UA143500、お気に入り登録やしおりも
ありがとうございます!
今回は前回まともに入れきれなかった訓練とループ前と比べてまた1つの分岐点になるお話です。
よろしくお願いします!
カルマside
何度目かの手合せと休憩のあと、俺以外の3人がさすがにぶっ続け2時間はってバテてきた頃……いやバテて当たり前か、俺は途中で抜けてたから体力残ってるだけだろうし。でもせっかく他がいなくて独り占めできるんだからもうちょっと技を盗ませて欲しくて、ワジさん相手にタイマンを挑もうとしていた。
「さて、どうする?さすがにここまで体力を使った後じゃ最初よりポテンシャルも下がってるだろうし……適当なルールを決めようか。何か希望はある?」
「……俺が決めていいの?せめてお互いに意見出し合わない?」
「そう?じゃあまずは武器の使用についてかな……君達が普段使ってるのは対先生武器……だっけ、それを貸してくれるなら僕もそれを使うけど」
「……ワジさん体術メインじゃん、だからお互い武器無しの素手がいい。代わりに抑え込まれた方が即効負けってルールは無しにしてくれない?それくらいなら抜け出せないか試したい……それにどうせ他の奴ら潰れてるしさ、ワジさんさえよければ俺の限界まで付き合ってよ」
「いいね、それでいこう。時間は?」
「無制限」
「フフ、そうこなくちゃ。じゃあ次は……」
こんな感じに、ワジさんとお互いにタイマンのルールを決めていった。さっきから組手してて改めて感じたけど、いくら俺がケンカ慣れしてるとはいえ、日常的に
「……カルマ、いつの間に吹っ切れたのかな。マジメにやってるけど……」
「……そうかー……?いつもみたく策略めぐらせてんのがそう見えるだけなんじゃ……」
「……や、マジメだと思うぞ……」
「えー、前原的に、どの辺が……?」
「……んー……なんか、目的をもってカルマが技を盗もうとしてるというか……ほら、俺は行けなかったけど夏休みのホテルでさぁ……磯貝曰く、烏間先生の防御テクニックでさえアイツにとってソレは『見てたら覚えた』程度なわけ。つまり必要性があって覚えたり、必死に身につけたりしたわけじゃない」
「……てことは、アレは結構
……元気そうだね、お前ら。聞かせようとしてんのか、声を潜めてるつもりなのか微妙なとこなのがまたねー……あの集団に前原がいる時点でお察しだしめんどいから無視するけど、俺に対して失礼じゃね?いつも何に対しても……イタズラ挑発ケンカに関しては特に真面目ですけど、俺は。当然、俺に聞こえたってことはそう遠くない距離に立っているワジさんにだって聞こえてるわけで、クスクスと笑いながら話しかけてきた。
「準備はいいかい?先に
「……もちろん、これが終わってからいくよ」
「はは、さすがだね!じゃあ、────おいで」
この組手で盗んだ技術をそのままあそこで失礼な事言ってる奴らにぶつけてきます、って含みをもたせて言ったのを彼は正確に汲み取ってくれたらしい……止めもせず、むしろもっとやってしまえとばかりに笑って肯定された。そういや前原にナイフぶん投げた時もにこやかにサムズアップで何のお咎めもなかったっけ。前言撤回、この人めっちゃ仲良くなれそう。
そんなことを考えている間に一転して雰囲気が真剣なものになったワジさんが構えをとり、俺から仕掛けるように促された。お言葉に甘えて、先に仕掛けさせてもらおう。後ろ足で地面を蹴り、ワジさんの正面から……と見せかけて、フェイントをかけつつ少し斜め左あたりへと途中で進路を変えて走る。上手いこと進行方向へ注意を向けてくれたのを確認してから、地面を踏み切り反対側へと飛びながら蹴りを繰り出す。ワジさんの反応を見る様子見を兼ねてたんだけど、ヒットする瞬間に軽々と足を掴まれ阻まれた。
「やっべ……!」
「正面から来なかったのは正解、注意を引いた逆から仕掛けるのもオーケー。でも相手の力量を図るために飛び蹴りを使うのは感心しないよ……こう、空中で捕らわれたら反撃に転じられないから、ねッ!」
「ぐっ……っ!」
「うん、着地はそれでいい……次に同じような状況があったとして、可能なら真っ直ぐ避けずに左右どっちかへズレてみて」
「……はい!」
掴まれたと言うよりは飛び蹴りの殺せなかった勢いを流された感じか……勢いをそのままに投げ飛ばされた。無様に地面に転がるのは避けたい……っ、慌てて地面に両手をついて反動をつけ空中で回転するように跳ね上がり、上手く足から着地する。勢いを殺す過程で距離は取れたけど、位置はワジさんの真正面だ。これじゃあ射線が真っ直ぐな武器相手だと、体勢整える前に恰好の的となって危険すぎる……実際ワジさんにもそこを指摘された。
もう一度距離を詰めて今度はワジさんの手や足の動きを追いつつ、あってないようなものだけど隙を探す……1回くらい上手くヒットさせたい。何度かの応酬を繰り返してるうちに、少しだけ視線がそれるタイミングがあるのに気付く……動きの癖なのか、わざと作ってくれてる隙なのかは、分からないけど。でもこれは行くべきだ。殴りに行く構えから腰を落として重心を下げて足元に潜り込み、顎を狙って頭上に向けて蹴りあげ後方に回る。これは修学旅行でアミーシャが高校生相手にやっていたコピー技だから、向こうの戦闘技のはず……俺の我流よりかはくらい付けると信じる……!
