UA151800、ありがとうございます!
今回は演劇の時間!オリジナルではなく、あれをE組が演じたら?を彼の視点で見てもらいました。
よろしくお願いします!
2学期末テストも、理事長先生の暗殺も乗り越えて。私の幻を操る力……銀耀の新たな可能性や私の知らないところで浮上していた様々な事情を知ることになって、改めてみんなで、誰一人欠けることなく一緒にE組を卒業したいという気持ちが強くなった、と思う。まだまだ超えるべき壁はたくさんあるだろうし、悩んで答えを出さないといけないことだって、努力を重ねて結果を残さないといけないこともある。それでも、今は何かが違う。……もちろんいい方向に変わってる。
少しずつでも確実に歩めるのも、仲間意識の強いE組だからこそ。そうやって思いをひとつにして団結できるからこそ、E組の意思は揃って、より仲も深くなっ──────
「だからぁ、俺は青!こっちしかやらないから!」
「いやどう考えてもお前は赤だろ!渚が青だって!」
「僕まだ了承してないんだけど!?」
「だったら色だけ揃えて配役逆転させればいいじゃん!?ここ変えるくらいならさぁ!?」
「それじゃつまんないわ。変えるなら本家に倣っての方が面白いもの。それが嫌なら正規の配役よ」
「てか逆転で何とかなるのは渚だけじゃない?」
「女子で殺陣ができそうなのってアミサとメグとひなたと……?あ、でも似合いそう!」
「私もやりたぁい!!」
「誰であれ男女逆転だとしたら白の姫は誰になるって?渚?」
「イトナでしょ」
「じゃあヤダ」
「おまっ、お前……マッジでわがままッ!!!!!」
「……け、けんかしないでぇ……;」
「そもそも相当桃太郎で暴れるんだから、こっちも〜はさすがに浅野君が許さないって〜;」
……今日も、E組のみんなは仲良し(?)です。
何に盛り上がってるのかと言うと、椚ヶ丘中学校生活最後の全校行事である『演劇発表会』の出し物内容について。さっき本校舎で行われるクラス委員会から帰ってきたばかりの磯貝くんとメグちゃんが回してくれたプリントには、決まりとか詳細が色々書いてあるんだけど……いつも通り、E組は
ただ、書類上は差別されたままだけど、見られ方は大きく変わったとも思う。2学期末テストで上位50位以内にE組生が全員入った……つまり、『学年の落ちこぼれ』のレッテルを貼れなくなったということ。学秀くんや五英傑を筆頭に、E組を認める言動をするトップ層が増えた……つまり、上が動けばその人を支持する人たちの言動も変わるということ。そして、浅野理事長先生っていう椚ヶ丘中学校のトップが、表立ってではないけど私たちを認めたこと。今日までの3年E組が『E組は差別の対象』『何もできない誰よりも下に位置する集団』というみんなの認識をいろいろと覆してきたから……今がある。
それはすごく喜ばしいこと。……なんだけど。
「題材がさっさと決まったのまでは良かったんだけど、まさか配役で詰まるなんてねぇ……男女逆転劇にしないからもっとスムーズだと思ってたのに。桃太郎にも出ないしって配役振ったのが悪かったかな」
「いや明らかにカルマだけだって本気で渋ってるの」
「てか立場そのまま衣装だけ入れ替えとか髪色とちぐはぐで変になっちゃうじゃん」
「あとサイズ問題だよね。せっかくジェニス王立学園から衣装を貸してもらえて予算浮かせられるのに、逆転させたら渚ブッカブカになるでしょ」
「まさか当時の王太女様と僕がほぼ同じ身長だとは思わないよ……」
「それ言ったら俺は当時のエステルさんより10cm以上でかいんだけど!?渚君はともかく俺は男女の体格差結構あるしキツイって!」
「いうてお前相当細いだろうが。女性用に仕立てた衣装とはいえ、元々出演予定のなかったエステルさんがすぐに着れた時点で大きめに作られてたんだろうし」
「……逆に私、ヨシュアお兄ちゃんより20cmくらい小さいよ……」
「アミサはラスト以外でアクションシーンがないからドレスが長くてもそんなに問題ないし、ヨシュアさんに合わせてあった肩幅あたりを直せばいけるらしいわよ」
「俺的にはカルマが平民として成り上がるってなんかイメージつかんのよな……貴族として自信家であって欲しい」
「それな」
「というか結局はカルマが最後のキスシーンを渚にやられたくないだけでしょ」
「当たり前じゃん!?なんで作り物とはいえ彼女のキスシーン横で見なきゃいけないのさ!?」
