暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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16話 修学旅行の時間・1時間目

 

「……はい、これで朝の連絡事項はおしまい……あ、そうそう、1つ大事なことを伝え忘れるところでした。来週はみなさん待ちに待った京都へ修学旅行ですね?クラス委員の2人に頼んでありましたが……班は決まりましたか?期限は……」

 

「よっしゃ決めよ決めよー」

 

「おーい、一緒の班になろうぜー!」

 

「って、コラ!せめて最後まで聞きなさい!」

 

「だってまだ決めてないし、今日中に決めれば間に合うでしょー?」

 

「それでもせめて聞くフリくらいはしなさい!せんせーが寂しいから!」

 

「フリでいいんだ……」

 

「……しゅーがくりょこー……かぁ……」

 

 第二の刃をめざしてE組全員で頑張った中間テストが終わった、かと思えば今度は……しゅーがくりょこー、というものへ行くらしい。例え私たちの教室が普通じゃない暗殺教室だったとしても、中学校に在籍している以上普通に学校行事の予定は目白押しです。

 朝のHRで殺せんせーがどこかウキウキしながらメグちゃんと磯貝くんにプリントを渡しながら班決めの確認をしている。……そういえば教室に来てすぐくらいに、渚くんが片お……、……メグちゃんに聞かれてた気がする。殺せんせーも3年生が始まったばかりなのに総決算など……とか言いながらもその本人が超巨大な荷物を準備していて大矛盾。1人で行くこともできるけど、みんなと一緒に行くからこそ、かなり楽しみにしてるみたい。

 

「……知っての通り、来週から京都二泊三日の修学旅行だ。君らの楽しみを極力邪魔はしたくないが……これも任務だ(・・・・・・)

 

「てことは、向こうでも暗殺?」

 

「その通り」

 

 体育の授業の終わりで殺せんせーのいない間をぬってされた烏間先生の説明によると、元々引率する烏間先生たちが私たちの監督と安全を守るためにあらかじめ私たちは班ごとに京都の街を散策するコースを考えて先生に提出することになっている……その散策ルートの内、私たちが指定した時間帯と場所で殺せんせーが付き添いをするらしい。その指定した場所で標的である殺せんせーを国が手配した腕利きの狙撃手(スナイパー)が狙う……つまり、私たちはスナイパーのために狙撃の舞台を整えることが任務ということだ。といった説明がされているとチャイムがなり、続きは教室で話し合うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ということは、京都の街をよく調べて……俺たちの手で暗殺に最高の場所(ロケーション)をみつけなきゃいけないんだ…」

 

「じゃあ、班決めも結構慎重にやらなくちゃ。慣れない相手と一緒だと、どうしてもぎこちなくなってバレる可能性が上がる……」

 

「でも別に、この自由行動までの班を考えればいいんだし、他では普通に交流できるもんね。そこまで難しく決めなくていっか」

 

 体育のあとに着替えて教室へ戻るとガヤガヤとしていて……みんな仲がいいメンバーでまとまりつつも、暗殺を意識したメンバーを考えて班を決めている様だ。班決めのプリントを渚くん、カエデちゃん、杉野くんが一緒に覗き込みながら話しているのを横目に、私とカルマくんは窓際で全く関係ない話題……次に何を殺せんせーに仕掛けるかについて話し合っていた。私は班行動というものの意味がイマイチわからないせいでピンとこず、あまり深く考えていなかったからというのもある。

 

「修学旅行の班か……カルマ君、同じ班になんない?」

 

「ん?アミサちゃんも一緒ならオッケー」

 

「えと……私は、渚くんと、カルマくんがいれば……班っていうのもよく分からないし」

 

「もちろん!というか、一緒じゃなきゃ2人とも嫌だろうし……、……じゃなきゃカルマ君の暴走……誰が止めるのさ……

 

「?」

 

 私はカルマくんが、渚くんが一緒ならどの班に入ってもよかったし、別に嫌ってことは無い……ただ、知らない土地でまともに行動できるか怪しくなるだけで。E組の女の子たちや何人かの男の子たちと距離が縮められたとはいっても、やっぱり長い間一緒にいた人との方が自然体でいられるし、何より安心できるから……今回渚くんに呼んでもらえてよかったかもしれない。2人とも揃っているならもっと安心だ。

