UA146200
ありがとうございます!
ここからさらにガッツリ第一部では無かったオリ主の掘り下げやE組との共有をしていきます。
今回もよろしくお願いします!
渚side
「……!ワジさん、どうですか」
「今は落ち着いてるし眠ってるだけ。4年分の記憶を掘り起こされて相当疲れたみたいだね」
「深層意識の底に押し込んでたもんを無理やり引っ張りだされたようなもんなんだから当たり前だろ」
「向こうにはキーアと……?」
「レンとティオにもついてもらってる。……彼女達が希望したのもあるけど、ある意味ではあの子達が適任で適当な配置だと思ったからね」
「そうだな……」
仮眠室にアミサちゃんを運び込んだカルマ君と一緒にワジさんが戻ってきた。彼らが帰ってくるのを待っていたロイドさん達がすぐに状況を確認しているのを聞いてる限り、彼女は命に別状も無く休めば回復するだろうことが伺えてほっとする。
「カルマ、こっちおいで。君達もくつろいでくれていいよ」
「…………」
「いや、くつろげと言われましても……;」
「まさかこんな近未来的な乗り物に乗れるなんて思いませんでしたから……緊張しますて;」
僕達は今、ワジさん達が来日するために乗ってきたという、メルカバという飛行艇の中にいる。本トなら二学期期末テストに向けてそろそろ対策期間に入らないと、な時期ではあるんだけど、まだギリギリ時間があるのと殺せんせーが『今回も余裕をもって授業が先に進んでますから取り戻せます!』って言い切ったのもあって、遠慮なく先生含めて全員で乗り込んだ。
光学迷彩とかステルスとか言ってたからどこまで近未来的な乗り物なのか、ってちょっと不安だったんだけど、中は案外普通な作りで安心した。それでも僕らの知る飛行機とかとは全然違うからみんなおっかなびっくりなところはあると思う。現状E組27人と先生達3人が一応入れるロビーのようなところに腰を落ち着けさせてもらっていて、ロイドさん達はテーブルにつき、ワジさんはBARのようになってるカウンターの椅子に腰掛けて、そこにカルマ君もついて行った。
「それで、花はどうだった?」
「さっきティオちゃんに見てもらったけど……向こうに咲いてるものと同じもので間違いないそうよ」
「そう……」
「あの資料を見たのもリーシャさんだけでしたし、物理的に距離をとって情報も遮断すればいいと思ってたんですけどね」
「《教団事件》の後からはコレと薬に関わる事件からは徹底的に離してたんだがなぁ……こんな場所で、とは思わねぇわ」
「被害は大陸全土に及びましたから……残党がこちらに逃げ延びた可能性もありますし、なんとも言えませんね」
「確か夏には《結社》の作った薬まで出回ってたって話だったよな。……やっぱり、いくら規制したとしても人や物の流れは完璧には止められないな」
「あの子が目を覚ましてから次第ではあるけど、こっちで記憶を操作してしまうのも一つの手だよ。破門されたとはいえ【最悪の破戒僧】の研究成果は残ってるから、ああいうタイプの事例に対してだったら上手くやれば治療になるし」
「うげ……いなくなっても最悪に変わりないわよあの教授……」
「……皮肉だね。僕含め、好き勝手してくれたあの人が遺したものに人を救う可能性があるとかさ」
「そっか、ヨシュア達は───」
「……、ねぇ。もう、そっちだけで完結させないでくれない」
あの人達なりの考えや今後の指標はあるんだろうけど、中々割り込めないし話についていけない。分かる範囲で聞いていてアミサちゃんがあの人達から意図的に何かへかかわらないよう配慮されてたってことは察せたけど……対処から今後のことも何もかも、あの人達任せにして僕らは何もできないのか。
誰も口を挟めずにいた中、切り込んだのはワジさんの横で今の今まで黙っていたカルマ君だった。
