暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

131 / 142

UA138000、お気に入りやコメントをありがとうございます!
ついに学園祭スタートです!



今回もよろしくお願いします!



120話 学園祭の時間~1日目・前編'~

 

 11月中旬の土曜日。

 

「よし、皆!俺等の学園祭はここからスタートだ……気合い入れていくぞ!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

 山の上、私たちのE組校舎では磯貝くんの号令に続いて気合を入れるみんなの声が響いていた。

 

 今日と明日の2日間、ここ椚ヶ丘学園では学園祭が開催される。勉強ばかりやっている毎日のストレスを発散するかのごとく、生徒たちは自分たちで考え、経営するお店にお客さんを呼び込もうと声を上げ、少しでも満足してもらおうと精一杯のサービスをしていく。それに、ここでの結果が商業的な実績として将来の履歴書に載せることができるほど重要なものとなれば、それはそれは必死になるもの……特に、就職や大学進学を控えた高等部3年生ならなおさらだ。

 もちろん、真剣に取り組んでいるのは卒業を控えた高等部だけじゃない……私たち中学部だって同じなわけで、中学部のエリアにも呼び込みの声、お客さんたちの楽しむ声が聞こえ始めている。……まあ、1kmも離れた山の上まではその声も届かないから、私たちが開店に備えて動いてるくらいでまだ落ち着いてるものだけど。

 

「ついに始まったね。……客、来るかな」

 

「大丈夫だよ〜、殺せんせーほど自信満々って訳じゃないけど、準備頑張ったしさ!1回火が点けば一気にお客さん来るって〜!」

 

 ウエイトレスとしてお客さんを迎えに行く陽菜乃ちゃんと凛香ちゃんは注文の聞き取りに使うオーダー表をめくりながら、私と補助で入ってくれてるメグちゃんは山道を登り終えたところにあるお店の入口で麓での事前注文の確認と追加がないかの接客を頼まれてて、3人と一緒に最初の配置に向かっているところだ。他のクラスメイトたちも、学園祭そのものは始まったとはいえ、まだ誰もお客さんが山の上に到着してないこともあって慌てる雰囲気は一切ない。

 

『俺らの最初の目標は興味を引くことだろ?じゃあまずは物珍しさでいいんだからよ、確実に興味を引いて人を集めっぞ!』

 

『矢田が煽って徒歩で登らせる奴らもいるし、運ぶとなりゃ安全運転で行くから安心しろ』

 

『お客さんといえば……アミサちゃん、クロスベルのみなさんは一緒に来なかったの?こっちへ来るまでにも見なかったけど』

 

「確かに〜!あの人達なら一番乗りで来てお客さん第1号とか、あーちゃんの1番最初の接客を狙っててもおかしくないと思ってた!」

 

「え、えと、さすがに職権乱用というか……私の家族だけ特別にするのはみんなの家族にずるいってなっちゃうと思って、ダメって言っておいたの」

 

『そんなの気にしなくていいのに……』

 

「E組だしね……、保護者は来るけど1番のりは目指さないと思うよ、誰も」

 

「えぇ……」

 

 山の麓で客引きを担当する桃花ちゃんは、腕に椚ヶ丘の生徒って分かるように腕章を着けてキャリー役の寺坂くんと吉田くんと一緒に先に山を降りていて……まだE組までの参道付近にお客さんの姿が見えないこともあって、イヤホンマイクを通して私たちと会話して待っている。

 みんなの中で話題になったのは、2週間前からちょこちょこと放課後に顔を出してみんなと交流するようになった私の身内の人たちの姿が見えないこと。私としてもちょっと楽しみにしてることではあるけど、学園祭中にお店へ来るとは言ってたし、お客さんなのにずっといてもらうのも変だからこれでいい……でも、みんなからしたら、一緒にいるものだと思ってたみたい。

 

「じゃあここに来ないならあとから来る感じ?それとも本校舎?」

 

「エステルお姉ちゃんたちは本校舎から見て回るって言ってたかな……ちょうどレンお姉ちゃんがリベール王国にあるジェニス王立学園に在籍してるから、そっちとの学園祭の違いが楽しめそうねって言ってたし、キーアちゃんもそっちについてくみたい」

 

「あ〜……ジェニス王立学園の学園祭って、ヨシュアさんが女装して、エステルさんが男装して劇をしたーっていってたやつ、だったよね〜?」

 

「うん」

 

「渚君を女装させてミスコンに出してる私達が言うことじゃないけど、……よく当時の生徒会長は男女逆転劇を敢行したよね;」

 

「見てられない女装もあっただろうに……それをかき消したのがヨシュアさんなのかもだけど」

 