「あー……フリだからね?」
「あう……私、提案、間違えたかなぁ……」
わかる人には、私たちが何で揉めてるのかってわかるのかな……劇をするにあたって国語というか文章をまとめるのが得意な綺羅々ちゃんが脚本を書くことになり、彼女の提案で殺せんせー
『白き花のマドリガル』……今でこそ女王様の統治国家だけど、今から100年くらい前まではまだ貴族制度の残っていたリベール王国を舞台にしたお話、史劇ってやつだ。学園祭の時にエステルお姉ちゃんとヨシュアお兄ちゃんの写真を見せてもらったり劇の話を聞いたりしてたのを思い出して、何となく言ってみただけだったんだけど……予想外にみんなが盛り上がっちゃって。みんなとしてはイメージカラー通り、公爵家嫡男であり近衛騎士団長のユリウス役をカルマ、平民出身ながら功績をあげた猛将オスカー役を渚くん、そしてリベール王国のお姫様であるセシリア姫役を私、にしたいらしい。ただ、このお話、ラストでオスカーとセシリア姫のラブシーンがあって……最初こそ「へぇ、いいじゃん」とか言ってやる気だったカルマがそれを知って怒ってるというかごねてるというか、という感じです、はい。
「まあ……いくらカルマがごねても、配役に関してはレン姉さんが動いてるからもうムダだな」
「……は?」
「嬉々として手配を進めているらしい。……ん」
『生徒会で保管されてた衣装だし、こっちの学園祭は一年後だからいつでも貸し出せるわ。もう学園長には話をつけたから準備ができたらすぐに連絡するわね。……そうそう、カルマのユリウス役、楽しみにしてるって伝えてちょうだい♡』
「……あ゛ーもう!!あの気まぐれ姉さんは……ッ!」
「レンお姉ちゃん……;」
「個人間の話ならどうとでもなるが、向こうの学園長にまで話を通されていたら何もできないな……」
「わざわざ指名してるとか、カルマ君の反応を分かってて絶対面白がってるよね;」
うあーッ!て感じでカルマは頭を抱えてあんまり見たことのない怒り方をしてる……レンお姉ちゃん、カルマが怒るってわかっててわざわざ名前を出して煽ったに違いない。イトナくんはスマホの画面を私たちに見せたあと、素知らぬ顔で何かポチポチと返信を打ち出しちゃうし……かくいう私も、恋人以外の人とのラブシーンを……って言われて、イヤ、というか、どんよりする感じ、というかは、正直ある、けど。でもステージ下に見えないように角度を調整しただけの、そう見えるフリでしかないし、相手は渚くんだし……ものすごく嫌悪感が湧くほど、ではない。
それよりも。この場に、見に来る人たちの中にリベール王国の関係者がそもそも誰もいないんだけど……むしろ本校舎の人たち、なんのお話か分からないと思うんだけど、いいの?劇の内容伝わる?……桃太郎も全然違うのにするから話の背景がわからなくても内容がよければ構わない?……じゃあ、いいのかなぁ……
◆
そして、演劇発表会当日。
「……人、いっぱい居る……」
「全校行事ですからね」
「それに学園祭の時は体育館を半分に区切って自由入場だったしね。規模は全然違うよ」
「うぅ、心臓バクバクする……緊張するよぉ……」
舞台の上は明るくて、見ている生徒側は真っ暗だから全然見えないとはいえ……人の多さは感じられる。1つ目の劇の途中にこっそりと舞台袖から客席を見たあとに裏で縮こまっていたら、愛美ちゃんと渚くんが声をかけに来てくれた。
確かにあの時と比べて気心知れてる友だちと一緒に舞台に立つから大分気は楽だけど、とにかく見てる人の人数は倍どころじゃないし、上手くできるかの不安はいつでもあるに決まってる。
「それにしても狭間さん、すごい脚本だね」
「キャラが立ってる登場人物を動かすのって面白いのよ、気が付いたら筆がのってたわ……我ながら大作を書きあげたと思うんだけど」
「『桃太郎』っていっても、既に出だしから大分ダークだけどな……さすが狭間監修の脚本だ……」
今舞台では、E組前半の演劇である『桃太郎』を上演しているところ……綺羅々ちゃんの手が入ったことで誰でも知ってる桃太郎とはまるっきり違うお話になってるけど。上手いこと昔話と現代の内容を混ぜて、見ている人たちにリアリティを与え……誰かが言った通り人の心の闇をテーマにしてるから、つい気になってしまう演劇となっている。