「あんた達がアミーシャを愛してるからこそこっちに送ったことも、キーアが過去を書き換えてあの子が生き続ける世界を目指そうとしたことも分かった。アミーシャが俺らなんかじゃ足元にも及ばないくらい本トは強いのに、俺らと同じように生きたがってる普通の女の子だってことも。……でも、どうしても最後の壁を、あの子自身も分かってない何かがあるせいで、全部を抱えてあげられない。……その壁がなんなのか、もう教えてくれない?」
「カルマ君……」
「……分からないのは嫌だ。ただ、苦しんでるのを見るだけなんて、……もう嫌だ」
「「「…………」」」
「……、……あの、さ」
カルマ君からしたら、出会ってからずっと何かを抱えて生きてきたアミサちゃんを文字通り守ってきて、今まで彼女のことを思って聞かないできたこと。2人の関係性を思えば知らないままでもよかった、だけどこうして原因がわかる人がいるのに教えて貰えないまま友達が苦しむ姿だけを見る……そんなの、僕等だって我慢できないし、納得できない。
カルマ君の訴えに迷うように視線を交わす彼らの反応を黙って待つ……そんな僕らの中から、もう1つ声が上がった。
「……俺も。便乗するようでアレだけど……ずっとさ、不思議に思ってたことがあるんだ」
「前原君?」
「真尾はE組に来てからカルマと揃って文武両道の天才っぷりを発揮してる。とはいえ文化とか言葉の違いがあるだろうし、こっちで有名なお菓子を知らない、日常で聞くような言葉を知らないみたいな、みんなが知ってることを知らないってのは、まだ分かるんだよ。箱入りだったんだな、世間知らずだなって思うくらいで。でもさ、……自分の考えや感情の出し方とか、制御の仕方が分からないんだよな、あいつ。悲しみ、怒り、恐怖、喜び、恥じらい……そんなの、普通に生きてたら誰でも分かるし身に付くじゃん。でも真尾の場合、説明できないけどなんかがおかしいなって、……ずっと思ってた」
「……言われてみれば、助けの求め方も最初分かってなかったもんな。自分で全部解決しなくちゃ、みたいな……」
「……そうだよね。私達がどう思ってるかとかはちゃんと理解してるのに、自分が怒ってることに気付いてなかったり、泣いたら泣きすぎてわけ分からなくなってたり、恐怖心もないから危険に突っ込んでいって身代わりになろうとするし、恥ずかしさも感じてるのか疑問に思うこと、いっぱいあったよ」
「まぁ、不思議には思うけどアミサちゃんはアミサちゃんに変わりないから、それでもいいかって思ってた。でも……理由があるなら。配慮ってわけじゃないけど、正しく接したい」
「一緒にいようって約束した。それに応えてアミサも一緒にいたいって言ってくれた。みんなで同じように前を向いて、目標に向かって進むためにも、ちゃんと分かりたい」
カルマ君程じゃないけど、E組のみんなだってこれまでのアミサちゃんの不可解な言動に疑問をもってる人は少なからずいる。前原君を皮切りに、ぽつりぽつりとE組から声が上がる。何なのか分からない違和感の正体が分かるかもしれない、そう思えば引く理由はもう僕らにはなかった。
E組の全員がカルマ君と同じ気持ちなことを悟ったんだろう、ロイドさん達がかなり複雑そうな表情を浮かべ、リーシャさんに視線を向けて……でも、よく観察していれば2人以外にも伺うように見ている場所がある。その方向、カルマ君とワジさんの座るカウンターの所には1台の移動式のモニターが置いてあって、……そこから、声がする。
『……構いません。むしろ、私達こそ1番アミーシャに近い境遇で同じような経験をしてきたんですから……補足が必要でしたら私達が適任です。この子達に覚悟さえあるなら話しましょう』
『ええ構わないわ。……レンとも違うから詳細は分かってあげられないけど』
「ティオ……レン……」
「……2人とも、ありがとうございます」
僕らと直接顔を合わせるのは控えたい、とアミサちゃんについて仮眠室にいるらしいティオさんとレンさんから静かな返事が返ってきた。そういえば、ティオさんとレンさんは通話の時もこの話題になってからは特に気遣われてたな、なんてふと思い出す。
