暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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今回は、『死神』編にて《銀》が明らかに言葉を濁したアレをみんなで確かめに行く話です。話の流れで、とある人達がフライングします。


今回もよろしくお願いします!



111話 質問の時間

 

 私たちE組関係者の間で【『死神』事件】と呼ぶようになった、イリーナ先生が死神に騙される形で私たちと敵対し、《銀》をも巻き込んだE組の生徒、先生全員が関わることになった大きな騒動が解決した日……から数日経った週明け。私たちに対して色々思うところがあったみたいでどうなる事か心配してたけど、イリーナ先生は無事に私たちの先生として復帰した。というかほぼ次の日には烏間先生と一緒に変わらない姿で出勤してた……前日までは本業と情の狭間で悩んでたのに、すごい精神力だと思う。

 烏間先生発案の政府への要望書も通り、流してもらった話では烏間先生でも教えてもらえない上層部の思惑はありそうだけど、表面的には私たちE組生に危害を加えられる可能性がぐっと減ったはず、ということで、私たちは前と変わらない日常に戻っていた。

 

「あ、寄りたいとこあったんだった。アミーシャ預けるから行ってきていい?」

 

 いつも通り授業が終わって荷物をまとめてさあ帰ろう、と私、渚くん、カルマ、杉野くん、カエデちゃんが揃って教室を出ようとしたタイミングで、思い出したようにカルマが急に言い出したのはそんなある日。

 言おうか迷って、みたいな空気も出さずに唐突に言い出すから、私は教室を出ようとしていた足を思わず引っ込めて、先に隣で足を止めた彼を伺う。すぐ近くにいた渚くんたちも不思議そうに彼の方へ向き直っている。

 

「うん、あとはもう帰るだけだから僕は全然、……え、いいの?」

 

「んぁ?真尾を俺らと帰らせてカルマ1人で行かないといけないとこなのか?付き合いたてなんだし絶対真尾と一緒に帰りたいだろお前」

 

「杉野ったらそんなハッキリ;」

 

「だってよー、普段からなんでも真尾優先な上付き合い始めてから余計に離れようとしないコイツが俺らに預けてくってのもおかしくね?俺でそう思ってんならお前らもそうだろ」

 

「うーん、たしかに。杉野君が言ってることも間違ってないかな。カルマ君さえいいならみんなで行っちゃえばよくない?」

 

「それか今日は野球チームの練習もなくて特に用事もないし、真尾が待つのに付き合ったっていいんだぜ。まだ授業終わったばっかでみんな教室にいるしさ、……あ!もしかしたら原と村松が調理室行ってるかも!」

 

「……それ、杉野が食べたいだけだよね」

 

「いやー、毎日訓練してたら放課後は腹減るって……」

 

「はらぺこの杉野君は置いといて、アミサちゃんはどうしたいとかある?」

 

「わ、たしは、……えっと」

 

 私が何か返事する前に、みんなが『私と一緒にいなくてホントにいいのか』な内容でカルマへ矢継ぎ早に問いかけていて、つい、口を閉じてしまった。私としては用事があるのならいってらっしゃいと送り出そうと思ってたんだけど、言葉少なな渚くんから始まり純粋に思ったから言った!という感じの杉野くんを経てカエデちゃんが私の言葉を聞いてくれて……もう一度、私自身の気持ちと向き合ってみる。

 用事の内容については、私もよくみんなに黙って勝手することがあるくらいだから全然聞き出そうと思わないし、何か考えがあって言ってるだろうから邪魔をしたくない。カルマがそうしたいって思うことがあるなら自分の事情を優先してほしいことに変わりはないけど……、ワガママが許されるなら……近くにいていいのなら。

 

「……その、カルマがいいなら近くにいたいし、一緒に帰りたい、から……教室にいる。……待ってて、いい?」

 

「んー、そこで一緒にいたいからついて行く、じゃなくて待ってる、って言うところがアミサちゃんだよねぇ……もっと欲深くなっていいと思うんだけど、私」

 

「だ、だって、カルマに先帰っててって言われたのに、帰らないで待ちたいってワガママ、しちゃってるんだよ?これ以上お願いしちゃうのは欲張りすぎになっちゃうもん。ちょっとでも一緒の時間が増えたら嬉しいし、これ以上はガマンするの」

 

「真尾の欲張りの基準ひっくいな……」

 

「そだねー、ワガママの域に達してないんだよ……」

 

「え。」

 

「ん゛んっ……、」

 

「あ、カルマ君には刺さったっぽい」

 

「……あーもう、もっと欲出せばいいのに……自分の希望は押し殺してそれでも言えたわがままが一緒にいる時間を増やしたいって、おねがいの内容が小さいのにそれも結局俺のこと優先してるし……本ト俺の彼女無欲……かわいい……」

 

「お前はお前でかわいいの基準ひっくいな」

 

「欲出したら欲出してくれたで喜ぶくせに」

 

 私、これでもだいぶワガママ言ってると思うんだけどな……カエデちゃん曰く、まだカルマに対しての言動が他の人への対応と同じくらい引きすぎらしい。特別な立場なんだからもっとグイグイいってもいいと言われても……これ以上のグイグイはどうすればいいんだろ。

 考え出してる私を隣に置いているカルマ本人は、さっきから私と目を合わせようとしない。口元を片手で隠しながらぼそぼそしゃべりつつ、もう片手で私の頭をぐりぐりと撫で続けてるから、不満……ではないのだとは思う。うん、そう思いたい。

 

