暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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UA140700、お気に入り415件ありがとうございます!
今回は頑張って舞台の描写を……してます……言語化って難しいですね!!

今回も楽しんでください!



124話 学園祭の時間~2日目・後編'~

 

Noside

 

 ──────それは、本物のアルカンシェルを何らかの形で知る者からすれば、全くの別物だった。

 

 主役だろうリーシャ・マオが指を鳴らしたかと思えば、公演前の練習時間から外に漏れ聞こえていたBGMの冒頭が流れだす。それと同時に中央へ並んでいた6人が男声女声で綺麗に重なったコーラスを歌い出し、キーボードとハーモニカの演奏も奏でられ始めた。

 バックダンサーだろう2人は踊りながら位置を変え、前にいた赤髪の男子生徒が下がって黒髪の女生徒と2人で茶髪の女性を中心に挟む位置に移動すると、そのまま彼は女性2人と一緒に踊り出す。男性が女性2人に混ざって目立つことなく、それでいて3人とも力強い動きとしなやかな動きを切り替えるダンスで中央の主役を引き立てていた。……かと思えば、中央で一切体幹を崩さないピルエットを魅せていたリーシャ・マオの背後から、文字通り宙を飛ぶようにふわりとドレスを広げて着地した女生徒が合流し、自然な動きで主役と2人での演舞に切り替わる。

 

「おい、リーシャ・マオが主演じゃなかったのか!?」

 

「すげぇ、あの子あの演技に遅れずついていってる!」

 

「てかそもそもどっから出てきてんだよ重力どこいった?!」

 

「ねぇ、もしかしてだけどあの2人って姉妹とか家族だったりするのかな?」

 

「確かに……偶然似てるだけ、にしては似すぎてるよね」

 

 ……ここで、前口上でリーシャ・マオが『縁あって』と言っていた相手はきっと彼女なのだろうと大多数の観客が察した。だって誰がどう見ても2人は体格や体運びが違えど、まとう雰囲気や顔立ちが姉妹や親戚と言われて納得できるほどそっくりだったから。こう見ると2人とも技巧を極めて踊っているというよりも、一般人……常人に真似できないような動きを力技でダンスに落とし込んで演舞を完成させているように感じる。洗練された動きで目を惹きつける天性の美しさを魅せるリーシャ・マオに対し、荒い部分はあれど重さを感じないほど軽やかで予測不能な動きの女生徒と、2人とも全く違う表現をしていて目が離せない。

 一糸乱れぬ息のあった演舞の後、2つの回転が反発するようにぶつかったその勢いを殺さずドレスの女生徒が飛び跳ねるようにステージ上を動いて、コーラス隊のいる端あたりへ移動ししゃがめば、主役はまた1人での舞へ戻った。

 

 その女生徒の元へ、いつの間にかバックダンサーを離れていた赤髪の男子生徒が近付いていき、手を差し伸べ……

 

「──────♪」

 

「……きれい」

 

「声量すご、これ1人なのマジ……?」

 

「「──────♪」」

 

「あ、デュエットになった!男の子も上手ーい!」

 

「あの男の子って昨日のイベントの最後にあの子を抱っこしてた人だよね?」

 

「仲良さそう……それにお互いを信頼しあってるって感じがする」

 

 その手を取った女生徒が立ち上がりながら高く透き通るような歌声を響かせる……たった1人の歌声が、後ろの6人で歌うコーラスと同等か、それ以上の声量だ。彼女が昨日の本校舎でのイベントでも歌っていたのはSNSに投稿された動画から知っている観客もいるだろう。しかし今回は彼女が主役のステージではないため、舞い踊るリーシャ・マオを引き立てるためか歌詞の無い純粋な歌声だけ……だからこそ全く違う系統の音楽を奏でるその声に驚きを隠せない。あの、小柄な少女のどこからこんな声が出てくるのかと、そしてかなり高い音まで歌いこなすポテンシャルの高さに。

 少し遅れて手を繋いだ赤髪の男子生徒も低音で歌い始めると、徐々に2人の女声、男声で掛け合い、2つの音が絡み合っていく。男声もソロで歌っていることから彼もかなり上手い部類になるのだろうが、申し訳ないが女生徒と比べると……と、感じた瞬間に違和感が消えた。よく見ると歌いながら時々お互いに指で合図を送り合っているのが見える……まさかあの2人はその場で調整しているとでもいうのか。そんなミリ単位の調整なんて本番の舞台の上でやることじゃない……し、それをする度胸もいい意味でおかしい。

