暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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19話 修学旅行の時間・4時間目

 

「アミサちゃん、着いたよ……1回起きて」

 

 移動の時とは違う、覚醒を促す体の揺れを感じて目を開けると、そこはもうE組が宿泊している旅館だった。結局帰り道まるまる全てを私はカルマくんの背中の上で過ごしてしまったらしい……寝起き特有のぼーっとした感じのまま目をこすってから周りを見てみると、初日に殺せんせーがダウンしていたロビーにあったソファの上のようだ。

 目の前には私を揺すっていたみたいで手を伸ばしているカルマくんと少し緊張した様子の愛美ちゃん、私の両隣にはカエデちゃんと有希子ちゃんが座っていて、少しだけ離れたところに渚くんと杉野くんと殺せんせーが立っている……近くに4班のみんながいる。まだ私たちしか旅館に帰ってきてはないみたいで旅館の中はとても静かだ。

 

「……おはよ。よく寝てたね〜下ろしても起きないんだもん」

 

「いや、起こさないようにって座らせないで寝かせてやろうとしてたやつが何言ってんだ」

 

「殺せんせーが、4班以外が帰ってくる前にアミサちゃんと話したいって言わなかったらそうするつもりだったよね、カルマ君」

 

「そうだけど?だってあんな目に遭っといてさぁ……」

 

「お、おはようございます、アミサさんっ」

 

「おはよ、ございます……私、結構寝ちゃってた……?」

 

「!」

 

「ほらね、アミサちゃんは普通っしょ」

 

 少し寝ぼけた声が出ていたかもしれないけど、すぐに返事を返す……と、あからさまに愛美ちゃんがホッとした様な顔をして笑って、そんな愛美ちゃんの肩をカルマくんが軽く叩いた。カエデちゃんが隣から、「愛美ちゃんは1人だけ連れ去られず無事だったことに負い目を感じていて、申し訳なくて私と上手く話せるか不安だったみたい」ってことを小声で教えてくれて驚いた。

 ……私は愛美ちゃんが無事で安心していたけど、助かってずるいとか、愛美ちゃんのことを避けようとかそういうのは考えてもいなかったから……でも、【1人だけ】みんなと違うことが起きるという不安は、私も覚えがあるから……そう考えてしまうのも無理は無いのかもしれない、なんて頭の隅っこで考えていた、ら。

 

「アミサさん」

 

「……殺せんせー?……わっ」

 

 そんな私たちのやりとりを後ろで見ていた殺せんせーがゆっくりと近づいてくる。私の前からカルマくんと愛美ちゃんが避けて、正面で対峙することになったけど……静かにこちらを見下ろしている殺せんせーは、私に何か話があるのだろうか、全く検討もつかずに少しだけ首を傾げると先生の触手が伸びてきて、私の頬を軽くもっちりと叩いた。

 

「中間テストの2日前……先生は言いました。アミサさんはとても成長している……でも、まだ1人で立ち向かう必要は無い、と」

 

「…………」

 

「帰り道に4班のみなさんに何があったのかを詳しく聞きました。祇園で拉致される直前には、ナイフを持った相手に立ち向かったこと……拉致された場所では既に警戒されているにも関わらず更に相手を怒らせる行動をとって自分に注意を引いたこと……。アミサさんの行動によって、カルマ君や茅野さんはその場限りは助かることになるでしょう。しかし、その場合アミサさん自身はどうなりますか?助けられた2人はどう思うでしょうか?」

 

「……ぇ……」

 

「今回で言ってしまえば、茅野さんと神崎さんは抵抗できないように拘束されていたとはいえ、与えられた危害はその程度で済みました。が、アミサさんは行動を危険視され、殴られ気絶させられていた上、2人よりも拘束は厳重にされていた。そして、茅野さんを助けるためにとった行動によって、性的な暴力を受ける寸前だったとも……自覚できていないようですが、あなただけ、他の班員以上に身体的にも、精神的にも大きなダメージを負ってるんですよ」

 

「……、……?」

 

 自分のした行動によって自分がどうなるか、助けた相手がどう思うことになるかなんて全く考えていなかった。だってその時の私が考えていたことなんて、危ないから助けたい、動けるのが私だけなら私がやるしかない……それだけだったから。

 身体的なケガはお腹を殴られたことだとして……精神的なダメージ……怖い思いをした、こと……?もしかして、今もある、この重たい感じがそれ……?

