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第二部に入る前に。
正直、その日は気まぐれだった。まぁ、厄介事に首を突っ込みに行くのはいつもの事だけど……なんか、無性に気になって。
「〜〜っやだ、……来ないで、ください!」
……初めて出会ったあの日、彼女は不良に襲われていた。
「ねー、お兄さん等。なにやってんの?」
「ッ赤色さん、危な……っ!」
「──ガァッ!」
「……え?」
「え、なに〜?聞こえなーい!あははははっ!あ、カバン持ってて〜」
「あー、うん。程々にね」
最初は暇つぶし程度だったんだ。いつものように俺なりの正義で、偶然見つけたし助けたいと思ったから間に入って彼女の代わりに不良の相手をしてやっただけだった。
「なーにー?俺も混ぜてよ」
「あ、終わったんだ」
そしたらケンカしてる俺より先に、彼の方が彼女と話して少し打ち解けていて……理由は分からないけど無性に腹が立った。気が付いたら2人の間に割り込んでたし、彼の姿を彼女の視界から外すように遮っていた……まるで俺に注目を向けたいかのように。
「あ、あの……助けてくれて……ありが、とう。いきなりで、どうすればいいか分からなくて……怖かった、から……」
「ううん、僕はなんにもしてないよ。むしろしてたのは……」
「あれなら本気になる必要も無いくらいだよ」
「イキイキと不良の中に飛び込んでいったもんね……」
思わずなんてこともないように装って、得意気に
「僕は潮田渚。よろしくね」
「赤羽業。……見たところ同じ学校同じ学年みたいだし、気軽に下の名前で読んでよ」
「僕も下の名前でいいよ」
「私は、有美紗、……真尾有美紗、です。よろしくね……カルマくん、渚くん」
そんな俺等を最初、呆然と見つめていたのに、ふわりと笑顔をみせて自己紹介を返してくれたんだ。それは、まるで自分を救ったヒーローに憧れるような
「……よっと、」
「!?」
「あ、暴れないでね?投げ捨てるから」
「な、なげ…!?」
目の前で男同士の激しい喧嘩を見たくせに怯えることなく、むしろ血を流させた方に笑顔を向けた彼女に、俺は何かがザワついて落ち着かない気分になって……何故か熱くなった顔を見られる前に、慌てる彼女を抱き上げて移動していた。
気付いてなかっただけで、俺はその時からきっと心のどこかで確信していたんだ。
────俺は、この子を好きになるって。
◆
「これ、なんか、2人に似てるなぁって……つい」
「そ、そうかな?」
「ふーん……買うの?」
「うん、2人と会えない時でも、一緒な感じがするなぁって……私のお守りにするの」
あまりにも彼女が世間知らず過ぎることが判明してから始まった『勉強会』。とにかく女の子が喜ぶ……
彼女が嬉しそうに手で包み込むソレになんか腹が立って、彼女には彼女似のキーホルダーを押付け、気付いたら赤毛の猫は俺が購入していた。……自分似のキーホルダーとか、絶対いらないのに……ソレは最期まで俺等のカバンに下がっていた。
────パチリ
「……あれ誰なの?何なの?」
「何なのって……、浅野学秀くん、A組の人みたい。……んと、本が取れなくて、取ってくれたの。その後、お話したいって言われて……断れなくて」
「アミサちゃん、小さいからね〜……、……ごめんって」
「え……アミサちゃんA組に行くの?」
「……行かないよ、だってカルマくんと渚くんの近くが私に優しい居場所、だもん」
「……そっか」
中1の頃から彼女は130cm前半くらいしか身長がなくて、椚ヶ丘の背の高い本棚には苦労してたっけ……台使えばいいのにって気もしないでもなかったけど、ああやってぴょこぴょこやってるのを見るのが好きで渚に呆れられてたな。
そんで、目を離した隙に浅野クンが声掛けてるっていう……でも、彼女は迷いもなく俺等の近くを選んでくれたんだよね。
────パチリ
「カルマくんのせいとか私、全然思ってないからね?」
「……べっつに〜。そんなんじゃないし……」
「じゃあそろそろアミサちゃんの髪いじるのやめなよ……」
「は?……え、……っ!」
「いだぁっ!?」
彼女の特徴的だった長くてふわふわしてた髪……それを切ることになったのは俺が原因だったっけ。決定的な隙を一瞬作るためだけに、バッサリと……なのに、彼女が気にしていたのは最後まで俺の事だけだった。巻き込まれたのは彼女の方なのに……恨み言ひとつ吐かず、ボロボロと泣いていた。