殺せんせー念願の主役は桃太郎の『桃』の役……大事な事だからもう1回言うね、桃太郎、じゃなくて、桃。これを主役と言っていいのかは甚だ疑問なんだけど、真ん中でじっとしているだけの先生が満足そうな笑顔でホクホクしてるからこれでいいんだろう、きっと。
いつまでもうずくまってばかりはいられないと思いながらも、私が落ち着けずに舞台袖を歩き回ったりセリフを反復したりしている内に、前半の劇は終盤になっていた。
『────鬼ヶ島は……私達人間の心の中にあるのかもしれません。生まれてくる桃の子にも……いつか鬼が宿るのでしょうか……』
「ヌルフフフフフフ……」
「「「……………………、……お、重いわ!!」」」
「嫌がらせか?嫌がらせなのか!!?」
「つーか食欲なくなっちまったじゃねーか!」
「ククク……昼食返上で演じる私達の劇をオカズにするんだから、相応の重さを乗せなきゃ割に合わないわよね……」
「狭間さん、楽しそうだね……」
……うん、お昼ご飯のおともに見るような演劇ではないよね。なんとも言えないような顔で私たちは顔を見合せ、桃殺せんせーを連れて戻ってくるカエデちゃんを待つ。次はそんなに重いお話ではないと思うよ……どう受け取られるかは、演じる私たちにかかってるけど。
「磯貝から連絡だ。下手も準備出来たってさ」
「……よし、行くぞ!本校舎の奴らを興奮の渦に叩き込もうぜ!」
「「「おー!」」」
++++++++++++++++++++
浅野side
『みなさんは、ゼムリア大陸の西部に位置するリベール王国、という国をご存知ですか?大国に囲まれる小さな国でありながら豊かな資源や発展した導力技術を有し、アリシア女王陛下の治める王制国家であるこの国は、今から100年ほど前までは貴族制度が残っていたと言われています』
E組オリジナル変則桃太郎によるブーイングの嵐が起きる中、体育館に男性のナレーションが響いて、ざわざわとした空気がだんだんと静かになっていく。……事前に時間が余るから2本の演劇を行う、とは聞いていたが……他のクラスではなかった試みな上、たった今散々な気持ちにさせられた後だからな、コイツらを信用していいものか。どうしてもそんな空気が流れるのはアイツらが悪い。
───カツン、
『貴族と平民の対立は、彼らを導く王家、そして《空の女神》を抱く七耀教会の仲裁虚しく日に日に激化する……そんな時代。時の国王が崩御され、一年が過ぎたくらいのこと。早春の晩、王城の庭園からこの物語は始まります───』
ナレーションが終わりに差し掛かった頃、ヒールを鳴らす足音……それが体育館中に響き、生徒達のざわめきを一掃した。上手側から現れたのはミスコンの時のようなゴシックロリータな様相とは違い、小さい体で背筋を伸ばし、不思議と存在感のあるオーラと白いドレスを纏った王家の姫がそこにいた。
「───街の光は、人々の輝き。あの1つ1つに、それぞれの幸せがある……なのに、わたくしは……」
「姫様、こんな所に!春だといっても、外にずっといたら冷えてしまいます。そろそろ休んでください!」
「もう、あまり夜更かししたら、お身体に障りますよ〜」
「……いいの、わたくしなんて病気になってしまえば。そうすれば、リベールの火種にならずに済むでしょうから」
「そんな事言わないでください〜!」
「姫様はリベールの至宝。素敵な旦那様と結ばれてこのリベールを統べるお方なんですから!」
「……、わたくし、結婚なんてしません。亡きお父様の遺言だとしても……」
「どうしてですか?あんなに立派な求婚者が2人もいらっしゃるのに……」
「1人は公爵家の嫡男にして近衛騎士団長のユリウス様。もう1人は平民ながら帝国との紛争で功績を上げられたオスカー様」
「「お二人とも素敵ですよね〜♡」」
「……、……2人が、素晴らしい人なのは、わたくしが一番よく知ってます。……オスカー……ユリウス……わたくしは、どちらを選べばいいのでしょう……?」
……王家の姫がアミサさん、傍付きの侍女役は倉橋さんと矢田さんか。アミサさんはともかく、侍女達の会話というか口調に違和感を感じつつ眺めていれば、自然と目に入るのはあの衣装。……あれは貸衣装か?E組はあの旧校舎から背景などのセットを運ぶ必要があるから粗末になると予想していたが……かなり本格的なものを着ているように見える。さっきの桃太郎ですら背景のセットはほぼ映像を投影していて予算を浮かせていたように思うが……衣装に振ったのか?
