UA139000ありがとうございます!
今回で学園祭の1日目が終わります。
まずはA組のイベントカフェの続きから、想いを伝えるのでよろしくお願いします!
今回も楽しんでください!
最初、この場所に立った直後は、疑うような目線、期待のこもった目線、否定的な目線、興味本位な目線……いろんな感情が入り交じったそれを向けられて声が出なくなるかと思った。2週間くらいしっかり練習してきて納得のいくものを作り上げたのに、私がこの空気に負けて台無しにしてしまうんじゃないかって、不安だった。でも、浅野くんたちが支えてくれて、客席には絶対の味方がいる安心感があって……気付いたら全然気にならなくなっていて。
今、2曲歌い終わって少し荒くなって息を整える私の目の前には、歌を聴いて拍手をくれるたくさんの人たちがいる。私を肯定し続けてくれた人たちだけじゃない、私に嫌悪感を向けていただろう人も、興味本位で来て偶然居合わせたのだろう人も、例外なく拍手をくれた。……それが、頑張る勇気に変わる。
「さて……次が真尾さんに歌ってもらう最後の曲だ。どんな歌を選んだのか教えてくれるかい?」
「最後の曲は、これからに対する希望をもって……誰かと一緒に頑張ろうって気持ちになれる歌を選びました。その、なので、……今までは私の気持ちを歌ってきたけど……みなさんそれぞれが主人公だと思って歌う、といいますか、……えっと、た、楽しんで、ください……っ」
「ふふ、落ち着いて歌えば大丈夫さ。じゃあ3曲目……みんな、最後までこのステージを楽しんでいってくれ。【NO END NO WORLD】」
浅野くんが曲名を言って照明が落ちる。後ろでわざと立てられる足音……今まで楽屋に下がっていた4人が立ち位置についている音だ。この曲に関しては歌の最初の静けさを際立たせるために、わざと準備の音を立ててもらうことになっていて……浅野くんが下がるのが他の4人の準備ができた合図になっている。
バンドの方の用意が整うまでにと、もう一度大きく深呼吸をして客席に目線を向けたけど、さっきまでの場所にお姉ちゃんたちはいるのに、カルマたちを見つけられないことに一瞬戸惑う。……あれ……どこに、行っちゃったんだろう。
「E組は君の1番近くにいるよ」
「……っ浅野くん……?」
「……僕としてはこの流れは本意じゃないんだけどね……真尾さん、この1曲は僕達からのプレゼントだと思ってくれ」
「う、うん……?わ、?……えっと、どうしたの……?」
「……うん、この反応も想定内だ。ま、せっかくだからアイツへの意趣返し代わりにさせてもらうよ。……急な出演で慣れないことをさせたけど、よく頑張ってくれた……ありがとう」
小声で私の左手を取りながら話す浅野くん、……暗くてよく分からないけど、つないだ手から感じる温かさのおかげで少し安心する。頭を下げているようにも見えるし、この温かさは彼の頬にでも当てられてるのだろうか。彼の言葉は何が言いたいのかよく分からないけど……、悪いことにはならないのだろう、きっと。
そっと、浅野くんの手の温かさが消えていくのを感じて、最後の曲の用意が整ったのだと分かる。バンド演奏のメンバーの用意ができれば、彼らの入りの合図を待って歌い出しだ。私は下を向いて合図を聞き逃さないように待つ。
──────タンタンタンッ!
……え?この音の取り方、荒木くんのと違う……?
