UA145800ありがとうございます!
オリ主の過去回収編その①です。
今回もよろしくお願いします!
渚side
「頭痛い?気持ち悪い?調子の悪いところ言える?」
「いやもう、この顔色はダメなやつですよ!とにかく座りましょ、」
「……ッ、あ……ぅ……っだ、いじょ……」
「それは大丈夫って言わないの!」
律が見つけてきた謎の青い植物の名前……それを聞いた瞬間、明らかに様子がおかしくなったアミサちゃん。その前の、花を見たあたりからなんか様子が変だな、くらいには思ってたけど、今はもう誤魔化されてあげられないくらいには顔色が悪くなっていた。よく言う真っ青、なんて言葉で表しちゃダメなくらい酷い顔色で、両手で頭を押さえてる手の下では、目の焦点もおかしければ脂汗も浮いている。
それでも僕らの声を聞いて教室から飛び出してきたクラスメイト含め、みんなに心配をかけたくないんだろう……全く隠せていない明らかな不調を『大丈夫』と続けようとしたらしいアミサちゃんだったけど、口々に彼女を心配するクラスメイトの声に観念したのか、もう、それ以上話す余裕もないのか……すごく小さく弱々しい声を何とか絞り出して、
「……ごめ、なさ……あたま、い……だい……ッ」
───ずる、
それだけを何とか言葉にした彼女は、支えようと回されていたカルマ君の腕に乗っかる形で崩れ落ちた。
「アミーシャ!!」
「カルマ、揺さぶっちゃダメだ!それにそのままだと2人とも無理な姿勢で倒れる危険がある、立ったまま抱えるんじゃなく一緒にしゃがんで……そのままゆっくり彼女の姿勢を横にするんだ」
「!……うん」
「奥田さん、先生を呼びつつ氷が手に入らないか聞いてきてくれ、動けるやつで周辺にある物とかどかしてスペースを作ろう!」
「は、はいっ」
「私も説明役で行く!」
「そっち寄せて!女子、多分きっかけはその花束だから見えないところに!」
「おい!よく分からんけどビッチ先生連れてきた!氷は殺せんせー達に聞いてくれ!ついでに花瓶!」
「助かる!あ、ビッチ先生なら外国渡り歩いてたし花のこと知ってるかもしれないから聞いてみて!」
「花ぁ!?木村の説明じゃ演者に贈る花にしちゃあ花言葉がおかしいことくらいしか分かんなかったわよ!?」
「俺めちゃくちゃフワッとしか伝えてないのに花言葉がおかしいって何で分かってんのか分かんなくて怖いっす!」
「あ゛?!ハニトラ含めて男を籠絡する上であって損は無い知識よ!?むしろ女の方が敏感なんだから男こそ意識しなさいよって話であって……」
「あーもう今それどうでもいいから!!」
「……あっちは放っておこう。原さん、後から様子を共有できるように動画を撮っておいてくれ」
「わかったわ、スマホで撮ればいいのね。上半身だけでいい?それとも全身かしら?」
「全身を撮っておこう。てんかん発作などの様子とは違うけど、もしも緊急搬送することになった時のために様子は撮っておいて損は無いはずだから。顔色もだけど、もし痙攣を起こすようなことがあればその様子も撮っておいて欲しい」
「了解」
「竹林君、他にできることある?」
「……ほぼショック性のものだろうし頭痛薬は人のは使わない方がいいか……下手に動かすよりは夏のホテルと同じで対症療法で様子を見るのが1番いいと思う。あとはやれて保護者に連絡だけれど……」
「……そうだ、リーシャさんたち!まだギリギリこっちにいるって!」
「僕が連絡するよ!……よし、律、リーシャさんに繋いで。カメラで姿が見えるようにもできる?」
『かしこまりました!カメラもお繋ぎします!』
「それにしても、なんでこんな急に……」
みんなが慌て出す前にこっちを見てすぐに状況を把握したらしい竹林君がすぐに指示を出してくれた。まさに体を揺さぶって反応を見ようとしていたカルマ君はハッとしたように動きを止めると小さく頷き、素直にアミサちゃんを急に倒さないよう気をつけながら自分の体にもたれかけるようにしつつ静かにその場へ座った。下駄箱を背にしてずり下がるように、勢いをつけすぎないように座ると、彼女の体を横たえて……彼女を寝かせたまま、カーディガンの袖で汗を拭いてやっている。
