暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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ありがとうございます!

今回も、よろしくお願いします!


★135話 殺意の時間

 

陽菜乃side

 

 あーちゃん。

 

 そう、あだ名で呼ぶようになった彼女は、私にとってE組で出会ってからちょっと心惹かれる存在だった。E組に来る前までの彼女のことは、見た目の印象はほとんどない。時々試験の順位表に名前が載るくらい頭のいい、だけど傍から聞いてもあまりいい気はしないあだ名を付けられた女の子、程度の認識だった。ウチの学校は人数が多くて同じクラスにでもならないとかかわりもなかったから、余計にどんな子なのか分からなくて……まさかこんなに純真無垢な言葉通り幼い子どものような子だとは思いもしなかった。

 E組で同じクラスになってから彼女がどんな子なのかを知った。まずはカルマ君と渚君にしか懐いてない警戒心の強い生き物みたいだなって印象。さらに身長、というより存在感?私も小柄な方だけど、彼女は私よりさらに身長が低いだけじゃなく、それ以上に体を小さくして過ごそうとするから、より小さく見えて。その上で言動がすごく……自分をその人に預けてもいいか様子を伺う仕草というか、一生懸命生きてる小さな命というか……そんな雰囲気が小動物っぽくて、自他ともに認める生き物好きの私からしたら興味しかなく、構いたくなる女の子だった。

 

「ふん、ふんふふーん……♪明日の準備もオーケー、あとは寝るだけ。よーし、今日撮った写真みよ〜っと!」

 

 スマホをいじりながら、夏休みを思い出す。私が彼女をあだ名で呼ぶようになったきっかけ……実は私達がずっと呼んでいた名前が本名じゃなくて、日本で違和感がないようにするためのものだって知った時。彼女はどちらも自分の名前だし、E組だけが呼ぶ『アミサ』は特別って言ったけど、私は彼女がどっちも大切にしてるならどっちも尊重したいなって思った。だから、あえて『アミーシャ』と『アミサ』に共通してる部分をとって『あーちゃん』というあだ名で呼ぶことにした。桃花ちゃんが提案した『アミちゃん』もちょっといいなって思ったけどね、なんとなくこっちの方がいい気がして。

 ……きっと、あだ名を付けてもらったことを純粋に喜んでいた彼女は、私がこんなことを考えてたなんて思ってもないんだろうな。だから、これからもずっと言わないつもり。

 

「ふ、ふふっ、これ、リーシャさんとあーちゃん同じ顔してる……っ今日じゃなさそうだし、殺せんせー本トいつ撮ったんだろ?……あ!今日女子みんなで撮ったやつだ〜っ!みんなでぎゅーって引っ付くの楽しかったなぁ……おー、このぬいぐるみは、みっしぃ、だっけ?ティオさんが熱弁してたやつで……あ、これも可愛い!あー、頼んどいてよかったな〜!あとはー……」

 

 私が撮った写真、あーちゃんの家で撮ってきてくれて共有してもらった写真、私達が騒いでるのを聞いて謎に対抗意識を燃やしたらしい殺せんせーがあーちゃんのお姉さん達が来てから1ヶ月くらいの間にいつの間にか撮っていた写真……今更だけどすごい枚数になってる。数枚貰えたらいいな〜くらいにしか考えてなかったのに、予想外だったし、なんか楽しくなっちゃった。

 自分の欲ついでにあーちゃんが寂しくないように〜……なんて、あの人達が断りにくくなるような理由で頼んだけどこれは正解だったかもしれない。E組はみんな男女関係なく仲良くて、団結もすごいけど、写真となると私でいえばいつも一緒にいる桃花ちゃんとの写真が1番多いくらいで全然持ってなかったから、ある意味ラッキーだったのかも?そして今回被写体の主役になるあーちゃんの写真を1番撮ってたのは当然カルマ君……だと思ってたのに、意外とカルマ君でも渚君でもなく謎に岡ちんと前ちゃんの2人だった。岡ちんは暇さえあればいつでもシャッターを切ってるからまだわかるけど、前ちゃんが撮ってるのは意外……本人曰く、妹を撮りまくってる家族写真の感覚だったみたい。1番ビックリしててちょっと面白かったな〜。

 

「この後本ト嬉しそうだったなぁ……カルマ君は不貞腐れてたけど。いろいろ思い出す前より反応が分かりやすくなった気がする。私達だって好きなんだから、全部カルマ君のおかげって思われてないといいけど〜」

 

 ……写真を撮りたいと思ったきっかけは、あーちゃんの過去を知ったから。自分を壊れてる無機物のように感じていたらしい彼女に、ちゃんと生きてる人間でみんなから使われてるんじゃなくて愛されてるんだって実感して欲しくて。義務でもなんでもなく、あーちゃんに限らずE組はクラスメイトのことがちゃんと好きで、身内だと思ってて、お互いに助け合いたんだって分かって欲しくて。