「───っと、やるね」
「どーもっ!」
明確にヒットはしなかったけど、顎下に蹴り上げた俺の足を両手でガードさせることには成功したからよしとしよう。蹴り上げた勢いのまま後ろに下がり、軽く左右に動きを振ってからまた接近戦に持ち込んで……ッ
「次は僕の番。……連撃いくからできる限り捌いてみなよ」
「っ!はや……っ」
体勢を完全に立て直す前にワジさんが勢いよく突っ込んできて腕を振るう。足技がどうとかって言っておきながら、遠慮なく殴ってくるじゃん……!身体に向けて打ち込まれるもの、顔を狙うもの、下からのアッパー……殺せんせーや烏間先生お墨付きの動体視力が無かったら、これ全部直撃してたんじゃない?思わずそう考えてしまうほど、俺の微かな隙を見つけて確実にそこを狙ってくる。腕をクロスして守ったり、烏間先生の防御テクニックを駆使したりやさっきのワジさんが俺の蹴りを防いだように片腕で勢いを流してダメージを減らしたりしながらなんとか全てに対応する。
ここまで連続の乱打だとどこかに攻撃の切れ目があるはず……この連撃の嵐からなんとか抜け出そうと隙を伺っていると、急に目の前からワジさんの姿が消えた。
「え、消え……ッ!がッ!?」
「さっき君が僕に向けた攻撃は僕の≪ファントムラッシュ≫だろ?いつ見たのかは知らないけど、まさかほぼ完璧に真似てくるとは思わなかったよ。だけど、オリジナルの僕がまともに食らうとは思わないことだね。あとボクシングじゃないんだから、いくらパンチに目がいっていたとしても全てに警戒しなきゃ」
「……〜っ、は、い……」
「うん、衝撃は殺してるね。突然入れたアッパーは捌けるのに蹴りあげに直前まで気付かないってことは、殺気の乗った腕だけに集中してたのか。……君は警戒心があるからこそ、そういう殺気とかの判別に長けてる。ただ、対策を練っておかないといつか裏をかかれそうだ」
あの技のコピー元この人かよ……!消えたと思ったのは俺の勘違いで、連撃の合間にしゃがんで視界から消え、そのまま蹴りあげてきたらしい。腕での攻撃に対する防御だけに気を取られていたし、動きが自然すぎて……完全に足技の存在を忘れていた俺のミスだ。しかも同じ技でやり返されてるし。
……何やってんだよ、俺……
「……≪ヴァイスカード≫」
「!」
ワジさんが自分の心臓のあたりに右手を当て、何か技の詠唱のようなものを呟くと、その右手に持ってる金色のメダルか何かに光が集まり始めた。それはだんだんとトランプ大のカードの形にまとまり始めて……これ、アミーシャがずっと前に言ってた戦うために各々が持つ固有の技、『クラフト』ってやつなんじゃ。
「くっ、そ……」
「待って。多分脳震盪だ……弾かないでそのまま受けて」
「……っ、」
この状態でクラフトなんてくらったら負け決定じゃん、無理矢理にでも避けてやる。揺れる視界と平衡感覚がおかしくなってるせいで思うように体が動かない中、無理矢理身体をズラそうとしたら、当の本人からストップがかかる。
弾かないで受けてって、そのまま受けたら俺アウトじゃね……?そうは思っても身体が満足に動かせないから、受けるしかないんだけど。受ける衝撃を想像して思わず腕で顔を覆いながら目を閉じたんだけど、一向に衝撃を感じない……それどころか、視界の揺れが治まってるし体が軽くなって……。顔を上げて身体を確認してみればさっきのカードはどこにもなく、向こうからはワジさんがニコニコと笑いながらこちらへ歩いてくるところだった。
