暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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《中学3年生》【第一部】一学期編
6話 備える時間


 

 ……しんじてたのに うらぎられた

 

 ぜんぶ ぜんぶ ぬりつぶされる

 

 めのまえが くらくなる

 

 ……なにも おとがきこえない

 

 ……めが いたい

 

 いまのいままで にんげんだったソレが

 

 まっくろに かげのようにうごめく

 

 ……こわい

 

 …………こわいものは もう、

 

 ……こわそう(イラナイ)

 

 

 

 

 

 頭ではもう、目に映るものを壊すことしか考えられなくて、手に触れたものをそのまま突き出そうとした、その時。私の手になにかが触れた。あたたかくて、私よりも大きくて、包み込むなにか。

 

「やめなよ」

 

 どんな音も意味をなさなかったのに、その言葉だけは、ハッキリと聞こえた。……あぁ、ぐちゃぐちゃな黒に染まっていても、この声だけは分かる。なにも考えられない、何もわからない中でも、この存在だけは……そっか、もう、いいんだ。もう──────

 

 意識が深い所へ沈んでいく感覚……でも、今度は、あたたかくて、明るくて、包み込まれるようで……まるで、あの時みたいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目をあけたら見覚えはあるけど今見えるはずのない天井……あれ、私は学校にいたはずで……放課後に呼び出されて……その後、何があったんだっけ。なんでここにいるんだろう。それに……何か、不思議なものを見た気がする……見えるもの全部、そう、全部が真っ黒に塗りつぶされてそれ以上暗くなれないはずの世界が、もっと気持ちの悪いぐちゃくちゃしたモノに染まっていく……飲み込まれそうになっていたら、あたたかくて、ふわっとしてて、これは絶対にだいじょぶだって思える何かに包まれる感覚。あれは夢?それとも……。上手く回らない思考のまま、数回瞬きをしてゆっくり体を起こす。

 

「あ、起きた?」

 

「……かるまくん?」

 

「うん、おはよ。気分は?」

 

「……、……わかんない」

 

 カルマくんがいた。……見覚えあると思ったら……やっぱりここはカルマくんの家だったんだ。ちょうどどこかに行ってたらしい彼は、帰ってくるなり私を寝かせてたらしいベッドに腰かけて頭を撫でる。なんでも、一度目を覚ましてはいたからもうすぐ起きるとは思ってたんだって。

 聞けば私はあの教員室での会話の後、気を失っていたらしい。教員室でって、……あれ、あの後何があったんだっけ……何があったのか覚えていないことをカルマくんに伝えると、にっこりと「教員室をぶっ壊してきた」と……え?冗談……じゃなさそう。

 

 ハッキリと自分が何をしたかも何があったのかも思い出せないけど、カルマくん曰く、私は瞬きもせず、視界に入った空間ごと縛り付けるように正面にいた先生だったものの動きを制限していたこと、そしてカルマくんでも反応しきれないようなスピードで襲いかかろうとしていたことを聞かされた。

 目を使った何か、と言われてすぐにはピンと来なかったけど、記憶を辿ればそれに近いもので思い当たる節がある。それはお姉ちゃんの知り合いの1人が使っていた(クラフト)……ヨシュアさんの《魔眼》だ。確か、対象となる相手のことを目を通して空間に干渉し、動きを止めるクラフト、だったはず。カルマくんから聞いた限り一番ありえそう、だけど……クラフトはその人に適した技や流派から来るものであって、私は魔眼なんて使えないはず……まさか、素質があった?

 それに加えてカルマくんでもギリギリ対処できたくらいの力で襲いかかったとか……知らないと言えればよかったのだけど、正直心当たりしかなかった。多分、裏切られたって気持ちで、無意識に抑え込んでた枷を外してしまったんだろう……確実に本来の『私』の力を使ってしまっている。

 

「……多分、空間呪縛の《魔眼》っていうものに近いと思う。故郷の方で、知り合いのお兄さんがおんなじようなことが出来るの。それ以外は……ごめんなさい、言えない……言いたく、ない」

 

「……いーよ。俺はアミサちゃんが実は強いってことが分かっただけでじゅーぶん。だから今まで俺の喧嘩見てても怖くなかったんだ?」

 

