暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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ありがとうございます!

大変お待たせいたしました;
一度書いたあとに内容を精査していたら更新遅くなりました。

今回もよろしくお願いします!



★137話 二学期末の時間・二時間目'

 

「おーい進藤!期末の順位表見たか?」

 

「おう、俺、ギリッギリ50位で入ってたぜ!」

 

「見た見た。てか今回のテストマッジで鬼畜すぎだって……」

 

「よくそんな状況で学年順位トップ50なんて取れたよな、お前」

 

「はは、俺にも負けたくない理由があったからな。……ま、どんな方法使ったかは知らんが、結局抜かれちまったけどさ」

 

「ふーん……」

 

「それって例のあの子だろ?ほら、進藤ご執心の……」

 

「あ、いや……今回の相手は杉野だよ。一学期末ではいい勝負ができてるとは思っていたが、まさか期末で抜かれるとは思ってもなかった。……というか真尾さんには最初から手が届かないさ。彼女はそもそもE組なんて最底辺にいようが場所を選ばずに輝ける女性だからな!」

 

「お前……学園祭の時も思ったけどあの子のこと神聖視しすぎだろ;」

 

「ミスコンは野球部全体で堂々と応援してるしよぉ……;こっそり告知されてたのを見つけたからってわざわざステージも見に行ったんだろ?」

 

「真尾さんは俺を考え方の根底から変えてくれたからな、感謝もしてる。それにステージは足を運んで見る価値あったぞ!しかもリーシャ・マオさんとも会話できたんだから、本トにラッキーだった……」

 

「そういや2人は姉妹なんだっけか。……ああ、だからそういう事か」

 

「やっぱり気になったよな、アレ。うちの成績発表って名前と得点は載るけどクラスまでは公開されないから……でも、今までは大体のやつがA組だったし、そうじゃなくても常連の名前は知ってるつもりだったんだけど……」

 

「進藤が知らなきゃB組は大混乱だったよなぁ。よく理事長が許したよ」

 

「他のクラスは大混乱だったらしいぞ。うちの学年に存在しないやつが!転校生がいきなりか!?……って」

 

「そりゃそうだろ;」

 

「しかもその上位争いそのものがまさかの結果だよなぁ……」

 

「まさに番狂わせ!面白いことになった!」

 

「まさか浅野含めA組がなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて皆さん、集大成の答案を返却します。君達の二本目の刃は……標的(ターゲット)に届いたでしょうか」

 

 こんなにやった事がないってくらい、みんながみんな机にかじりついて真剣に勉強し、得意な教科を教えあい、E組のみんなで挑んだ2学期期末テストがついに終わった。挑むまでは長く感じたのに、終わってみたらあっという間……早くも試験終了日から3日も過ぎて教壇に立つ殺せんせーの触手()には、私たちの各教科採点されたテスト用紙が握られている。……ついに、努力の結果が。A組との勝負の結果が公開される。

 E組の教室中が静かに殺せんせーを見つめている。暗殺力、なんていうこの教室で学んだ見えない刃は、他人に……ましてや一般人には上手く伝わらないけど、学力だったらどんな人にでもハッキリとした、学生として1番わかりやすい力の指標。それがはっきりと示されるわけだから、成績開示を今か今かと待つそれだけの時間は、心臓がバクバクする音まで周りに聞こえちゃうんじゃないかってくらい張り詰めた空気が教室の中を流れていた。……だというのに、そんな私たちの緊張をよそに殺せんせーはヌルヌル笑っていて通常運転だ。

 

 

 

 ───ヒュヒュッ、ピピピッ

 

 

 

「「「!!」」」

 

「細かい点数を四の五の言うのはよしましょう。今回の焦点は……総合順位で全員トップ50を取れたかどうか!本校舎でも今ごろは……総合順位が張り出されているころでしょうし、このE組でも、順位を先に発表してしまいます!」

 

 1学期の期末テストのように、1教科ずつ点数や順位を発表することなく……殺せんせーは固唾を飲んで結果を待っている私たちに、マッハで答案を返却した。私を含め、みんなが1つ1つのテスト結果を確認する間もなく、殺せんせーは黒板に期末テストのトップ50までの大きな順位表を貼り出している。ホントなら、自分のテストを確認してから順位表を見た方がいいのかもしれない……でも、それよりも。

 

「……アミーシャ、答案見た?」

 

「……ううん、まだ。……何となく、答案(こっち)よりも先に順位表(あれ)を見る方が大事な気がして……」

 

「……俺も、楽しみは取っとくべきかなーって」

 