 最後に肩を落としながら渚くんが小さく言ってたんだけど、カエデちゃんがドンマイって渚くんの肩に手を置いていた……カルマくんって、別に暴走したことないんじゃないかな……?あいにく私にはよく分からなかった。

 

「暴走といえば……大丈夫かよカルマ。旅先で喧嘩売って問題になったりしないよな?」

 

「へーきへーき……ほら、旅先の喧嘩はちゃんと目撃者の口も封じるし、表沙汰にはならないよ」

 

「おい……やっぱやめようぜあいつ誘うの」

 

「うーん……でもまぁ、気心知れてるし」

 

「それに、カルマくんは理由がなければ喧嘩しないよ?」

 

「えー……」

 

 ほんと、なのになぁ……。やっぱり普段の(サボったり楽したりする)様子や、きっかけがあると先に手が出てしまう生来の喧嘩早さはどうしても誤解を生みがちなんだろうな。私としては、大切な人だからこそいいところをもっとみんなに知って欲しいんだけどなぁ……まだ、女の子にも男の子にも遠巻きにされがちだもん、カルマくん。

 

「で、メンツは?渚君と杉野と茅野ちゃんとアミサちゃん……」

 

「あ、奥田さんも誘った!」

 

「7人班だからあと1人いるんじゃね?男女どっちでもいいけどさ」

 

「へっへ〜……俺をナメんなよ。この時のためにだいぶ前から誘っていたのだ……クラスのマドンナ、神崎さんでどうでしょう!」

 

「おお〜、異議なし!」

 

「よっしゃ、これで俺らの班は決まりだな!どこ回るのか決めようぜ!」

 

 杉野くんが連れてきた有希子ちゃんは、真面目でおしとやかでとても美人な人……静かに過ごすことが多いしあまり目立つ人ではないけど、同じ班になれて嫌な人は居ないと思う。それに、

 

「よろしくね、みんな。アミサちゃん、せっかく同じ班になれたし前の女子会は行けなかったから……いっぱいお話しようね」

 

「……!うんっ!おしゃべり楽しみにしてる」

 

 私個人的に有希子ちゃんは、どこか私の大好きな人の雰囲気を感じさせる性格だから……だから一緒にいられるのはすごく嬉しいし、ほとんど恐怖心もないから自然と近くに行きたくなる。その後有希子ちゃんには頭を撫でられながらなぜか、「みんなが言ってた意味がわかった気がする」って言われて、カエデちゃんと杉野くんがものすごく頷いてたけど……みんなが私のことをどう言っているのか、無性に気になる。

 あと、有希子ちゃんに声をかけられていつになく嬉しそうにしていた私を見たカルマくんと渚くんの2人が、珍しい光景を見たという顔で驚いていた……っていうことを後からカエデちゃんが教えてくれたんだけど……そんなに驚くことだったのかな。

 

「……そういえば、今更なんだけど……しゅーがくりょこー……って、何?旅行ってつくしお出かけ?お出かけと何か違うの?」

 

「え、小学校でも行っただろ?行き先はみんなバラバラだろうけど」

 

「私、外国育ちだし、色々あって各地を転々としてて……小学校行ってないから、これが初めてなの」

 

「そーなのか……なんかすまん」

 

「ううん、杉野くんは悪くない、よ。私が話してなかっただけだから」

 

「えっと修学旅行はね、友だちと一緒に学校を離れて日本の中の名所をお泊まりで観光に行くんだよ!美味しいもの食べたり、有名なものを見学したり……あ、あと、夜通しおしゃべりしたり!」

 

「あとは……そうですね、一応『修学』っていう旅行ですから勉強でもありますよね。見学先の情報を調べたり実際に見て体験して学んだり、でしょうか?」

 

 カエデちゃんと愛美ちゃんが教えてくれたことから、旅行は旅行でもただ遊んで終わるんじゃなくて、勉強も一緒にするものってことなんだってことが分かった。もうちょっと詳しく聞けば、行き先は私たちのような文化財が多くある京都以外にも、原爆に関するものがある広島だったり、東京にない学校だと日本の首都だから東京にきたり、なんと飛行機に乗って海外へ行く学校もあるらしい。それらは全部、社会の授業とかで学んだ地域で、生徒の自主性とか集団行動とかを高める目的もあるみたいで……暗殺をすることで集団活動する私たちの生活にどことなく近い気がして、不思議な気分だった。