もったいないなって思ってたらずっと彼女の髪を触ってたみたいで……渚に指摘されるまでマジで気付かなかった。無意識でやってたあたり俺、若干変態じゃね?って思い至った時には渚を叩いて自分の席に逃げていた。
────パチリ
「……いらない、もう、なにもいらない。やっぱり、しんじちゃダメだったんだ、……なにが?あれ?わたし……」
「……、」
「……あは、あははははっ……」
「……うん」
ただでさえ精神的に疲弊していた毎日に決定打……先生が俺等の中で死んだ日。彼女は心を壊し、誰も彼もが信じられなくなった。唯一、同じ境遇にいた俺だけを信じて一時的に外の世界を全て拒否してしまった。
────パチリ
「お二人とも。自らを使った計算ずくの暗殺お見事です。事故で崖に落ちたことを装って、先生を慌てさせることも折り込み済みですね。音速で助ければ君達の肉体は耐えられない。かといってゆっくり助ければその間に撃たれる……そこで先生、ちょっとネバネバしてみました。これでは撃てませんねぇ……ヌルフフフフフフ」
「……くっそ、何でもアリかよこの触手!!」
「……ああちなみに、見捨てるという選択肢は先生には無い」
「「……………ぇ……」」
「いつでも信じて飛び降りて下さい」
先生なんてみんな同じだって思ってたのにさ、全部ひっくり返してくれたのが殺せんせーだったよね。
俺だけじゃ、俺に依存させて目の前の目標を与えてあげて、なんとかそこまでは自分をもたせるって方法しか取れなかったけど、彼女が他人を信じることができるように本トの意味で殺せんせーが助けてくれたんだ。
────パチリ
「……で、そういえばなんだけどさー、さっき殺せんせー聞き捨てならないこと言ってたよねー……?……ねーぇ?アミサちゃーん?」
「……ぇぁっ」
「アミサさんはですねぇ、過呼吸を起こしたんですよ」
「……へーーーーーーーぇーー??」
「ごっ、ご……ごめんなさいぃぃぃぃ!!!」
初めて俺のいない時間に1人で頑張ろうとした彼女は、見事に体調を崩した……ことを隠そうとしてた。
詰めが甘いのか殺せんせーも隠す気がなかったのか、ちょっと問いつめたらすぐ謝ってきたけど……この頃くらいからかな、これまで俺にばかり頼ってた彼女が、1人でやろうとしたり他に頼ろうとしたりし始めたのって。
────パチリ
「あれ、アミサちゃん帰らないの?」
「え、えと、うん。ちょっとやることあって……」
「俺待ってようか?」
「!う、ううん!だいじょぶだからっ」
「……、……そう?」
明らかにおかしな態度だから少し様子を見てれば……いつも大事にしてたお揃いのキーホルダーがカバンについてない。彼女のことだ、なくしたことを悟られたくないんだろうと、あえて帰るふりをして戻ってからいくつか心当たりを探せばそんなに時間をかけることなく見つかった。
誰も見てない隙を伺ってカバンの上に乗せておく……あとは彼女が気付いたタイミングで声をかけて一緒に帰れば1人にすることも無い。そう思ってたのに、……なんかいっぱい居ない?は?なんで磯貝の上着巻いてニコニコしてんの?それで……なんで俺はムカついてんの?この時は無性にイライラして、訳が分からなかった。
────パチリ
「俺もアミサちゃんに怪我をさせるきっかけになってる……だから、おあいこってことにしない?それに、どっちかと言えば俺は謝るよりも他の言葉の方が欲しいな〜?」
「……あ、ぅ……、……助けに来てくれて、ありがとう……すごく怖かったけど、来てくれるって、信じてた」
「……ん、よし」
少しずつ少しずつ改善していく人への恐怖……なのに、それを抉るように拉致されてしまった修学旅行。聞けば怖くて仕方がなかった時に、唯一助けを求めたのが俺だったとか。
俺はこの旅行の最中にクラスメイトから彼女への気持ちに気付かされたってのに彼女は全く意識してくれてなくて、かなり落ち込んだのを覚えてる。……違うな、そもそも俺自身の気持ちを自分が分かってなかったのに周りが知ってたのに驚いたんだ。自覚、させてくれたのは感謝してるけどね。
ただ……この頃だったかな、彼女の自己犠牲について特に目に付くようになってきたのは。
────パチリ
「アミサ……!」