「……う、ん。そう……」

 

「ふーん、守られるだけの女の子じゃないってこと。いいじゃんそういうのも」

 

 言えない……まだ、言えない。伝えるってことは私の事情に足を踏み入れてしまうってことだから。そんな秘密でいっぱいの、私の隠していた力の一部を目の前で見せてしまっているのに、カルマくんは別にいいんだって笑って頭を撫でてくれた。なんでだろう……それこそ、裏切られたって思ってもおかしくないのに。この感覚、夢の中で見た、唯一のあたたかさになんだか似ている気がした。

 カルマくんは私がいまいち反応が悪いのを流し、頭を撫でる手をそのままに私と目を合わせるように向き直った。

 

「ん、よし……じゃあこれからの事を話すよ。まず、学校についてね。……俺らは停学、……まぁ理由は教員室ぶっ壊した俺はともかくとして、アミサちゃんは直接的には未遂とはいえ暴力沙汰だね。期間は今日から1ヶ月。3年が始まって一週間後までで、その日からE組へ入ることになってる」

 

「……停学、……E組?」

 

「そー。アミサちゃんなら平気でしょ?俺と同じで確か2年の範囲の勉強は全部終わってるんじゃ……いや、むしろ3年の範囲に少し入ってたりしない?」

 

「………うん、少し、やった」

 

「なら問題ないね、学校で通う場所がちょっと変わるくらいだ」

 

 問題ない、……それは確かに。勉強についていけるのだから停学になっても学力だけでいえば置いていかれることはない。学ぶ場所が変わることも、ある意味、あの差別空間から逃げ出せるのだから気にすることないんだろう。学校へ行かないから今より最悪なことに……は、ならないみたいだ。彼もE組行きになったことをさほど苦にも思っていないらしく、軽くそんなもんだよねと流しているのだから。

 

「じゃあ、停学期間中は、ひさしぶりの勉強会だね」

 

「……え、」

 

「行きたいんでしょ?プラネタリウム。それに時間はいっぱいあるんだし……色々教えてよ、アミサちゃんの話せることから順番に少しずつでいいからさ」

 

 『正しさ』を信じて行動した結果の、不当に与えられた処分だとは思ってしまう、けど……まさか、停学期間をそんな風に使うとは思わなかった。それは、彼らが離れはじめてから果たされることがなかった、私たちの夏休みの約束だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 停学になったとはいえ、別に問題さえ起こさなければ自由だ、……とカルマくんは解釈してるらしい。停学ってそんなに軽いものだったっけ……?それにそんな穴をつく不良みたいな……って、そっか、そもそもカルマくん不良だった。私はもともと1人だったら必要最低限以外は全然外出しない毎日だったし、聞いた直後は停学期間中は家にこもろうかと思ってたし。

 それを言ったらカルマくんに、家族も呼べずに家で1人になるくらいならカルマくんの家に泊まることを提案され、……少し迷ったけどそれを受けることにした。お邪魔していいのかなとか、迷惑じゃないのかな、とか色々考えたけど、なにより私は今1人になるのがどうしても怖くて仕方がなかったからかなりありがたい提案だった。カルマくんの親はデイトレーダーでしょっちゅう外国に行っていて、基本一人暮らしと同じだから気にしなくていいとも言われたけど……ただ住ませてもらうのは私が嫌なので、家事をさせてもらうことに(というかそう押し切った)。

 

 それから、やりたいこととかまだ叶えていない約束とかを一つずつこなしていこう、時間はあるし、少しずつ外にいる感覚を思い出そうって言ってくれた。

 そう言われてはじめて気がついた……私は心のどこかが、おかしくなっている、と。私を見る人全てが私に敵意を向けている、いい人そうに見えてもきっと裏切る、そんな風にしか判断できなくなっていたのだ。……私は今まで普通にできていたはずの、1人で外へ出るということが出来なくなっていた。カルマくん曰く、外の世界に触れるのはリハビリというもの、らしい……何もしないまま進級しても、学校へ行けなくなるだろうからって。

 