 女子の集合写真は当然だけど、カルマ君が当たり前に背後から抱きしめつつ渋々至近距離を許した渚君、磯ちゃん、前ちゃん、千葉ちゃん、イトナ君に周囲を固めさせた上で男子と密集してるところを撮った写真では、嬉しそうだし表情がすごく柔らかいからちょっと焼けちゃうなぁ。あーちゃん自身が前に言ってたけど、離れなきゃ近くにいちゃダメって考えながらもE組のことは元々大好きだったもんね……しかも1番大好きなカルマ君にも抱きしめてもらったら幸せだろう。……やっと、私達の向ける友情が、愛情が、恋情が、本トの意味で嘘じゃない関係なんだって受け入れてくれたんだよね。

 

「あとは〜……、……あれ、これ……」

 

 おまけのようにたくさんの写真に埋もれてた数枚。リーシャさん達がせっかく写真を交換し合うならって家で撮ってきてくれたやつの中に、ふわふわした服を着たあーちゃんが写ってた。……そういえばミスコンの時に、着せ替えするために服は色々持ってきたってレンさんが言ってたっけ。

 

「キーアちゃんとのツーショットだ。キーアちゃんも不思議な子だし、2人が揃うとなんか幻想的な感じ……」

 

 白くて綺麗な宝石みたいな……なんか、神秘的……、そんな不思議な物を2人で寄り添うように持ってる写真。スピリチュアルというか、今までの写真の中で1番チカラをもらえそうなそれから、不思議と目が離せなかった。

 うん、決めた。待ち受けこれにしよっと。……よし、コレで期末テストのお守りになるかな〜っ!あー楽しかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅野side

 

「……あの、浅野先輩。理事長先生から伝言です……五英傑全員で理事長室へ来るようにとのことで……」

 

「……伝言ありがとう。助かったよ」

 

「!は、はいっ!失礼します!」

 

「……、……蓮、瀬尾、荒木、小山、お前達も呼び出しだ。行くぞ」

 

「おーけー」

 

「はいはい」

 

「……てか、お前ほんとに外面いいよな……」

 

 学園祭が終わって時間ができるため、久しぶりに空きそうな放課後にお茶の誘いをかけようと、僕はA組の教室でスマホ片手に彼女へ送るメッセージを考えていた。と、そんな時にクラスメイトから廊下から下級生が呼んでいると声をかけられ席を立つ。あの人が直接僕に伝えにA組へ(ここまで)来ようとしていたとは思えないから、どこかで思い立って偶然近くにいたこの下級生へと言付けたんだろう。作り笑顔と共にお礼を伝えた僕を見て、パタパタと逃げるように駆けていく後輩の姿を見送ってから、いつもの僕として五英傑を集める。……瀬尾、うるさいぞ、僕を『僕』として知っているのはお前達のような限られたヤツら、選ばれたヤツらだけで十分だからな。

 ざわざわ。がやがや。廊下を歩けば椚ヶ丘学園の学園祭が終わった直後ということもあり、まだ浮かれた雰囲気が学校中を満たしている。あのクラスの発表がよかった、経営の素晴らしい店があった、アレはまた行きたい……中には苦言を呈する生徒もいるが、ほぼ肯定的なものばかり。 良いものも悪いものも噂となり、明日には学校中に広まっているのだろう。

 

「それにしても……浅野だけなら当たり前だけどよ、俺等まで理事長に呼ばれるなんてな」

 

「……何かやったかな」

 

「案外お褒めの言葉だったりしてな!ギシャシャシャ」

 

「……、さあな」

 

 確かに、僕一人ならともかくこいつらまで呼び出すなんてことは今までにほとんどない……何かやってしまったのかと考えてもおかしくないか。小山が焦りを隠すように笑い飛ばしているが、顔に浮かぶ冷や汗までは隠せていない……まあ、今回に関してはスポンサー契約の際にも同行させたし、それ関係じゃないかと踏んでいるが。

 五英傑(僕の手下)を伴って廊下を歩いていると、ある一角で人だかりができているのが目に入る。一喜一憂、というよりはやっぱりそうだよな、とでも言うような納得する声色の会話がパラパラと聞こえてきた。なんとなしに足を止めてみれば、生徒達の視線を集めているのは学園祭の総合成績のようだ。掲示された結果は、この僕が率いる中学部3年A組がトップ……今朝、A組を代表して表彰を受けたばかりだ。

 

「……早速中学部高等部合わせて模擬店の売り上げが載せられているみたいだね」

 

「僕達中学部3年A組が高等部の3Aを抜いてトップ、まぁ浅野君がいるし当たり前だよね!」

 

 当然だ。この支配者たる僕が考え、交渉し、指揮した模擬店なのだから1位になるのが当たり前。スポンサー契約によって飲み食い無料に加えて、僕の集客力と運営力……そして、五英傑を筆頭にそこそこ顔の広いA組全員で挑んだのだから、負けるはずがない。……だが。

 

「A組もすごいけどさ、やっぱE組が目につくな」

 

「2日目の途中で店閉めたのに3位だぜ?最後まで勝負してたらどうなってたか……」

 

「おまえ食いに行った?」

 

「そりゃTVに出てたら興味も湧くわ」

 

「「「…………」」」

 

 ……E組。エンドで、底辺で、地獄のような場所だと学園全体から扱われている、あのE組が、総合成績で3位につけた。彼女が言うには、想定していた客入り以上に店が繁盛して在庫が足りなくなり、自給自足の元である山の生態系を崩さない為にも早めに店仕舞いをしたのだとか。あの生徒が言っているように途中で店を閉めてあの成績なら、学園祭終了時間まで営業していたならあるいは。

