暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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11話 プロの時間

 

「もう5月かぁ早いね、1ヶ月って」

 

 渚くんが教室の黒板に日付を書いているところを見て、茅野さんが言う。……そっか、毎日が濃いから忘れてたけど、いつの間にか私がE組に来てから1ヶ月近くたってたんだ。

 月が三日月になって……私とカルマくんの停学が明けてE組に来て……2人で色々仕掛けたけどたった2人では全く歯が立たなくて……しょうがないから殺せんせーを『先生』として殺すのは諦めて……それで、私は見向きもしてなかった周りを知ることで優しい世界(居場所)を見つけた。

 今では、E組の人たちだったら信用してもいいと思ってる。だって、警戒するのが申し訳ないほどみんな真っ直ぐで、優しい人たちだってわかったから。成績とか見た目とか、そんな上辺だけを見て付き合う人たちじゃないってことが分かって、おしゃべりしたり、一緒に過ごしたりするのに身体が震えて緊張することが少なくなって来た。

 

 ……私は私として受け入れてくれるみんなを、否定するしかないと思ってた世界を、……いつか、信頼出来れば、いいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あー……今日から来た外国語の臨時講師を紹介する」

 

「イリーナ・イェラビッチと申します!皆さんよろしく!!」

 

 朝のホームルームの時に、珍しく殺せんせーだけじゃなくて烏間先生も教室に入ってきた……1人の若い女の人を伴って。その女の人はウェーブのかかった金髪で、ものすごい美人で、グラマラスボディ……ティオさんに言わせればお姉ちゃんに引けを取らないスタイル、と言うやつなんじゃないかと思う。

 その人は教室に入ってくる時から殺せんせーにベッタリ引っ付いていて、何だか雰囲気的にハートが飛んでいるようにも見えた。そちらを見て呆れたように……?付き合いきれない、みたいな引いた感じで烏間先生が紹介してくれる。

 

「そいつは若干特殊な体つきだが、気にしないでやってくれ」

 

「ヅラです」

 

「構いません!!」

 

 教室に入ってきた時から、殺せんせーに髪の毛が生えてるなー……とは思ってたけど……あれ、カツラだったんだ。それをバラしたってことは、あのイリーナ……先生はカツラを付けた殺せんせーにしかあった事が無かったってことなのかな。

 あ、そっか、殺せんせーがそのままの姿で街に行ったら巨大な色違いのタコが歩いてるようなもんだもんね、人間の擬態のためにカツラを付けてたのか。1人納得していると、周りのクラスメイトたちがボソボソと話し合い出している。

 

「……すっげー美人」

 

「おっぱいやべーな」

 

「……で、なんでベタベタなの?」

 

 ほんと、何があったらあんなに殺せんせーに対してベタベタに好意を向けることになるんだろ。もしかしたらだけど、一目惚れってやつかな?……優しくされた、とか、助けられた、とか……

 

「本格的な外国語に触れさせたいとの学校の意向だ。英語の半分は彼女の受け持ちで文句は無いな?」

 

「……仕方ありませんねぇ」

 

 そう口では言いながらも、あの女の人の存在をあまり気にしていないようにも見える殺せんせー。だけど大きな胸を押し付けるように、見せつけるようにしながら女の人が触手()に引っついてることで、チラ、と見ることもあるしその存在感は気にしているように思えた。……いつもなら殺せんせーの気持ちがすごく分かりやすい顔色、まだ何も変わんないけど……実際どうなんだろ。

 

「なんかすごい先生来たね。しかも殺せんせーにすごく好意あるっぽいし」

 

「……うん。…………でも、これは暗殺のヒントになるかもよ?タコ型生物の殺せんせーが……人間の女の人にベタベタされても戸惑うだけだ」

 

──────そしてメモを構える渚くん。

 

「いつも独特の顔色を見せる殺せんせーが……戸惑う時はどんな顔か?」

 

 みんながその変化を見逃さないように注目する中、殺せんせーは……イリーナ先生の大きな胸をしっかりと見て顔をピンクに染めてにやけた。

 

「……いや、普通にデレデレじゃねーか」

 

「……何のひねりも無い顔だね」

 

「……うん、人間も()()なんだ」

 