考察をしている間に舞台が暗転し、場面転換するらしい。ステージの中心に歩いてきたのは紅い騎士装束を着た赤羽と、蒼い騎士装束を着た潮田の2人……なるほど、ここでメインの役どころの名前や立場を描写しているのか。
「───ねぇ、覚えてる?オスカー。幼い頃から棒きれ振り回して、この辺りの路地裏を走り回ったよね」
「忘れることなんてできないよ、ユリウス。君と、そしてセシリア様となんのしがらみもなく過ごした日々……あれは僕達のかけがえのない宝物だ」
「あは、あの時はビックリしたけどね〜。お忍びで遊びに来てたのが、まさか俺だけじゃなかったなんて」
「舞散る桜のような可憐さ、清水のごとき潔さを備えた少女。……セシリア様は、僕達にとっての太陽だから」
「……でも、その輝きは日増しに翳りを帯びている。貴族勢力と平民勢力……この対立は、もう避けられない。姫様の嘆きも無理はないよ」
「その嘆きを深くしているのが、僕達の存在に他ならないなんてね」
そうか、違和感はこれだ……彼らは
だが、彼らが扱う題材は外国のもの……僕らにとってはほぼ馴染みの無いもので、うっすら聞いたことがある程度だ。馴染みがないものは観ている者を惹き込みにくく、真面目に見る奴らは時間が経つ事に減るだろう。特にE組の発表は昼食時間を兼ねているしな。それを、彼ら自身の人柄を、関係性をそのままを投影することでつい見てしまい、知らない文化に触れるという入口の壁を外したというわけか。しかも先に意味不明な劇をすることで「今度は何をやらかすつもりなんだ」と注目も集めて……まったく。
「(誰の入れ知恵か……フッ、面白い)」
場面は移り変わる。
「ユリウス、分かっているな。これ以上の平民どもの増長を許すことも、ましてや我らが主と仰ぐ者が平民出身となった日には……伝統あるリベールの権威は地に落ちる」
「お言葉ですが父上。東に共和国が建国されて10年ほど……平民勢力の台頭も時代の、」
「おぞましいことを言うな!何が自由か、平等か!高貴も下賤もひとまとめにして伝統を捨てるというのなら、帝国の軍門に下った方がはるかにマシというものだ!」
「父上!!」
未だ根強い上位貴族たる誇りと伝統を重んじる意識から平民を主君と仰ぐべきでないとする貴族勢力の代表たる公爵と、リベール王国の近くに民主主義を掲げるカルバード共和国が建国されたことから平民の台頭も時代の流れだと訴えるユリウスの会話。
「王家さえ味方につければ貴族派を押さえられる。我々平民派が名実ともに主導権を握れるのだ」
「しかし議長……こんな政治の駆け引きにセシリア様を利用するなんて……」
「オスカー君、君が拒否するのであれば流血の革命が起きるだけさ。貴族はもちろん、王族の方々にも歴史の闇に消えていただくだけのこと」
「議長!!」
王家を味方につけ平民派の勢いを押し上げつつ、場合によっては革命を起こし、貴族、王家共々葬る理想を語る議長と、政治の駆け引きに王家の姫君を利用することに異を唱えるオスカーの会話。
オスカーとユリウス、どちらもそれぞれの派閥に属す旗頭に掲げられながら、自分達を持ち上げる勢力の暴走を止められずに苦悩する……誰もが『こうであってはいけない』と分かっていながら無くなることのない差別、……現代よりも階級意識の強かっただろうこの時代なら、無くすことも、平等も、自由も無かっただろうな。特に敬われることに慣れた貴族にとっては、受け入れられなかっただろう時代の変化だ。
「……親切な騎士様、ありがとう……」
「騎士様はやめてほしい……僕は何をすべきかも判らず道に迷うだけの未熟者だから……」
「……全くその通りだ」
「!!っ、利き腕を……!」
「ははっ、このナイフには痺れ薬が塗ってある。観念しろ!」
「あなたは……僕を狙った刺客か!?」
「あんたが目障りだというさる高貴なお方のご命令でな!」
「久しぶり、姫様」
「ユリウス、本当に久しぶりで……、今日は、1人なんですね。お父様がご存命の頃、あなたたち2人が宮廷で談笑する様は侍女たちの憧れでしたのに」
「……姫様も知ってるでしょ?王国の現状を。俺達が親しくするのはもう、かなわないよ」
「……………」
「……今日は、貴女にあることをお願いしたく参上しました」
