暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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なんか、気づいたら1万字どころか2万字に差し掛かってました。筆が乗ったんです()

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20話 修学旅行の時間・5時間目

渚side

 一部の男子には至福の時間だったかもしれないけど、僕にとってはなんとも言えない時間になった入浴が終わり、まだ動けないらしいカルマ君に声をかけて男子の大部屋へ戻ると、先に戻っていた男子が集まって、何かやっているみたいだった。

 

「お、渚が戻ってきた」

 

「ほい、これお前の分ね」

 

「え?……何この紙」

 

「あー、岡島がやりたいんだって。『E組の気になる女子ランキング』」

 

「修学旅行の夜だぞ!男子しかいない部屋で男子が集まったならやるべき事は1つ!女子の人気投票に決まってるだろ!?!?」

 

「別に決まってはなくない!?」

 

 ……なんか、ゲスい事が始まってた。というかカルマ君以外全員集まってない?誰1人としてやらない意思表示をしてる男子がいないことに驚いた。磯貝君とか断りそうなのに……発案者の岡島君に前原君がしっかり便乗してるのを止めようとしないあたり、彼も気になってるのか……、E組の中でも静かなタイプの竹林君とかいつも遠巻きに見てる寺坂君達まで集まっていて驚いた。

 ……まぁ、いろいろ思うことはあっても僕も投票用紙にペンを走らせているように、クラスのみんなが女子をどう思ってるのかっていうのはちょっと気になるんだけど。

 

 えっと……気になる女子の名前と、理由を書くのか……僕は誰に入れようかな。……うーん……茅野かな、一緒にいて気楽だし、やっぱり男として女の子より身長が高い方がいい。……まず、身長の低い僕より小さい気になる対象になる女子ってそんなにいないんだけどね。匿名だからこそ結構素直に書いた投票用紙を小さく折りたたみ、磯貝君の持つ袋の中に入れる。

 

「さて、もういいな?開票するぞ」

 

「あ、俺開票結果まとめるのやるぞ」

 

「頼んだ。えーと、神崎1票、理由は『性格が良さそうだから』」

 

「良さそうってなんだよ良いだろ!!」

 

「書きながらキレるなよ……って杉野似顔絵上手いな!?」

 

「結構得意なんだよこの手の絵!で、次は?」

 

「次は……と、茅野に1票、理由は『小さいから』」

 

「どこのことだよ、言ってやるなって」

 

「普通に身長のことじゃないのかな、コレ」

 

「いや、次の矢田の1票に『胸が大きい!』ってめちゃくちゃ強調して書いてあるから胸のサイズの話かもしれない」

 

「知られたらキレられるやつじゃん!投票結果はともかくみんな理由がヤバいw」

 

 杉野の意外な特技(ディフォルメイラスト)を見つつ、どんどん進んでいく開票作業……男子の数は14人で、そのうちカルマ君が大部屋にいないから13票集まるはずの人気投票は……磯貝君が読みあげる投票用紙の名前が結構バラバラでそんなに偏りすぎないあたりおもしろくなってきた。

 

「よし、これで最後!真尾に1票、理由は『守りたくなるから』」

 

「分かるわー……自分が投票してない女子の理由もめっちゃ分かるのがいい……」

 

「最終結果は、神崎3票、矢田2票、真尾2票、倉橋2票、茅野1票、片岡1票、岡野1票……か」

 

「やっぱ1位は神崎さんか……ま、嫌いな奴いないわな」

 

「で?うまく班に引き込んだ杉野はどーだったん?」

 

「それがさぁ……色々トラブルあってさ。じっくり話すタイミングが少なかったわ」

 

「あー、なんか大変だったらしいな」

 

 1位神崎さん、2位矢田さんとアミサちゃんと倉橋さん、3位が茅野と片岡さんと速水さん……名前が上がった女子は思っていたより綺麗にバラけている。集計されて集まった理由が『みわく的なポーズ』とかさっきも出てた『胸が大きい』みたいな、ちょっと知られちゃまずいものもあるから、余計に女子には言えない代物が出来上がってる。あと……なんとなく、このクラスの好みの傾向がわかった気がした。

