暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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12話 集会の時間

 

「……急げ、遅れたらまた、どんな嫌がらせされるかわからないぞ」

 

「前は本校舎の花壇掃除だったっけ……」

 

「あれはキツかった……花壇が広すぎるんだよ」

 

「お前はほとんどサボってただろ?」

 

「はっはー、そうだっけ?」

 

「あー、もう!なんで私たちだけ、こんな思いしなきゃいけないのー!?」

 

 今は平日の、いつもだったら教室でゆっくりお昼ご飯を食べている時間……私たちE組生は、()()全員が揃って山の中を歩いていた。

 

 もちろん私も例外でなく、渚くんと茅野さんと杉野くん、奥田さん、菅谷くん、神崎さんと一緒に下山している。……いつもなら一緒にいるカルマくんは、ここにはいない……ほんの数時間くらいのことだけど、こう、停学になった時から外で離れて過ごすのは初めてのことで、最近慣れてきたE組の誰か(みんな)が一緒にいるとわかっていても、私は不安でいっぱいだった。……でも、離れても頑張るって約束したから。私は着ている、私にはかなり大きい黒いカーディガンの袖を顔に押付けた。

 

 

 

──話は4時間目の終わりにまで遡る。

 

 

 

「あー……、ついに4時間目が終わっちまった……」

 

「みんな、行くぞー……」

 

「おー……」

 

 私たちE組に所属する生徒は、普段本校舎への立ち入りは禁止されている……のだけど、いくつかある例外の内の1つ、今日のような全校集会の時とかは話は別になる。月に一度ある全校集会は、本校舎の体育館で行われるもの……()()集会ということは、普段は差別待遇で省かれたりいないもののように扱われてたりするE組も集合をかけられるということ。なので旧校舎がある山から降りて、本校舎にある体育館に行かなくてはいけない。それに加えてE組はどこのクラスよりも早く来て先に整列していなくてはならないという決まりがあるから、みんな昼休みを返上して山を降りる。

 

 ……E組は、通う校舎が違うから。

 

 普段、めったに顔を合わすことがないから。

 

 だからこそこういう機会(同じ空間にで過ごすこと)があると、本校舎に通う生徒たちはここぞとばかりにE組を差別してくる。……普段、旧校舎の入口である山のふもとから校門までの道でちょっと顔を合わせるだけの時だってそんな状況なのに、これをE組にとっては完全アウェイとなる全校集会の最中……ずっと耐えなくてはならない。E組が反抗することは許されていないから……私にとってもこれは、地獄の時間でしかなかった。

 

「……行きたく、ない……」

 

 全校集会へ行く。それは私の対人恐怖症(トラウマ)となるに至った元凶たちと顔を合わせなくてはならないということと同じだ。E組に来るまではできなかった、人と接する、信じてみることができるようになり始めているのは、周りが殺せんせーとE組のみんな(私を全面的に否定しない人達)だったからであり、あの敵だらけの中で過ごさなくてはならないとなると……正気でいられる自信が全くなかった。だって、E組のみんなに心を開くのにも時間がかかったのだから。

 

 私は最初、このE組にいる人達の名前すら知らなくて、だけど敵だらけの世界(信じられない人たちの輪)に飛び込むくらいなら、私には必要のない事だと思って狭い世界に閉じこもっていた。でも殺せんせーに世界を開いてもらったことで、渚くんとカルマくんに協力してもらいながら少しずつ、名前と顔を覚えるようになって……あと、少しでみんなのことが分かるようになる、みんなをちゃんと知った上で向き合える───そんな時、片岡さんにバレてしまった。

 

顔も名前も知らないなんて、普通じゃない

 

 

みんなと違う奴は、否定されて当たり前

 

 

みんなから外れた存在が、ここにいるのはおかしい

 

 

──────みんなの世界に、私は、いらない

 

 誰の声かも分からない、私の存在を否定する言葉たちが頭の中を一瞬で駆け巡って……耳に入ってくる音が、視界入ってくるものが、自分で処理のできない意味の無いものとして押し寄せてきて何も考えられなくなって……気がついたら空き教室で寝かされていた。そばにいたのはカルマくんだけで、他には誰もいない……何が起きたのか混乱する私に、私がこちらに戻ってきたことに気がついたカルマくんがゆっくり説明してくれた。……私は、パニックを起こして錯乱していたらしい。