入りのスティックでのリズム取りに若干の違和感は感じたけど、すぐに歌い始めがくるから後ろを向くわけにはいかない。少しの戸惑いはあるけど、演奏も始まってしまうから歌い出すために口を開く。
私の歌の後ろでバンド演奏が始まり、パッとスポットライトがステージを照らした瞬間、明らかに客席側の生徒たちがどよめいた。……え、なんでこんなにお客さんたちは困惑した雰囲気なんだろう……?一度下がっていた4人が合流して、もう一度揃った五英傑のみんなに歓声が上がる、とかじゃなくて……?それに、さっきのクリック音もだったけど、練習の時と曲は一緒なのにやっぱり楽器の鳴らし方、演奏の音が明らかに違う。
イントロの時間はまだあるし、もういいだろう。さすがにもう我慢できなくてバンドの方を振り返ると、そこにいたのは浅野くんたちじゃなくて……
「え……っな、なんで……!?」
「は、ははっ、サプライズ成功だな!」
「3曲目は五英傑に代わって俺らE組バンドでいくぞ!最後まで聞いてくれよーっ!」
「合わせは初めてだから緊張するなぁ……ッ」
「ほら、アミーシャは歌に集中して!この曲結構ムズくて俺らもヤバいからさッ」
「一応私達も歌詞は覚えてるからコーラスで入れるところは入るけど、アミサちゃんほどは歌えないからね〜!」
ドラムに陽斗くん、キーボードにカエデちゃん、ギターとベースにカルマと渚くんと磯貝くん……さっきまでお姉ちゃんたちと一緒に私のステージを見守ってくれていた5人が五英傑の代わりにステージへ立って楽器を鳴らしていた。慌てて楽屋側も見てみるけど、顔をのぞかせていたのは親指を立てる荒木くんと、髪をかきあげて不敵に笑う榊原くん、してやったりな顔で笑う小山くんと瀬尾くんに、腕を組んで壁にもたれながらこちらを見る浅野くんで、彼らにとって……いや、私とお客さんたち以外にとっては予定通りの
浅野くんの言っていた『私の1番近くにE組がいる』ってこういうことかぁ……こんなの、分かるわけないでしょ……ッ!陽斗くんが用意されていたスタンドマイクで声を上げ、客席に向かって煽ると、戸惑っていたお客さんたちから、ワッと歓声が上がった。……ブーイングじゃない、それだけで嬉しい。
……この歌は、この椚ヶ丘中学校のシステムを、浅野理事長先生が思い描く歪さを、E組視点で協力しながら乗り越えていく……それが歌詞を読んだ時にイメージできたから、この場をもらえた時からどうしても歌いたいと思っていた。初見のお客さんたちに意味は伝わらなくても、挑戦し続ける、戦い続けるE組を印象づけられたらいいなって……、A組のイベントっていう、E組の私からしたら敵陣ド真ん中で歌うのにふさわしいんじゃないかなって。
まさか、そんな曲をE組の人たちと歌えるなんて、思ってもなかったけど。それを、本校舎の生徒ばかりのここで受け入れてもらえるなんて、もっと考えてなかった。
ちょっと弱気になる時、自分はダメだと思う時。ホントにやっていいのかためらう時、無理やり笑顔を作って我慢する時。絶対、この人としての弱さは誰もが経験しながら生きてる……だから、歌を言葉として理解した人は、共感してくれる。
その人たちに向けて、誰かと一緒だからこそ立ち上がれるんだって伝えたい。今、私が。浅野くんたちに見出されて、ここに立つ機会をもらえたように。今、ここで。カルマたちに囲まれてこの場に立てているように。
……〜♪
「っ!え……?」
「……ん、あれ?このパートってカルマがやる予定じゃ」
「……客席から聞こえる?」
「この音って……」
ラスサビ前の間奏、ここはカルマのギターソロが多分来る予定、だったんだろう。私の2番サビを歌いきった声を聞いて彼が1歩、前に出たのが見えた直後……彼のギターが鳴る前に、明らかにステージにはない楽器の音が聞こえた。
ここで一気に楽器の数が減るからこそ目立ったんだろうその音に、みんな予定にないことで慌ててるけど……私はこの音を知っている。
「……ヨシュアお兄ちゃん……」
「え、これヨシュアさん!?ハーモニカ吹けんの?!すげぇ……」