 

「アミサさんとカルマ君がE組に復帰する前に、実は渚君が自分を犠牲にする暗殺を決行していました。カルマ君とアミサさんも誰にも真似できないような自分たちの体を使った捨て身の暗殺を行いました……3人とも発想やそれを実行すること、それ自体はとても素晴らしい!……しかし、3人ともが自分を大切にしていない……そんな生徒に暗殺をする資格はない、と先生はみなさんに伝えています」

 

「「「…………」」」

 

 渚くんも私たちのような自分の体を顧みない暗殺をしかけたことがあったのか……そっちの方が気になってしまって、思わず渚くんの方へ視線を向けると、彼は若干落ち込んだような、苦笑いしてるような微妙な表情をしていた。あんまり蒸し返して欲しくないことなのかな。

 

「アミサさん?その顔はあまりピンと来てませんね?まったく……、あまり君達に頼みたくはありませんでしたが、彼女へ言いたいことはありませんか?」

 

 殺せんせーの言葉に戸惑っていると、右隣からぎゅっと私の腕を抱きしめて力が入れられたことに気付いてそちらへ顔を向ける。カエデちゃんが眉を下げて悲しそうに……それでいて、怒った声で話し出す。

 

「……私、確かに苦しかったし逃げられなかったけど……私の代わりに連れてかれちゃったアミサちゃんの方が痛かったし苦しかったでしょ?それに、もしカルマ君が間に合わなくてあのまま……ってことになってたら、私、ずっと自分を責めてたと思う……」

 

 今度は左隣からそっと手を握られて、そちらに顔を向けると穏やかな有希子ちゃんが私を見ていて……

 

「アミサちゃんは起きてなかったから知らないと思うんだけど、あの人達に狙われたきっかけは私だったの。あの人達は過去の私を知っていて、私がそれを負い目に思っていたのを利用されて……2人は巻き込まれただけ……ごめんね。だからそれに気づいた時は絶望したけど……アミサちゃんは今の私を慕ってくれてる、どこにいても私がどう向き合うかって言うことが大事だってわかったの。……アミサちゃんは優しいから、周りばかり気にしちゃうけど……お願い、自分を大切にして……」

 

 両手を友だちに繋がれて戸惑っていれば、目の前には愛美ちゃんが。

 

「アミサさん、ぎゅってしてもいいですか?」

 

「え、……う、うん……?」

 

「……では!」

 

 言い方は勢いがあったけど、抱きしめ方はとても優しくて……

 

「……私は確かに積極的に前に出られないし今回も神崎さんに促されるままに隠れてしまいました。アミサさんは強いと思います……でも、私より小さいんです……傷ついたら壊れてしまいそうで……お腹を殴られるところも見てました。生きてて……よかった……!」

 

 言われた言葉の意味を咀嚼しきる前に、頭の上に手を乗せられて上を向くと、愛美ちゃんが私を抱きしめたまま横にズレる。今度は優しい顔で私に目線を合わせるように軽くしゃがんだカルマくんが。

 

「アミサちゃんは俺の喧嘩、これまでにも散々見てきてるじゃん……俺はナイフで襲われたくらいじゃあやられないよ。……だから、手を出すよりは任せて欲しかった。結果的には助かったけどさ……今回は髪を切った時(あの時)とはまた違うんだから」

 

「……カルマ君の喧嘩を全く反省しない部分はどうかと思いますが……」

 

「だぁって、喧嘩は口でどうにもならないなら先に手を出さなきゃ、」

 

「ですが、カルマ君の場合は班員のことを考えずに喧嘩を楽しもうとしていた気持ちも少なからずあったでしょう?アミサさんはそれを自分でも気づかないうちに察してしまったからこそ、その隙を埋めるために加勢しようとしたと先生は睨んでるんですよ……そういう子だってことは、誰よりもカルマ君が1番わかっているんじゃないですか?」

 

「……それは、……、……そう、かもね……。渚くん、杉野、奥田さん、茅野ちゃん、神崎さん……アミサちゃん、……ごめん」

 

「お、おう……、でも、俺は何もできないまま倒されちまったからごめんな。でも、真似しようとは思えないけどすげーとも思ったよ」

 