「……っ、急に改まって……お願い、ですか?」
「俺とオスカー、……近衛騎士団長と、若き猛将との決闘を許していただきたい。そして勝者には、……姫様の夫たる幸運を」
「!」
路地裏と思わしき場所でオスカーと相対するのは、舞台上に乱雑に置かれた木箱を利用して斬りかかる暗殺者。その戦いがどうなったかは暗転されて分からないまま、舞台が転換しユリウスがセシリア姫に決闘の許可を取りに行く場面に。……おそらく、どちらもお互いの状況を知らないまま、同時期の出来事なのだろう。
流れるまま、2つの大きな勢力の争いに巻き込まれる形で、親友だった2人の決闘が行われることに……彼らの意志の強さをさとった姫は何も言えないというように俯き、……そして。
「オスカー、お前も剣を抜け!俺らが背負うもののため、何よりも愛しき姫様のために!」
「革命という名の猛き嵐が全てを飲み込む前に……剣をもって運命を決する!」
「俺達2人の魂、
「応!」
どこかヨーロッパにでもありそうな闘技場のような風景を映し出した舞台の上には、貴族勢力、平民勢力、そして中立を含めた大勢のオーディエンス以外にも王族の関係者までもが並ぶ。その中に……セシリア姫の姿だけがない。彼女こそ、この決闘の勝敗に重要な人物であろうが……あの姫君からすれば、2人ともが切り捨てられない大切な幼馴染だ、見たくないのだろうな。
そして始まってしまった2人の騎士による決闘。……ここまでの演技から見ても軽い打ち合い程度なのかと思っていたが、予想以上に本格的な殺陣だ。赤羽演じる紅騎士ユリウスは、上下の動きが激しく一撃一撃に重さを感じる上、打ち合いの勢いすら攻撃に利用する器用さを見せているのに対し、潮田の演じる蒼騎士オスカーは激しい攻撃を受け流し、大きな攻撃の隙を縫って突く反撃の鋭さとぬるりと避けてからの切り返しが上手い。まるで、普段から剣を使い慣れているかのような、粗の見当たらない体捌きだ。
「!……ねぇ、まだ俺達の剣は互いを傷つけてない、よね。……ま、まさかこの決闘の前に!?」
「……ただのかすり傷だよ、大丈夫さ」
「卑怯だぞ!お前のはかりごとか!?」
「言いがかりはやめてもらおう。俺の差し金だという証拠は?」
「父上……ッ」
「いいよ。これも僕の未熟さが招いた怪我だから……戦場では当たり前でしょ。この場も戦場に違いない、……さぁ、全てを決しよう。僕は、次の一撃で君を殺すつもりで行く」
「オスカー……、いいよ。俺も次の一撃に全てを賭けてあげる。さらなる生と姫様の笑顔、王国の未来さえも……生き残った者が全ての責任を背負う。それでいいね?」
「うん。そして敗れた者は魂となって見守る……これも騎士の誇りだ」
……先程の、襲撃の場面を挟んだのはこのためか。決闘の流れに持っていくだけならば、ユリウスとセシリア姫の会話だけでよかっただろう。しかしあの場面を挟んだことで……正々堂々と戦う意思を見せる両者の知らないところで暗躍する闇を、差別意識、階級意識から成る理不尽さを浮き彫りにした。……犯人がいかに明確だとしても、現状では貴族と平民という立場の違いから追求できるものではない。
利き腕を怪我しながらも、命を賭けてこの決闘に臨んだオスカーの覚悟を見て、ユリウスも剣を構えて応えている。紅と蒼、2人の騎士が剣を構えて向き合い、そして。
「はあああああああッ!!」
「おおおおおおおおッ!!」
「だめーーーーーーーーッ!」
……今まで、どこにいたのか。まるで、学園祭のイベントカフェのステージでのことのように、どこからともなく現れたセシリア姫が、2人の剣が交差した間に割り込んだ。当然、お互いを殺すつもりで振るわれた、本気の攻撃の、間になんて入ってしまえば。
「ぁ…………」
「「「───ッ」」」
2人の騎士の殺陣が本格的だったこともあってか、客席側ではいくつか小さな悲鳴が上がったのが聞こえる。あれが、舞台ではなく現実で、演劇ではなく本物の戦いだったとしたら……国を代表する騎士の本気だ、確実に致命傷だろう。
「せ、しりあ……さま……?」
「ァ───セシリアッ!!」
おい、今一瞬アミサさんの本名を呼びかけただろう赤羽。……まあ確かに演技と分かって見ていても、今のはあまりにもリアルで死に近過ぎだが。