「これ回復するクラフトだから当たっても平気だよ……って、言うのが遅かったかな?」
「……、……ありがと。ねぇ、ワジさん……間違いなく俺が『クラフト』の存在知ってるからこそ、今の説明しなかったんでしょ?」
「さぁ、どうだろうね」
……またもや先入観にやられた。クラフトについてアミーシャは俺に『戦いの中で攻撃や補助をする技』とだけ教えてくれていた……だから、『ダメージを与える』ための必殺技や攻撃力アップのような補助系の技の総称だと解釈してた。
だけど今の≪ヴァイスカード≫は明らかに回復技だった。……そういえば棒倒し前にアミーシャが使った≪月舞≫も似たような効果あったっけ……ひくりと口のはしがひきつったのが自覚できる。キレイにはぐらかされたけど、俺がアミーシャに聞いてクラフトをある程度知ってる上で勘違いしてるって判断したから、回復しつつからかってきたんだこの人。
「あは、怒らない怒らない」
「……怒ってない、軽く転がされてる感じなのが悔しいだけ……って、ちょっと、頭、揺れる……っ!」
「フフ、……僕のせいって分かってるけど、あの子の前でその顔しないようにね。結構そういうのに敏感だし」
「……それってさ、ワジさんがアミーシャに責められるから?」
「いやそれは別にいいよ、怒ってるあの子も可愛いし。それよりも自分が説明不足だったせいで君を油断させたから負けちゃったって1人で勝手に落ち込むから……全然気にしなくていいことなのにねぇ」
「(……ありえる)」
膝をついて見上げる俺の前にしゃがんで頭をかき混ぜるように撫でてくるワジさんはニコニコと……なんか、俺と組手始めてからずっと楽しそうに笑ってる気がする。……くそ、髪の毛ぐっしゃぐしゃなんだけど、この人が向けてくる感情には好意的なものしかないから怒るに怒れない……おもちゃで遊んでる的な?……この人にとってはその程度ってわけか……それはそれで悔しい。
そして俺を撫でながら顔を覗き込んできたかと思えば、今の微妙な気持ちが出ているだろう表情をアミーシャに見せるなと言う。もちろん俺的にもこんなかっこ悪いところを見せるつもりは無いけど、責任逃れというかワジさんが理由だってことを隠したいからなのかと思えば、アミーシャが気にするからって。彼女は今回のこの訓練……いや、関係ないことだとしても予備知識で回避可能だった出来事があれば、教えなかった自分のせいだと思い込んでしまう可能性が高い。さすが、アミーシャのことを大事にしてる人達の1人なだけあって、この人も彼女のことをよく分かってると思う。怒ってる姿が可愛いから止めないってところとか、俺も同じことしてるし。
「……ホント、いろんな才能の原石みたいな子だね。可能なら僕の手で育ててみたいよ」
「……?……ワジさん、何か言った?」
「別に?君が猫みたいだから、もっと
「隠せてないし言ってんじゃん……」
やっぱりこの人には勝てそうにない。ていうか、アミーシャの知り合いってこんな人達ばっかなの……?