「うん、あの時私達のことを見捨てないで立ち向かってくれたのは嬉しかったな」

 

「そうそう!もしかしたらカルマ君のおかげで逃げ道できるかも?って任せちゃったところもあるしさ」

 

「流石にあの人数をカルマ君1人に押し付ける形になったのは僕達も悪いと思ってるから……」

 

「それに、カルマ君が結構考えて喧嘩してるんだってことが分かりましたし。……アミサさんが言ってた通り、カルマ君って優しいですね!」

 

「待って奥田さん、肯定してる部分がなんかおかしい気がする」

 

「あとアミサちゃんは俺の事どう広めてるの;」

 

 最初は私に対して言いたいことを言ってたはずなのに、だんだん、お互いの謝り合戦のようになってきた……みんな、今回のできごとにそれぞれモヤモヤしたものがあったってこと?

 

「さて、脱線し始めましたし元に戻しましょうか。……アミサさん、助けられた方もスッキリしていない、それがよく分かったでしょう?」

 

 助けるということ……それは、体とか目に見える部分を守ることだけじゃない。助けられた方の気持ち……それを考えていなければ、迷惑なことかもしれないし結局相手に罪悪感を残してしまうことになる。それに相手によっては弱いから守ったのだと下に見られたように感じてしまうかもしれない……これでは私の嫌うシステムと同じことをしているじゃないか。

 

「……そっか……私、2人のことを助けようとして、気持ちを傷つけてたんだ……。カエデちゃん、有希子ちゃん、……ごめんね。愛美ちゃん、渚くん、杉野くん、……カルマくんも……心配かけて……ごめんなさい……」

 

「ううん、みんな謝ることがあったし……今回のはお互い様ってやつだよ」

 

「ていうか今回はイレギュラーすぎ!予想できるわけないじゃんかっ!」

 

「ヌルフフフ、それが理解できたのなら……アミサさんの自己犠牲もきっと少しは減るでしょう」

 

「なくなる、じゃないんだ……」

 

「では渚君はアミサさんがすぐに自己犠牲をしなくなると思いますか?」

 

「……、……ダメだ。思えないし、しなくなる想像すらつかないよ……」

 

 ここまで言われてやっと、心配をかけて、みんなの心を傷つけていたことに気づくことができた私は、みんなに対して頭を下げて謝った。そのすぐ後に、みんなから頭を撫でられたり腕に抱きつかれたりして顔をあげると……みんな、笑顔でこっちを見ていて。殺せんせーも顔に(マル)印を出していて、これは間違っていないんだってことが分かった。

 でも、殺せんせーと渚くんが話しているように、私はすぐには自己犠牲をしないようにはなれないと思う……だって、今までだって無意識にやってきたことがほとんどなのだから。

 

「……関係ないよ。そんなことならないように俺がちゃんとそばで見てるから」

 

「おぉっ、カルマ言うねーっ!」

 

「いっ!?……杉野、覚悟はいい……?」

 

「ちょ、まッ!?」

 

「あーあ……僕は知らないよ……頑張れ、杉野」

 

「け、喧嘩はダメですよ……!」

 

「あははっ!ケガしない程度にがんばれー!」

 

「ふふ……」

 

 ……でも、1人で難しいことに立ち向かわなくてもいいっていうのは、なんとなく分かった気がする。優しい笑顔で私のそばで見守ってくれると言ってくれたカルマくんがいて……いつも通り明るく笑いながらカルマくんの背中を音が鳴るくらい強く叩く杉野くんがいて……少し青筋を浮かべて杉野くんに向き直るカルマくんを苦笑して見るだけで止めようとしない渚くんがいて……止めようと慌ててアワアワしてる愛美ちゃんがいて……それを見て煽るカエデちゃんと穏やかに笑う有希子ちゃんがいる。

 

 まだ、誰を頼ればいいのかとか、どうやればいいかとかは分からないけど……少なくとも、この修学旅行を一緒に過ごした6人は私のことを見てくれてるって、何かあれば力を貸してくれるんだってことに気付けたから。

 

「ただいま〜……あ、殺せんせー!」

 

「てことは……全班暗殺失敗かぁ……」

 

「ていうか、なにやってんの?カルマ君と杉野君は取っ組みあってるし!」

 

「えっと2人は、……じゃ、じゃれあい……?」

 