 

「フン、みんなガキねぇ。暗殺者として世界中を飛び回った私には……旅行なんて今更だわ」

 

「そっか、ビッチ先生は行かないんだな……じゃあ、いない間は花壇に水やっといてよ」

 

「あ、ここ行きたい!楽しそうだし美味しそう!」

 

「暗殺を考えるとここは……」

 

 ワイワイとイリーナ先生曰く旅行1つでも楽しそうにしている私たちを見て、嫌味のように上から言ってきてカッコつけてるイリーナ先生だったけど、みんなこの1ヶ月近く付き合ってきたおかげでか先生の扱いというかあしらい方にすごく慣れてる。一見イリーナ先生の言葉を大切にしてるけどあれは……分かっててからかってるんだろうな、多分。

 尊敬されたり賞賛されることなく見事に無視される形になった素直になれないイリーナ先生は、我慢出来なくなって小銃を抜いていた…………先生も仲間に入りたかったんだろうなぁ。いい意味で、イリーナ先生もE組に染ってる……

 

 ────ガラッ

 

「1人1冊です!」

 

 その声とともに殺せんせーがマッハで教室を縦横無尽に駆け巡り、生徒1人1人の手の上に何か本(?)が配られた……そう、とても分厚い重りとしかいいようが無いモノを。配られた瞬間に私はそのまま立っていられずにフラついた……って言えば、それくらいの重量があるって伝わるかな……?

 

「おっも!!」

 

「せんせー何これ!?」

 

「修学旅行のしおりです」

 

「辞書だろコレ!!」

 

「イラスト解説の全観光スポット、お土産人気トップ100、旅の護身術入門から応用まで、昨日徹夜で作りました!あぁ、初回特典は組み立て紙工作金閣寺です」

 

「どんだけテンション上がってんだよ!?」

 

 本場の麻婆豆腐が食べたいからと、お昼休みの短い時間を利用してでも1人で四川まで行けちゃうような殺せんせーは、旅行そのものを楽しみにしてるんじゃなくて、どうやらみんなと楽しんで、ハプニングにあって……そんな私たちと【一緒に】旅をすることを本気で楽しみにしているみたい。……初めてのしゅーがくりょこー……私も早く行きたくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行1日目。朝から東京駅の新幹線乗り場には椚ヶ丘中学校の3年生187人が揃い、新幹線に乗り込もうとしているところだった。

 

「うっわ……A組からD組までグリーン車だぜ……」

 

E組(うちら)だけ普通車、いつもの感じだね」

 

「うちの学校はそういう校則だからな……入学時に説明したろう?」

 

「学費の用途は成績優秀者に優遇されま〜す」

 

「おやおや〜君たちからは貧乏の香りがしてくるねぇ」

 

 ニヤニヤ笑いながら、E組を見下してくるのはいつもの嫌な人たち(D組の担任と元クラスメート)。正直嫌いな人たちしかいないから、見たくも口をききたくもないんだけど……とりあえずみんなの会話の内容を聞いている限り、私たちの乗る新幹線の車両と他のクラスが乗る車両は何か違うらしい。さっき窓の外から私たちが乗る方を覗いてみたけど、特に不満もない座席だと思った……何が違うんだろう。

 

「……んー……」

 

「真尾?どうかしたか」

 

「菅谷くん……私、クロスベルの列車しか乗ったことないから知らないんだけど……他のクラスが乗る、ゆーぐーだぞーって言ってるグリーン車と私たちの乗る車両って、何か違うの?」

 

「あー……簡単に言うなら俺らは席一つ一つの間隔が狭いんだよ。グリーン車は少し割高だから、軽く乗ろうと思って乗れる車両じゃないおかげで子ども連れが乗ることがほとんどなくて大抵静かだし、照明の雰囲気とかもあってゆったり過ごせるんだとよ」

 

「ふーん……なら、私は普通車でよかったな」

 

「「「は!?」」」

 

「だって静かな車両ってことは、静かにしてなきゃなんでしょう?みんなと旅行に行くのに、ワイワイできなかったり近くにいれなかったりするのって、寂しいもん」

 

 だって、修学旅行というのはそういうものってみんな言ってたよね?と、そう言ったら、D組の人たちは苦虫を噛み潰したような顔をして、E組で私の言い分を聞いていた面々は慌てて口を抑えたり明後日の方向を向いたりしている。あれ……私また何か、違ったのかな……?

