暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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ありがとうございます!

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★136話 二学期末の時間・一時間目'

 

 浅野くんに『2学期期末テストの上位50位をE組が独占する(浅野くんは除く)』ことを頼まれた放課後の次の日から、私たちE組はとにかくガムシャラに勉強した。……まあ、浅野くんから依頼されなかったとしても、元々E組全員がトップ50以内に入ることは決めていたから、あの出来事はきっかけの一つに過ぎないと思うけど。強いて言うなら、あれのおかげでみんなのやる気に余計火がついたって感じかな。頑張る、頑張らなきゃいけない理由も増えたことだし。

 敵を憎み、蔑み、陥れることで得る力を使い勝利することが完璧な勝利だと信じる浅野理事長先生とA組の目を覚まさせる。そのためにE組全員が50位以内に入り、その上で上位を独占すること。カルマは浅野くんを抑えて1位になること。浅野くんは陽菜乃ちゃんが提供した写真を保持し続けるため、そして自分のために1位をとること。私は……E組に居続けるために、私と戦いたいという浅野くんの希望に応えるために、私自身の意思で1位をめざす。正直もう写真はどっちでもいい、クラスもあんまり気にしてない、ただ……純粋に勝負がしたいという浅野くんの本気に応えてみたくなっただけ。

 

「みなさん、必要なものがあれば先生に。よっぽどの事がなければ提供しますよォ!」

 

「英語の発音、リスニング系は私に聞きに来なさい。多分あの理事長のことだから私の『相手に伝わる会話術』じゃない、分かりやすくできるのにわざと簡単に言い換えない『教科書通りの単語』を使う可能性が高いわ」

 

「テスト対策はそこのタコとイリーナから聞け。問題集の採点や必要物品の用意は俺が手伝うから声をかけろ」

 

 ……そうそう、テスト2週間前になって、ついにテスト範囲が確定したの。この日までは本校舎も含めて各クラス授業の進度がバラバラだったから、テスト範囲はある程度の所までしか予測できなかったんだけど……発表されたそれは、尋常じゃないくらい広かった。しかも当たり前のように難しいし、学校で配布されている問題集以外で参考書として上げられている問題集の数のえげつなさ……各教科十数冊以上あるって、どういうことなんだろう。学校側は買わせる気ないよね……?本校舎は図書館にありそうな気もするけど。

 あくまで『参考』だから買い揃える必要は全く無い、でも参考として挙げられてるからにはここから応用問題が作られるだろうから、上位を目指す以上範囲内の基礎が終わって余裕があるならやっておきたいなー……どれか1冊くらい買っておいたほうがいいかなー、とみんなが思っていた時だ。

 

「『数Ⅲエキスパート問題サンプル』」

 

「あります」

 

「じゃ、じゃあ『読解理論化学』はどうですか?」

 

「ありますねぇ」

 

「…………『応用発展!古典』は?」

 

「もちろんあります。そのシリーズも古典・漢文・現代文全てを揃えてありますよ!」

 

「なんで先生問題集(これ)、全部持ってるの!?」

 

 ……範囲表に載ってる問題集、殺せんせーがまさかの全種類持ってたという。なんでも先生になる以上、私たちに教えられないことがあると困るからって、日本にある問題集を全種類買い集めて、全部解いてって殺せんせーなりに勉強したらしい。しかも今年発売された新しい問題集も全部買って解いてあるとか……万能すぎてちょっと怖い。

 殺せんせーは、旧校舎を家代わりにして住んでると言っても過言ではないから問題集はこの校舎内にあるし、頼めば貸してくれるらしくて、みんなは次々に先生へ声をかけている。

 

「……ん?ちょっと待て、参考問題集に指定されてるこれ、明らかに大学入試レベルだろ!」

 

「あー、ホントだ……俺等、中学生なんすけど……」

 

「こんなにたくさん……期末テスト作る先生たちも大変だね、範囲広すぎて問題絞るの大変そう……」

 

「アミサ、そこは問題じゃない。先生の事情とかどうでもいいから」

 

「今問題にしてるのは、先生の負担じゃなくて、受験する私達が解ける問題が来るかどうか、だよ〜……」

 