「あ、ほんとだった」
「……怖かった。ただ眠ってるだけだって分かってたけど……アミサが、アミーシャが、息してなかった時みたいに見えて……このまま起きないんじゃないかって」
「……いるよ、私、生きてる。ちゃんと息もしてるし、起きてるし……今、カルマに触れてるよ」
寺坂が騙されたシロによる暗殺に巻き込まれて生死の境をさまよったくせに、本人ケロッとしやがって。……どれだけ心配かけたのかも、そもそも自分がどれだけ危険だったのかも分かってないんだろうなぁ……こっちはガラにもなく怖かったってのに。
人工呼吸って形だったけど、初めて唇を合わせて……それを彼女が覚えてないってのも相当キてて……彼女は悪くないのに、だけどここまで気付かない彼女も少しは悪いんじゃ、なんて責任転嫁する思考が顔を出すくらいには誰にも言うに言えないドロドロした感情を、そろそろ溜め込むのも辛い時期だったな。
────パチリ
「──ごめん、本トに。迷惑なんかじゃないから……むしろ、頼ってよ。俺はアミサに誰より1番に頼ってほしいし、俺だって一緒にいたいんだから」
「……うん」
「腕も、ごめん。俺、あの時は勝手に溜め込んだイライラの吐き出しかたもわかんなくて、抑えらんなくなってた。怖かった……?」
「……うん、カルマの気持ちも真っ黒でぐちゃぐちゃしたものしか、感じなかったし、私もわけわかんなく、なってて」
「うわ、それは俺でも嫌だわ……、……E組の皆のこと、正直侮ってたよ。俺も負けてらんないや」
「……、う、ん……ッ…」
俺を全然意識してくれなくて……いや、そもそも男に対してだけじゃなく、彼女の自分に対して向けられる感情に疎すぎるところにイライラして。だんだん『俺だけの特権』みたいなのが無くなっていくことに勝手に嫉妬してたせいで、一方的ではあったけど、初めて喧嘩らしい喧嘩をした1学期の期末テスト。
結局、喧嘩中もその後も彼女は俺が目を逸らしてる間も、ずっと、ずっと真っ直ぐに向き合ってくれていた。ただ、ある意味でも変わらなかったけど……そう、周囲から向けられる感情と行動への理解がなかなか追いつかないっていうね。自分に無頓着なのも考えものだよ、まったく……
────パチリ
「か、カルマが……、おでこ引っつけてって……初めてじゃないはず、なのに……その、……目……」
「目……?」
「……私だけ見てる、オレンジの目……キレイで……その」
「……カッコよかった?」
「ドキドキした?」
「…………………………(コクン)」
夏休みの沖縄で……彼女の隠された実力を垣間見た暗殺計画やホテルの潜入が終わったあと。
相変わらずの天然行動に振り回されながらもその
────パチリ
「……はじめて会った時はどっかの不良に襲われてるし、弱々しいし、危なっかしいし……1人にしたらダメだって……ただ漠然と思ってそばに居たんだ。でも、アミーシャが色々と初めての経験をするたびに、俺と一緒にいるだけでもコロコロ変わる表情を見て、かわいいなって思い始めて……いつでもどんな時だって俺を頼りにしてくれて、少しずつ抱えてるものを見せてくれるようになって。……気付くのは遅かったけど、きっと出会った時から好きだった。
──好きだよ、アミーシャ……誰よりも。
……約束だよ。アミーシャの、返事を聞かせて」
「……、……そっか、カルマも、同じお願いだったんだね」
「……えっ……」
「私も、カルマのことが好き……誰にも渡したくないくらい、大好き。だけど、……私は、カルマにどうしても言えないことがある。……それは、これからもずっと言えないままかもしれない。それでも……こんな私でも、そばに置いてくれる……?好きでいても、いい……?」
「……当たり前でしょ。今までは1人の友達としてだった。でもこれからは恋人として……俺の隣にいてよ」
「……っ、うん……!」
すごく時間はかかったけど、テストで勝負して得た権利で、告白の返事をもらった。まだ話せないことがある、不安そうに言いながらも確かに彼女の本心からの返事だった。
この後真っ赤な彼女をからかってたら、最初のキスが人工呼吸なんて嫌だからやり直しがしたいなんて言い出して……ここで断ったら男じゃないと思う。そもそもその時のこと覚えてたんだ……はぁ、俺が悩んでた意味。それにしても、こんな煽りどこで……ビッチ先生か?
