暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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一部閲覧注意の直接的ではないにせよ、性的描写(襲われかける場面)があります。

R15くらいを想定してます。





18話 修学旅行の時間・3時間目

神崎side

 

「オラッ!この女も連れてけ!」

 

「えっ、アミサちゃん……ッ!?」

 

「車出せ車ァ!」

 

 私と茅野さんは、祇園の路地裏で襲われたあと腕を後ろ手にガムテープでキツく拘束されて、近くに停められていたらしい車に無理やり押し込められた。普通の観光客じゃないことに気がついて、言葉より先に相手に向かっていった赤羽君……彼のように私達は喧嘩ができるわけじゃないから、何か手を出すことも、逃げ出すこともできなくて。あとから連れてこられたアミサちゃんが私たちの上に投げ込まれた途端、リーダー格の男が指示を出して車が走り出した。

 

 この車がどこかへ向かって走る中……私たちは2人の男の人に後部座席から監視され、運転する人を含めて前にも2人……それに車はかなりのスピードで走っているから例え拘束が解けても簡単に逃げ出せる状況じゃなくて、茅野さんと身を寄せあうしかなかった。この場に奥田さんはいない……路地にあった遮蔽物の隙間に咄嗟に押し込んじゃったけど、この状況を見る限り捕まらずに済んだみたいだから、それだけはよかった。でも……

 

「…………」

 

 連れてこられた時からずっと、アミサちゃんは一言も発しないしピクリとも動かない。きっかけは赤羽君にナイフを向けられたことだろうけど、いきなり飛び出したかと思えば自分よりかなり体格の大きい男の人を軽々と倒してしまったアミサちゃん……私達と違って女子とはいえ唯一前に出て攻撃をしたからか、腕だけでなく足首から膝辺りまで何ヶ所も追加でガムテープを巻かれている。最初、私たち2人の上に投げ込まれたアミサちゃんだったのだけれど、両腕を縛られている私たちでは支えてあげる事ができず……車の揺れのせいで、今は意識がないまま私の膝に頭を持たれかけながら体は足元の隙間に落ちてしまっている状態だ。

 

 ……私が車に連れていかれる前に見たのは、男の人に背後から拘束されたアミサちゃんが、赤羽君が殴り倒されるところを目の前で見させられ、目を見開き、顔色を真っ青にして悲痛な表情(かお)を浮かべたところまでだった……あの後何があったのかは、わからない。だけど私達と違って彼女に意識がないことから、何かしらの危害を加えられているのは確か、だと思う。

 ……赤羽君とアミサちゃんの2人とこうして交流するのはこの修学旅行が初めてだから、2人の関係性はあまり詳しくは無い。だけどE組で過ごす2人を見ていた限り、アミサちゃんは赤羽君を誰よりも信頼して好意を向けていると思ってる……その好意が恋愛から来るのか親愛から来るのかまではわからない。

 

 だけど、その赤羽君が捕まった私達を、アミサちゃんを助けようとしたことで倒されるところを目の当たりにしたこと。

 

 そして非戦闘員である私達から離れて、アミサちゃん自身が赤羽君に加勢してしまったこと。

 

 意識がないから分からないけど、アミサちゃんはそれを()()()()()()傷付けられたと考えてしまっていてもおかしくない。アミサちゃんは自分のことより相手のことを考えすぎちゃう……そんな子だから。

 

「うひゃひゃひゃ!チョロすぎんぞこいつら!」

 

「言ったべ?普段計算ばっかしてるガキはよ、こういう力技にはまるっきり無力なのよ」

 

 下品な笑い声をあげている男の人たちと目を合わせたくなくて、アミサちゃんに目を向けて視線を合わせないようにしている私の代わりに、茅野さんが強気に顔を上げた。

 

「……ッ、犯罪ですよね、コレ……。男子達……それにこの子にまでこんな目に遭わせておいて」

 

「人聞き悪ィな〜修学旅行なんてお互い退屈だろぉ?楽しくしてやろうっていう心遣いじゃん」

 

「まずはカラオケいこうぜ、カラオケ!」

 

