「……まったく……真尾はもう二年になったというのに周りとの協調性がなさすぎる!成績はいいのに馴染めていないんじゃな……」
「進級のクラス分けに先立って
「クラス希望は確かに理事長が認めているとはいえ……いつまでたってもあの態度じゃあ、うちの方針に背いているとしか……」
「いやいや……大丈夫ですよ、真尾は優しすぎるだけです。それにあいつには今、
「大野先生……しかし、その赤羽にこそ問題行動が多いでしょう。事あるごとにサボり、喧嘩っ早く……大目に見続けるにも限度がありませんか?」
「問題は確かに多いですが、……そんな生徒を守ってこその教師でしょう?」
「…………。」
◆
カルマくんと渚くんと出会ったあの日からいつの間にか半年が過ぎていて、私たちは無事に中学2年生へ進級し……なんと今年は3人とも同じクラスになりました。これで一緒に過ごしやすくなったこともあって、基本的には今まで通りカルマくんと渚くんが私を誘いに来てくれるパターンばかりなんだけど、私も(私的には)積極的に2人の近くに行くようになったと思う。ただ、未だに2人以外の人は誰も信じられなくて新しく友だちができることもなく、現状表面上のお付き合いしかできていない。だからこれまで通り3人で遊んだり一緒に勉強したりして過ごしている毎日だけど、まだ椚ヶ丘市内しか〝遊ぶ〟ということをしたことがない私のために、夏休み中は少しずつ範囲を広げて遊びに行く約束をしてくれた。水の中に住んでいる生き物を集めた水族館っていう所とか、ぷら……た……?えっと、星を見るところとかに連れていってくれるんだって……ふふ、今から楽しみ。
……進級といえば、浅野くんからA組へのクラス替えについて熱心な勧誘を受けた。図書室で出会ってから時々話しかけてくれるようになったんだけど、いつもカルマくんと渚くんがいない私一人のときにしか来ないから、緊張が抜けないし誰にも助けが求められなくて終始警戒した硬いやり取りになっていたと思う……だって、彼の全部が全部うわべの言葉だとまでは思ってないけど、彼自身の内面が全然見えなくて怖いんだもん。そんな彼がなんで私を勧誘しようとするのかといえば、私の一年次の学年末テストの成績がカルマくんに次ぐ学年7位だったからだとか、他者と馴れ合わず上を目指す姿勢が何よりもふさわしいからだとかいろんな理由があるかららしい。でも、私よりも成績のいいカルマくんを呼ばないわけがわからない……それに成績がいいから必ずA組に入らなければならない、ということは無いはずから、学年末の担任との二者面談でもA組は希望しなかった。あと、口には出さなかったけどカルマくんと渚くんとこれからも一緒にいたいっていうのもあった。
……ちなみに浅野くんからの勧誘のことを二人に話したらカルマくんは最初ものすごく不機嫌になり、すぐにA組行きを断ったことを告げたらものすごく上機嫌になってた。気分の移り変わりがすごい……渚くんはそれを見て苦笑いしてた。聞いても理由は教えてくれなかったけど。まあ、その呼ばれていないカルマくんはといえば、成績はいいのに喧嘩やサボりの常習犯なせいで、浅野くん曰く選ばれしものの集まりであるA組入りを逃しているらしいけど、本人はあっけらかんとして全く気にもしていないみたいだ。
「……そうすれば勝てる。でさー、その時は……って、おーい、……どーしたの、アミサちゃん。さっきからなんか元気ないよね?」
「え、あ……っ、ご、ごめんなさい、考え事してた……」
───放課後
いつも通り三人で帰る途中、視界へ急に〝赤〟が入ってきて驚いて顔をあげると、いつの間にか学校からだいぶ離れたところまで来ていた。数回瞬きして、よく見ればカルマくんが私の顔を覗き込んでいたようだ。完全に別のことを考えて意識がどっかに行っていた……というか話、全然聞いてなかった……申し訳ない……
「いや、別に謝ることはないんだけど……教員室に呼ばれたあとからだよね。……なんかあった?」
「話して少しでも楽になるなら、僕達が聞くからさ」