 停学期間に入ってからも家事を手伝う以外には1日部屋の中でぼーっと過ごす私を見て、カルマくんが最初にやるのにちょうどいいと選んだのは、渚くんに連絡を取ることだった。毎朝通知が来るたびに私がスマホとにらめっこしていたのを見て気づいたのだろう……文字を打とうとするたびに、手が止まりそのまま諦める私の姿を。

 停学が決まったあの日から、渚くんからは毎日たくさんメッセージがとんできていた……カルマくんが伝えたらしくて、何があったのかは知っているみたい。渚くんは1年生の時からずっと一緒にいる、大切な存在だから他の人と比べて怖いと思わなかったし、まだ信じることが出来た。そんな渚くん相手でも、顔を合わせている訳でもないのにいざ返事をしようとすると、指が動かなかった。

 それを知ったカルマくんが私が返信するところを近くで見ていてくれることに……渚くんが必ず送ってくれる朝の時間を狙って、可能なら会話を続けてみようって言われて頑張ることにした。いざとなったら奥の手があるから、と言われたのはよく分からないけど、私がどうにもならなくなったらカルマくんに任せればいい。

 

 朝8時……握りしめるスマホにいつも通り渚くんからメッセージが入る。

 

【渚くん(2)】

《ナギサ:

   おはよう、アミサちゃん

   今日も学校だ……カルマくんもいないから

   あんまり話す人もいないや

   今もお泊まりしてるんだっけ?

   カルマくんはどう?

   アミサちゃんに意地悪してない?

 

「……どーいう意味だよ」

 

《ナギサ:

   うわっ!

   カルマくんからメッセージ来たんだけど

   もしかして一緒に見てるの!?

   それならそうって言ってよー……

   どうせならグループあるんだから

   そっちで話せばいいのに;

 

 渚くんのメッセージを見た瞬間、カルマくんは何か呟いたかと思えば……自分のスマホをスイスイと操作していた。何やらメッセージをとばして抗議したみたいで、カルマくんと渚くんの間で私のわからない会話が成り立っていた。

 最近見ることの無くなった、私にとって2人のいつものやりとりだ。ちょっとだけ安心して気がつけば自然と指が動いていた。

 

《アミサ:

   返事、ずっとできなかった

   ごめんなさい

 

 ちゃんと、見てたよって思いを込めて、一つずつ文字をタップしていく。時々カルマくんの方を見ると、だいじょぶというように頷いてくれて……震える手で送信ボタンを押す。

 

《ナギサ:

   気にしないで

   僕が送りたかっただけなんだから

   学校のこととか、わからないでしょ?

   それに、報告もしたかったし……

 

 報告……?何か知ってるかとカルマくんに視線をやるも、彼も首を傾げて私のスマホの画面を覗き込みに来た。

 

《ナギサ:

   僕も3年生からE組へ行くことになったんだ

   成績落ちちゃってさ……;

   だから、来年も同じクラスだよ

 

 渚くんも、E組……?喜んじゃダメなやつだけど、知らない場所でも少なくとも2人は私の近くにいることが分かって、つい安心してしまった。私から返信がこないことを察したのか、渚くんのメッセージは続く。

 

《ナギサ:

   E組って2年の3月から始まるんだ

   だからもう校舎は移動してたりするんだよね

   ……先生は変なとこがあるけど、

   明るい人だよ

   ちゃんと2人の席もあるし、

   アミサちゃんとカルマくんは

   隣同士にしてもらってるから

   少しは安心できるんじゃないかな?

 

 ……そうなんだ。渚くんが先に話を通してくれていて、私たちはちょっと遅れて入るけど……頑張れる、かもしれない。でも、クラスの子たちは、……

 

 そのあと、『先生が来たからまた後でね!返事嬉しかったよ』というメッセージを最後に流れが途切れた。私はここで終わったけど、カルマくんは少しの間スマホを触っていた。聞いてみたら「渚くんにスタ爆しといた」といい笑顔で言われたんだけど……何があってそうなったんだろう……?