「「違う!!」」

 

「ほらほら皆さん、帰ってきたんですから部屋に荷物を置いてきてはどうです?お風呂に入るもよし、夕食までのんびりするもよし、ですよ」

 

 それに、殺せんせーも。私たち生徒の味方で、誰よりも私たちのことを考えてくれるし、よく知ろうとしてくれて、よく見てくれるってこと……私は最初から知ってたはずなのに。

 他の班の人たちが続々帰ってくる中、私にとって幸せを感じることのできるこの光景を見て、私はカエデちゃんたちと一緒に自然と笑い声をあげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺せんせーが言った通り、私たちが散策から帰ってきてから夕ご飯まで、まだ結構余裕がある……つまりここから少しの間は自由時間となる。私はいろいろあったし、ホコリとか汚れを落として早く着替えたいから、1番最初はお風呂に行くことにした。

 ……昨日一度入ってみて、お風呂はそんなに広いわけじゃないけど洗い場と湯船をうまく交代して回していけば大人数でもなんとかなりそう、ということが分かってるから、全員ではないけど今入っちゃおうっていう女子の大所帯で一緒に入ることとなった。

 

「あれ、男子もお風呂?」

 

「おう、先に汚れ落として遊ぼうぜーってな」

 

「なるほどなるほど……ねぇ、男子風呂ってまだ誰もいないよね?」

 

「まぁ、宿泊客が俺らだけだしな」

 

「風呂の中見ていい?ほら、温泉地とかって日によって女湯と男湯入れ替えたりするじゃん?ここもなんか内装違うんかなって」

 

「……今ならいいんじゃね?俺らもお前らが入る前に女子風呂見ていいかー?」

 

「いいけど着替える前に出てってよね!」

 

 お風呂場の入口で、男子の入浴組と同じタイミングになったみたいで鉢合わせて……何故か、まだ誰も入っていないことをお互いで確認して、莉桜ちゃんや優月ちゃん、岡島くんや前原くんとかが男女お互いのお風呂場を見比べたり壁を叩いたりしてた。……更衣室へ戻ってきた2人は、昨日は見れなかったから比べてみたかったのに、男子風呂も女子風呂も特に変わりがないって言ってて残念そうだったけど。

 

「1班どんな感じだったの?」

 

「嵯峨野トロッコ列車あるでしょ〜?あそこで止まった時を狙ってもらったんだけど〜……」

 

「先に寄ったお土産屋さんで八ツ橋買っててさ。アレでくるんで止められた;」

 

「八ツ橋ってそんな強度あるっけ;……2班は?」

 

「映画村のショーで派手に暴れてもらってる隙に暗殺頼んだらさ、殺せんせー俳優(アクター)に混じって勝手してたよ……」

 

「あれ参加型じゃないよね!?」

 

「さ、3班は……?」

 

「うーん、そもそも予定してた清水寺に来なくて……」

 

「来なくて!?」

 

「時代劇で熱が入りすぎてどうのって言ってたわよ」

 

「それ私達の映画村で悪ノリしてたせいじゃない?」

 

「かもねー。で、お土産のあぶらとり紙で気を引いてたらあぶらとり紙で粘液引っつけて弾丸止めちゃったわ」

 

「もう、なんなのよ常識外れすぎw」

 

 更衣室の中の時点で女の子しかいないこともあって話が弾んでいた。だいたいが今日回った京都市街での散策のことや殺せんせーのありえない暗殺回避の数々についてで……そしてそれはお風呂場に入ってからも続いている。というか、私たちは実行できなかったけど、殺せんせーめちゃくちゃ満喫する傍らしっかり暗殺回避してたんだなぁ……。

 みんなの話を聞きながら体や髪を洗って湯船の隅に膝を抱えて小さくなりながら浸かっていると、愛美ちゃんがすぃーっと近づいてきた。

 

「アミサさん、……お腹、やっぱり……」

 

「あ……うん、アザになっちゃってたから……みんなにこんな気持ち悪いものずっと見せたくなくって」

 

 ……そう、路地裏で殴られたお腹がしっかりと腫れてしまっていて、大きな気持ち悪い色のアザになっていたのだ。これについては放置してても治るかなって思ってたのに、愛美ちゃんが私を大部屋から出さないように他の女の子たちに頼んでイリーナ先生を呼んできて……女の子の部屋でみんなに見られながら寝転がってお腹を診てもらうちょっとした騒動になったんだけど……

