暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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閑話にあたりそうですが、一応準備期間のお話。
あの人たちがアップを始めました。


今回もよろしくお願いします!





116話 予想外の時間

 

 殺せんせーがミスコンに代表者として私を含める5人を勝手にエントリーしちゃったのはもう仕方がない……というか、私自身、E組の誰が出てもいいんじゃないかとか思ってたこともあって、受け入れることにした。事前に相談というか、一言欲しかったなぁとは思わないでもないけど……それについては当事者よりも周りの方が詰め寄ってくれてたから、怒るまでもなかったともいうか。

 そもそも有希子ちゃんとカエデちゃんは自分の意思でOKしてたし、律ちゃんはむしろ参加出来ることに大喜びだし……反抗してたのは女装が確定した渚くんと、私が出なくていいように動いてたつもりだったらしいカルマくらいだったし。私自身はもういいや、なるようになーれって早い内にみんなの反応を総スルーすることにしてたから、「自分も巻き込まれてるんだからもうちょっと反応しなさい」って呆れられちゃった……そんなこと言われても。

 

「っと、そこぬかるんでるから気をつけろよ。……それにしても、浅野の提案、思ってたより良心的だったな……」

 

「本ト、タイミング的には渡りに船っていうか願ってもない提案というか……これまでのことがあるから裏があるんじゃないかって思えちゃうわぁ」

 

「そう?あの感じだと仕掛けようとしてるとか名声を利用したいとかっていうより、マジでアミーシャを演者として出したいだけのような気もしたけどね。……そもそもE組を不利にしたいなら俺らがついて来るの許可しないだろうし」

 

「それはそう。ミスコンみたいに押せば頷いちゃうアミサを1人呼べば済むもんね」

 

「わ、私だってイヤならちゃんとイヤって言うよ……多分」

 

「その自信の無さが信用できないんだよなぁ……」

 

「アンタは自分に不利益でも、E組とかカルマとかのためになるって言われたら頷いちゃうでしょ?拒否できるの?ん?」

 

「……、……ムリかも……」

 

「おいおい;」

 

「ま、それが答えよ」

 

「E組のためでも俺のためでも、自分1人が嫌な思いをすればって思うくらいならまずは相談してよ。黙ってやってアミーシャが傷ついてるのを後から知るほうが俺らはキツイんだから」

 

「う゛、……ん、がんばる……」

 

 そんなことがあった後に何をしてるかといえば、殺せんせーに詰め寄るみんなの輪から、私とカルマ、磯貝くんと莉桜ちゃんの4人で抜け出して浅野くんからの提案を聞きに行き、みんなが待っているE組校舎へ戻る山道の途中だったりする。

 既に本校舎ではミスコン参加者が告知されてるってことを察せる追伸を送ってきた浅野くんは、もちろん私が立候補したとは思ってなくて心配してくれたけど……それを聞いてさらに不機嫌を顔に出すカルマと苦笑いの磯貝くんたちを見て、私がそこまで気にしてないことと、もう今から言ってもどうにもならないことを察したみたい。早々に話題を切りあげて本題に移ってくれた。

 

 カルマたちは、私を招くことで間接的にE組を害しようとしてるんじゃないか、私に利用価値があるからA組の集客に利用しようとしてるんじゃないかって疑っていて……浅野くんは躊躇いもせずに「そうだが?」って言うからみんなで驚いた。

 

〝……そ、そこは嘘でも取り繕うもんじゃないのか?〟

 

〝隠したところで意味が無いしな。僕達A組が目指す最高の舞台を作るために必要だから起用して何が悪い?そしてこちらに真尾さんを貸し出してもらう間はE組の戦力ダウンも見込める、となれば声をかけるに決まってるだろう〟

 

〝生徒会長、潔いいわね……;〟

 

 でも、それなら私じゃなくてももっと目立つ子をステージにあげた方が集客できるんじゃないかって思うんだけど。

 それに、E組を邪魔するにしても、私の何かに利用価値を求めてだとしても……聞けば、有志以外でステージに立つのはプロの世界で働くアイドルやお笑い芸人で、浅野くんのツテで呼ぶっていうし、……なおさらなんでその中に、私?