◆
「お疲れ様。日が暮れてきたし、そろそろ切り上げようか」
「はーい」
結局あの後もメンツを変えながらひたすら素手でワジさん相手に攻撃を仕掛け、身体運びや避け方などでワジさんが気になったことをその場で教えるという方法で訓練を進めていた。それと同時に場を読み、どう動けば味方の邪魔にならないように動けるか、どう動くのがその場で最善なのかということも実地で教えてくれて……正直こっちの方が楽しい。
だけど俺は先を読むのは得意な方だから、どちらかといえば前者の格闘技や技術を盗むことに専念していて、ワジさん相手に組手をしたり、集団戦で連携を試したり、ワジさんにバディを組んでもらい他のE組生を巻き込んでの模擬戦を行ったり……と、想像してたよりもかなり有意義な時間を過ごせたと思う。
「……お、……わったー……」
「ありがとう、ございました……」
「こんだけしごかれたのに普通に立ってるカルマ、流石すぎるぜ……」
まだ明るいとはいえ少し日が傾いてきて、このまま続けると今度は視界が狭まって危険だとワジさんは判断したみたいで……俺等の訓練はここで終わりのようだ。地面にぶっ倒れてる奴、座り込んでる奴ととにかく疲れきって息を整えてる奴らが大半だった。俺も散々戦ったわりには、結局一撃ってほどの攻撃もまともに入らなかったなー……そう内心反省しながら腕を回していると、膝に手をつきながら息を整えていた杉野が俺を見て「体力オバケ」だの言ってきた。当然一発入れておいた。
────ピリリリリリ
「「「!!」」」
「おっと、僕だね……もしもし」
『ワジ、そろそろ暗くなってきたから訓練打ち止めにしようと思うんだけど、戻ってこれそうか?』
「グッドタイミング。ちょうど終わろうと思ってたところだよ……どこに集合?」
『最初に集まった校舎横に来てくれ』
「了解、リーダー。……全員聞こえたよね、行くよ」
突然鳴り響いた呼出音……音の出処はワジさんの持つ戦術導力器。アミーシャのと形が違うってことは、あれが通信機能だけじゃなくメールや写真が撮れるって新型のやつなのかな。通話相手なのだろうロイドさんの声が俺等にも聞こえて……というか、ホログラムか何かで姿も投影されてない?科学なんだか分かんないけど、やっぱすごい技術だ。
歩き出したワジさんの後について、俺等も集合場所へ向かう。さっきまで座り込んでた奴らがすぐに歩けるって事は、その位の体力は残してあったということ……いや、ワジさんはこれを見越して訓練内容を組んでたんだろうな……改めて自分との実力差を痛感する。どんどん進んでいくワジさんとクラスメイトの後をのんびり最後尾から追いかける途中に、俺は何となく気になったことを聞こうとポケットにしまっていたスマホを取り出し、中にいる彼女へと声をかける。
「……律」
『はい、お呼びですか?カルマさん』
「夏休みにアミーシャのスマホとリーシャさんの導力器で通信できるようにしたじゃん。今更だけどあれって大陸違うところの通信器でしょ、律ごしだとしても基地局経由するには遠すぎね?」
『少々お待ちください……、……えっと、そうですね……カルマさんのおっしゃる通り、スマートフォンや携帯電話……私が本体と接続してるのもそうですが、それら全て無線基地局を経由しています。対して導力器はそれさえあればお互いの周波数を合わせて通信できるものだそうです。私に関しては独立したプログラムを皆さんのスマートフォンにダウンロードしていますから、私本体とでは通信が無理な環境でも、私がダウンロードされたスマートフォン同士でしたらあれらと同じように使用できます。つまり、通常では圏外となる場所でも、私が繋げられる環境、そして導力器同士での通信機能でしたら繋がる可能性が高いと考えていただければいいかと。代わりに周波数を合わせれば通信できる分、傍受される可能性が上がってしまったり通信可能距離が短くなってしまいます……最近はリベール王国のラッセル博士が開発に成功した、』
「ストップ、少し脱線してるし気になったとこは分かったからいいよ。……ところでさ、そんな知識どこで仕入れてきたの?」
『えへへ……実は私、インターネット回線だけでなく、導力ネットワークへの介入を練習してるんです!先程ティオさんに教えていただいてから、ヨナさんという方のパソコン経由でちょっと』
「早速指導された技術を実戦してるわけねー……一応あとでティオさんに報告しとくか。律、ハッカーはハッカーでもホワイトでいてよ」
『???』
「いくら律がAIでも、クラスメイトが
何気なく聞いたんだけど、結構大変なことやらかしてる……ま、ハッキングって行為がいいとは言えないけど、今後もかなり役に立つ第2の刃、だよね。さっきの今でここまで学習してる上に実践し始める行動力は律の凄いところだけど、いつか知らなければよかった事実とか持ってきちゃいそうなのが怖い……
俺としてはそう思っての一言だったんだけど、律にとっては何か思うところがあったみたい。笑顔でニコニコとしていた表情をピタリと固まらせ、困ったように眉を下げた。……何か俺、おかしなことでも言った?