 

 ここは屋外の少し整地された程度の地面で、ダンサーの動きを補助する舞台装置もなければ、フロアのように整備された場所でもない。見栄えをよくする装飾もなく、ただ空いているスペースで歌い、踊り、奏でているだけ……なのに障害が全くないかのように、当たり前のことのように彼女達は楽しそうだ。

 そしてコーラスが、楽器が、歌声が、ダンサーの動きがダイナミックになって、曲の終わりに向かっていることを感じさせる。リーシャ・マオが大きくその場でバク宙を披露し、回転すると同時に音が消え……締めの音でピタリと全員の動きが止まる。

 

 

 

 ──────わぁぁ!

 

 

 

「すごかったー!!」

 

「ここ、ただの草っ原で本家みたいな舞台じゃないのにこのクオリティ……」

 

「やばいよね、見に来てよかった!!」

 

「クロスベルのアルカンシェルも見に行きたいな〜っ」

 

 観覧スペースから響く多数の拍手と感嘆の声……目の前で繰り広げられていたのは5分もあったか分からない公演だったものの、そこに詰め込まれたものはとても壮大で。……きっとこの映像もSNSなどで宣伝されることだろう。

 

「ご覧くださり、ありがとうございました。この後休憩をはさんで午後3時半からもう一度公演させていただきます。それまでまだE組のお店を利用されてない方は飲食されていってはいかがでしょうか。……あ、ユウマさん、話します?」

 

「俺ですか!?準主役のようなものだったし真尾がやれば……無理だな、うん。……分かった、分かった俺が話すからそんな必死に首を振らないでくれ;」

 

「アミサちゃん、そんなに必死にならなくても……;」

 

「昨日からだいぶ人前に出て頑張ってるし大目に見てやってよ。これ以上はパンクしてこの子使い物にならなくなるよ」

 

「今度はめちゃくちゃ頷いてるし……分かったって;」

 

 演技中はキレイでかっこいい姿を堂々と魅せていたリーシャ・マオは、終わったからかガラッと雰囲気が変わり……なんというか、ぽやぽやしてるというか……気が抜ける話し方と進行だ。きちんと終わりの口上を言っていたのに唐突に一緒に公演の舞台へ上がっていたコーラス隊の中にいた男子生徒へ話しかけているが、あの反応の感じから一切打ち合わせになかったんだろう。

 男子生徒はリーシャによく似た女生徒へ話を振ろうとしたんだろうが、その女生徒は先程まで圧巻の演技と歌声を披露していたとは思えないほど小さくなって赤髪の男子生徒の後ろへ隠れながら思い切り首を振って拒否していた。……あの子も、演技中と終わったあとのギャップが激しい子だな。

 

「えーっと、言いたいことはほとんどリーシャさんが話してくれたんですが……じゃあ店の紹介でも。俺達の店はこの山の隠れた魅力を新鮮な状態でみなさんにお出しするため、注文を受けてから山に材料を採りに行っています。もう開店時間は数時間を残すばかり……これから売り切れも出てくると思います。まだ全品販売中の今のうちにぜひ食べていってください!」

 

「おぉ、さすが喫茶経験のある委員長は言うことが違うわ……」

 

「よくあの唐突なフリでそんなしっかり話せるな」

 

「どんな状況でも対応するとかイケメンだ……」

 

「お前らな。俺だってこれでも驚いたんだからな……ってリーシャさんまで笑わないでくださいよ」

 

「ご、ごめんなさい、つい……」

 

「無茶ぶりしてきたのはリーシャさんなのに……」

 

「あ、そーだ。コレは忘れちゃだめね……公演にキャストとして出てたE組のみんな、こっち来て!」

 

「「「?」」」

 

「へ?ちょっ」

 

「わ、え、エステルお姉ちゃん?」

 

 男子生徒はE組の学級委員長なのか、彼の淀みない宣伝に対して観客が反応する前にE組の生徒達が盛り上がっている。愛あるいじり、というやつなのか、彼等の反応を見る限りあれはいつものやり取りなんだろう。

 と、そこで思い出したように、バックダンサーとして踊っていた茶髪のツインテールの女性が公演に出ていたE組を呼び寄せる。不思議そうに近寄った生徒達を並ばせると、その中で隣同士で並ぶ歌唱していた女生徒と赤髪の男子生徒の間に入り、肩を掴んで抱き寄せた。