「あの写真見たら納得だよ〜、別に女の子でも通用する背格好ってわけでもないのに、ウィッグと服と化粧だけなんでしょ?女性として違和感ゼロなんだもん」

 

「……そんなに男の子がする女の子の格好って似合わないものなの……?」

 

「あー、えーと……」

 

「アミサ。渚の女装を見てるのと、カルマとか磯貝、イトナあたりの女装で想像してるでしょ。……寺坂で想像して。似合わないのが目に見えてる」

 

『ぶはっ!』

 

『おいコラ』

 

『凛香……』

 

「……そっか……確かに寺坂くんは肩幅も背格好もガッシリしてて男の人らしい特徴ハッキリしてるもんね……衣装とかだけじゃ隠せないか……」

 

「ふ、ふふ、あははっ」

 

「あははっ、あーちゃんそれで納得しちゃうんだ〜」

 

「……っふふ……極端でアミサに分かりやすい例をあげただけのつもりだったんだけど……」

 

『……、女装を想像されんのも嫌だが、だからって納得されんのも癪だな……』

 

 ヨシュアお兄ちゃんの女装から、気づいたら寺坂くんの女装まで話が発展しちゃった。こっちでも3人が笑ってるし、電話越しに寺坂くんがものすごく疲れた声で返事してる後ろで吉田くんが爆笑しててヒーヒー言ってるのが聞こえるけど……だ、だいじょぶかな、これ。

 

「じゃあリーシャさんと警察の人達は?」

 

「先に理事長先生に挨拶してくるって。一応殺せんせーの件で学園祭以外でも立ち入りを許可してもらってるのと、お姉ちゃんは学園祭が終わったあとにも特例で授業参観するから、ちゃんと話しておきたいって」

 

「……そっか」

 

 先に笑いから回復したのはメグちゃんで、残りの人たちの行き先を気にしてくれてて……あの人たちは防衛省任せでも問題は無いだろうに、みなさん責任感があるというか、ホントに大人で働いてる人たちだなって思う。

 お話の後すぐに来るのか、そのまま本校舎にいるのかは分からないけど、2日間のうちに絶対来てくれるし、もしかしたらA組のステージを見に来てからこっちに来てくれるかもしれないし。……うん、私もちょっとどころじゃなくしっかり楽しみだったみたいだ。

 

『……あ、あの人達こっち見てない?上手く誘導できないかな』

 

『お?……いいんじゃね』

 

『おし、俺らは荷車で待機しとくから頼んだぞ矢田!』

 

『はーい!あの後ろにいるおじいちゃんも誘えたら出番だから動けるようにしておいてね。……じゃ、勧誘いってきます!』

 

「いってらっしゃ〜い!」

 

「……机に備品出てるか最終チェック行ってくる」

 

「アミサ、私達はこっちの段取り確認しましょ」

 

「うん」

 

 イヤホンの向こう側で、通りに並んだ出店案内の看板を見に来たのか一般客の少しザワザワした雰囲気が聞こえる。呼び込むチャンスだと桃花ちゃんが声をかけに行ったのを皮切りに、私たちも最終確認をすることに……知らない人がたくさん来ることに緊張するし怖いと思う、だけど、これからが楽しみなドキドキする気持ちもある。いよいよ、一般の人たちに私たちが作ったお店を見てもらうんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭が始まって数時間経ったお昼時。ご飯の時間だから飲食店なんだし人がたくさん来てもいいものだけど、やっぱり山の上にあるっていうのがネックでここまで来てくれる人が限られてるのが痛い。それでも『どんぐり』で『ラーメン』なんて物珍しさから来てくれる人は結構いて、一応お客さんの流れは途切れてないから悪くはないっていうのが現状かな。……本校舎と勝負するにはさすがに足りなすぎるけど。

 

「キーアがいっちばーん!」

 

「っあーダメだ負けちゃった!……おーい、ロイド君たちー!先に着いちゃったわよーっ!」

 

「……キーアは、分かる気がするけど、……エステル、この山を走って登ってきて……元気すぎないか?」

 

「ごめん、初日もこんな感じだったらしいよ」

 

「そういうヨシュアさんも息が切れてないんですよ……」

 

「遊撃士、恐るべし……」

 

「というかエステル、今日はいつもと違って一般客もいるんだから落ち着いて、」

 

「きゃっ、あ、ごめんなさい!」

 

「あ、いえいえ……」

 

「言わんこっちゃない……」

 