『……クラスメイトが逮捕、ですか……』
「何?律が人間じゃないからってそれがありえないことじゃないでしょ。一応ハッキングって犯罪だしさ……ていうか、俺がクラスメイトを心配するのはおかしいこと?」
『い、いえ!私のことをそんなふうに言っていただけるなんて嬉しいです!……、ただ……』
「ただ?」
『……、……なんでもありません。それに……その、私はまだ、人の考えている有益な情報というモノの取捨選択がまだ苦手ですし……私の持つ情報も不確定すぎて、さすがにお話しすることはできませんから』
「あっそ。……俺じゃなくていいからさ、烏間先生とか話せる人には話しなよ」
『……はい!』
……既に何か情報を仕入れてたみたい、しかも軽々しく話せない……情報漏洩したらやばいタイプの。ただでさえ俺等は殺せんせーって国家機密を抱えてんのに、律が話せないってことはそれ以上ってことでしょ?もしくは俺が聞いたらマズい話……国家の闇は一般市民の耳に入れるわけにいかないって感じかな。
ま、この様子だと聞き出すのは諦めた方がいいか……下手に探って記憶消去なんてヤだし。だからといってそんな誰かに話せないような大層な情報を、自分の好奇心で探ったものとはいえ律1人に抱えさせるほど俺は愚かじゃない。内容はともかくふわっと事情だけでも烏間先生に言っとくか……、律は転校生暗殺者って立場だし、
『……ごめんなさい、これだけは……』
「……何?聞こえn……」
「おーい、カルマー。早く来いよー!」
「……はいはい、聞こえてるから。そんな大声出したら体力無くなるよ〜」
「そこまでやわじゃねーよ!元野球部舐めんな!」
◆
集合場所に着くと、既に揃っていたのは連絡してきたロイドさんのグループだけだった。とはいえ、それぞれ他の訓練場所でも夜目が効かないと危ないってちょうど判断したところだったらしくて、そんなに待つことなく全グループが集合。本格的に日が暮れてきて、夕陽はあたりを茜色に染め始めた。
「全員揃ったか?」
「烏間先生〜、あーちゃんの姿が見えませーん!」
「ん?うちもリーシャが戻ってきてないな……ロイド、連絡したんだよな?」
「したにはしたけど、……まぁ出るわけないよな……」
「お前のとこが1番最初に戻ってたんだから迎えに行けばよかったんじゃねーの?生徒らも待てるだろーに」
「いやもしかしたら奇跡的に自分達で気付いて帰ってきてくれないかなって……思いたかったんだけど……」
「「「……無理でしょ(だろ)」」」
点呼をとる烏間先生の声に磯貝と片岡さんがそれぞれ男女の人数を数え始めたけど、アミーシャの姿がどこにもないような……倉橋さんも同じことを思ったのかすぐさま手を挙げながら報告している。キョロキョロと周りを見ているロイドさんの様子から、特務支援課側はリーシャさんがいないんだろう。
山の中、2人だけで訓練するって言ってたっけ。リーシャさんって普段の連絡とかで通信に気付かないこととかなさそうな人だし、アミーシャもそういうのは律儀だから忘れることはほとんどない。なのにロイドさんが『奇跡的に』って言葉選びをしてるあたり、こう、訓練とか2人で何かやってる時は日常茶飯事なのかもね。他の人も即無理って言ってるし。
「……まあしょうがないか。今のところアミーシャの全てを完全に理解してるのはリーシャしかいない。指導に熱が入って、そのまま2人とも時間を忘れてるんだろうな……ティオ」
「了解です。居場所を索敵します、《アクセス》……ヒットしました、ここから裏山へ入って少しの所に2人分の生体反応を確認しました」
「わかった。……えっと、多分あの姉妹は集中しすぎて時間を忘れたまま、まだやってるんだと思う。通信じゃ気付かないみたいだから今から俺が迎えに行ってくるよ」
「!待ってよ」
ティオさんが杖を構えると、彼女の周囲に導力光が広がる。やってることは律のGPS検索のようなもの、なんだろうけど、『生体反応』ってことは機械とか電波とかを頼りにせず人そのものを感知してる……みたいな認識でいいのかな。呆れたような……それでも仕方がないなと笑いながら俺らに背を向けて裏山に入っていこうとするロイドさんを思わず呼び止める。
「どうした?」