「ま、俺個人的には深刻な話でもないし黙っときたいことでもないからみんな来てくれてもいいよ、聞かれても問題ないし。ただ、単に俺の疑問解消のためだからそんなに面白いことでもないだろうし、普通に生きていくなら知らなくていい話の可能性が高いかなーとは思う」

 

「……それを聞かされて僕らは行っていいの?;」

 

「怖いんだけど;何しに行こうとしてるの本ト……」

 

「まぁご自由にって感じ?」

 

「てかさ、ここまで話してくれといて今更だけど、そんなお前らしからぬ微妙な顔して行く場所とかどこだよ?」

 

「え、教員室(となり)

 

「「「……教員室。」」」

 

 渚くん、杉野くん、カエデちゃんの3人の声が揃った……いや、3人以上の声が重なって聞こえた。振り返ってみれば私たちが教室の出入口近くで会話をしているのもあってか、いつの間にか教室に残ってるみんなからも視線が向けられてて……あれ、なんか注目されてる?

 

「そんな口を揃えて意外そうな顔しなくてもよくない?てかなんでお前らまで……」

 

「教室にこんだけ残ってる奴らがいるのに出入口片方塞いでやり取りしてたら気になるに決まってんじゃん」

 

「いつでもどこでも真尾を隣に置いておきたいというか、他の奴に構って欲しくないカルマらしくない言動だし」

 

「1人でフラッといなくなるならまだしも帰り際にちゃんと言ってくあたり珍しいからつい」

 

「あとカルマ君の口から教員室ってワードが出るのが珍しすぎて。放課後まで先生に会いにいくイメージ無いもん」

 

「俺だって気になることあったら聞きに行くくらいするよ。……あと、ここまで来たら言うけどさ……アミーシャを預けようとしたの、連れてっていいものか迷ってたのもあるんだよね」

 

「……私?」

 

「うん。俺が聞きに行きたいの、ゼムリア大陸で起きた事件のことだからさぁ……アミーシャ、向こうの文化とかリーシャさん達の話はしてくれるけど、向こうで起きたことはあんまり話したがらないでしょ」

 

「……、それは……」

 

「言われてみれば……たしかに?」

 

「話さないのは話す必要が無いからかもしれないけど、万が一思い出したくないことだったらアミーシャを傷つけるかもしれないと思って、……ごめん」

 

「あ……っ、あ、謝らないで……っ、その、……前の導力魔法のことみたいに、話せないわけでも、説明が難しいわけでもないの。……私、そういう話も知ってる方だと思うけど、ウソつくの苦手だから、……向こうのことを言ってる間に話しちゃダメって言われてることまで言っちゃいそうで……」

 

「「「あー……ありそう……」」」

 

「なるほどねぇ」

 

 カルマは私のことを気遣ってくれてたみたいだけど、正直ドキリとした。だって地味に国の暗部だとか事件の裏事情を知ってたり、いろんなものの当事者だったり間接的に関わってたりするから。アレだけ国が大きく動いた事件の中で話していい範囲を考えながら、全く無関係の人に話すのって、私にとっては結構難しいんだよね……私がみんなに話してない、私の正体にたどり着いちゃう可能性もあるし。

 だからこそ、話していい範囲でホントのことを言ってしまえばいい、と思ってる。よくいうもんね、嘘をつくなら真実も混ぜて話すとバレにくいって。そしたらほら、みんな「アミサだから」で納得してくれるから。

 

「事件の話じゃなー、前みたいにクラスで授業みたいにやってくれよってさすがに言いにくいわ」

 

「事件ってことは被害者と加害者がいるわけだもんね……さすがに不謹慎か」

 

「だな。ま、俺らにも教えてよさそうなこと聞けたら共有してくれよ!」

 

「その判断はカルマ君達に任せちゃうからさ〜っ」

 

「……ん?達って言った?」

 

「言ったね……、これ僕らも行くことになってない?」

 

「はは、まぁいいんじゃねー?」

 

「まったく……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「烏間先生〜今いい?」

 

「カルマ君か、君が俺のところに来るのは珍しいな……と思ったが後ろに真尾さんもいるなら君は付き添いか」

 

「はは……やっぱりね……」

 

「真尾についてきてるって思われてんぞお前」

 

「わ、私じゃないです、用事あるの……っおまけなのは私の方で、えっと、えっと……」

 

「付き添いは私達の方でーす、メインはカルマ君なのでそっちに聞いてあげてくださーい」

 

「そ、そうなのか、それはすまなかったな」

 

「……みんなして何さ、俺だって来る時は来るよ」

 

 結局カルマだけじゃなく私たちも一緒に教員室について行くことにしたんだけど、呼ばれた烏間先生は最初からカルマが用事あるとは全く思ってなかったみたいで私に話を振ってくるから慌てて否定する。なんと言えば烏間先生の誤解を解けるかって慌てていれば、察したカエデちゃんがフォローしてくれて、伝わったみたい。

 みんなの反応をカルマ本人はそこまで気にしてなさそうだけど、呆れた目というか疲れた目というかなんというか……ため息はついてる。

 

「まーいいや。あのさ、烏間先生って《碧の大樹》って何のことか分かる?」

 

「!……どこでその名前を聞いた?」

 

「あ、本トに知ってんだ。《銀》が推薦したって言えば、烏間先生ならある程度なら教えてくれるって」

 

「……、なるほど《銀》殿が許可したのか」

 