 片岡さんは、私が上手くみんなと付き合えてないことに気がついて声をかけてくれただけなんだろうって、カルマくんと話してるうちに察して気持ちを落ち着かせることはできたんだけど……教室に戻るのが怖くて、躊躇っているうちにホームルームの直前になってしまった。

 

 そうしたら、殺せんせーが考えた『〝外〟の世界に溶け込む作戦』の一環として、いつの間にか、私たちがなんでE組へ来たのかについて説明をすることになっていた。だからみんな、私が渚くんとカルマくんとしかまともに話すことができなかった、私がカルマくんから離れなかった……1人で行動できなかった理由を知っている。私が当時のことをほとんど覚えていないこともあって、説明はカルマくんがしてくれたんだけど……

 

〝俺らのE組堕ちの理由は、暴力沙汰……ってなってるけど、正確には俺だけ。アミサちゃんの場合は、確かに教員室で元担任を睨みつけて反抗的な態度はとってたけど直接的な攻撃自体は俺が止めたから未遂だし、ほとんど厄介払いに近いと思う。結局元担任あいつが自分の評価を守りたかっただけだよ。で、最終的に教員室で暴れてきた。──────はい、コレで全部。満足した?〟

 

 ……なんだか、カルマくんがすべて悪い、私は巻き込まれただけ、みたいな説明をされた気がしてならない。……未遂……ハッキリ覚えてないとはいえ、先生に襲いかかろうとしたことなんだろうけど、《魔眼》を一般人に向けて使ってしまった時点で、未遂じゃないと思うのは私だけなんだろうか。事実の一部を隠されてしまって戸惑ったけど、大筋は間違ってなかったから異論は挟まなかった。

 ……この時、話を聞いていたE組の人から、私を否定する言葉は一切出なかった。むしろ認めてもらえたというか……私の、思い込みでみんなを判断していたということに気がついて、私はみんなに謝った。みんなが悪いわけじゃないのに、私が勝手に思い込んで勝手にみんなのことを怖がって勝手に避けてたことを。まだ、全員には受け入れられてないとは思うけど、これからをみんなに見せていくんだとあの時決意したんだ。

 

 全校集会とか……針のむしろ確定の場所に行きたくないのはみんなも同じなわけで……だからこそ、私だけが逃げたくなかった。

 

 ……でも、体は正直で昼休みが近くなるほどに震えが止まらないし、今はまだ結構教室に残ってる人がいるとはいえ、そろそろ行かなきゃいけないのは頭では分かってるんだけど……自分の席から、足が動かなかった。頼みの綱のカルマくんはといえば、早々にサボると言いきっている……サボったからって罰則を与えられても、痛くもかゆくもないんだって。……まぁ、例えカルマくんが集会に来たとしても集会の最中は出席番号順での整列が決まりだから、1番の彼と23番の私とでは離れて並ぶことには変わりないのだけど。

 

「……苗字と名前が逆なら、女の子で1番なのに……」

 

「外国ならともかく、ここ日本だからね」

 

「うぅ〜……」

 

「だから、俺とサボればいいじゃんって言ってるのに……」

 

「……ぅ、……でも……」

 

「……はぁ、しょーがないか……。不破さーん、矢田さーん!ちょっと待ってよ」

 

「んー?」

 

「どうかしたの?カルマ君」

 

 理不尽な理想を言いつつサボりを渋る割には立ち上がろうとしない(動けない)私にため息をついて、原さんと一緒に教室を出ようとしていた不破さんと矢田さんを呼び止めたカルマくん。いきなりの事だったし、カルマくんが普段あんまり声をかけない相手だからか、こっちを気にしている人たちがチラホラいる気がする。

 

「2人ってさ、出席番号的に集会の時アミサちゃんの前後になるよね?……前に話したけど本校舎には、アミサちゃんが先生に…他人に不信感を持つことになった元凶と原因がごまんといるんだよ。あそこじゃ出席番号順で並ばなくちゃいけないから、俺じゃあ守れない……だからさ、気にかけてやってくれない?」