「俺も行く。別にいいでしょ、ついてったって」
「……それは、……」
「何、迎えに行くだけじゃん。なんなら俺だけじゃなくて行きたい奴もついてけばよくない?まだ訓練続けてるんなら他の奴らだってあの2人がどんな訓練やってんのかって気になってると思うしさ」
「確かに……見れるもんなら見たいよねー!」
「山使うってことはフリーランニングありきだろ?真尾の機動力は知ってるけど、同じような動きができる2人となるとどうなるか気になるな」
ただの好奇心だった。あと、ロイドさんの言葉の何かが引っかかって、反発したい気持ちもあったのかも。だから待ってるくらいならついてこうと思っただけ、クラスメイトも暇になるなら連れてけばいいんじゃないって軽く考えてた。
……だけど。俺らが盛り上がるのを見るロイドさんが、他の人達がどこか迷っているような表情で……困ったように頬をかいたり、悩むような素振りを見せていたりするのを見て、みんなだんだん静かになっていく。
「……正直、彼女を見る目を変えない覚悟がないならオススメできない。着いてきたら、多分君達が見たことのないあの子を見せることになるだろう」
「どういうことですか?」
「1年近く一緒にいろんな訓練や戦いに挑んできただろうし、アミーシャちゃんのことを『守られるだけの弱い子』とはさすがに思ってないと思うけど……『E組の中で1番小さいみんなの妹』って認識はない?」
「あと『お世話してあげたくなる子』、とかね」
「「「…………;」」」
「まぁ、僕達も同意だからその部分に関しては否定できないんだけどね。ただ……戦闘スタイルはそうもいかない。君達の認識を大きく変えてしまうと思う」
「でもそうだね……彼女達も僕達も望まないから全部は教えてあげられないけど、ここまであの子を人らしく成長させてくれたキミ達に免じて、少しだけ情報をあげようかな。あの姉妹は特務支援課の誰よりも、段違いに強い。もちろんリーシャ1人でもアミーシャ1人でも一騎当千……僕達6人がかりでも勝てるかどうか。というかエステル達3人を含めてトントンじゃないかな。2人がかりで来られたら早々に全滅するかもね」
「いやいや、さすがにそれは言い過ぎなんじゃ……;」
「6人も大概ですけど9対1って……なぁ?」
「リーシャさんも舞台アーティストで、真尾は学生ですよ?いくら戦えるとしても本職の皆さんと比べて強いとか;」
「あら、レンだって学生よ?しかもあなた達と同い年なんだから、リーシャは別としてもアミーシャとは対等だと思っていいと思うわ」
「それにそこまで間違ったことは言ってないですよね」
「ああ、誇大表現なところはあるけど概ね事実だ」
「「「え」」」
「あ、間違ってもアミーシャは今実力を隠してるとか、手加減してるわけじゃないから安心して。……君達ってアミーシャに記憶が無い期間があるのは知ってるんだっけ?」
「あ、はい……」
「確か、6歳くらいまで分からないって……」
「そう。……ちょっと色々あってね、アミーシャは自分の心を守るために、その期間のことを自己暗示で思い出せなくなってるんだ。ことがことだから僕の所属する七耀教会の技術で疑似封印も重ねがけしていて、記憶と一緒に本来の力のセーブもしてる……リーシャとの訓練は封印を解いた時に体に合わない力が暴発しないようにするためだと思っていい」
「……1度だけ機会があって、ワジ君立ち会いの元アミーシャちゃんの本気を見た事があるけど、……戦闘後はほぼ瀕死って状態だったものね……命の危機でもない限り、二度と見たくないのが本音よ」
「ホントにね。リーシャとあの子はそれをちゃんと分かってるから早々本気を出すこともないんだけどさ」
「そうだな……いやちょっと待て。スルーしかけてたけどワジも1人で俺達以上だろ。サラッと自分を抜くなよ」
「いやだなぁ、僕は
「どうだか……」
「嘘くさいです」
……アミーシャが、リーシャさんが、ロイドさん達以上の実力者……?俺なんてついさっきまでワジさん相手に組手をしてもらって、全く技を仕掛けさせてもらう余裕なかったんだけど。涼しい顔で繰り出してくる拳と蹴りは、烏間先生よりも柔軟すぎて目で追うのがやっとだし、ギリギリ体が反応できるってレベルだったのに、……それ以上?