後からこっそり原さんが教えてくれたけど、彼女がこのテスト勝負で要求しようとしてたのも『告白の返事をする機会が欲しい』だったらしくて……なんだよそれ、俺等お互いにあと一歩が欲しかっただけだったんだ。
────────パチリ
◆
……あれ……なんか、懐かしいものを見た気がする。一緒に過ごすうちにいろんな表情を見て、いろんな彼女を知った……はは、どれもこれも彼女が自分を二の次にしてる言動ばっかだな、こう思い出してみるとさ。
…………、懐かしい……?……思い出してみると?
なんで俺、こんな前のことなんて考えてるんだ……しかも、全部彼女との記憶ばかり……俺だってそれなりに他人と関わって生きてきたはずなのに、登場人物が俺と彼女以外にほとんど居ないって変じゃね……?……目の前のソレはユラユラ揺れながら次々と泡のように浮かんできて、思い出してはパチリと消えていく。
……ああ、そうか。これは夢だ。
夢ってのは、自分の記憶や経験したものをもとにして見るって言うし、それなら納得できる……明晰夢って言うんだっけ、こう……夢だと自覚しながら見る夢って。ま、その割にはリアルすぎて変な夢な気もするけど……
パチリ、パチリ、パチリ、パチリ……
◆
「そろそろ、動けるくらいには修復できましたよね……、超生物さん?」
「アミサさん……、……なぜ……、私は、あなたのお姉さんから、リーシャさん自身が《銀》なのだと聞かされて……あなたは、家業には関わっていないと……」
「ふふ、やっぱり殺せんせーにはそう伝えてたんだ……当代の《銀》はお姉ちゃんであってるよ。色々理由があって、本来は一子相伝の家業なんだけど私も例外として『道』を継承してる『影』のようなものなんだ。《銀》は歴代ずっとただ1人の同一人物のように振る舞うことができるように、技も口調も対応の仕方も全てを継承する……この1年間みんなの前に姿を見せてた《銀》は全部私。……気づかなかったでしょ?」
「ええ……お見事でした」
「それより、質問に答えてください……ある程度なら、いけますか?」
「……ええ、完全には程遠いですが」
こちらの戦闘意志を感じ取ったのか……再び触手を構え始めた2代目を見て、感情を感じさせない無機質な声色でアミーシャが殺せんせーに声をかけた。フラつきながらも立ち上がった殺せんせーは、俺等を背に守り続けながら《銀》……いや、アミーシャの元へと近付いていく。彼女がこの場へ来てから全ての攻撃を引き受けていたおかげで、殺せんせーは完全回復は無理でも動ける程度には回復できていたらしい。
……それでも2代目死神の
「連携されるから手が回らない……だったら分断してしまえばいい。手負いの超生物さんはあの男の人をなんとかしてきてください。私が2代目さんを引き受けます」
「「「な……っ!?」」」
「な……、な、何を言ってるんですかッ!?先程までの柳沢は、可能なら殲滅、次いで貴女の仮面を割って正体を明るみにすることに攻撃を集中させていたかのように見えます!その目的を達した以上、先ほどよりも攻撃に遠慮は……!」
「だからこそ、です。それに体力的にも私の方が戦える」
「それでも触手を移植したとはいえ柳沢より2代目の方が強い!せめて逆でしょう!?」
「……じゃあ、あの人、殺していいの?」
「……、……えっ、殺すって……」
「なんの冗談……」