 

「は、さ、さすがは異端児……負け惜しみだろ、どうせ!」

 

「旅の快適さは旅行の楽しみの1つさ!」

 

 そう言ってD組の人たちは車両の中へ顔を引っ込めた。よくわからない捨て台詞に首を傾げていたら、あの人たちが居なくなった瞬間吹き出すようにE組はみんな笑い出して、莉桜ちゃんや優月ちゃんに勢いよく頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜられた。菅谷くんとか前原くんなんて、お腹を抱えて笑ってる。

 

「あー、スッキリしたわ!さっすがアミサ!相変わらずどっかズレてるけどいいこと言う!」

 

「確かに楽しむために来てんのに、快適さを優先して楽しめなかったら意味無いもんな!」

 

 ……何かよくわからないのに褒められちゃったけど……みんなが楽しそうに笑っているから、いいや。そんなわちゃわちゃした空気の中でイリーナ先生がハリウッドセレブみたいな『いかにもお金持ちです!』みたいな格好で登場して、また私たちは驚きと呆れで度肝を抜かされたけど、烏間先生のものすごく怖い表情(かお)に負けたイリーナ先生が新幹線のトイレの中で寝巻きに持ってきていた服に着替えることで決着がついた。……寝巻きって言ってる服こそが普通に生活する服装に見えるんだけど、多分、イリーナ先生はお金持ちばっかり殺してきたから庶民感覚がズレているのが原因じゃないかな。だけど、さっきの人たちからすれば……このイリーナ先生を見てくれたら貧乏な香りがする、なんて言えないんじゃないかな?

 

「えーっと俺らの席は……案の定自由席だからこの車両から空いてるところならどこでも好きなところを選べばいいな」

 

「わ、私、窓際に座ってみたい……!新幹線って速いんだよね?景色どんなのなのかな……?!何が見えるのかな……!!」

 

「アミサちゃん、大興奮だね……予想通りだけど」

 

「新幹線に乗る前からずっとソワソワしてたもんね」

 

「やっぱり決めると真っ直ぐな上、周り見ないよねー……もう座ってるし。どうせ席、向かい合わせで座っても一人余るし、俺はアミサちゃんとそっち座るわ。話す時にはそっち向くしさ」

 

「お、そーいや7人班だから分かれなきゃなのか……サンキュ!」

 

「えー、またカルマ君がアミサちゃんを独占するのー……?」

 

「茅野ちゃんもこっちに来てもいいけど、アミサちゃんは窓に張り付いてるし、俺が隣りもらうからどうせ隣に座れないけど?」

 

「うぐぐ……ずるいけど反論できない……」

 

「茅野さん、行きは我慢しましょ?外では一緒にいればいいんですから」

 

「それに夜は部屋で一緒なんだしね。男子にはない特権だよ」

 

 私たちの班、4班が新幹線の中に入って杉野くんが席を確認してくれたのを聞いてすぐ、私は窓際に一直線で席を取った。クロスベルの列車だったり通学で使っている電車は乗ったことがあるけど……新幹線はスピードとか止まる駅の数とか色々違うらしいからずっと楽しみにしていたのだ。1人で行ってもカルマくんか渚くんは着いてきてくれるって勝手な信頼があるからできることでもある。何やらバタバタとはしていたけど無事に席決めは終わり、カエデちゃん、愛美ちゃんペアと渚くん、有希子ちゃん、杉野くんが向かい合わせに座って、渚くんたちの後ろの席で私は窓側、その隣にカルマくんが座る形で落ち着いた。

 無事に駅を出発して、景色はどんどん流れていく……窓の外を流れる景色は、通学で使う電車よりも早くてそしてとても不思議と静か。どんどん流れていくそれに飽きないで見つめていれば、急に黄色いうごめく何かが視界に入ってきた。

 

「あれ、電車出発したけど……そういや殺せんせーは?」

 

「ひぇっ!?」

 

「アミサちゃん、どうしたの……って、なんで窓に張り付いてんだよ殺せんせー!!」

 

 驚いて窓から離れると、黄色い何かは新幹線に張り付いて落ちないように移動させた、殺せんせーの触手だったらしい……ホントなんで外にいるの……!?