「楽しい学校生活に横槍を入れたくなかったんですが、もう隠しておける段階を超えてしまっていますよね……嘘偽りなく、今言えることは全てお話します。ですが、辛くなったら遠慮なく部屋を出てください……あなた達にとってはそれくらい本来は縁のないことで、ショックな話になるかと」
リーシャさんが真剣な表情で僕らに向き直る向こうで、カルマ君は視線をこちらに向けないまま、……多分耳だけこちらに傾けて視線はジッとモニターを見つめている。
……そっか、ワジさんがカルマ君だけカウンターに呼んだのは、そのモニターでいつでもアミサちゃんの様子を確認できるようにするためだったんだ、なんて。アミサちゃんが心配でそばに居たいけど話も聞きたいカルマ君へのあの人達なりの配慮だったんだと、今更ながらぼんやりと思った。
◆
渚side
「……時に、先生方は《
「……少しだけ。叡智を授かる奇跡の薬って噂が出回ってたわ。薬の名前自体は10年近く前から聞いたことがあったけど、3年前くらいにクロスベルの方で話題になった時期があったような……その程度よ」
「俺も政府に回ってきた概要だけだな……服用することで身体能力や感応力を引き上げ、場合によっては運を引き寄せると。だが、所詮ドラッグはドラッグ……依存性は低いものの、それによって服用者が犯罪者に利用され、起きたのが《教団事件》、だったか」
「…………」
ビッチ先生は殺し屋として使えるものは何でも使うだろうけど、噂として出回った程度しか知らないということは、その界隈にはそこまで有効なドラッグとして広まらなかったんだろうか。烏間先生は概要だけと言いつつビッチ先生よりも詳しくなっているし、向こうで起きたんだろう事件も把握してる……さすが防衛省、日本の安全に関わるかもしれない情報は逐次入ってくるんだろう。
唯一、殺せんせーは無言だった。無言だったけど……いつものお気楽な顔を歪め、目を伏せている。
「コロセンセーさんはもう、……全て察してそうですね」
「……ええ。彼女の常人以上に鋭い五感と感情や思考を読んでいるかのような反応、もはや異能と言える《幻》を操る力。全て彼女の天賦の才だと考えてましたし、そうであって欲しいとさえ思ってましたが……」
そこで殺せんせーが言葉を止めた。……アミサちゃんが天賦の才を発揮してる、その言い回しに僕は言い得て妙だと思ったのに、僕らよりもアミサちゃんのことをよく知っているはずのリーシャさん達が誰も肯定しなかったのが気になった。リーシャさん達がE組に通うようになってから話をしてきた中で、アミサちゃんがいろんな能力が突出しているのにそれを自覚してないがために、どんどん壊れつつあったと教えてくれた。つまり、あの人達もアミサちゃんのことを一種の天才だと認識してるってことじゃないの?
黙ってリーシャさん達を見て、彼らの誰にも止められないことを確認した殺せんせーは、少しだけ長く、息を吐いて。
「───……プレロマ草をきっかけに倒れたこと、そしてアミサさんの言動で確信しました。信じたく、ありませんでしたがアミサさんは……《教団》の生き残り、なんですね」
「教団……、────ッ!?まさか、《D∴G教団》か!?」
「ッ!?なんですって……!?」
「……はい。その通りです」
最初はなんの話だって顔をしていた烏間先生とビッチ先生が血相を変えて、肯定したリーシャさんの方を凝視している。普段ちょっとやそっとのことじゃ取り乱さない2人が明らかにショックを受けているような反応をするから、僕らは分からないなりに顔を見合わせるしかない。
「教団……宗教団体的な?」
「でもそんな宗教で生き残りがどうとかって話になるもの?まさか思想の違いで殺し合いになったとかでもあるまいし……」
「なんて説明しようかな……こっちでは信仰の自由があるだろう?でも僕達の住むゼムリア大陸では大陸全土に七耀教会があるほど≪
「人の信仰をどうこう言うつもりはないけど、この教団に関しては常軌を逸していた、としか言いようがない。なにせ女神を否定する手段としてとにかく手当たり次第に非道としか言いようがないことを行っていたからな」