 

 

 

 

 

(……本当はアミサちゃんの今の様子を渚くんに伝えて、新しいクラスの情報を頼んでたんだけど……それを本人に教えるつもりは無いしね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渚くんにたった二文のメッセージだったけど、返事を返すことができたその日は、それだけでかなり集中してたんだろう……それ以降他に挑戦することは体が動かなくて、またと切りあげることになった。いきなりいくつもの〝外〟に触れなくてもいいと、カルマくんに止められたから。

 毎日、少しずつやること増やしていく……毎朝渚くんとメッセージを送り合うのに慣れること、停学中なのに外へ出かけるというカルマくんを玄関まで出て見送ること、人があまり通らない時間帯に家の外にあるポストに手紙を取りに行くこと、助けてほしい時や困った時には自分からカルマくんに声をかけること、夜ご飯の時に報告会をすること……自然と出来るものもあれば足が動かなくなるものもあったけど、なんとか日々を過ごしていた。カルマくんはことあるごとに私の頭を撫でたり手を握ったり……外部からのいきなりの刺激に慣れるためと、ちょうどいい高さに頭があるからって言ってるけど、元々なぜかカルマくんには拒否感がなかったから、意味があるのかは分からない。それにいきなりの刺激という割には優しく触ってくるから、ホントにそれだけが理由なんだろうか……正直私にとっては嬉しいご褒美みたいなものなんだけど。

 

 そんな日々を過ごしていたある日。

 

「……おいで」

 

 ソファに座るカルマくんが自分の隣を軽く叩いて私を呼んだ。座れってことかな……と、少し離れて座ったらカルマくんの方から近寄ってきて、肩が触れるくらいの距離に座りなおす。私は何も考えずにカルマくんへ軽く体重をかけて寄りかかってみれば、すぐに頭を撫でてくる手が降りてくる。撫でられる心地良さに目を閉じていれば、そろそろ聞いてもいい?と声がした。

 

「え……?」

 

「最近、頑張ってるよね。俺が触れても怯えなくなったし、外へ少しずつ出れるようになってる。一緒に家にいるから、……少なくとも渚くんよりはアミサちゃんのことを知ってるつもり……でも、まだまだ俺が知らないこととか話してくれてないこと、あるよね?」

 

「……ん……」

 

「全部言え、なんて言わない。まだ話せないものも当然あるだろうけどさ、せっかく俺以外には誰にも聞かれないで話せるわけだし、ほんの少しでも教えてよ。隠してたけど実は出来ること、とかさ」

 

 ……話せること……隠し続けるのはキツいし、ここまでよくしてもらって黙ったままなのも……。それに、カルマくんだったら話してもいい気がする。ただ、どうしても話せないことがあるのも事実。それだけは、簡単に明かすわけにはいかない……私がここにいるのは、本当はおかしいことだから。光に当たった場所で自分の居場所を見つけたお姉ちゃんとは違って、まだ、私の存在に意味を見いだせる自信が無いから。それ以外で話せる、当たり障りのないこと……友達のこと、とか?

 

「……私、カルマくんと渚くんに出会う前に、お友だちができたことないって言ったでしょ?……あれね、お父さんとお姉ちゃんと一緒にいろんな所を転々としてて、一緒にやることといえば訓練ばかりで、それ以外はほとんど1人で過ごしてたからなの」

 

「そーいえば、あそこで会うまでアミサちゃんのこと全然知らなかったわ……知ってたとしても髪が長い子がいるなー程度だったよね。直接話しても目線も合わないし」

 

「う、……だから、人とどう接すればいいのかなんて、分からなかった。……分からないなりに頑張ろうとしたけど、中学校(あの場所)で周りを知るたびに人って汚いんだなって……お姉ちゃんたちみたいな人たちばっかじゃないんだなって、思っちゃって。……そんな時に2人に会ったの。2人が私を受け入れてくれて、今もこうやってそばに居てくれる……それがすごく、嬉しいの」

 

「……そっか。……あの時はさ、今回の喧嘩(停学の原因)みたいにいつも通りに間に入っただけだったんだ。でも俺らを見るアミサちゃんの顔が、全部諦めてるようにしか見えなくってさ……俺にしては珍しく、これは放っておいたらダメだって思ったんだよね。いざ接してみたら面白いし、天然発揮して目が離せないし、……あの日、助けに入ってさ、昼飯にも誘って本トによかったって思ってる」

 

「…………」

 