「うん。烏間先生と『死神』がバトってる時、《銀》に『暗殺者は殺し以外にも仕事を受けるのか』って聞いたら、『暗殺者全てが必ず殺しだけを目的にしているわけじゃない』って教えてくれてさ。その時にチラッと言ってたんだけど、明らかに口を滑らせたって感じだったんだよね。アミーシャの故郷の話だから知りたいんだけど、日本で話すなら念を入れて後から聞けとも言ってたから、本トに聞けるのかなって……あの時からずっと気になってて」

 

「なるほどな。……少し待て、確認することがある」

 

 《銀》が許可した、とカルマが言った途端に烏間先生の目線が一瞬私の方に流れ、違和感が無い程度の動きでパソコン画面へ移動した。私がカルマのすぐ隣にいたから、そこまで違和感のない動きになってたとは思うけど……うん、誰も気にしてないみたい。

 カルマが聞きたがっている内容を理解した烏間先生は、少し考えるように黙ったあと、スマホを取り出して窓際へと歩き出し、どこかへ電話をかけ始めた。窓の外に向けて話しているから教員室の入口に立っている私たちには音が届きにくくて口径も見えず、ぼそぼそと話しているから私でもハッキリ聞き取るのは難しい……というか、分からない。

 

「ふーん、《碧の大樹》ねぇ……私もあれが何なのか詳細までは知らないわ。ただ……2年くらい前にクロスベルに突然現れて突然消えた、ものすごく大きくて幻想的でまるでオーロラのような……そこにあって、無いようにも見える不思議な樹、だったはずよ」

 

「おや、烏間先生の確認を待たずに話していいので?」

 

 烏間先生が電話をし始めたタイミングで、最初から教員室にいたイリーナ先生がタブレットをいじりながら思い出すように話し出した。その声は不思議と大きく聞こえて、私たちの視線は自然とイリーナ先生の方へ向く。同じくのんびりお茶を飲んでいた殺せんせーも首を傾げながら興味深そうに話に入ってくる素振りを見せる。

 もちろん電話している烏間先生にもこの声は聞こえていたみたいで、チラッと目線はくれたけどすぐに逸らした……放置でいい、という判断なんだろう。

 

「なによ、外観くらいならどっかの新聞社が取り上げてるからネットで探せばあるわよ……ほら、コレとかね」

 

「うわぁ……生き物みたいな感じもする不思議な樹……」

 

「わぁ……キラキラしてて宝石みたい!」

 

「『あお』って、音だけ聞いたら『(あお)』のイメージだったけど、どっちかというと『(あお)』……いや、『(あお)』に近い感じ?」

 

「カルマ、それ全部『あお』って言ってるから、聞いてる俺らにゃ違いが分からねぇんだけど……」

 

「あー……ごめんごめん。空みたいな『青』と違って、山とか草が生い茂る感じの緑に近い『あお』だと草冠に倉って書く『蒼』って漢字で表して、透明感のある宝石のような青緑色の時は王、白、石って書く『碧』って字で表せるんだよ。この樹を『あお』って呼ぶなら『碧』の字があってそうだなって思ってさ」

 

「なーる、それはピッタリだわ」

 

「茅野の言う通り、宝石みたいな樹なんだね、きっと」

 

 くるりとひっくり返されて、私たちに見えるように向けられたイリーナ先生のタブレットには、……いつか見た、あの《大樹》が映し出されていた。

 確か地上から2000アージュ(メートル)はあると言われていたはずだから、当然写真なんて小さなものに収まってるわけがなかったけど、空を仰ぐように撮られているその写真は大きさと幻想的な雰囲気はそのままで。あの時と、同じ……まるで生きているかのような、大きな樹。撮ったのは同行していたクロスベルタイムズのグレイスさんだろうな。

 

「私が話さなくても律に頼めばこのくらいはすぐに見つけられるわ」

 

「しかし《碧の大樹》については日本で報道されてなかったはずです。治安維持のために烏間先生達防衛省が仕事をしたんでしょうが……イリーナ先生はよくご存知でしたねぇ」

 

「平和すぎる日本にいたらあんまり取り上げられないのもわからなくは無いけど、私は世界を相手取る殺し屋……海外の情勢も仕入れてたら自然とね」

 

「なるほど……自分のホーム以外ならば当然事前情報がないと動きようがない。ましてや少しの情報のズレで入国すらできない可能性があることを考えれば、イリーナ先生はゼムリア大陸での仕事と関係なく、クロスベル周辺地域も含めて調べていそうですね」

 

「それはそうよ、あれの存在のおかげで外交問題のきっかけにもなった大騒動になったんだから」

 

「……外交問題って、……この《樹》、1つで?」

 

「たかが《樹》じゃないってことか?」

 

「《樹》でというより正確には《零の至宝》が取っ掛りだったはずだけど……さすがにそこから先はカラスマに聞きなさい。言ったでしょ、詳細は知らないって……それに私じゃ責任取れないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というかクロスベルでの事なんだからカラスマじゃなくてアミサに聞けばいいじゃない。なんかずっと黙ってるけど」

 

「「「!」」」

 

「……………」

 

「……アミーシャに?」

 

「ええ。アミサは中学(ここに)入学前までクロスベルにいたんでしょ?大陸にいなかった私でも知ってる大騒動だったんだから、時期的に巻き込まれてたり、《大樹》そのものを目にしてたりしてもおかしくないわ。……って、何よアンタ達、その目は」

 

 イリーナ先生が私の名前を出した瞬間、教員室にいたみんなの目が私に集まって、すぐにイリーナ先生へ呆れた目を向け直した。……先生は、悪くない、イリーナ先生からしたら時期的に1番知ってそうな私に聞かないのかって当然の疑問だっただろうから。

 