さすが医療従事者を目指すだけあって竹林君の指示は冷静で、指示を出されたクラスメイトも落ち着いて行動していく……僕も一呼吸だけ置いて自分のスマホからリーシャさんへ通信を繋げ始めた。
『ナギサさん……?こんな朝から珍しいですね、アミーシャだったらカルマさんと登校して……』
「ッリーシャさん!アミサちゃんが倒れたんです!なんか、花を見て動揺してるなって、それで花の名前を聞いて顔色真っ青にして……頭が痛いって……!」
『……え?倒れたってどういう、……花?もう少し説明を……すみません、画面もぶれててちょっと、』
「えっと、その、」
「渚、変わって。……リーシャさんですか?メグです。実は今朝登校したらうちの校舎に匿名の花束が届いていて……──────」
僕も、頭では落ち着いて行動してるつもりはあったけど、突然のことにやっぱり動揺してたみたい。正確に状況を伝えないと電話越しじゃ伝わらないに決まってるのに、自分が何を言ったのか分からなくなってきた。律に頼んでビデオ通話の状態にしてもらってるはずなのにそれも上手く見せれなくて……病気なのか僕らの知らない発作なのかも分からない、そんな焦りでいっぱいの中、電話を代わってくれたのは片岡さんだった。
彼女は最初からこの場にいたからこそ分かる状況を、順序だてて説明してくれた。時系列に合わせて話して、リーシャさん達が僕らを下の名前で呼んで覚えてることを知ってるから、呼び慣れないながら下の名前を出しながら伝えて。慌ててるだけの僕じゃ、こんな正確には話せなかったから尊敬する。
「──────……という感じです。今の状態はスミレさんが動画に撮ってくれてるので後で共有できます」
『……ありがとうございます。今、ワジさんがメルカバをそちらに回してるのでカラスマさんにグラウンドへの着陸許可をとって欲しいとの事です。あと、アミーシャがおかしくなったきっかけも分かってるんでしたっけ』
「わ、私、烏間先生に伝えてくる……っ」
「お願い!ナギサも言ってたんですが、多分花を見たのがきっかけです。リツに調べてもらっても黒塗りのデータしか出なかったらしく、唯一ハッキリ分かったのが【プレロマ草】って名前だけで……」
『『『プレロマ草!?』』』
「え、あ、はい。ケイトウに似てる形ですけど、どことなくガラスのような蒼い花で……」
『そんな、こんな所で出てくるなんて……』
『心配が現実になってしまったか……』
通話の向こう側で、リーシャさん以外の声も一緒に重なって聞こえた。……この感じ、向こうの人達はプレロマ草が何かとか、どんな花なのか知ってるってことかな。
「やっぱりこれが原因なんですね?もう目に入らない場所に移動させたんですが」
『ありがとう、それで正解だ。花がその場にある分に悪い効果はほとんどの人に対してはないからそこは安心してくれ』
『……七耀脈の上にしか咲かないはずなのに、……なんで、七耀脈の存在しない日本に……』
『確認だけど……それは咲いてたんじゃなく、花束の花として加えられてたんだね?』
「はい、花束の中にありました!」
「ご丁寧に他の青い花や植物に紛れる形でラッピングされてててわざと目立たないようにしてたとしか思えないです」
『……咲いてなかったのは、かろうじてよかったのかもしれませんね。下手に咲いたら学校に霊獣が湧く可能性がありましたし……』
『これに関しちゃ悪意しかねーな。アミ姫にとっちゃ爆弾でも、他の生徒からしたらただの花束でしかないから廃棄されにくいってか……タチわりぃ』
『時間的にも人の目につかず置けて、花束そのものは多くの生徒の目につくタイミングを狙ったとしか思えないわね』
『……誰が置いたのか、先生達に気付かれなかったのは何故か、なんて疑問は、残るけどね……』
『レン……ッ、あんたは残った方が……』
『ティオ助もカメラ付けずにリモートとかでいいんだぞ』
『……行くわ。レンだからこそ力になれることもあるから。ただ……表に出るのはちょっと控えさせて』
