現在時刻8時15分……私たちの目の前には、3ーEの教室へ入るためのドアがある。
──────ガラッ
「……お、……おは、よう……っ!」
「あ、おはよう真尾ちゃん!」
「おっはよー!お、今日は教室入ってくるの早いじゃん」
「……その、……ちゃんと、……したくて……、えっと……」
「ゆっくりでいいぞー」
「……っ、……も、ムリ……っ!」
始業が8時30分だからか、この時間にもなればほとんどのクラスメイトが教室にいるといっていい。実際はもっと人が少ない時間に教室へ入った方が沢山の人の注目を浴びなくて済むしいいだろうと8時前には旧校舎の玄関にいるのだけれど、私が入るのをためらううちに時間が過ぎて……いつもこの位になる。毎日朝早くから一緒に登校してくれて付き合わせてるカルマくんと渚くんにかなり申し訳ない……けど、だからといって2人がいないと私は教室にすら入れない……!
今日はなんとか朝の挨拶を自分からすることが出来て、クラスメイトからのそれに返事をしようとしたけど……言葉を探すうちに頭の中が真っ白になって無理でした。すぐさまカルマくんの後ろに張り付いて隠れると、彼は少し体の位置をずらして私の頑張りを認めてくれるように頭をなでてくれた。……安心する。
「はーい、よく頑張りました」
「あー……今日はあいさつで限界だったか……俺も返事するの焦りすぎた、スマン!」
「………、せいじゃ、ない……から……」
「前原くんのせいじゃない、だって。でもアミサちゃん、少しずつだけどカルマ君から離れて周りが見れるようにはなってきたよね。ちょっと前まで挨拶されても無言で逃げるか後ろに隠れたままペコペコしてたんだから、進歩だよ進歩!」
……渚くんに言われ続けて、殺せんせーにアドバイスされて、私はほんの少しだけ受け入れる世界を広げてみた。でも
「おはようございます!では、日直の方は号令を!」
そして、今日も一日が始まる。
ここは、暗殺教室。
◆
明日の理科では実験のためにお菓子を使うらしくて、1人最低1つ、なんでもいいから持ってくるようにって帰りのHRの時に殺せんせーから言われた。お菓子なんて、理科の実験に使えるんだ……ただ、ここで疑問が。私にとってのお菓子、と言ったら料理手帳を使って材料のある分一気に手作りしてしまうのが普通だから、『最低1つ』というのがよくわからなかった。作るなら一気に複数作るものだよね?みんな、そんなにたくさん作って持っていくのだろうか……?
「渚ー、帰ろー?」
「帰りにコンビニ寄って明日のやつ買ってこーぜー」
「あ、うん。カルマ君達、帰る準備できた?……あれ、アミサちゃん何読んでるの?」
一緒に帰る渚くんや、最近一緒に帰るようになった茅野さん、杉野くんたちを待っている間に私は、帰りの身支度を済ませた後自分の席でいつも持ち歩いている料理手帳を開いて読んでいた。もちろん、明日の授業で使うというお菓子を選ぶために。
「え、と、料理手帳……明日の授業でお菓子、使うんでしょ……?材料も用意しなくちゃ、だし、今のうちに何を作るか決めた方がいいかなって……」
「ちょ、待って。え、真尾さん作るの!?」
「え……、……作らない、の?」
「真尾さん、お菓子は買ってこればいいんだよ?それか、家にあるやつ……んー、ポッキーとかポテチとか!……あー、プリンじゃダメなのかな!?」
「授業で使うんだからプリンは合わないんじゃないかな……そもそもあれってお菓子?ナマモノだし……って、アミサちゃん?」
「……ぽっきー……?……ぽて……?」
多分、話の流れからお菓子の名前だとは思うんだけど……初めて聞くなにかの名前らしきものに首を傾げていると、
「……カルマ君。僕達さ、外での遊びにばっかり集中してたけど……これ、もしかしなくても……」
「あー……こんな身近に初めてがあるのは失念してたわ……」
家でも置いてある菓子とか好きに手をつけていいって言ってあったのに、全く減らないから変だと思ってたんだよ……と言うカルマくんに、余計わからなくなる。確かに、食べていいって言われたことがあるけど、何を指しているのかわからなかったから何も触ったことがない。どうせ帰りにコンビニ寄るから久々のアミサちゃんの勉強会ね、と渚くんに言われたことから……これは、普通はみんな知っている私の知らないこと、でいいんだろう。