 殺せんせーから返却されたけど、点数とか、マルの数とか、そういうのが目に入る前に私はテスト用紙を机に伏せた……のと、ほぼ同時に隣からも紙を置く音が聞こえた。思わず反応してそちらを向いてみると、勉強に関してではいつになく真剣な表情をしたカルマが私の手元を見ていて……立ち上がると順位表が見える位置まで私の手を引いていく。多分、カルマが気にしてるのはテストの点数じゃない……今回のテストでカルマが、私が、そして浅野くんが学年のどの位置にいるか、だ。そしてそれは、個人的にA組への転級を賭けられている私だって同じこと……殺せんせーが言った通り、点数じゃなくて順位が重要なんだ。ガタリ、ガタリとE組全員がテストを片手に、順位表を見ようと席から立ち上がって黒板へと近寄っていく。

 今回のテストは凄まじい難易度だったおかげで、確実に平均点ラインがものすごく低いはず。そして、各教科ごとに満点を出してる人もそんなにたくさん居ないだろう……つまり、それぞれの教科の得意不得意が明確に表れ、順位も白黒ハッキリつく上に1点を争う結果になってると予想できる。今更ながらに緊張で手が震えてきて、繋いだままだったカルマの手を思わず強く握りしめて……そっと握り返されたことで、不思議と肩の力が抜けていった、気がした。顔を上げ、順位表から自分の名前を50位から順番に探す。いくつもの見知らぬ他クラスの名前、見知ったE組生の名前を通り過ぎていって……そして。

 

 

 

Amixia Mao  500
赤羽 業    500
浅野学秀    497
・・・・   ・・・

 

 

 

「…………!」

 

「……あ……!」

 

 カルマと()の名前が並んでいるのを見つけた。しかも2人して500点満点、英字だから私の名前が先に記名されてるとはいえ、私たちは2人とも浅野くんより上の順位……つまり賭けは私の、私たちの勝ちだ!

 

「か、カル……ッ」

 

「「「やったぁ!!全員50位以内、ついに達成!!」」」

 

「みゃぁっ!?」

 

「(かるみゃ……)っと……コイツら寺坂と菅谷あたりの順位で目標達成確信したな、これ」

 

 ほっとしたような、それでいてなんとも言い表せない不思議な気分が湧き上がってきて、勢いよく隣の彼へと顔を向けた……直後、教室中に湧き上がった歓声。勢いそのままに、私はカルマに飛びついてE組の勢いから隠れるように彼の背中へと回り込んで縋る。後ろ手に軽く体を叩くようにあやされるけど、……私は思い込みで周りを全く見てなかった恥ずかしさで出て行けない……そうだった……私個人の賭けで頭がいっぱいいっぱいになってたけど、E組としても浅野くんから依頼されてたんだった……

 

「ヌルフフフフ……お熱いですねぇ。さてどうですか、お2人とも?高レベルの戦場で狙って1位を取った気分は?」

 

「……んー、別にって感じ」

 

「う、え、えと、……安心した、かな」

 

「そうですかそうですか。完璧を誇った浅野君との勝敗は……数学の最終問題で分かれたそうです」

 

「ああ、……あれね。なんかよくわかんないけど……皆と1年過ごしてなきゃ解けなかった気がする。……そんな問題だったよ」

 

「…………ぇ…………」

 

「どーかした?」

 

「う、ううん、なんでもない」

 

 口ではあんまり興味無さそうに話してるカルマだけど、ホッとしたように1つ息を吐いてる……少しだけ照れたように頬を染めてるところを見ると、彼もきっと緊張してたんだろう。沸き立つE組のみんなを見渡しながら静かに話す彼を見て、近くにいた渚くんやカエデちゃんが笑っている。

 ……それにしても、あの問題が『みんなと過ごしたから解けた』って、どういうことなんだろう?口振りからしてあの大量の計算式を時間内にこなしたとは思えないし、私と同じように、原子の集合体の中にはまた原子が存在するってことに気づいたとか……?でも、それにE組のみんなとすごした1年に何のかかわりがあるのかな、……私はそういう考え方ができなかったから分からない。少し疑問に思いながらも、私も楽しそうに笑い合うクラスメイトたちを見て、そっと息を吐き出した。

 

 

 

 

 

++++++++++++++++

 

 

 

 

 

 その後、そう簡単にこの波が静まることなんてありえなくって。皆が自分たちのテスト結果と順位表を見ながらの反省会……もとい大騒ぎは、しばらく収まることがなかった。

 

 

 