「キレイな音色だね……ちょっと悲しいのに優しくて……」
「んー……俺ギター弾かなくていいかな……付け焼き刃な演奏よりよっぽどいいじゃん?」
「前半は静かだからこのまま任せて途中から合流すればいいんじゃないか?」
「というか私達以上にカルマ君はアミサちゃんと一緒に立つんだって練習してたでしょ、もったいないよ!」
「どっちにしろ俺もドラムでこの後本格的に入るんだから段階的に増やせばいいじゃねーか!」
「えぇ……」
「……アミサちゃん、よろしく」
「わ、私、カルマのギター聞きたいな……私と一緒に
「……、はー、わかったよっ」
「はは、やっぱりカルマを最終的に動かすのは真尾だな」
心当たりのある方へと視線を向ければ、思った通り、茶色の髪の女の人が手を挙げて私たちの方へ合図を送るその横で、黒髪の男の人が少し困った顔でハーモニカを口に当てている。……あの感じ、ヨシュアお兄ちゃんがやり始めたんじゃなくてエステルお姉ちゃんが言い出したんだろうな。
お兄ちゃんのハーモニカの音色にカルマが手を止めちゃったんだけど、カエデちゃんたちの説得もあって再度ギターを構えてくれた。……せっかくだから私も入ってみよう。
優しくて切ないハーモニカは、弱気と我慢の感情。足を踏み出すように響くドラムは、前に進む勇気。それらの音色に色を付けるギターは、これから進む先の未来。そこに、本来は存在しないコーラスを……先の見えない不安に溺れながら、流れに逆らって進む私たちの希望を乗せるつもりで。
この間奏部分はもう、本物の曲とは違う今しか聞けないイレギュラーだ……なんだかそれも、あるもので戦い、なんでも自分たちの武器に変えてきた
──────そして、ラスサビに入る。
余韻を残して、曲が終わった。
「E組ー!やるじゃねーか!!」
「最高でしたー!」
「最後の曲なんだアレ、なんか、泣きそう……ッ」
「歌も楽器もヤベーよ、見れてよかった!」
先の2曲よりたくさんの想定外があったけど、お客さんたちから拍手と歓声が響いて……ああ、楽しかったな、終わっちゃったな、って。これがお客さんの前で舞台の上に立つ感覚なんだ……まだ、終わって欲しくないな。そんな寂しさを感じていたら、
「よっ、と」
「わっ!?え?わ、わぁっ!?」
「相変わらず軽いね〜、中身ある?」
「なか、み、え?なに、お、おろしてぇ……っ」
「やだ。不安なら俺の首に捕まってていいから」
正直、やりきった疲労感と今更人前ってことを思い出して戻ってきた緊張で足が震えているのをごまかしながら立っていると、急に前触れなく地面が離れた……犯人は分かりきってる。絶対重いだろうに私を持ち上げた彼が、その場で私ごと軽く回転したことで私のドレスの裾がふわりと広がった。
その勢いと回転の不安定さに少し不安になってカルマの言う通り両手を彼の首元へ置くと、回転した勢いのまま彼の腕の上に乗せられ、そこに座る形になる。でも、1度乗ってしまえばしっかり支えられる安心感があって……少しホッとした。
「功労者はこのままね〜。……この方が、よく見えるでしょ」
「!」
「たっく……真尾、これだけの客を盛り上げたのは誰でもないお前だよ」
「それは、みんなも……」
「俺らも五英傑もいなくちゃ成り立たないステージだとは思うよ。でも真尾の歌でそれをまとめて客席に届けたから成功した……それは俺ら全員の総意だろ?」
「誇っていいんだよ。これはアミサちゃんが作り上げたステージだって」
「頑張ったね、アミサちゃん!」
「……うん」
彼の腕の上に乗せてもらったことで、私の身長どころかカルマと陽斗くんより高い視線になる……そこから見る客席は後ろの方までよく見えて……こんなに、たくさんの人が歌を聴いてくれてたんだって改めて実感した。
ざっと見ただけでも拍手してくれている人たちの顔に嫌悪感は感じない……みんな笑顔で、高揚している気分が伝わってくる。中にはちょっと悔しそうな人たちもいるけど、それでも拍手をしてくれてるってことは、この部分では私たちを認めてくれてるってこと、だよね?