「なんで京都来てまでカラオケなのよ!旅行の時間台無しじゃん!」

 

「分かってねーな、その台無し感がいいんじゃんか……そっちの彼女ならわかんだろ?」

 

 話を振られたのは、会話に入ろうとしていなかった私……?私がって……、…………まさか、

 

「お前、どっかで見たことあると思ったんだけど、これさ……お前だろ?去年の夏頃、東京のゲーセン」

 

 リーダー格の人に見せられた携帯電話の画像……そこに写っていたのは、紛れも無く私の姿だった。ただし、今の私だと一目見ただけでは一致しないような変装をした、だ。普段の私は黒髪のストレート……でもその時は茶髪のウィッグをかぶって毛先を巻いていたし、おまけに普段なら絶対に着ないような……パンク風というのだろうか、アクセサリーもジャラジャラとつけた、そんな不良のような格好をしていた。

 写真を目にした茅野さんも、驚いたように私と写真とも見比べている。……無理もないよね、誰にも私だとバレないためとはいえ……今の私と正反対な姿をしているんだから。

 

「めぼしい女は報告するようダチに言っててよぉ……攫おうと計画してたら見失っちまってたってワケ。まさかあの椚ヶ丘の生徒とはね〜……でも、俺には分かるぜ……毛並みのいいヤツらほど、どこかで台無しになりたがってんだ」

 

 ……今、気が付いた……どこか見たことあると思っていたけど、この人達……行きの新幹線で、私がぶつかった相手だ。あの時から私は目をつけられていて、写真の私と同一人物だと気付かれていて……そんな私と、一緒にいたから茅野さんやアミサちゃんが、巻きこまれた……?

 

「これから夜まで……台無しの先生が何から何まで教えてやるよ」

 

 ……これこそ、私のせいなんじゃないのかな……?全部諦めるわけではないけど……早々に助けが来るわけでも、私たちですぐに対処できる程簡単なわけでもないから。今の私は自信なく俯くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ぎゃはははっ!

 

 嫌な笑い声が、響いている。砂か何か、ザラザラとしたものを頬で感じる。何も考えられなかった所に急に音が耳に入ってきて、閉じたまぶたの裏に、少しずつ光が戻ってきた。

 

「……ん……、」

 

「……!アミサちゃん、目が覚めたんだね」

 

「……おねー……ちゃ……?」

 

「え……?」

 

「……?……あれ……有希子、ちゃん……?」

 

 目を開けるとそこは、最後の記憶にあった薄暗いとはいえ静かで綺麗な祇園の路地裏とは全然違う、見覚えのあるはずのない、どこかの建物の中のようだった。まだクラクラする頭ではすぐに状況が理解できず、声と雰囲気だけで有希子ちゃんを私のお姉ちゃんと勘違いしてしまった……こんなところにお姉ちゃんがいるはずがないのに。

 意識がハッキリしてきてからいつもの癖で気配を探るように、ゆっくりと周りの様子を確認していく。横たわったままでも見える範囲の壁や床はコンクリートがむき出しになっていて、私はその床に寝かされているようだ。背中側には古びて穴のあいたソファ、少し離れたところにはビリヤード台やバーのようなテーブルも見える……どれも最近、人が使っていた形跡がない。多分だけど、どこかの施設が廃墟となり、私たちはそこへ連れてこられたんだろう。

 

 私の両側には有希子ちゃんとカエデちゃんが座っていて……2人とも後ろ手に縛られているようで、体を乗り出すようにして心配して見ていてくれていたみたいだ。

 

「ここは……ッ……いっ……」

 

「どこが痛いの?」

 

「お腹……思い切り、殴られ、て……」

 

 寝たままでいたくなくて慌てて体を起こそうとしたけど、お腹に鈍い痛みを感じて、またうずくまってしまった……その時に両手両足が縛られていて、全く動かせないことに気がついた。少し呻きながらも何とか体制を座らせることが出来た時、ジャリ、といくつかの足音が近づいてきた。

 

「最後の一人もようやくお目覚めかぁ……?」

 