 そうこうしてたら先に本校舎に行っていたみなさんがやってきた。ここまでは(当たり前だけど)知らない人しかいなかったからずっと気を張って緊張しっぱなしだったんだけど、やっと安心できる人が増えたことで一気に楽になったような気がする……やっぱり気持ちの持ちようでだいぶ変わる気がする。

 キーアちゃんとエステルお姉ちゃんがほぼ差もなく山道を駆け上がってきて、ほんの少しだけ遅れて軽い足取りのヨシュアお兄ちゃんが、……あとのみなさんはこの2週間で急いだら結構疲れる勾配だって分かったからだろう慌てずに登ってきていた。キーアちゃんたち2人が競走して一応って着いてきたんだろうヨシュアお兄ちゃんが心配した直後、後ろを全く見ないで楽しそうにしてたエステルお姉ちゃんは帰ろうとしてるお客さんにぶつかって謝ってて呆れてる。……お互いにケガもなかったみたいだし、お姉ちゃんの人柄もあって逆に仲良くなってて……大きなトラブルにもならなくてよかった。

 

「ロイドお兄ちゃんたちの、注文は……えっと、とりあえずどんぐりつけ麺とモンブランを人数分って聞いてます。そっちは席につけばすぐお出しできます、よ」

 

「追加はどうします?注文されるなら座ってからより今の方が食材調達の時間ロスが減りますしいいと思いますけど」

 

「あ、ロイドさん達だ〜っ!山道登ってきて喉乾いてるなら、新鮮な山葡萄のジュースおすすめでーす!」

 

「はは、商売上手だな。ヒナノさんとしては勧めるのは飲み物だけでいいのか?」

 

「えっ!追加で食べてってくれるの〜?じゃあじゃあ、プールに住み着いてたヤマメとかオイカワとか美味しいよ〜っ!」

 

「燻製にしたやつもありますし、お腹に余裕があるならいかがです?」

 

「うーん、たくましい」

 

「お、みなさん来てるじゃんか、ちわーっす!」

 

「いらっしゃいませー!どんぐりつけ麺以外にも注文すかー?」

 

「やあ、君達は食材調達班かい?見たところ生き物系ではなさそうだけど……そっちの袋、破れかけてるよ」

 

「やっべ、茂みに引っ掛けたのかも……!ワジさんあざっす!」

 

「落とす前にキッチンに運ぶぞ、村松も原も食いもんに関しては鬼なんだから……!」

 

 接客だから毎回やってるとはいえ、初めて会うお客さん相手に追加注文って聞きにくいんだけど、お兄ちゃんたちは知り合いだからこそE組はグイグイとメニューを向けてご案内。お兄ちゃんたちは絶対に店に来るのを決めてくれてたからこそ、最低限にだけ注文して登って来てたみたい……メグちゃんが差し出すメニュー表や手が空いてこっちに来てくれた陽菜乃ちゃんがどんどんオススメしてくからクロスベルのみなさんがそっちに集まってあーでもないこーでもないって相談してる。

 食材調達に行って帰ってきた木村くんと陽斗くんも嬉しそうに話しかけに来てくれたけど、ワジお兄ちゃんの指摘に慌ててキッチンへと走っていった。確かに今回のキッチンリーダー2人は、この学園祭にかけた思いもこだわりも強いから……ちょっとでも無駄になりそうになったら怒るよね。

 

「あ、そーだ。アミーシャ!ちょこっと頭下げて?」

 

「うん……?……へ、なにか、のせた……?」

 

「えへへ、下で遊んでたら参加賞でもらったんだー!あと赤と水色と緑があったからカルマとナギサとカエデにもあげるの!ティオでもいいけどもう着けてるからナギサかなーって!」

 

「そう、なんだ……?」

 

「うんっ!せっかく可愛いから今日はそのままねーっ!……あ、リンカ!もしお仕事の休憩あったらね射的のお店で取って欲しいのあるの!」

 

「エリィさんも競技射撃上手いんじゃないの」

 

「すっごく上手いよ!でもエリィも取りたい景品あるんだって。キーアの分お願いしたら全部取れないかもでしょ?」

 

「そう。……うんいいよ。射的なら千葉も呼ぼうか?」

 

「んー、リュウノスケもいていいけど、2人になったら下のお店閉店しちゃわない?一応E組と下のお店って勝負してるんでしょー?」

 

「……、……否定できないから私だけにしよ」

 

「はーい!」

 

 1kmの山道を登らなくちゃいけないE組は衛生面の問題からナマモノはあまり長いこと置いておくことはできない。だけどこの校舎にたどり着くまでにかかる時間がかかることを逆手にとって、麓で注文してもらえれば上につく頃には採れたて新鮮な食材が届いていることになる。もちろんみなさんの注文も下で聞いてるから特に追加注文がなければお金だけ払ってもらえば校舎の方へ行っていい。