『私も行きます。……放ってなんておけませんし、できる所まではレンさんの分を、私が』
『……ありがとう。でもお願いだから無理はしないでね』
『そういえば……リツさんがプレロマ草を調べたと言ってましたね。ということは、ゼムリア大陸の方のデータを探り当てたってことでしょうか?』
『は、はい、慌てて検索したのでちょっと覚えてないんですが……日本のサーバーに見当たらず、海外サーバーを経由して導力ネットワークに侵入したため……そのはずです!』
『大陸外にデータを持ち出したからセキュリティ関係で黒塗りになったか、元からデータが壊れてたか、でしょうか。何にせよリツさん自身がウイルスに感染してないかしっかり確認しておいてくださいね』
『はいっ!』
通話の向こう側とも状況が共有できた。みんな揃ってこちらに来てくれようとしてるんだろう。メルカバ、が何かは見たことないからピンと来ないけど、彼らがこっちに来た際乗ってきた飛行艇の名前がそれだったはず……わざわざここに乗りつけようとしてるってことは、もしかしたら医療キットとかを乗せてるのかもしれない。
倉橋さんが慌てて教員室に走ったから、そろそろビッチ先生以外の2人もこっちに来てくれるかも。律が情報をさらに詳しく伝えたから、アミサちゃんがゼムリア大陸の方にしかないはずのプレロマ草を見てこんな状態になったのは確定した……なんだっていうんだろう。
「ぅ……、……こ、こ……」
「っ!何、……」
───コンコン、コン、
ふと、小さいけど苦しそうな声が聞こえた気がしてカルマ君達の方へ意識を戻すと、必死に頭の痛みに耐えてるんだろうアミサちゃんが頭を押えながら何か呟いた声だったみたい。カルマ君が彼女へ少し顔を近づけながら彼女を支えてない方の手で軽く下駄箱を数回叩いた。
周りにいたみんなは何事かって音のなった方を見て、カルマ君が口元に指を立ててるのに気付き静かになる……今の、ワザと音を立てて注目を集め、声に出すことなく音を立てないように指示を出したんだ。何人か、教員室へ走ったのを見るに、慌てず合流して欲しいって伝えに行ってくれたんだと思う。……僕は片岡さんからスマホを返してもらい、アミサちゃんの声が入るよう近くへと運ぶ。それを確認したカルマ君がもう一度アミサちゃんへ視線をやって口を開く。
「……なぁに。もう1回、教えて?」
「……、……ここ、どこ……?おへや……ちが……」
「……え?」
「……おにーちゃ、……だれ……?」
「……アミーシャ?」
「……あみ、さ……?ちが、……わたし、じゅーち、ば……」
問いかけ直された質問を聞いて、荒い息遣いのまま、ぼーっとどこを見ているかよく分からない虚ろな目でポツリポツリと何かを呟き、カルマ君を、僕を見上げ、不思議そうに聞いてくるアミサちゃん。この感じ、カルマ君と僕が目の前にいることは分かってるみたいだけど、僕らが誰なのかを認識してない……それどころかここがどこかも分かってなさそうだ。
「何言ってんだ……?」
「しかも話し方がたどたどしいというか、小さい子が頑張って伝えようとしてる感じというか……」
『まずいな……元々、記憶を思い出しかけてたところにプレロマ草をきっかけにフラッシュバックが起きてる。多分、今のアミーシャは2歳から6歳の頃に退行してるとみていい』
「え……」
「てことはあの花が真尾にとったらトラウマみたいなものってことですか?」
『……トラウマで済ませていいかは怪しいけど、ほぼその認識でいいよ。幼児退行してる割に落ち着いてるのは1番近くにいるカルマとナギサが子どもだからだろうね』
「……俺らが、子どもだから?」
『うん、その頃のアミーシャにとって、大人は逆らうことを許されない恐怖の対象だっただろうから』
「なん、……それ、虐待されてた、みたいな……?あ、いやリーシャさん達がしてたと言いたいわけじゃないんですがッ」
「あんだけリーシャさんのことを大好きな真尾が、とは思えないし……」
『うん、虐待じゃないよ。もっと別の要因だ』