 

〝な、なにこれ!?〟

 

〝あ、アミサちゃん!?これホントに大丈夫……じゃないよね?!〟

 

〝ドス黒いとまではいかないけどヤバい色してるし……〟

 

〝……ッアミサ!あんた女の子がこんな大あざ作って放置するんじゃないわよ!気絶したってことは表面上の怪我じゃなくて内臓よ!?下手したら破裂しててもおかしくないんだから!〟

 

〝ち、血も吐いてないから破裂とかないだろうし、打撲だけかなっ……て……〟

 

〝肋骨あんだから骨折の可能性だってあるでしょうが!!!殴られたのは知ってるだろうけど、あんた絶対カルマと渚にこのアザのこと言ってないでしょ!覚悟しときなさい!!〟

 

〝ッ!?なん、で渚くんとカルマく、〟

 

〝あんたに言っても聞くわけないから2人に言った方が確実にお目付け役してくれるじゃない!〟

 

〝言っとくけど、女子もコレ見たからには当分無理してないか見てるからね〟

 

 まっっったく信用してもらえなかった……。それに4班に何があったかは詳しく話してないはずなのに、イリーナ先生がガンガン叫ぶから、みんな私がお腹を怪我してる理由はなんとなく知ってるみたい。

 ふぅ、とため息をついていたら、恐る恐るというように手を伸ばしてきて、アザの上に手を乗せる愛美ちゃん……びっくりして愛美ちゃんを見つめてみたら、「て、手当てです!」と言われて。私は小さく吹き出してしまったあと、ゆっくり私から愛美ちゃんの腕に抱きついた。小さなことだけど、気遣いがとても嬉しかったから……少しずつ、私からも近づいていきたいってそう思った。

 

「前から仲はいいと思ってたけど、今日が終わったらさらに仲良くなってんのね……まあそれは置いといて。どーだったの4班は?アミサの怪我のこともそうだけど、何か大変だったらしいじゃん……って、茅野ちゃん?」

 

莉桜ちゃんが不思議そうに言葉を止めたから、私もカエデちゃんの方を見てみると……何故か恨めしそうな目、というかギラギラした目線というか、私の方を見ていた。……あれ、私だけじゃなくて、桃花ちゃんも……?

 

「うぅ、アミサちゃん……仲間なのに敵だぁ……」

 

「え、え、……なんで……?私、お友だちじゃないの……?」

 

 カエデちゃんの一言に、嫌な考えがよぎる……ほんの少し前まで普通に一緒に笑っていたのに、さっき謝って許してもらえたと思ってたのに、と。分からなくて、でもうまく言葉にすることができなくて半分くらい泣きそうになっていたら、カエデちゃんの視線の先を見ていた何人かが気づいたように近づいてきた。

 

「2人ともいきなりどうしたの……、……って、あー、そーいうことか……」

 

「茅野ちゃん、絶対言葉足りてないって。アミサちゃん、茅野ちゃんはアミサちゃんのこと嫌ってるんじゃないから。素直に受け取りすぎて多分誤解してる」

 

「え……」

 

違うの?と思ってカエデちゃんを見ると……なぜか自分の胸に手を当てていて、目が合った瞬間に

 

「……うー、身長はほとんど一緒なのに!むしろ私の方が2cmも大きいのに!!そんなに胸があるなんて反則だぁぁぁっ!!」

 

「ふえぇっ!?」

 

 ────バッシャーンッ

 

 勢いよく飛びついてきたカエデちゃんごと湯船に倒れ込んだ。『私が』嫌という訳ではなく、『大きい胸』が嫌ということだったらしい……それで同じくらい胸の大きい桃花ちゃんのことも見てたんだ。多分桃花ちゃんの方に行かないのは、私の方が色々身長やら今の友だちとしての距離やらが近いからって言うのがあるんだと思う……カエデちゃん自身がそう言ってたし。そういえば、イリーナ先生の巨乳についてもすごく反応してたしなぁ……

 そしてその飛びつかれた私はといえば、カエデちゃんが言いたいことを理解した時にはもう飛びつかれていたし、驚きすぎて泣きそうになったのなんて吹っ飛んでいた。それよりも、勢いに負けて湯船で倒れた上にお湯飲んじゃった……