 だから特に追加しないしお支払いをロイドお兄ちゃんに任せてるらしいキーアちゃんは、エステルお姉ちゃんたちについて食事スペースに行く前に私の方へ駆け寄ってきて。言われるがままに頭を下げると頭の上に何かを乗せられ、その正体が何か教えてもらう前に凛香ちゃんの方へ走っていってしまった。……というか本校舎、射的のお店もあるんだ……凛香ちゃんと千葉くんは夏祭りで射的のお店を出禁になっちゃうくらいの腕前だから、確かに2人揃うと全取りしちゃうかも。

 

「アミサ、みなさんの注文取り終わったから精算お願いね……って、あら。ふふ、よかったわね、可愛いのつけてもらったじゃない」

 

「?」

 

「はは、アミーシャに似合うからってキーアが選んでたからな。似合ってるぞ」

 

「よく髪色とほぼ同じやつがありましたよね。リーシャさんだと若干黒に近くて浮いちゃいますし、アミーシャにちょうどいい色だと思います」

 

「確かに……私よりも少し青みがかった黒だから、夜色のアミーシャにピッタリだと思うわ」

 

「え、と……ふわふわしてるけどこれ何……?……あ、お会計っ!」

 

 メグちゃんもロイドお兄ちゃんも、ティオお姉ちゃんもリーシャお姉ちゃんも……褒めてはくれるけどなんなのか教えてくれない。かといってキーアちゃんは外さないでって言ってたから、外したらせっかくつけてくれた何かがズレちゃうかもしれないし。……でも気になる。動かさない程度に頭の上に手を伸ばして軽く触れてみたら少し固めの細い毛糸……か何かふわふわした手触りの物が乗っていた。パッチン留めで留められたソレは髪に固定されてるから髪飾りでいいんだろうけど……まあいいか。

 よく分からないまま正面に顔を戻せば、お財布を出してニコニコと待っているお兄ちゃんがいることに気づいて、私に任されたお仕事があったことを思い出した。そうだメグちゃんにお会計頼まれてたんだった……!慌てて向き直って注文のダブルチェックに入った私と金額の確認をしてくれているロイドお兄ちゃんから少し離れた場所ではみなさん楽しそうに会話していて……まあいいかと意識を接客に戻すことにした。

 

「……あ、もしかしなくても何をつけられたのかは気付いてないのか、彼女」

 

「んー、平然としてるし、ただの髪飾りだって思ったのかな」

 

「教えたら恥ずかしがって取っちゃうかもしれないわね、……せっかく可愛いし黙っておきましょうか」

 

「……あの〜」

 

「どしたーノエル?」

 

「イタズラ、仕掛けてみません?というかミスコンの衣装でもあれだけいい反応くれたわけですし……アレを見た彼の反応、見てみたくありません?」

 

「お、いいじゃねーか!だがあのまま見せただけじゃ褒めて終わるだろうし……動きと言葉で付加価値をつけてやろうぜ!」

 

「いいね。やっぱりアレならこのポーズでしょ」

 

「ですねですね!角度はこんな感じで、」

 

「あ、でしたらアミーシャはカルマさんが帰ってくるまでは外にいてもらいましょうか。中だとガラスに映って気付いてしまいますよね?」

 

「それいいわね、レンが言ってくるわ」

 

「ノエルさん……ランディさん……ワジ君にリーシャさん、レンまで……」

 

「ワクワクしすぎよあなた達……」

 

「ワジ君のあの、見せる角度っていうの?なんか分かってるって言うか……ホストやってたんだっけ?」

 

「うーん、副業とは言ってたけど……でも貴婦人って感じの女の人の同伴で潜入捜査もしてたし、一応やってたって言っても間違いじゃないかもしれないわね……」

 

「ほへー……ヨシュアの演技も上手いと思うけど、ワジ君の擬態?もすごいわね」

 

「僕の場合はバレたら死ぬ世界だったからね……彼のような自然なものとは比べ物にならないよ。……ところでティオは何を……?」

 

「撮影の用意ですが?」

 

「そんな当たり前でしょって顔で答えられても……」

 

「当然です、むしろアミーシャを撮るついでに彼との記録も残したいくらいですから」

 

「はは……頑張れ、カルマ君。僕には止められそうにないや……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いってぇ……」

 

「ほ、ホントにだいじょぶ……?ごめんね、あんな驚くと思わなくて……」

 

「いや、アミーシャは悪くないでしょ……」

 