 僕達A組は直接対決していたわけではないが、心情的にはE組と争っていたようなもの……A組の面々もだが、他の学年、クラスの生徒達の声を聞く限り、だいぶ『3年E組』というエンドの名を彼等は覆しつつある。そのあたりは僕も認めざるを得ないだろう。……そうだ。

 

 

 

 ────カシャ

 

 

 

「……浅野君?」

 

「……どうせE組までこの情報が行くのは、早くて明日以降だろう。先に知らせてやろうかと思ってな」

 

「E組までって……真尾か?あー……確かにな……」

 

 ぼやかして言ったにも関わらず、僕が知らせようとしている相手が真尾さんだとあっさりバレている……まあ、僕が連絡を取るE組生など、彼女くらいしかいないのだから当たり前といえば当たり前か。貼り出された総合成績を写真に撮り、彼女とのメッセージアプリを開く。ちょうど彼女との話題に困っていたところだったんだ、これをそれとなく送ってしまえばいい。

 

 

 

 

 

【真尾有美紗(2)】

《浅野学秀:~写真を送信しました~

 

《Amixia:……E組が、3位……

 

《浅野学秀:2日目の途中で店を閉めたにしては

      よくやったな。

      勝利を確信していた僕ですら、

      圧倒的大差をつけて勝つのは諦めたよ。

 

《浅野学秀:これから蓮達を連れてこの結果について

      理事長先生へ報告に行く。

      それが終わったら、

      久しぶりに4人も連れて

      どこかへお茶しに行こうか。

 

《Amixia:うん、楽しみにしてる。

     あと、ずっと言えなかったこと……

     ちゃんと、報告させてください。

 

《浅野学秀:……わかった、聞くよ。

      じゃあ、行ってくる。

 

《Amixia:いってらっしゃい。

 

 

 

 

 

「…………、ついに、か」

 

「浅野?」

 

「……いや、なんでもない。さっさと報告を終えてA組に戻るぞ。放課後に彼女を誘ったからな、それまでに全ての作業(後始末)を終わらせる」

 

「お、りょーかい」

 

「さて、僕はめぼしい喫茶店でもピックアップしておきますかね」

 

「僕等にも手伝える仕事があるなら割り振ってくれよ?その方が早く終わるだろうし」

 

「……まずは理事長への報告が先だからな、浮かれるなよ」

 

 彼女と約束を取り付けたことを知った4人の空気が軽くなった気がする……コイツらも彼女を認め、いつの間にか随分と好意的になったものだ。彼女を知れば知るほど、不思議な力が働いたかのように好意的になっていく。視線を落としたスマホには、ちょうど通知が来たところで……彼女の返信は、ずっと待ち望んでいた言葉を聞けることを確定付けるのと同時に、1つの終わりを示していた。彼女が何を選びとったのか気付かないフリをし続けてきて、その上機会に恵まれずに明言はされてこなかったが……本当は薄々分かっていた。彼女にとっても、今更な事だろう……それでも、こうやってきちんと言葉にしようとする姿勢はやはり心地いい。僕が好きになったのは、誰にでも誠実で噂に惑わされず自分で見聞きして判断する、そんな姿を知ったからなのだから。

 僕だってそんなに鈍くない。彼女のせい、と言うよりは彼女の隣を陣取る赤髪(アイツ)のせいだが、あれだけ見せつけられれば事実は嫌でも分かるさ。だが、特別な関係にはなれなくても好きでいることくらいは自由だろう?それに、その立場におさまってアイツを振り回すのも面白そうじゃないか。飄々と人をイラつかせるアイツを、逆にからかってやる算段を頭の中で立てながら、僕は4人を促してスマホの電源を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 理事長室の前まで来ているというのに、ここにきて中へ入ることを躊躇う4人を問答無用で後ろに従え、僕達は理事長に相対する。

 総合成績を校内に掲示する前には当然理事長にも決済が回る……つまり、父もあの結果は知っているはずだ。わざわざ僕の口から聞かなくとも分かっているはずなのに、どのように価値を得たのかを僕の言葉で説明させたいらしい。まるで模擬店運営を通して先生()生徒()の教育をするかのように。……結局僕が全ての計画から結果までを話すわけだから、いよいよ五英傑(コイツら)まで呼び出した理由が分からない。この人の事だから意味の無いことはしないはずだが……。

 

「──以上です。僕等は努力の全てを注ぎこみました。勝利に満足しています」

 

「ほう……随分接戦だったようだが」

 

「それだけE組に戦略があったという事……圧倒的大差をつけるのはほぼ無理かと」

 

「違うな。相手は飲食店だ。悪い噂を広めるのは簡単だし、食中毒なら命取りに出来る。君は、害する努力を怠ったんだ」

 

 ……、……E組ごときを潰すために、毒なり異物なり何かを混入させればよかったと、この人はそう言いたいのか?……まあ確かに、倫理的にどうこうというのを置いておくとするなら、理事長のいう事はもっともだ。手段を選ばず、ただ勝つことを求めるだけならそれが手っ取り早い方法だといえる。異物混入が噂になった飲食店など、客足が遠のいて当たり前だからな。