「そーいえば、アミサちゃんが見つけたエロ本も人間だったわ……興味なかったから忘れてたけど」

 

 エロ本……というものはよく分からないけど、私が見つけたものってことは、あの私が初めてこの教室に入った時にジェラートと一緒にせんせーに渡した教員室に放置されていた謎の本のこと……なのかな。見つけてすぐに、カルマくんにはいい笑顔であんまり見ないようにって言われたから中身を見ないようにしてたし、せんせーは私から素早く受けとって隠した上で何なのか結局教えてくれないし、誰からもアレの正体を聞いてないから(唯一岡島くんが聞けば教えてくれそうだったけど、聞く前にカルマくんや片岡さん、渚くんや岡野さんに潰されてたし)、結局分からないままなんだよね……

 

「ああ……見れば見るほど素敵ですわぁ……その正露丸みたいなつぶらな瞳……曖昧な関節……、私、とりこになってしまいそう」

 

「いやぁお恥ずかしい」

 

「(騙されないで殺せんせー!!)」

 

「(そこがツボな女なんていないから!!)」

 

 新しい先生がE組に増えて、また今日も勉強とせんせーの暗殺を狙う1日が始まる。殺せんせーは未だに隣の存在(イリーナ先生)にデレデレしてるけど……あいにく私たちはそこまで鈍くない。この時期にこのクラスにやって来る先生は、けっこうな確率で只者じゃないはずだ。最初からいた(先生)じゃないこと、E組には国家機密の殺せんせーがいると分かっていて、学校が普通に先生として迎え入れたこと。ということは、この女の人の正体は国家機密なんてものともしない存在、大元である国が雇った何か、だ。

 

 それに、……実は私は彼女と面識があったりする。向こうはそれを知らないだろうけど、『私』はよく知っているのだ。記憶の中の彼女と、今、私の前で先生をする彼女……全然違う印象を与えるそれに、静かにすごいなぁ、とのんきに考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、殺せんせーと私たちは校庭でサッカーをしていた。正確には、殺せんせーを真ん中にして先生から出されるパスを受けた生徒が、ボールを返すと同時に暗殺を仕掛ける権利を得る、という烏間先生考案の『暗殺サッカー』だ。

 

「ヘイ、パス!!」

 

「へい暗殺!!」

 

 パスを受け取った瞬間に、エアガンで対先生BB弾を放つカルマくん。殺せんせーは直前まで避けずにギリギリに顔だけを動かして避けた。

 

「ヘイ、パス!!」

 

「へい……暗殺!」

 

 対先生ナイフを両手に構えて懐へ走り込み、アクロバティックな動きで対先生ナイフを振るう岡野さん。先生は体ごとマッハで避けた。

 

「ヘイ、パス!!」

 

「へいっ……暗、殺!」

 

 そして……私はパスをもらうと上空へボールを蹴り上げ、それを受けようと先生が目を上に向け……受けた瞬間、前から1本対先生ナイフを投げた後に近距離まで走り、手に持ったナイフを振り下ろす。……1本避けて余裕の顔だった殺せんせーは2回目のナイフも残像を歪ませて避けた。直ぐに最初のナイフに付けた紐を引っ張って意識外からの攻撃も狙ってみたけど、最初の一投で紐の存在はバレていたみたいで射程範囲から避けてしまった……残念。

 

「殺せんせー!」

 

 と、その時イリーナ先生が校舎から走ってきて、殺せんせーに駆け寄った。当然殺せんせーを中心に成り立っていたこの暗殺サッカーは中断し、殺せんせーはイリーナ先生の相手をすることになる。先生同士のお話は邪魔できないし、手持ち無沙汰になった私たちは、2人のやりとりを見守ることにした。

 

「烏間先生から聞きましたわ。すっごく足がお速いんですって?」

 

「いやぁそれほどでもないですねぇ」

 

「お願いがあるの。一度本場のベトナムコーヒーを飲んでみたくて……私が英語を教えてる間に買って来て下さらない?」

 

「お安いご用ですベトナムに良い店を知ってますか……らっ!!」

 