「……?冗談じゃないよ。ここでの会話は最初から聞いてたけど、あの2代目は触手の代償で元に戻せない上にもう命の期限が決まってるから殺してあげるしかない。でもあの人に関しては国がバックに着いてるから殺すわけにいかない……教会に外法認定されてるわけでもないし、そもそも依頼もなしに手をくだせない。それでも私はこれから殺す気で相手をするし、殺していいなら私があの人を相手にしてもいいけど……」
当たり前のように、むしろ俺等が何を言うんだって顔で彼女が話すそれは、俺等からすれば衝撃的な倫理観でしかなくて……だけど元々暗殺者として生きているものの命に向き合ってきた彼女からしたら当たり前の感覚なんだろう。……これが、彼女の言う
だからといってなんで人外である殺せんせーが人間卒業中の人間相手で、人間であるアミーシャの相手があのバケモノ級の2代目死神になるんだよ。ただ、こう言い出した時のこの子って、ホンっトーに折れないんだよね……。それに殺すという行為に躊躇いがないだけで彼女の言ってることそのものは間違ってないから、殺せんせーも何も言えなくなっている。
「それに、これ以上の全力戦闘を相手にするのは、
「!!……お見通し、ですか……それでも任せるわけにはいきません。貴女が認めなかろうと、アミサさんは……アミーシャ・マオさんは私の大事な生徒です!生徒を守らない先生なんていませんから!」
あくまで『《銀》と一時的に協力する超生物』ってスタンスで会話するアミーシャに対して、謎な会話でもめげなかった殺せんせーは『生徒と先生』という心配を向けた。どこまでも先生ってことに誇りをもち、責任を主張する殺せんせーに、アミーシャは困ったように笑って。
「……だったら……アミサもちゃんと耐え切るから。さっさと倒して……助けに来てね、……殺せんせー」
「!……仕方ありませんねぇ……ええ、もちろんです!」
ふわ、と少し痛々しい顔を向けたアミーシャ……暗殺者として協力を要請されてるんじゃなく、1人の生徒に信じられてるって解釈したのか殺せんせーはすぐさま柳沢の方へと文字通り飛んで行った。生徒が先生として頼れば、殺せんせーは先生として生徒の願いを叶えないわけにはいかないもんね。
ただ……殺せんせー、これの意味分かってんのかな?アミーシャは『柳沢を倒してからじゃなきゃ、共闘するつもりは無い』って言ってんのに……それにあの子はたった今【『アミサ』は耐え切る】って言った。あれは、おそらく……1人では倒せるか怪しいんだろう……でも、保険として言っただけだと信じたい。俺がアミーシャの意図を読んでるなんて夢にも思ってないんだろうね……殺せんせーを見送った彼女は、ゆっくりと俺等へ振り返ってふわりと笑う。
「……前も言ったけど……私、みんなのこと大好きだよ」
バチバチと音を立て始めた2代目死神の触手を横目に笑った彼女は、これまでずっと見てきた姿となんにも変わらない。だけど、すぐそこにいるはずなのにこっちを見つめる雰囲気はとても儚げで……今にも消えてしまうんじゃないかってほど、危ない雰囲気しか感じなかった。
「待ってよアミーシャ……」
泣きそうな顔しちゃってさ……何か覚悟して、やらかそうとしてるんでしょ?それで、俺は気付いてるって暗に伝えても……止まってくれないんでしょ。
「多分、私が覚えてる限りじゃ、隠し事はこれで全部。……ありがと、こんなに偽りだらけの私と一緒にいてくれて。……これが終わったら、ホントにさよならするから」
「真尾……?」
「アミサちゃん……何言って……」