 

「主演のリーシャさんとハーモニカ演奏、バックダンサーとコーラスに出てたあたし達はこの公演経験者として協力させてもらったけど、E組の彼等8人とキーボードのイリーナさんは今日初めてこの演目を知って挑戦してくれたわ!お客さんに何か還元できないかと提案してくれたアミーシャを発端に、適性を考えてポジションを配分してくれたカルマ君、そして約3時間という短い練習時間でここまで仕上げた彼等にも大きな拍手をお願いできるかしら!」

 

「「……ぁ……」」

 

「「「!」」」

 

 ……そうか、彼等はたった3時間の練習時間でここまでのものを作り上げたのか。昨日の客の入り用を見ていた生徒達の身からすれば、今日こんなに繁盛して人が来るとは思いもしなかったんじゃないだろうか。

 当然昨日と同じまま営業してもよかっただろう……それを彼等なりに「ここまで来てよかった」とさらに感じさせる演出を完成させたのだ。

 

「そ、そんな!俺達はちょっと手伝ったくらいで……」

 

「私も数合わせのコーラスのようなものだったのに」

 

「……練習時間がもっとあれば、」

 

「エステルさん達の演奏とダンスがあってこそですよ!?」

 

「もう!あんた達がそーゆー認識でも、一緒にやったあたし達や見てた人達からすればすごいことなのよ!それに……舞台に立ったからにはお客さんからの歓声をもらわなきゃ!」

 

「そーそー!みんな楽しそうに歌って、踊ってたよ?だからお客さん達もみーんな笑顔なんだって思うな!」

 

「練習時間が少なかったのは仕方がないと思うわ。でもあなた達は、……ううん、リーシャさん以外はみんなこれを生業にしてるプロじゃないもの。言い方は悪いけど素人が限られた時間で取り組んでお客さんのことを考えて堂々と演じた。あなた達は今魅せられるものを大きな失敗なくやって見せたのだから、むしろ今の成功を誇るべきよ」

 

「レンの言う通りだね。謙遜は美徳だけど、行き過ぎれば失礼にもなる。それに公演そのものはもう1回あるんだ。悔しい気持ちは2回目に取っておいて、そこでやり切ろう」

 

「「「……はい!」」」

 

 E組の出演者達が総じて遠慮してしまっている中、経験者だという彼等は励まし、次へ繋げるために意識を前に向けるよう促している。そうだ……最初にリーシャ・マオが言っていたじゃないか、経験者、と。アルカンシェルとしての演者は彼女1人であり、それ以外の経験者も演目をやり遂げるための関係者でしかなく、リーシャ・マオ以外はこの道のプロではない。

 

 この演目は未完成だ。彼等が満足するまでは何回公演したとしてもこれは練習公演でしかなく、永遠に完成することはないのだろう。……次は約1時間後か、せっかくだから店に滞在しがてら2回目の公演も見ていこうか。自分と同じような考えの客もちらほらいるようで、店の列へ並び直しに行く人がいる。こりゃあ、あの男子生徒が言っていた通り売り切れる可能性が高いぞ。自分も早く並びに行かないとな。

 ついでに運良く今の演者が接客に来たりしないだろうか。SNSに感想を呟くだけじゃなく、どうせなら直接伝えたいじゃないか。自分は少しだけワクワクする気持ちを抑えながら受付の方へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これもいい名目になるか。フフ……つかの間の平穏を楽しむといい」

 

「……?」

 

 ……なんだ?今の奴。全然気が付かなかったが視認してしまえばかなり目立つ格好で、しかもでかい独り言だな。……まあ、いいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふー、やっぱりこの曲はみんなでバラバラに担当して1つの演目を作るっていうのが楽しいわね!」

 

「エステルさん、ずっとニコニコしてましたよね」

 

「えへへ、どうせ踊るなら全力で楽しまなきゃ!ヒナタちゃんも着いてきてくれてありがとう!」

 

「い、いえ!この教室でいろんな動きを学んできて、でもE組に来たら部活も辞めないといけないからそれを暗殺以外で表現する機会って全然なくて……だから、メンバーに入れて貰えて嬉しかったんです!」

 

「……そっか!」

 

「今回のも楽しかったーっ!みんな驚いてくれてたねーっ!」

 