 

「気になるのは、誰が誰に入れたか、だけど……」

 

「俺は1人に決められないんだよ〜っっ全員に1票ずつ書いていいか!?」

 

「あー、岡島はいいから。しかもそれだと投票の意味ないから」

 

 言い出しっぺの岡島君、投票してなかったのか;だから総数12票しかなかったんだ……三村君と竹林君が興味深そうにランキングの紙を覗き込んでいて、聞かれたくなさそうな人は明らかに目を逸らしている。僕も誰に入れたのか聞かれそうになったけど、察した杉野が前原君に話を振ってくれたからみんなの興味が外れてくれたみたいでホッとした。

 

 

 

 ───ガラガラッ

 

 

 

「お、面白そうなことしてんじゃん」

 

 いろいろ話していたら、部屋にいなかったカルマ君が例によって煮オレシリーズの何か……レモン煮オレかな?を片手に大部屋へ入ってきた。お風呂でのアレはなんとか回復したみたいで、今はもういつもの彼のように見えるけど、そのまま僕達の集まる輪の中に入ってきてランキングをまとめた紙を差し出す三村君から受けとってすぐ、……若干、目が鋭くなったような。

 

「カルマ、いいところに来た。お前、気になる子いる?」

 

「気になる、……興味……?……んー、俺は奥田さんかな」

 

「言うのかよ」

 

「お、意外。なんで?」

 

「だって彼女、怪しい薬とかクロロホルムとか作れるから。だから、俺のイタズラの幅を広げるためにも、他にどんなのが作れるのかが気になる」

 

「うわ、希望ですらねぇ、イタズラできるの確定かよ……」

 

「絶対くっつけたくないのにすでに真尾を含めてグループ化してる事実な……」

 

 カルマ君のあげた奥田さんを気になる理由がかなり物騒なせいで、聞いた男子みんなが引いている……。グループ化というのはこの修学旅行からのことじゃなくて、奥田さんが殺せんせーを正面から毒殺しようとしたあの時からだったりする。

 

①奥田さんがアミサちゃんに物騒な(魔獣)食材を分けてもらって試作した薬品に混ぜる

 

②アミサちゃんがそれを使って食べ物を作る

 

③カルマ君がそれを使って殺せんせーにイタズラを仕掛ける

 

 ……という、サイクルができあがってるやつのことだ。今までに成功したことはないけど、材料の見た目のグロさと食べていいものなのか分からない疑心暗鬼で殺せんせーには精神的なダメージを与えられているみたいで、たまにアミサちゃんが楽しそうに成果を教えてくれる。

 アミサちゃんからしたら故郷で普通に食べられている食材らしく、カルマ君はアミサちゃんに夕食を作ってもらった時に食べたことがあるらしい……見た目さえ分からなければ普通に美味しく食べられるそうだ。

 

「でもさぁ、ホント意外だな。俺、絶対真尾って言うと思ってた」

 

 少し思考が脱線したけど、既に形成されてるグループに対してどうしようもない事実を再確認したところで、立ち直りが早いほうだった前原君がカルマ君を見ながら本当に意外そうにポツリと言った。それに対してみんなが口々に話し出す。

 

「俺も!小さいのに胸デカイし!」

 

「見てても癒されるけど、構うと更に世話を焼きたくなる小動物だしなー、頭撫でた時の反応とかまさにそれ」

 

「分かるー……でもさ、基本妹ポジションだけど、たまに見せる仕草がちゃんと同い年の女子だなって感じるんだよな」

 

「そうそう。それに最初こそビクビクしてたけど、今じゃE組のやつなら誰とでも話すようになったよな。寺坂もたまに話してるだろ?」

 

「……俺から話しかけてるわけじゃねーぞ」

 

「岡島は後で絞める。……だってこれ、気になる奴を聞いてるんでしょ?アミサちゃんの事は気になるどころか誰よりもよく知ってる自信あるし」

 

 そう、多分ここにいる全員が思ったことだろう……あれほどいつも一緒にいるのに、なんで気になる子にアミサちゃんを上げなかったのか、と。もちろんこの場で正直に言う必要は無いからしらばっくれたっていいんだけど、言ってくれたら儲けもの……くらいのノリだ。