 言うやいなや、殺せんせーはすごい風を巻き起こしながら一瞬で上空へ飛び上がったかと思うと、どこかへ向けて飛び去って行った……言葉通りなら、ベトナムへ向かったんだと思う。今は昼休みだけどもうすぐ5時間目が始まる時間を知らせるチャイムも鳴ったし、次はイリーナ先生が受け持つ英語ってことで確かに殺せんせーの出番はないけど……自由だなぁ……

 

「で、えーと……イリーナ……先生?授業始まるし教室戻ります?」

 

「授業?……ああ、各自適当に自習でもしてなさい」

 

 さっきまでの殺せんせーに対する柔らかく甘えるような態度を一変させて、冷たい目でこっちを見るイリーナ先生。おもむろにタバコへ火をつけると、煙を吐き出してやる気がなさそうに話し出した。

 

「それとファーストネームで気安く呼ぶのやめてくれる?あのタコの前以外では先生を演じるつもりも無いし『イェラビッチお姉様』と呼びなさい」

 

「「「……………………………………」」」

 

 さっきまでのしおらしい姿からいきなりの高飛車な言い様……クラスのみんなが何と言えばいいのか分からなくなった時、口火を切ったのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、どーすんの?ビッチねえさん」

 

「略すな!!」

 

 やっぱり物怖じしないカルマくんでした。

 ……と、ここでカルマくんの言葉を聞いて1つ疑問が……カルマくんの言う[bitch]は《やらしい女、雌犬》って意味があったはず。……確か私が知る限りイリーナ先生は東欧のスラブ出身だったはずだ。なら、苗字のアレの意味は、スラヴ系の人名に含まれる《~の子》を意味する[Vic]ではないのだろうか?……悩んでても仕方ないし、分からないなら聞いた方が早い。

 

「カルマくん、『イェラビッチ』の省略は『ビッチ』なの?『ヴィチュ』じゃなくて?」

 

「ん?…………ふふ、そーそー。だからアミサちゃんもそう呼んであげなよ」

 

「うん、分かった、じゃあビッチお姉様、だね!」

 

「あんたらねぇ!!!」

 

「……なぁ、あれウソだよな。めっちゃいい笑顔だし」

 

「カルマの奴、さらっとためらいなく嘘を教えたぞ……」

 

「そしてそれを全く疑わない真尾さん……」

 

 私の知識より、カルマくんのいうことの方があってることが多いもん……私より頭いいんだし、彼の言うことならそう間違ってないだろう。まぁイタズラとか、ビッチお姉様のことをからかいたくて言っただけな可能性もあるけど、それはそれ、これはこれだ。

 ちなみに敬称としてお姉様をつけたのは、本人がそう呼んで欲しいと言ったから。これくらいは希望にそわなくちゃ。

 

「と、それより……あんた殺し屋なんでしょ?クラス総がかりで殺せないモンスター……ビッチねえさん1人で殺れんの?」

 

「……ガキが。大人にはね大人の殺り方があるのよ。……潮田渚ってあんたよね?」

 

「……?」

 

 イリーナ先生……基、ビッチお姉様が不思議そうに見ている渚くんに近づくと、おもむろに渚くんの両頬を両手ではさんで……

 

「なぁっ……!!?」

 

「おぉ〜……」

 

「ひぇ、」

 

 

 

────キス、した。

 

 

 

─10HIT

──20HIT

───30HIT

 

 ビッチお姉様が唇を離した時には、渚くんはぐったりしていて……え、キスって、攻撃に使えるものだったっけ……?口と口を合わせるだけで?ぐたってなるものなの??

 近くで茅野さんは真っ赤になって驚いてるし、カルマくんはなんか興味深そうな楽しそうな笑顔だし、私は頭の中が疑問でいっぱいだし、他の人は驚いて言葉も出ない様子だし……この場は一瞬でカオスになった。

 

「……後で教員室にいらっしゃい。あんたが調べた奴の情報聞いてみたいわ。ま……強制的に話させる方法なんていくらでもあるけどね。……その他も!!有力な情報持ってる子は話しに来なさい!良い事してあげるわよ?女子にはオトコだって貸してあげるし。技術も人脈も全て有るのがプロの仕事よ。ガキは外野でおとなしく拝んでなさい」

 

 本校舎の敷地から旧校舎へ来る山道を登ってきた三人の男の人たち……彼らを後ろに従えて、ビッチお姉様は言いたいことを言い切ると小銃を取り出して、……まだ誘惑する雰囲気を出していたのを一変、殺気を見せた。