「キーアもレンさんも音がハマって一切ブレないから、合わせる方がズレないか不安だったけど、上手くいってよかったよ」

 

「と言いながら、実質男子1人だけのオク下歌いきったのは磯貝君だよね」

 

「そんなに恨めしそうな声出すなよ渚……他の女子に紛れて違和感なかったぞ?」

 

「フォローになってないよぉ……」

 

「あら、それも含めてやり切ったんだしいいじゃない。その声だったらナギサにしかない武器になると思うわ」

 

「あはは、渚ももうちょっとしたら声変わりするって!……多分」

 

「茅野!?」

 

「……私、最初呼ばれた時は裏方だと思ってたからビックリした。まさか歌うことになるなんて……」

 

「あー、たしかに?私はカルマ君が速水さんの音楽の成績を覚えてたことにビックリしたよ」

 

「ん?そう?」

 

「そーだよ!私のもだけどさ、カルマ君もE組のことよく観察してるよね」

 

「ま、1番後ろの席だしねー、見放題じゃん」

 

「そうだとしてもだよ」

 

 無事に2公演とも終了し、今はつかの間の休息。公演のおかげもあってかお客さんの波が全く途切れてないから、このまま残りの在庫が無くなるまでノンストップで全員がシフトに入って動くことになってる。そのために、キャストとして出てた私たちは一度身なりを整えるために教室へ集まり準備をしているところ。……そのついでに、実際に存在する1つの演目に挑戦してみての感想会をしてる感じ。

 1回目が終わった時は後悔というか自分の頑張りを認められない、認めたくないって感じが全員にあったけど、2回目が終わってしまえば全員が楽しかったって言える時間になったと思う。だからこそ、明るく言いたい放題の反省会だ。

 

「というかカルマ君はカルマ君で踊ってアミサちゃんを迎えに行って歌ってってさ〜、兼任しすぎじゃない?」

 

「そうだぞカルマ、お前歌唱担当だったはずだろ!?いつの間にバックダンサー練習したんだよ!?」

 

「俺達も警備しながら初見で見て何してるんだって思ったよ……なのに違和感なく踊りきってるし歌もリアルタイムでアミーシャの音感に頼って直してただろ?」

 

「あ。やっぱりアレあの場で音の調整してたんだ?アミーシャの手の動きとカルマの返しからそうかとは思ってたけど、……あの場でやるなんてね」

 

「そのアミーシャちゃんもですよ!?リーシャさんとメイン張るなんて聞いてなかったですから、前に跳び出てきた時は何事かと思いましたよ……」

 

「アミーシャなら全舞台見てるしその要素を入れても対応できるだろうなって、歌唱準備のためにはける動きとして【金の太陽銀の月】の最終幕のフリを入れてみたら軽くできちゃったから……ふふ、あれはビックリしたかな」

 

「リーシャ、ちょっと回答がズレてるぞ;」

 

「というか最後の打ち合わせ無しなんですか!?あれだけ息ぴったりで!?」

 

「さすが姉妹……」

 

「練習の途中で俺が『ソロ音域もうちょっと1人で詰めたい』って言ったらアミーシャがリーシャさんと一緒に教室出てったから、多分何か2人でやりたいんだろうなとは思ってたよ。だったら俺はこっちかなって。同じ教室で練習してたし動きは見て覚えれたから、あとは位置と合流離脱のタイミングだけだったしね〜」

 

「いや、だけって内容じゃないんだよな……」

 

「見て覚えるって何……いやそういえばカルマって烏間先生の防御術見て覚えて身に付けたんだっけ……やってないのにできるって何……」

 

「勉強できて?物覚えがよくて?身体能力高くて?歌も歌えて……お前マジで何ができないんだよ、この才能マンめ」

 

……できないことだらけだよ

 

「……?なんて?」

 

「……なんでもない。……んで、アミーシャはさっきから放心してる気がするけど大丈夫なの?」

 

「……あっ、う、……うん。その、……昨日のイベントで歌い終わった時に終わりたくないって思って……そしたら今日、また舞台に上がれて。E組のための出し物なんだからお姉ちゃん任せにしちゃダメだって思ってついお願いしてやっちゃったんだけど……やっぱり、お姉ちゃんもみなさんもすごいなーって……かっこよく、て……、それで……」

 

「……アミーシャ?」

 