 そうしたら僕やカルマ君にとっては当たり前のことが理由だった……確かに気になるかと言われると違うね、気になる前にもうだいたい知ってるんだから。僕もそう思ったからアミサちゃんじゃなくて茅野の名前を書いたわけだし。

 

 ただ……何となく最初からカルマ君とみんなの話がすれ違ってる気はしていたんだけど、カルマ君はこの質問の『気になる』っていうのを言葉通り『興味のある人』って意味で捉えてるんだと思う。最初に奥田さんと答えた時にも「興味?」とか疑問形で言ってたし。

 でもここでの意味は『好きになるかもしれない人』の方だと思うんだけどな……もしかしてわかってて答えをはぐらかしてる?うわぁ、カルマ君って結構本当に思ってることを隠しがちだから普通にそれもあり得る……

 

「なんでそこまで言えるんだよ」

 

「なんでって……俺の前で気を抜いて生活できるようになるまで2年以上、世話焼き続けたから?」

 

「停学になった時もアミサちゃんが家で1人になるからってカルマ君の家にお泊まりさせてたくらいだもんね……」

 

「なにそれ初耳」

 

「言ってないし〜」

 

「あ、だから復帰初日に2人して遅刻してきたわけね」

 

「だって出会って初日にお礼を言おうとして頭下げた途端ジュースひっくり返してポテト水没させて慌ててんだよ?思ってることも全部顔に出るしさぁ……世話焼きたくならない?」

 

「初日でそれはすげぇわ、さすが真尾;」

 

「ていうか2年前のことなのによく覚えてたねカルマ君」

 

「まーね」

 

 得意げに話してるカルマ君に、僕も納得だ……僕だってカルマ君とほとんど同じくらいアミサちゃんと一緒にいたけど、唯一僕だけが離れていた時期がある……それが停学期間。

 その時期も含めると、誰よりもアミサちゃんのそばにいて世話を焼いて、誰よりもよく彼女のことを知っているのはカルマ君で間違いない。多分、ランキングの紙を見た時にイラッとした表情になっていたのも、彼女の名前が複数人から上がっていたからだろう。「お前らがアミサちゃんの何を知ってるわけ?」とばかりに彼なりの意趣返しをしたつもりなんだろうな……

 

 

 

 だけどこの後、たったの一言でカルマ君の余裕な態度がいとも簡単に崩されることになるなんて、誰も考えてもみなかった。

 

 

 

「お前ホント好きなんだな、真尾のこと」

 

「…………は?」

 

 

 

 菅谷君が呆れたような笑みでカルマ君に言ったそれに、カルマ君は文字通りきょとんとした顔で数回まばたきをして固まった。僕は何を今更……って感じに言おうとカルマ君の方を向いたんだけど、明らかに彼の様子が変で何も言えなくて。

 他のみんなはカルマ君の反応を「何言ってんだこいつら」みたいな意味で言ったんだと捉えたみたいで、今のカルマ君の様子に気付かないまま普段の様子や最近の出来事を羅列していく。

 

「いつもそばに居てさ、何かあればすぐにフォローに入って……」

 

「他の奴らは平気で煽るか傍観してるくせに真尾には超過保護だよな。……これに関しては渚も大概だけど」

 

「まぁ、アミサちゃんなら小さいから僕でも止められるしね」

 

「放っておいたら自分のこと全部後回しにして危険に飛び込んでくからだから、臆病な癖に変に度胸あるし……」

 

「それは分かるけど放課後とかで俺等が構ってるだけでもあからさまに牽制してくるのやめろよ何もしねぇって;そもそも俺らにも構わせろよな」

 

「確か旅行前の放課後でも、磯貝の上着を腰に巻いてたからってめちゃくちゃ念入りに払ってたよな」

 

「あーやってたやってたw」

 

「そんなことあったのか?」

 

「え、いや、あれは泥だらけだったから、」

 

「真尾が汚してたのは膝とか手のまわりだぞ。四つ這いで地面に座り込んでたのに腰周りを汚すわけないだろ!」

 