 

「確かにアミサって身長小さい割に大きいよね……大きさどれくらいよ?」

 

「けほっ、けほっ、……え、えっと……FよりのE……?……とりあえず、Gは絶対ないと思う。お姉ちゃんのやつ大きくて着れなかったから……」

 

「言うんだ……ていうか、お姉さんデカッ!?お姉さんでそれなら今後……」

 

「うわぁぁん、敵だぁぁぁ!」

 

「カエデちゃ、ひゃっ、く、くすぐったいっ……!」

 

「いいじゃんご利益ご利益、減るもんじゃないし大きくなるかもしれないじゃん?」

 

「ご利益あるなら私も便乗しちゃおうかな〜……桃花ちゃんにも突撃〜っ」

 

「えぇーっ!?ちょ、私範囲外だと思ってたのに、って、ちょっとぉ!」

 

 いろいろ恥ずかしすぎるから詳細は省くけど……わいわいみんなで騒いで逆上せそうになりながらも、お腹の痛みも忘れるくらい楽しいお風呂の時間を過ごせたと思う。……色々恥ずかしかった……クロスベルで会った、お姉ちゃんのお師匠様並に触られたし、揉まれた気がする。

 

 このお風呂の後に浴衣に着替えて、湯冷ましのためにロビーで休憩してたら男子と合流したんだけど……お風呂に入ってたらしい男の子たちは私たちからいっせいに目をそらした。その光景を見てニヤニヤしてる莉桜ちゃんと優月ちゃんは「いい仕事したっしょー!」とか言ってるけど……何があったんだろう?女子側もほとんどがよく分からないままだけど、数人だけ莉桜ちゃんたちに詰め寄っていたのが見えたから、その人たちには何があったのかわかったのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渚side

 

『……反則だぁぁぁっ!!』

 

『ふえぇっ!?』

 

 ────バッシャーンッ

 

 

 

「「「…………」」」

 

 

 

 今、男子風呂には、なんとも言えない空気が流れていた。原因は言わずもがな……ところどころの小さい声は聞こえないとはいえ、隣の女子風呂からのほとんど丸聞こえの話し声だ。

 最初は笑い声とか今日の散策についてとか、殺せんせーがいかに変な暗殺回避をしてたのかとかを話しているようで、可愛い話してるなー程度だったのに、いつの間にか(確実に茅野がきっかけだけど)、アミサちゃんを中心にした女子のスタイルの話に……その途端、男子側が不自然に静まり返ったのはお察しというやつだ。

 

 男子風呂の現状はといえば、真剣に隣に意識を向ける人数名、なんとも言えなくて沈んでる人数名、意識を向けすぎて湯船を血に染める前に追い出された人1名、あとは話を聞く前に逃げようとしたけど「ここまで聞いたら同罪」だとかで逃げれなかった僕と、何を考えてるか分からないけどみんなに背を向けて湯船の隅で頭を抱えてブツブツ何か言ってる彼……って感じかな。

 

「女子達さ……男子も風呂にいるって知ってるよな……?ボロいし壁が薄いから音が響くーって、中村達言ってたよな……?」

 

「あれもう、わかっててやってるとしか思えねぇよ……」

 

 磯貝君と杉野が顔まで湯船に沈めながら独り言のようにと言っている。……そう、男子風呂の様子が見たい!と言ってお互いにまだ入っていないことを確認した上で中村さんと不破さんが男子風呂に来たとき、壁を叩いて女子風呂との内装の違いを見に来ていたんだ。

 その時は気にしてなかったんだけど……これは確実に壁を叩いて壁の薄さを確認して、音が響くことを分かった上であんな話を振って、何も知らない女子に話させているとしか思えない。……みんな、もうのぼせて顔が赤いんだか、話題にいたたまれなくて赤くなってるんだか分からない状態だ。

 

「岡島ー……お前生きてるか…?」

 

「…………」

 

「……ダメだな、これ」

 

 湯船を鼻血で染める前に追い出された1名である岡島君は、洗い場の近くで完全ダウン……まぁ、彼の場合は幸せそうだしほうっておくことにする……ただ、後で女性陣には色々と用心するように言っておこう。他にもいたたまれないのに中学生男子として生理的に風呂から出るに出られなくなっていて、みんなが沈んでる中……、僕は意図的に見ないようにしていた、隅のほうでブツブツ独り言を言ってる彼へと目をやった。