44木村正義   321
45内田皇輔   320
45菅谷創介   320
47寺坂竜馬   317
48森川美化   308

 

 

 

「ひぇ、A組の奴と同率45位……」

 

「俺と菅谷で1点差かよ!?あっぶねぇ〜」

 

「マジで今回1点を争う勝負だったんだな……てかまず俺、よく取れたわこんな点数」

 

「期末でやるような解き方じゃなかったんだよな?」

 

「おう……;」

 

「いいえ。寺坂君の解の導き方だってこの暗殺教室で学んできた戦い方に違いありません。部分点を引かれることなく、正しい答えで正解をもぎ取ったんです、自分を誇ってください」

 

「……、……おう」

 

 

 

41岡野ひなた  324
42御山田一成  323
42前原陽斗   323

 

 

 

「「…………」」

 

「やった、前原に勝った!」

 

「ウッソだろ、サルに負けた……!」

 

「だ・れ・が……サルですってぇッ!?」

 

「イッテェ!?そーゆーすぐに手が出るところだよ!」

 

「誰が出させてんのよ!」

 

「俺だけど!たかが1点じゃねーか!」

 

「たかが1点でも勝ちは勝ちよ!」

 

「お前らこんな時まで喧嘩すんのやめろ!」

 

「「だってコイツが!!」」

 

「どっちもどっちだ!」

 

「イテテ……まーしかし、ここまで長かったわー……」

 

「はぁはぁ……うん。……本当に私達、A組に勝てたんだね」

 

 

 

37岡本暁星   335
38杉野友人   333
39倉橋陽菜乃  331
40吉田大成   327

 

 

 

「あら、吉田君、頑張ったじゃない!」

 

「あ、ああ!原もありがとな、帰ってからも差し入れとか助かったわ」

 

「寺やんも〜!頑張ったよね、えーいっ」

 

「ふ、ふん!」

 

「うおお……初めて進藤抜いた……!」

 

「よかったね、杉野!」

 

「ああ!……んあ、進藤からメール……?順位表の名前をちゃんと見ろ?……あ。マジだ、言われてみれば……」

 

「?」

 

 

 

31自  律   342
31玉虫慶真   342
33矢田桃花   340
34堀部糸成   339
35山鹿皐月   337

 

 

 

「どーよ、イトナ?」

 

「……俺には、今までのテストっていう比較対象がない。だが、……初めて見る点数だ、とは思う」

 

「いいんだよ、それで。暗殺の次に達成したい悲願だったしね」

 

「……矢田、泣いてるのか?」

 

「ッ!う、嬉し泣きだから!気にしないで!」

 

「?……そうか」

 

『これは……お父上へ直ぐに報告しなくては!』

 

「うん、偽律さんも喜ぶよ!」

 

 

 

21奥田愛美   377
22岡島大河   365
23矢野貴章   363
24長沢寿理亜  360
25茅野カエデ  356
26水野武丸   355
27村松拓哉   350

 

 

 

「ふぃ〜……これもヌルヌル講習早めに受けてた成果か?」

 

「村松……」

 

「1人で抜けがけかよ……」

 

「お前らだって、俺が誘った時にやればよかったじゃねーか!」

 

「いやだってよぉ」

 

「あん時はなぁ……」

 

「それで差が出ちゃざまぁないわよね」

 

「か、カエデちゃんっ!」

 

「やったね、奥田さん!……私も、やれるんだっ……

 

「?……カエデちゃん……?」

 

「ん?なーに、奥田さん」

 

「い、いえっ!……カエデちゃんが別人に見えた、なんて……そ、そんなの、失礼ですよね……

 

 

 

15潮田 渚   402
16瀬尾智也   401
17三村航輝   392
18不破優月   389
19狭間綺羅々  381

 

 

 

「あわわ……瀬尾君抜いちゃった」

 

「なーぎさ!どう?」

 

「わ、茅野!……えっと、50位以内どころか20位以内なんて……うん、これで母さんにいい報告ができるよ」

 

「よかったね!」

 

「……ふふ、なんとかなるもんね」

 

「狭間、お前なんか変わったな」

 

「……何がよ」

 

「……いや、変わんねーわ」

 

「みんな、志望校に行けるんじゃ……?!」

 

「女の子にもモテモテだぜ!」

 

「やるな、俺達!いぇーいモテモテー!!」

 

「……フッ、最終回っぽいよね」

 

「ちょっと、まだ終わっちゃダメよ!?」

 

 

 

10千葉龍之介  429
11原寿美鈴   426
12小山夏彦   421
13荒木鉄平   418
14速水凛香   410

 