「………………でも……、」

 

 私も、お姉ちゃんのようにかっこよくて、人を笑顔にして、好きだって言ってもらえるようなことをしてみたい、なんて。今までは私には《銀》として生きる道があるから無理なことだって全部納得して飲み込んできたのに、それで悩むことなんてなくて当たり前だからって思ってたのに……なんだろう、この気持ち。

 ……このまま、この芽生えた考えを捨てて、押し殺してしまって後悔しないか、なんて。考えたこともなければ、思い浮かんだことすらなかったのに。

 

 

 

 ──────ぽす、

 

 

 

「!」

 

「……ふふ、慌てなくていいと思うわ。私も相当迷ったもの」

 

「……お姉ちゃん」

 

「最後の後押しは利でも得でもなくて、私の譲れないものが何かを自覚できたことだったから。だから、アミーシャが意味を見出だせなくて迷ってるうちは、まだ考えてくれてていい。……いつか、私と同じで譲れないものができて、自分のために選び取る時が来るもの」

 

「……うん」

 

「その時まで待ってるわ。……もちろん、お父さんも」

 

「……っ!うん……っ」

 

 ……私を抱き寄せてそのまま撫でてくれるお姉ちゃんの手に甘えて、体重を預ける。それは私がこれから何を選んだとしても、きっと認めてくれるんだろうと……自然と感じられる温かさだった。進めば絶対に変わらないままでいられる、そんな私のために敷かれたレールを外れて知らない道を進むと決めたとしても、それが私だからって。

 

 ……そっか、だから、あの時の父様は。

 

「……とうさま……」

 

 ……父様。父様が亡くなる前、私はお姉ちゃんが手をくださなかったことを疑問に思っていました。だって、そういうものだって教えてくれたのは他でもない父様だったから。だって、それが初めての仕事だって……こなしてこそ《銀》を襲名したといえるって言ってたから。なのに、躊躇って殺せなかったお姉ちゃんを叱りも急かしも脅しも……何もしないで微笑んだから。ただ、今際の際に「それもお前だ」って言葉だけ残して……そのまま回復することなく、お姉ちゃんが介錯することなく、病気で亡くなった父様。

 お姉ちゃんはロイドお兄ちゃんに意味を見出す後押しをしてもらって、どの道を選択したとしてもそれら全てがお姉ちゃんに違いないのだからって、父様の言いたかったことを理解するための道標を示してくれたって言ってた。私は、全てのことを【そういうもの】だと思って、父様の真意にも、お姉ちゃんの気持ちにも気づけなかった。でも、日本に来ていろんな人に出会って、たくさんのことを経験して、たくさんの感情を学んできて……前のお姉ちゃんと同じ悩みをもつことになって……他でもないお姉ちゃんの言葉で、やっと父様の真意に気づけた。

 

「ヌルフフフフ、まだ迷いを吹っ切るには先は長そうですが、進路相談の時点で見つけられなかったアミサさんの本心の一部、そして『既に一本道から外れてる』という自覚、できたようですねぇ」

 

「こ、殺せんせーっ」

 

「何も言わないで見てるとは思ってたけど……楽しんでたわね」

 

「そのニマニマした顔しまってよー、ゴシップでもスキャンダルでも無いでしょー?」

 

「今更なんだけど、……なんで栗」

 

「秋ですから。……さぁさぁみなさん、まだまだ話し足りないでしょうが、そろそろ他のみなさんと合流しましょう!このペースで行けばそろそろ売り切れも見えてきますよ!」

 

「……それもそうだね!」

 

「みんな、残りの時間も全力で殺り切るぞ!」

 

「「「おーっ!!」」」

 

 気合を入れて他のクラスメイトたちと合流した私たちだった、んだけど……お昼をすぎてだいぶ経つというのに、あまりにもたくさんのお客さんたちが途切れることなく来てくれたことで、それから数十分もしないうちにメイン商品であるどんぐりつけ麺の麺の在庫が残り少なくなってしまった。山の奥まで行けばサイドメニュー分の食材はまだ確保できそうだったけど、殺せんせーによって追加での食材採取にストップがかけられることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭開催期間を数時間残しながら、E組のお店は商品の売り切れを理由にして早めに店じまいすることを選択した。正直、何日も前から下準備をしないといけないどんぐり麺を追加することは不可能だけど、山にあるものを採ってきて使うサイドメニューに限ればまだ営業することはできた。