二人とも、私の様子がおかしいというか、心ここにあらずな様子に結構前から気づいていたようで、私よりも少しだけ背の高い渚くんが私の頭を撫でながら、ゆっくり促してくれる。優しくて、暖かいそれに、自分の中に溜め込もうとしていたそれは、自然と口から出てきていた。
「……さっき、教員室で用事が終わって外に出る時に……先生達が話してるの、聞いたの」
「……なんて言ってたのかって、聞いてもいい?」
「……〝真尾は協調性がなさすぎる〟って……〝浅野くんに誘われたのにA組入りを突っぱねた〟って。……大野先生だけ、〝私にはカルマくんもついてるから間違いは起こさない〟〝正しい生徒を守るのが教師の役目〟って味方してくれてたけど……」
──大野先生しか、私のことを、生徒を見てくれてる先生はいないんだなって。
たしかに、私に協調性はないと思う。椚ヶ丘中学校で公然とされている成績の優劣による差別……私はそれに反発して合わない人(ほぼ全員なのだけど)には全くと言っていいほど近寄らないのだから。実は、もしかしたら他にも私と同じような考えの人はいるのかもしれないと思うことはあったりする。放課後になると勉強で残らず慌てたように校門に走っていく男の子がいたり、友達だと思われる人からなにかたくさん頼まれて黙々とこなしている女の子がいたり、勉強より誰かとおしゃべりしているような人がいたり……それでも、私から話しかける勇気はない。それに周りの考えに賛同できない私の考えを改めるつもりも無いし。……だって改めなくても、私は私を認めてくれるカルマくんと渚くんに出会えたから。それにA組に入るということは休む時間が無いほど勉強ばかりに追われ、更に差別をする側の中へ入る日々を送らなければならなくなるということでもある。椚ヶ丘中学校の選ばれし者と自負し、息をするように自分たちより下を認めない……そんな環境にいたら私は壊れてしまう自信がある。
先生方はそんな私の態度が不満なのだろう。A組の担任の先生からはことある事に「なぜA組へ来ないのか」と落胆したように言われ、他の先生方には「こうしなさい」「ああしなさい」と細かく注意されるし、扱いづらいと聞こえるように言われたこともある。挙句の果てにカルマくんと渚くんから離れろ、とか……。私の考える『正しさ』と学校の教える『正しさ』……毎日を過ごすうちに何が良くて何が悪いのかグチャグチャになってきていた。最近では、椚ヶ丘中学校で『当たり前』とされるものから外れた者……『異端児』と私を呼ぶ同級生も出てきていて、かなり居づらくなっているのも確かだ。そしてそんな毎日の中で唯一、今のままの私でいいのだと言ってくれている先生が大野先生なのだ。
「気にしなくていいんじゃない?味方のせんせーがついてるんだから、大丈夫だって。俺も言われたもん……俺は正しい、俺が正しい限りはせんせーは俺の味方だって」
「大野先生は僕たちの担任だもんね。むしろ認めてくれない先生のクラスじゃなくてよかったんだよ」
「そーいうこと。……ほら暗いの終わり!さっさと夏休みの予定を考えようよ。さっきあげたやつの中で気になったのは?」
「えぁ、……え、えっと……ぷら、……たにうむ?っていうのが気になるかな……お星様が部屋で見れるんでしょう?」
「惜しい、プラネタリウムね」
「じゃあついでに理科の勉強と兼ねちゃおうよ。アミサちゃん理科全般苦手だし」
さっきまでぐちゃぐちゃ考えていたのに、いつの間にか私はまた前を向いていた。2人と話しているといつの間にか切り替わっていて、2人といれば私は下を向かなくてもいい……前を、先を見ることが出来る。……私は、2人からいろいろもらってばかりだ。私もいつか、何かを返せたらな……あたたかい気持ちになって、私は自然と笑顔になった。そうして私たちはまだまだ先の夏休みを楽しみに計画を立てていったのだった。
◆
今日も普通の日のはずだった。
いつも通りの1日を過ごして、いつも通りに3人で校門を出て帰宅する。
ただいつもと違ったのは、渚くんに家の用事があったらしくて途中で別れたこと。そして2人とはいえまだ時間も早いからカルマくんと2人だけで寄り道をしようと近道を通ったら、たまによくある喧嘩がカルマくんにふっかけられて「少し待ってて」と言い残したカルマくんが私から離れたこと。