 

 

「どう?」

 

「これなら、第一志望何とかなりそうだ」

 

「建築の勉強、したいんだっけ」

 

「ああ。だから理系に強い高校に進みたいんだ」

 

「ふーん……」

 

「お前らはもうちょい喜べよ、淡白だなぁ……」

 

「喜んでるぞ、全力で」

「喜んでるわよ、心から」

 

「そう見えないんだって;」

 

 

 

中村莉桜   461
磯貝悠馬   457
竹林考太郎  447
片岡メグ   443
神崎有希子  437
榊原 蓮   435

 

 

 

「っ……」

 

「?体調悪いのか、竹林」

 

「ああ、いや……E組に落ちて、色々な事があったけど……残ってよかったなって」

 

「なーにシケたツラしてんだよ!」

 

「うわっ!?」

 

「そうだ、面が悪いのは寺坂だけでいい」

 

「ンだとコラァ!」

 

「寺坂締めてる締めてる!!!」

 

「よかったね、神崎さん」

 

「片岡さん……ふふ、うん。頑張ってよかった」

 

「中村、すごいなこの激戦区で浅野の一つ下なんて」

 

「ふふん、やればできる子なのよ。と言っても……上位3位が化け物クラスで怖すぎるんよ……」

 

「満点2人は言わずもがな、あのテストでマイナス3点ってことは、浅野が落としたのは選択肢ですらなく部分点1つくらいだもんな……」

 

「上位3位に限ってはあの3人のケンカだもんね〜」

 

 

 

 テストを返されて、前に順位表が張り出されるまでの、クラスみんなが緊張で張りつめていた表情も、今じゃ笑顔になって緩んでいる。そっと見上げてみれば、ニコニコしながら私達の様子を見ている殺せんせーの周りには花が飛んでいるようで。そういえばテストの前も、テストが終わってからも、それこそ順位を貼り出す時も……最初から殺せんせーは全然慌ててなかった気がする。……そっか、殺せんせーはこのテストで私達がやり遂げることになんの疑問ももってなかったんだ。……ただ、最初から最後まで、ずっと信じてくれていたんだろうな。

 

「しっかし……A組の連中、今頃真っ青な顔してんだろうなぁ」

 

「俺達に負けるなんて思ってもなかっただろうからな!」

 

「ちなみに、A組はテスト前半の教科までは絶好調でした。ところが……後半の教科になるにつれ難関問題で引っかかる生徒が増えたようです」

 

「そりゃそうだわ、殺意ってそんなに長く続かないよ。日頃から暗殺訓練しててもさ、1日ずっと殺す気でいるのは大変だもん。殺意でドーピングしたいなら……一夜漬けの殺意じゃなくて、時間をかけてじっくり育てるべきだよ」

 

 

 

 ────殺意。……殺意、か。

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、スっと周りの音が遠ざかって、私の心の中が急速に冷えていったような感覚がした。……っ、まだ、まだだよ。……1日ずっと殺す気でいるのは辛い、ね。やっぱり人の命がそこまで身近じゃない一般人から考えたらそれが当たり前の感覚、だよね。標的だけを見つめ続けて、臨機応変に殺す方法を考え続けて、じっと隙を狙い続ける。よっぽどの執念がなければ淡々と同じことを『し続ける』って行為は苦痛でしかない。……そう思うと、あの日まで本当の自分を隠し続けてほとんど違和感なくここにいたあの子はすごいな。

 中村さんは日頃から殺意を育てているE組でもそれを保ち続けるのは大変だって言うけど……じっくり育てた殺意っていうのは、E組にいくつもあるんだよ?今も虎視眈々と息を潜めて、機会を狙い続けている獣の存在……だけど、誰も気づかないし、誰にも気が付かせない。おさまれ、収まれ、おさまれ……絶対にやり遂げるまで、最後まで、最期まで隠し通す。そして、全てをやりきったらあとは消えるだけ。それまでは演じ続けよう。みんなが望む私でいよう……目立たないように、それでいてここにいても不自然でない()として。

 

 

 

「アミーシャ、どうかしたの?」

 

「あは、アミサちゃんも流石に疲れちゃった?」

 

「みんな、はしゃいでるもんね〜無理もないか!」

 

 

 

 ……そうでしょ?