 試験範囲を考えた人……まあ、多分、理事長先生なんだろうけど……は、どこまで上の実力を私たちに求めるつもりなんだろう。当事者な私たちから言うのも変かもしれないけど、椚ヶ丘中学校の3年生はほんの一部の人を除いて巻き込まれ事故だよね。自分の身の丈に合わないテストを強いられるって……偏差値の高い進学校という言葉にあてはまらなくなりつつあると思う。それでも『椚ヶ丘』の生徒という誇りのためか、E組もA組もそれ以外のクラスも一生懸命だ。杉野くんからの進藤くん経由で、B組も上位に食い込もうともう勉強してるって情報が来てたりする。そんなことを聞いちゃったら、なおさら負けてられないよね。

 私たちは分からないことがあれば、前以上に本気で分裂してる殺せんせーの分身に聞きまくったし、英語の正しい発音なんかはイリーナ先生にお願いして、ネイティブな生の声で何度も確認した。ただ教えてもらうだけじゃなくて、クラスメイト同士得意なものを教え合うことで、自分の得意教科の穴を探して潰していくことも試した。

 

「ん?なんでここがこうなったんだ?」

 

「ちょっと見せて。……えーっと、あ、ほらこの文にさ……」

 

「あ、そういうことか!!」

 

「……そっか、この文があると似てる定理がごっちゃになるんだ。言い換えるとこういう出題で来る可能性もあるってことか……」

 

「カルマ!数学のここ教えてくれ!」

 

「奥田さん、これの解答ってこことここが……」

 

「は、はいっ!」

 

「ちょっと待ってこれの考えまとめてから……」

 

「お前そう言った結果違う公式の応用に発展して戻ってこなくて昨日放置したじゃねぇか!今日こそは俺らを優先しろよ!」

 

 殺せんせー曰く、分からない・解けない人って、できる人からすると『なんでこんなところで引っかかるのか』って思う部分でつまずくらしい。ということは、できる人からすると、そのつまずく部分を疑問に感じることがない。テストというものはそんな小さなつまずきを突いてくるもの……教える側が教えられる側のちょっとした疑問に答えられて、引っかかりやすい場所を知って意識できてこそ、その問題を理解したってことになるだろうって。

 得意教科がある人は自分の勉強と並行してクラスメイトの疑問に答え、苦手教科がある人は遠慮せずに先生やクラスメイトに聞く。少しでも疑問があればすぐに、気になる範囲を教え合う場があれば近くに行って一緒に聞いて。コラムに載るような見落としそうな部分を殺せんせーや烏間先生が見つければ共有して、わざとイリーナ先生と英語のみで会話する時間を作って生の英語に耳を慣らして……とにかく試験当日までの2週間は今までにないくらいの時間、みんなが勉強に向き合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────そして、決戦の日。

 

 E組の私たちもこの日ばかりはE組校舎(私たちのフィールド)を降りて、本校舎(アウェイな環境)で戦わなくちゃいけない。本校舎の生徒は自分たちのクラスでテストを受けるけど、私たちは校舎の端にある空き教室が試験会場になる……そこへ向かう途中、他のクラスの前を通ることになるんだけど。

 

「「「……すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE組殺すE……」」」

 

「なんっつー目をしてやがんだ……殺気立つってこの事か」

 

「恐ろしく気合い入ってんじゃんA組の奴ら。カルマにアミサ、アンタら勝てんの?」

 

「どうだろ?……でも、」

 

「本気で殺す気ある奴がいたら手強いよね」

 

 浅野くんが言っていた通り、廊下から見えるA組生たちはE組に対する憎悪でかなり怖い目をして私たちを見ていた。殺気立っててまるで呪文のようにくりかえされるそれは理事長先生の教育の賜物……なんだろうけど、それがいつまで続くか。あの殺気立つA組生徒の隙間からチラッと見えたのは、一人席について目を閉じている浅野くん……やっぱり、私たち以外で本気で殺す気で挑んでくるのは……彼だろう。

 A組の教室を通り過ぎようとしたまさにその時、目を開けた浅野くんと目が合った……気がした。廊下を見つめる彼の柔らかく細められた目と小さな微笑みは、誰に向けられたのだろうか。

 

 

 

「……ねぇ、あーちゃん。A組に行かないよね……?」

 

「……え」

 

 

 