 

 頼むよ、ってカルマくんは真剣な目で二人に言った。個人主義で人に頼るところなんてほとんどないカルマくんがお願いしたからかな、最初、矢田さんも不破さんもビックリして顔を見あわせてたけど、すぐににっこり笑顔を向けてくれた。

 

「わかった、集会の間は私たちが預かるよ」

 

「何か、特に気をつけなきゃいけないヤツとかいる?聞いてもいいなら、先に教えてといてほしいかな」

 

「……D組の奴らは、特に。でも幸いE組の女子は壁際だから、他の生徒からの干渉は最小限だと思う。だから……他クラスじゃなくて、壁側にいる教師を見といてほしい。特に……俺らの前担任の大野を」

 

「……ふむ、なるほど……おーけー!じゃあ、近くの男子にも声掛けとこうよ!三村君と前原君あたりかな?」

 

「教室にいないし、多分もう先に降りてるよね……私たち追いかけて伝えてくるから、真尾さんは渚君たちとおいで。……少しでも、安心できる人と一緒にいたいでしょ?」

 

 カルマくんから話を聞いてすぐに不破さんは並び順を確認してスマホになにやら打ち込み始め、矢田さんは、ゆっくり私に手を伸ばして頭を軽く撫でてくれた。そのあと、「あとでね。」と言い残して2人は待っていた原さんと一緒に教室を出ていった……多分、言葉通り先に言った前原くんたちを探しに行ってくれたんだと思う。

 ……私が何の反応もできないでいるうちにいつの間にか決まってしまい、私は2人にお礼を言うことも、なんで助けてくれるのか理由を聞くこともできなかった。それでも、ちょっとだけ心が軽くなった気がして、意を決して立ち上がって、私を待っていてくれた渚くんたちをを見てからカルマくんを振り返ったら……ため息をつかれた。

 

「……サボる気、ないんでしょ?だったら頑張っといでよ。……これ、貸してあげるからさ……でかいから体を隠せるし、少しは違うんじゃない?」

 

 そう言って差し出されたのは、カルマくんがいつも着ている黒のカーディガン……だから集会の間、私のカーディガンと交換してもらい……慣れている2人から離れて集会に出ることを、頑張ってみることにしたんだ。

 

 

 

──そして、山を降りている今に戻る。

 

 

 

 

「それにしても……アミサちゃん、ぶっかぶかだね……それ」

 

「……カルマくん、大きいから……私のやつも大きいけど、やっぱりぶかぶかになっちゃうよ」

 

 大きすぎて肩幅もあってないし、袖から手が出ていないカーディガンを渚くんにパタパタと振ってみせる……裾はスカートを隠すまでではないけどやっぱり長いし、前をとめたら短いワンピースにでもなってしまいそう。……でも、確かにカルマくんが近くにいるみたいで安心できる……ちょっと彼独特の香りのするこれを着ていれば、なんとか乗り切れるかもしれない。そう思って、やっと私は笑うことができた。

 

「……ねぇねぇ、あれ……彼シャツみたいなものだと思うんだけどどうなの?本人気づいてない上、楽しそうに袖振ってるけど」

 

「むしろ、真尾さんに着せるだけじゃなくてカーディガン交換してましたよね、赤羽君。……真尾さんのやつも大きめですから、あれなら赤羽君でも着れそうですけど……」

 

「てか、恋人同士ってわけでもないんだよなアイツら……よくやるよ」

 

 

 

────ブウゥゥウン…!!

 

 

 

「……って、うわ!?誰だよ蜂の巣刺激したの!!」

 

 ……前言撤回です。何事もなく安心して山を降りることはできないみたいで、なんか怒ったハチがたくさん追いかけてきた……!?こ、これは、動く敵を狙うんだっけ、黒い服はアウト?と、止まればいい?でも止まったら追いつかれる、ど、どうすれば…?!