 

 

 

「ううん、なんでもないよ。ありがと、カルマ、渚くん、カエデちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……(カエデ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういやさぁ真尾……進藤からのメール見て確かにって思ったんだけど、なんで本名でテスト受けたんだ?」

 

「あ、言われてみれば……知ってるからこそスルーしちゃってたけど、おおやけに出しちゃってよかったの?アレ」

 

 そろそろ先生が話しますよ〜、と殺せんせーがブニョンブニョンとした手拍子を打ったのを聞いて、みんながのんびり自分の席へと戻っていく。E組が50位以内を取れた喜びで、ほぼ全員がテスト用紙を放り出しちゃってたから、それらを回収しつつ、だけど。

 席へ戻る途中、杉野くんが思い出したように私へと向き直ってそんなことを言った。彼の親指が示す先には……順位表の私の名前。E組の『真尾有美紗』ではなく、本名の『Amixia Mao』と書かれたそれは、私がテストの名前欄に本名を書いて受験したのだということを表していた。……どんなに書類を偽装したとしても理事長先生だけは知ってることだし、最終承認は理事長先生だから、先生が真尾有美紗と載せ替えることはできたはず。それなのにそのまま、私の書いたまま載せてくれたのは……私の行動でどうしたいのかをしっかり汲み取ってくれたからこそ、だと思いたい。

 

ホントは、無記名のつもりだったんだけど……

 

「何か言ったかー?」

 

「う、ううん、何も!……そ、だね……私、は……、……私は、さいごくらい私でありたいって……思ったから、かな」

 

「……?……ああ、本名でやりたかったってことか!」

 

「えっ……、……うん、えと……、うん、それでいい、かな……」

 

「……杉野君、アミサちゃんのこの反応、多分違うんだよ……」

 

「だいぶ返事に迷ってたね;」

 

「まあ、アミーシャが訂正しないしいいんじゃない?」

 

「なんていうか、言っても意味ないって思ってる返事に聞こえるんだけどいいのかなぁ;」

 

 進藤くんにこの事を伝えてもいいかと聞かれ、他言無用にしてくれるならと条件をつけると、杉野くんは伝言役を快く引き受けてくれた。みんな、軽く笑いながら席に着く。机に伏せたままだったテスト用紙を見ずに机の中にしまい、教壇に立つ殺せんせーを見る。

 真実をにごした作り話、杉野くんは簡単に信じてくれたし、カルマたちもいろいろ言いたそうにしてたんだけど……ちょっと杉野くんが素直というか、人が好すぎて心配なんだけどな、私。

 

「さて皆さん、晴れて全員E組を抜ける資格を得たわけですが……この山から出たい人はまだいますか?」

 

「いないに決まってんだろ!」

 

「2本目の刃はちゃんと持てたし、こっからが本番でしょこの教室は!」

 

「こんな殺しやすい環境は他に無いし……ねッ!」

 

 仕切り直しとばかりに殺せんせーが私たちに問掛ける……このE組から出る最低ラインの学年50位以内の成績はクリアした、あとは元のクラス担任が受入許可を出せば本校舎に戻れる、戻りたい生徒は戻ればいい、と。E組生は2学期の期末テストが終わったすぐ後に転級申請を出さないと、自動的に椚ヶ丘高校への内部進学は不可能となる。外部受験をするなら椚ヶ丘高校に入ることはできるけど……内部生に比べるとやっぱり狭き門だから、これが楽に進学するためのラストチャンスだ。

 でも、殺せんせーもE組のみんながどんな答えを出すのかは分かりきってるんだろう……メモを取ろうとも話を聞こうともする訳でなく、なんならお茶を飲みながらのんびりと聞いてきてるわけだし。武器を構え、メグちゃんの最初の射撃を合図にE組全員が一斉射撃をする……お茶をこぼさないまま軽々と避けていく殺せんせーに、笑顔で、暗殺で答える。それを見て、受けて、先生はとても嬉しそうだ。

 

「ヌルフフフ……茨の道を選びますねぇ。よろしい!では、今回のご褒美に先生の弱点を教えて

 

「──ッ!!」

 

…………にゅや、アミサさん?」

 

「どうかし……ッ全員伏せろ!!」

 

「「「───ッ」」」

 

 

 

 ────ドッ……ガシャアァアン!!

 

 

 

 殺せんせーの話し声の裏側で、ピリッとした感覚が私の体を走ったのを感じた。それを何、とは上手く言い表せない、でもとにかく嫌な感覚、気配で。殺せんせーの話の途中だったけど構わずその場で立ち上がり、嫌な予感がした方向……窓の向こうへ視線をやった途端、悪意を感じないのに向けられた大きな気配に思わず耳を押さえた。最初こそ怪訝な表情で私を見たカルマが、私の様子で何かを察して叫んだ瞬間、突然響いた物凄い轟音と激しい揺れ。

 みんな、カルマの声で反射的に防御姿勢を取れたみたいでそこまで大きく体勢を崩された人はいなさそう……でも、動揺してるのは確か。その中でも動ける私が状況確認をするべきだ、そう思い立って、まだグラグラと余韻が残る校舎の揺れに逆らって窓際へと走る。バンッと音を立てて勢いよく開き、辺りを確認……運動場に異常はない……、なら、……!