「非道って……信仰の否定ってだけでそんな言い方になります?」
「俺らの方にだって信仰での対立とか普通にあるもんな。行事を否定したり、医療関係で制限があったり……なかったっけ?」
「あるよ。例えば食事や礼拝への配慮、看護師を含む異性との接触への配慮、輸血拒否とかね」
「さっすが、竹やんよく知ってる〜!」
「そういや宗教がらみの大きな事件もあったじゃん、無差別テロだっけ。そう思えば宗教関連でも非道な面はあるんじゃ……?」
「無差別テロ、か……それが1番《教団》の行っていたことに近いかもしれない。ただ、その場限りのテロであればどんなによかったか……」
「その宗教を信仰してる人が教義を自分の生き方の指標にしてやることは、まだ理解できる。だけど《教団》は無差別テロのように宗教と無関係な人を大勢巻き込んだ。数回どころか何年も幾度となく繰り返してたんだ」
確かに日本でもあったな……やっぱどこの国にもあるんだ、そういう宗教絡みの問題って。何を信じてもその人の自由だし、その信じるものごとに教義があるのも理解できるけど、自分の当たり前にないことは否定的になりがちだよね。
僕らはその程度に軽く考えていた。間違ったことを言ってるとは思ってなかったから。
「……妹は。……アミーシャは、私が父との修行の為に母から離された頃に生まれた子です。今でこそアルカンシェルのアーティストとして活動している私ですが、私の本当の家業は一子相伝……長女である私だけが継ぐもので、アミーシャは私の存在も知らず、平和な光の世界で生きることができた、……はずでした」
「はずって、」
「……アミーシャは2歳の頃……件の《D∴G教団》に誘拐され、そこで約4年の間監禁されていたんです」
「「「!?!?」」」
「か、監禁!?」
「誘拐されたって……そんな小さい時に……」
「ただ監禁されてただけじゃない。……君達って俗に言う悪魔召喚ってどうやるか想像できる?」
「あ、悪魔召喚ってなんぞ……?」
「こっくりさんとかの降霊術的な……でもあれは神様を下ろしてるっていうしそれとはまた違うのかな」
「え、魔法陣とか呪文とか……それっぽい道具を使うくらいしか思いつかないよ」
「なんか真っ暗な部屋でロウソク立てて黒い服着て囲んで祈る的なイメージはある。悪魔だし暗いところでやるみたいな」
「何かしらの儀式があるんだろうなーとは想像できるけど、どんなのかまではピンと来ないです」
「……生贄」
「「「!」」」
いろんな想像が出る中、ボソッとした小声だったけど無視できないその単語が聞こえて、僕らの視線はその言葉を発した彼女、狭間さんへと向かう。狭間さんは僕らから一気に注目されたのを位にも介さず、まっすぐと彼らの方を見つめていた。
「黒魔術とか呪いとか調べてるとね、そういった類の話はよく出てくるのよ……召喚する悪魔に対して生贄を、供物を捧げる、ってね。最初に悪魔を崇拝するカルト教団だったって言ってたし、わざわざここで言ったってことはその教団で実際に行われてたってことなんでしょ。でも、生贄は供物……儀式の最中に捧げるんだから死はほぼ確定。なのにアミサは生きてるわ。つまり、……犠牲になったのは他の子どもってところかしら」
「……その通り。悪魔召喚なんて奴らの所業の内の1つでしかないけどね」
「「「……っ」」」
「そんなこと……」
「他の子どもってことは、つまり……」
「……気分が悪くなったら遠慮せずに出ていくんだよ。ここから先はホントに胸糞悪い話が続くから。……2人とも、頼めるかい?」
『えぇ……《D∴G教団》は、ゼムリア大陸各地から幼い子どもを誘拐し、大陸に点在した10を越える
『当然、そんな非道な組織を放置なんてするはずなく、今から約8年程前に遊撃士、七耀協会、警察、軍、果てには裏の組織まで……各国が協力してロッジの制圧と《教団》の壊滅作戦が行われました。壊滅したロッジには夥しい数の犠牲となった子どもたちの死体が数百人、数千人も折り重なっていたと聞いてます。そんな地獄で、私が把握してる限りでも生存者はほとんどいません。……その数少ない生存者の内数人が、私とレンさん、そしてアミーシャです』