……、……たぶん。
◆
そして私、カルマくん、渚くん、茅野さん、杉野くんの5人でやってきたコンビニ……ここは、中1で2人と出会ってからはじめの頃に便利だからと連れてきてもらった場所だし、よく知ってる、……つもりだったんだけど、みんなが近寄っていった棚は私が全く食べたことのないものばかりが集められていた。コンビニってどうしてもご飯作りたくないときとか、飲み物が欲しいときにおにぎりとか飲み物を買うところじゃないの?と聞いてみたら、茅野さんにはプリンがある!デザートも!と力説され、杉野くんには後でオススメ教えてやるって言われた。なんでもコンビニごとに売ってるものは違うし、そのお店オリジナルのものも並んでいるらしい……だからコンビニと言ってもいろんな名前のお店があるんだ。みんな各々好きなものや気になったものを選んで、私はみんなからおすすめされたものを手に取ってコンビニを出る。
「ほら、一つ食べてみろよ。明日の授業で使うって言ったってそれ個包装だしさ、量もあるから平気だって」
「……」
他のみんなも明日用に買ったもの以外に今食べるものの包装を開け始めている流れに促されて、杉野くんチョイスのイチゴチョコポッキーというものを口に入れてみることにした。……これ、サクサクしてる、のは、クッキー……?にしては固めな気もするし、この周りのピンクは、チョコなのかな……?つぶつぶがイチゴ?チョコだけだと甘いけど、サクサクはちょっとしょっぱいような……不思議な感じ。……普段私が作るお菓子とかも不思議なものとか多いんだけどね。
「……おいしい」
「そっか、よかった」
「真尾さん、これどう?分けてあげる!」
そういってスプーンでコンビニデザート(これまた手に取ったことの無いパッケージだった)、というものをすくい、一口分こちらに向けてくれた茅野さん。落としちゃうから早く!と急かされて恐る恐る口を開けると、口の中に甘い味が広がった。
「……!……甘いし、溶けちゃうみたい」
「でしょ〜?E組に来てからしか私は知らないけど、真尾さんっていつも渚とカルマ君と一緒にいるからなかなか話す機会なかったんだよねー。私たちとも慣れてきたら、今度他の子達も誘ってさ、女子会しよーね!」
こうコンビニで買い食いするんじゃなくて、喫茶店とかファミレスとかで甘いもの食べたり、もし広い場所が取れるなら夜遅くまでおしゃべりしたり、お泊まり会するんだよ、女子だけで!と、私の手をそっと握って嬉しそうに笑う茅野さん。……手を握られた瞬間は体が強ばったのに、その優しく包んでくれる彼女の手のひらにいつの間にか安心していて、私は気付いたら「うん。」って、小さく返事をしていた。
「……茅野ちゃんなら、まぁいいか」
「カルマ君ったら……。まぁ、ホントちょっとずつだけど……アミサちゃんの自然な笑顔、増えてるよね」
「E組でも、あの小動物感がいいって何人か言ってたぞ。カルマ、あぶねーかもな〜」
「……?杉野が何が言いたいのかはよく分かんないけど、からかおうとしたのはよく分かった。明日覚悟しといて」
「何でだよ!?俺じゃねーよ言ってるの!!」
◆
そして迎えた次の日の理科の実験の時間。私は昨日買ったいくつかのお菓子のうち、封も開けちゃっててちょうどいいかなとイチゴチョコポッキーを選んで持ってた。みんなが持ってきたものを何気なく見てみると、昨日のコンビニでもたくさん種類があったのに全く見たことないものがいっぱいあって……せっかくみんなにおいしいお菓子って教えてもらったんだから、今度から少しずつ買って試してみようかと思う。
理科室ではカルマくんと速水さん、千葉くん、奥田さんと同じ実験机を使い、私は奥田さんの隣に座って、実験道具を運ぶ手伝いに行ったクラス委員の2人がせんせーと帰ってくるのを待つ。そんな中……理科室のドアのすぐ横に岡島くん、正面に前原くんと三村くんが実験道具を持ってくるだろう殺せんせーの暗殺を狙ってナイフを構えて隠れてる。普通の人だったら気配を殺してしまえばビックリさせるくらいはできる気がする。でもそのくらいの警戒で、あの殺せんせーの不意って打てるものかな……?