 

「うわあぁぁああぁ!!!!」

 

「「「お、岡島ーーっ!?」」」

 

 ……今、なんか色々と大変なことになっている岡島くんが走り抜けていって……大量にいたハチの大半を引き受けてくれちゃった彼のおかげで、それから少しすればハチはいなくなり、一息つくことができた。

 

「やーもう、ハチとか勘弁してぇ……」

 

「大丈夫か?」

 

「烏間先生」

 

「焦らなくていい。今のペースなら充分間に合う」

 

 全く疲れている様子のない烏間先生が追いついてきて、ハチから逃げ回って疲れて座り込むみんなに声をかける。確かに、今のハチの騒動で慌てて山道駆け下りたから、だいぶん時間短縮にもなったのかもしれない。と、そこで誰よりも息を荒くして疲れきった声が聞こえてきた。

 

「ちょ、ちょっとぉ〜……あんた達ぃぃぃ……休憩時間から、移動なんて、聞いて、ないわよ……っ!」

 

「あ、ビッチ先生」

 

「だらしないなぁ、ビッチ先生」

 

「ヒールで走ると倍疲れるのよ!!」

 

 じゃあ、ヒール履かなきゃいいんじゃ……なんて、とても言えない剣幕だった。でも毎日この道を登って来てるんだから、降りるのも簡単……じゃ、ないのかな。……よくよく考えれば私も滑り落ちそうで怖いかも。

 

「烏間先生、殺せんせーは?」

 

「生徒達の前に姿を晒すわけにはいかないからな。旧校舎に待機させている」

 

「……せんせーだけのけ者、とか言ってそう、だね……」

 

「目に浮かぶわぁ……」

 

「さ、本校舎までもう少しだ。行くぞ」

 

「「「はぁーい……」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、ひどいめにあった……」

 

「岡島くん……だいじょぶ?」

 

「おー……てか、むしろ何で真尾はフツーなの……」

 

「……?ハチとかは怖いからヤダけど、このくらいなら別に疲れたりしない、かな……」

 

「ウッソだろぉ……」

 

 みんな、旧校舎入口のフェンスあたりで倒れたり、座り込んだりして息を整えている……なんか、道中で色々あったらしい岡島くんは特に、だ。制服はベタベタだし(若干乾いてきてるとはいえ近道をしたら橋が壊れて川に流されたらしい)、蛇に巻き付かれてるし(女子が蛇に怯えてたから間に入ろうとしたら自分に巻き付かれたんだとか)、なんかボロボロだし(落石に追いかけられたって)。

 見た目何も疲れてなくて普通に見えるらしい私は、体力がそんなにない代わりに体の使い方を知ってるから、体力温存ができるだけだと思うんだ。実はハチ騒動の時もみんなが座り込む中私だけ普通に立っていられたんだけど……最初から山道を駆け下りてたら、一緒に動けなくなってたと思う。

 

「間に合ったな……」

 

「なんとかな……」

 

「ほらみんな!急いで整列しようぜ!」

 

「「「はぁ〜い……」」」

 

 そうして少しは休憩していられたけど、私たちは整列するまでが規則だ。磯貝くんの号令に返事して、ぞろぞろと体育館へと向かった。

 

「ちょ、……ま、待ってぇ〜……」

 

 ……イリーナ先生、がんばって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「渚く~ん」

 

「おつかれ~、わざわざ山の上から本校舎に来るの大変でしょう~?」

 

「………」

 

 

 

「あ、ほら、異端児もここにいるよ」

 

「うわ、ホントだ。でも望んでた通りに堕ちたんだからさ〜もっと喜べばいいのに〜!」

 

「成績はいいのに素行不良とつるむなんざなぁ!おまけに教師(オレ)に対しての暴力行為ときた……」

 

「浅野君に誘われておきながら、無視するからこうなるんです。先生たちは何度も言いましたよ?そもそも……」

 

「……っ、」

 

 

 

 分かってはいたけど、やっぱり、ここは地獄だ。まだ集会が始まる前だというのに……いや、むしろ始まる前だからこそ、前で話す人もいないから注意されることも無く、こんな風に言えるのかもしれない。生徒だけでなく、近くの教師達も一緒になって口撃してくるそれに、耳を塞ぐことも、下手に反応することもできなくて、体の震えをなんとかごまかしながら下を向く。

 