 もしも。もしも、あの日、あの時に2人と出会わなかったら……あの日、一緒にご飯を食べなかったら、私はどうなっていたんだろう。今はなかったのだろうか?友だちを、優しさを、知らないままだったのだろうか?……あれが、あの出会いが今という現実を作る一つの分岐点だったのかな。

 

「んー……やっぱり他にはまだ話せなさそーだねぇ……じゃあ、俺から質問。アミサちゃんの話によく出てくる『お姉ちゃん』ってどんな人なの?」

 

 口ごもってしまった私に先を促すように質問が飛んできて、思わず顔を上げた。そっか、よく話題には出してるけど遠くにいるから会ってもらう事もできないし、写真も持ってきてないから見せれないせいでイメージつかないよね。私から見るお姉ちゃん、か……

 

「……すごく綺麗でスタイル抜群で、あと、とっても優しいの。すごく運動神経もいいし……あ、それに外国のことを取り扱ってる新聞を読んでる人ならきっと名前くらいは知ってる人、だと思うよ。最近起きた事件の功労者の一人だから。それに、別のことでも結構有名人なの」

 

「え、そんなすごい人なの?余計気になるんだけど……」

 

 カルマくんだったら正直に教えてもいいんだけど……でも、教えたことで私を見る目が変わるのは……嫌だ。これは私のわがままでしかない。簡単には教えたくないことだから……これくらいは許して欲しいな。

 

「……じゃあ、ヒントだけ。私はカルバード共和国の出身って話したことあったよね……?だから、私の本当の名前表記も『真尾有美紗』じゃないの。日本に来て、こっちの学校に通うために不自然にならないように、名前を直したから。でも、まったく違うわけでもない……いつか絶対、わかると思うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 停学中、話せる範囲でいろんなことを話したし、人と話すのは無理でもカルマくんと一緒なら外を歩けるようになってから約束通り近くでいろんな場所に連れていってもらった。

 念願のプラネタリウムは、部屋全体が真っ暗になるし静かな空間だからだいじょぶだろうとギリギリに入ってギリギリに出ることで無事に楽しむことができた。雲がないことや同じ空で見れないはずの星を、星座を一度にたくさん見れて驚いていたら、あれは機械で天井に映像を移しているんだと教えられてもっとビックリした。作りものでもあんなに綺麗に見えるなんて、はじめて知った。

 

 今更ながら停学中ということは、学校へ行けないということ……そのあいだに配られたプリントや出された宿題も一切触れないということになる。カルマくんはあんまり気にしていないようだったけど、私はどうするのかな、程度には思っていた……ら、E組の担任だとかいう女の人が来て課題をどっさり届けに来た。

 

「準備に手間取っちゃって、渡しに来るの遅れちゃってごめんね」

 

「別にどーでもいーけどさ。何、全部やってそのたびに持ってけばいいわけ?」

 

「あと何回か家庭訪問するから、その時に新しい課題と交換してもらう形かな。ってキミ、停学中ってことわかってる?」

 

「わかってるけど?」

 

 カルマくんが玄関で話しているのを離れたところで聞いていると、裏がない先生だと一応の判断をしたらしくてこれからかかわる必要のある人だし……ということで呼びだされた。おそるおそる顔を見せると、最初「え、兄妹だっけ……まさか、中学生で同棲なんて……!?」という感じに、女の人はふじゅんいせーこーゆー?はダメなんだとかなんとか、大慌てしながら話していて。終始話の内容がわからなくてカルマくんの後ろでビクビクしつつも首を傾げる私と、一緒に住んでること自体は親の許可はもらってるし、一切そんな関係じゃないんだから勝手に解釈しないでくれる?とかなんとか言い返すカルマくんがいて、その場はなんというか……よく分からないことになってた、うん。

 

「キミ達2人の停学理由は、暴力沙汰……としか聞いてないから分からないけど、赤羽君はともかく真尾さんはそんなこと無さそうなのにね。私にも妹がいるんだけど、ちょうどこのくらいの身長でね……って、こんなこと言ってたら教師失格かな!?」

 

「……、」

 

「ちょっと、俺ならともかくって何」

 

 私が警戒しているのを知ったからなのか分からないけど、一定の距離を保ちながら目線を合わせるように屈み、E組の楽しさについて語るその人のことは正直信じられない、けど。E組は放置されるものだと思ってたのに、わざわざ家を訪ねてくるくらい、お人好しの変な人だっていうことはよくわかった。……ついでに、服装の趣味も変な人だった。