 

「あと、少しでも私の暗殺の邪魔をしたら……殺すわよ」

 

 そして踵を返すと私たちの存在なんて目にも入らないかのように、男たちと一緒に殺せんせーの暗殺計画を立て始めた。

 それを見ている私たちは思う。渚くんが気絶するような攻撃?に使えるキス……ビッチお姉様が従えている強そうな男の人達……殺気とともに口からこぼれた「殺す」という言葉の重み……誰もがビッチお姉様は本物の殺し屋なのだと実感した時だった。

 

 ……でも同時に、クラスの大半が感じたんだろうな。

 

 この先生は……嫌いだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渚side

 あの休み時間の後の、ビッチ先生が受け持つことになっている英語の授業。僕と一緒に教室へ戻ってきて席に着いても、ビッチ先生は『自習』とデカデカと黒板に書いたあと、教卓の椅子に座ってiPadを延々と触っているだけで授業をしようとしない。みんな一応殺し屋とはいえ新しい先生だし……殺し屋とはいえ出会ったばかりでよく分からないし……殺し屋だし……でなかなか取っ付きにくくて黙っているけど、僕たちのことを全く考えないそれに、不満ばかり溜まっているのが事実だ。

 ふと、ビッチ先生のこっちを見る視線に気づいて寒気がした。……思い出すのは僕1人が授業前に呼び出されて殺せんせーの弱点とかをビッチ先生に話させられた時のこと。

 

〝今までに2人が協力して、それぞれ1本と3本なら触手を破壊できた人はいるけど……その程度じゃ殺せんせーは余裕でした。多分……全ての触手を同時に壊す位じゃないと、とどめを刺す前に逃げられます〟

 

 教員室で僕を壁ドン……の格好で壁際に追い込みながら、目の前でタバコを吸うビッチ先生。一応何かに使えるかもしれないからって殺せんせーに関するメモをとって、しっかり情報を持っているのは僕で間違いないから、頼まれるなら協力するけど……;

 

〝あと……闇討ちするなら、タバコ、やめた方がいいよ。殺せんせー鼻無いのに、鼻良いから〟

 

 殺せんせーが匂いに敏感だって知ったあの時は杉野と裏山でタケノコのサトを食べてたんだよね……匂いで寄ってきた先生も先生だけど、タケノコとキノコの差を見分けた嗅覚もすごかったのを覚えてる。……生徒にたかるなって話なんだけど;

 それにしても……はぁ……あんなに嬉しくない壁ドンははじめてだった……いや、したことも無いし今後されたいとも思わないけどさ。そんなことを思い出していれば、みんながしびれを切らし始めた。

 

「なー、ビッチねえさん授業してくれよー」

 

「そーだよ、ビッチねえさん」

 

「一応ここじゃ先生なんだろ、ビッチねえさん」

 

 みんながビッチビッチと呼ぶたびに、言葉の槍がビッチ先生に突き刺さっているかのようだ。……あ、沈んだ。

 

「あー!!ビッチビッチうるさいわね!!まず正確な発音が違う!!あんたら日本人はBとVの区別もつかないのね!!ちゃんとした区別をつけて言えてたのは、最初のチビちゃんだけなわけ?!……正しいVの発音を教えたげるわ、まず歯で下唇を軽く噛む!!ほら!!」

 

 チビちゃんってもしかしなくてもアミサちゃんの事?チラ、と目を向けてみればちょっとだけムッとした顔をしていた。これ、褒められたことよりもチビちゃんって言われたことにムッとしてる気がする。

 視線を戻せばみんなは、ビッチ先生の指示に従って下唇を噛んでいる……やっと、ちゃんとした授業が始まったんだと思って。

 

 …………でも。

 

「……そう。そのまま1時間過ごしていれば静かでいいわ」

 

「「「(……なんだこの授業!?)」」」

 

 唇を噛みながら、だけど一応僕らを指導する立場の先生だから何も言えなくて……みんな、悶々としたまま1時間を過ごすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────パァンッ

 