 ぼうっとA組の教室を見ていた私に、陽菜乃ちゃんがかなり申し訳なさそうな顔をしながら話しかけてきた。その顔は、雰囲気は、いつもの天真爛漫な彼女からかけ離れていた。

 

「浅野ちゃんと個人的な賭け、したでしょ?テストの点数で負けたらA組に転級って……言い方変えたら、わざと負けたり少しでも気を抜いたりしたらA組になるってことでしょ?あーちゃんはそんなに深く考えてないかもだけど……私、あーちゃんとは最後まで一緒のクラスのままがいい」

 

「……ひ、陽菜乃ちゃん?いきなり、どうしたの……?」

 

「いきなりなんかじゃないよ!少し距離が縮んで(名前で呼んでくれるようになって)から、ずっと、ずっと思ってたんだからっ!……あーちゃんって、分かってないようで意外と理解(わか)ってるし、それでいてわかってないんだよ。それにあーちゃんが考えてることって結構わかりやすいんだよ?浅野ちゃんも言ってたけど、今回だって最初は『50位以内には入るけど上位争いはどうなっても構わない』って思ってたのって、嘘じゃないんでしょ?」

 

「……っ!」

 

「浅野ちゃんが言い出さなかったら、多分私か、E組の誰かがあーちゃんを本気にさせるために仕掛けてたよ、勝負。あーちゃんの過去を知った時から、前よりは自分の意思を出そうと頑張ってるけど……まだまだ自分から何かに本気で向き合うってことは少ないよね」

 

「……陽菜乃ちゃ、」

 

「……まだ、あーちゃんがそういうのが難しいっていうのは分かってるつもり。だから、私達じゃなくて浅野ちゃんがあーちゃんの本気を引き出したのかなって思ったら悔しくなっちゃった。……だからといって結果的にこの勝負内容になったのって、私のせいでしょ〜……私が、浅野ちゃんに、写真送ったから……」

 

 浅野ちゃんは敵だけど、アミサちゃんを想う人って意味では仲間だし、何か激励みたいなことしたかっただけなの〜……そう、歩きながら私の腕に抱きついてボソボソ言っていたらしい陽菜乃ちゃんの言葉は、ほとんど私の耳に入ってこなかった。

 

『分かってないようで理解ってるし、わかってない』

 

 陽菜乃ちゃんは根拠を持って言ってるわけじゃなさそうだし、上手く表現できなかっただけだろう。それでも、ある意味その一言は的を得ていた。

 ……そう、私は。分かってることも分かってないことも、全部同じように分からない()()……ううん、いらないものとして認識せず、排除していたんだ。突出した頭の良さは時に孤立を招き、周囲に溶け込むどころが存在を目立たせてしまう。これまでは『私』をいつか消さなくちゃいけないのに、そんなことをしたら意味が無いって信じてたから。それに、わからない素振りを見せておけば、知っておく必要のあることならその人が理解している分懇切丁寧に教えてくれる。

 

 ──その人の理解している幅を知ることが出来る

 知る必要のないことなら、大抵の人は無理に教えようとすることはない

 

 ──私にとって必要ない情報を遮断できる

 もっとも、私にとって擬態するに都合のいいその姿を天然とか鈍感とかって受け取られて……この性格を意識して作って(偽って)るつもりはないんだけど。あれ、自覚できてないからこそ天然なんだっけ?……まあいいや……それにしても。

 

 

 

……なんで……

 

 

 

 ……なんで、陽菜乃ちゃんはそんなに沈んでるんだろう。だって、50位以内を目指すプレッシャーがあるのは陽菜乃ちゃんたちにも変わりは無いとはいえ、立場をかけた勝負をしてるのは私だけのはずなのに。

 

 ……なんで、こんなに寂しそうなんだろう。みんなと一緒にいたいのは変わらないけど、もう、私は私であることを捨てるのをやめるのだから、卒業するまでって区切りもなくなって、E組でもA組でもずっとみんなといるつもりなのに。

 

 ……なんで、今、私に話しかけてきたの。これからテストを受けるのに、今からそんなテンションで上位50位以内なんて目指せるのだろうか。集中、できるのかな。

 

 ……なんで、こんな個人的な賭けを陽菜乃ちゃんが気にするの。

 