 

『いやぁ、駅中スウィーツを買っていたら乗り遅れまして……次の駅までこの状態で一緒に行きます。あぁ、ご心配なく……保護色にしてますから服と荷物が張り付いているように見えるだけです』

 

「それはそれで不自然だよ!?」

 

 駅中スウィーツって……それって、出発地のやつなら別に帰りでもよかったんじゃないかな……むしろ、帰りの方が慌てなくて済むのに。でも、言ったら言ったで「旅行で買って楽しむのが醍醐味なんじゃないですか!」とか言われそうだから黙っておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、疲れました。目立たないよう旅するのも大変ですねぇ」

 

「そんなクソでけぇ荷物持ってきておいて、目立つも何も無いよな」

 

「ていうか、国家機密が堂々としてるって言うのもなんかねぇ?……その変装も近くで見ると人じゃないってバレバレだし」

 

「にゅやッ!?」

 

 合流した殺せんせーは、新幹線の3人席一列を荷物と先生で埋め、一息ついていた。目立っちゃダメなのに本人の言う変装は、全校集会で着てきてたような変装って言えないくらいの簡単なものだし、手袋したり全部服で覆ってるとはいえ、関節グネグネは改善してないし、それなのに本人は満喫しすぎててどうしようもない。

 そんな殺せんせーの様子を、窓の外を見るのをやめて4班のみんなと一緒にトランプをしながら見つめる。あれでだいじょぶだと思ってる殺せんせー……いいのかなぁ……

 

「殺せんせー!ほれっ」

 

 手元でなにか作業をしていた菅谷くんが殺せんせーに向って何かを投げる。慌てて確認した殺せんせーの目が輝いたように見えた。

 

「まずはそのすぐに落ちる付け鼻から変えようぜ」

 

「……おぉ!すごいフィット感!」

 

「顔の曲面と雰囲気に合うように削ったんだよ。俺、そういうの得意だから」

 

 さっきみんなに色々言われた拍子に落ちた殺せんせーの付け鼻……それを拾って、丸顔の殺せんせーに合う丸い鼻を、顔の曲面に合わせて見ただけで調整しちゃった菅谷くん……メグちゃんも言ってたけど、焼け石に水くらいには違和感が減ったと思う。……すごい技術だ。私のキーホルダーもササッと直しちゃったし、なかなかマネできない特技の1つなんだろうな。

 

「あははっ、面白い。旅行になるとみんなのちょっと意外な一面が見られるね」

 

「うん。これからの旅の出来事次第で……もっとみんなの色んな顔が見れるかも……」

 

「……そうだ。ねぇ、みんなの飲み物買ってくるけど何がいい?」

 

「あ、私も行きたい!」

 

「私も!」

 

「わ、私も、行っていい……?車内販売っていうの見てみたいの……!」

 

 有希子ちゃんが思い出したように飲み物を買いに行くことを提案してくれて、女の子4人で車内販売が隣の車両に来ているのを確認して行ってみることにした。7人みんなで行っても邪魔になっちゃうし、ということで男の子組はお留守番。隣の車両だし何もないと思うけど一応気をつけてね、というお言葉をもらっていざ出発。

 一緒におしゃべりしながらも、頭の中では買うものを忘れないように何度も反芻して歩く。えっと……カルマくんが煮オレシリーズの何かがあればそれで、渚くんがお茶、杉野くんがスポーツドリンクで……そんな風に、前を見ないで考えながら歩いていたからかな。

 

「わ、ぷ」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 有希子ちゃんが誰かにぶつかって足を止めたのに気づかなくて、私は愛美ちゃんの背中にぶつかってしまった。慌てて相手と愛美ちゃんに謝り、広がって歩いてしまっていたのを一列に直して車両を歩く。有希子ちゃんがぶつかっただろう人……頭1つか2つ分くらい大きい男の人と目を合わせない様にしながら。

 無事に車内販売で飲み物を買って席に戻る時にはあの人たちはいなくなっていて、私たちはもう気にしていなかった。修学旅行先で早々会うこともないだろうし、きちんと謝った……後腐れもないだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、どこの学校よ?」