「……真尾さん、……まだ始まんないしさ……私の制服掴んでていいよ。そりゃあカルマ君よりは小さいけど、すがる相手がいるってだけでちょっとは変わるかもしんないよ?」

 

「真尾さんは赤羽君に頼まれて預かった大事なクラスメイトなんだから。それに友達だし、頼まれなくても守るから!……むしろ、頼んでくれてよかったかも……ずっと、こんな状態で1人で戦ってたんだね。知らなかった」

 

「……あの、……わ、私……、……2人とも、それに、前原くんたちも……あり、がとう……」

 

「いんやー?俺はただ列を正すために移動しただけだしなー」

 

「俺も前原に合わせただけだぞ?」

 

「……そっか、……でも、ありがと、です」

 

 小声で、下手に周りを刺激しないようにしながら不破さんと矢田さんは声をかけてくれる。前原くんたちもこっちを見て、自分たちも口撃を向けられていて辛そうなのに少し体をずらして本校舎の生徒たちとの間に入る形に立ち、壁になってくれた。────やっと、お礼が言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えー、要するに、君達は全国から選りすぐられたエリートです。この校長が保証します……が、慢心は大敵です。油断してると……どうしようもない誰かさん達みたいになっちゃいますよ」

 

 ついに集会が始まり、校長先生のE組いじりでE組以外の生徒達が一斉に笑う。集会(ここ)では、先生も一緒になってことある事にE組全体をバカにして、笑って、蔑んでくるのが公然とされている。学校でトップのはずの、校長先生でさえ。

 

「こら君達笑いすぎ!!校長先生も言いすぎました」

 

 ……大人が、差別をよしとしている。

 

 ……むしろ、率先してやっている。

 

 だから、キライ。

 

 ……だから、信じたくなくなったのに。

 

 その場所で『当たり前』とされたらそこから外れる者は『異端』となり、その『当たり前』が集まればどんなに理不尽なものであってもそれはその場所で『常識』となる。……私はその『異端』として嫌われたんだ。

 

「続いて生徒会からの発表です。生徒会は準備を始めて下さい」

 

 司会のそんなアナウンスが流れた時、今まで合流していなかった烏間先生が、先生としての挨拶回りをしながらE組の近くへと歩いて来た。

 

「……誰だあの先生?」

 

「シュッとしててカッコいい~」

 

「E組の担任の烏間です。別校舎なのでこの場を借りてご挨拶をと」

 

「あ……はい、よろしく」

 

 烏間先生が姿を見せたことで、本校舎の生徒たちの視線が、近くにいた教師たちの目がそちらに集まる。私は、今までE組に向けられていた声や意識が少しだけ外れたことで、やっと息をつくことができた。生徒会の発表準備ができるまでは、近くの人と話している人ばかりで目立たなくなるのもある。

 

「烏間先生~ナイフケースデコってみたよ」

 

「かわいーっしょ」

 

……ッ!かわいいのはいいが、ここで出すな!!他のクラスには秘密なんだぞ!暗殺の事は!!

 

「「は、はーい……」」

 

 その少しばかりの小声の雑談タイムに、倉橋さんと中村さんが対先生ナイフをしまうケースを烏間先生に見せて、慌てて詰め寄ってきた烏間先生に小声で怒られてた。というか、……可愛いのはいいが、って……ここで出さなければ認めてくれるんだ、烏間先生。

 

「なんか仲良さそー」

 

「いいなぁー」

 

「うちのクラス、先生も生徒(男子)もブサメンしかいないのに」

 

 その時、また、体育館がざわつく。入口を見てみると、さっきまでのバテようが嘘のように振る舞うイリーナ先生が、綺麗な髪をなびかせながらこっちに来るところだった。

 

「……ちょ、なんだあのものすごい体の外国人は!?」

 

「あいつも、E組の先生なの?」

 

「カッコイイ……」

 

「ビッチ先生、さっきまであんなにへばってたのに……見栄っ張りだなぁ」

 

 ……私は、なんだか嬉しかった。私たちの自慢の先生たちが、他の人たちに褒められているんだから。もっと、自慢したい。この人たちが私たちを認めてくれる、先生なんだよって。

 