案の定殺せんせーは3人の突き出すナイフを避けながら、教室に入ってきただけでなく、学級委員の2人が抱えていた道具を回収して実験の準備まで終わらせてしまう始末……3人とも、とても息が上がって座り込んでしまっていた。
「大丈夫か?前原……」
「あぁ……」
「やっぱそれくらいの不意打ちじゃ、ダメでしょ」
「ヌルフフフフフフ……」
「……〜っ、」
……?今殺せんせーが私たちの後ろを通った時に、奥田さんが変に緊張していた気がする。ちら、とそっちを見てみたら……下を向いて何かを決心したような顔をしているけど、何だかガチガチになっているようにも見えた。
◆
「おぉ〜……真っ赤だな」
お菓子をどんな実験に使うのかと思えば、使われている着色料を取り出すというものだった。実験の結果真っ赤に染まった液体を見て、クラス中で驚きとうわぁ……みたいな声が上がる。見栄えのために存在するだけで、着色料ってあんまりいいイメージないもんね……それが結構使われてることを目の前で証明されちゃったんだもん、当然といえば当然の反応だ。
「はい、お菓子から着色料を取り出す実験は……これで終了!!余ったお菓子は……先生が回収しておきます」
みんなが実験結果に驚いているうちに要らないところでマッハを発揮した殺せんせーが、みんなが買ってきたお菓子を回収して自分の手元に抱え込み……いつの間にか集めたお菓子たちがなくなっていた。一瞬姿が消えたことから多分教員室にでも置きに行ったんだとは思うけど……これ、お菓子を回収して先生のものになるところまでが今日の実験になってませんか?
「ちょ、それ買ったの俺らだぞ!?」
「……給料日前だから授業でおやつを調達してやがる」
「地球を滅ぼす奴がなんで給料で暮らしてんのよ」
「……、……手作りお菓子だったらこの実験で着色料は出なかったけど、……こうなるなら、対先生BB弾を砕いて仕込むのも、アリだった……?後日、知らないで食べてくれたり……でも食べてせんせー溶けるのか実験してない……」
「真尾さん、それは流石に物騒…」
「まず殺せんせーが回収するかどうかも分からなかったから、無理じゃないかな」
ぼそっと思いついたことを言ったら、静かに聞いていた千葉くんと速水さんにツッこまれた。確かに回収してくとは思わなかったけど、もし仕込んでれば殺せんせーは食べたかもしれないし……それに、
と、そこで私の隣から椅子を引く音がしてそちらを見てみれば、奥田さんが後ろ手に試験管やフラスコを持って静かに殺せんせーがいる前へ歩いていくところだった。やっぱり、予感通り彼女は何かするつもりだったみたい。
「あ……あのっ先生……」
「どうかしましたか、奥田さん?」
「……っ、あの!
毒です!!飲んで下さい!!」
カチャン、と音を立てて差しだされたドストレートなそれにせんせーを含めたクラスのみんなが固まった。対先生武器での暗殺は、カルマの最初の手段のように工夫次第でどうとでもなるとはいえ、手段が手段だけに見えてしまう暗殺ではあるけど、毒だったら仕込み次第では知られず見えないように渡すこともできたんじゃ……
「ダメ、ですか……?」
「……奥田さんこれはまた正直な暗殺ですねぇ」
「あっ……あのあの……わ、私皆みたいに不意打ちとかうまくできなくて……でもっ、化学なら得意なんで真心こめて作ったんです!!」
「真心……」
「お、奥田……それで渡して飲むバカはさすがに……」
「それは、それは、
ではいただきます」
飲むんだ!?