ゆっくりと崩れ落ちるセシリア姫の体を、オスカーが抱きとめ、剣を取り落としたユリウスは少し遅れて傍らに座り込んだ。……この場面だけ切り抜くと、珍しいな……こういう、オスカーがしそうな行動は赤羽がやりそうなことで、役どころそのものも赤羽が譲らないだろうし、率先して選びそうなものだが。
「姫様……ッ」
「どうして……君は、今日は来ないと……」
「……あぁ、……間に合ってよかった……わたくし2人が、命を賭けて戦うなんて、見たくなくて……やめて欲しくて……、……ねぇ、わたくしに免じて、どうか争いはやめてください……貴族も、平民も、……王族も……愛し方が違うだけで……みんな、リベールの地を愛する大切な仲間でしょう……?」
「お、王女殿下……」
「もう……それ以上は仰いますな……」
「……ねぇ、2人とも、……そこにいる……?」
「……はい」
「貴女のそばに」
「……ふふ……幼い頃、お城を抜け出した路地裏、で……オスカーも、ユリウスも……あんなに楽しそうで……わたくしは、2人の笑顔が大好き……だ、から……、どうか、……、……いつも、……笑って……て……、………………」
「……?……ひめ、さま……?嘘でしょ、……ねぇ!!嘘って言ってよ!!」
「セシリア様……僕は……ッ」
パタリ、と何かをつかもうとするように伸ばした手から力が抜けた……それがセシリア姫の最期。叫ぶように名前を呼ぶユリウスと自分を責めるように言葉を詰まらせるオスカーの姿は、演劇なことを忘れそうなほどで、舞台も客席も静まり返っている……それくらい、アイツらの見せ方と関係性がリアルすぎる。
最初はあいつらのままの日常が投影されて劇の内容に踏み込みやすいと肯定したが、こんな展開になるのなら前言撤回だ。フィクションを見ているのではなく、普段通りの3人を見せられているようで……もし、あんな場面になったらと嫌でも想像してしまう。ましてやあの場面を赤羽とアミサさんにやらせるとは……
「殿下は命を捨ててまで我々の争いをお止めになった……その気高さと較べたら貴族の誇りなど如何程のものか」
「人は、いつも手遅れになってから己の過ちに気がつくもの……人の子としての宿命か……《空の女神》よ、お恨み申し上げますぞ」
『───確かに私はあなたたちに肉体を与えました。しかし、人の子の魂はもっと気高く自由であれるはず。それをおとしめているのは、他ならぬあなたたち自身でしょう』
「お、恐れ多くも……《空の女神》がご降臨なされました!」
突然、舞台の中央に今まで点いていなかった照明がつき、女性の声が響いた。《空の女神》……地域によっての呼び名は違えどアミサさんの出身であるゼムリア大陸での信仰対象だったか。
『若き騎士たちよ。あなた達の決闘、中々の勇壮さでしたが……肝心なものが欠けていましたね』
「……そうだね」
「全部、僕達の未熟さが招いたことです」
『議長よ。貴方は身分を憎むあまり、貴族や王族が同じ人であることを忘れてはいませんでしたか』
「……面目次第もありません」
『公爵よ。あなたの罪は、あなた自身が一番よくわかっているはず』
「………………………………」
『そして、傍観しているだけだった者たち。あなた達もまた、大切なものが欠けていたはず……ふふ、それぞれの心に思い当たることがあったようですね。ならばまだ未来は残されているでしょう。今日という日のことを決して忘れることがないように……』
その言葉とともに、中央の光が消えた。女神は、セシリア姫の犠牲を経て、過ちを犯した人間たちの間違いを正すために現れたのか……そう思われた次の瞬間、
「…………、……ん、…………、ここ……は……」
「「「!!!」」」
「セシリア様……!?」
「セシリア……!?」
「こ、これは……紛うことなき奇跡です!」
「《女神》よ!よくぞ、リベールの至宝を我らにお返しくださった!」
「大いなる慈悲に感謝します!」
小さく、唸るような声が聞こえたかと思えば、死んだと思われていたセシリア姫がゆっくりと体を起こした。自分は確かに死んだはず、何がどうなっているのか……そう不思議そうに辺りを見回す彼女へ侍女の2人が飛びついた。言葉通り、女神の起こした奇跡なのだろう。