「……俺、アミーシャから聞き出したくなくて烏間先生頼りに来たんだけど。なのにアミーシャから聞くことになってたら本末転倒じゃん」

 

「ビッチ先生、それくらいは俺らも分かってる上で来てるって……」

 

 でも、それに待ったをかけてくれたのは私から直接聞き出したくないと言ってくれていた彼で、他のみんなも賛同するように頷いてくれてる。と、いったところでスマホを耳から離した烏間先生が戻ってきた。

 

「いや、イリーナもあながち間違ってない。許可は得た……真尾さん、どこまで話す?」

 

「え、烏間先生まで、なんで……」

 

「《碧の大樹》について話すなら必然的に真尾さんの許可取りが必要になる。彼女は目撃者……どころか《碧の大樹》の破壊そのものに関わった当事者だからな」

 

「「「!?!?」」」

 

「え、そうだったの?!」

 

「イリーナ先生は分かってて言ったのではなかったんですか?」

 

「さ、さすがにそれは予想してなかったわよ……」

 

「真尾さんが着いてきたのも、情報を制限するためだと思っていたんだが……違ったか?」

 

「……あはは、違ってない、です。誰にかは分からないけど、多分今の電話で情報開示の許可取り、してくれたんですよね?……だったら、私が話します」

 

 ……カルマがクロスベルで起きた事件について聞きに行くと言った時から、そして彼についてここに来ると決めた時から、覚悟はしてた。彼があの時、確実に興味を持っていたのも忘れてくれないことも分かっていたから……だったら、人に頼るより自分の口から話したい。

 

「……俺、教室で言った通りアミーシャが嫌なら聞かないよ」

 

「許可取りが必要なほどの話なら余計にね……」

 

「というか聞きたがってるのはカルマ君なんだし、着いてきただけの僕らが聞いていいの?」

 

「それな、俺ら出てった方がいいか?」

 

「ううん、カルマたち4人と、先生たちならだいじょぶ……いつかは話すことになるって分かってたから。ただ、他のみんなにはまだ、黙っててほしい、な……」

 

「……分かった」

 

「話して、アミーシャが辛くないなら……教えて」

 

 このまま平穏に中学校生活が終われるのなら、このまま卒業の時に笑ってさよならできるのなら……大好きなみんなは、私の過去なんて知らないままでいい。そう思っていたけど……《銀》を巻き込んだ暗殺が起きた以上、いつ何が起きるか分からない。それなら、少しでも話せる内容は開示しておいた方がいい……私の、信じられる人たちになら、知っておいて欲しい。

 私の言葉を聞いて殺せんせーと烏間先生が席を立つと、入口で立っていたカエデちゃんと渚くんに席を譲ってくれて、杉野くんは元々空いていた椅子をイリーナ先生の隣に持ってきて座って……

 

「はい、アミサさんとカルマ君は先生の触手の上にどうぞ」

 

「は、……、……え?」

 

「……あのさぁ、密着したら暗殺されると思わないわけ?」

 

「にゅや、それを言われると痛いですが、先程からのアミサさんの様子を見ていると、許容量を超えた時が心配です。話している間に負担が大きくなりすぎたら止められるよう、直接脈拍や発汗などの調子を診ておきたいですし、メンタルケアのためにもカルマ君には近くにいてもらいたい。……なにより烏間先生が連絡をとったであろう相手を考えると、ね」

 

「なぜお前が把握しているんだ……」

 

「ヌルフフフ、先生ですから」

 

「……はぁ、アルカンシェルの時と同じか……アミーシャのためとか言われたら刺せないじゃん。……おいで」

 

 渋々、というように差し出された触手に腰掛けるカルマに手招かれて隣に座ると、私たちを支えるのとは別の触手が首筋にピトりと触れた。冷たいかと思っていたのに不思議とじんわりとした温かさを感じて……どこか、安心感を覚える。緊張していたんだろう身体から力が抜けて、だんだん心がほぐれていく気がした。

 隣からも私が今この場で1番安心できる手が握りしめてくれて……上手く話せる気がした。

 

「……《碧の大樹》、にはね、ゼムリア大陸の根幹とされる七耀の中でも、因果律と認識を司る銀耀の『幻』、空間を司る金耀の『空』、時を司る黒耀の『時』の属性を併せ持っていて、過去、現在、未来……全てを書き換えることができる、世界を紡ぐ力があったの」

 

「世界を紡ぐ……?」

 

「どういうこと?」

 

「んと、……簡単に言うなら……不幸な出来事はなかったことに、現在の願い、これからの未来を思うがままに操作できちゃう、そんな力」

 

「「「!?」」」

 

「そんなっ、そんなものがあったら……!」

 

「使い方次第で、世界征服だってできちゃうんじゃ、」

 

「うん。……私たちの信仰対象である《空の女神(エイドス)》から授かったと言われてる、人知の及ばない力を持つ《七の至宝(セプト・テリオン)》の1つ……幻の至宝《虚ろなる神(デミウルゴス)》。高度な知性と、人と同じような感情があったから、際限のない人の欲望や醜さに絶望して、自壊しちゃった《古代遺物(アーティファクト)》が古代文明にあったんだけど、……似てるでしょ。《碧の大樹》ってね、この至宝を()()して人工的に作られたものなの」

 

「……は?人知の及ばないものを、人工的に作った?」

 

「矛盾してる気が……」

 

「……手の届かない《空の女神》ではなく、地上の神を望む……女神より《至宝》を受け継いだ一族が1000年もの妄執の末、生み出したんだったか……」

 

「せ、1000年……」

 