「……私」
「うん?」
「浅野くんの提案受けて、よかったなぁ……」
「……そ」
舞台袖から頭を抱えた浅野くんがこちらに歩いてきてる……カルマたちがバンドとしてステージに上がるのは想定内でも、ヨシュアお兄ちゃんのハーモニカだったり、私が本来ないパートを歌ったりとか、ここまで盛り上がるのは予想外だった、とか?それは確かに申し訳ないことしちゃったけど、……もう少しだけこの高揚感に浸りたい。
抱き上げられてるからこそ、小さな私の言葉もきちんと拾ってくれた彼に、ステージからお客さんたちを見下ろしながら今思う心からの気持ちをこぼす。一緒の光景を見ながら彼は私の気持ちをしっかり受け止めて短い返事を返してくれた。
きっと、この光景はこれから何があっても私に……私たちにどんな結末が訪れたとしても、忘れられないんだろうな。
◆
渚side
「くそぉ……見たかったなぁそのステージ!学園祭の情報はネットで見つけられたけど、現地の、しかもミスコンブースのみの事前告知なんて分かるかよっ!」
「あ、あはは……告知なしのつもりだった僕らも想定外だったし、アレもほぼ本校舎向けの宣伝だったからね。本校舎の出し物に本校舎から依頼がかかってE組が参加するとか、この学校じゃ前代未聞すぎてどんな反感買うかわからなかったからさ……」
「とか言って渚ちゃんも一緒にバンドしてたんだろ〜?2人の生演奏、生歌唱を見逃すとか……くぅ〜っ……とりあえずSNSの動画は保存した!」
「あ、ありがとう……」
今、僕の前で心底悔しそうに唸りながらどんぐりつけ麺の写真を撮っているのは、夏休みに行った南の島のホテルで出会ったユウジ君だ。なんでも僕らとBARフロアで別れたあと、どうしてももう一度会いたかったからって、わざわざ島に泊まっていた宿泊客名簿を調べあげてこの椚ヶ丘中学校にたどり着き、ちょうど学園祭があると知って訪ねてきてくれたらしい。
……ん?宿泊客名簿を調べたってサラッと言ってたけどそれホテル側の個人情報の漏洩じゃ……?……まあ、普久間殿上ホテル自体がグレーゾーンな場所だったし、そこに普通にいたユウジ君が普通なわけないし……考えないのが吉、なのかなぁ。
「えと……おまたせしました、ゆーじくん。ご注文のモンブラン、です」
「おお、ありがとなアミサちゃん!これもうまそー、写真撮っとこ!」
ひょこ、と僕らが腰を落ち着けている木陰に顔を出したのは、ユウジ君が注文してくれたモンブランを受け取りに行っていたアミサちゃんで……モンブランをユウジ君に手渡すとちょっと心配そうな表情を僕に向けたまま隣に座った。
彼女の表情の原因は多分、僕の服装にある。ステージを降りて着替えている彼女は普段通りの制服になっているんだけど、僕は中村さんによってスカートを履かされていて……ユウジ君が僕の性別を勘違いしてるままだから、そのまま勘違いさせたままどうせならそれを利用して金を落とさせろってことらしい。これに対してなんで、って言えるくらい僕が鈍感だったらよかったな……彼の態度はあからさまだから。
「なぁなぁ!これ、アミサちゃんが作ってくれてたりする?まさか俺のために作ってくれた……なんて!」
「(アミサちゃんが分かってないだけで、ユウジ君は僕らのどっちか……もしくは両方に好意を持ってくれてる。ただ……ね)」
「……?んーん、私は作ってないよ。私も料理当番はある、けど……今日はここを降りて本校舎の方に行かなくちゃいけなくて、融通きかせなきゃいけない時間ばっかりで……ウエイトレス役に専念させてもらってるんだ」
「そ、そーなんか……残念だなぁ、アミサちゃんが作ってくれてたら何倍も美味く感じると思ったんだけどよー?」
「これ、おかーさんが作ったの。絶対おいしいって、保証するよ」