 五時間目の体育の時間。今日の授業内容は射撃練習……烏間先生監督の元、動かない殺せんせー型の的に向けて順番に撃っていく。正直、私はそこまで射撃は得意じゃない……撃ったときに反動があるからどうしても銃がぶれてしまい、狙いが上手く合わせられないのだ。遠距離武器は遠距離武器でも投げナイフならそう簡単に負けない自信があるくらい得意なのだけど……基本私は近距離型だと思ってる。

 私の順番が回ってくるのを待っていると、倉庫を見上げた三村くんがなにかに気づいたようで、私たちに声をかける。

 

「……おいおいマジか……2人で倉庫にしけこんでくぜ」

 

「……なーんかガッカリだな。殺せんせー、あんな見え見えの女に引っかかって」

 

「……烏間先生、私達……あの(ひと)の事好きになれません」

 

「……すまない。プロの彼女に一任しろとの国の指示でな。……だが、わずか1日で全ての準備を整える手際……殺し屋として一流なのは確かだろう」

 

 そんな会話をしていると、突然殺せんせーとビッチお姉様が入っていった倉庫から凄まじい銃声が鳴り響き始めた。……これ、私たちに配布されてるエアガンのような単発の銃声じゃないし、散弾銃を何丁も持ち込んだような音のような気がする。みんなは慌てて倉庫の方に注目して……もう射撃練習どころじゃないし授業も終わりに近かったから、烏間先生も何も言わない。

 

「な、……なに!?」

 

「これって銃声……?」

 

「……あれ、……でも、このにおいって……」

 

「真尾さん?」

 

「これ……火薬の匂いがする。殺せんせーって、実弾、効くの?」

 

 私たちに支給されている武器の一つである、エアガンと対先生BB弾。中学生が実弾を扱う本物の暗殺者になってしまうのを防ぐ措置……と言われればそれまでだけど、国がわざわざ殺せんせーを殺すために開発したものであり、ナイフと合わせて殺せんせーに効果的なことは、実際に使った私はよく分かってる。

 烏間先生を除いたみんなは爆音のごとく鳴り響く音に注目して気づいてないようだけど、これだけ火薬の匂いがする時点で、ビッチお姉様が使ったのは対先生BB弾ではなくて、十中八九実弾だと思う。BB弾は火薬では使えないだろうし……って、これ、効いているのだろうか?

 

 

 

「いやあぁぁぁあぁ!!」

 

────ヌルヌルヌルヌル

 

 

 

 

「!!」

 

「な、何!?銃声の次は鋭い悲鳴とヌルヌル音が!!」

 

 

 

 

────ヌルヌルヌルヌルヌルヌル……

 

「いやああぁぁぁ……いや……ぁ……」

 

 

 

 

「めっちゃ執拗にヌルヌルされてるぞ!!」

 

「行ってみようぜ!!」

 

 銃声が落ち着いたかと思ってたら、ビッチお姉様の悲鳴が上がった。……それは殺せんせーの暗殺に失敗した事実を表す……えっと、多分殺せんせーが出してるんだとは思うけど、このヌルヌル音の説明はつかないけれど。

 さすがに音だけでは何が起きてるのか分からなすぎて気になった私たちは、倉庫の入口へと走り込んだ。と、ちょうどその時、倉庫の扉を開いて出てきた大きな人影が……

 

「!殺せんせー!!」

 

「おっぱいは?!」

 

「いやぁ……もう少し楽しみたかったですが……皆さんとの授業の方が楽しみですから」

 

「な、中で何があったんですか……」

 

 最初はピンク色のデレデレした顔で倉庫から出てきた殺せんせーだったけど、私たちと話すうちにいつもの黄色い顔色に戻っていた。……普段通りの顔に戻ったってことは、私たちのよく知る先生に戻ったということ……私は少しだけ安心したと同時に、失敗したビッチお姉様が気にかかった。

 そこで、ゆっくりと……そしてフラフラとしながらビッチお姉様が倉庫から出てきた。けど、入っていった時と全然違う、見たこともない体操服(ハチマキ付き)に着替えさせられていた。

 

「あぁ!?ビッチねえさんが、健康的でレトロな服にされている!!」

 

「まさか……わずか1分であんな事されるなんて……肩と腰のこりをほぐされて、オイルと小顔とリンパのマッサージされて……早着替えさせられて……その上まさか……触手とヌルヌルであんな事を……」