 ……なんで、自分じゃなくて私を気にするの。

 

 ……なんで、なんで?……なんで。

 

 

 

 

 

 ……これが、私が認識できていない、人から私に向けられる感情、というものなのか。

 

 

 

 

 

「……全部がそうとは言えないんじゃないかな」

 

「……渚君?」

 

「確かにきっかけはそれかもしれないけど……元々彼も言い出すつもりはあったんだと思う。僕は浅野君じゃないし、本心は分からないけど……本気で、他人のことを気遣おうとした彼のことだから……このテストを、一種のケジメをつける場にしたいんじゃないかな。E組とA組……旧校舎の落ちこぼれと、本校舎のエリート。中学校生活最後の、同じ舞台で戦うことが出来るこのテストを」

 

「そうそう、だからさー、倉橋ちゃんも気にしない気にしない!結局はアミサと浅野だけじゃない、E組全体も頑張ることには変わりないんだから。ここで無様な結果を出したりしたら、たとえ暗殺に成功しても胸なんか張れないっしょ?」

 

「陽菜ちゃんの言う通り、アミサちゃんに本気で1位を狙って欲しいっていうのはE組の総意だと思うよ!E組でカルマ君と並んでのトップランカーなんだから、今回に関しては浅野君が仕掛けてくれてよかったと思う」

 

「莉桜ちゃん、桃花ちゃん……うん、そだね。写真のこともあってすんなり勝負を受けてたから、あーちゃんが言わないだけでA組に行くのもやぶさかじゃないのかって思っちゃった。私は浅野ちゃんに後悔しないきっかけをあげたんだって思うことにする!」

 

「そうそう、その意気!」

 

「真尾が連れてかれそうになってることに変わりねーけどな……もがっ!」

 

「寺坂黙っとけ」

 

「せっかく上がったモチベーション下げんじゃねーって」

 

 考えることはあとにしよう。まず、今考えなくちゃいけないことは………私にとってもけじめ、かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────今、私の目の前には裏返しになっている数学のテスト用紙。……あと数分で2学期期末テスト、最後の教科(試合)が始まる。

 

 

 

 

 

 試験会場であるこの教室には、ブツブツと公式を口にする人、精神統一をするように手を組んで静かにしている人、鉛筆を回して余裕そうながら落ち着いている真剣な気配を滲ませる私の隣の席の人、とかのそれぞれが自分なりにテストに備えてる気配が感じられる……みんな、向き合い方は全然違うけど、テストに向ける気持ちは、姿は本気だ。本気でこの難問揃いのテストを殺しに行っている。

 ここまでの4教科、私自身E組のみんなが向けてくれる期待に戸惑いながらも、危なげなく全問解けてきてる、と思う。ケアレスミスさえなければ、今のところは満点を狙える位置にいる、はず。……慢心しちゃダメだから、あんまり考えないようにしなきゃ、だけど。

 

 

 

「────試験開始!」

 

 

 

 試験官の先生の声を聞いて問題用紙と解答用紙を表に向けて、……つい、手が止まった。難しいからじゃない……ホントにこれでいいのか、反射的に迷ってしまったから。……ホントは、公的に記録が残ることになるこのテストは無記名にして、何点を取ったとしても私という生徒の名前や記録が学校に残らないようにしようと考えていた。

 《銀》として生きる道も、私として生きる道も捨てたくない。だけど《銀》に繋がる可能性のある痕跡を残すわけにもいかない……1番簡単なのは、ここに私がいたことそのものをなかったことにしてしまうこと。記録に残らなければ、最初からいなかったも同然だろう、そう思って。

 

 

 

【  年  組  番 氏名        】

 

 

 

 殺せんせーは最初のテストの時から一貫して『暗殺者として先生を殺すための刃を磨くのと同時に君達は中学生。第二の刃として学年50位以内の成績を目指しなさい』とは言うけど、別に順位に入る得点をとったっていう事実さえあれば殺せんせーの条件を達成してることに違いないよね?誰にでも誇れる成績を取りながら、学校に名前を知られずに目立たずいられるし、私という存在をいないものにできる。

 浅野くんは勝負の条件を点数勝負だと言った……屁理屈だけど記録に残らなかったとしても点数は点数に違いないし、学校に記録された点数でなければならないとかそんな条件はつけられてない。だから問題ない。