「……あ、おう、そっか、おかーさんが……え?お母さん?」
「?うん、おかーさん」
「……えー、と。……渚ちゃん?」
「あー……なんていうか、クラスメイトに『椚ヶ丘の母』ってあだ名の女子がいてね、アミサちゃんが本トのお母さんみたいだって慕ってるんだ」
「あ、なーる。マジでおかんポジの子なんだ」
いっそ可哀想とも言えるくらい彼女に対しては彼のあの分かりやすい好意が欠片ほども伝わってない。まあ、アミサちゃんって人の好意を信じるまでに時間がかかる子だし……その上僕は男でちゃんと女の人が好きだから告白されたとしてもOKすることは無いし、アミサちゃんなんて
だから僕としては全く悪気がないアミサちゃんを含め騙して接するのって正直気がのらないし、できればせっかくの縁なんだから傷付けずに帰ってもらうのが理想……でも、彼としてはこのチャンスでなんとか知り合いって関係性を変えたいんだろう。さっきから結構あの手この手でアミサちゃんに踏み込もうとしてる……けど。
「渚ちゃんといいそのおかーさんといい、……クラスメイトなんだよな?ってことは同級生じゃねーの……?まさか飛び級なんてこともないだろうし……アミサちゃん達って14か15だろ?」
「うん」
「呼び方強要されてるわけじゃねーんだよな?」
「呼んでいーよ、って言われたから……?」
「いーよって言われたんだ……クラスみんな家族ごっこ的な……いや中学生だしそんなわけ、」
「お兄ちゃんもいるよ?」
「うぇ?う、うーん……イジメとか見下されてんじゃねーかって思うだけ無駄なのか、これ」
「僕が言ったら説得力無いと思うけど、僕らも諸事情あってこの子に世話は焼いてるとはいえ、さすがに本トの年下扱いはしてないよ。何より失礼だしね」
「……渚ちゃんまで言うならマジか。はは、……アミサちゃんと話してると謎に気が抜けるしムズいわ……会ったことないタイプすぎる」
「……;」
多分、『なんで?』って返されたら『君のことが……』みたいに想いを伝える方向へ持っていこうとしてたんだろうけど……彼女は当たり前のように気付かずスルーするから、変にズレた回答をすることもあって見事に違う着地点に到達してる。……今もモンブランを作った人の話からE組には
これで怖いのが本人は真面目に答えてるし一切嘘はついてないところだよね……僕には真似できない。アミサちゃん節に慣れないユウジ君はだいぶ難しい顔をしてるけど、諦めるつもりはないんだろう。……うん、こっちはこっちでポジティブだ;
このまま何事もなければいいって、思ってた時もありました。
「アミサちゃんはともかく渚ちゃんさぁ……嘘、ついてるよな」
「「!!」」
「親父が大物芸能人だからさぁ、すり寄ってくる奴等の顔はガキの頃からたくさん見てきた。分かっちゃうんだよ、うわべとかごまかしの造り笑顔は。……島のホテルで会った君は……そういう笑顔する
「…………、すごいね、観察眼……」
「すごくねーよ。いやらしい環境が育てた、望まぬ才能だ」
わざわざ知り合いに見られない場所を選んで接客してたのに、わざわざここを通って来校する殺し屋関係の人達……いや確かにね、本来の通り道は一般客がいるから彼らなりに配慮してくれた結果だとは思うんだけどさ。タイミングが悪すぎるんだよ……それを何とか誤魔化そうと中村さんのカンペを参考に嘘を重ねて対応してたのを、ユウジ君には見抜かれてしまった。
……ここまで確信のある疑念を持たれてしまったら、誤魔化すことはできない。僕はこの教室の秘密を隠すために嘘をついてるんだけど、さすがに国家機密を関係者じゃないユウジ君に話すわけにはいかない。でも何も言わないのでは納得できないだろう。おあつらえ向きに僕は彼に黙っている秘密がもう一つあるから……それを話そう。どこまで話そうかとこちらを伺うアミサちゃんに、僕が出ると合図してユウジ君の目を見る。