「ガンッてすごい音したよね……直接現場は見てないけどさ」

 

「私なんてキッチンにいたのに聞こえたから、何か落としたのかと思って見に行ったらカルマ君が玄関でうずくまってるんだもん。アミサちゃんは大慌てだし」

 

「大したことなくてよかったけどな。いやカルマにとっては大したことあったのか」

 

「気持ちは分かるけどな〜!俺は後から事の顛末聞いてティオさんから動画見せてもらったけどあれは可愛いわ。俺らの妹分マジ天使って感じ。あ、お前ら3人も似合ってんぞ、その頭」

 

「あ、あはは……ありがとう前原君」

 

「私は可愛いしアミサちゃんとお揃いだから嬉しいよ!」

 

「複雑」

 

「「お前はそうだわな」」

 

 私は今、浅野くんに頼まれたA組のステージ出演のために山道を降りている。お昼までの様子を見る限りそこまで混まないだろうし、残ったメンバーで十分回せるからいってらっしゃいと、カルマ、渚くん、カエデちゃん、磯貝くん、陽斗くんの5人が休憩時間として本校舎に着いてきてくれることになった。

 私の横で不機嫌そうに頭を押えながら歩いてるカルマは、ノエルお姉ちゃんたちに指示されたポーズを見せたら盛大に柱に頭をぶつけちゃって……食材調達から帰ってきて超体操服のフードを外してたから、響く感じの痛みが若干残ってるみたい。まぁまぁいい音が鳴った割にはそこまで大きな怪我じゃなかったから簡易治療で済んではいる。ただ、そんなつもりはなかったとはいえ私も関わってる……というか私が原因のようなものだし頭だから心配してるんだけど、一応不注意でぶつかるような程度で、思いっきり打ち付けたものじゃないからだいじょぶらしい。

 

「でもやられっぱなしも癪だしさ、目に物見せてやりたいから……ね、アミーシャはあの人達の弱点って何か知らない?」

 

「弱点……?」

 

「だってほら、俺らは殺してもいい教室の生徒なわけだし。そこに臨時とはいえ講師としているならあの人達も関係者、つまり殺す気で向かってもいいってことでしょ。プロ相手にちょっとでも有利になるためにもさ、付け入る隙ないかなーって」

 

「なる、ほど……?例えば?」

 

「何でもいいよ。弱点じゃなくてもプロフィールもっと詳しく教えてくれてもいいし、戦うスタイルとかアミーシャの分析で分かるちょっとしたこととか教えてよ」

 

「んー……精神的な面、……身体的な面からもアプローチするの?あ、好きな物とかそういうのでも?」

 

「知ってるんならどっちでもいいよ、どっちであってもやりようがあるし」

 

「んー、だったら……」

 

「こらこらこらこら!!」

 

「ちょっと待ってください!アミーシャちゃんが情報渡しちゃったらシャレにならないですから!!」

 

「アミーシャって1度懐に入れた人のことはよく見てますからね……自分で自覚してないことまで知られてる気しかしません」

 

「そこにカルマ君の地頭の良さが加わるから脅威なのよね」

 

「ふふ、俺ら別にまだなーんにも言ってないし?この人達何聞いたんだろうねぇ?」

 

「う、うん……?」

 

「いやそれ聞かせてるんだよな……見える場所で立てられる復讐計画なら止めるに決まってるだろ……」

 

「ふん、さっきの仕返しだよ。俺の知らないところでアミーシャを使ったイタズラ考えやがって……」

 

「当たり前だろ?アミーシャを使うのが君に有効なイタズラだからに決まってるじゃないか」

 

「あはは、カルマさんの前で話したらカルマさんをビックリさせられませんから」

 

「ワジお兄ちゃん……お姉ちゃんまで……;」

 

 私とカルマが話してるのを止めてきたことから分かるように、ステージを見に来る約束をしてるゼムリア大陸から来たみなさんも一緒に下山してる。私は本校舎側にあまりいい思いがないこともあってそんなに長く滞在しないつもり。少しでも滞在時間を減らすために、着いたらそんなに待たずステージに出る時間になるよう調節して降りることにしたから、別行動すると間に合わなくなっちゃうかもしれないって。

 この2週間でカルマが相当頭がよくてそれを上手く暗殺やイタズラに組み込んでるってことをしっかり実感したらしいみなさんは、私たちが話してると高確率で止めに来る。お兄ちゃんたち曰く、私たちがタッグを組むと脅威どころか難易度ヘルモードになるからシャレにならない事態を引き起こしそうで怖いそうだ。さすがに大事にならない程度には自重するけどな……みなさんの中では特にワジお兄ちゃんがカルマのことを気に入ってるみたいで、よくカルマに話しかけに行ったり頭を撫でてたりって構いに行く姿をよく見る。カルマもちょっと逃げる素振りは見せるけど最終的には受け入れてるから、嫌ではないんだと思う……ちょっと羨ましい。