そのワジさんもロイドさん達が言うには、かなりの実力を持っているらしい。俺等っていう子ども相手だったから全力には程遠い力しか見せなかったんだろう。そんな彼等にそこまで言わせる実力が、アミーシャの隠していることの一端なんだろうか……
「まあ、今はワジの実力どうこうは関係ないしおいておくぞ。今のを聞いても来る気があるなら、着いておいで」
「私が先導します。……やめるなら今ですよ」
そう言って、ロイドさんとティオさんを先頭に彼等は考え込む俺等を待つことなく裏山へと歩き出してしまった。俺等は何も言えず、困惑とともに固まっていた……この人達は俺等にどうして欲しいんだ。
誘っておきながら、来るのに難色を示す。
情報を開示しながら、全ては教えてくれない。
知ってほしいと言いながら、知らないでいてほしいと言う。
まるで正反対の言動は、なんと言うか……ロイドさん達もなにか迷っているんじゃないかって感じがする。アミーシャ達は知られたくないと思っているけど、彼等としては知ってもいいんじゃないかと考えてるというか、教えたいけど知って欲しくないというか……あー、ダメだ、考えれば考えるほど何が言いたいのか分からなくなってきた。
俺から言い出したんだし着いていこう、聞いてすぐはそう思ったはずなのに。ダメ押しのように告げてきたティオさんの言葉に迷いが出てきて……俺は特務支援課の彼等を追いかけることもできず、足を止め、
〝……まあしょうがないか。今のところアミーシャの全てを完全に理解してるのはリーシャしかいない。〟
「……………………………………………」
……、……これだ、ずっと引っかかってたの。ロイドさんのこの言葉を思い出したら無性に腹が立ってきた。〝今のところ〟とはいえ、〝アミーシャを理解してるのはリーシャさんだけ〟……?さっきの言葉がぐるぐると回っていて、頭の中を巡る度にムカムカした気持ちが膨らんでいく。
……俺は、アミーシャの恋人だ……アミーシャと俺は、出会ってからずっと一緒にいたんだ。アミーシャがリーシャさんと連絡を取っていたのだとしても、この3年近くを誰よりも側で、隣で見ていて理解してるのはリーシャさんじゃなくて俺だって自信をもって言えるし、もしかしたら客観的に見れる分アミーシャ自身よりもアミーシャのことを知ってるかもしれない。……こうとも考えられないか?俺が知ってるのはこの3年分だけど、アミーシャの隠していることを知れば、彼女の過去の一端を知ることに繋がる。過去や隠し事を知ることができれば、俺は彼女の全部を理解することができる、誰よりも彼女の理解者であれるって。……だけど、
「……カルマは優しいんだね」
「……ッ!!……キーア、なんで」
「なんとなく、カルマが迷ってる気がしたから。自分もリーシャのように……ううん、リーシャ以上にアミーシャの理解者でありたい。だけどアミーシャが知られたくないって思ってるコト、勝手に知ろうとして踏み込むわけにはいかないから諦めるべきなんじゃないかって思ってるのかなって」
「……そーだよ。こんなの、リーシャさんに嫉妬してるだけのただの独占欲……俺、もう1回失敗してるんだ。こんな醜い感情、またアミーシャにぶつけて、それで苦しませることになったら……」
「ふーん……それでもいいんじゃないかなー」
「……なんで、」
「だって、それが偽りのないカルマ自身だってことでしょ?」
ちがう?と、いつの間にか近づいてきて目の前で首をかしげて問うキーアの姿に、俺の中の迷いが晴れていくようだった。そうじゃん、アミーシャは人の本質を見抜くことに長けてる……偽りのある相手には一切心を開かないし、なにより警戒心を向けてかかわろうともしない。俺自身で向き合う為にも、本心のまま行動する方がいいに決まってる……それをこの無邪気な笑顔をした年下の子に気付かされた。
嫌われるかもしれない、目も合わせてくれなくなるかもしれない……そんな怖さがないと言ったら嘘になる。知りたくなかったことを知ってしまう怖さも同じくらいある。だけどその程度で俺が目を逸らしてどうするのさ、俺は後ろを着いていくんじゃない、何があってもずっと彼女の横に立ち続けるって決めたんだから。……そのためには。
「……キーア。俺の所に来たってことはアミーシャの居場所を知ってるんだよね?案内、任せていい?」
「んー、別にいいけど?こっちだよ!」