「渚、あのタコがいないから丁度いいわ。あのタコの弱点全部手帳に記してたらしいじゃない?その手帳おねーさんに貸しなさいよ」

 

「えっ……いや、役立つ弱点はもう全部話したよ……」

 

「そんな事言って肝心なとこ隠す気でしょ」

 

「いやだから……」

 

「いーから出せってばこのガキ、窒息させるわよ?」

 

「〜〜っ!苦しっ……胸はやめてよビッチ先生!!」

 

「(羨ましい……)」

 

「(ビッチ、なんだ)」

 

「……なんなんだ。あいつら……」

 

「エンドのE組の分際でいい思いしやがって」

 

 いつの間にか渚くんに近づいていたイリーナ先生が何か、小さな騒ぎを起こしてたみたいだけど……少しだけ聞こえてくる声だけでもなんとなく分かる、なんか、先生らしかった。

 

「……………………はいっ!今皆さんに配ったプリントが生徒会行事の詳細です」

 

「え……何?俺等の分は?」

 

「すいません。E組の分まだなんですが」

 

「え、無い?おかしーな……ごめんなさーい、3-Eの分の忘れたみたい。すいませんけど全部記憶して帰って下さーい!ホラE組の人は記憶力も鍛えた方が良いと思うし……」

 

 だけど……生徒会の準備が終わって、結局また、あの時間に戻る……いつもの、生徒からも公然と行われる陰湿なE組いじり。また、耐える時間が始まる……誰もがそう思った。

 

 

 

 ──その時だ。少しの風が起こりE組全員の手元に「生徒会だより」が配られたのは。

 

 

 

「磯貝君。問題無いようですねぇ……手書きのコピーが全員分あるようですし」

 

「……!はい。あ、プリントあるんで続けて下さーい!」

 

「え?あ…、うそなんで!?誰だよ 笑い所つぶした奴!!あ……いや、ゴホン……では続けます」

 

 ……殺せんせー。ひとりぼっちが寂しくなったのかな

 

「全校の場に顔を出すなと言ったろう!おまえの存在自体国家機密なんだぞ!!」

 

「いいじゃないですか。変装も完璧だしバレやしません」

 

「……あれ……あんな先生さっきまでいたか?」

 

「妙にデカいし、関節が曖昧だぞ」

 

「しかも隣の先生にちょっかい出されてる。なんか刺してねーか?」

 

「……女の先生が連れてかれた。……わけわからん」

 

「はは、しょーがねーなビッチ先生は」

 

 殺せんせーはマイペースにヌルヌル動いてるし、イリーナ先生はチャンスとばかりに暗殺をしかけてるし、烏間先生は殺せんせーに吹き飛ばされてイラッとした顔でイリーナ先生を連れていく……場所が違っても、先生達は全然変わらない。私たちは、あまりにもいつも通りな光景を目の当たりにして、ついつい笑い出していた。周りの雰囲気とか自分たちを見る目なんて、もう誰も、目に入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先、行ってるぞ!」

 

「うん。ジュース買ったらすぐ行くよ!……あれ、アミサちゃんも?」

 

「……うん、カルマくんにお土産買ってくの。……煮オレシリーズ、売り切れてないといいなぁ……」

 

「いや、煮オレシリーズ買うのなんてカルマ君くらいだから売り切れはありえないと思う……;」

 

 先生たちのおかげで、あの後の集会でのE組いじりは不発に終わり、いつもよりも気分よく体育館を出ることができた。一緒に教室まで戻ろうと申し出てくれた矢田さんと不破さんにはもう一度お礼を言って、自販機の前にいる渚くんを見つけたから追いかけてきたのだ。彼のカーディガンを貸してくれたお礼、ここで買っていこう……そう思って。

 

「……おい」

 

「お前らさ、ちょっと調子乗ってない?」

 

「えっ……」

 

「?」

 

 声をかけてきたのは、転級する前の所属クラスに当たるD組のクラスメイト……だったはず、多分。名前、知らないけど。

 

「集会中に笑ったりして、周りの迷惑考えろよ」

 

「E組はE組らしく下向いてろよ」

 

「どうせもう人生詰んでんだからよ」

 