 

「だーかーらー!頭触んのやめてってば!」

 

「!」

 

「ふふ、そういいながら完全には逃げないからかわいいんだよ。君達2人とも僕が育てたいくらいなんだから」

 

「……はぁーもー……何言ったらこの人動揺させられんだろ……」

 

「そう簡単に僕を崩せないと思うよ」

 

「自分で言っちゃうのが余計タチが悪い。自覚してんでしょその性格」

 

「君も人のこと言えないよ。いい性格してるよね」

 

 隣を歩いていたカルマが顔はワジお兄ちゃんに向けたまま、そっと私の体を引いて歩く場所を入れ替える……、自然とカルマとワジお兄ちゃんの間を歩く形になって、戸惑っていたら降ってきたのはお兄ちゃんの手。私を挟んでおしゃべりしてるのは変わらないのに、手だけは私の頭を撫でている。

 ……もしかしなくても、羨ましいって思ってたの、2人ともにバレてた……?カッと顔が熱くなるのを感じて慌てて両手で頬を抑えながら下を向く。私の様子に気づいてるのか気づいてないのか、頭の上での会話は変わらず続いてるけど……私に触れる手の優しさは、いつの間にか2つに増えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしている間に私たちは本校舎の体育館に到着。浅野くんが中心になって中学部のA組が出し物をするために借り切ったらしい体育館は、まるで異世界に放り込まれたかのようだった。

 暗い室内に明るい照明が踊り、周りの壁には背景画像とともにステージに登るアイドルさんへのコメントがとめどなく流れる……ってこれ、中学生がやる出し物なのかな?もはやこれ、常設されてる1つのお店なんじゃ。体育館を半分に区切って片側ずつ交互にイベントが開催され、その出入りで利益を出す仕組みなA組のイベントカフェ……今は反対側のブースで開催されてるからこっち側は休憩時間、お客さんたちは入場料分で無料になった軽食を食べながらくつろいでいるようだ。

 

「わー!キレー!音すっごいね!」

 

「これは……すごいな」

 

「これ、学生の出し物の規模じゃないわね。企業が協力しないとできないんじゃないかしら」

 

「……なるほど、ネットと連動してのコメントシステム……このような使い方もあるんですね、おもしろいです」

 

「体育館の中が異世界じゃねーか。どんだけ金かけてんだよこれ」

 

「失敬な。設備そのものには確かに予算を当てたが、食事はスポンサーと契約したことでタダ。登壇するアーティストやアイドル、お笑い芸人達は全員僕の友人達で無料で出演してくれているから規定に反したことはしていないぞ」

 

「A組は正々堂々とこの学園祭に臨んでいるさ!」

 

「浅野!」

 

「五英傑全員もお揃いで……」

 

 とりあえず指定された場所から中に入ったところで体育館の様変わりに圧倒されつつ待機していると、私たちを迎えに浅野くんたち5人が歩いてきた。さすがに中学部で成績トップクラスの有名人集団であり、中学部をまとめあげる生徒会が揃ってることもあってか、浅野くんたちが通ると下級生だろう生徒から黄色い声が上がっている。

 そんな彼らは私たちの前で足を止めると、ぐるりと私たちを見回した。

 

「……また大所帯だな」

 

「やっほー浅野君。ここにいるE組の俺ら5人は、前に伝えておいた通り時間まで待機させてもらうよ」

 

「ああ、約束だからな、構わない。それで……真尾さん、こちらの方々が?」

 

「う、うん。私の家族でゼムリア大陸から来日してきてくれたみなさん」

 

「はじめまして、アミーシャの……、こっちではアミサの方が馴染み深いんだったわね?アミサの姉、リーシャ・マオです。ステージに上がる機会を貰えたって聞いて、見てみたくて」

 

「僕は、真尾さんと同じ中学部3年生で生徒会長の浅野学秀です。こっちの4人が僕の手し……んん゛ッ、仲間であり僕のサポートを務めてくれています。今回は、」

 

「お前今手下って言いかけただろ……」

 

今回は、遠いところからようこそ。決まりなので500円だけ入場料はいただいてますが、真尾さんのステージ含め撮影やSNSへの掲載は許可してますので、ぜひたくさん宣伝お願いしますね」

 