「……言う通りだよ、嘘ついてた。僕もね、この外見は子供の頃から仕方なくでさ、ずっと嫌だった。……けど、望まぬ才能でも、人の役に立てば自信になるって最近わかったから……今はそこまで嫌いじゃない」
「……ん?……僕?」
僕の発言になんとなく引っ掛かりを覚えてくれたみたいだから、女の子に見えるよう気をつけていた座り方や姿勢を崩し、スカートだけどそのまま胡座をかいて座り直す。
「……ごめんね。僕、男だよ」
「…………またまたァ」
「ホント」
「…………またまたまたまたァ」
「ホントだって。……嘘、ついてる顔に見える?」
「…………マジかよ……え、てことは、アミサちゃんもそう、だったりとかしないよな……?」
「そう、って……私が男の子かってこと……?え、私男の子だったの?」
「なんで自分の性別に自信なくなってんの?!」
「アミサちゃん;……ユウジ君、アミサちゃんは正真正銘女の子だよ」
「よ、よかった……」
「それにアミサちゃんは最初から最後まで嘘はついてない。……だから、ごめん。ホテルでは事情があって女装してたから、ユウジ君が僕のことを女の子だって勘違いしてるのは気付いてたんだけど……あの時一回だけだと思ってたし、こうして会いに来てくれるとも思ってなくて。だからといって今更男だって言い出せなくて……嘘、ついてたんだ」
「……渚ちゃん……」
アミサちゃんのトンデモ思考に流されかけたけど、そのおかげで彼女の言葉が最初から最後まで素で嘘をついてないことを強調できたから……よ、よかったの、かなぁ;ユウジ君的にもかなり安心してるからよかったんだろう、うん。
ユウジ君は『
「こういう見た目とか境遇、内面の欠点や弱点も、裏返せば武器にできる。この教室で学んできたのはそういう殺り方で、この出店もその殺り方で作られていて。今日ここにいる人達は……皆、
「それに、人は様々なものに影響を受けながら、与えながら生きていく存在……それが縁を結ぶってこと、だと思うの。……もちろん、ゆーじくんも……私たちと縁を結んだから、こうやってまた会えたんだと思ってる」
「…………」
アミサちゃんからしても、ユウジ君に会ったから自分の居場所を再確認できたって言ってたもんね。彼は言わずもがな、アミサちゃんもこの縁が影響を与え、与えられたことで変わったところがあるし……ハッキリ言葉にはしてないけど、感謝してるんだろうな。
「あ、で、でも、騙してたことに変わりはないし、飲食代は返すから!」
「……いいよ、いらないって。……そっか、望まぬものでも……か。はぁ……なんか自分がアホらしく思えてきた。……でも、何もせずに帰るのももったいねーし……」
「ゆーじくん……?」
「……あのさ、アミサちゃん。さっきも聞きかけてたんだけど……俺のこと、どう思う?」
よし、上手く誤魔化せたし、これでもう気を抜いていいよね……!なんて肩の力を抜いたところで話題が戻ってきた。そうじゃん、そこをまだ解決してないんだった……!僕への恋心は向けられないとして、もう1人いるんだからそっちの意思を聞きたいに決まってるよね!!
アミサちゃんは問いかけにキョトンとした顔で軽く首をかしげたあと、少し考えるように視線がフラフラ動き……
「……、……どう、って……私と似てるとこがあると思う」
「いや、そういう事じゃなくて……って、そういや渚ちゃんもアミサちゃんはこういう子だって言ってたな……」
だよね、質問の意図というよりユウジ君の気持ちも分かってないんだもんね;予想通りトンチンカンな答えが返ってきた。今日だけでも何回気が抜けてるか分からないのに、ユウジ君はめげずに質問を重ねて……って、そろそろこれ止めないとやばいよね?