 

〝なんで私、って顔をしてるね。そうだな……君が本校舎にいた時から僕は君のことを見てきたが……文武両道を謳うこの学校でさえ、部活動や個人的なコンクールこそ奨励されてもそこまで重要視されない場面では、手を抜いていただろう?〟

 

〝!〟

 

〝なんでそんなこと言い切れるのよ。この子、手を抜くのは相手に失礼って考えるタイプよ?E組でも()()()()成績でトップクラスだし〟

 

〝同じクラスの贔屓目を無くしても、技術や料理でも一歩引くことはあっても課題以上のことでもこなす力はあると思ってるぞ?〟

 

〝あぁいや、手を抜くというのは言い方が悪かった。彼女はどんな課題でも及第点以上を取るのに、さらに上を目指そうとはしていなかった。さらに実力者が目を向ける時にはその他一般生徒に紛れている……目をつけられないように、周りに合わせていたんじゃないかと思ってな〟

 

〝…………〟

 

〝カルマ、そこんとこはどうよ?あってんの?〟

 

〝……はぁ、浅野君の見立てであってるよ。アミーシャは本校舎時代から信用も信頼もできない相手の前では前に出ようとしてなかったからね。もうちょいいえば意思決定も俺らに任せてるとこあったし〟

 

〝暗にカルマと渚の前でしか自我が無かったかのようにマウント取るなよ;〟

 

〝アミーシャに自覚あるかはわかんないけど事実だよ。……で?それだけじゃないんでしょ〟

 

〝ああ。理事長経由で流れてきた情報と今年の成績を見るだけでも、身体能力、音楽の実技に申し分ない才能があるのは分かっている。僕は椚ヶ丘の生徒会長だ、E組であったとしても腐らすに惜しいそれを、誰にも邪魔されず、否定されることの無い……むしろ評価を根底から覆すために場所を提供するのは僕の役目だ〟

 

〝……………………〟

 

 入学早々はこっちの勉強と日曜学校の勉強が違いすぎたこと、入学してからは私が差別をする中心になりたくなくて拒否していたから、クラスが1度も同じにならなかった浅野くん。3年生になるまで、私と図書室で初めて話した日から時々声をかけてくれる時くらいしか交流がなかったと記憶してる。

 ……彼のことだし、私=リーシャ・マオの血縁者ってことにも、気づいてるんだろうな。それなのに……私が、ただでさえ孤立しかけてたのをさらに外れてしまわないようにって、みんなに紛れようといろんな部分で自分を抑えていたことに、彼は。

 

 ……まあ、それとは別に理事長先生がなぜか私の情報を彼に渡してそうなのがちょっと怖いけど……私の根幹は知らないと信じてるけど、A組に使えそうなことだからって浅野くんが聞き出したり、教えてたりしてそうで。

 

〝……と、ここまでも本音に違いないが……そもそも真尾さんは歌うことが好きだろう?〟

 

〝……ぇ……〟

 

〝今まで何度かお茶に誘って来たが……君、注文を待つ間とか本を読んでいる時とかに、時々口ずさんでいるだろう。こっちでは聞いたことがないし、ゼムリア大陸(むこう)の曲のようだが……〟

 

〝……歌って、た……?私が?〟

 

〝……なんだ、気付いてなかったのか?〟

 

〝ちょっと浅野クン、アミーシャに自覚させないでよ、聞けなくなったらどうしてくれんのさ。アミーシャがドジする以外で気が抜けてるって分かるサインだったのに……〟

 

〝……それは、もったいなかったかもしれない。……だが、そうか、……僕達といても気を抜いてくれてたんだな……〟

 

 ……私には、ずっとカルマと渚くんしか見えていなかった。E組に来てからは殺せんせーを、そしてクラスメイトを、烏間先生とイリーナ先生を見て、信じることができるようになった。