『……虐待、の方が、マシだったんでしょうね』
「……?」
電話の向こうから少し焦ったワジさんの声に、今のアミサちゃんが幼い子ども同然だと言うことを知らされて。僕はまだしも大人とそこまで変わらない背丈のあるカルマ君も子ども認識されてるのは、多分座り込んで大きく見えないから、なんだろう。それか分からないなりに僕らのことを同年代だと認識してる可能性もあるのかな。
それにしても『大人は逆らうことを許されない恐怖の対象』っていうのは……彼女も僕のような強制される部分のある家庭環境だったんだろうか。アミサちゃんが、母さんのレールを進まされようとする僕を気にしてくれた理由がそこにあるのだとしたら。そして、最後にポツリと、悲しそうな声で呟かれたリーシャさんの言葉はどういう意味なんだろう。
「……とりあえず名前かな。俺は、カルマ」
「ぼ、僕は、渚、だよ」
「……かるま、にーちゃ……?なぎさ、にー……んー……あたらし、こ……?」
「……お兄ちゃんって呼ぶってことは、僕らが歳上に見えてるのかな」
「……、それにカルマと渚が人の名前ってことは認識してる……でもさっき俺が呼んだ『アミーシャ』が自分の名前っていうのは否定してたよね……、あたらしこ……新しい子、か?」
「……そんな気がする」
「……ど、したの……?わたし、おねーさ、だから……っい、ぁ゛ッ」
「!あ、頭痛いんでしょ、無理しないで。ほら、このままカルマ君の膝で寝てれば……」
「……ぅ、……あい、と……だいじょ、……、よばれ、?……いかな、きゃ……」
「い、行かなきゃって……ダメだよそんな体調で無理やり体を起こしちゃっ!」
「んん、へーき、……いつも、だから……こわれ、た、ら、……おかたづけ……おしごと……」
「いつも?壊れたらお片付けは分かるけど仕事……いや、だからって!」
「……渚君、今の引き止めるやつ、少し幼くというか弟っぽく言い直せる?」
「……え?」
一応、やり取りは成立するから声が聞こえてないとかじゃなさそうだし、会話にもなってる、よね……僕らの名前を繰り返しても、知らない人かのように呼んで、特に知ってるような反応がなくて、少し寂しくなる。
何故か急に辛そうにしながら無理やり体を起こそうとしだすから、慌ててアミサちゃんを止めたけど嫌がって話を聞こうとしない。無理やりでも押さえないと……そう思った僕を遮ったカルマ君の言葉がよく分からなかった。幼く?弟っぽくって……?つい困惑して無言で見返すと、長いため息とともに『俺がやるしかないかー……』ってかなり気乗りしない声で嫌そうな顔をした彼は軽く咳払いして。
「……ンん。……ね、おれ、こわいよ。……ここにいてくれない?」
「「「!?」」」
「ッ!」
カルマ君は声は普段とほとんど同じなのに柔らかさというか、言葉選びが幼い子のような話し方でアミサちゃんに声をかけた。今のアミサちゃんに合わせたんだろうけど……こんな状況なのに申し訳ないけど、どっから出したんだその声と話し方っていう感想がどうしても出てくるのは仕方ないと思う。
今のを聞いたほぼ全員が一気にカルマ君の方を見て最初からアミサちゃんの様子を記録している原さん以外にもスマホを取りだした人がチラホラ……;彼は無言で睨み返してきた。それはそうだ、最初は僕にやらせようとしてきたくらいだし、アミサちゃんだけの前ならまだしも他の人がいる前じゃやりたくなかったんだろうな。
「……わた、し、いかな、と……にーちゃ、たち、よばれ……、」
「渚君」
「う、……ぼ、ぼクも、ちかくにいてホシい、なー……?」
「……」
「……、……せんせ、きたら……、みんな……ダメ……」
「……先生、か」
「……せんせ、みんな、みんなつれてく……みんな、うごかな、……こわれ、たら、……いらないから、……」
う、裏返った……!カルマ君に僕もやれって意味だろう圧をかけられたから真似してアミサちゃんを引き止めるように頑張って声をかけたのに、呆れた目で見られたんだけど?自分で自覚してるだけ余計に恥ずかしい。