 でも、私たちの都合で乱獲することによって山の生態系を崩してしまったら……この山の魅力を殺してしまうことになるから。お客さんとして来てくれた人たちと結んだ『縁』、今回のお店のために使わせてもらったE組のある山との『縁』、人とも物とも恵まれてるってことを学ばせてもらったから。だから、勝ち負けよりも結んだ『縁』を蔑ろにしないことに決めた……こうなるだろうって結末も全部、授業に繋げちゃった殺せんせーの思惑通りだったってことは悔しいけどね。

 

「それにしても、あのニューヨークボーイがあんなに人を集められるインフルエンサーだったとはねー……人は見かけによらないっていうか」

 

「ホントホント。親が有名人だからってやってることは犯罪ギリギリだったからなんなんだって思ってたのに」

 

「なにやらかしてたっけ……未成年飲酒に?違法ドラッグに、挙句にホテルに手を回して個人情報勝手に調べてウチに来た上、勘違いからアタックして見事に玉砕してったんだっけ」

 

「さ、最後のはなんか違わないかな?」

 

「……百歩譲って最後のだけはかわいそうだったな」

 

「ん?イトナ、お前なにやってんだ」

 

「2回目の公演を撮ってたドローンから映像をダウンロードしてる」

 

「お前また手伝わずにんな事やってたんかい……」

 

「どうせ客はみんなあれを見てた。俺1人撮影に回ったくらいなら問題なかっただろ」

 

「それはそうだけどな」

 

 食材調達を止めたことでサイドメニュー含めほとんどのメニューが売り切れ、お客さんの波も落ち着いたからあとは数人でもお店は回せるってことになり、外では少しずつ片付けも始めている。外以外では順番に休憩しつつ売上の合計を出したり、校舎の掃除をしたりする片手間に今日繁盛した1番の理由であるゆーじくんのブログを見ていた。

 個人のスマホでE組のお店を特集してるページを見たり、律ちゃんが表示するオススメ記事を何人かが集まって見たりしてるんだけど、ホント細かく書いてくれてる……あと、料理の写真がおいしそう。確かに自分では中々行けない場所、手が出せないお値段のお店が嘘偽りなく特集されてて、しかもそれが限定感のあるものだったら人は集まるかもしれないなって思う。

 

「あっ!ねぇねぇ、この部分ってさ渚とアミサに宛てたメッセージじゃない?」

 

「へ?」

 

「ほら、ここ!律に該当箇所のリンク、アミサのスマホに送ってもらうから見てみて!」

 

「アミーシャ、見せて」

 

「僕もいいかな」

 

「う、うん」

 

【──これで、この店の紹介を終わります。最後に……俺の人生観を変えてくれた2人の友達へ、……まあ、見てくれてるとは思わねーけどこの場を借りて。】

 

【まずはNちゃん。直接は言えなかったけど、出会って早々、色々勘違いしててごめんなー。Nちゃんの言葉で俺が重いと思ってた自分の境遇がぐっと軽くなりました……ありがとう。今度は、普通にあって飯でも食いに行けたらなーって思います!オススメ紹介するぜ〜!】

 

【そして、Aちゃん。『人は様々なものに影響を受け、与えながら生きていく存在であり、そうして結ばれたものが縁なんだ』っていう、君の言葉……俺、大事にしていこうと思う。なんて言うか、出会った時から助けられてばっかりだな……好きになってホントよかった。ありがとう】

 

「……ホントだ。ふふ、ゆーじくん、最後まで渚くんのこと渚ちゃんって言ってるね」

 

「取っちゃえばいいんだよ、って前までなら言ってたんだけどね〜……あの面談見たあとじゃ、ちょっかいかけづらいや」

 

「そだね……うん?取っちゃうって……?」

 

「渚君を物理的に女の子にしちゃえって話」

 

「……???渚くんは男の子だよ?」

 

「うん、だからこれからは女装させるくらいにしようかなって」

 

「……なる、ほど……?カルマ、楽しそうだね」

 

「もちろん」

 

「そこはブレないで最後まで否定してよアミサちゃん!君くらいなんだからカルマ君を止められるのはっ!」

 

「ひぇ、ごめんなさい……?」

 