「ハハッ、E組に味方してるって分かってる相手に宣伝を頼むとは、お前さん大物だな!」

 

「お褒めに預かり光栄です。……さあ、真尾さんは更衣室へ。着替え終わった頃に打ち合わせをするからよろしくね」

 

「う、うん!」

 

「今のままの服装でも隠しきれない芳しき花の香り……衣装という名の水を与えられてどう育つのかが楽しみだ。さ、お手をどうぞ?僕が着替えを手伝うし、その可憐さに磨きをかけてあげよう」

 

「ちょっと、アンタ何言って、」

 

「蓮、お前な、」

 

「さすがの俺らでもそれ看過できね、」

 

「着方は覚えてるし、カエデちゃんがお手伝いしてくれるからへーきだよ。ありがと、榊原くん」

 

「……真尾〜……そういうところがお前なのも分かるんだが……ッ兄ちゃん心配だぞ……」

 

「……アミサちゃん、ツッコミどころはそこじゃないんだよ……」

 

「頼むから、男が女の着替えを手伝おうとしてるところに違和感持とうな……」

 

「ほんっとよかった着いてきて!合流してすぐにこれじゃ危なすぎる……!」

 

「浅野君、コイツ再教育しといてくれない?」

 

「こればかりは僕も同感だ、刺されるぞお前」

 

「ははは……目が笑ってないよ2人とも、ほんの冗談じゃないか……」

 

「アミーシャちゃん、この感じ通常運転なんですね……」

 

「ロイド、お前はリーシャに説明頼んだ。多分アミ姫と同じく違和感感じてねーぞ」

 

 こっちの会話はスマホを経由して律ちゃんがE組のみんなにも中継してるから、A組の作戦は上手く向こうに伝えられるだろう。作戦参謀の立ち位置な2人(カルマと磯貝くん)をこっちに連れてきちゃってるからメグちゃんに負担をかけちゃうけど……情報を使ってくれるといいな。

 誘導のために手を取ろうとしてくれた榊原くんから離されつつ、一旦楽屋になってるらしいステージ横のスペースに移動することに。楽屋はそこまで大きくスペースをとってるわけじゃないし、椚ヶ丘と関係の無い外部から来てくれている著名人もたくさんいるから、あまり部外者が入るわけにはいかない……らしいので、何かあった時のために楽屋までカエデちゃんが着いてきてくれることになった。

 

 みんなと別れて楽屋に入り、カエデちゃんに少し手伝ってもらいながら着替え終わった後、浅野くんは椅子に座ってギターの調律をし始めた。手を動かしながら私たちの動きを確認していくのはさすがだなぁ。

 

「──と、いう流れだ。……最終確認だけど……真尾さん、本当にこの曲でいいんだよね?」

 

「真尾の雰囲気だとここまで叫ぶような歌はアイツらにとっても想像がつかないだろ。練習で俺らも驚いたくらいだし、できるのも知ってるが……」

 

「僕等だって選ばれし者……本番前に軽く曲を変えたって完璧に演奏してみせるよ?」

 

「しかも3曲歌うんだろう?2曲は共に練習したが、もう1曲は……」

 

「そこから先は言わない約束だよ!」

 

「!……あ、ああ、すまないな」

 

「……?」

 

「こっちの話だから気にしなくて大丈夫!アミサちゃんはアミサちゃんらしく、かっこよく決めてきてくれればいいんだから!」

 

「……私は、だいじょぶ。私は、この曲を歌いたい」

 

「……そうか。なら、僕らはそれに応えるだけだ」

 

 打ち合わせの時に心配されたのは選曲……普段大人しい私にはテンポも曲調も激しいものは合わないんじゃないかって。自分では似合う似合わないとかは全然わからないんだけど……でも、ここで歌うのに相応しいだろうって曲を持ってきたつもりだ。

 心配してくれる浅野くんたちはありがたいけど、私がやりたいから、今回は貫かせてもらう。途中、私がやりたいからだいじょぶなんだって伝える前に、何故かカエデちゃんからストップが入ったんだけど……誤魔化されちゃったな。

 

 先に2、3曲弾いてくる間に準備を整えておけといって、浅野くんはひと足早くステージへと歩いていった。ギターをかき鳴らす浅野くんの姿にイベント会場は爆発したような大歓声……確かに浅野くんは何でもできるけど、気持ち悪いってのは言い過ぎじゃないかな、小山くん。

 

「だが、なんでも出来る彼にだって敗北はある」

 

「もう相手がエンドのお前らだなんだと言ってられないな」

 

「どんだけ腹黒かろうが……俺等のトップが負ける姿はもう見たくねぇ」

 