みんなの考えは多分一致したと思う……毒と明言された謎の液体が入っている試験管を何のためらいもなく口に傾ける殺せんせー。よっぽど死なないでいられる自信があるのか……どちらにせよ、対先生武器以外がどう殺せんせーに影響するのかを知ることができる貴重な機会だと思えばと、私たちも、渡した当人である奥田さんも固唾を呑んで見守っている。
口に含み、飲み込んだ途端苦しみ始める殺せんせー。聞いたことのないうめき声をあげ、体を折り曲げて顔には汗が……
「!!こ…これは……」
「効いてるのか!?」
「まさか……」
────────にゅん
(((なんか、ツノ生えたぞ)))
「この味は、水酸化ナトリウムですね。人間が飲めば有害ですが、先生には効きませんねぇ」
「……そうですか」
「あと2本あるんですね、それでは」
「は、はい!」
「うっ……うぐあっ、ぐぐぐ…………」
────────ニュッ
(((今度は羽生えた!!)))
(((無駄に豪華な顔になってきたぞ)))
「酢酸タリウムですね。では最後の一本」
(((どうなるの!?)))
(((最後はどうなるんだ!?)))
「ぬぁ……ぬううぅぅぅううああ……!」
────スッ
(((真顔になった……)))
(((変化の方向性が読めねぇよ……)))
「王水ですねぇ。どれも先生の表情を変える程度です」
「てか先生、真顔薄っ!!顔文字みてーだな!!」
「先生の事は嫌いでも暗殺の事は嫌いにならないで下さい」
「いきなりどうした!?」
薬品を飲んだことによる反応なのか薬を飲んだ殺せんせーの顔色が青くなってツノが生えたり、緑になって羽が生えたり……しかもパタパタ動かして、という感じに先生の頭が七変化していた。極めつけは王水を飲んだ結果の真っ白な真顔……特徴的な口も点になり、……うん、ほんとに特徴が全部薄い。
あれ、そもそも毒物の影響を受けないどころか味でなんなのかを判断しちゃうって……その時点で効いてないって証明なのでは。
「それとね。奥田さん生徒1人で毒を作るのは安全管理上見過ごせませんよ」
「……はい、すみませんでした……」
「放課後時間あるのなら一緒に先生を殺す毒薬を研究しましょう」
「……は、はいっ!!」
奥田さんは、殺せんせーが優しく諭してくれたそれで納得しちゃったみたい。私は今でもせんせー含めて誰かに言われた言葉はなかなか信じられないのに……奥田さんは、殺せんせーが嘘ついてるとか、思わないのかな……。あ、でも、作った毒薬をすぐその場で試させてもらえるなら、ある意味狙ったことなのかも……?
「……暗殺対象と一緒に作る毒薬ねぇ」
「……後で成果を聞いてみよう」
◆
次の日。
私は先に帰宅してしまっていたけど、放課後にクラスメイトが校庭で烏間先生考案の暗殺訓練ゲームで遊んでいる中せんせーと何やら科学実験をしていたらしい奥田さんは、嬉しそうな笑顔でワインのような紫色で宿題と称された薬品が入った、いかにも怪しいフラスコを持って登校してきた。茅野さんや渚くん、杉野くんが成果を聞きに彼女の元へと近寄っていく。……私は、
「……で、その毒薬を作って来いって言われたんだ」
「はい!!理論上はこれが一番効果あるって!!」
「……毒物の正しい保管法まで漫画にしてある。相変わらす殺せんせー手厚いなぁ」
「きっと私を応援してくれてるんです。国語なんてわからなくても私の長所を伸ばせばいいって」
国語なんて……か。今ある長所を誰よりも伸ばすことは絶対いいことだと思うけど、私的には、国語力って生きている上で一番必要なことだと思ってる。何かを伝えるにも、表現するにも一番簡単な手段が言葉や文字であって、本を読みといたり、人の意志を汲み取るのだって突き詰めれば国語の一部。……そして、嘘をついたり騙すことだって国語力があってこそのものだと思うのだけど。
「あ、来たよ。渡してくれば?」
「はい!!っ、……先生、これ……」
「おや、さすがです……では早速いただきます」
クラス全員が昨日の変化を目の当たりにしていることもあって、これから起こるであろう変化を興味深そうに待っている。暗殺の成功もちょっとは期待してるのかな……失敗したとしてもどんな変化なのかは見逃したくないんだろう。さあ、今回はどうなるのか……?