 

「(……だから、テストは無記名で出せばいい)」

 

 一教科目からそう思ってたはずだった、のに。

 

 

 

〝私、あーちゃんとは最後まで一緒のクラスのままがいい〟

 

 

 

 ……まさか、そんなことを面と向かって言われるなんて思ってもいなかった。私が私であることを受け入れた以上、浅野くんが望むように、E組が期待してくれるように、本気の勝負には答えようと思ってた、けど。

 

 

 

〝どんな見た目でも、コンプレックスでも、趣味でも、言動でも、境遇でも……誰にでも肯定的に向き合えるお前が、その程度のこと1つで俺らから嫌われると思わないでくれ〟

 

〝仲良しこよしでなんとなく一緒にいるE組じゃない、ここは殺意で繋がる教室なんだから、それでいいじゃん!〟

 

〝アミサじゃなくても、このクラスの誰かが道を外しかけるようなことがあれば、みんなで迎えに行く〟

 

〝……アミーシャも、どこか期待してたんじゃないの。E組が見捨てないでいてくれるってさ〟

 

 

 

 私を受け入れてくれる人がいる。私との繋がりを残したいという人がいる。私以外でも全員で支え合いたいと言ってくれる人がいる。認めてくれる人がいる。求めてくれる人がいる。離さないでくれて……好いてくれる人がいるから。

 ……私は私を、『E組の真尾有美紗』を、今後に備えてこの世界から消してしまいたいことに変わりは無い。……だけど。これは、私のワガママでしかないのだけれど。

 

 

 

 

 

23番 氏名 Amixia Mao

 

 

 

 

 

 『E組のアミーシャ・マオ』であることは、消したくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ガチャ、キィ……

 

 

 

「エリィさん……アミーシャ達は寝ましたか」

 

「ええ、キーアちゃんと並んで2人ともぐっすりよ。今日はよっぽどはしゃいだ、……というより、2人とも疲れたみたいね」

 

「ああ。俺達の滞在最終日だからって2人して元気にみえるように振舞ってたからなぁ……」

 

「空元気よね、アレ。寂しい顔をあたし達に見せたくないけど、隠しきれないのは誤魔化そうって必死だったから」

 

「……ありがとうございます、ついていていただいて」

 

「ううん、気にしないで」

 

 アミーシャの家の一人暮らしにしては広めのリビングに、私達は集まっていた。ティオさんとレンさんを除いた年少組2人は、数刻前にエリィさんに連れられて寝室に向かい、今回に限っては特に抵抗もなくすんなり眠ったらしい。戻ってきたエリィさんが席に着くまで私達の間には無言の空気が流れていたけど……あの子も、分かっているんだろう。

 

「……なぁ、リーシャ。アミーシャは乗り越えられると思うか」

 

「……、ええ、きっと。あの子は以前の私と同じ……私も、迷いがあって《黒月》と契約し直して私の本当に大事にしたいものを捨ておこうとした時の私も、同じ感じだったんだろうな、と」

 

「《銀》という、国家を揺るがしかねない闇の中を生きる道を当たり前の進路だと受け入れて、戦いの中に身を置いていたのに、今になって光の中で生きる道を示されて。……立場と自分の想いの間で迷いがなかなか晴れないんでしょう。カルマさんが以前既にあったと言っていた、信じてきたものを否定されたのと同じですから」

 

「ティオ助……」

 

「……私にもそんな時期がありましたから。教団にいた頃も、救出されて私が家に帰った頃も。感応力に戸惑ううちに本当の家族を拒否してしまったように」

 

 ……ティオちゃんは、アミーシャと同じように幼い頃に《D∴G教団》に誘拐された被害者(生き残り)の1人。救出された当初は衰弱こそしていたものの、今は元気に生活している……投薬等の化学人体実験の代償として得た知能、そして以上に高められた感応力に悩まされながら、ですけど。同じ被害者でも彼女がアミーシャと違ったのは、純粋に感応力を無理やり引き出される実験の被害にあったとはいえ、人の死には関わらなかったこと。だから純粋な被害者として家族の元へ戻ったのに、その家族との軋轢に耐えられなくなって家を飛び出して……それでも今、彼女は特務支援課の一人として笑っている。それは自分が表で生きていく道を見つけたから、希望を、光を見出したから。