でもアミサちゃんはそんなのは一切気にしてないようで、ちょっと躊躇ってくれつつ僕らに淡々と返事をしているだけ、……だけ、なんだけど。アミサちゃん、さっきから何かに怯えてる感じなんだよね。義務的に動こうとしてるけど、どことなく僕らの代わりになろうとしてるというか……それが彼女のいう『先生』という存在を恐れてるのは明確だった。それでもさっきまでと違って僕等の声を聞いて動きを止めてくれている。
「……なぁ、カルマ達が今の状態の真尾と同年代を装って落ち着いてるってことは、さ」
「……うん、先生達近付けない方がいいんじゃない?」
「やっぱりそうだよね……さっき教員室から出ないようにって頼みに行ってもらって正解だったかも」
「ビッチ先生はギリギリ誤魔化せるかもしれねーけど、烏間先生はアウトだろ。殺せんせーは……そもそも人間じゃねーし」
「そうね……って待ちなさい、私の事ガキって言った!?」
「言ってない言ってない!年齢近いからセーフだろってことだよ!!」
当然聞いてたみんなも同じ結論になるのは早かった。言外に子どもと同レベルだと判断されてると思ったらしいビッチ先生が怒る中、ワジさんの言う『大人を怖がる』って情報と、この状況を見て先生達を近付けない流れになっていたのに。
「アミサさんは今どんな状況ですか!」
「うわ、ヤバ、せんせー近付いちゃダメ!!」
「タイミング悪ッ!殺せんせー離れて!!」
「…………───ッ」
空気を読まなかった、というか生徒の異変ってことで心配になりすぎたんだろう殺せんせーが、みんなの間をかいくぐって前に出てきてしまった。こんな時に僕らがどうにもできないマッハ20のスピードを活用しないで欲しい。
「アミサ、ちゃん……?」
「……、こわれた、いらない、……かたづけ、なきゃ……」
「「「!」」」
「な、っ……熱い……!?」
「……いたかった、ね……、……ばん。……らく、に……」
みんなの静止も間に合わず、殺せんせーの触手がアミサちゃんに触れた瞬間……ぼーっとした様子でギリギリ受け答えをしてるだけだった彼女の目からスっと感情の色が全てなくなり、夜の海のような色をした瞳が色を変え、銀色に怪しく光った……気がして。何かのスイッチが入ったのか、今の今まで重力に全て体を預けてたのが嘘だったかのように、カルマ君の膝から体を起こして触手に手を伸ばした。
彼女の両手が触手に触れ、それごと祈るように手を組んだ瞬間、その手の先から触手を伝うように銀色の鎖のようなものが伸びて、殺せんせーへと巻きついていく。何をしてるか分からない、そしてゾッとするものを感じるのにどこか幻想的なそれに、つい、僕らはみんな見惚れて動けなくて……
『いけませんアミーシャッッ!』
『そんな狭いところでそれは使っちゃだめだ!!』
『コロセンセーさん、その鎖が全身を覆う前に何とか抜け出してください!鎖の檻が完成する前に!!』
「なっ、え、はいぃぃ!?!?」
僕のスマホから数人の大声が響いて、殺せんせーがようやくワタワタとアミサちゃんから離れようと触手を動かし、距離を取ろうとし始めた。けど、彼女を傷つけないように離れるのが難しいのか、テンパって絡まってるのか分からないけど殺せんせーは中々抜け出せなくて。
これは相当まずいんじゃないかってなったその時、後ろから見てるしかなかった僕の隣からカルマ君が立ち上がってアミサちゃんの背後から手を回して目を塞いだ。
「……【じゅーいちばん】、何も見なくていいよ。俺の声だけ聞いて」
今度は幼さを装ってない、ただ、呼びかけだけはずっと優しく、彼女の目を塞いだまま何故か名前じゃなく【11番】と数字で呼びかけた。アミサちゃんは驚いたのか戸惑ってるのか組んでいた手から力が抜け、パキバキと割れるような音が鳴り、その音と共に殺せんせーが僕らからだいぶ離れたところまで逃げ出した。そのまま何故か『にゅやぁぁぁぁ!!』って大声上げながら分身して走り回る殺せんせーは、鎖が巻きついていた部分から煙が上がっているアカデミックローブを大慌てではたいて……え、燃えた?焼けたの?!