「……ヌルフフフフフありがとう奥田さん。君の薬のおかげで……先生は新たなステージへ進めそうです」
「……えっ……それって、どういう……」
……!?殺せんせーが赤黒いオーラをまといながら、変化し始めた……昨日の変化は顔周りだけだったけど、今日は体全体からなにかのエネルギーを放出しているかのようで……液体を飲み込んだ最初は苦しそうに呻いていたのに、今ではどこか嬉しそうな笑い声をあげながら体を震わせている……!
「にゅやあぁぁあぁぁああ!!!」
「「うわあぁああ!?」」
目も開けていられないほどの突風と衝撃波が襲ってくる。一番後ろの席に座る私でさえそんな勢いを感じたのだ、正面にいた奥田さんやその周辺はたまったものではないだろう。みんな、とっさに両腕を顔を前に構えて衝撃に備え……おさまった時には
────ふぅ……
「「「溶けた!?!?!?」」」
殺せんせーが教卓の上で溶けていた。色も黄色だったのに今では銀色の……はんだの溶けたやつみたいな、某ゲームに出てくる、メタル系のアレみたいな物体になって、たった今の気迫はどこに行ったのかってくらい和んだ様で一息ついていた。
「君に作ってもらったのはね。先生の細胞を活性化させて流動性を増す薬なのです」
────バシュッ
服も着ることができないほどのドロドロな存在になり、溶けながら教卓から床に流れ出していったかと思えば……ものすごい勢いで、片岡さんの、机に飛んでいった。
「液状ゆえにどんなスキ間も入りこむ事が可能に!!」
「……どこに入ってんのよ」
いつものあの巨体では入ることが出来るはずのない、狭い机の引き出しの中にしっかり収まっている殺せんせー……ただ、女子にそれをやるのって、いっぽ間違えたら何かの犯人にでもされそうなギリギリのことな気がする。
「しかもスピードはそのままに!!さぁ殺ってみなさい」
「ちょっ……無理無理これ無理!!床とか天井に潜り込まれちゃ狙いよう無いって!!」
「なんだこのはぐれ先生!!」
「はっ、てことはこれを倒せば経験値は3倍!?」
「んな事言ってなくていいから狙え不破!!」
次の瞬間、片岡さんの机の引き出しから飛び出したかと思えば、殺せんせーは教室中をヌルヌルとした体を生かしてものすごい勢いで飛び回り始めた。みんな慌ててナイフやエアガンを構えて狙うけど、いつも以上に的は小さいしありえない狭い場所にも入り込むしで狙いが追いつかず、立ち往生するしかなくなっていた。焦りすぎたらクラスメイトにも当たってしまう……流石にもうあの毒薬は失敗なのは明白、誰よりもランランと目を輝かせて先生を狙っている不破さんは置いておいて、あわてて被害だけは避けられるように机に伏せる。
「奥田さん……あの毒薬って……!?」
「……だっ……だましたんですか、殺せんせー!?」
「奥田さん。暗殺には人を騙す国語力も必要ですよ」
「えっ……」
誰の手も届かない天井のかどっこの一部に集まり、にやりと余裕な顔で笑っている殺せんせー……あぁ、奥田さんが毒薬を渡した後の流れもきっと、殺せんせーには予定調和だったんだ。こうやってみんなに狙われても触れることすらできないことも、奥田さんが騙される形になることも、……最終的には授業の一環にしてしまうことも。ヌルヌル動きながら、せんせーが脱ぎ捨てる形になった服の中へと入っていく。あ、……服、回収しとけばもしかして戻れなかったかも……?もう遅いけど。
「どんなに優れた毒を作れても……、今回のようにバカ正直に渡したのでは
「え……うーん先生の好きな甘いジュースで毒を割って……特製手作りジュースだと言って渡す…………とかかな」
「そう、人を騙すには相手の気持ちを知る必要がある。言葉に工夫をする必要がある。上手な毒の盛り方それに必要なのが国語です。君の理科の才能は将来皆の役に立てます。それを多くの人にわかりやすく伝えるために……毒を渡す国語力も鍛えて下さい」