 それは私だって同じこと。本来ならアミーシャの姉である私だけが《銀》の道を進むはずだったのに、あの子が、自分の意思のないところで数え切れないほどの人を殺したという事実で心を壊してしまわないために……血を浴びる世界が日常になるよう引きずれ込んだ。かなりの荒療治だったけど妹は持ち直した代わりに人としてあるべき感情が失われたまま……気付いた時には姉妹共々簡単に引き返せない場所まで沈みこんだ後だった。

 

「リーシャはアルカンシェルを自分の側面として受け入れた。そうじゃなかったとしてもイリアさん達は歓迎してたと思うよ……姉妹共々、さ」

 

「……ロイドさん……」

 

「そうよね。そうでもなければことある事に『妹ちゃんもウチに引き込みたいのに!』って言わないもの。リーシャさんがいない時に劇団の方にも話を聞いたけど、シュリちゃんと並べて一緒に舞台を華やかにしたいみたい」

 

「イリアさん、そんなこと言ってたんですか……」

 

「言ってましたね。『妹ちゃんの自由意志だから強制はできないけど言うだけ、劇団員に意思を伝えるだけならタダでしょ?』だそうです」

 

「だって、《銀》としての身体能力をアーティストとして落とし込む天性の魅せる才能をもつ姉と、荒削りながらより軽やかに無意識に人を惹きつける動きを表現できる妹……2人とも十分すぎる逸材ですよ?」

 

「あの舞台に全てを捧げるような人が欲しがってるんでしょ?その程度のことで手放すなんてことしてくれるわけないわよ」

 

「あはは、仮にも暗殺者に対して『その程度』とは……」

 

「そう?あたし達みたいにルールの穴をついて解決を目指すような遊撃士ならともかく、警察官って法を守る正義の立場で暗殺者(犯罪者)を見逃してるロイド君よりよっぽどすごいことをしてると思うわよ?」

 

「……うぐ、お、表立って協力はしてないし……なにより俺達の部署は他とは違うアプローチでの捜査が許された部署であり、リーシャは苦楽を共にした俺達の仲間だからな。欲しい人材なんだから仕方がないだろ」

 

「あ、ありがとうございます、ロイドさん。……迷いながら《銀》であろうとする私達姉妹に対して言った生前の父の言葉通り、私はアルカンシェルという光の世界で生きる道もあることを見つけました。……E組のみなさんのおかげでだいぶ吹っ切れたみたいですが、アミーシャはまだ迷いを断ち切れてない節がある」

 

「案外近くに転がってるもんだけどなぁ、自分の居場所ってやつは。俺にとっちゃあ、傭兵だった俺(過去の呪縛)を断ち切れたのはお前らのおかげなわけだしな」

 

「……ランディ」

 

 みんな、どんな人にだって選択の時はある。どんな人にだって秘密の一つや二つはあるし、人には見せられない裏の顔があれば、取り繕うために作り上げた表の顔もあって、自分が必要とされ、必要とする居場所がある。ただ、それが本人の目に見えているいないかの違いがあるだけ。私には目に見えた必要とされる道が物心着く前から用意されていた。人らしく生きるために必要な意思や感情を無くしたアミーシャには、これ以上壊れないためにも選ぶしかなかった。それが闇の中を進む道だった、……それだけだ。気付くためのきっかけは与えられるけど、それに気付けるかどうかは自分次第。結局はその人が自分で見つけ出し、受け入れるしかないのだ。

 ……アミーシャ、あなたにはあなたの道がある。あなたはまだ子どもなのだから選択する余地はある……お姉ちゃんだっているんだから、抱える必要は無いの。だから、お願い。取り返しのつかない選択をする前に……

 

「だけど、アミーシャには彼らがいるわ。光の世界でも生きる方法を示してくれて、感情を、人との繋がりを、なにより彼等と一緒に生きたいと未来を願う想いを教え育ててくれた。理屈や理由があるわけじゃないけど……これからも一緒にいたいと願える相手を見つけたからには信じていいと思う」

 

「人の可能性って不思議だよ。大きな力の前では無力に思えても、誰かと一緒にいることでいつの間にか力をつけて、協力して乗り越えていく可能性を秘めてるんだから」

 