「……おにー、ちゃ……?」
「ん、いい子。……この人は大丈夫、俺たちを守ってくれる人。いらない子じゃない。せんせーでもない」
「……じゃ、ない……?」
「うん。それに俺達は連れてかれない……だっていつか離れる時が来るまで見続けるって、キミとは死んでも一緒にいるって、約束したでしょ」
「……やくそく……、だれ……?……あ、れ……、わた、し……やくそく、した……、……あかい、おとこのこ、と……」
「【じゅーいちばん】が望むなら、俺はずっと一緒にいるよ。まぁ、万が一連れてかれたとしても絶対死んだりしない。ちゃんと【じゅーいちばん】のとこに生きて帰ってくる」
「……いっしょ……」
「……ね、俺との約束、信じられない?」
そんなBGMを無視して不安そうなアミサちゃんに声をかけ続けるカルマ君。アミサちゃんはずっとオウム返しばかりしていたけど、『約束』って言葉に反応して何かを思い出そうとするように言葉を並べ始めた。……ずっと僕らのことが分からないとばかり思ってたけど、ちゃんと今のアミサちゃんも、ここにいる。あの子は自分を見失いかけても、大事にしてるものは手放してない……それが、感じられた。
「……しんじる、……かえってきて、ね……わたし、いいこ、まって、……」
「……!……っと」
突然電池が切れたようにアミサちゃんは崩れ落ちて、カルマ君は慌てて受止めた。見ていただけではあるけど、僕は思わず張り詰めていた息を吐き出した……僕だけじゃなくみんなも安心したように強ばっていた空気が柔らかくなる。
それにしても、殺せんせーを見た瞬間アミサちゃんの意識の波長が大きく乱れて一切の波が無くなったかのように思う。……カルマ君と話している時は落ち着いてたのに、いきなり怯えて……いきなり動揺どころかブレすら無くなった。まるで、人間じゃない、機械のように。
「カルマ、……真尾は……」
「……寝た、というより気絶に近いかも。でも落ち着いたと思う」
「というか何で11番?真尾もそれに反応してた感じだったけど」
「……自分の名前を【じゅーちばん】って言ってた。それと殺せんせーに向けて前半かすれてたけど【〇〇ばん】って。……あんまり想像したくないけどさ、俺らにも出席番号ってあるじゃん。……もしかしたらこの頃のアミーシャは番号で呼ばれてたのかなって」
「番号……って……」
「にゅやぁ……た、助かりました……せんせー、ちょっと本気で服を溶かされるかと思いました……」
「そもそも先生が突っ込んでこなけりゃ良かった話でしょ!」
「あたしらちゃんと止めたかんね!」
「あ、アミサさんの様子がおかしいと聞いたらいてもたってもいられなかったんですよぉ!生徒の一大事かと思ってッッ!!」
「まぁまぁ……でも溶かすって酸とか?でも奥田が作った酸性の毒は先生効いてなかったよな?」
「対先生物質じゃないので先生自身はなんともありません。が、あの鎖がほぼ熱線と同じようなもの、といいますか……」
「熱線て?炎でも何でもない光ってるだけの鎖だったじゃん、アレ。アミサができるのは《幻》の事象をいじることでしょ。ってことは、ありえないもの=あるはずのない鎖を作り出してた、ってのはなんとなく分かるけどさぁ」
「《幻》属性の現象って、認識とか記憶をいじるっていってたもんね。無いものを作り出した……のを、私達がそうだと認識すれば現実になる、みたいな解釈でいいのかなぁ」
「なんかどこぞの幻覚を使って戦う漫画みたいね!?実態を持つ幻覚……はぁぁ……少年漫画のロマン!!!」
「不破さん?」
「当たらずとも遠からずですよ?アミサさんがやったのはまさにそういうことですから。小学生の理科で光の屈折を習った時期に、黒い紙に対して太陽の光を虫眼鏡で集めると燃やせる実験をやったことありませんか?」
「あぁ、あるある!黒い紙に火がつくんだよね」
「紙じゃつまんなくて机に向けてそれで机焦がしたわ〜」
「なんで!?」
「ヌルフフフ、当時の小学校で火事にならなくてよかったですねぇ……原理は置いておいて光は熱を帯びていると言える。アミサさんが作り上げたあの鎖も同じようなものなのでしょう」
「なるほど……」
「まあ何にしても」
───ヒュオオォ……
「……詳しくは、あの人達にきちんと聞くべき、でしょうねぇ」
「あ、……え?何あの透明なのに変な風に景色が揺らいで見える感じ……」