「り、律、カルマ君って今……」
『カルマさんですか?うーんと……既に食材調達班としてのシフトが終わり、ウエイターとして動いてますね!……あ、中村さんがバラしてしまったみたいです』
「それもうこっち来るじゃん!?ゆ、ユウジ君、ストッ……」
アミサちゃんに向いてる今ならと律に状況を聞くと、もう手遅れな感じしかない……!それでも決定的な言葉さえ言われなければなんとか、と思って声を上げながら視線を戻した時には、ユウジ君はアミサちゃんの両手を取っていて、
「……あのさ、アミサちゃん、俺と付き──」
「──アミーシャ、接客お疲れ様」
「あ、カルマ」
「!?」
「……あーあ、来ちゃった……」
彼の言葉を途中で遮るようにして、ニコニコと笑うカルマ君がこちらに来てしまった……アミサちゃんにきちんと意図が伝わる前に来てくれたから間に合っ……てはないね、接触を許しちゃったし。ユウジくんは彼女の手を包んだまま驚いて固まってるし、カルマ君の視線が痛くて頭を抱える……アミサちゃんだけだよ、この絶対零度の状況を分かってないのって。
カルマ君にしてはかなりやんわりと、繋いだままだった手を解かせてアミサちゃんを少し離れた場所に連れていき、状況をわかってないアミサちゃんと話し始めた彼らに混乱するユウジ君へ。……かなり申し訳ないけど、もう1つの真実を伝えることにする。
「ユウジ君……結構前から止めるタイミング見計らってたんだけど間に合わなくてごめん。申し訳ないけどアミサちゃん本人が理解してないから僕から言うよ、……その赤髪の人、アミサちゃんの彼氏」
「………………………………え。」
そうだよね、ユウジ君からしたら急に降って湧いた男だもんね、カルマ君は。ただ、僕らの初対面の時にアミサちゃんが誰とも付き合ってなかったのも事実だし、3ヶ月ばかりで状況が変わるとも思わなかっただろうし。E組からしたらカルマ君がアミサちゃんを無自覚に想って3年近く一緒にいたのを知ってるから、3ヶ月って期間をやっとかって思えるけど、彼からしたら、ね;
カルマ君がアミサちゃんの耳を塞いだのを見て、僕が説明役なんだなと察してユウジ君に向き直る。
「な、渚ちゃん、それっていつから?!あのホテルで会った時は話してる様子からしてフリーだったよね?!」
「えっと……11月の頭くらいからかな。確かにあの時はフリーだったけど、アミサちゃんの話してた大事な人っていうのが彼……あの時ユウジ君と話して初めて少し自覚したんじゃないかな」
「めっちゃ最近じゃん!?しかもその自覚って俺のせい!?……そ、それじゃ、アイツ見た目明らか不良だし、アミサちゃんがアイツに脅されてるとか!」
「あー、見た目だけなら赤髪の不良と純粋な少女だもんねー……間違ってないんだけど。残念ながら、ベタ惚れなのは彼氏の方だし、他人と接し方がまるで違うし……というか、このクラスじゃあの2人のやり取りとかは結構名物なんだ」
「えぇ…………」
「渚くーん、好き勝手言わないでくれる?」
「事実でしょ」
「そうだけど」
「……あーもう、ホント、アホらしくなってきた……帰るわ……」
「え、あ……」
「……いーよ、追わなくて」
頭を抱えてしまったユウジ君だったけど、僕とカルマ君のやり取りや、アミサちゃんが抵抗せずにカルマ君へ寄りかかっている姿を見て理解してくれたんだろう。……彼女はいつも通り引き寄せられたからいつも通り体重を預けてるんだろうけと……アミサちゃんは本ト、悪気がないからタチが悪い。
ユウジ君は荷物を持って立ち上がり、歩き出してしまった。それを見てよく分からないうちに気分を悪くさせてしまったって思ったんだろうアミサちゃんをカルマ君が静止する。
「それよりも、手ぇ掴まれてまで告白されそうになってたのに逃げたり嫌がったり、そこに渚君がいるのに助け求めないってどういうこと?」
「……え、あれって告白だったの?」
「あのねぇ……浅野の時といい……アミーシャ、自分は男から好かれる魅力のある女の子ってこと、本ト自覚して……頼むから……」
「え、えぇ……?」
「アミサちゃんのことだから分かってないだろうとは思ってたけど……ユウジ君、哀れすぎる……」