「「「!」」」
『私は5歳の頃に《教団》に拉致され……3年間、毎日様々な人体実験を受けました。周りの他の子供達が耐えきれず死んでいき……私以外、誰もいなくなった時には、私は分厚い壁の向こうの声や感情を、動物の意思を読み取れるほどの感応力を身につけていました』
『……私はちょっと特殊ね。半年だけだったとはいえ、《教団》の資金源を作ることや国の要人、有力者を取り込み、弱みを握って逆らえなくするため、私達への人体実験と並行してその客をもてなし接待する……そんな
「ひどい……」
「ティオさん、レンさん……」
「生存者のお二人がそうってことはアミサちゃんも……殺せんせーが言ってた通り、ですか?」
「……はい。……アミーシャがいたロッジはティオさんの所と似てますが、どちらかというと異能開発に重きを置いた場所でした。残されていた実験の記録を確認した限りでも、暗示や薬、七耀石を用いた人体実験、何かしらの《古代遺物》も使われた形跡がありました。……七耀石を直接体内に、なんて、魔物を生み出すような最悪の実験を受けながら、あの子が人の形を保っていたことは奇跡でしかない。《儀式》の副産物として耐えられず、されど死ぬこともできなかった子どもは化け物と化し、教会の法術でも元に戻せなくて滅するしか無かったそうですから」
「そんな最悪の人体実験によって発現させられたのが、ティオには及ばないながらも人の感情を読む感応力、常人以上に発達させられた五感、そして……《幻》を操る力ってことだ」
物静かながら気になる物や可愛いものへは好奇心旺盛なティオさんと、博学で身体能力抜群で勝手気ままなレンさんっていう、先頭には立たないけど僕らに対して真摯に向き合ってくれる2人が、どうして僕らと対面で話したがらなかったのか、ようやく理解した。彼女達もアミサちゃんと同じ境遇の被害者であり、同じ傷を共有してるからこそ、彼女のことを放っておけなかったんだ。そして、アミサちゃんと同じように忌まわしい過去に触れている自分の姿を、僕らだけでなく親しいはずの皆さんにさえ見せたくないんだろう。
それでも淡々と明かされていく3人の過去。3人とも同じ《教団》に捕らわれながら違う被害にあい、それぞれが望まぬ後遺症を遺していると告白してくれたことで、やっと、アミサちゃんの敏感すぎる気配探知能力に合点がいった。しかも、アミサちゃんがテストや人探しで武器にしていた分離集音能力……あれもきっと、この人体実験による副産物だってことが、容易に想像できてしまった。
「……あれ?真尾は他人の感情を少なからず読み取ることができるんですよね。じゃあなんでアイツは自分のことが分かってないんですか……?」
「そうだよね、私達の向ける感情が分からないわけじゃないのに……」
「……多分ですけど、アミーシャちゃんは幼すぎたんだと思います。2歳なんて、まだ言葉を覚え組み立て、感情のコントロールを学ぶ時期ですよね……物心どころか自我が芽生えたか怪しい頃に拉致され、間違った常識を植え付けられる環境で、当然まともに情緒が育つわけがありません」
「……加えて実験の一環として……使い物にならなくなった実験体、侵入者の処理をやらされていたようで……」
「ッ!!」
「そんな……」
「……だから、だったんだ。〝痛かったね、楽にしてあげる〟って」
「それ、さっき殺せんせーに向けて言ってた……」
「化け物になった子どもがいたってことだし、殺せんせーがその犠牲になった子どもの誰かに見えてたってことなのかもしれないわね」
「アミーシャは、偶然私と父が殲滅に入ったロッジに捕らわれていたんです。でも……既に何人もの人に手をかけさせられていたこと、幼い体に見合わない力を無理やり行使させられていたこと、そもそもの人体実験によって心身ともにボロボロだったこともあって、既にアミーシャの心は壊れ、感情も意思も何も無く……助け出した後は息をしてるだけの抜け殻の様な状態でした」