 

「何アレ……」

 

「校舎が……!」

 

 私が外に原因があると考えて走ったのを追いかけてきたんだろう、メグちゃんが教室前側の窓から顔を出して驚愕の声を上げた。視線の先には半分くらいが解体されて、崩れているE組の校舎……さっきの轟音と衝撃はきっとこれが原因だ。私たちの声に教室の中にいたみんなも窓に近づいてきて……同じように崩れた校舎と解体を続けようとショベルを振り上げる重機を見上げて呆然としている。

 

 

 

────だめ

 

 

 

 ここには、私たちだけじゃない。

 

 烏間先生がいて、イリーナ先生がいて、殺せんせーがいる。

 

 たくさんのことを学べる場所だ。

 

 違った分野に触れられる場所。

 

 たくさんのことを教えてもらった場所。

 

 たくさんの人に出会えた場所。

 

 殺せんせーを暗殺するために確保された、E組のための場所。

 

 E組が、成長するための場所。

 

 

 

「君達、怪我はないか!」

 

「破壊されたのは特別教室のある方だったみたいだけど、アンタ達の方に余波は来てない!?」

 

「烏間先生〜っ」

 

「ビッチ先生達も!平気ですか!?」

 

 

 

 私が生きてきた中ではじめてをたくさん知った場所。

 

 ……私が、『私』でいられた場所だから。

 

 

 

「……っ!」

 

「アミサちゃん!?」

 

「ッセンセ、」

 

「あぁ、……ッ!?なっ、」

 

「っ!」

 

「あ、おい!!」

 

 

 

 ここを壊されるなんて……イヤだ。

 

 

 

「……エニグマ、駆動……全てを守る盾と化せアダマスガード(地属性補助魔法)!」

 

 

 

 ────ガァンッ!!

 

 

 

「「「!!!」」」

 

 誰も動けないのをいいことに、止められる前に私は窓から飛び出し、崩された木材や解体を進めようとする重機を足場に校舎の上へと飛び上がる。その間に詠唱しておいたアーツ……全ての物理的な攻撃を1回だけ防ぐことができるソレを身に纏い、振り下ろされるショベルカーの真下へ入った。両手で受け止めたら物凄い音がしたけど、物理反射の壁でショベルを跳ね返す形になったから、私も、防いでいる校舎も無傷だ。

 校舎を破壊する直前に飛び込んだ私の姿が見えたからなのか、崩すはずだった校舎が無傷でショベルが何かにせき止められて止まった途端弾かれたからなのか、ショベルカーを操作していた作業者のおじさんが慌てて様子を見に来る。私を見つけて目を見開いたおじさんたちは、直ぐに手を伸ばしてきた。

 

「き、君!そんな場所にいるなんて……危険じゃないか!」

 

「1度重機を止めろ!屋根の上に子どもがいる!」

 

「…………め……」

 

 

 

 ───……

 

 

 

「ほら、早く降りてきなさい……ああよく無傷で……」

 

「あれ、校舎に傷がないな……どうしてだ?」

 

「いやその前に待避だ。この校舎はこれからおじさん達が直ぐに解体するから、離れたところで、」

 

「……だめ……っ」

 

 

 

 ───パチッ、

 

 

 

「どうします?といいますか、理事長の指示で場所は選んだとはいえ、まだ中には子ども達もいるんですよね?」

 

「はい、避難させてからの方が……」

 

「……ッダメ!……ここは、私たちが学んで、結果を残す場所、で、大事な所なんです……勝手に、無くさないで!」

 

「し、しかし……」

 

「ダメ!!私たちが、当事者、なのッ!むし、しないで……ッ」

 

 

 

 ───パチ、バチッ

 

 

 

 ……ダメだ、この人たちは、私の話を聞いてくれない。私が子どもだからか、私たちなんて関係ないのか、はたまたこの人たちの会話に出てきた通りここの解体を依頼した理事長先生に逆らえないのか、人とものでは価値観が違うからなのか……物理的に止めるしか、やめてくれないんじゃないか。