「グラウンドに何か……大きな物が来たような……」
余裕が出たみんなとちょっと考察を交えた諸々の現象について話していれば、大きな何かが風を切るような音が。……そういえばワジさんが烏間先生にメルカバっていう乗り物の着陸許可を貰いたいって言ってたみたいだしそれかな、と思って玄関から外を覗いてみてたけど何も見えない。
みんなが言うように違和感はあるけどいつも通りのグラウンドにしか見えないんだけど。そう、思ってたら……
『「
『「
「「「え!」」」
スマホから、そして外から声がダブって聞こえる。それを認識した頃、グラウンドにカーテンがめくれるように不思議な飛行艇が着陸している姿が現れた。
「いつの間に……!」
「なん、戦闘機というか、飛行艇!?かっけぇ……!」
「あれがメルカバだ。光学迷彩によるステルス機能があるから、グラウンドまで気配を気取られずに来られたようだな」
「烏間先生、」
「カルマ君、真尾さんを運んでやってくれ。病気じゃないことを鑑みると、病院への搬送よりヘミスフィア卿による教会の法術に頼った方がいい」
「……はい」
今まで近付けなかった烏間先生が、アミサちゃんが落ち着いたことでようやくこちらに来れたらしく、外の飛行艇のことを教えてくれた。あれが、メルカバ……小型飛行艇って聞いてたのに、校舎からまぁまぁ離れたところにある割には結構大きいのが見て取れる。頑張ればE組全員も乗れるんじゃないかな。
甲板らしきところに見慣れた人影が見えるまではちょっと警戒の色を見せていたカルマ君も、やっと信用できたんだろう。アミサちゃんを横抱きにして持ち上げると烏間先生についてあの飛行艇へと歩き出した。
「さて皆さんも行きましょうか」
「え、でも……いいのかな」
「アミサちゃんのことはあの人達に任せた方が……」
「何か異変があったらって事前に教えて貰ってても何もできなかったしさ」
「ふむ、……では、教室で待つのもありにしましょうか。アミサさんの訓練と同じです、選ぶ権利は全員にある」
「「「……!」」」
「選ぶ……権利……」
「当然、君達の選択ですから誰も責めません。彼等も言っていたでしょう、選ぶことから逃げず、誰かの選択に流されないで欲しい、と。君達が意思を持って選んだものであれば後悔しても納得できますからねぇ」
選んで、それの積み重ねで未来が作られる、か。ここで話を聞きに行くか行かないかでもきっと進む未来は変わる。当然コンテニューなんて便利なものもない……僕らが、結末に納得するためにも、自分の気持ちに素直になって選ばなくちゃ。
「……俺はここまで来たら説明して欲しいよ。多分あの人達も何も無いことを祈って言わなかったことなんだろうけどさ、何も知らないでいて、もしこれからも真尾が苦しむ様なことがあるなら……何にもできないでいたくない。もう、知らないでいて後悔したくない」
「俺も。あの訓練の時も知らない方が幸せだって聞いていたが、俺は見てよかったと思ってる。同じくらい、アミサが何に苦しんできたのか……ちゃんと、知りたい」
「……磯貝君、イトナ……」
「……あたしも。いつもいつもたくさん構ってもあの子が一歩引いちゃったらこっちも踏み込めなくて、お互いに納得したフリしてさ。やっと今日、あの子の大きな弱みが分かったけどそんなの一方的に知っただけだし、あたしのことも話して、ちゃんと本トの意味で対等になりたい」
「そうね、対等で、それでいて背中を預けあえるようなそんなクラスメイトになりたい。お姉さんぶって色々世話焼いたつもりでいたけどさ、それが全部あの子に届いてるのか怪しいのよね。どんなに強くても、何を抱えてても……アミサは私のクラスメイトで、大事な友達だから。これからも頼って欲しいから」
「中村さん、片岡さんも……」
「それに……なんで1番近くにいた私達には何もしないで、殺せんせーにだけあんな反応をしたのかな。アミサちゃんだって殺せんせーのこと、嫌いじゃないはずでしょう?」
「確かにな、明らかに殺そうとしてるくせに殺したいって殺意は感じなかった。……むしろ、悲しそうで苦しんでるようにも見えた」
「……悩むくらいなら行こうぜ。もうそろそろ納得のいく答え合わせをしてもらわなきゃ、俺らまで悩まされてるのに割に合わねぇ」
「おうよ!」