 でも、それだけ。本校舎の人たちは怖いままで、浅野くんたちはちょっと違うなって思えても、どうしてもE組のみんなと同じようには向き合うことはできなくて……それでも、私を見ていて、気にかけてくれていたのか。私が知らなかっただけで、気づいていなかっただけで、あの針のむしろのような場所で、居場所になろうとしてくれていたのか。

 

「……みんな、勝手に決めちゃったけど許してくれるかな」

 

「何言ってるんだよ、なかなか前に出ない真尾が珍しく「やりたい」って言ったことだぞ?俺達は全力でサポートするだけさ」

 

「そうよ!カルマが簡単に利用できないように言質はとったし、あんたがやりたいようにやんな!」

 

「……これ、上手いこと利用して……浅野君達はバンドやるって言ってたし曲は取り寄せて……いっそリーシャさん頼れば早い、いや、軽音なら千葉か……?」

 

「そのカルマは既になんか考えてるけどな;」

 

 ……私は、歌うことが嫌いじゃないし、むしろ好きだと思う。だけど無意識に口ずさむほど、歌うことが好きだとは思ってなかったしそもそも歌ってることも気づいてなかったし。

 あの感じだと、カルマは私が意識しないで歌ってたことを知ってて、私にそれを知らせないまま勝手に楽しんでたんだろう……通りで私が歌った覚えのない曲でも鼻歌してることがあって、なんでその曲を知ってるんだろうと思ってれば。……それに。

 

「(……浅野くんが、私が彼らの前で気を抜いてるって聞いて、ホントの顔で笑った。あれは、他の何かに影響されたんじゃない、……()()変えた表情だ)」

 

 浅野くんが安心したように笑った顔を思えば、私のような小さな存在でもリーシャお姉ちゃんみたいに誰かへ何か、届けられるのかもしれない、なんて。イリアお姉さんみたいにその場にいるだけで存在感を示すことができるアーティストとまではいかないかもしれないけど……私も、誰でもない、私の力で、ステージに立ってみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 E組教室に戻ってみんなにもA組のイベントカフェでステージに上がることを了承してきたことを伝え、イトナくんの意見を参考にして、ステージ後に『E組のお店の宣伝をさせてもらうこと』を浅野くんへ報酬として欲しいとメッセージを送った。

 すんなりOKをもらえたことで、私はE組のお店のことだけじゃなく、ステージ構成とミスコンのアピールについてを考えなくちゃいけない……クラスのものだけのつもりだったから、ちょっとドキドキする。迷惑をかけないようにするためにも早めに動き出さなくちゃいけない。

 

 

 

 ──────コンコンコン

 

 

 

「全員いるか?」

 

「あ、烏間先生だ〜!まだみんないるよ〜」

 

「浅野に話を聞きに行った4人も戻りました」

 

「そうか、それならちょうどいい」

 

 教室の入口の扉を軽く叩いて中を覗いたのは烏間先生……さすが烏間先生が大好きな陽菜乃ちゃん、すぐに気づいて返事してる。磯貝くんが席を外していた私たちも戻ったことを伝えると、スマホを片手に教室に入ってきた……ちょうどいい?

 

「先日共有した特務支援課の来訪日が決まったからそれを知らせにな」

 

「お、ついにか!」

 

「アミサ経由であの人達のこととか、クロスベルでの日常が届くようになって半月くらいだっけ?」

 

「最初は1日1人だったのに1周したくらいから数人遠慮なくなったよな……;」

 

「こっちは楽しんでたけどね」

 

「いやー、マジで1日だけでもあのクロスベルの英雄って呼ばれる人達と会えるとかやばいよ!」

 

「楽しみ〜っ!」

 

「……、……君達、真尾さんよりはしゃいでないか?」

 

「……ふふ」

 

 烏間先生の持ってきた情報は、近いうちに戦闘指導を受ける予定のクロスベルからの来訪者たちについての続報で、……正直1番関係者であるはずの私よりも、私経由で交流していたクラスメイトたちの方が盛りあがっている。みんなからすれば私の身内というよりは、大きな事件に関わって解決に尽力した有名人、私たちよりも大人で強い人たちに会えるって方ではしゃいでるんだろうな。