「ひっ……!」

 

「ぎゃははっ!お目当てのやつとは違ったいい感じの女じゃねぇか」

 

 言葉とともに顔を覗き込まれ、反射的に体をそらして何とか距離を取ろうとする……といってもソファがあるし、拘束がキツすぎてからそこまで下がれないのだけど。ひとりぼっちで連れてこられたわけじゃないから、何とか耐えられる、けど……暗くて、知らない大きな人たちに囲まれた今は恐怖でしかない……殴られたことや捕まったこと、あとは元々の対人恐怖症のようなものも合わさって、震えるしかなかった。

 

「おーおー、初な反応だねぇ……これから夜まで、俺等10人ちょいを相手してもらうってのに」

 

「「っ!?」」

 

「…………」

 

 言っている意味はさっぱりわからないけど……身の危険があることなんだっていうのは、流石にわかった。だって、今の男の人の言葉を聞いた瞬間に……カエデちゃんと有希子ちゃんが引きつった声を上げたから。私たちの反応を楽しんでいるようで、余計にゲラゲラと笑い声をあげる目の前の人たちに寒気が出てきた。

 

「お前らも俺らと同類になればいいんだよ……俺らもよ、肩書きとか死ねって主義でさぁ……エリートぶってる奴等を台無しにしてよ。なんつーか、自然体に戻してやる、みたいな。俺等そういうアソビたくさんしてきたからよぉ……『台無しの伝道師』って呼んでくれよ」

 

「さいってー……」

 

 男の人の吐く言葉の言いたいことがほとんど分からない……というか、分かりたくもない。台無しにするってことはその人が積み上げてきたものをすべて崩すということ、それを自分のせいで崩してしまったのならまだ分かる……後から自分で起こしてしまったことを自覚して反省することができるからだ。でも、それを赤の他人に故意にされることなんて……ましてやそれを武勇伝のように語るなんて意味がわからない。

 思わず、というようにカエデちゃんがボソリと呟く。カエデちゃんが言わなかったら私が言ってたと思うそれを聞いて、得意げに話していた男の人から一瞬で笑顔が消えた。

 

「……なーにエリート気取りで見下してンだ、あァ!?お前もすぐに同じレベルまで堕としてやンよ!」

 

「や、ぁ……っ!離して……!!」

 

 男の人は勢いよくカエデちゃんの首を絞めあげ、そのままソファより高く持ち上げる。カエデちゃんは私と同じくらい背が低いから、ガタイのいい男の人に持ち上げられては足が地面につくわけがない。苦しそうに足をバタつかせているカエデちゃん……助けに入れず、見ているしかできない有希子ちゃん…………このままではカエデちゃんが、危ない。

 

 そう思ったらもう、我慢なんてできるはずがなかった。怖いなんて思っていられない……震えてるなんて、知らない……私が動かなきゃ、誰が動くの!!

 

「…………てよ……」

 

「……あ?」

 

「……カエデちゃんを、離してよっ!!」

 

「「「!!?」」」

 

 怖くて仕方なくて、震える唇から声を出したけど聞こえなかったのだろう……男の人は聞き返してきたから、私は意を決してしっかり顔を上げて思い切り叫んだ。今の今まで私は下を向いてばかりだったから、いきなりの動きにほぼ全員の男の人たちがこちらを向いていてしっかりと目が合った…………瞬間だった。

 

 ────バチバチバチィッ

 

「「「ガ、ァッ!?」」」

 

「グッ……!?」

 

「きゃぁっ!……っケホッケホッ」

 

「茅野さん!」

 

 ……まるで静電気のような激しい音が響くと同時に、私と目が合った男の人たちはみんな、その場で何かに縛りつけられたように体を固くして膝をついた。カエデちゃんを絞め上げていた男の人も例外ではなく、カエデちゃんをソファの上に落として膝をつく。

 

 ……開いた目の奥が、……アツい。……イタい。

 