 

「……殺せんせー何したの?」

 

「さぁねぇ……大人には大人の手入れがありますから」

 

「悪い大人の顔だ!!」

 

「おとなのていれ……?大人だと何か違うの?」

 

「気にしなくていいよ、多分」

 

「というかアミサちゃんは気にしちゃダメ」

 

「?……うん、わかった」

 

「さ、教室に戻りますよ」

 

「「「はーい」」」

 

 

 謎の言葉は気にしちゃダメと言われたので、スルーすることにして、殺せんせーについて教室へ戻った。私たちはこの時放置されてしまったビッチお姉様の言葉を知らなかった。……ある意味、殺せると意気込んだ暗殺に対してこんな仕打ちをされては、プロの殺し屋として当たり前の反応ではあったのだけど。

 

 

 

 

 

「許せない……こんな無様な失敗、はじめてだわ……。この屈辱は、プロとして絶対に返す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────タン、タン、タン、タン

 

 相変わらず『自習』と大きく書きなぐられた黒板と、誰も何も言えない静かな教室に、ビッチお姉様がタブレットを苛立たしげに叩く音だけが響く。

 

「必死だね、ビッチねえさん。あんな事されちゃぁ、プライドズタズタだろうね」

 

「……だからって、タブレットに当たるのはかわいそうだと思うの。ビッチお姉様の爪で傷ついちゃいそう」

 

「……なんか違うと思うよ、それ」

 

 私とカルマくんが話していると、聞こえたのかこちらをビッチお姉様がキッと睨みつけてきた。私たちの方に意識が向いたことを確認した磯貝くんが、その機会を逃すまいとすぐさま声をかける。

 

「先生」

 

「……何よ」

 

「授業してくれないから殺せんせーと交代してくれませんか?一応俺等今年受験なんでて……」

 

「はん!あの凶悪生物に教わりたいの?地球の危機と受験を比べられるなんて……ガキは平和でいいわね~。それに聞けばあんた達E組って……この学校の落ちこぼれだそうじゃない。勉強なんて今さらしても意味無いでしょ」

 

 それを聞いて、みんなが微かに反応した。……確かに、私たちのクラスは本校舎に比べてしまえば全体的に落ちこぼれだ、否定はできない。……それでも進みたい道があるから、みんなここにしがみついてでも頑張ってる。それをちゃんと知らないくせに、勝手に国が雇って、勝手に教師という立場に入ったくせに、勝手に役目(先生)を放棄する人に、否定される……不満に思っても仕方が無いと思う。

 

「そうだ!!じゃあこうしましょ。私が暗殺に成功したらひとり五百万円分けてあげる!!あんたたちがこれから一生目にする事ない大金よ!!無駄な勉強するよりずっと有益でしょだから黙って私に従い……」

 

 ビッチお姉様の言葉を遮るように、誰かの消しゴムが投げつけられた。驚いたビッチお姉様がこちらを見る頃には……E組の怒りは、我慢の限界を超えていた。

 

「……出てけよ」

 

「出てけくそビッチ!!」

 

「殺せんせーと代わってよ!!」

 

「なっ……なによあんた達その態度っ!殺すわよ!?」

 

「上等だよ殺ってみろコラァ!!」

 

「そーだそーだ!!巨乳なんていらない!!」

 

「そこ!?」

 

 ……一部、よく分からない主張はあったけど、全員の意見は一致していた。すなわち……このまま態度が変わらないならこの人を、私たちの先生としては認めない、ということ。私も立ち上がって一緒に怒ることはしなかったけど、加勢するつもりもなくて耳を塞いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、みんなで気分転換に暗殺バトミントンを行い、少しスッキリした様子のみんなは、次の授業の準備をすることなくそれぞれが好きな場所で好きなようにくつろいでいた。どうせこの後の英語の授業も、ビッチお姉様は授業してくれないんでしょ?とばかりに。

 

──────ガラッ

 

 ……その時、音を立ててガラリと扉を開く音と共にヒールの音が響く……この校舎でヒールを履く人物なんて、一人しかいない。教室に入ってきたビッチお姉様が、私たちを見ることなく黒板に英文を書き連ねる。

 

「You are incredible in bed, repeat!」

 