「は、……はい!!」
「あっははっ!みんなやっぱり、暗殺以前の問題だよね〜」
これで一件落着、……なのかな。……あ、そうだ。昨日の思いつきを活かすためにも、せっかくだからせんせーの言う国語力を私なりに試してみようかな、なんて思って、はぐれ殺せんせーが近くに来ても立ち上がっていなかった自分の席からようやく離れ、殺せんせーの近くまで行ってみることにした。
◆
渚side
殺せんせーの力の前では、猛毒を持った生徒でもただの生徒になってしまう。まだまだ……先生の命に迫れる生徒は出そうにないや。メモをとった手帳を閉じたところで、ゆらりと僕の近くを抜けていく気配……今の今までこちらに来ようとすらしていなかったアミサちゃんが、まっすぐ殺せんせーの近くに歩いていくところだった。
「…………殺せんせー、理科のときにみんなからお菓子もらってた。お腹、空いてるんでしょう……?私、今度殺せんせーのためにお菓子、作って持ってきてあげる。だから……その時は食べてね。……手で」
「……あ、そーいうこと。ねー、せっかくアミサちゃんは理科の時に手作りのお菓子を持ってこようとしてくれてたくらいだもん。今回はまぁ、そういうのとは違うけど……その
「ちょ、な、何かお菓子に仕込む気ですかアミサさん!?それにカルマ君もなにか含みがあって怖いですよ!?」
「……?お菓子をあげるから食べてねって言っただけ、だけど……それに、手で食べるものに、手を使わないのはおかしいと思って言ったの。……確認、だよ?……私たちの意図を、言ったままの言葉の意味も理解できないなんて、せんせーの国語力も……ふふ、高くないんだね」
「本トだよね〜」
「にゅやーーーーっ!?」
……これはアミサちゃんたちに一本、かな?なんかサラッとアミサちゃんの言いたいことを察してカルマ君は便乗してるし……体にはなんにもできなくても精神的には、思いっきりやり返してるよ、2人とも;;
「そういえば真尾さん、料理手帳見てたよね……どんな料理があるの?」
「えと、……見ます、か?」
「見せて見せて!」
「私もー!」
「俺も覗いてみたいな」
「………へー、いろんなのがあるん、……」
「どうしたの、茅野?」
「何、この材料……」
「は?なになに……。……魔獣の目玉、魔獣の羽に種……え、魔物?」
「?……はい、故郷じゃ……普通に使われている食材、です」
「……待って」
「……んと、魔獣さえ倒せば手に入るからそんなに珍しいものじゃないし……日本では魔獣がいないから手に入らないけど、お姉ちゃんに送ってもらう仕送りの一部にいつも……」
「待って、真尾ちゃん、お願いだから待って!!」
「ま、真尾さん…!あ、あの、実験に使ってみたいので、食材、分けてもらえませんか…?」
「……?……どれにする?」
「ホントですか……!……で、では……!」
「あ、じゃあできたやつ俺にも分けてよ。タコに実験ついでにイタズラしてくるから」
「おい、誰かあそこ止めろ」
「ある意味怖い組み合わせが生まれたぞ……」
++++++++++++++++++++
the本気になったら結構ヤバいトリオが結成(嘘)
後書きです。
今回は少しずつ慣れ始めたオリ主の日常も一緒にお届けしました。
最後の料理手帳は……うん、完成した料理の見た目はいいのに入ってるものはやばいですよね。それを普通に使う軌跡シリーズの料理。魔獣と言われてピンと来ない人からすれば、名前だけだとゲテモノの類が思いつくはず、と思い、最後の会話が生まれました。多分見た目はそんなにあれじゃないんですよきっと。家畜と一緒なんですきっと。
いつの間にか、奥田さんと仲良くなった!
修学旅行前に魔のトリオが結成。
次回、新しい先生が来ます!