「あとカルマ、気付かれてないつもりだったかもしれないがお前のカーディガンの袖が泥だらけだったの千葉にバレてたからな」

 

「は。」

 

「……真尾には言ってない。安心しろ」

 

「それはどーも……?……えっ?」

 

「今日の拉致事件の時にゃ、俺等そっちのけで飛び出してったし……結果的にはあれで正解だったわけだけど、後ろから来たのが殺せんせーじゃなかったらどうなってた事か……」

 

「てか今日もだったけど彼シャツならぬ自分のカーディガン着せてるしさ」

 

「独占欲強すぎかよ」

 

「は?や、だって、今日に関しては服破られてて隠すものが必要だったわけで、」

 

「だったら全校集会のはどう説明する気よ?」

 

「挙句の果てにはさっきの風呂であの反応、なぁ……?」

 

「風呂から上がれなくなるってどんだけ意識してんだよ」

 

「いや、だからっ!」

 

 あげられた数々の行いにカルマ君は反論していたんだけど、僕も知らなかった話がどんどん出てきて、あまりにもいろんな方向から提供されるそれに、いつもの飄々とした態度はどこにいったんだってくらいテンパってるのが分かる。だんだん言い訳が苦しくなってきたみたいで、みんなの勢いに押されつつあるみたい。

 

「まあでも、お前ら付き合ってないんだろ?このランキングの通り真尾も人気のある女子ってことは、誰かが告白してお前のポジションもそいつの役割になる可能性だって、」

 

「っそんなのダメに決まってるじゃん!!」

 

 ここまでしどろもどろな言い訳を繰り返していたカルマ君が、三村君がなんとなしに言った現状を遮ってハッキリと叫ぶように言い返した。この辺でようやくカルマ君と自分達の会話にすれ違いが……いや、みんな、彼に対しての思い込みがあったことに気が付いて、怪訝そうに彼を見つめる。

 

「……カルマ?」

 

「当たり前でしょ、見た目も仕草もあんだけ可愛いんだから、目ぇ離したら、他の奴、に……、…………」

 

 いつものように話そうとしたんだろう……さっきまでの慌てぶりから一転当たり前のように話し出し……た途中でまた、ピタリと黙って動かなくなった。

 

 カルマ君はそのまま何かを考えるようにゆっくりと手を口元に持っていき、下を向いた、かと思えば。

 

「──────ッ!!?」

 

 ……目を見開いて、ボッと音がしそうなほど一瞬で首まで真っ赤になった。

 

「…………あれ、そう、なら…………俺…………、……ぇ……?」

 

「……え、カルマ君、もしかして……」

 

「「「(今、自覚しちゃった感じ?)」」」

 

 顔を真っ赤にして口元を隠し、混乱しながら何かを確認するかのようにブツブツと呟くその姿は誰も、……中1から同じクラスでしょっちゅう一緒にいた僕ですら見たことがない……有り体な言い方をするなら、僕らが初めて目撃した彼の中学3年生らしい、反応だった。

 ていうか、自覚、してなかったんだ……僕を含めてみんな、カルマ君はアミサちゃんのことを好きだからこそやってきたことだと思い込んでたし、カルマ君の事だからてっきり分かっててこれまでの話をはぐらかしてるんだと思ってたんだけど。

 

「……つまり、あれか?コイツは無自覚であんだけのことやってたってわけか?」

 

「渚、お前一緒にいて知らなかったの?」

 

「付き合ってないのは知ってたけど、カルマ君が自覚してないとは思ってなかったよ……中1の時からなんとなくそうだと思うことあったし」

 

「例えば?」

 

「……アミサちゃんが髪をバッサリ切った時、本人よりも残念そうに短くなった髪をいじってた上、僕に指摘されるまで触ってるのを気づいてなかったこととか」

 

「ホント結構前だな;」

 

「あとは誕生日プレゼントもらって喜んでたらアミサちゃんの誕生日知って落ち込んでたこともあったよ」

 

「真尾の誕生日っていつよ」

 

2月29日(閏年)