「烏間先生、よく知ってましたね。クロスベルにはね、私がお世話になったお兄ちゃんたち……んと、警察組織があって……そこで保護されていた子が、その一族が《至宝》を人工的に作り出すために、生み出した子だったの」

 

「人工的に生み出したって……人を?」

 

「すごく言い方悪いと思うから違ったらごめん。……試験管ベイビー、みたいな認識でいい?」

 

「……私も、詳しくは知らない。でも、人造生命体(ホムンクルス)だって聞いてる……当然、その子に自分が作られた存在だなんて認識はなかったよ。……ただ、その子は保護してくれたお兄ちゃんたちが大好きだったから……お兄ちゃんたちを守るために、より幸せな未来を作るために、《至宝》になることを選んで、……その結果、いろいろあって産まれたのが《碧の大樹》」

 

 あの時は、ホントにびっくりした。普通に1人の女の子だと思ってたのに、あの子はあの子で自分の存在やルーツ、だんだん覚醒していく力に悩んでいて……それに気づいてあげられなかった。大好きな存在がいたから、その人たちのために力を使おうと……利用されてしまった。

 

「さっきも言ったけど、《碧の大樹》は人の願望を、欲望を、時空間の因果律を書き換えて全て叶えるようなもの。小さな女の子1人で制御しきれるものじゃなくて最終的にはその子を犠牲にするのは分かりきってた。だから、お兄ちゃんたちはその女の子を助けるために《大樹》を破壊することに決めた。お兄ちゃんたち以外にも、調査に関わってきたから最後までついて行くって決めた警察の人、教会の人、そして……《銀》さんも参加して、最終的にその子が力を放棄したことで、《碧の大樹》は消滅。……これがカルマの知りたがってた、《銀》さんが暗殺以外で関わった《碧の大樹》の事件」

 

「「「…………」」」

 

「なるほど、確かにこれは外交問題……どころか、世界規模の問題だな……」

 

「クロスベル近辺で収束したからよかったものの、一歩間違えば日本も巻き込まれてたわけです。余計な混乱を招かないためにも日本が情報規制していたのも頷けますね」

 

「今、クロスベルは再独立に向けていろいろ動いててね、下手に情報を出すとキーアちゃ、……その子とか、お兄ちゃんたちが危険かもしれなくて……《銀》さんも、E組以外にも人が多すぎる場所では、話せなかったんじゃないかな……?」

 

「なるほど……そもそもE組も大人数だし、『死神』に防衛省の職員にって動員された人も多かったもんね」

 

「でも……それに、どうしてアミーシャが関係してくるの?ただ、クロスベルでその騒動に巻き込まれただけじゃなくて……?」

 

 最初にカルマが知りたかっただろう事件については納得して貰えただろうけど、この事件に私が関わってる……というか当事者なことを聞いたら、気になるに決まってるよね。ここから先は話さなくていいなら黙っていようと思ってたけど……隠して、不信感を持たれてしまうよりは。

 

「……私ね、最初からクロスベルにいたわけじゃないの。3年くらい前……リーシャお姉ちゃんがアルカンシェルにスカウトされる前、お仕事の都合でクロスベル入りしたのについて行ったんだ」

 

「カルバード共和国の生まれだもんね、確か」

 

「……どこだっけそれ?」

 

「クロスベル自治州をエレボニア帝国と挟む形の立地にある巨大な国じゃなかったっけ?」

 

「渚正解よ、ゼムリア大陸の中でも最大規模の国土と人口を有する大国ね。移民……特に東方系の移民を多く受けいれたことで拡大したと言われてるわ」

 

「東方……《銀》さんも東方関係者だったし、そっちがルーツなのかもしれないね」

 

「ん?でも真尾はなんでリーシャさんの仕事の都合でついて行ったんだ?3年前ってことは10か11だろ、さすがに家族といた方が……」

 

ッバカ杉野!!

 

「えっ、」

 

 カルマが私と繋いだ手を強く握りしめながら慌てたように大きな声で止めようとしてくれた。何気ない疑問だったんだろう、杉野くんはいきなりの静止にきょとんとしてる……ちらっとしか話してないし、覚えてなくても無理はない。

 寂しさはあるけど私はもう受け入れてることだから、気にしなくていいのに……だけど、覚えていてくれたことに少しの嬉しさを感じちゃったのは、不謹慎かな。

 

「……お父さん、その時にはもう、死んじゃってて。私にはお姉ちゃんしかいなかったから。11歳の私を1人残すのはさすがにって」

 

「あ……っ、わ、悪ぃ、だいぶ無神経なこと言った……」

 

「デリカシー無さすぎるよ杉野……」

 

「杉野君、さすがにないと思う……」

 

「…………」

 

「マジでごめん……」

 

「ううん、気にしてくれて、ありがと……、……あ、あのねっ!イリアお姉さんにリーシャお姉ちゃんの素質を見抜かれて結構強引に入団するの、決まって……その時私も一緒にスカウト受けて。さすがにまだ子どもすぎるからって、お断りさせてもらったんだ。でも、お姉ちゃんが練習の時はアルカンシェルでお手伝いとか練習に参加させてもらうこともあったし、家のお手伝いをしてる時もあった、から……その、だから、寂しくなかったよ」

 

「そっか、……本ト、いい人なんだな、イリアさんって」

 

「アンタみたいに素直なのはいいことよ、でも……女心も含めて、1度飲み込んで、噛み砕いてから話しなさいよね。アミサの境遇は相当特殊ケースだと思うけど」

 