 私ももちろん2年ちょっとぶりに再会できるのが楽しみだし、すごく嬉しいに決まってる。ただ、それだけじゃなくて……短い間とはいえ私が関わり、大切な存在だと感じてる人たちに、今、この場で大切に思う友だちが興味や好感をもって楽しみにしてくれてるのが嬉しいんだ。

 

「それで、いつなんです?」

 

「学園祭だ。保護者や外部に開放されることもあって学園内に入りやすく、多少見た目や持ち物が目立っても誤魔化しが効く。1日目から来場するそうだが、君達はE組としての出店があるから2日目の閉店後に戦闘指南の時間をもらう形を考えている。……が、本校舎の後夜祭などに行く時間が削られてしまう可能性が高くてな。構わないか?」

 

「ぜんっぜん構いません!」

 

「むしろ本校舎の出店とか、冷やかしくらいしか考えてなかったわ」

 

「1日目のシフトの空きで行きたいところは回っちゃえばいいしね〜」

 

「後夜祭もアウェイで強制参加させられるより、E組みんなで集まりがあるのでーって断れる方がありがたいよね。どうせなら身内で楽しく終わりたいし、ある意味こっちでよかったんでない?」

 

「あ、だったら先生達も売上の集計作業手伝ってくださいね!」

 

「ああ、君達の時間をもらうんだ、協力は惜しまない。……では、そのように返事をしてしまおう」

 

 学園祭……そこなら確かに生徒の保護者以外にも地域の人たちも遊びに来るし、あの人たちが来てもそんなに目立たないで済むかもしれない。それに戦闘訓練目的ってことは、みなさんそれぞれの得物も持ってくるだろうし……多少バレにくいように隠してしてくれるとは思いたい。

 学園祭の開催される日は11月の真ん中辺りの土日、だからもう1ヶ月を切ってる。あと少しでみなさんと会える。

 

「それと……共に来訪するリーシャ殿たっての希望で、友だちや教師と一緒に学校生活を送る妹の姿を見学したいとのことだ。学園祭が終わっても時間が許す限りはこちらに滞在し、指導とともに授業での様子も見たいと」

 

「え、お、お姉ちゃんも来てくれるんですか……?」

 

「あれ、殺せんせーは姿見せちゃっていいの?」

 

「あ、確かに〜。特務支援課の人達は特殊な部署の警察だから分かるけどさ、リーシャさんって、烏間先生が『絶対秘密』って言ってた家族にあたると思うんだけど」

 

「……俺もそう言ったのだが……既に変装した姿で真尾さんのお姉さんに担任として会ってしまっているらしくてな。コイツがこの場にいないと矛盾が出てしまうから仕方なく、だ」

 

「俺等は家族にも第三者にもバラすなって言われてんのに……」

 

「……殺せんせー、前にも言った気がするけど自分が国家機密の自覚あんの?」

 

「にゅや……」

 

「仕方がないが、一応リーシャさんも特務支援課に出入りしている協力者でもある……ということで折り合いをつけることにした。参観されても構わないな?」

 

「ええ、もちろんです……」

 

「あ、そっか。アミサにとったら授業参観にもなるわけね」

 

「私達にとったら家族はお客さんだけど、アミサちゃんからしたら非日常と一緒に日常も見てもらうってことかぁ」

 

 これまた当然の疑問が飛び出して、烏間先生が頭抱えちゃった……そうだよね、改めて思うけど殺せんせーって軽率すぎるよね。クラスメイト達もジトーっとした目で殺せんせーを見ていて、烏間先生相手では強気だったせんせーも、流石に少し肩身が狭そうな表情で小さくなっている。でもその件に関しては私がワガママ言ってアルカンシェルに連れていってもらったのも理由の一つだし、お姉ちゃんに会わせるってことをちゃんと考えてなかったから申し訳ないな……

 それよりも……お姉ちゃんも一緒に来るの?それは、アミーシャ・マオの姉として?それとも……戦闘訓練をつける、《銀》として?……分からないけど、お姉ちゃんにも、会える。

 