 E組に来る前……停学になる前、カルマくん曰く教員室で使ったらしい時のことは全く記憶に残ってないけど、今回は自覚できた。これはやっぱり《魔眼》のようなもの……金縛りのようなものを起こすクラフトだ。時属性のヨシュアさんが使うソレは時間的拘束技(遅延効果、混乱付与)だったけれど、私が使っていることで若干変質しているように感じる……どことなく、見えない、存在しない痛みを与えている、ような……。

 

 カエデちゃんは少し咳き込んでいるけど大事無いみたいで、安心した……だけどこのクラフトを私自身が使えることを今の今まで自覚できてなくて、使い方を完全に理解できていないままに使用しているせいか、技の反動が目の痛みとして返ってきていて、痛くて目が開けていられないし、周りに火花が散ったように眩しくて、上手く周りが見えない。しかも使い慣れないせいで効果が軽くなってしまったようで、カエデちゃんを離してくれるまでは狙い通りだったけど、簡単に金縛りを振り切られてしまった。

 その、すぐに動けるようになった何人かの内だったらしいリーダー格の男の人が、今度は私の胸ぐらを掴みあげる。

 

「テメェか、おかしなことをしやがったのは……女どもの中で最初に反抗してきたのもテメェだったな……。そんなにヤられてぇなら、先にヤッてやるよ!!連れてけ!!」

 

「い、あ゛……っ」

 

「ッアミサちゃん!!!」

 

 持ち上げられたかと思えば誰か別の男の人の方へ投げ飛ばされ、そのままどこかに向かって引きずられ……カエデちゃんたちから引き離される。カエデちゃんが私を呼ぶ叫び声といくつかの足音、扉を開く音が聞こえた気がしたけど、痛みと苦しさにそれどころじゃなくて……声をまともに出せないまま先程の場所よりも奥まったところに連れてこられた。ここからはカエデちゃんも有希子ちゃんも見えない……投げ捨てられたそこで、私1人が周りを数人に囲まれる。

 

「ひっ……や、……っ!?!?」

 

「へぇ…………チビのくせにかなりなもんじゃん」

 

「リュウキ君お目当てのよさげな子も狙ってたけど、こいつも中々上玉じゃねーか」

 

 カーディガンごとシャツを破られ、肌が顕にされてしまった。体を嫌な、ねっとりした気持ち悪い目で見られているのが気配で分かる……破られてしまったことで下着も胸も丸見えになっていて、なんとか隠したくても両手は縛られているし、恐怖がぶり返してきてうまく動くこともできない。なんとかほとんど動かすことができない足も使ってずり下がるように後ろへ逃げるけど、男の人たちはニヤニヤと笑いながらワザとらしくゆっくりと近寄ってくる……そのうち壁にあたってしまい、それ以上下がれなくなってしまった。

 

「ちゃんとした撮影スタッフが到着すれば、お前のお仲間ともども撮影会だ……それまでは、お前が楽しませろよ……」

 

 ───周りから何人もの男の人の手が伸びてくる。何人かのうちの1人の男の人が私の上にまたがってきたせいで、全く体を動かせない。……何も、できない───

 

 

 

「○○○、今日は視覚的な潜在能力を引き出す実験だ。そろそろ薬が効いてきただろう?大丈夫、すぐに何も感じなくなる」

 

 

 

 ……、記憶の奥底に、フタをしていたものが、フラッシュバックして、動けなくなる。……怖い、コワい、やだ、私はもうやりたくない、こないで、…………助け、て、……

 

 ……助けてっ……カルマくん……っ!

 

「や、やだぁっ!……ッいやぁぁあぁぁあ!!!」

 

  私が無我夢中で叫んだその後、何かが弾け飛ぶような感覚と同時に何も分からなくなった……ただ怖くて、私はここにいるはずなのに、私を形づくる意識だけがどこかに行ってしまっていて。

 

 しばらく何も考えられなくなったのに、急に知っている温かさを感じたかと思えば…………視界の端に見慣れた〝赤〟が写りこんだ瞬間、私の意識は戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルマside

 

「──ッアミサちゃん!!」

 