 

「……泊まってく時もわざわざ洗濯物を分けてたってのに、こう、間接的に知っちゃうのはまた違うだろ……不可抗力でも破られてて見えちゃってたから、かなり大きいのは知ってたけどさ……謝る前にコレとか……、……あれ、てことはあいつらはハッキリ見たってわけじゃん……?反応的に触られてはなさそうだったけど……くそ、蹴り飛ばすだけじゃなくてもっと制裁加えて、いや再起不能になるまで潰しきっておけばよかった……っ!!」

 

 ……髪と同じくらい顔を真っ赤にしながらブツブツ怖いこと言ってるカルマ君は、近くにいたからこそ僕には内容までしっかり聞こえたけど、みんなは自分がどうするかで必死だから聞いてなさそうだ。……でも彼を見たただけで照れて、明らかに取り乱しているのはすぐに分かるから、これは後から色々言われるんじゃないかな……カルマ君なら今まで通り余裕で流す気もするけど。

 

 ……ていうか潰すってどこを!?ゾッとするんだけど。

 

 

 

 

 

 

「お、男子たちじゃん。今あがり〜?」

 

「なーかーむーらー!?」

 

「今あがり〜?じゃねーんだよ!!!」

 

「え、私らいい仕事したっしょ?」

 

「「「………………まぁ。」」」

 

「声ちっさwww」

 

「……その中村さんと不破さんの行動によって沈んでる人はどうしろって言うんだろう……男子で対処してって?」

 

「……カルマ、どうよ?」

 

「……まだ無理って。水浴びてから遅れてくるって」

 

「……だよなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お風呂から上がった後に、朝とは違ってE組みんなが揃って大部屋で夕ご飯を食べれば、あとは消灯まで好きに過ごすだけ。莉桜ちゃんと優月ちゃんは女の子のお風呂の後に殺せんせーのお風呂タイムを覗きに行ったみたいだけど、「粘液マシマシ煮凝りで逃げられたー!」って言ってた……どう言う意味なんだろう?

 

 他にも卓球をやりに行ってる人がいたり、カルマくん以外の4班で集まって有希子ちゃんのゲームの腕前を見学したり……これで遊び疲れてあとは寝るだけ、かと思っていたら莉桜ちゃんによって女子部屋に招集がかかった。なんでも大部屋になったからにはやるべき醍醐味がまだ残っていたみたい。

 男子は男子で集まって何かやるって言ってるのを聞いたから、こうやって男女で分かれて集まるのは今しかできないことなんだろう。新しい『旅行の醍醐味』を学べると私はご機嫌で足どり軽く女の子の部屋へと向かった。

 

 

 





「いい?アミサ。これからやるのは女だけの戦いよ。男子がいないからこそ話せることをしっかり話すの」

「な、なんか強そうだね……!」

「あんたもちゃんと考えときなさいよ?ま、分かりきったようなものだけど……」

「?」





「……とりあえず、水浴びてでも出るぞ」

「女子に顔向けできねー……でもクラスメイトだからどうにもできねー……俺ら被害者だろこれ」

「アイツらのことだから何も知らない女子を「湯冷ましにでも飲み物飲もー!」とか提案して留まらせて、ロビーで絶対反応待ちしてるって……」

「否定できない……」





「で、あそこで撃沈してるやつどうするよ?」

「岡島は何とかなる。カルマは……」

「………………」

「「「(オーラが怖ぇんだよな……)」」」

「……よし渚、任せた。岡島ー!今起きないならお前のやりたがってたアレ無しにすんぞ!」

「起きます!!!!!」

「え゛」




 ───ガラガラガラ……

「か、カルマ君……?みんな上がるらしいよ」

「……あ、渚君……、……もうちょっと落ち着いてからにしていいと思わない?無理なんだけど」

「いや、分かるけどさ……、……一応言うけど、置いてってのぼせて不名誉な介抱とか嫌だよ僕」

「……水浴びてから、トイレ寄って飲み物買ってから戻るわ……」

「……わかった、伝えとくよ。ついでにその顔元に戻してきなよ」

「……、……えっ」

 ───ガラガラ……パタン





「……その顔って……何さ?」


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