「……じゃあ、なんで、私を……?」

 

 どんな扱いをされても、腹黒い考えや普通思いつかない作戦を出してきても、それでもたった1人のリーダーだからついて行くのだと4人は言う。負ける姿が見たくないから、全力で協力するのだと言う。

 なら、なんで敵である私を呼ぶことに反対しなかったんだろう。彼等は、なんで受け入れてくれたんだろう。隣で聞いていたカエデちゃんも不思議そうに彼らを見ていて、4人は1度舞台を確認してから気まずそうにこちらへ向き直った。

 

「あー……本当は言うなって言われてたんだが……」

 

「僕が言うよ。……浅野君は1年の頃から真尾さんに好意があったんだ。それでもクラスは違うしそばにいるキッカケをなかなかもてなくて。その上今年は真尾さんがE組で余計に接点をもてない……一度くらい、どんな形でもいいから一緒に学校行事に参加したかったらしいよ」

 

「だいぶ強引だとは思ったけどな」

 

「…………」

 

 ……そっか。2学期末テストが終わったら、本校舎はエスカレーター式で椚ヶ丘の高等部にあがるけど、2学期末テストが終わってからもE組に残る生徒は外部受験で他校へ進学することになる。

 きっと、暗殺以外に目標としてきた本校舎復帰のボーダーラインである『テストで50位以内』を達成できても、E組生の中であの教室を出て行く人は私も含めて1人もいないんだろう。そう考えたら、私と浅野くんが同じ学校で同じ行事に参加することは二度とない……今年が最後のチャンスといえばそうなんだろう。

 

 A組の出し物にE組を呼ぶなんて、下手すれば大バッシングを受けてもおかしくないのに、浅野くんは躊躇いもせずに実行した。ステージの境となるカーテンから覗いてみれば興奮して叫ぶ観客を前にして、すごく楽しそうに、だけど真剣にギターを弾いている彼の姿……この彼が作り上げた空間に私も立つんだ。

 

「……私、がんばるね」

 

「……おう、任せたぜボーカル」

 

「いっちょ支えてやりますか!」

 

「いってらっしゃい。あとでね!」

 

 

 

 

 





※打撲の経緯
「はい、これ注文の。水分とったら次行くけど何か来てる?」

「助かるわ〜!とりあえず今山にいる人達で賄えそうだから少し休憩入っていいと思う。ありがとね!」

「りょーかい」

「あ、そうそうなんかカルマ君が帰ってきたら玄関の方に誘導してって言われてたんだったわ。そっちでクロスベル警察の人達が呼んでたわよ」

「……?」





「あ、カルマ君が帰ってきましたね!」

「いいかい?さっきの角度。他には何も言わず、目が合ったら直ぐにやっていいからさ」

「う、うん……?」





「ん?あれ、アミー……なん、何それ、」

「……にゃん?」

──────ガンッ

「〜〜〜〜っ!!」

「え、え!?ちょ、ま、まって、す、すごい音したよ……!?か、カルマ、だいじょぶ……ッ!?!?」

「〜ってぇ……誰!?これッ、この……コレ付けたのと指示したヤツ!!!」

「はーい!付けたのキーア!」

「はい、ポーズの提案は私ですね!」

「ふふ、僕達も参加したよ」

「可愛いでしょ?うふふ、その反応でわかるわ」

「……〜っっっ!!」





「遊ばれてんなー……振り回されるカルマってのも珍しい」

「あははははっ!お、怒れないよね、今山にいる人と表に出てるE組以外は何するかみんな知ってたけど、主犯はあの人達だから……っ!」

「く、くくっ、盛大に柱に頭打ってる……っどんだけ動揺してんだ……っ」

「ま、まぁ?真尾もなんであれやらされたかも、何付けられてるのかもまだ気付いてないんだろ……?」

「でしょうね……」

「キーアちゃんが着けた猫耳と、それを面白がってイタズラを仕込む大人達……大人げねぇ……」

「見てた私達も全力でよしよししたいわよ、アレは」

「とりあえずアミサには鏡を見せようか」


++++++++++++++++++++


回帰前はE組発案でつけていましたが、今回はキーアが持ち込んだ猫耳、経緯は違っても同じものを身につけてます。
このお話の時空では、零の軌跡でのオークション潜入でロイドのパートナーになったのはエリィのつもりで書いてます。なので、ワジが同伴で潜入したことを知ってるのはエリィという立ち位置です。

終わりがけはほぼ同じようで若干色々変わってるので、見比べて楽しんで貰えると嬉しいです。次回、A組でのステージの様子をお楽しみに!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。