みんな、当然思うことがある。人それぞれなんだから考えは別、やりたいことだってもちろん違う。……それでももう、一度引いて後悔まではいかなくても、やっぱり見ておけばよかったなんて思ってるクラスメイトは少なからずいたんだろう。
そして最初から他のクラスメイトとは違った経歴……日本ではありえない、幼い頃から武器を持って命をかけて戦ってきたんだろう彼女を。命の危険と無縁に生きてきた僕らと、全く違う世界を歩いてきたアミサちゃんを、きちんと理解する為にも。もう引きたくない、知りたいって思ってるのもみんな一緒だったようで。
全員が誰かの意見じゃなく、自分の意思でアミサちゃんのことを知るために。先に向かったカルマ君の後ろを追いかけるように、メルカバへと足を向けた。……もう、迷って足を止める人は一人もいなかった。
「あ、あの……!」
「どうしました、か……っ!?」
「ティオちゃん!……ごめんね、私が預かるわ」
「え、あ、そんな驚かせるつもりはなくてっ!ご、ごめんなさい、許可も取らずに。でも、実物を見せた方がいいかと思って……っ」
「さっき、この場にあるだけならそんなに問題ないって言ってましたよね……?」
「……えぇ、そうです、ね。……」
「ティオちゃん、やっぱり下がってた方が……。アミーシャちゃんについてレンちゃんも一緒に仮眠室にいるから、そっちに……」
「……いえ、あの2人には酷でしょうから、今動ける私がやならないと。分析を開始します、…………、……っ本物の、プレロマ草で……間違いありません」
「ありがとう、……やっぱり、忘れたように見えてたけどアミーシャちゃんも覚えてたのね」
「……すみません、やはり私も……」
「ううん、頑張ってくれてありがとう」
「あ、あの……」
「……ティオちゃんもね、この花にはトラウマがあるの。でも鑑定がすぐできるのは彼女だけだったから」
「ッ!ご、ごめんなさい!!」
「私達、そんなつもり、全然なくて……っ」
「うん、あなた達に悪気がなかったのは分かってるわ。だからこそ……知ってあげて。知った上でどうあの子と向き合うかを決めるのはあなた達だと思ってるわ」
「……ふぅ、プレロマ草、ですか」
「おい、お前はあの草について何か知ってるのか」
「……逆に烏間先生はどの程度まで知ってますか?」
「……、何かの原料となる植物、だということくらいだな」
「……そうですか」
「そういうお前は知ってるのか」
「ええ……とあるドラッグに使われる植物です。アミサさんが《教団事件》に関わっていることは聞いてましたからあのドラッグの存在は彼女も知っているとは思ってました。しかし、あの様子からすると、……」
「……なんだ」
「……、……いえ、憶測で決め付けるわけにはいきませんから。まずはあの人達から話を聞きましょう」
+++++++++++++++++++++
今回、竹林君とクラスメイト達の協力と、オリ主の豹変など書きたいことを詰め込みながら楽しんでいたら、来日組と合流する前に1万字を超えることが確定し(!?)、オリ主の過去を書いたら2万字を普通に超える(!?!?)ことになるので分けました……、いや、キャラクターみんながどんどん勝手に動いていくのが楽しすぎたんですすみません!!
書いてたらこの話のまとめが上手くいかなくて、まだ使う予定のなかった、殺せんせーに対して豹変するオリ主をカルマが止める、というものを使ってしまいました……もっと後にこの手札は切る予定だったのに!!!(笑)キャラクター達が自由に動いてくれるので、今後の展開で確実に(作者の)脳内がこんぐらがります。
黎Ⅱの流れもあるので、レンは直接は参加しない形になります。さすがに、あの名場面()はぶっ壊すわけにいかない……というか、アレがないとネメス島でのアレコレが色々おかしくなるので……!ティオも同じく似たような理由で離脱するべきかと思いましたが、特務支援課のおかげで、ある意味納得して引きずりすぎてない子でもあるので、出てくると思われます。
次回、説明回です。さて、作者が上手にまとめられることを祈っておいてくださいませ……!頑張ります!!
毎度毎度説明が難しくなると、他の漫画ネタで例えてしまう……不破さんに反応してもらったのは某クフフ師匠の有幻覚です。ちなみに作者は漫画を借りて1回流し読みしたことあるだけなのでにわかです。推しはキイロイトリ(歌が好き)