それと、
「おい、お前……いつも赤羽といる女だな」
いつも喧嘩には参加しない私が巻き込まれたこと、だ。別にカルマくんの喧嘩自体は珍しい事じゃないし、私や渚くんが一緒にいても喧嘩するときはしてるしふっかけられて応えてる時だってある。そういう時、私は巻き込まれないように、喧嘩に参加するつもりはないことを示すように少し離れたところで待っていることにしている。
今回喧嘩が起きた場所だって裏通りに移動しているのは変わらないし、人数だってそんなにいない。ただ、カルマくんが飛び込んで行った奥まった場所と私が今いる場所の間に男の人が立ちふさがっている、という違いがある。最初こそ逃げるかカルマくんの近くまで行くことも考えたけど、どう頑張ってもこの男の人が邪魔だし、カルマくんのところへはすぐに行けそうもないし、かと言って体格差から男の人に背中を見せて逃げるのも危ない気がしてきている。それなら、下手に逃げるよりは前を向いていた方がいいだろう。そう判断した私は少しだけチャックが開いた通学カバンを左肩にかけ直して、少しだけ後ろへ距離を取りながら目の前の男と目を合わせる。
「………それが、何ですか」
「はっ、この状況でも逃げねぇのか。流石はあいつの女なだけある」
「?……よく分からないのですけど……」
……どういう意味なのだろう。逃げるも何も……逃げたら私は1人になってしまうし、喧嘩の時に渚くんが居ないなら目の届くところにいてほしいとカルマくんから言われていることもあって離れるつもりはさらさらなかった。ただ、後半……あいつの女?についてはわからない……カルマくん関係なことには間違いないのだろうけど。
「ほぉ……知らないふりで通すか。別にそれでもいい、ただ、お前の存在を利用させてもらう」
「へ……?、いっ……!痛い、離して!」
知らないふりも何も、本気でわからないのだけど……そう返す間もなく、背後から思い切り強い力で私の髪が掴みあげられた。目の前に集中して他の気配に気付けなかったが、喧嘩している人以外にもまだ仲間がいたらしい。前だけを警戒していた私はすぐに反応出来なくて背後の存在に気が付けず、髪ごと体を掴み挙げられる……長い髪がここで仇になるとは思わなかった。私はほとんどつま先立ちになりながら髪をつかむ手を解こうと両手を伸ばすが、男の手はびくともしない。
「っアミサちゃん!……お前ら!」
「おおっと、彼女が大事なら抵抗なんてするなよ?お前は俺たちに大人しく殴られとけばいいんだよ」
そうこうしているうちにカルマくんがこっちに気がついて、一瞬驚いた表情を浮かべ……すぐにこちらへ駆けつけようとする。でも、私を掴む男がそれを許さない……更に私を高く持ち上げ、足が浮く、首が痛い。足を止めたカルマくんに男の人が要求しているのは、私の安全との引き換えで無条件で殴らせろ、というもの。なにそれ、とは思ったけど、私は安心していた。この男の人たちには悪いけど、カルマくんにとって私なんかが取引材料になるはずがないし、そこまでの価値はない。ただの友達ってだけなんだから。
なのに、
「…………、……いいよ、好きにすればぁ?」
「……!?カルマ、くん……っ!?」
だらんと両腕を垂らし、目を閉じるカルマくん。……なにを言ってるんだろう、私が勝手に捕まったんだから、私のことなんて気にせず続行するなり逃げるなりすればいいのに。
そして……立場の逆転した一方的なリンチが始まってしまった。
「はははっ!お前のようなやつが大人しく殴られるなんて、相当この女が大切みたいだな!」
「ぐっ、……ってぇ……」
「……それにしても、待ってるだけってのもヒマだなぁ……俺はこの女で遊んでやるか……?」
──嫌だ。なんで。どうして。私がいるせいで、カルマくんが抵抗出来ないの?なんで、私なんて気にしなければ、怪我なんてしなくていいのに……痛い、いたい、やめて。カルマくんは私なんかのために怪我していい人じゃないの。早く、はやく、何か、なんでもいい、なんとかしなくちゃ、私に何ができる……!?