 暗い雰囲気にしちゃったけど……ホントに、お父さんがもういないことも、家族がお姉ちゃんだけなことも吹っ切れている、これは嘘じゃない。私が心からホントのことを話してることが伝わったんだろう……落ち込んだ杉野くんを隣からイリーナ先生が手を伸ばして、頭をぐしゃ、と撫でている。

 同じようにカルマも、私を気遣うように撫でてくれて……私は大丈夫、続きを話そう。この後の方が……私の罪のひとつ、だから……一度深呼吸をして口を開く。

 

「私とリーシャお姉ちゃん……は、確かに直接的に関係はなかったかもしれない。でも、《碧の大樹》を利用しようとする人たちの中に……『私たちの本気を見たいから』、なんて身勝手な理由で、私たちの中で大切になっていた場所を、大事な人を傷つけた相手がいたの。私たちが元々クロスベルを訪れた理由なお仕事の区切りをつけて自分の身の振り方を考えてる時だったから……もう、クロスベルを離れるつもりだったから、そんなことが起きるなんて、思ってもなかった」

 

「…………」

 

「ッ!3年前って、ね、ねぇ……それ……ッ」

 

「……ッあ、アミサちゃん達の大切な場所と大事な人……お姉さん以外でって、……も、もしかして……」

 

「アミサさん……、まさかアルカンシェルの襲撃事件は……イリア・プラティエの故障は……ッ」

 

「ぁ……ッ」

 

「……私と、お姉ちゃんが、あの場にいたから。私たちが見ないようにしてきたことで、起きた事件、……イリアお姉さんが怪我をすることになったのって、間接的には私たちがあの場所にいたから、なの」

 

 ……アルカンシェルが狙われた理由は……あの、《血染めのシャーリー》が、《銀》の当代であるお姉ちゃんと本気で戦い(遊び)たかったから。幼い頃から暗殺のための訓練を受けてきた私たちと、戦場で生きてきたあの人なら、同じような境遇だからこそ遊べるって……本気を出すことに枷になるからって、それを外すだけよために、アルカンシェルは襲われた。ただの、欲のために。

 これは、リーシャお姉ちゃんが《銀》である道を捨てきれず、かといって光の当たる場所で生きることにも迷いがあったから……私が、その分の業を引き受けきれなかったから、先を描けなかったことによる罪、だと思ってる。私たちがいなかったら……何度も考えた、だけど。

 

「でもね、リーシャお姉ちゃんが立ち直れたのも、イリアお姉さんと、アルカンシェルの人たちのおかげ。お姉ちゃんと、アルカンシェルを襲った人は違う存在、同じ立場に立ってる人じゃない……光を見つけたお姉ちゃんの方が強い、そう、信じれた。だから、《碧の大樹》でその人からご指名受けてっていうのもあるけど、因縁を断つために一緒に戦った。……間違ったことはしてないと、思ってる」

 

「「「…………」」」

 

「それでも……真尾は警察でもないのに……」

 

「アミサちゃん達は、アーティストってだけなのに、そんな危険なところにいなきゃ行けなかったの……?」

 

「…………ごめんね、それは、話せないの」

 

「……アミサさん、話の流れからもしやと思ってましたが……あなたは、」

 

「殺せんせー」

 

「!……そうですか。……そう、でしたか……」

 

 殺せんせーは、アルカンシェルに観劇に行った日から、リーシャお姉ちゃんが《銀》の当代であることを知っている。その時点では身内なだけで私は無関係だと考えていたはず……もしくは、知っていても違うって。だけど、今の話で多分、気づいたんだろう……私も、アミーシャ・マオも、《銀》であるということに。

 さすがにそれはまだ、クラスメイトには知られたくない。決定的なことを言われる前に、私を支える触手を握って、声をかけて止めれば、殺せんせーは複雑そうな表情を浮かべた。……確信を持っちゃった、かな。

 

「防衛省としても、杉野君や茅野さん、お前の疑問に答えることは許可できない。……真尾さんを、生徒としてさいごまで預かると約束しているからな」

 

「……そのあたりが制限される情報ってわけね、了解」

 

「ごめん、ね……やっぱり向こうが落ち着いたとしても、結構機密な部分はあって、どうしても話せないこと、あって……」

 

「いいって、十分。いや聞きたいこと以上に教えてもらったから」

 

「……ありがと……」

 

 優しいことをいってくれる、みんながいる。心配して、なんでって悲しんで、怒って、一緒に抱えようとしてくれる……今言えることはこれくらい……そのつもりだったのに、私の口は自然と弱音を吐き出していた。

 

「私も、知らされてないこといっぱいあると思う。最初に、外交問題って話したでしょ。抑止力になってた《大樹》が消滅したことでね、帝国から侵攻されるのは時間の問題になって……いろんな事件が続いて疲弊したクロスベルの力じゃ、強大な帝国の軍事力には敵わないってこともわかってて。それで……お姉ちゃんと、警察のお兄ちゃんたちに、クロスベルが落ち着いてる間にせめて3年間は違う土地でって……私も関係者だったのに、1番小さいからって外に出されちゃったんだ」

 

「……そっか」

 

「きっと、私が1番戦力にならないから……理由をつけて外に出されて、……私が、子どもじゃなかったら、違ったのかな……」

 

「……話聞いてるとさ、アミサちゃんはその一緒に戦ったっていう人達の本トの意図は分かってないんじゃないかって気がするよ」

 

「え……?」

 