「……暗い闇の世界しか知らなかった私に、たくさんの光の世界を教えてくれたE組のみんな……気づいても、知っても私の事情を誰にも話さないでいてくれた烏間先生とイリーナ先生。私が外を見るきっかけをくれた渚くん、世界を開いてくれた殺せんせー……私にたくさんの感情を、……人を愛するって気持ちを教えてくれたカルマ。みんな、みんな私の大切だから……だから、この《銀》としての力でみんなを守るのが、私の最後の役目。私の進む道は……大事なものを守るために、戦うことだって決めたから!」
そう言うやいなや制止の声をかける暇もなく飛び出して行った彼女は、再び2代目死神の触手とぶつかり始めた。先程以上のスピードと威力の触手の攻撃についていくアミーシャは、仮面をつけていた時の戦闘より格段にスピードが上がっているように見える。
まるで踊るような戦いは、上から突き刺さる触手を飛んで避け、触手を足場に駆け上がっては本体を大剣で斬りつける。弾き飛ばされれば空中で体勢を立て直し、クナイや符を使った飛び道具を飛ばして攻撃の手を弛めない。
「……あの子……あんなに強かったの……?」
「あんな気迫……訓練でもどこでも見たことない」
「……真尾さんは、君達にだけはバレたくないとかなり注意を払っていたからな。正体がバレないために能力のセーブ、そして内功を使って見た目を偽る体型操作などに力の幾分かを回していたから、今までは本気を出せなかったんだろう」
「烏間先生!」
「ビッチ先生も……」
俺等と同じく離れた所で様子を見ていた烏間先生だけど、戦力が分散した今、ビッチ先生と一緒に生徒の無事を確認しに来る余裕ができたらしい。
他の奴らはあの戦いの激しさに、先生達がアミーシャのことを知っていながら黙っていたことに驚いたり怒りを感じたりしてるみたいで、先生達に一斉に詰め寄っている。……俺は、それを一切気にせずあの戦いから目を離せなかった。
「なんで、言ってくれたら!」
「先生達は知ってたんでしょ?なんで私達には……っ」
「言ったところで、君達は受け入れられたか?」
「……っそれは、」
「彼女を暗殺者と知らず、同じ教室の中でずっと一緒に生活していた……真尾さんは凶手として既に仕事とはいえ人に手をかけているんだ。とっくに汚れてる自分を受け入れてもらえないのが怖い、暗殺者と一般人は生きるべき場所が違うし、影の道を行く自分が光の道を歩く君達を巻き込みたくない、……そう言っていた」
「そんな……」
「……私ですらアミサが《銀》だって知ったのは、あのカエデの暗殺の夜なのよ?まさか《銀》が2人いるなんて思わないし……しかも学園祭の時には当代が自分でバラしてくるし。完全に騙されてたわ」
「……そっか、ビッチ先生は元々知り合いって言ってたもんね」
「そんで思ってた以上にリーシャさんが暗躍してる……」
「徹底的に真尾が《銀》とは無関係だって思わせるために騙してるわけだもんな」
「そう。同業者である私にすら偽って……全部抱え込むのと同時にそうして隠すことで周りを守ってたのよ。アンタ達が平和に授業を受けてられたのも、あの子が昼間に襲撃してくる殺し屋の内、あのタコが対応できない分を全部掃除してたから」
「……え、アミサちゃんは一緒に授業受けてたよ?中抜けしたことなんてないはず……」
「アンタ達も1度目にしてるわよ、そのカラクリを」
大剣を、暗器を軽々扱う彼女が戦い始めてから、1度も同じような攻撃パターンを見ていない気がする……そう考えていれば、まさかの分身って。そういえば、プールで射撃訓練した時に符術の1つとして見せてくれてたっけ……つまり、あれもアミーシャだったわけでしょ?