 そんな考えが頭をよぎった瞬間。……目が、目の、閉じ方が分からない、というか、感情の、コントロールが効かなくなった。……この感じ、何か、よく分からないカッと湧き上がる感覚が落ち着かないのに合わせて、《魔眼・幻》の効果を垂れ流してる、のかも。パチ、バチと静電気が弾けるような音が漏れ出してる、気がする。どんなに不快だと思っても、この人たちは一般人、喧嘩相手でも敵対してる相手でもない、なんの力もない人たち……たかが幻肢痛程度でも、この人たちには強大な力になってしまうかもしれない。この人たち相手に、使っちゃだめ、でもやめさせなきゃ、この場所が無くなっちゃう、気持ち悪、い……だめだ、変に、思考が回る、壊されたくない、とめなきゃ、守らなきゃ、抑えなきゃ抑えなきゃ、止めなきゃ、止め、て、止まら、な───

 

 

 

「アミサッ!」

 

「ッ!!」

 

 

 

 ドン、と体に走った衝撃と、ぎゅ、と回される腕。私を抱きしめてきた人の手で覆われて真っ暗になる視界。……何がなんだか分からないことに変わりは無いけど、ぶつかられた衝撃で体と頭が揺れて上手く思考が回せなくなっていた気持ち悪さが治まり、視界が無くなったことで少しだけ落ち着いてきた。

 だれ……?この人は、こういう時、1番に助けてに来てくれるカルマじゃない。そもそも彼は、私をアミサって呼ばないし、何より女の子の声だった。そして私を抱える体もそんなに身長が変わらない……同じくらいの体格で、突発的に動いた私についてこれて、屋根の上に簡単に跳び上がれる、女の子。

 

「もう、いきなり飛び出してくから焦っちゃったよ……1人でやらなくていいってみんなで話したばかりでしょ。ここは私達全員の教室なんだから、みんなで一緒に守る場所。……ね?」

 

「……あ゛……、……ぅ……、……ひ、なたちゃ……?」

 

「うん。……アミサは私達のために怒ってくれたんだね。でも久しぶりに怒ったから今自分がどうなってるかもよく分かってないんだよ。私が抑えててあげるからそのまま……うーん、一緒に呼吸しよっか。いくよー……吐いて……吸って……」

 

「……ふ、ぅ……っぐ、……っ、ふ……」

 

「上手上手、ちゃんと真似できてるよ。アミサは私と一緒で頭で考えるより感覚でやった方が上手だもんね。それでいいからもうちょっと続けよっか、そのまま……吸うより吐くほう意識して……」

 

 ……私、全然うまく、あわせて呼吸なんてできてないのに。息をする時に詰まって変な音が出てるのに、ひなたちゃんは否定しないで私の背中を軽く叩きながら呼吸のリズムを取ってくれている。今の私ができる精一杯を認めてくれるそれが安心する……やっと、力をぬけた、気を抜いてもいい、……任せて、休んでもいい。そんな気持ちが私の中にストンと落ちてきた。

 それを自覚して彼女へ頭を軽く擦り寄せてみたら、彼女の手は私の目を塞いだま、背を叩いていた反対の手が背中を撫でる動きに変わった。……楽になってきたって、伝わったのかな。

 

「よっ、と。……ありがとね岡野さん」

 

「んーん、私で止められるかは正直賭けだったし、私自身なんにも考えずに飛び出しちゃったんだけど。それにカルマの落ち着け方を私なりに真似してみただけだから」

 

「それでも。先に飛び出してくれたからこの程度で済んでるんだよ。……せっかく落ち着いてきてるし下手に代わらないほうがいいかな……もうちょっと預けてていい?俺は下のあいつに用がある」

 

「もちろん」

 

「カルマ……?」

 

「ん、俺もいるし、岡野もいるよ。みんなも下で待ってる。……ありがとね、怒ってくれて。守ろうとしてくれて」

 

「……ん」

 

 生理的に出た涙が、目を覆うひなたちゃんの手の隙間から零れていく。それを新しい手が拭っていった。目を塞がれていて見えなくても、声で、触れる手の温かさで、誰がそばにいるかすぐに分かる。

 私が飛び出したことを怒ってもいいのに……声色が私を責めてないのを読み取って、もう少しひなたちゃんに縋ることにする。

 

「……ねーえ、理事長センセ。いくらE組相手だとしても俺らはアンタの可愛い生徒。いくら邪魔だとしても、……俺ら3人を巻き込んでまで解体を続けたりなんてしないよね?」

 