「嬉しそうだねー。でもこの感じ、あの人達A組でのステージも見ていきそうだけどいいの?」

 

「……う、うん。緊張するけど……でも、会える方が嬉しい」

 

「……そ」

 

 予想外のお客さんに見られることが決まったけど……でも、やることは変わらないから。むしろ、これをチャンスだと思おう。私がお姉ちゃんたちから離れてから……私は、私の力で大切だって思える人たちをみつけたんだって見せるんだ。

 ちょっと心配そうに聞いてくれたカルマだったけど、私が緊張よりも会いたい気持ちの方が強いとわかってくれたのか、短い返事と一緒に頭を撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ千葉。聞きたいことあるんだけど」

 

「なんだカルマ、あらたまって……」

 

「バンドって指導できる?」

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備に忙しく過ごしていれば、いつの間にか1週間たっていて、学園祭まで気づけばあと2週間くらい。村松くんが毎日試作品を作ってるどんぐりつけ麺は、味の方向性がほぼ決まったらしくて時々クラスにもスープの味見が流れてくる。E組の誰かがちょっとでも何か引っかかるなら、E組と親しくない人には絶対受けいれて貰えないって、殺せんせーのダメ出しにキレながら村松くんが仕上げてる最中。よく調理室から怒る声が聞こえてくるけど……スープを飲ませてもらうたびに貰ったダメ出しが全部改善されてるから、さすがだと思う。

 その他のメニューも、道具倉庫に作った燻製器で川魚を燻製にしていったり、おかーさん主導で作られたたくさん試作の料理がお昼ご飯時に並んでたりする。キッチンの予行練習にもなり、お弁当を持ってこない人のお昼ご飯になるし、なによりこれも感想がもらえるからまさに一石三鳥ねーって笑ってた。ものによっては試しに作ったけど「なんか違う」ってなってメニューに載せられないものもあるから……ちょっとお得感があるかも。

 

「あと2週間かぁ……気づいたらあっという間だね」

 

「来週からは半日授業だしもうちょい楽になんじゃない?」

 

「村松もそろそろ完成させるべきだ。当日になる前に俺が飽きる」

 

「そういって1番食べてるのはイトナくんだよ……というか飽きるも何も、イトナくんはお客さんじゃなくてお店屋さんの方だからね;」

 

「というか既に飽きたからアミーシャの夕飯が食べたいって着いてきたんでしょ」

 

「悪いか?」

 

「「ううん、全然」」

 

 今日もロングホームルームを使って準備をした後の帰り道。久しぶりに家に行きたいと言って一緒に帰るイトナくんは、元々週に3回は学校帰りに夜ご飯を食べに家に来てたけど、私とカルマがお付き合いを始めたからって遠慮してくれてたらしい。

 でも今日は「毎日ラーメンは飽きた」って……食費を浮かすためーって積極的に磯貝くんと一緒に試食に回ってるイトナくんでも、さすがに他の味が食べたくなったみたい。……カルマもちょっと呆れた顔をしながら受け入れてる。

 

「浅野クンとの練習はどんな感じ?そろそろ衣装も考えなきゃって言ってたけど」

 

「順調かな。みんなすごいよ……私がやりたいって言った曲、全然馴染みがないはずなのにたった1週間と少しで完璧に近いもん」

 

「浅野が既にマスターしていて、他の4人が細かいところを調整してるって感じだった。後で動画を渡す」

 

「サンキュ。でもさ、できすぎるのも気持ち悪いよね」

 

「それ小山くんも言ってた……」

 

「げ」

 

「ならそれが一般の意見だ」

 

 クラスの用意も大事だけど、私に関しては浅野くんたち五英傑と一緒にステージの練習のために抜ける時がある。私が歌いたい曲を決めていいってことでダメ元で3曲提案してみたら、次の日には全曲ある程度弾けるようになってた浅野くんがいてビックリしたのは記憶に新しい。他の4人はさすがにまだ途中で手を止めて譜面を確認してることもあるけど、ほとんど完成させてくれてて……提案した手前私も練習に力が入る。