 だが、E組に勝つ、その為だけに無関係の人間を大勢巻き込むというのか?下手をしたら『杜撰な管理の飲食店の出店を許可した』なんて見方をされ、椚ヶ丘学園全体に大打撃だろう。『E組だから』なんて理由では、到底外部の人間を納得させられないし、バレた時のリスクが大きすぎて、とてもじゃないが実行に移せない。この人がそれを分かっていないはずがない……ということは、これはただの比喩。これに匹敵する何らかの方法を用いて、どんな手を使ってでも圧倒的な実力でもって、E組をねじ伏せるのが僕等の役目だったのだと、そう言うことなんだろう……?……だが。

 

「……お言葉ですが、理事長。あなたの教育は矛盾している。どうやったかしらないが、E組はこの1年で飛躍的に力を伸ばした。僕等、選ばれたA組と張り合うまでに……癪だが、僕自身も能力の伸びを感じます。奴等が刺激になっている事は否定できない」

 

 体育祭の時。僕は圧倒的大差をつけてE組を絶望させる為に、同じ年齢ではあるが様々な分野で屈強で体格もかなりいい留学生を招くというルールのギリギリで勝負した。対してE組は、圧倒的不利の立場から決められたルールの穴をついて這い上がってきた。数でも装備でも力でも勝っていたはずなのに、僕等は終始奴らの手の上……A組のクラスメイトを信用せず、僕一人に負担が来る形で勝負したからこその敗北だと、今では思う。

 だが、その経験を経たからこその学園祭。計画や指導こそ僕がしたものの、人脈、ステージ、接客などはクラスメイトが中心となって動いていた。全て、E組と争っていたからこそ気付くことができた。

 

「強敵や手しt……いや、仲間との縁に恵まれてこそ強くなれた」

 

……今お前、『手下』って言いかけたろ……

 

うるさい。……とにかく、弱い相手に勝ったところで強者にはなれない。それが僕の結論であり、それは……あなたの教える道とは違う」

 

 今でも後悔し思い返す……あの時ああすれば、こうしておけば、と。だが、あの時に戻れたとしても、僕は僕が信じるものに固執し続け、何度でも同じ選択をし続けるだろう。だって、あの時僕が信じているものに迷いなど一切なかったのだから。勝ち続けることは何よりも気持ちがいい……だが敗北から学ぶものだってある。僕は身をもってそれを知ったのだから。

 僕の話す言葉を聞いていた蓮達4人も、僕と同じ思いを持ってくれているのだろう……理事長から逸らしていた視線をまっすぐと向けている。1人でなんとかしなければならないのは、もう終わりだ。僕には頼ってもいい仲間がいる。その気持ちをもって僕も理事長をまっすぐ見つめていると、静かに目を閉じながら聞いていた彼がおもむろに口を開いた。

 

「……そうか。そうだね……、……浅野君、3分ほど席を外してくれないか。友達の4人と話がしたい……なに、ちょっとした雑談さ」

 

「……?いきなりなにを……」

 

「出ていろ、浅野君。3分くらい別にいいよ」

 

「外で待っていてくれ」

 

 僕との問答に何の関係もない言葉を向けられて、特に直接威圧を向けられたわけでもないのにたじろいでしまう。その隙に蓮が話を受けてしまった。心配するなとばかりに軽く瀬尾に背中を押され、理事長室から出されることになった。

 ……なんなんだ、いきなり。確かに、いつもなら連れてこないアイツらまで今回の報告には呼ばれて不気味に思っていたが……この3分間の雑談が目的だったのか?それは、僕が聞いてはいけない、何か問題のある話なのか?それとも、理事長があの4人へ要件を伝え、後から正確に僕へ連絡する訓練……いや、これはないな。合理主義な理事長のことだ、こんな回りくどいことをするくらいならアイツらを通すことなく1度で済ますだろう。

 

「……浅野君、入っていいよ」

 

「……!」

 

 3分という時間は、短いようで結構色々できる長さがある。ディベートなどで自分の意見を発言する際は1分以内に収めろという程だ……その3倍の時間。何を話していたかは知らないが、何かしらの要件を伝えるのには十分すぎる時間が過ぎて、やっと入室の許可が出た。

 僕は言葉通りに理事長室の扉を開き、さっさと4人を回収して戻ろうとしたんだ。だが、中の様子がおかしい……たった3分の間に理事長室はおどろおどろしい黒ずんだ負の気配で満ちていて……

 

「っ、蓮、瀬尾!?」

 

「「「「……すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE……」」」」

 

「な、何を、」

 

「ちょっと憎悪を煽ってあげただけだよ。君の言う『縁』なんて、二言三言囁くだけで簡単に崩壊する。私が教える『強さ』とは……そんな脆いものではない」

 

 慌てて中へ入ったが、既に蓮達4人は先程僕を送り出してくれた彼等では無くなっていた。何を見ているのかハッキリしない虚ろな瞳で、ただただE組への憎悪を垂れ流す……

 

 ──洗脳……そう表現してしまっていいだろう。

 