……ん?てことは、さ……あの時彼女は高熱出しながら俺等の訓練つけてくれてたってこと……?……相当なプロ意識って言うか、あの子の底が知れないのに恐怖すら覚えそうだ。
「……え、えぇっ!?」
「殺せんせーのような分身……あ、夏休みのプールでの事前訓練してくれた時の……」
「《分け身》ってクラフトよ。使い手はほとんど見た事ないけど、本体より体力の劣る分身になる代わりに、それ以外の性能はまるで同じ……あのタコの分身と違って独立した実体だから実質戦力は2倍、さらに分け身を作れば3倍ね。多分あの子が柳沢じゃなくて2代目の討伐に名乗りを上げたのはこれも理由よ……人間相手じゃ過剰戦力だからって……ほんとバカな子……」
俺は色々と話を聞いて、やっと納得した気がする。今まで俺が感じていた様々な違和感がやっと線で繋がったんだ。
殺気や小さな音、ちょっとした気配に敏感なこと……最初からずっとアミーシャは言ってたじゃん。幼い頃から自分の家業を継ぐために訓練ばかりしていたからだって……ハッキリ言う事はなかったけどそれが《銀》としての教育だったと考えれば納得がいく。驚異的な身体能力や普通に生活していたら知っていそうなことも分からなかった世間知らずな部分もそうだ。
自分の戦術
死神事件でフードを被ったあの子の姿をどこかで見たことがあると思っていた……当たり前だ、《銀》という姿で俺等と対峙していたのだから。身長はほとんど変わってない代わりに、声色や体型は全然違ったから直ぐに結び付かなかっただけ。それに……アミーシャがいない時にだけ現れていた《銀》だけど、アミーシャじゃないっていう思い込みがあったんだ。風邪をひいて高熱を出してアミーシャが布団から動けないって時に……俺は《銀》と会っていたから。
俺は自分の中で整理して納得できたし、むしろ秘密を知ったからこそアミーシャという存在を本当の意味で知ることができた。これまでに暗殺者として人を殺してきたことなんて関係ない、それどころか俺に出会う前の彼女を知ったことで、俺はあの子のほとんど全部を知れたわけだ……暗殺者として生きてきたアミーシャのことを受け入れた以上、もう彼女拒む理由は無くなった。
だけど他の奴らもそうとは限らない……アミーシャを拒む可能性を不安視しているクラスメイトに対して口を開こうとしたら、俺より先に前に出た子がいたんだ。
「……私、何も知らなかったら怖がったり避けたりしちゃってたかもしれません……でも、今は違います!ここまでいろんな苦楽を共にしてきたんですから……っ」
「俺もそう思う……あの子はただ、怖がりなだけだよ。それに相変わらずの勘違いと自己評価の低さだよね」
それは、多分E組の中でもアミーシャに次いで大人しくて怖がりで……それでいて大胆なところがある奥田さんだった。ぎゅ、と胸の前で手を握りしめて言った言葉は、彼女らしい拙いものではあったけど……なによりも真っ直ぐな感情だ。便乗するように俺も言葉を続ければ、奥田さんはほっとしたように笑みを浮かべる。
「……カルマ」
「自分がどれだけこの教室で愛されてきて、俺を含めてどれだけの奴に影響を与えてきたのか分かってないんだから、そう言うしかないっしょ?俺等がどう思ってるのか分かってないなら、分からせてやればいいんだよ……全部終わったら、連れ戻す」
「……そうだね……うん、それがいいよ。信じるからこそ今はアミサに任せよう」
「ここにいても足手まといにしかならないしね……、皆、向こうまで逃げよう!……それで、全部終わったら僕等E組で……全員で迎えに行こうよ!」
そう、全部終わったら笑顔で迎えに行けばいいんだ。居場所がなくてひとりぼっちだというのなら、ここがアミーシャの居場所で、帰ってくる場所なんだと伝えよう。信じて頼ることができる奴らがこんなにもいるんだって……偽物の愛なんかじゃない、恋愛でも友情でも俺等は本物の愛情を向けているんだってことを。
それに分かろうとしないなら、分からせてやればいい。いくらでも手段はあるし、これから時間も人手もある……そうだ恋人って立場も積極的に使わせてもらおうか。
……だから、だからどうか……
……お願いだから無事で……
願う気持ちも虚しく、アミーシャのSクラフトが当たったのとほぼ同時に、巻き起こる土埃に隠れる寸前、俺は見てしまった。
2代目死神から生えた鎌のような触手が、小さな体を貫いたその瞬間を。
◆
「──ありがと、だいすき……あいしてた」
◆
「……、俺だって、愛してたよ。これからも、ずっと一緒だ」
……抱きしめた重みと、体に感じる風だけを感じながら、意識がブラックアウトして……
────ミンナガ シアワセニナル ミチヘ────
あの話、この話の彼視点を超絶ダイジェストで走馬灯の如く思い返してもらえたでしょうか。
時系列的には94話の後書き、律曰く『二人が最初に命をかけた場所』からオリ主を連れたまま足を踏み出した後……から第二部に移行する前です。これを見ているカルマ自身は夢だと判断してますが、それは如何に?でもすっかり忘れてしまいますから、夢でもいいのかもしれません。
1回目の世界では学園祭2日目までタイムリープしてましたが、もう少し前まで戻ります。多分、ここから変えた方がいいルートになったんですよ、きっと。