「アミサちゃんにその頃の記憶がなかったのも……何も感じないようにすることでかろうじて自分を保ってたってことか……」
「自分の気持ちとかを理解できないのも、その弊害ってこと……?」
「……」
「保護した後は、私と父と一緒に日常生活を送れるように感覚の制御訓練に取り組み、力が暴発しないよう体を作りながら、過去の忌まわしい経験を日常とすることでこれ以上壊れないよう心を守り、日曜学校や私の仕事に同行させて人と関わる事で情緒を育て……そして、今に至ります」
出会った時からたどたどしい話し方や、言葉にする前につまって中々言い出せない姿、時々消えそうな雰囲気をまとう彼女をよく見てきた。あれはそういう性格だからだと思ってたけど、リーシャさん達が8年程かけて1から何とか身に付けた、なけなしの社交性だったんだ。
彼女の心が再度壊れてしまわないように慎重に、それでいて人を完全に嫌ってしまわないように。少しずつ、少しずつ外の世界での関わり方や感情を学んで……E組に来る前にまた壊れかけたけど、E組で信頼を学んで、経験を重ねたことで生き方を知り、心を再構築したことで、今のアミサちゃんがある。
「……そういえば、さ。今の話に出てきてたけど、リーシャさんって、さっきまでの言い方だと、本来はアルカンシェルのアーティストが本業じゃないんだよね?」
「そ、それに、今の、お父さんとお2人で壊滅させたって言い方でした。明らかに大規模な組織に対して、そんなことって可能なんですか……?」
「ふふ、さすがに2人だけではないですよ。共和国が自由に動けない中でも協力を得られた同じ裏稼業の組織に便乗したんです」
「裏稼業って……」
「……リーシャ」
「……いいんです。みなさんがアミーシャとこれからも一緒にいたい言ってくださるからには、これもいつかは話さなくちゃいけないことでしたから」
少し、リーシャさんの話で気になってはいたことだ。アミサちゃんからリーシャさんとお父さんと何かしらの修行をしていたって話は聞いてたけど、2人だけでアミサちゃんを助け出したとは思えない。そもそも規模がおかしい……だって最初にティオさんも言ってたから、国や組織が協力して壊滅作戦が決行された、と。
その疑問に対して止めようと口を挟んだんだろうロイドさんを遮ったリーシャさんは、ちょっとだけ申し訳なさそうに微笑むと、僕らに向き直った。
「改めて自己紹介を。私はリーシャ・マオ、クロスベル自治州の劇団アルカンシェルのアーティストであると同時に、アミーシャ・マオの姉。そして……皆さんにはこちらの姿の方が馴染み深いんじゃないでしょうか」
「「「!!!」」」
ぐにゃり、と僕達の目の前でリーシャさんの姿が歪んだ……そう認識した時には、目の前には見覚えのある黒衣をまとった人が立っていた。
「え、え……え!?い、《銀》さん!?」
「つまり、リーシャさんがこれまで何回も私達を助けてくれた《銀》さんだったの?!」
「マジか……完ッ全に男だと思ってた……」
「俺も……小さいのは渚みたいな小柄なやつだからかと」
「なんで僕がここでディスられてるの……?」
「あはは……気功術で体型を操作して正体がバレないようにしてましたから。《銀》は何時の時代にも言動、対応の仕方や技術、どれも同一として存在してきたので、先代である父を違和感なく継ぐためにも当初はこの姿で活動していたんです。まあ、仕事に慣れてきた今は黒衣以外でも活動してますが……」
「いや、目の前で姿を変えるところを見てたからリーシャさんだって分かってますけど、見た目じゃ全然分からないです」
「あのプロポーションはどこにってくらいスラッとしててカッコイイです!」
「あとその声でリーシャさんの口調って違和感がすごい」
「ふふ……お前達が望むのなら、こちらで合わせようか。どうだ?これで少しは納得してくれたかな」
「おおぅ、まじで別人だわ……」