 護衛っていうのは言い過ぎだけど、本校舎の人から下手に絡まれないようにってE組の手が空いてる人が着いてきてくれていて、今日はイトナくんが練習風景の撮影をしながら見守ってくれた。……この感じ、今日夜ご飯を食べに来たのも、カルマにその時の動画を見せるって意味もあったみたい。

 

「そういえば……休憩中に調整と他クラスの偵察がてら校内にドローンを飛ばしていたんだが、生徒に見えない奴が映ってたな……カメラ越しに目があった気がする」

 

「なに殺せんせーが変装して出歩いてるって?」

 

「違う。……同じ歳くらいの女だった」

 

「え、でも……今、本校舎って準備の音と声で結構うるさいよね……?ドローンの音って聞こえるの?」

 

「暗殺用にほぼ駆動音は聞こえないようにしてるとはいえ、近付けばさすがに聞こえる……が、俺は音楽室の近くで飛ばしてたんだ。音楽室は3階……しかも女が立ってたのは正門付近だ。音が聞こえるわけもないし、あんな小さなドローンを正確に見つけられるとも思えない、……だが、確認しようともう一度カメラを向けた時にはいなくなっていた」

 

「「…………」」

 

 最初に思い浮かんだのは、殺せんせーを狙って来た殺し屋かな?だったけど、イトナくんが見たのは本校舎の正門……しかも中に入ってきた感じでもないなら違う気がする。ちょっと気にはなるけど、それだけでは何も判断できないから不思議な人だね、としか言えないよね……

 イトナくんも話の流れで思い出したから一応伝えようと思っただけみたいで、結論までは求めてなさそうだし、とカルマと顔を見合せた所で、……ピリッと何か、いつもと違うものを感じた。

 

「っ!……?」

 

「……?アミサ?」

 

「なに、急に立ち止まって」

 

 さあ、あと少しで私の家……という所で、かすかに感じた何か……何とも言えない違和感に足を止める。もう家が見えてるのにいきなり私が止まったのを不思議そうに2人が振り返って、少し先に進んでいたけど戻ってきてくれた。

 

「……誰か、こっちを見てる気がするというか、変な感じがして……」

 

「!……俺は感じない。イトナは?」

 

「俺も。……家の中か?」

 

「……分かんない、けど……。でも、何か……」

 

「……、俺が先行する。イトナ、アミーシャについてて」

 

「分かった」

 

「え、でもっ」

 

「男2人いるんだから今は後ろに下がってればいいの。ほら」

 

「……うん」

 

 『死神』さんの一件があって以降、私の嫌な予感とか、いつもと違うって曖昧な感覚が当たるかもしれない、警戒しておいて損は無いし何も無ければそれでいいって言ってくれるカルマ。シロさんにいじられた肉体もそろそろ普通の中学生とほぼ変わらない状態に戻るって言ってたのに、私を庇える位置に立ってくれるイトナくん。

 違和感でしかないソレを警戒する2人に私は前後を挟まれ、何があるかも分からないのに、前に出てくれているカルマ……これは譲ってくれない。だからもし何かあればすぐに動けるように警戒を他にも向けつつ鍵を渡す。家の玄関に静かに近寄り、鍵穴に挿したところでピクりと小さく反応したカルマが後ろ手にジェスチャーをしている……『カギが空いてる』……いよいよ何が起きてるかと身構えながら、カルマがそっと扉を開い、て、

 

 

 

 

 

 ──────ガチャ

 

「アミーシャ、おっかえりー!!」

 

「う、おっ!?」

 

「「!」」

 

 

 

 

 

 玄関の扉を開いた瞬間、弾丸のような勢いで黄緑色の何かがカルマに飛び込んできた。警戒してたこともあって避けようとしたカルマだったけど、避けると私とイトナくんに当たる可能性もあるし、なによりその黄緑色の存在が倒れるかも……そう、判断したらしくしっかり受け止めている。

 

「んー?あれ?なんか大きい……アミーシャじゃないね?」

 

「……アミーシャ、これ、なに?」

 

「え、あ、……え?き、キーアちゃん……?」

 

「あーっ!アミーシャいた!」

 

「なんでここに……、わっ」

 

 カルマが体をずらしたことで引っ付いていた黄緑色の存在……黄緑色の長い髪をを揺らした女の子の姿が見えるようになった。それはここにいるはずのない、クロスベル警察の特務支援課で生活してるはずの女の子で……私がイトナくんに隠され、カルマの陰にいたことに気づいて、カルマから離れて私に抱きつき直す彼女を思わず受け止めるけど……ホント、なんでここに?

