲きの桜が……小さく、強く……揺れていた。
「……みんな、あの後寝ちゃったんだ」
「感傷に浸る暇もなくアドバイスが細すぎてうんざりしてきてな……」
「いなくなった気がしないね、先生」
「ていうか、E組の恋愛実録小説ってマジだったんだな……」
「ほっとんど前原の女性遍歴とカルマと真尾の章だけどな」
「ウチの名物だから仕方ないよ……そうでしょカルマ。……、……あれ、カルマは……?」
「え……」
「誰か見てないの?」
「律は?」
『……渚さんが起きた30分ほど前に教室を出ていかれました』
「起こしてくれたら……」
「ねぇ、アミサちゃんも消えてるよ!?」
「「「!?」」」
「胸騒ぎがする……」
「絶対カルマがアミサちゃんを連れていったんだと思うけど……カルマ、どこに行っちゃったんだろう」
「全員起きてるのか、早いな。……どうした?」
「烏間先生、ビッチ先生!カルマと真尾がいなくなってて……」
「何?……律、」
『…………………黙っていてすみません。烏間先生含め、みなさんにカルマさんから伝言を預かっています。【最初から、それこそアミーシャと2人で崖を飛び降りた時から決めてたことだから。だから、……烏間せんせ、みんな、ごめんねー教室から、2人も】……以上です』
「「「……は?」」」
「まさか、……律、2人の居場所は!?!?」
『……お二人が、最初に命をかけた場所です』
◆
『…………これで、いいんですよね』
「ありがと、律……さいごまでごめん。でもみんな知ったらさ、絶対止めるじゃん?」
『当たり前、ですよ。私だって生身の体があったら……しがみついてでも止めてます』
「でも、みんなに今の今まで言わないでくれたじゃん。……みんなのところに戻ってもいいんだよ」
『……いえ、私だけでも、見届けます。全てが終わったあとにみなさんに伝えなきゃ、お二人を見つけてもらわないといけませんし』
「そっか」
「『……………』」
「……ねぇ、アミーシャ。先生とアミーシャに繋いでもらった命……本トならアミーシャがいない世界でも生きるべきたったんだろうけど。ごめん、俺がダメだった……耐えらんない」
「……殺せんせーも許してくれないんだろうなー……『なんでここにいるんですか!?早すぎでしょう!?』なんて。……あは、言いそー!」
「……それでも……見捨てないんでしょ、殺せんせー。いつでも信じて飛び降りろって言ったのはアンタだからね」
「……アミーシャは、怖がりで……寂しがり屋だから。俺は1人にしないよ……約束通り……ずっと……死んでも、一緒にいるからさ。……今からは俺のワガママだけど付き合ってくれるよね」
「……、俺だって、愛してたよ。これからも、ずっと一緒だ」
──────…………………プツリ。
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バッドエンド。
これが1つ目の分岐の先にあるエンドとなります。
元々全部1人で抱え込みがちなオリ主が、カルマの、渚の、E組の、そして先生たちの選択の先に、誰かに頼ることを選ぶことに考えが向かずに、1人で戦うことを選択してしまったがために訪れた結末でした。
1つのエンドでオリ主が死んでしまうのは、元々考えていた内容でして……矛盾点を無くすためと、もっとこうしたい欲を詰め込んだ結果、リニューアル前と違ってカルマのその後をハッキリと描写せず、オリ主の最期の描写などを含めて一新しました。
読者様方に何を言われるかと思いながらも、これまでのかかわりや言動を考えるとありえると書いている途中で思い、こんな展開に。なんでこんなことをしたかと言われたら、軌跡シリーズを知る方には、この小説は『零の軌跡』『碧の軌跡』とメインでクロスオーバーしてることが最大のヒントです。
では、まず第一部をここで閉じさせていただきます。
同時投稿の【断章:???の想い】で、なんでキャラ死亡ルートなんて暴挙に出たのかの補完をしているので、ぜひ読んでいただきたいです!
まずは、第一部のリニューアル投稿にここまでお付き合い下さりありがとうございました!
ここからは期間をいただきますが、第二部の執筆を進めていきます!