「セシリア様……もう、心配はいりません。永きに渡る対立は終わり、全てが良い方向へ向かうでしょう」
「いや、甘いね。俺達の勝負の決着が着いてないはずでしょ」
「え……」
「まだ、戦うと言うんですか……?」
「あぁ違う違う。そこのバカが利き腕をケガしてんのに決闘に臨んでるんだよ?やり直しに決まってる。……でも、ここまで民衆を巻き込んでおいて勝者なし、は恰好がつかないでしょ。だったらハンデありで互角の勝負をした者が勝者だ」
「ユリウス!それは……ッ」
「勘違いしないでくれる?俺が姫様を譲るとか絶対にありえないから。……ケガが治ったら、今度は別の方法で決着をつけるよ。幼い頃のように、相手を傷つける必要のない木刀でね」
「……はは……うん、そうだね」
「……もう、2人とも。わたくしも当事者なのにわたくしの意思は聞いてくれないんですか」
「そ、そういうわけじゃなくて……」
「……でも姫様、今日の所は今日の勝者に」
「……ふふ、分かりました。……、……オスカー」
「は、はいっ!」
セリフそのものはいつも通りだが、赤羽の表情がかなり硬いな……と見ていれば、若干青ざめ強ばっている表情の潮田がアミサさんへと向き直り、……そっと手を顔に添えて、キスをした。……ん?……は?き、キスシーンだと?!まさか赤羽が潮田に譲ったというのか。……いや譲ってはないな……あの顔、2人の関係性を知っている者が見れば、赤羽が相当耐えてるのが目に見えて分かる。何がどうなってあの役どころになったのかは分からない……そしてアミサさん自身もあの演出を許容したのか?
知らない者から見れば感動的なシーンでしかない……観客もまさか学内演劇で本格的な接触を含むラブシーンをやるとは思わないから何かしらの声が上がっている。……知っている者から見れば疑問の残るやり取りでしかない2人が離れたタイミングで赤羽が客席側へと体を向け、次のセリフを話そうとしたんだろう口を開いたところで、
「ユリウス」
「……へ?───ッ!?」
潮田から離れたアミサさんが手を伸ばして赤羽を呼び……アイツが目線を合わせようとしたのか軽く下げた頭を抱え込むように引き寄せて、……アイツにも、同じようにキスを送った。ガチン、と動きが固まった赤羽から少し楽しそうな笑顔を浮かべたアミサさんが数歩離れる。
「あ、え……?ひ、ひめ、さま……??」
「……あなたたちの決闘の勝者はオスカーなのでしょう。……ですが、わたくしにとってはあなたも勝者です。……今日、この日をもってこのリベールから身分の差というものが無くなる第一歩を踏み出しました。あなたはその立役者の1人なのですからその功績を受けてしかるべき……ではありませんか?」
「~っ……はは、……あははっ!……敵わないなぁもう」
ステージ上の他の演者が口を押さえていたり、目を見開いていたりと驚いているのを見るに、これは台本になかった演出なのだろう。相手役の赤羽ですらかなり動揺しているようなのに、アミサさんだけが口調も態度も変わらない……つまりこれは、彼女の独断で追加されたシーンということ。あくまでも演技の一環であり、まるで本来の流れであるように祝福を贈り、この演劇のテーマ通り『人と人の間に差はない』のだと示すように。
僕と同じようにアイツもそのことに気づいたのか、思わずというように笑い出し……そのまま客席側へ改めて向き直った。
「《空の女神》も照覧あれ!今日という良き日がいつまでも続きますよう!」
それがこの演劇の最後のセリフだったのだろう。主役の三人が手を繋ぎ、ステージの中央でお辞儀をし……周りの他の演者も合わせるように頭を下げた。……それを確認した数秒後、どこからともなく客席から拍手が鳴り響き、それについて行くように自然と手を叩く音は体育館中を連鎖していった。
1つ目の演劇は何をしてるんだとしか言えなかったが、2つ目のこれは文句のつけようがない。強いていえばなぜ日本で、なぜリベール出身者すらいない場でこの演劇を演じたのか、か。……ただの興味かもしれないし、身分での差別を僕達に当てはめてやろうとしたのかもしれないし、これを演じるにあたってのきっかけがあったのかもしれない。そのあたりはE組だけが知ることだな。そっと、僕も拍手の波に参加することにした。