「そっか《銀》として壊滅作戦に参加してたってことなんだ……それなら辻褄も合ってるよね」
「お前達に対しては表の姿があまりにも妹に似すぎてるからな……対面するならこちらの姿の方がいいと判断させてもらった。ただの凶手として対面するだけなら普段の戦闘装束でもよかったんだが……」
「なるほど、ちゃんと理由があったんですね……」
「あ、だから『死神』の時にアミサちゃんが行方不明になっても、《銀》なら大丈夫だって殺せんせーは言ってたのかぁ」
「そりゃあ家族だったら守るに決まってるね!そもそも口実としても事実だから後から認識がズレることもないし……」
「……違う」
みんなに納得した空気が流れてたのに、それを無視するかのように挟まれたのは1つの否定の声。リーシャさん達が説明してくれてる間、一切口を挟まずにずっとモニターへ視線を向けていたカルマ君が初めて僕らの方へ、……正確には、リーシャさんもとい《銀》さんの方へと向いていた。
「……え?」
「どうしたんだよカルマ」
「……ねぇ、リーシャさんとアミーシャってさ、体格差はどのくらいなの?」
「おいカルマ、そんなの今聞かなくても」
「いいから。……答えてよ」
「……確か、20cm程度は差があったと思うが」
「ふぅん……」
「いや聞いといてその反応って薄くねーか?」
「や、リーシャさんも小柄な方だけど、それと比べてもアミーシャってやっぱちっさいんだなぁって思ってさ」
「……真尾が聞いたら怒るぞ、あいつチビなの気にしてんだから」
「いいのいいの、あの子はちっさくて収まるサイズなのが可愛いんだから。……じゃ、次の質問ね。今までに《銀》がE組の誰かに関わったのってどの時か覚えてる?」
「……まず、イリーナがE組に来てお前達と打ち解けた後、夜に会ったはずだ。次が夏休みの訓練、お前達をプールで指導した時。次が……携帯ショップを破壊するイトナを探してリツを経由して伝えた時だったか。最後が『死神』と契約した時……そう記憶しているが?」
「……ビッチ先生のだけ知らないけど、他はあってるか」
「ビッチ先生、覚えてる?」
「え、ええ……私が来てすぐだから……6月にはまだなってなかったわね。確か《銀》からの手紙をアミサが預かったからって持ってきてくれて、そこに待ち合わせの時間が……」
「……、じゃあ次で最後。《銀》、今ここで
「……構わない」
「……あ、違うよ。それじゃない」
なんの意図があって質問を重ねてるのか、僕らもロイドさん達も、多分質問されてるリーシャさん……もとい《銀》さんも分かってない。それでもカルマ君に言われるがままにアミサちゃんの持つ戦術導力器より長細くゴツイガラケーのような端末を開いたところで、当のカルマ君から待ったが入った。
「リーシャさんが使ってる
「ああ、それなら……」
「当然、俺らをこれまでサポートしてくれてた《銀》の戦術導力器なんだから、マスタークォーツから見て右上と左下に《幻》属性の縛りがある一直線のライン、だよね。……違う?」
「ッ!?……まさか、」
「……『死神』から逃げたフリをするために肩車の準備をしてた俺らにアーツをかけるって時、木村とぶつかってクオーツを落としたの覚えてない?俺、そん時に見ちゃったんだぁ」
「……?……あーっあん時か!確かにぶつかった覚えあるわ!……でもあんな一瞬だったのにカルマはよく覚えてたな」
「……覚えたくて覚えてたんじゃない。……そうじゃないって信じたくて、勝手に記憶に残ってたんだから」
「……どういうことだよ」
そういえば戦術導力器ってどんどん切り替わってくみたいなこと、アミサちゃんが言ってたような……僕らと顔を合わせる前に導力器の世代が変わったんだと思うけど、
木村君もぶつかったことは覚えてたみたいだけど、僕は、僕らは『死神』事件の時っていう命の危機と隣合わせの状況でそれどころじゃなかったから周りを見る余裕なんてなくて、カルマ君がそんな細かいことを見ていたなんて思わなかった。……その見たことを、後悔してるようにも見えるのは、なんで?