 不思議そうな表情のままカルマも私の隣まで来て、私に抱きついたままのキーアちゃんを見下ろした、……その瞬間、彼は急に不審なものを感じたように鋭い目つきになった。キーアちゃんに対して……かと思ったけど、いきなりキーアちゃんごと私を頭から抱えるように抱きしめてきたことで、違うと察する。

 

「クスクス、もう警戒するのはやめちゃったの?それじゃあ後ろから攻撃されても知らないわよ」

 

「な……、っ!」

 

「ッくそ!」

 

「……っイトナくん、カルマ!」

 

 しまった、思ってもなかった人が現れた驚きで警戒解いちゃってた……!私とイトナくんの背後から女の人の笑い声に反応したイトナくんは、体勢を低くしながら背後に向けて対先生BB弾のモデルガンを取り出し、カルマも私たちを隠しながら背後を振り返っている。

 

「ッや、ヤダ、私なんか守らないで……!2人に手を出さないで……ッ!」

 

 もし、これが殺せんせーの代わりに私たちを狙う人だったら、前に出ている2人が……!

 サッと自分の体温が下がるように血の気が引くのを感じながらも、ひっついてるからっていうのもあるけどキーアちゃんを庇い、カルマに抱え込まれているままじゃ、私はなにもできない。2人が私の代わりに怪我をするなんで絶対イヤ、でも声を上げるしかなくて……なのに、……おかしい。殺気も、攻撃する意思も、ない……?

 

「バン、……なんてね」

 

「!……お前、さっきカメラに映ってた……」

 

 人差し指をこちらに向けて銃を打つ真似をしていたのは、スミレ色の髪を黒いリボンで結び、私より少し背の高い同い年くらいの女の人。イトナくんの反応からして、浅野くんとの練習中に正門付近にいて、イトナくんのドローンカメラが映したその人は……琥珀色の瞳を細め、クスクスと楽しそうに笑っていて……その姿は、あまりにも見覚えがありすぎた。

 

「レン、さん?……え、なんで……、んむっ」

 

「ふふ、味方だと信じた相手の気配を読まなくなるのはアミーシャの悪い癖ね。学校からずっと後ろにいたのに気付いてくれないんだもの」

 

「……ぷは、あ、うそ、全然、」

 

 楽しそうに笑うレンさんがまだ警戒の色を見せるイトナくんを追い越し、私の反応から敵じゃないと判断して力を緩めたカルマから私を引き寄せ、軽く抱きしめてくれる。キーアちゃんといい、レンさんといい、……何が起きてるのかと思えば。

 

「あーッ!こらレン!一般人にしかけちゃダメでしょーが!」

 

「あら、見つかっちゃったわ。でもこの子達はアミーシャを含めて一応暗殺者の卵みたいなものでしょ?一般人よりは強いし、何よりちょっと仕掛けたら自分の身を守るより、迷わずアミーシャを守ろうとしたもの。だからちょっとからかってみただけじゃない」

 

「だからってねぇ!レンの本気の隠形術は素人には高度すぎるのよッ!」

 

「うふふ、ヨシュアには負けるわ。かくれんぼで1度も勝てたことないもの」

 

「僕は隠形特化型だからね。比べちゃダメじゃないかな……、っと、久しぶりだね、アミーシャ」

 

「………………………………え、」

 

「……知り合い?」

 

「……エステルさんと、ヨシュアさん……」

 

「え、じゃあこの3人が前に会いたいって言ってた?」

 

「……うん」

 

「あーもう!レンが勝手に行っちゃうから怯えさせちゃったでしょ、仕切り直し!」

 