 

「前の方のグリーン車にも同じ制服のヤツらたくさんいたぜ」

 

「椚ヶ丘の……たぶん中学だな」

 

「ほぇーッ頭のいい坊ちゃん嬢ちゃんばっかのとこじゃん」

 

「しかもよ、なんか今のイケてなかった?今の子」

 

「……なぁ、あの娘達に京都でお勉強教えてやろうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新幹線が京都駅につき、そこからバスでまた移動して……E組が宿泊する旅館である、『さびれや旅館』へ到着した。ここでも本校舎側との差別があり、本校舎の生徒たちは1人1人個室が準備されているきれいなホテルらしいけど、私たちは男女の大部屋だけらしい……しかもボロボロなんだって。

 ……でも、ボロボロだって言うわりには全然泊まれる室内だし、大部屋にみんなで布団を敷いて寝転びながら夜通しおしゃべりするのが修学旅行の醍醐味だって最初に教えてもらったから、逆にそれが体験できるのならよかったと思う。それにロビーとかも自由に立ち入りオーケーだから、いつでも大部屋を出てみんなが集まれる。……せっかく友だちと一緒にいるんだから、少しでも部屋から出て、会って、長く遊びたいというのが私の思いだ。まだ全然疲れてないし、部屋に荷物を置いたら自由時間だからってことで、みんなでロビーに集まってるんだけど……

 

「ねぇ、殺せんせーさ、1日目……というか移動しかしてないのに既にグロッキーなんだけど……」

 

「新幹線とバスで酔ったらしいよ……」

 

 真っ青な顔で、心做しか顔もしぼんで見える殺せんせーがソファでダウンしてた。酔ってダウンしてるけど、ナイフを避けるくらいの力はあるみたいで、本気で差すつもりはないとはいえ話しかけながらナイフを振り下ろすひなたちゃん、メグちゃん、磯貝くんをひたすら避けまくっている。

 

「だいじょーぶ?寝室で休んだら?」

 

「いえ、ご心配なく……先生これから一度東京へ戻ります……枕を忘れてしまいまして」

 

「「「あんだけ荷物あって忘れ物かよ!?」」」

 

 山のような殺せんせーの大きな荷物、少し見えるだけでもなんとか危機一髪とか、お菓子とか、こんにゃく……?とかがいっぱい入っているのは分かる。分かるけど……もしかしなくてもほとんど使わずに終わるやつじゃ……こんにゃくとかナマモノどうするの?

 そんな小さな騒動を尻目に、有希子ちゃんはここについて荷物を置いてからカバンの中をずっと漁っている。なんでも、4班の明日以降回るルートや時間帯とかをまとめた手帳が見つからないらしい。新幹線に乗ってすぐの時には持ってるのを見たから、失くしたとすればそれ以降だけど、有希子ちゃんがそう簡単に物を失くすなんてあまり考えられない。

 

「どう、神崎さん。日程表見つかった?」

 

「ううん……確かにバックに入れてたのに……どこかに落としちゃったのかな……」

 

「神崎さんは真面目ですからねぇ……独自に日程をまとめていたとは感心です……ですが、このしおりを持てばすべて安心」

 

「「「(それ持って歩きたくないからまとめてんだよ…)」」」

 

 しおりは全部流して読んだだけだし、結構おもしろくて続きをしっかり読もうと一応持ってきてはあるけど……持っただけでふらつくあの重さと一緒に散策するのはちょっと無理だし、持ち歩こうとは思えないから、私は旅館へ置いていくつもりだ。それにあの重さと体積では動きづらいし、カバンに他のものが入らなくなっちゃうし荷物になりすぎちゃうから。

 その後も一応4班全員のカバンの中や持ち物を調べたり、新幹線やバスにも問い合せてみたけど日程表は見つからず……渚くんが代表してしおりを持っていくと言ってくれたので、明日の自由行動ではそれを見て散策することに決まった。

 

 明日のことが決まったので、残りの時間は旅館から出なければ自由と殺せんせーが宣言してから旅館を飛び出していき(多分枕を取りに帰ったんだと思う)、全員移動の疲れを癒すためのんびり過ごすことになった。