「《銀》は言動、対応の仕方や技術がどれも同一の存在なんでしょ。リーシャさんの年齢的に《銀》が代替わりしてるのは確定、てことは、《銀》の経験は何らかの方法で全て次代の《銀》に共有されると考えていい。だから《銀》がE組との接触を知っていることに疑問はない。……でも、リーシャさん達は知らないよね。6月の中間テスト前までのアミーシャってね、まだクラスメイトにも先生にも慣れてなくて知らない人には1人で接触できなかった時期なんだよ。しかもその頃は俺がずっと一緒にいたから、見知らぬ人から手紙を渡されてるなら俺がその現場を見てないのはありえない」
「…………」
「ずっと、違和感はあったんだ。だけどそうじゃないって思いたくてずっと気付かないフリをしてきた。だけどリーシャさんとアミーシャの使う導力器は世代が違うこと、中の構造までは模倣できないこと……《銀》の導力器を目の前で見てやっと確信したよ」
いくつかのピースを合わせて。
カルマ君が、気付いたことは。
「これまで、俺らの前に姿を見せてた《銀》は、リーシャさんじゃない。
……アミーシャ、なんでしょ」「わたし、だよ」
「「「!」」」
「……、……アミーシャ」
カルマ君の声と、呼ばれた本人の声が重なった。しかもモニター越しじゃない、いつの間に目を覚ましたのか、仮眠室へ続く通路の入口に少し体を預けて立っている。俯いてることで髪が顔にかかり、どんな表情をしてるのか全く分からないけど、……彼女の声色は、感情が乗ってないとても硬いものだった。
「……そういえば、なんだけど。なんかずっと前にアミサちゃんがあまりにも無防備すぎるのは、悪の組織に捕まってたせいで外の世界を知らないせいで純粋すぎるって可能性を推したことがあるような気がする」
「不破さん、いつの間にそんな未来予知みたいなことしてたの?」
※買い物の時間参照
++++++++++++++++++++
↑実はかなり前から張ってた伏線。
不破さんに時々上のような発言でポロリしてもらってたことや、記憶や力以外でもオリ主が《D∴G教団》の被害者である描写として、
・『毒の時間』:青~紫などの色の飲み物や液体へ拒否を示す
・『女子の時間』:ドラッグに反応して拒否を示す
・『実行の時間』等:感情や気配に敏感な反応を示す
と、他にもあるかもですがこそこそと過去話に散りばめていたものを一気に回収しました。《銀》について隠してる描写と誤認してくれたらラッキー、くらいに書いたものもあるので、この辺りからも「おや?」と思ってもらえてたら嬉しいです。
やっとこのお話で《教団》の名前が出てきました。《身喰らう蛇》、もとい《結社》が下劣な犯罪組織を潰してたり、グリムキャッツがお膳立てに関わってたりと、公式で裏の組織も動いてるな……ということで、《銀》も壊滅に関わっていたことにさせてもらってます。
最初期の設定では、オリ主は《銀》と全く関係ない生き残りの被害者で、身寄りがないため《銀》が助け出してそのままリーシャの妹として引き取った、という『実はオリ主は養子だった』の流れで書いてたんですが、リニューアルの期間を経て『ちゃんと妹として確立させよう』と設定を変えたという裏話。
オリ主がどんな経緯で異能を発現したのか、のような裏話はまた次回のあとがきにでも書こうと思います。
では、次で過去編はまとめ終わる、はず。……はずです!!来週月曜日に更新予定なので待っててください!
《D∴G教団》についてやティオ、レンの過去については非公式にまとめられたサイトがあるので、覚悟のある読者さんはぜひご覧下さいませ。この小説では書ききれなかった描写がわんさか出てきます()
ハッキリ言ってこれでもだいぶマイルドです。特にレンの過去は。