「圧勝できない君の『強さ』など、誰も信じないだろう……だからこそ、私が出るしかないようだね。二学期期末テストは、私が全て執り仕切る。強くなければ何の意味も価値もない、それを一から教えてあげよう」

 

 体育祭の時には……いや、それよりも前、真尾さんと交流を続ける上で薄々感じてはいた。何があったのかまではわからないが、確実にE組は世間一般でいう良い方向へと変わったのだということを。……父はそれが気に入らないのだ。

 常に『最底辺』で『悪いお手本』であり『最悪な環境』で『誰もが諦めている』のが、父の用意したE組だったはずなのだから。『上を目指し』、『成長』を見せ、『勉強するのに適切な環境』で『誰もが真っ直ぐ前を向いている』のは認められない。

 

「用件は以上だ。さあ、教室に戻りなさい」

 

「…………っ、」

 

「……どうかしたのかな?」

 

「、……失礼、します」

 

 理事長が何か仕掛けてくることなんて、想像できただろうに、これは全て、油断した僕の落ち度だ。おぼつかない足取りで退室した4人を尻目に、僕は理事長への言葉を探す、が。……何も、出てこない。何も、……頭の中が真っ白だ。目の前の人は変わらない笑顔。何も見えない、底を見せない、空虚な。いつも、いつもそうだ。この人は、こんな数人では崩せない。もしかすると、A組全体でかかったとしても。幼い頃からこの人の教育を受けてきた、受け続けてきた、僕でさえも。

 なんとか、退室の言葉を絞り出し、震える足を動かして理事長室の出入口へ向かう。扉を開け、振り返ることなく扉を閉め……その場で、扉を背に力が抜けた。ズルズルと廊下に座り込み、片手で顔を覆う。結局僕では、僕、1人では……太刀打ち出来そうになかった。

 

 

 

 

 

「……はは。……、……くそ、……やられた……っ」

 

 ……約束は、果たせそうもない。

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

「……あとは、想像がつくだろう?先の五英傑4人と同じように、僕以外のA組生徒にはE組への憎悪を植え付けられたと考えていい……僕は、途中でA組から出されてしまったからね、最新の情報はわからない。理事長の期待に応えられなかった僕がA組にいては、……僕という逃げ道になりうる別のトップがいては、理事長の教育にとっては雑念となり邪魔でしかないから、じゃないかな」

 

「「「……………」」」

 

「これが、A組の現状だ。流石の僕でも、1人では対応できそうにない……むろん期末で1位になるのは僕だが、優秀な生徒が優秀な成績をとっても意味が無い。彼等には、……理事長には、君達のようなゴミクズがA組を上回っている事実を突き付けてこそ、彼等が信じる教育(強さ)をぶち壊せるのだから」

 

 2学期期末テスト以降もE組に在籍する生徒以外の椚ヶ丘中学校生徒は、基本内部進学で高校へと上がる。そこでも同じように学力や個人の資質でクラス分けをされる。中学校で選ばれたA組生は、高校に進んでからも支配者である僕を支える手駒だ……だが、偏った強さの手駒では、いつか限界が来るだろう。

 時として敗北は、人の目を覚まさせる……この僕が、敵を憎み、蔑み、陥れる事で手にする強さでは足りないのだと思い知らされたように。

 

「だからどうか、──正しい敗北を、僕の仲間と父親に」

 

 コイツらに頼むのは、正直今でも腹立たしい。だが、コイツらなら何とかする、任せられると思えるのも確かだ。使えるものは何でも使う……その一心で、この僕が、コイツらなんかに、わざわざ頭を下げた。……だというのに。

 

 

 

 

 

「え、他人の心配してる場合?1位取るの君じゃなくて俺等なんだけど」

 

「わ、わぁっ!」

 

 

 

 

 

 …………この男は……ッ

 

 顔を下に向けていても分かる……さっきまで興味なさげにしていたくせに、何を思ったのか赤羽業が僕のすぐ側まで来て僕を煽りにきているのだということを。イラッとした感情をどうにか押し殺してゆっくりと顔を上げれば、舌を出しながら余裕な表情で僕の顔を覗き込む赤羽と、……後ろの方で見ていたはずなのにここに居るということはこいつに無理やり連れてこられたのだろう……オドオドと所在なさげに視線を揺らす真尾さんがそこに居た。

 

「言ったじゃん、中間の時に。次はE組全員容赦しないって。俺とアミーシャで同点1位取って、その下もE組……浅野クンは10番あたりがいいとこだね」

 

「おーおー、カルマがついに1位宣言……巻き込み事故で真尾も宣言したことになんのか?」

 

「え、えぇッ!?私も……っ!?」

 

「いや私もっていうより、お前はもうちょっと欲張れよ……」

 

「1学期期末と同じ結果はごめんだけどね」

 

「ッ、ちょっと、それ掘り下げないでよ……」

 

「今度は俺にも負けんじゃねーのか、ええ!?」

 

「……………………………………………………………。」

 

「どわッ、イッ、がぁッ!?ま、マジで蹴んな……デェッ!?」

 

「……今のは寺坂くんが煽るタイミングを見誤ったせいだと思う……」

 