髪を掴み、私を持ち上げるだけだった男の人の空いた手が、私の体を撫でようとする動きに変わったのを感じる。今は髪だけなのに、このまま体まで捕まってしまったら余計に逃げられなくなって、更に選択肢がなくなってしまう。男の人の手をなんとか避けながら、必死に考える。無抵抗で殴られ続けるカルマくんの、力強い目と視線が合ったその時。
『一瞬があればいい』
……?……あれ、最近聞いた気がする。……なんだっけ、
『もし何かあって俺が動けなくなったって、一瞬でも視線が外れて隙ができればいい。……そうすれば勝てる』
……、たしか、前にカルマくんが話してたことだ。まともに話を聞けてなかったから、今の今まで思い出せなかったけど、彼の目を見てふと浮かんできた。なんだ、やれることがあるじゃないか……この男の人達が思わず注目してしまうような一瞬の隙、それを私が作ればいい。少し落ち着けた私は男の人にさとられないように自分を確認する。
両腕……動く。
両足……無理、ほとんど地面から浮いてるし、なんとか体支えるので精一杯。
体……掴まれてるのは髪だからそれ以外なら。
左肩のカバンが目に入る……、そういえばチャック開けっ放しにして、……そうだ、思い付いた、これで行こう。『静かに、忍んで不意を打つ搦手』は、誰にも知られていない私の十八番だ。私の左手は髪を掴む男の手を解こうと上へ伸ばしたまま、右手は……通学カバンの中へ、静かに、自然に、誰も警戒できないままに……
「……ねぇ、」
「あ?」
「掴むんだったら、髪だけにしない方が良かったね?」
「何を言って……」
「……カルマくん!」
「……っ、?……アミサちゃ……っ!!?」
あなたなら、わかってくれるって信じてるよ。
────ジャキン!
◆
「カルマくん……!」
地面に座り込むカルマくんへと駆け寄る。彼の口の端は切れてるし、ほっぺたとかは打撲で真っ赤になっている。きっと、服で隠れている体はアザだらけになっているに違いない……私のせいだ、私が捕まったりなんかしたせいだ。
「なんで、そんな無茶したのさ……髪、切っちゃうなんて」
本ト、決めたらまっすぐだね。痛かったでしょ?……そんな風に呆れたように、でも安心したように微笑みながら言われた。まっすぐなのも無茶したのも、カルマくんの方でしょ、なんて言えなかった。
──あの瞬間、私は掴まれていた自分の髪を、筆箱に入れていたハサミで切断した。
いきなり人質にしていた
「……あの時、掴まれてたのは髪だけだったから。一瞬でも私に視線を集めるなら、1番効果的かなって……。……ごめん、なさい……私が油断してたから……カルマくんがしなくていい怪我、いっぱい……っ!」
私はどこも痛くないのに、痛いのはカルマくんなのに。どうしてそんなに安心したように笑うんだろう。
「………泣かないでよ」
……気がついたら、カルマくんの腕の中に抱きしめられていた。あれ、私、泣いてたの?
「ごめん、俺が離れたのがいけなかったんだ。今日は渚くんもいないし、一人にした俺が悪いよ……それに、アミサちゃんの機転があったから、あいつら追っ払えたんだ……ありがと、助かった」
ポン、ポン、と一定のリズムで叩かれる背中。不謹慎だけどあたたかくて安心するそれに、私は余計に涙が止まらなくなる。私は目の前のカルマくんに縋り付いて、しばらく顔を上げることが出来なかった。
「……あーあ、髪、もったいないなー……」
「……」
「……長いの、俺、結構好きだったのに……逃げるためとはいえざっくりやったね〜……長さもバラバラになっちゃったし、そろえなきゃね」
「………」
「…………ねぇ、なんか言って」
(そろそろ恥ずくなってきたんだけど……)
「………ぐすっ、……ごめんなさい。……まだ顔上げれない……」
(今、絶対ひどい顔してるから。だけど、この顔を見せたくないのは、……なんでだろ)
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オリ主が個人を認識していないだけで、E組生を登場させてみました。
誰とでも取れる書き方をしているので、誰が出ているかは想像してみてください。