「そうだよね。……《大樹》の子もだけど、アミサちゃんが一生懸命で、イリアさんの事があって罪を償おうとして周りが見えてなかっただけで、きっとそのお兄さん達に守られてたんだよ……その人達がアミサちゃんを小さい子って思ってるのはあるかもしれないけど、多分、そのタイミングで助けられたのが、アミサちゃんだけだったんだよ」

 

「アンタ達姉妹では、アルカンシェルのアーティストとして名が売れてる分、リーシャの方が目立つ存在……アミサは上手く隠せたとしてもおかしくないわ」

 

「……そう、なのかな……、でも……」

 

「なんでもネガティブに考えるのは真尾の悪い癖だよなー。外に出すからこそ、心配させないように色々黙ってるのかもしれねーじゃん」

 

「俺がアミーシャのことを知りたいって思っても、アミーシャが話せないことがあるみたいに……その人達も黙ってたんじゃない?でも……アミーシャは、それが仲間はずれにされた気がして嫌だったんでしょ、……寂しかったんでしょ」

 

「……寂しい?……そっか、……うん、寂しかったの、かも……なんで私にも背負わせてくれなかったんだろって、思って……私も、なのに……」

 

「リーシャさん達の優しい嘘だよ。ちょっとやり方はあれな気もするけど……アミーシャが気にしないように、それでいて少しでも安全になるように……」

 

 あの人達の本意を知ろうとしなかったのは私の方だって気づかせてくれたカエデちゃん。私だけなら逃げれる環境だったから何とか逃がそうとしたんじゃないかって私が見れていなかった考えを示してくれた渚くんと、イリーナ先生。弱音を否定せずに、それでいて前向きに考えるよう笑って促してくれる杉野くん。私がホントは寂しかったから、一緒にいたかったんだって自覚させてくれたカルマ。

 ……私が、分かってなかっただけ、あの人たちは……お姉ちゃんは、私が役に立たないから外に出したんじゃなくて……私を、守るために。……私が、気づけなかった思いに触れたからこそ、私は。

 

「……私、約束したから3年間は頑張るよ。でも、お姉ちゃん以外のあの人たちが頑張ってるのを知ってて、安全なところにいるなんてイヤ。中学(ここ)を卒業したら……」

 

「アミサさん。それ以上はあなたも、みなさんも後悔してしまいます」

 

「……え、でも……」

 

「思い込みをそのままにしたのも、素直にあなたがクロスベルを離れてくれないと考えたからでしょうねぇ……ですが、みなさんの考えを聞いて、アミサさんは気付けたはずです。だからこそ、今日まで1人で頑張ってきたアミサさんには、ご褒美があってもいいですよねぇ?烏間先生」

 

 私は、守られるだけの存在じゃないって示したい。だから、私も向こうに行って、みんなのことを助けに行きたい。でも向こうに行ったらいつこっちにこれるか、帰ってくるかも分からない……もう、会えなくなるかも……そう続けてしまうつもりだった。

 それは、この暗殺教室を卒業したらみんなと道を分かつ宣言のようなものだったんだけど……それ以上を言ってはいけないというように、私を遮ったのは、さっきとは反対に殺せんせーで。

 

「あー……その事なんだが……、お聞きになってましたよね、お預かりしている子の覚悟を」

 

 殺せんせーに止められたことで私が全てを言い切る前に、烏間先生がいきなりスマホに向かって声をかけ、て……え、もしかして最初からずっと通話中だったの?私、結構しっかり話しちゃってたんだけど、聞かれてだいじょぶだったのかな……でもどこかに許可取りしてたみたいだし、その相手なら元々詳細を知ってるだろうしいいのか、なんて軽く思ってた。

 

「……律を使えば共有できると?……では、スピーカーにします」

 

「烏間先生?」

 

「まったく、真尾さんにこの方法を開示してもらっておけばよかったな……」

 

「アミサさん、あなたの覚悟は、抱えていた気持ちは……彼らに必ず届いていますよ」

 

「…………ぇ…………?」

 

 烏間先生が通話中だったらしいスマホを私の方へ向ける。そこには通話中の画面かと思いきや……

 

 

 

 

 

『君が1人思い悩む必要はないんだよ、アミーシャ』

 

 

 

 

 

「……ぁ、あ、……うそ……ッ?」

 

「ちょ、危ッ……ふー、セーフ……」

 

「……アミサさん、烏間先生からスマホを受け取って、ちゃんと近くで見ましょうか。カルマ君、支えていてあげてくださいね」

 

「うん、もちろん」

 

 ビデオ通話の画面、そしてそこに映っていたのは、茶色の髪の、男の人。それが目に入って、いてもたってもいられなくて、殺せんせーの触手から立ち上がろうとして足がもつれて転びかけて……慌てて伸びてきた殺せんせーの触手とカルマの腕の中で呆然としていれば、ゆっくり床に座らせてもらえて。カルマに支えてもらいながら床に座り込んだ目の前に、烏間先生が差し出してくれたスマホを、両手で受け取る。

 

「……ロ、イド……さ……?」

 

『はは、うん、そうだよ……うわっっ!?』

 

『ちょっとロイド、独り占めしないでっ……アミーシャちゃん、ひさしぶり。さすがに3年も経つとちょっと顔付きが大人っぽくなったわね』

 

「エリ、……さ、」

 

 べりっと茶髪の男の人を画面の向こうから剥がすように現れたのは、灰色の長い髪を揺らした女の人。キレイな笑顔で手を振ってくれている。

 

『おー!向こうの様子が見えるじゃねーか!』

 

『おいランディ!!』

 

『ちょっと、いきなり奪ってかないでちょうだい!』

 