 ポツリと真尾さんが呟いたことに同意だ。明らかに赤羽と学力が違いすぎるだろう……何故そこで煽ったんだ、寺坂竜馬。

 

「浅野、俺等は今までだって本気で勝ちに行ってたし、今回だって勝ちに行く。いつも俺等とお前らはそうして来ただろ。勝ったら嬉しい、負けたら悔しい、そんでその後は格付けとか無し……もうそろそろそれでいいじゃんか。『こいつらと戦えて良かった』って、A組(おまえら)が感じてくれるよう頑張るからさ」

 

 照れ隠しなのか寺坂に対して物理的に攻撃し始めた赤羽から意識を外し、僕に話を続ける磯貝を中心にE組生へ目を向けてみた。明らかな敵意を向け、様々な方法で陥れようとしてきた僕の依頼なのだから、彼等からは恨みや怒りを向けられているものだと考えていた。何も手が打てず、最後の手段として頭を下げに来たのだから、断られてもおかしくないと思っていた。支配者としてトップに立ち続けた僕が、たった1人しかいない父親()を捌ききれず、何も出来ないままに仲間を失った僕を憐れむ顔があると思っていた。

 ……なのに、どうだ。彼等が僕に向けているのは見下すものじゃなく、対等に、真っ直ぐに、ただの浅野学秀という個人を見たものだったのだ。

 

「ま、とりあえず、……余計なこと考えてないでさ……殺す気で来なよ。それが1番楽しいよ」

 

「……浅野くん。誰かの期待に応えるとか、誰かに煽られた殺意なんかじゃなくて……自分の衝動で動くっていうのも……案外いいものなんだよ」

 

 予想外のそれらに、呆気にとられていたがゆっくりと現実に戻ってくる。

 僕は2学期期末テストで学年1位になる。E組は学年上位を独占する。赤羽は僕を蹴落とし1位を目指す。真尾さんは……自分の思うがままにテストに向き合う。……つまり、今回に関しては僕もA組の事は考えなくていい。僕も、A組を率いる浅野学秀ではなく、ただの浅野学秀として戦えばいいのか。脇目も振らず、トップを目指せばいいのか。支配者として下の者を考える事なく、自分の思いを優先していいのか。……何故だろう、父を意識し続けて重くなっていた心が軽くなったように感じる。

 

 

 

 

 

「……フッ、面白い。ならば僕も本気でやらせてもらう」

 

 

 

 

 

 このテストの間くらいは……父なんて関係なく、……僕の好きにしていいのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅野side

 次のテストが終わったら、きっと五英傑の4人も自分を取り戻すだろう……いや、何をしても取り戻させるが。そうしたら、約束通り真尾さんに告白し直して、彼女の返事を聞かせてもらおう。まあ、結果は負けるはずなんてないから僕の単独トップ、あって真尾さんと同率1位だろう。赤羽への挑発はこれで十分だ。欲を言えば、周りに乗せられてるだけの真尾さんを上手く自分の意思で真剣勝負に持ち込ませたいが……この場ではさすがに難しいか。

 背後で暴れる物音、それを止める声が聞こえるのを愉快に思いながら、校門へ足を進めていたら、

 

 

 

「あ、そーだ。ねぇねぇ、浅野ちゃん」

 

「「「ぶっ……!?」」」

 

「あ、浅野ちゃ……ッ!?」

 

「っく、ふ、あッはははははははッッ!!」

 

 

 

 ……想像もしない方向から足を止めざるを得ない爆弾を投下された。

 

 

 

「ん〜?……ま、いいや〜。浅野ちゃんってスマホは自分でカスタムしてるの?スマホの設定いじったりしなさそうなイメージだけど……あーちゃんとメッセージ送りあってるってことは、そのためのアプリくらいは自分で入れてそうだけど〜」

 

 よくない!と叫びたくなった……何故、僕のことを『ちゃん』付けなんだ……っ!?のほほんと自分の落とした爆弾に気付いていなさそうな倉橋さんは、僕だけでなく吹き出したE組をも不思議そうに見つつ、マイペースに話を繋げてきた。

 ……スマホの設定、だと?期末の話はどこに行ったんだというくらい、全く関係の無い話題を振られて流れが掴めずに、怪訝な表情が表に出ているだろう……一蹴してもいいが……まあ、気まぐれに答えても問題ないか。……腹を抱えて笑っている赤羽は覚えていろ。

 

「……スマホなど連絡用に使えれば問題ないからな。自分で入れたアプリ以外は、ほぼ初期設定のままだが……ああ、そういえば最近蓮達が共有しやすいためだとかで何やら設定していたな。……それがなんだ」

 

「なるほど!だったらできるかな〜……やったできたっ!はいこれ、お裾分けしてあげる〜!」

 

「は?……、……!」

 

 僕が答えた瞬間に倉橋さんが手元のスマホを操作すると、程なく僕のスマホが小さなバイブで通知を知らせてきた。タイミングからして彼女からの何らかのアクションだとは思うが……何故メッセージアプリのアカウントやメールアドレスを交換していないコイツから?ニコニコと笑いながらスマホを見るように促す彼女を怪訝に思いながらスマホを立ちあげると、画面には……

 

「……これは、真尾さんと……」

 