 名前はイニシャルにしてるとはいえ、知ってる人が見れば誰を指してるのか一目瞭然……多分、私も渚くんもゆーじくんのことを知らなかったことから、彼は私たちがブログにはたどり着いてないと思ってこの記事を書いたんだと思う。律ちゃんが教えてくれなかったら、お客さんたちが教えてくれなかったら、彼のメッセージには絶対にたどり着けなかった……感謝してもしきれない。

 ひなたちゃんが見つけたソレを私の肩口からカルマと渚くんが覗き込んで一緒に見て、思わず笑ってしまう。なんていうか……ゆーじくんにとっては渚くんも私も出会えてよかったって思ってもらえてるんだなって。昨日、変な別れ方をしちゃったからこそ申し訳なさとかもっと嘘を混じえないで話せればよかったなって思ってたから……

 

「律、問い合わせページはあるか?もしくは連絡先」

 

『ありますよ!ほらこちらに』

 

「助かる」

 

「なんだよ、感想でも送るのか?」

 

「あぁ、コイツのおかげでE組の店が繁盛したことに変わりない。だから何か一報入れてもいいかと思って」

 

「それは……全員揃ってからやりましょうよ;」

 

「クラスからお礼言おうよ、思いついたのはありがたいけどさ;」

 

「そうか?」

 

「……みんなからって形ならいいか」

 

「カルマ君はアミサちゃんにユウジ君を意識して欲しくないだけでしょ……」

 

「ヤだよ、イヤに決まってんじゃん。なんで大事な恋人を俺がよく知らない他人にわざわざ意識の欠片でも残してやんないといけのさ。未練とかもたれてもヤだし」

 

「私、そもそも告白って気づいてなかったんだから気にする必要ないのに……」

 

「まぁまぁ;確かにユウジ君、親がかなり有名な芸能人だって言ってたから、変にそっち界隈に情報流れるのも怖いしね……」

 

 ……そっか、気になるお店はお知らせくださいってプロフィールに書いてあったし、ホームページ内に連絡先を載せてるんだ。全部終わってからイトナくんの言う通りみんなから感謝のメッセージだけでも送りたいな……だって、これも殺せんせーの言う私たちが何らかの形で結んだ『縁』に恵まれて、支えられてきた結果でしょう?

 そろそろ、と片付けのヘルプに入ろうかと校舎内でゆっくりしていたクラスメイトたちが立ち上がる。ここでの後始末を全部終わらせたら、次はお姉ちゃんたちとの戦闘訓練だ。特務支援課の人たちとエステルお姉ちゃんたちがどんな訓練を考えてるかは全く想像がつかないけど……楽しみだな。楽しみのためにも早く終わらせてしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気持ちを入れ直して教室を出ようとしたところで校舎の外が少し騒がしくなった気がする。不思議に思って足を止めれば、玄関からバタバタと足音が聞こえた。

 

「渚君!外、お母さんが来てる!」

 

「……え、母さんが?!」

 

「あ、あと。アミサちゃんには浅野君達が来てる」

 

「ハァ!?」

 

「……え?」

 

 終わったと思えばまさかの来客。……え?

 





「ところで母さん、なんで浅野君達と一緒に……?」

「なんかね、山道を登ってくる途中で腕組んで悩んでたのよ、彼。5人で……というかその浅野君と他の4人でE組なんかの店にーとか、しかし呼ばれていかないのもーとかなんとか言って揉めてるみたいだったから、道を聞くフリをして連れてきちゃった。余計なお世話だった?」

「あ、あはは……彼、生徒会長だからさ。本校舎側の代表でもあるから建前上入りづらかったんじゃないかな……ここ、E組だし」

「あら、そうなの?……ま、私もここには偏見しかない場所だったから仕方ないか」

「うん。……あ、母さんにはまだちゃんと紹介できてないけど、E組にも浅野君レベルで勉強も運動もできる友達がいるんだ。この教室でやりたいことをやりきりたいってのもあるけど、あの2人がいるからここを出たくないってのもあってさ」