 何かを引きずるような音と焦ったように茅野ちゃんがアミサちゃんを呼ぶ叫び声が聞こえた……中で、何かが起きたということ?すぐに渚君と杉野に合図を出して、中へ突入する。

 

 ────ギィィ……

 

「はっ、すぐにお前らも連れてってやるからよ……と、来たか、うちの撮影スタッフがご到着だぜ、……なっ!?」

 

「修学旅行のしおり、1243ページ……班員が何者かに拉致られた時の対処法……」

 

 渚君がしおりを読み上げながら中に入る。おイタをする奴らには、自分の現状……潰したと思い込んだ俺等があとを追ってここを突き止め、突入してきたんだってことを思い知らせてやった方がいいからね。俺はここの廃墟の入口を見張っていて、俺の鬱憤を思い切りぶつけてボコりにボコった、如何にもアイツらの仲間ですーって男を部屋の中へと投げ落としてやる。

 殺せんせー特製、超分厚い修学旅行のしおりに書いてあった想定通り……コイツらは他県から来た修学旅行生、車を使っていたとはいえ土地勘がないからこそ遠くへは逃げず、本ト近場で隠れやすそうな場所に潜んでいやがった。

 

「すごいなこの修学旅行のしおり!完璧な拉致対策だ!!」

 

「いやー、やっぱ修学旅行のしおりは持っとくべきだね」

 

「「「ねぇよ、そんなしおり!!!」」」

 

 いや実際ここにあるんだから仕方ないじゃん?ここで一歩前に出た俺は探し人3人の居場所を確認する……茅野ちゃんはソファの上、神崎さんはそのソファのすぐ手前に座り込んでいて、2人とも後ろ手に縛られてる様子だけど多分なんともなさそ……、……あれ……?

 

「で?どーすんの、お兄さん等……こんだけの事してくれたんだ。アンタ等の修学旅行はこのあと全部……入院だよ。ていうか……1人いないんだけど。

───アミサは、どこ?」

 

「カルマ君、奥!数人が連れてったの、まだそんなに経ってない!!」

 

「……ふん、中坊がイキがんな……あの女なら先に仲間がお楽しみ中だよ!それに、ほら、呼んどいたツレどもだ……これでこっちは10人。お前らみたいな良い子ちゃんはな、見たこともない不良どもだ」

 

「……渚君、任せたから!」

 

「……、……え゛っっっっ!?」

 

 俺達が入ってきた扉が音を立ててまた開き、高校生たちの言う通り増援が来たことを察したけど……俺はもうそれどころじゃなかった。後ろから来た存在を確認もせず、渚くんの返事も聞かずに俺は走り出して、茅野ちゃんが教えてくれた場所を走って目指す。……なんとなく、あれは男達の増援じゃない、俺等は大丈夫なんじゃないかって思えたから。

 

 あの男の言い様からしてかなりやばい状況なのは間違いないし、茅野ちゃんの言う通り時間が経ってないからといっても危険に決まってる……なにより1人で数人の知らない相手に囲まれるなんて、ただでさえアミサちゃんの苦手な状況が重なりまくってんのに、あの子が耐えられるわけがないじゃん……!

 

 教えられた場所に近付くにつれて、男達の嫌な声と既に泣き出しているようなあの子の声が響いているのが聞こえ始める……頼む、間に合え……っ

 

「や、やだぁっ!……ッいやぁぁあぁぁあ!!!」

 

「!!アミサッ!」

 

 ────飛び込んだ先で、俺は目を見張った。

 

 俺自身はアミサちゃんが叫んだ後に部屋へ飛び込んだわけだけど、目の前で一瞬何かがはじけたような感覚、だったと思う……思えばその感覚は思い出せなかったけど、どこかで一度感じたことがあって……。少し離れた俺でさえソレを感じたんだ、間近でそんな音の爆発を直接受けた男等はたまらず仰け反っていた。何が起きたのか分からなくて戸惑いはしたけど、まずはこいつらを片付けるのが先決かと仰け反ったヤツらにトドメを刺していく。

 