 

 そうして、たまに私の家に帰ってはいたけどほとんどをカルマくんの家で過ごし、明後日で停学明けになる、という日の夜。私たちのスマホには、……1通のメールが届いていた。内容は、E組配属にあたって伝えなければならないことがあるため、明日のお昼に迎えを寄越すからこちらまで来て欲しい、というものだった。送信者は……防衛省。

 

「…………」

 

「…………行ける?」

 

「…………一人じゃ、ないなら……がんばる」

 

 備えていたのは新しいクラスに対してだったから、正直国の機関であっても私にとって得体の知れない相手だなんて、だいじょぶなのかは、全然わからない。1人でなんて、絶対に無理。でも、カルマくんも一緒になら、多分……。それを分かっているから、カルマくんは聞いてくれたのだろう。でも、ある意味最後の予行練習だと思えばいいんだから、そう思えばいいタイミングだったのかもしれない。

 

 次の日。カルマくんの家の前には黒塗りの車が止まっていた。

 

「こんにちは、昨日連絡させていただいた防衛省の者です。赤羽業君……ですね」

 

「そーだけど……何、それに乗って移動しろっての?ていうか本人証明くらいはしてくれる?流石によくわかんない奴に連れてかれるのはごめんだし」

 

「……それもそうですね、ではこちらを。……特に何も持ち物もありませんので、準備出来次第乗り込んでください。……それと、ここへ来る前に真尾さんの家へ行ったのですが留守のようで……どちらにみえるか知っていますか?」

 

「どーも。……ああ、彼女?ちょっと事情があってね……うちにいるよ。連れてくればいいんでしょ、外にいてよ」

 

 そんな会話を、玄関に顔は出さず私は近くの部屋から聞いていた。……本当に来た。どうしよう、ほんとに信用していいの?ついて行っていいの?

 

「アミサちゃん、行こう……俺もいるから。それに、見た限り本物だったし、国の命令に逆らう方が後からメンドイよ」

 

「……うん」

 

 乗り込んだ車内で、相手が話し始める前にカルマくんが防衛省の人に対し、私たち2人を離すことなく、同時に要件を話すよう要求していた。……私の事情はぼかしつつ、ただ同じクラスへの連絡事項なのに分けてやる必要は無いでしょ?って。異論は無いらしく、車はどんどん走っていく。

 

 ……そういえば、なんで防衛省なのだろう。E組へ行くにしても、その連絡事項があれば普通は学校でやるものじゃないのか?疑問を覚えつつ、私たちを乗せた車は防衛省へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い一室。

 座るソファの前に一組の男女。

 渡されたのは────

 

『特定危険生物に関する暗殺指示書』

 

「──事情は、今話した通りです。地球の危機ゆえ、口外は絶対に禁止……もし漏らせば、記憶消去の手術を受けていただくことに」

 

「……こっえ」

 

「E組の全員に同じ説明をし、他のみんなは、既に任務に入っています。君たちも停学がとけたらE組に戻る……よって君たちにも、暗殺任務を依頼します」

 

「……ねぇ、このゴムみたいなナイフ、本トに効くの?」

 

「ええ、人間には無害ですが、ヤツへの効果は保証します」

 

「へぇー……ま、人間じゃなくても別にいいか。一回さぁ……先生って生き物を……殺してみたかったんだぁ…」

 

 渡されたばかりのゴム製としか思えないナイフを勢いよく指示書に突き刺し、ピンポイントで顔写真を引き裂いて、楽しそうに呟くカルマくん。私は誰とも目を合わせず、カルマくんの腕にしがみつきながら、渡された書類に再び目を落としていた。

 

 ……あぁ、()()、かぁ……。

 

 

 





「ねぇ、どうせやるならさ。度肝を抜いてやろうよ」

「……度肝?」

「そー。ついでに本トにコレが効くのか試してみたいし……どう?」

「……ねぇ、私も、殺りたいなぁ……?」

「ま、そーだよね。……だって、」

「「せんせーなんて、ろくな人がいないんだから」」
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