「ふっふっふ……ご利益あると思うよ〜っあーちゃん達の写真!私もお守り代わりで待ち受けにしてるんだ〜」

 

「えっ!?ひ、陽菜乃ちゃんっ!?な、なんで浅野くんにあげちゃってるの……っ!」

 

「はぁッ!?ゲホッ、……はァ?!何やってんの倉橋サン!?」

 

 これは、以前瀬尾がやり方を話していたな……対応する機種同士でなら、連絡先が分からなくても設定次第で画像やファイルのデータを送りあえるとかいう。僕は全く使わない機能なせいで、今の今まで知らなかったが。それよりも写真だ。目を閉じた真尾さんと黄緑色の髪をツインテールにした少女が、2人で真っ白な宝石……?を掲げ持っている。どこか神秘的にも見える画像を受信するか否かプレビューとして表示されていて……ッ!?

 

 

 

 

 

────ザザッ……

 

 

 

 

 

〝……、じゃあ、誰にも言えないお話を聞かせられる人だからこそ、……カルマには……ううん、E組のみんなには、絶対に伝えないつもりのこと、教えてあげる〟

 

〝……え?〟

 

〝私ね……────〟

 

 

 

 

 

〝……アミサは、ね……真尾有美紗はもう、みんなとは一緒にいられない。近いうちにいなくなろうと思ってるんだ〟

 

 

 

 

 

〝……な、ん……?〟

 

〝……なんて、……えへへ、ビックリした?〟

 

〝……、タチの悪い冗談はやめてくれ……〟

 

 

 

 

 

────ザザッ……

 

 

 

 

 

〝…………はぁ?〟

 

〝……今、なんて……〟

 

〝……昨日の夜に真尾が……今朝、カルマが、……死んだ〟

 

〝…………冗談だろう?〟

 

〝……何、言ってんだ……?〟

 

〝…………、………………は、はは……磯貝、お前、……そんな嘘、笑えな……〟

 

〝……嘘なんかじゃないわよッ!!……私達だって信じたくないッだけど、目の前で……ッ!今日の卒業式、皆で迎えようねって言ってたのに……本ト、なんでなの……2人とも……ッ〟

 

〝……本当は外部には国家機密に当たるから他言無用なんだけど……E組や関係者で話し合ったんだよ。お前には……あの2人を知ろうと、救おうとしてくれていたお前達にだけは、正しい情報を伝えておくべきだって……〟

 

 

 

 

 

────ザザッ……

 

 

 

 

 

 ……それを見つめていると、ふと、何かが頭の中を、何かの映像が流れていった、……ような気がした。

 

 

 

 

 

 数秒その情報に気を取られて固まってしまったが、意識がこちらに戻ってきた時には、今まで笑っていた赤羽が驚きすぎてか咳き込みながら倉橋さんに詰め寄り、当事者な真尾さんは送られたものが自分の写真だということを知り慌てて僕の所まで追いかけてきてスマホに手を伸ばしているところだった。

 必死な彼女の手から逃げるように静かにスマホを持つ手を頭上に掲げれば、身長の低い真尾さんには全然届かなくなる……左右に揺らす僕の手の動きに合わせてぴょこぴょことスマホを取ろうと飛び跳ねる彼女を見るのは、どこか楽しい。

 

「あ、浅野くん、消して……!」

 

「…………もう保存した」

 

「ええぇ……っ」

 

「文句があるなら写真を送り付けてきたそいつに言え。まあ……消してもいいが2つ、条件がある」

 

「……っ、っ、じょう、けん……っ!?」

 

「ああ。まず1つ目は、この写真……テストが終わるまではこのまま持っていたい。消すとしてもその後だな……だいたい、倉橋さんなら君の写真を所持していてもいいのに僕はダメというのが納得いかない」

 

「う……だって写真なんて恥ずかしいし、一応私だけじゃなくて知り合いも写ってるから……。でも……消してくれるなら……いいよ」

 

「うん。それで2つ目なんだけど……」

 

 そこで、少しだけ考えた。今のは……白昼夢か?それにしてはやけに鮮明だったが。

 まず見えたのはどこかの喫茶店で、真尾さんと2人で話していて……誰も話すつもりのない内緒のことだと冗談めかして打ち明けられた、彼女の進路。そして砂嵐のように映像が乱れて、たくさんの生徒が視界に入る。胸に花を挿し、普段着崩している奴らまで全員しっかりと制服を着ていることから、卒業式当日だろうか?五英傑揃って会場の隅へ連れていかれ、E組クラス委員の2人から告げられた信じられないようなこと。真尾さんと少女の写真を見た瞬間、過ぎ去った謎の光景……当然、僕にはどちらも心当たりがない。

 

「…………」

 

「……あの、浅野くん……?」

 

「あ、ああ……2つ目は、僕と勝負しよう」

 

「!」

 

「単純な点数勝負だ。君が勝てば写真の消去、それに何か1つ君の願いを聞こう。僕が勝てば写真はそのままだし……そうだな、君がA組へ転級する、なんてのはどうかな?」

 

「「「は!?」」」

 

「君を僕の支配下に入れたいわけじゃない……だが、僕は君を手元に置くことを諦めてないからね」

 

「……?」

 

「真尾さん?」

 