 アミサちゃんの体に乗り上げてまたがっていた奴を思い切り蹴り飛ばして、彼女を起こしてやろうとした所で、足が止まる……本ト、ギリギリだったみたいだ。

 アミサちゃんは両腕を後ろ手に縛られ、多分あの時の攻撃を警戒されたんだろう……両足も膝まで拘束された状態、カーディガンごとカッターシャツを破られ、肌と下着が顕にされていて……服を破られているとはいえ、女としての危険には間に合ったのが唯一の救いか。

 

 恐怖やら何やらでパニックを起こしている彼女の呼吸はかなり荒いし、どこを見ているか分からない目は虚ろで、助け()の存在が見えていない。

 

「……アミサちゃん」

 

「…………」

 

「……っ、……触るよ?」

 

「──────ッ!」

 

 名前を呼んでも反応が返ってこない。それでもこのまま放っておくわけにもいかないから、多少強引だけど俺を意識させるために……ゆっくり、できるだけ服の上から触れるようにして正面から抱きしめ、体を起こしてやる。……その瞬間にアミサちゃんの体が強ばり、引きつった悲鳴が喉の奥に消えた。

 俺は抱きしめたまま声を出さないで、ただ待った。アミサちゃんは今、防衛本能で心を閉ざして何も感じなくて済むようにしているんじゃないかと思ったから。下手に動いたり声をかけたりして今、警戒や拒否をさせるような事になれば、アミサちゃんがこれからもう何も受け入れなくなる気がしたから。

 

 抱きしめながら少しだけ頭を動かしたその時、アミサちゃんの震えが少し収まった気がした……焦点のあってなかったアミサちゃんの目に、何かが見えたのか小さく呟く声が聞こえる。

 

「……あか……赤……?……、……カルマ、く……?」

 

「……うん」

 

「……っ!カル、マ、……くん、……っ、……〜〜っ、こわ、怖かったよぉ……!」

 

「……っ、うん」

 

 やっと、返事らしい返事が返ってきた。どうやら視界に入ったのは俺の赤い髪だったようで……少しは意識が表面(こっち)に戻ってこれるトリガーだったのだろう……俺だと気づいてからは大きく声は上げないまでもボロボロと泣き始めた。

 

 アミサちゃんのことだから、茅野ちゃんと神崎さんの2人を守るために1人で危険を引き受けて1人で恐怖に震えるしかなかったんだろう。アミサちゃんは好意を向ければその分の好意を返し、悪意を向ければ内容は軽くても敵意を返す……そんな鏡のような所がある。茅野ちゃんや神崎さんに懐き、自分に向けられていた分の好意を……動けない2人を守る場面で返そうとしたんだろう。それこそ1人ですべてを抱える方法を、無意識に選んでしまうくらいに。

 

 ……いつか、1人で全て解決しなくてもいいってことを学んでくれるといいのに……今回だって、あの路地裏で飛び出さなくってもナイフの相手くらい俺に任せてくれても別に平気だっただろう。……この場所で自分1人に敵意を集めて茅野ちゃんと神崎さんを守ろうとしたんだろうけど、あと少しだけ我慢してくれていれば傷つく前に俺等が到着できただろうから。

 

 しばらくそのまま抱きしめてたけど、いつまでもそうしてるワケにはいかないし、アミサちゃんもだいぶ落ち着いてきたように思う。俺が来た方向から何かを鈍器で殴るような重たい音が聞こえたのを機に、ゆっくりと体を離した……向こうも多分、終わったから。そして手足の拘束を外してやり、破られたシャツを隠すために俺のカーディガンを着せ、前を留めたところで声をかける。

 

「……行ける?」

 

「……」

 

「その格好だと抱っこよりは背中かな……ほら、乗りなよ」

 

「……うん」

 

 いつもなら絶対拒否りそうなのに、特に抵抗もせず意外とすんなり背中に乗ってきた……だいぶ、精神的にも疲れてるみたいだ。もしアミサちゃんが手を離してしまっても落ちないようにと乗せる場所を調整して、俺は渚君達がいるだろうスペースへと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アミサちゃん……!」