『いいじゃねーか、お嬢、俺にも合わせてくれって!……よ、アミ姫!相変わらず可愛い顔してるが……今年で15だよなぁ、大きくなって……』

 

「……ら、でぃ……さん、」

 

 向こう側の一気に視界が高くなった……頭上から映してるからだろう、燃えるような赤い髪が目立つ、がたいのいい男の人。ニカッと楽しそうに笑うその人は、目を細めて嬉しそうで。

 

『はぁ、……その発言、おじさんくさいですよ』

 

『おじっ!?』

 

『っと、……コホン、……お久しぶりです、髪を切ったんですね。短いのもお似合いですよ』

 

「……てぃお、さ……」

 

 ツッコミを入れられて、多分端末を取り落としたんだろう……宙を映していた画面が止まったかと思えば、水色の髪の、静かな女の人が映る。大きく感情を乗せてはいないけど、ふわ、と微笑むその顔は、安堵が見えて。

 

『アミーシャ!見えるー?ティオ、キーアも映してっ!』

 

『え、アミーシャちゃんが顔見せてくれてるんですか!?珍しい、いつも髪で隠してたのに!?』

 

『やぁ、元気そうでよかったよ。キミなりに頑張ってるみたいじゃないか』

 

「あ、……ぁ、あ……っ」

 

 たった今、会いたいと、助けになりたいと願った人たちが、画面の向こうで笑っている。

 

『アルテリア法国を宗主国として、クロスベルは再独立が認められた。これからはもう、俺達も狙われることはなくなったよ……たった1人で……何も知らせずに待たせて、ごめん』

 

 最初に画面に映っていた、茶髪の男の人……ロイドさんに戻され、告げられたそれは……1人日本に来てからずっと心配していたものが終わったという報告で。私の助けはやっぱりいらなかったんだという悲しさもあったけど、ずっと、生きているのか、ケガしてないのか、無事なのか、危ない目にあっていないか……何も分からなかった日々の終わりでもあることがだんだん分かってきて。だんだん、目の前が歪んできて。

 

 

 

 

 

「ひぐっ……う、うぇ……っ、ッうわぁぁぁん……!」

 

 

 

 

 

 私は、顔をおおうこともできないまま、色んな感情でぐちゃぐちゃなまま、先生たちやカルマたちに見守られる中で、涙が止まらなくなっていた。ぼたぼたと零れてくる涙をぬぐう余裕もなくて……たくさんの手に頭や背中を撫でられながら、画面の向こうの声を聞きながら、私はいつぶりかの、自分で止められない程の涙を流していた。

 

 

 

 

 

 

 





「急な連絡を失礼しました、ロイド捜査官。お受けいただけて感謝しています」

『敬称も敬語もなくていいですよ、カラスマさん。俺の方が年下なんで……こちらこそ、通信を繋いだままにして欲しいなんて急な要求を叶えてくださりありがとうございます。おかげでアミーシャの本音が聞けました』

『アミーシャは基本勝手に危険に飛び込んで叱られるか、静かに後ろで隠れて前に出ない子でしたから……そちらではいい友達に囲まれてるんですね』

『戦力外扱いしていると思われていたのは心外ですが……ちゃんと寂しいと思ってたんですね。子どもらしくて安心しました』

『しっかし、いいタイミングで通信できたよな〜……まだ独立宣言なんぞしたばかりで、報道も特にされてねーぞ?』

「防衛省の方にも情報が来たばかりでしたが……まさかこんなタイミングで連絡できるきっかけを生徒が持ってくるもは思いませんでした」

『好奇心のある、賢い子たちですね。特に赤髪の子……彼がこっちの情勢に興味をもった理由は、知らないことへの探究心ですか?』

「あぁ、いや……これは俺の口から話していいのだろうか……」

『へ?』

『いや、ロイド、見てたらわかるでしょ?』

『ん?ワジ、何か気付いたのか?』

『マジか……うちのリーダーどんだけ鈍感なんだ……自分は勝手にたらしこんでくるくせに……』

『は、はぁ!?人聞きの悪いこと言わないでくれ……』

『ま、真実は今度そっちに顔を出した時に聞こうじゃないか。近いうちにアレの回収のため、そっちに行くつもりだからよろしく』

「ああ、こちらこそよろしく頼む。連絡をもらえれば停泊許可も出そう」

『助かるよ』



「……」

「……アミーシャ?」

「……泣き疲れて寝たね、これ」

『あらら……』

『え、アミーシャちゃん寝ちゃったんですか!?え、え、カメラ向けてください!』

『ノエルさんってば……』

「え?……あ、はい、どうぞ……」

『うわぁー……かわいい……新鮮……こっちでは1回も警戒せずに寝てるところ見た事ないですよ……』

「そうなんですか?こっちではE組の前でだけなら気を抜いてる時多いと思いますよ」

『ちょっとの物音で起きちゃうというより、むしろ寝床にいない時もありますから』

『うらやましい……泣いたのも見たことないです……』

「……どっかのカルマみたいだな、警戒して人前で寝ないところとか。真尾とそれ以外とで警戒度が全然違うところもか」

「……ふん」



++++++++++++++++++++



ループ前では学園祭まで温存していた
・《碧の大樹》もとい《キーア》の説明
・オリ主の進路への考え
・特務支援課の無事を伝えること
ですが、この時間軸では先出しになりました。
この先の展開のために、起こる事象は同じにしつつ違う展開……といじくり回していたらいつの間にか通信が繋がってました。最初はリーシャへ許可取りの電話をしていたはずなのに書いているうちにロイドさんが電話に出てました(笑)



あ、まだ来日してませんよ!



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