ニコッと笑みを浮かべたキーアは、俺の腕を掴んですぐさま走り出す。いきなり走り出すとは思ってなかったから一瞬足がついて行かなかったけど……俺の方が足は速いおかげで直ぐに持ち直せたし、小走りでついて行くことにした。キーアって突発的に動く行動力も突拍子もないことを当たり前のように言える言動も年相応……いや、それよりも子どもらしい子だ。だけどかなり聡い子でもある……この子なりにどう話せば俺がのってくるのか考えてたんだろう。俺の願いに躊躇いも迷いもせずに俺を導き引っ張るこの手が証拠だ。
キーアが《零の至宝》という存在だってことは前に聞いたけど、この天真爛漫さを失わずにいれたのは、ロイドさん達みたいな支える存在がいたからなんだろう。別人の話なんだから俺とアミーシャに置き換えるっていうのも変だけど、俺も、そうなれたら……
「あ、カルマ!」
「……私達も行く?」
「どうしよう……」
「僕は行くよ……僕だって、アミサちゃんの理解者になりたいんだ」
「渚、私も行く!」
「……俺も」
「……俺はあえてやめとこうかな。知るのが怖いのもあるけど……全部を理解して受け入れる奴以外に、何も知らないまま受け止める奴がいてもいいと思うんだ」
「……私もそうしようかな。興味はあるけど、アミサちゃんの強さはこの教室で見てきてるわけだから……私はこの教室でのアミサちゃんも大切にしてあげたい」
「確かに、ただ待ってる存在っていうのも、いたらありがたいもん」
ロイドさんは行くか行かないかE組全体で決めろとは言わなかった……つまり、選ぶのは個人の自由ってこと。俺はすぐに追いかけることを選んだけど、クラスメイト達が、何を考えて何を選択したかまでは知らない。言い訳を並べて『知る怖さ』に勝てなかったのだとしても……責めることはできない。
腕を引かれたまま、俺は前を見続けた。……ていうか、さっきも思ったんだけどこの子指導に回ってない時点で非戦闘要員なんだよね?全く息切れもせずに喋って走って……子どもっていろんな意味で規格外だよ、本ト。
「……1つの分岐、変わったよ」
「ついて来たのは……赤羽君と……」
「……渚君と茅野ちゃん……イトナも来たんだ」
「うん。僕だって、同じ時に出会ってずっと一緒にいた1人なんだ。あそこで何も知らないままただ待ってるだけなんてできないよ」
「色々未知数なところばっかりな子だけど、ことが済んだあとも……私はお互いに全部知った上で、友達になりたいから」
「…………」
「イトナ君?」
「俺は、そこまで大層な理由はない。ただ、……自分を盾にして俺を助けてくれたねえさんの強さを、覚悟を見たい」
『ちなみに来てない皆さんは、〝知らないからこそ支えられることもある〟とのことです!』
「……ふーん、そう」
「……カルマ、ナギサ、カエデ、イトナ……」
「どうしたの?キーアちゃん」
「その……ここに来たってことは、4人とも強い想いがあるんだと思うの。だから、お願い……何を見ても、アミーシャを嫌いにならないでね」
「「「!」」」
「……当然。それに手放すな、居場所であって欲しいって言ったのはロイドさんの方でしょ」
「……あぁ。そうであって欲しいと願ってるよ」
「覚悟をもってることはすごく伝わってきましたし……もし何かあったとしても私達が必ず手助けしますから」
「「「はい!」」」
++++++++++++++++++++
姉妹を迎えに行くところまで終わらなかった。
こちらの話から数話は、リニューアル前に一度少し違う形で公開していたんですが、ここまでの積み上げでいろいろと話が変わってきてるので今改めて組み直しているところです。もし見覚えのある読者さんが見えたらその感覚あってます(覚えていてくれてありがとうございます)。初見の方も一緒に新鮮な気持ちで読んでもらえたら嬉しいです!
ワジとカルマの訓練もタイマンだけちょっと詳しめに書いてみましたが、いかがでしょうか。修学旅行の祇園でオリ主がコピー技を使ったことは夜にカルマへ伝えてるんですが、誰をコピーしたかは言ってないんですね。オリ主の心情に描写があるので読者さん目線では知っている情報ではあるんですが、カルマ視点知らないことっていう。今後もそういう細かいところも拾ってお話を書いていこうと思ってます。
では、今回もありがとうございました!
次回も待っていてくださいっ!