「「「お疲れ様でしたー!!」」」
「いやー変則桃太郎も面白かったし、もうひとつの方も方向性が違うから観客も見ごたえあっただろうし!」
「杉野名演技!神崎さんと2人して良かったよ〜!」
「桃太郎はブーイングの嵐だったのに、白き花のマドリガルの方はめちゃくちゃ拍手の嵐だったもんね!……客席見た?生徒会長も拍手してたよ!」
「見た見た、呆れ顔だったねぇ」
「認めたくないんだろうよ。クオリティというより主に落差が酷くて」
「内容的には闇寄りだっただけでおかしなことはしてないわよ」
「おかしなことはしてないな。でも食事時にやる内容ではなかったと思う」
「それにしてもぉ……アミサもやるわね、あのアドリブ!カルマ君と相談してたの?」
「相談されてるわけなくない?」
「だわな;演技だったらすごいわーって思うくらいガチで固まってたもんお前;」
「あ、あはは……演劇の内容で、カルマが難色、示してたの、あのシーンだったから……私も、これで終わっていいのかなって思って……」
「嫌だとは思ってなかったんだ?」
「え、えと……ホントにはしないし、みんな、私と渚くんには何もないって知ってるし……」
「なるほどねぇ」
「ただ……本校舎の奴らには真尾が魔性の女だと思われてそうだけどな」
「それなー!演劇とはいえ2人の男とキス!なんて」
「あぅ……」
「顔に手を添えて口元を隠しつつ、僕が客席側に立ってそれっぽく見える角度で顔を近づけただけなんだけどね……カルマ君の方から視線も殺気も飛んでくるからめちゃくちゃ怖かったよ……」
「あー……ビッチ先生のおかげで周りからキスがどの角度で周りからはどう見えてるかーとか秒で分かるもんね、私達……」
「ここで役立つなんて誰も思わないだろ」
「気持ちはわかるけど殺気は飛ばすなよ……フリって分かってんだから;」
「なんにせよアミサの行動には驚いたけど終わりよければすべてよし、よ!」
「そうそう〜!もし誰かに聞かれたらどっちのキスシーンも上手くそう見せてただけの演出って言っとくから安心してねっ」
「う、うん、ありがと……」
「よろしく〜」
「ありがとう、そうしておいてくれると助かるよ……」
「(……不意打ちじゃないと上手くいかないと思って引き寄せたら、本トにき、キス、しちゃった……なんて言えないよぉ……言わないけど……)」
「「「(渚はともかく、あの二人は本トにキスしててもおかしくないけどね)」」」
「(頭下げてたとはいえよく届いたよねー……、まさかアミーシャからしてくれるなんてさ。俺を想って行動してくれたんでしょ?……ちゃんと、愛されてるんだね、俺)」
「(僕の位置からは丸見えだったんだけど……絶対キレるから黙っておこ)」
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演劇発表会でした。
来日組が来た時にヨシュアのセシリア姫の話を出してから、演劇発表会では『白き花のマドリガル』を書こうと決めてました!全てをまんま描写するのはダメかなと思い、難しい部分やなくてもいい箇所を少し切って、口調をE組に合わせてあります。
配役イメージは
・紅騎士ユリウス:カルマ
・蒼騎士オスカー:渚
・白の姫セシリア:オリ主
・侍女:矢田、倉橋
までは小説内に浅野君視点で名前を出しましたが、第一部のように桃太郎に出ていないメンバーをこっちに当てたいのがあったので、
・公爵:千葉
・議長:菅谷
・暗殺者:木村
・王家の司教:奥田
・ナレーション:殺せんせー
・《空の女神》:原
はセリフのある役柄、残りの出れる人たちが決闘場面のオーディエンスとして参加してる……とイメージしてもらえたら。
このお話を書き切るまでは、これではなくてアルカンシェルの『金の太陽銀の月』をオマージュしようかな、とか考えていたんです(※英雄伝説零の軌跡にて登場する公演です)。しかし、学園祭の時にやっちゃったな、と。それで何かいい題材を探して、暗殺教室のテーマ……といいますか、境遇といいますかに合ってそうで、浅野君たちと協力関係になった今ならやっても流れ的に受け入れられるんでは?と思いまして、この形になりました。
それでは、また次回までお待ちくださいませ!