「……もちろん。取り壊しは一時中断して下さい。中で()()を済ませてきます。あわせて生徒の皆さんも一時退室を……殺せんせー、もしも解雇(クビ)が嫌ならば、もしも、これ以上の教室の破壊を避けたければ。私とギャンブルをしてもらいます」

 

 何をする気なのかは分からない。でも、これまで人伝てで関わってきたあの人が、ついに直接仕掛けに来たことは分かった。カルマの煽りも、E組みんなからの敵意も意に介さない平然とした理事長先生の宣言が、あまりにもなんの感情も含んでなくて……なにか、他にも大きなことをしようとしてるんじゃないか……そんな、嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 





「アミサちゃん!」

「重機の下敷きになってたよね、怪我してない?!」

「アーツの駆動は見えたけど、心配したんだからぁっ」

「このおバカ!また危ないことを1人でしようとして……ッ」

「っ」

「メグ。それは私が言ったから、メグはアミサのことを褒めてあげて。アミサ、当事者を放置して勝手なことをしようとしてたあの工事の人達に怒って攻撃しそうになったのを、一般の人に攻撃しちゃいけないって抑え込んで我慢してたんだよ」

「……っ、そっか……えらいね、アミサ。あの人達がケガしないように頑張って抑えたんだね。当然のことで怒って反撃したんだとしても、怪我させちゃったらE組が悪いって言われちゃうかもしれないもんね。……ありがとう」

「うん、……また、勝手に動いちゃった。心配、ごめんなさい……」

「心配かけたのは叱るけど、気持ちは分かるからいいのよ」

「アミサが泣いてるのは上で叱ったとか?」

「というより、私が上に登ってすぐの時は感情の制御が効かなくなりかけてたけど、今度は上手く涙が止まらなくなっちゃったんだって。今は溜め込んだのを吐き出すために泣いてるだけじゃないかな……怪我もないし大丈夫だよ」

「アミサの中で整理してる最中なわけね、納得だわ」

「よかったよぉ〜っ」

「んむ、」

「あ、こら、アミサが潰れちゃうって!」

「にしても……真尾関係なのにカルマがだいぶ落ち着いて動くから若干怖かったな。初じゃね?誰かに真尾の対応を譲るの」

「……まぁね。多分岡野さんが先に出てなかったら俺が行ってたと思う。でも俺は烏間先生に許可を取ってから行こうとしてた分遅れてたから、きっとアミーシャは《魔眼》を使ってた……だから助かったよ」

「……お前なら勝手に動きそうだけどな」

「それな」

「さすがにイレギュラーな時は報連相するよ。……しかも俺らの敵が動いてるんだからさ、少しでも突かれる隙は減らさないと」





「岡野」

「あ、……あはは、心配させました?」

「まったくだ。まーじで焦ったからな……真尾はまだしも岡野まで飛び出してくとか思わんて……」

「だいぶ慌ててたもんな、前原……」

「隣にいたやつが危ないって分かってる所に飛び出してって慌てねーやつはいないって……カルマの気持ちがめちゃくちゃ分かった、死ぬかと思うわ、これ」

「……、ごめん。私もあの子のこと言えないことしちゃってさ」

「そこは反省しといてくれ……でも、真尾にも伝わっただろ。何かあっても1人じゃない、カルマ以外にも助けに来てくれる仲間がいるってさ」

「……うん」


++++++++++++++++++++


オリ主は今回無記名にしなかったため、書いたそのままで順位表に載りました。そのため、来日組とも少しだけ交流のあった進藤くんから教えられたB組以外、『あれは誰だ!』なことが起こりましたが、結局謎の人物ということで、本校舎の面々からは忘れられるのでしょう……500点満点とってる時点で無理かもしれませんが。

途中、いきなり入れたカエデsideのお話に騙されてくださった読者さんはいるのでしょうか?わざと誰視点かを書かずに書いたので、オリ主視点だと思って読み進めた読者さんがいてくれたのでは!?と、少しだけワクワクしています。

教員試験の時間への導入が少し変わりました。校舎破壊は止められませんでしたが、まーたオリ主は変に介入してしまって……最初のプロットではカルマが止めに入ってたんですが、書いてる間に岡野さんが先に乱入してくれてて、文章の終着点がズレにズレ……展開を書き直してたら更新が遅れました(今回の遅れた原因はここ)。第一部と違ってオリ主に対するクラスメイトの理解があるので、余計に自由にキャラクターたちが動いてくれて、書いててアレ?!となることホントに多いです。自分はその動いてくれるみんなを自然にまとめる役なので、それぞれのキャラクターたちが生きてることを感じてもらえたらと思います。

それでは、また次回の更新で!
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