 ……新幹線で何かあったのかな、自由に過ごそうか、となった瞬間にカエデちゃんに手を取られて「アミサちゃんは女子のものだー!」という宣言とともに集団の中から連れ出された。ちょっとびっくりしたけど、追いかけてきた愛美ちゃんに反対側の手をそっと握られ、有希子ちゃんとニコニコ笑いながら追いかけてきて……なんだか楽しくもなったから不思議。

 

 

 

 ちなみに殺せんせーは、あの後枕を取りに東京へ戻ってすぐに京都へトンボ帰りしてきた……と、主張してるけど、何故か最初よりも荷物が増えていたので絶対に寄り道してきたんだと思う。コソコソ隠れて先生たちの部屋に入っていくところを見たから、バレてないと思ってるんだろうけど……私に見られてる時点で、他にも気づいてる人はいそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちの泊まる旅館は本校舎の人たちと比べると、交通の便が悪かったり見た目が古くて安そうに見えたりという印象を受けるけどそれはあくまで比べると、だ。中を見てればやっぱり十分施設は整っていると思う。

 

「おぉ、アーケードゲームがいっぱいある」

 

「旅館らしいですね」

 

「卓球台もさっき見つけたし、自由時間も困らなさそうだね」

 

「お泊まりする部屋も広かったね……カエデちゃんが教えてくれた、みんなで並んでお布団と、おしゃべりしてちょっとだけ夜更かし……ふふ、楽しみ」

 

 私たちは修学旅行のほとんどの時間を京都市内の散策で使うわけだから、お泊まりの時間だけが快適であればそれでいい。遊べるものもあるし、部屋も広いし、私的には大満足だった。ひと通り見て回ったあとは女の子の部屋に戻ると結構みんな戻ってきてて、部屋には女の子しかいないこともあってか教室にいる時のように……それよりもテンション高く話が弾んでいる。

 

「明日は八坂神社に行ける!働く女性のための神社でもあるんだよね?縁結び……美肌……」

 

「確かにまだ中学生だけど、私たちは暗殺し(働い)てるもんね」

 

「京都名物の食べ歩きしたいなぁ〜。暗殺しない時はめいっぱい楽しまなくっちゃ!」

 

 ある意味明日が暗殺の本番でもあるからみんな緊張しつつ、だけど散策自体は楽しみにしている人ばかり。班ごとに行き先や行く順番がバラバラだから、みんながどんな所へ行くのか聞いてるだけでもおもしろかった。

 ……そしてそれは、お風呂に入ってあとは寝るだけになってからも続く。盛り上がる中で、ふと思い出したように莉桜ちゃんが私の方を見ながらニヤーっと笑う……あれ、何かあったかな?

 

「そういえば、あの時のカルマは面白かったわね」

 

「……あの時?」

 

「ほら、自由時間になった途端に茅野ちゃんがアミサを拉致ったじゃん?あの時ほとんど同じタイミングでカルマの奴も手ぇ伸ばしてたんよ」

 

「あー、あれか。しばらく手の持っていきどころに困って固まってたもんね……さり気に奥田さんと神崎さんも前に出て邪魔してた気がしたけど」

 

「新幹線では独占してたんだから、こういう時くらい、いいかなって思ったら……つい」

 

「お、おかげで楽しかったです!」

 

 カルマくん、そんなことしてたの?あの時は自由時間になった途端カエデちゃんに手を引かれて、そっちしか見てなかったから全然気づかなかった。莉桜ちゃんの話しぶりからして私に手を伸ばしてたんだとは思うけど……

 

「カルマくん、何か用事があったのかな……もうお布団入っちゃったし、さすがに今から行くと迷惑だよね、明日の朝に聞いてみる」

 

「そうだ、この子こういう子だったわ……からかいがいがない」

 

 そうして、修学旅行1日目の夜は更けていく。明日があるから、と夜更かしは程々にして布団に入って眠ることになった。班ごとに近くに布団を並べているから、隣にも頭の上にも誰かがいる……こんなにたくさんの人と一緒に眠るのなんていつぶりだろう。1人じゃないことが幸せで、いい夢が見れそうだと私は目を瞑った。

 

 

 





リニューアル前はお話を細かく分けてましたが、改稿ついでに文字数的にもちょうどよくなったので1日目を全部1話にまとめました。

なのでここから先は少しばかり構成が変わります。
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