アミサちゃんの長所は人を見る時にいい面を見て悪い所を悪いと思わないで肯定できることだけど……反対に自分に向けられる他人からの気持ちに否定的で鈍感すぎて、いいように捉えられないところが悪い部分だよね。その人柄だからたくさん人が寄ってくる上好意も向けられるのに、アミサちゃん自身が自分を信じられないから他人の気持ちに気付けないし気付こうとしない……分からないから人を怖がってしまうんだろう。ユウジ君には申し訳なさすぎるけど、こういう子って分かった上で、カルマ君のように根気よくちゃんと言葉を引き出せる人じゃないと付き合っていけないと思うんだ。
彼曰く、他人は背後の親ばかり見て彼自身を見る人がいなかったから、初めて向き合った僕らを気に入ったって……そんな彼に、逆に秘密でいっぱいだからって言い訳した僕は心から向き合えなくて、罪悪感が……裏切られたって思ってるかもしれない。彼が引きずらないといいんだけど……僕は彼が去った場所をただ見ているしかできなかった。
苦い後味を残してE組の1日目は終わった。ミスコン、A組のイベント、これまでの繋がりからお客さんは来てくれてるけど、A組の集客ペースには遠く及ばないのが現実。学園祭はあと明日だけ……何か起死回生の策があれば別だけど、今からそれは難しいだろう。
明日は、どうなるんだろう。……僕らは、A組に勝つことはできるのかな。
※楽屋にて※
「そうだ。アミーシャ、左手貸して」
「?はい、……え、な、なんでハンカチでこすって……?ちょっと痛いよカルマ」
「チッ、ここじゃ消毒できないじゃん、……早くE組帰ろーよ」
「しょ、消毒?え、左手だけって私危ないもの触ったっけ……?」
「触ったっていうか触られてたっていうか?」
「え?」
「おい、僕を汚いモノ扱いするのはやめてもらおうか」
「浅野君こそ暗闇に乗じて手を出すのやめてくれる?」
「個人的なお礼をして何が悪いんだい?なにより彼女は嫌がってなかったしね」
「嫌がってないんじゃなくてこれは分かってないって言うんだよ」
「分かってないからこうして見える形で伝えるんだろうが」
「何言ってるんだって表情で言うのやめてくれる?」
「君達がどんな関係だろうと僕はまだ返事を貰ってない立場なんだ。だからその時までは彼女が嫌がらない範囲で僕がどう動いても勝手だろう?」
「じゃあそれに対して俺がどうしたって勝手だよね?」
「「…………」」
「なんで顔を合わせるとこうなるの……?」
「……誰が悪いのかってなると、アミサちゃんが悪いんだよね……これ」
「完全に2人の男を振り回して楽しむ悪役ポジションなんだよなぁ……本人に自覚がないから余計に難しいことになってるのがまた;」
「暗転中にアミサちゃんの手にキスする浅野君も大概だよ。私達が見てる前でやるからカルマ君がキレてるのにフォローできないし」
「客の手前何も言えねーしな;真尾は分かってないし」
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学園祭1日目が終わりました!
今回は来日組があまり関わらない回(といいつつ、気づいたらヨシュアにハーモニカを吹かせて乱入させてました)でしたが、視点を変えて生徒達の変化や思いを見て貰えたら嬉しいです。
102話の予想外の時間で、カルマが千葉君にバンドの指導を頼んでたのはこのためでした。ホントは扉絵にもなっていたアプリゲームのバンドの時間メンバー(ボーカル:寺坂君、ドラム:速水さん、キーボード:矢田さん、ベース:渚君、ギター:カルマ)にしようかと思ってたんですが、それだと寺坂君の場所が無くなるのと、作者未プレイで上手く描写できないかなぁと。
ちなみに来日組もうた担がステージに上がることは聞いておらず、近くを離れたのも楽屋で一番最初にオリ主を迎えに行くためだと思ってました。が、あのようなサプライズがあったわけで……じゃあこっちもなにかサプライズしてみたいよね、即興でできるのは何、ヨシュアのハーモニカなら練習なしでも行けないか、やれなくはないけど学生のステージに乱入とかいいのかな……いいじゃないあの子達もすでに乱入してる訳だし!はいはい……みたいな()
このあたりは読者のみなさまの考察におまかせします!
歌詞をお借りしました(ファルコム音楽フリー宣言の規約上、こちらにコピーライト表記します)⬇
「NO END NO WORLD / 英雄伝説 創の軌跡 オリジナルサウンドトラック Vol.1 / Copyright © Nihon Falcom Corporation」