 

「間に合った……?!怖かったよね……!」

 

 戻った場所にはすでに殺せんせーによって手入れをされて転がっている男の人たちだけ……ぐるぐるメガネの坊主さんと気絶した人たちしかいなくて、みんなは先に外へ出ていったようだった。

 

 カルマくんに背負われたまま廃墟の外へ出ればカエデちゃんと有希子ちゃん、助けに来てくれた渚くんと杉野くんと愛美ちゃんだけじゃなくて、手入れを終わらせた殺せんせーも待っていた。カルマくんにおんぶされた私のところに、カエデちゃんと有希子ちゃんが駆け寄って来る。守りたかっただけなのに、心配、かけちゃった……いつまでもここにいたくないだろうから、と誰ともなく言い出して旅館へ向かいながら話す。

 

「アミサちゃん……」

 

「……一応、本ト、ギリギリで間に合った……茅野ちゃんが教えてくれなかったらやばかったかもしれない……」

 

「ッ……私があいつに捕まったから、とっさに注意を引こうとして前に出てくれたんでしょ?ごめんね……ありがとう」

 

「カエデちゃんは、悪くない、から……カエデちゃんと、有希子ちゃん、愛美ちゃんが無事だったなら……それで……」

 

「……とにかく、全員無事でよかった。先生から言いたいことは旅館で話しましょう。ところで……何かありましたか?神崎さん」

 

「え?」

 

「ひどい災難にあって混乱しててもおかしくないのに、なにか逆に……迷いが吹っ切れた顔をしています」

 

「はい、殺せんせー……ありがとうございました」

 

 愛美ちゃんが捕まらなくて無事でよかったというホッとした気持ちと、カエデちゃんを守れてよかったという安心した気持ちと、私が代わりに敵意を向けさせる以外にどうにかする方法があったのかなという思いと、……他にも色々な気持ちが混ざりあって、よく分からなくなってきた。

 ぐちゃぐちゃな思考から逃げたくてカルマくんの背中に顔を埋めると、「旅館につくまで寝てていいよ。」と言われてしまい……眠いと思われたのかな、……確かにかなり、眠い……頭が働かなくなってきてる、けど。

 誰かの手が私の背中を、頭を優しく撫でてくれる温もりを感じる……あたたかい……そのあたたかさに身を任せているうちに、私はいつの間にか眠りに落ちていた。

 

 

 





「「……」」

「眠ったみたいです……泣いた跡、ありますね」

「赤羽君が来たから泣けたのかな……私達の前じゃ、泣きそうにはなっても我慢してたから」

「……あの時私を助けてくれた……バチバチバチッてヤツ、アミサちゃんだよね?」

「……多分……」

「だけど、今は安心してくれたんでしょうか……寝息も穏やかでよかったです。……私、1人だけ隠れてて無事で……旅館に戻ってから、またお話できるといいな……」





「……はぁ」

「渚、どーした?」

「なんか、女子って男子にはない部分で強いなぁって改めて思ったとこ」

「それな……あんな目に遭っても、なんか逆に成長した感があるし……俺、最後しか役に立ってねーもんな」

「言わないでよ……結構気にしてるんだから」

「俺って言ったじゃん、渚はしおりに気づいてるだろ……」





「ねぇ、殺せんせー……相談したいことあるんだけど」

「どうしましたか?」

「俺が飛び込んだ時のことでさ……ちょっと、気になることがあって」

「……旅館で聞きましょう」



++++++++++++++++++++



拉致事件まで、終了しました。
途中の文字が歪んでいる部分は、オリ主の第一部では明かされない根幹部分になるので読めない程度にしてあります。


元々神崎さんの性格が、オリ主の姉にあたるキャラクターにどこか似ているなって思っていたんです。この話を書く上で声優さんを調べて驚きました。
アニメでは無いのですが、初期の神崎さんの声優さんと姉のキャラクターの声優さんが同じ人だったんです……なんか、運命を感じました。


次回、好奇心の時間の内容です。
オリジナル部分として女子同士でわちゃわちゃさせます。


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