「「………、」」

 

 ……なんて、かわいそうな人達なんだろう。

 

「おい、なんだその不満そうな目」

 

「なんとか言えよE組!!殺すぞ!!」

 

 誰も助けてくれない。見ている誰もが罵られる私たちを嘲笑っている。面白そうに、この後の展開を期待して見ている。……もちろん、私たちが下の立場を認める様子を想像して、だ。

 不満の色と、哀れみの色が目に出ていたらしく、目の前の2人に渚くんは胸ぐらを、私は腕を思い切り掴み挙げられた。でも、痛みよりも先に、私たちには彼らの言葉の方が頭に響く。

 

 

 

……殺す?

 

…………殺す……、

 

………………「殺す」、かぁ。

 

 

「……殺そうとした事なんて無いくせに」

「……殺す重みを、知らないくせに」

 

 

 私たちを掴んでいた男子生徒2人は、その言葉とほとんど同時に、怯えたように手を離して後ずさりした。……ふふ、ちょっとだけ殺せんせーの暗殺を狙う時のようないつもの雰囲気(殺気)が出ちゃったかな。私たちは周りを気にすることなく、避けてくれた2人を見ることなくまっすぐ歩く。後ろで他のクラスの人たちもざわついていた気がするけど、そんなの関係ない。

 

 私は、私たちのクラスを誇りに思っているんだから。

 

 

 

 

 

「真尾さん、大丈夫だったか?」

 

「あんたもよ、渚。烏間に聞いたけど、帰りに絡まれたそうじゃない」

 

 旧校舎へ向かう山道を渚くんと2人で歩いていると、後ろから烏間先生とイリーナ先生が追いついてきた。私と渚くんは振り返る……先生たちも全校集会でのE組差別を見ていただろうし、私たちの本校舎時代を知っているから、心配してくれたんだろう。

 

「僕は平気だよ。いつもの事だし……」

 

「……うん、みんなが居てくれたし……あの場所には嫌いな人たちだけじゃない、大好きな先生たちもいた。だから、だから、すごく、安心しました。

────私、学校でこんな気分になれたの、はじめて」

 

「渚……アミサ……、あんたたち……」

 

 それは私が人を拒絶して、再び信じることを受け入れ始めてから初めて実感した、信じる人と一緒にいられる喜びだった。1人では無理かもしれない、でも、信じられる人と一緒なら怖くない。それを、教えて貰ったんだと、改めて実感した時間になったから。だから私は、笑顔で先生たちに報告したんだ。

 

 

 





「あ、おかえり〜」

「おかえり〜……じゃねーよ、カルマ!」

「おっまえ、マジでサボってたんだな……」

「だってあんな集まり行く価値ないじゃん?」





「カルマくん!」

「……へーきだった?」

「真尾さん、頑張ってたよ。途中からは烏間先生とビッチ先生のおかげかもしれないけどね」

「一緒に笑ってたもんね」

「……あのね、私、頑張れたよ。あとね、先生もみんなもいたからいつものE組にいるみたいだったの。……あ、これ、カーディガン貸してくれたお礼のお土産……って、わ!」

「おっと、……慌てないでよ」

「はい、イチゴ煮オレ!売り切れてなかったの!」

「……ん、ありがと。……話聞いて」






「真尾さん、なんかいつもより明るい……?」

「ふっきれた感じがあるよね」

「それより、あいつらのやり取りが親子というか、先輩と先輩大好きな後輩というか、なんというか……」

「カルマが羨ましい。俺も真尾の世話焼きたい……」

「俺も。なんか見てるとうちの妹みたいで、ついつい手を貸したくなるんだよな……」



++++++++++++++++++++



集会の時間と、少しの自立(数時間)

少しずつ人間関係を学びつつ、信用できる人たちと一緒にいれば1人じゃないってわかるし、立ち向かう力になるんだ……というような、友だちに頼ることを学んだ回にしたかったので、カルマがほとんど登場しないこの話はちょうどよかったです。

ちなみにあとがき部分の最後の方の会話は、上から神崎、茅野、三村、前原、磯貝のイメージ。
他の生徒もちょこちょこ出していきたいなーと思ってます。


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