 その後ろから、更に聞き覚えのある声が。茶色のかなり長いツインテールを揺らし、レンさんと軽い言い合いを始めた女の人と、全然慌てずに歩いてきた黒髪に琥珀色の瞳で私に話しかけてきた男の人。

 困惑する私たち3人を見て、ようやく言い合いをやめたエステルさんが私の前に移動してきて、軽く姿勢を低くして目を合わせてくれる。そっと伸ばされた手で頭を撫でられながら見つめ返すと、嬉しそうに笑って。

 

 

 

 

 

「……んんっ、久しぶりね、アミーシャ!ロイドくん達経由で『会いたい』って教えてもらったから……特務支援課のみんなの依頼に乗る形で来ちゃったわ!」

 

「正式にギルドへ依頼という形で貰ってるから、僕達も3年E組のみんなへの戦闘指南に参加することにしたんだ。彼らが早めに日本入りするっていうし、すぐに戻れるように足も用意してもらったしね」

 

「うふふ、彼らも家の中で待ってるわよ。とりあえず、今日から2週間と少しの間、お邪魔させていただくわね」

 

 ゼムリア大陸御一行様の来訪は、とんでもない挨拶から始まった。しかも、最初に聞いてた特務支援課のみなさんとお姉ちゃんだけじゃなくて、私がチラッとは言ったけど伝えてないはずのエステルさんたちまで来てるし、……もう、会えて嬉しいはずなのに、それ以外の気持ちでよく分からなくなってきた。

 

 そもそも。烏間先生、なんで今日って教えてくれなかったの……!レンさんとエステルさんとキーアちゃんに囲まれながら、私はいい意味でも悪い意味でも顔を覆うしかできなかった。

 

 

 

 

 





「……も、もう、先に連絡してよ……ホントにカルマとイトナくんが死んじゃうかと思ったんだからぁ……っ」

「わー!ごめんごめんっ!というかレンが悪いのよ、『アミーシャの学校を見に行ってくるわ』なんて急に言ってフラッと行っちゃうんだから!しかもちょっと遊んできたとか!」

「だって学園祭に行くなら先に場所の確認くらいしときたいじゃない?誰も知らなくてたどり着けないなんてオチは嫌よ。ドローンに気付けたのもたまたまね」

「どーだかっ!」





「えっと……」

「赤髪の男の子……君がカルマ君でよかったかな?」

「あ、はい、……あ、もしかして、俺が話したから?」

「うん、君がアミーシャの願いを届けてくれた時、ちょうど後始末でクロスベルの遊撃士ギルドに僕達は滞在してたからね。話を貰って、個人的に来日するのは厳しかったけど、世界的なミッションに参加って依頼の形をとってもらったから堂々と来たんだ。……君もうちのレンが脅かしてごめんね」

「いや……、あの女も、お前も気配が薄くて驚いた」

「まあ、ある意味僕達2人は慣れてるからね。それにしても……」

「「?」」

「あちゃ〜、違う意味で泣かせてどーすんのよ〜……この状態で家に迎えたらあたし達が悪者じゃない!」

「うふふ、サプライズは成功ね」

「違うでしょ〜っ!」

「アミーシャ、泣かないで〜っ」

「……元々、喜ばせるサプライズのつもりではあったんだ。でもレンが君達に興味を持ってからかいにいっちゃって……僕達が迎えた段階で喜ばせるサプライズじゃなくなったから……家の中で待ってる彼らに悪いことしちゃったな……」

「あ、他の人もいるんだ」

「……俺、帰った方がいいか……?」

「いてもいいんじゃない?でもイトナが帰るなら家族水入らずにしてやりたいから俺も帰るし、」

「いや、君達もおいで。せっかくだから君達目線で先にE組のことを教えて欲しいな」

「「あ、……はい」」


++++++++++++++++++++


まさかの特務支援課より先に、キーアとブライト家が邂逅しました。(家の中に他メンバーがいます)
特務支援課+リーシャ+ブライト家でまぁまぁな人数がひとつの家にいますが、この辺はファンタジーで済ませます。

また次回、お楽しみに!




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