「理不尽も、一人じゃ乗り越えられない壁も、みんなと一緒なら先へ進むことができる。立場が違うからこそ見えてくるものも変わってくるし、俺達はそれを実際に体感してきたからな」

 

「……ふふ、みなさんが言うと説得力がありますね」

 

 すべてを捨てなくていい。あなたの周りにはまだ見たことがないくらい広い世界が広がっているんだと気づいてくれたら。そして、譲れない何かを見つけてくれたら……あの、E組という場所が、アミーシャにとっての居場所であり、可能性を見い出せる場所でありますように。

 漠然とでもいいから、私にとってのアルカンシェルがあるように、あの子の生きる道が見えてくるといいな。

 

 

 

 

 

『あの日』リーシャside終

 

 

 

 

 





「────そこまで!」



「「「お、……わったーーっ!」」」

「あとの結果は神のみぞ知る、か」

「えぐいのばっか出しやがって……」

「ヒアリング、発音は聞き取れるのに会話内容難しいよ……ビッチ先生のボキャブラリーでもあんなに豊富じゃないって」

「ビッチ先生は会話術だろ……受験英語じゃないし、そもそもわかりやすく伝える術を習ってるんだから当たり前だって」

「中村は余裕そうだな……」

「一学期末満点1位の意地、ここで見せなきゃなんなのよってね!……ま、ギリ解ききれただけだから、分かんないけどさ」

「わ、私……満点取れた気がします……!」

「「「おお!」」」

「理科だけ!」

「「「お、おお……」」」

「それ以外は?」

「とりあえず全ての問題にはとりかかれたって感じでしょうか……」

「奥田さん;」

「マジで出たぞ、サイコロの確率問題……」

「結局寺坂は公式使ったん?」

「……全潰し」

「「マジか」」

「カルマ、自信はどうだ?」

「ん?さーねー……全部解いたけど、結果はわかんないから」

「真尾、出来はどうだ?」

「…………」

「……真尾?」

「アミーシャ?」

「……!あ、ご、ごめんなさい。えと、なんだった……?」

「……いや、大丈夫か?」

「……えへへ、昨日遅くまで最後の追い込みやってたからかな……疲れちゃったかもしれない」

「もう、力入りすぎだって……緊張して固まったのかな?ほら手貸して」

「あ、ありがと……メグちゃん」

「…………」

「カルマ?」

「……なんでもない」


++++++++++++++++++++


テスト回でした。第一部との差をつけようとするのって意外と難しいですね……!やり始めて知る難しさです。別視点とかを考えたり、第一部では隠していたものをぶっ込んだりする楽しさはあります!

今回のお話は、オリ主が第一部で言う『2学期期末テスト全教科無記名提出』をやらかした場面でもあります。その時は誰にも何も言われなかったために実行してしまいましたが、今回は直前までの流れが少し変わりました。浅野君が賭けを持ち出し、陽菜乃ちゃんが引き止めるという出来事が起きたことで、オリ主に迷いが出ました。考えた末の……というよりも、無意識に手が動いた結果、となります。それでも『真尾有美紗』の方を書かないあたり、そちらの決意もだいぶ強かったのだと受け取って欲しいです。

「これ全部数学だけのテスト範囲!?」
と某先生が言う場面がありますが、あれってさすがに学校で配布してる問題集では無いですよね……?参考書扱いでいいですよね?ということでお話の中で使いました。理事長先生との対決に繋がってます。



そういえば、第二部ではまだオリ主の『嘘の見分け方』について、カルマは共有してないなと。



それでは、次回はその理事長先生との対決がメイン、でしょうか……?お楽しみに、です。

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 乃咲圭一は気力、情熱を失いつつあった。▼ 父に認められたい。そんな希望を抱いて努力した日々は父親とのすれ違いで泡の様に消えてしまった。▼ やる気を無くしてしまった彼は時間が経つほどに堕落し、気が付けば『エンドのE組』へ転落してしまう。▼ そんなある時だった。月の大部分が蒸発する大事件で世界が混乱する中、劣悪な隔離校舎の中で後に人生の師と仰ぐことになる2人と…


総合評価:8821/評価:9.09/連載:226話/更新日時:2026年06月05日(金) 11:00 小説情報


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