「あっ、ううん……、その、……嘘、ついてる……?」

 

「……、……はは、真尾さんには敵わないね。ああ、本心でもあるがそれだけじゃない」

 

 周りは「まだそんなこと言うか!」みたいな怒りと驚きの声を上げてるって言うのに……真尾さん本人は、何かに気付いたように戸惑った表情でスマホに伸ばしていた手を下ろした。やはり君は嘘や思いを感じ取る感応力の高い子だ。ほぼ本心から話していた僕の真意が違うところにあるってことを察したんだろう、でもなぜ勝負を持ち出したかまでは分からないってところか。

 後ろの方で寺坂竜馬に押さえつけられながら暴れる赤羽を横目に、そっと彼女の頭を撫でる……他の五英傑は未だに触れることを許さない彼女がなんの抵抗もなく僕の手を受け入れる事実に、少しだけ気分が浮上した。

 

「……浅野くんは、私と勝負したいって、こと……?」

 

「……ああ、そうだね。君に嘘は通用しないだろうから本音で話そう。君、E組の上位独占やトップを狙うのに自分を勘定に入れてないだろう?50位以内に入っておけば、あとは他の人が達成してくれる、みたいな……写真のことを抜きにしても、本気になった君とも戦いたい」

 

「……!……わ、かった。受けます、その勝負」

 

「それに、……近くに置けば、君を失う事も……

 

「……?」

 

「……なんでもない。じゃあ、期末を楽しみにしているよ」

 

 もしかして、E組は危険な場所なんじゃないか。そんな考えが過ぎるが、証拠もないし真尾さん本人が本校舎にいた頃よりも生き生きとしてるから連れ出したくない。だが、僕の知らない場所で居なくなられたら全てが後手に回る……そんなの、何も出来ないじゃないか。いろいろ並べ立てたが、要は彼女がいなくなるのも、命を落とすことも、僕はあって欲しくない。……癪だが赤羽も、な。

 そして。意図せず本気になった真尾さんと争いたいという欲が叶った形になった。

 

 

 

 

 

 ……これは結果の分かっている勝負に対抗できる、真尾さんと赤羽を引き離す、ある意味最後の勝負だ。僕にとっては1つのケジメ……負けるわけにはいかない。

 

 

 

 

 





「……浅野君、遊んでるよね」

「アミサ、ちっさいから……でも、本気出したら絶対取れるんだろうけど」

「恥ずかしさと慌ててるので『自分なら奪える』ってことを忘れてるんでしょ。面白しほっといていいと思う」

「ぴょこぴょこやってるのを見てるこっちは癒されてるしな」

「なんか浅野に親近感わくわー……アイツも人間だったんだなって」

「言い方はひどいけど同感だわ。……私としては、そこで暴走しかけてる彼氏の方をなんとかすべきだと思うんだけど……」





「離してよ鷹岡もどき、邪魔なんだけどっ!」

「離したら、お前、浅野に、突っか、かる、だろうがっ!」

「なんでアイツのスマホに、アミーシャの写真があることを許容しなきゃいけないのさ!」

「相変わらず心狭ぇーぞ、お前っ!」

「……クソッ、律、」

「チート技に頼んな!」

「……チィッ」





「「「…………」」」

「……どーするよ?」

「八つ当たりくらいたくないし、寺坂をあのまま生贄に捧げるに一票」

「それはさすがに……」

「寺坂君を救出するにしても、もうちょっと落ち着かないと手が出せないって」

『あの、浅野さんのスマホの中身を先程見てきましたが、ミスコンのアミサさんの写真も保存されてるようでしたし……倉橋さんがお渡ししたのが増えてもあまり変わらない気がします』

「「「律……;」」」

「浅野君もちゃっかりしてんなぁ;」

「頼むからそれ、カルマには絶対言うなよ……?」

「火に油を注ぎたくないわー……」

「浅野君、律のこと知らないもんね……まさか個人情報知られてるとは思わないでしょうし」

『……?よく分かりませんが……了解です!』





Q.随分あっさりと引き下がりましたが、勝負に負けたら写真を消すことになりますよね?

A.「消したとしても、元のデータは倉橋さんが持っているんだろう?」
訳:またもらえばいい



++++++++++++++++++++



第1部では意図的にこのタイトルは使わなかったんですね。ここで使いたかったから!第1部との差をつけるために、全て浅野君視点のお話としました。流れを変えるために、後半少し言動に変化をつけていますが、裏側はこんな感じだったんじゃないでしょうか。



倉橋さんと浅野君のやり取りはアレです。某りんごマークの端末同士で使える○irdr○pという機能ですね。最近はAn〇r〇id端末でもものによってはできるみたいですが。今回は写真を唐突に送るシーンを入れたかったので、五英傑がスマホを触ったことにしてしまいましたが、設定次第で便利ですが悪用されることもあるようですので……お気をつけ下さいm(*_ _)m



浅野君が何やら見ていますが、今回は特にその現象の説明はしません。〝存在しない記憶〟ってやつです。でも、浅野君も当然1回目の世界を生きてるわけなので……もしかしたら、回帰前の1番忘れられないものが、彼にもあったのかもしれませんね。



では、次はテスト編に入る予定です!
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