「「「…………」」」

 

「You are incredible in bed……?」

 

「……ホラ!!チビちゃんだけじゃなく全員よ!」

 

「「「ユ、ユーアー、インクレディブル、インベッド」」」

 

 殺せんせーの授業でも聞いた事のない綺麗な(ネイティブの)英語発音を聞いて、でもいきなりの事にポカンとしながら席につき始める、みんな。私は思わず指示に従って言ってしまったのだけど、私の声しかないのはだめらしい……だから、チビちゃんはやめて欲しい。再度日本語で繰り返しを催促されて今度は渋々繰り返すと、ビッチお姉様は淡々と説明を始めた。

 

「アメリカでとあるVIPを暗殺したとき、まずそいつのボディーガードに色仕掛けで接近したわ。その時彼が私に言った言葉よ。意味は……『ベッドでの君はスゴイよ……』」

 

「(中学生になんて英文読ませるんだよ!?)」

 

「………?」

 

 周りで顔を赤くしたり、赤くしながらも青くなってる人がいるけどどうしたんだろ……ベッドですごい、ってことは寝相でも悪いのかな……じゃあこの英文を言った相手は失礼なことを言ったってこと?じゃあなんで顔色をみんな変えて……意味がよく分からないまま、ビッチお姉様の説明は続く。

 

「外国語を短い時間で習得するには、その国の恋人を作るのが手っ取り早いとよく言われるわ。相手の気持ちをよく知りたいから、必死で言葉を理解しようとするのよね。私は仕事上必要な時……その方法で新たな言語を身につけてきた。だから私の授業では……外人の口説き方を教えてあげる。プロの暗殺者直伝の仲良くなる会話のコツ……身につければ実際に外人と会った時に必ず役立つわ」

 

「外人と……」

 

「受験に必要な勉強なんて……あのタコに教わりなさい。私が教えられるのはあくまで実践的な会話術だけ。もし……それでもあんた達が私を先生と思えなかったら……その時は暗殺を諦めて出ていくわ。……そ、それなら文句無いでしょ?

……あと……悪かったわよ、いろいろ

 

「「「……………………、あはははははっ!!」」」

 

 いきなりの態度の変化、ポカンとしていたみんなが耐えきれずに笑い出す。あんなに殺気を出して殺すとか言って私たちを邪険にして、見下していたのに、この短い休み時間のあいだにビッチお姉様に何があったのだろう?

 

「何ビクビクしてんのさ。さっきまで殺すとか言ってたくせに」

 

「んなっ!?」

 

「なんか普通に先生になっちゃったな」

 

「もうビッチねえさんなんて呼べないね」

 

「……!!あんた達……わかってくれたのね」

 

 E組の先生として、認められたことを嬉しそうに、少し涙ぐみながら私たちの言葉を聞く先生。……でも、そこで終わらせないのがE組だ。

 

「考えてみりゃ先生に向かって失礼な呼び方だったよね。」

 

「うん、呼び方変えないとね」

 

「じゃ、ビッチ先生で」

 

「えっ……、と。ねぇキミ達、せっかくだからビッチから離れてみない?ホラ気安くファーストネームで呼んでくれて構わないのよ」

 

「でもなぁ……もうすっかりビッチで固定されちゃったし」

 

「うん、イリーナ先生よりビッチ先生の方がしっくりくるよ」

 

「そんなわけでよろしくビッチ先生!!」

 

「授業始めようぜビッチ先生!!」

 

「キーッ!!やっぱりキライよあんた達!!」

 

 ……と、結局こうなるわけだ。それでも、E組に受け入れられた先生は受け入れられる前よりも生き生きとしてると思う。このまま、先生らしくない先生だとしても、頑張ってくれたらいいな。笑い声の溢れる教室に、私はそんなことを考えていた。……さて、私はなんて、彼女のことを呼ぼうかな。

 

「あっはっは、結局ビッチで定着してやんの」

 

「最初にビッチって言ったの、カルマくんなのに……やっぱり略し方違うんじゃないの……?」

 

「んー?そうかもね。でも、この方が俺ららしいじゃん?」

 

「……、そっか」

 