「……それって、真尾さんとカルマ君って子?」

「え、あ、うん。……話したこと、あったっけ?」

「真尾さんがどの子かは知らない。でもアンタの呼び方からして女の子よね?近いうちにちゃんと紹介しなさいよ」

「……かわいいし母さん好みの子だと思うけど、すごい恥ずかしがり屋だしカルマ君の彼女だからあんまり構いすぎないでよ」

「あらそうなの?だったら余計会ってみたいから連れてきなさい。着飾ってみたいわ」

「そう言いそうだから今まで会わせなかったのに……」

「ごめんごめん……そのカルマ君は前に家に連れてきた友達の片方の子じゃなかった?」

「そうだよ。……なんで2人が僕のいう友達って分かったの?杉野も家に連れてったことあるのに」

「その生徒会長の浅野君が名前を出して誤魔化そうとしてたのよ。だからつい覚えちゃったのかもしれないわ」

「……?」





「浅野君があんな直前に躊躇うからメイン所かサイドメニューすらほぼ完売じゃないか!」

「……悪かったよ」

「……ったくよー……あ、サンキュ」

「ううん、ごめんね。もうジュースくらいしか出すものなくて……」

「むしろよく残ってたな。お前が謝る必要ねーし、ラッキーでしかないだろ」

「というか真尾、お前からもなんか言ってやれ。潮田の母親が来なけりゃ約束破るところだったんだぞコイツ」

「仕方がないだろう!A組責任者の僕が抜けだすのにも相当苦労したとはいえ、僕が堂々とここへ来るわけにもいかなかった……し、最初に『赤羽と背格好似てるんだから成りすませ』って言い出したのは荒木だぞ」

「いやー、赤羽ならフラッと山を降りてきてても説明つくだろ?浅野君が周りを誤魔化す程度ならちょうどいいかと」

「これだけ学園外部の奴らが来るんだからE組から出たがるはずがないとも言ったよな?」

「結果論だよ」

「……私からすれば、あんな、社交辞令って感じの軽いお誘いメッセージで来てくれるなんて思わなかった……それに、2日目の方が浅野くんたちも忙しかったでしょ?来れなくても仕方ないかなって」

「まあCATVで放送されたらこうもなるよね……ありがたくA組にも客は流れてきたから客入りは上々だったよ」

「お前らが出演したイベントはどんな規模だってな」

「俺らも恩恵得てんだ、気にする必要はない」

「これに関しては君たちの人脈が僕らの想定を超えてきたってことさ」

「……正直、私も、……私たちもいろいろと予想外だったから。こんなにたくさんの人に来てもらえるなんて……ううん、来てもらいたいとは思ってたけど、こんなにたくさんの笑顔を見れるなんて、……夢みたい」

「……そうか」

「だから浅野くん。忙しい中、約束を守ってくれてありがとう」

「いや、構わないさ。約束をしたなら必ず守るのが当たり前だからね」

「……、……うん」

「はい、そろそろ飲み終わったっしょ?金落としたら帰ってくれる?」

「おまっ、まだ飲んどるわ!」

「俺ら客だぞ」

「閉店だって案内されてんのに居座ってんだから迷惑客一歩手前だって分かんないかなぁ?あ、渚君のお母さんは別ね、関係者特権」

「一歩手前ならセーフだろうに……」

「ようは理由をつけて真尾さんの回収に来ただけだろう君」

「そうだけど?」

「潔いいな」

「……テイクアウトして帰ろうか。真尾さんの言う通り僕らも残りの集計に片付けにと忙しいし……約束は果たしたしね」

「!……ありがとう」



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前回から引き続きアルカンシェルの練習公演を話題にしましたが、言葉だけの描写だとだいぶ分かりづらいと思います。なので、ぜひ【幾千万の夜を超えて】を動画サイトで見てみてください!オリ主とカルマの動きは完全にオリジナルなので、動画みても分かんないと思うので脳内補完をお願いします()

第一部では最後までオリ主が理解しなかった『自分にある他の可能性』に目を向けるきっかけになり、ここで前と違う分岐の1つに入りました。リーシャもロイドとの絆イベントを通して父親の最期の言葉の意味を理解し、アルカンシェルと《銀》を両方捨てない道を選んだので、そのリーシャによって肯定されることがオリ主には必要かと思ってこの流れに。オリ主は『自分の何かを求められる経験不足』なのが自己肯定感が低すぎる原因の根底にあるのでE組だけでは『みんな優しいし、私の事は知らないから』と意見を変えなかったわけです。

さて、次は戦闘訓練になります。
前の話に戻ってきましたね〜!
楽しみに待っててください!



浅野君がオリ主をイベントステージに誘う時、クラスメイトに言われて『飲食店だから食べに来て欲しい』と送ってるんですよね。その話題を最後の最後に放り込みました。……ワスレテタトカジャナイデスヨ!←
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