「そこ!嘘教えてるの聴こえてるわよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 E組に新しい英語の先生が初めてやって来てから1週間ほどが過ぎた。さすがにみんなも慣れてきて、殺せんせーとの半分ずつの英語の授業を毎回楽しみにし始めている。

 

「あの、……イリーナ、先生……」

 

「あ、あんたはイリーナって呼んでくれるのね……!?」

 

「……私の事、もうチビちゃんって呼ばないなら……」

 

「呼ばないわよ、もう。……って、なによそれ……手紙?」

 

 ようやく、チビちゃん呼びから離れてもらえそうで安心した。それを確約した所でイリーナ先生は私が手に持っている封筒に気づいたらしく、目を向けてくれた。

 

「えっと、……黒い格好の人から、イリーナ先生にって、……さっきの、お昼休みに。……〝月の欠片が会いに来た〟って言えば、イリーナなら分かるって……言ってた」

 

「……!……そう、わかったわ。……にしても、あんたよくそんな得体の知れない見た目の人から受け取れたわね……先生である私にですら話しかけるのに躊躇うくらい怖がりっぽいのに」

 

「……、私はだいじょぶ、だから……」

 

「……?なんて、」

 

「なんだよ、ビッチ先生、ラブレターか何かか!?」

 

「……はぁ、そんなものよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

「どうかしたの?カルマくん」

 

「……俺、アミサちゃんと昼休みずっと一緒にいたのに……あんな手紙、いつもらったんだろ?」

 

 





──月明かりのみが照らす、真っ暗な夜。唯一の光源は、月と星の光のみ。そんな夜の帳が降りたE組校舎の校庭に、1人……現れた女性がいた。

「手紙では、ここが指定されていたけど……」

……イリーナか?

 そこに、新たな人物の声が響く。音も無く現れたのは……黒衣に身を包み、顔を仮面で隠した人物。見た目も、声も、体の特徴も何も見えず……性別を判断することは出来ない。いきなりの事に女性は飛び退き、その人物を確認すると安堵するように体の力を抜いた。

「……!はぁ、相変わらず闇夜に紛れすぎよ……ひさしぶりね。いきなり呼び出されて驚いたわ」

それが私の生きる場所だからな。……ここにいる、と噂を聞いてな、顔見知りとして、会っておこうと思っただけだ

「……そう。……それにしても……日本にいたのね。ここでは早々仕事もないでしょう?」

フフ、野暮用でこちらにいるに過ぎない……だが、お前も面白いことに首を突っ込んでいるようだが?

「知ってるの……流石ね。でも、今の私じゃ不可能だわ……痛感した。今は依頼達成の機会を見るつもり。……あなたも参加するの?」

参加か……日本政府からのコンタクトはあったが、大方幻獣に匹敵するほどの敵でもないのだろう?危険な時には介入してやってもいいが、それ以外で手を出す気は今のところは無い。まだ契約を結んだ訳でも無いからな……この件では自由に動かせてもらうつもりだ

「……じゃあ、協力は?少しでもガキどもの能力はあげておきたいところだし」

……………………、お前の手足ではなくあの子供たちを育てろ、と?フッ……そうか……気が向けば、な。私もそれなりに忙しい。例えば……超生物を昼夜問わず狙う輩の相手とか

「……!他の殺し屋による、学校での襲撃がないのは……」

ご想像にお任せしよう。
──────私はこのあたりで失礼する。あぁ、いつも出られるとは限らないが、何かあれば手紙に書いた所に連絡しろ。顔見知りの縁だ。協力できることはしてやろう

 そうして、黒衣の人物はまた、音も無く闇夜へ溶けるように消えた。校庭に、1人の女性を残したまま。





「ちょ、……もう。いきなり来て、いきなり帰るのもいつも通りね……、……でも、会えてよかったわ、──────(イン)



++++++++++++++++++++



胸の時間、大人の時間、プロの時間、をひとまとめにしたイリーナ先生の登場回、いかがでしたか?

最後の銀は、この物語の中でかなり重要なポジションとなります。ネタバレになるので詳細は明かせませんが……この小説の元ネタをよく知る方たちなら、何を言いたいかわかったかと。
よく知らない方は、ネタバレ覚悟で検索or今後少しずつ情報を小出しにしていきますので、楽しみにしていてください。

それでは、また、次のお話で。



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