 

「4年に1回……確かにまともに祝えないもんな、落ち込むかもしれん;」

 

「来年か……地球、あるといいな;」

 

「というか結果的に俺等が自覚させちまったのか……」

 

 1人、初めて自覚した感情に珍しくパニックになって、顔を真っ赤にしながら慌ててるカルマ君を放っておいて……僕が思う、カルマ君がアミサちゃんに好意を向けてると確信した出来事をいくつか話せば、みんなは生暖かい目で彼を見始めていた。

 

「はは……みんな、この投票結果は、……あー、……カルマの自覚も含めて男子の秘密な。カルマについては本人が本気出してオープンにしてからなら公開OKということで」

 

「まぁ、そうだよな。さすがに今はな……」

 

「ここまでパニクられると、いくら俺らがゲスくてもいじれんわ……」

 

「そもそもが予想外すぎて」

 

「「「ほんとにソレな」」」

 

 予想外過ぎることが起きて、かなり反応しづらそうな磯貝君がなんとかまとめてくれたけど、さりげなく公開OKの条件をカルマ君の了承を得ないままに付け足す当たり、さすがの磯貝君もこのクラスのゲスさに影響されているとみえる。……多分、影響受けてる筆頭は磯貝君の幼馴染らしい前原君なんだろうけど。

 カルマ君のことは置いといても、ランキングは女子にも先生にも知られるわけにはいかない……色々と、やばいから、ほんとに。

 

「ま、知られたくないやつが大半だろうし、女子や先生に絶対知られないようにし、ない……と……

 

 ランキングの紙を回収しながら僕達を見回して、念押しするように指示を出した磯貝君がある1点を目にした瞬間に尻すぼみになった。

 

「おばんです。なるほろなるほろ……

 

 

 

やっと自覚した、と……」

 

 いつから居たのか……顔をピンクに染めた殺せんせーが襖を開けて顔を出していて、僕達が無言で見つめる中持っている手帳に何かメモをして……ふすまを元通り閉め、逃げた。カルマ君のことをメモっていたあたり、相当前からいたんじゃ……

 

「…………殺す!!」

 

 パニックになってたカルマ君まで呆然と殺せんせーが消えた方を見ていたけど……どこに仕舞っていたのか、対先生ナイフを2本構えて、僕達に向けられていないはずなのに感じるほどのものすごい殺気とともに廊下へ飛び出していった。それにハッとしたように他の男子も慌てて殺せんせーを追いかけることに。

 

 そりゃあ自覚した直後に、よりにもよって殺せんせーにバレるなんて……カルマ君がキレるに決まってる。とりあえず先生……プライバシーの侵害です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へ?好きな、人……?」

 

「そうよ、こういう時はそういう話で盛り上がるものでしょ?」

 

 お風呂の後の女の子部屋への招集の理由は、恋バナ……というものをするためだったらしい。なんか強そうだと思ってたら好きな人とか、気になる人を女の子みんなで共有するんだって。男子禁制の女子しかいない、ここだからこそできる本音のぶつけ合いなんだって、さっき莉桜ちゃんに教えてもらったから、ここでカルマくんと渚くんの格好いいところを話して、特にカルマくんは女子からも男子からも遠巻きにされがちだから、その溝を埋めよう!なんて思っていたんだけど……。

 

「コレは軽い暴露大会みたいなものだから、そこまで本気でやらなくてもいいものよ」

 

 とメグちゃんに言われ、

 

「ちょっとそれだと趣旨が変わっちゃいますよ」

 

 と愛美ちゃんには言われてしまった……好きな人の事を話すって莉桜ちゃん言ってたのに……でも、こういう話をするのは初めてだから、聞くのがすごく楽しみ。

 

「はいはーい!私、烏間先生!」

 

「ハイハイ、そんなのはみんなそうでしょ。クラスの男子だと例えばってことよ」

 

「えー……」

 

 まず口火を切ったのは陽菜乃ちゃんで、いつも公言してる通り烏間先生だった。烏間先生を好きになるのは私もよくわかる……指導者としてとても高い実力を持っていると思うし、普段からストイックな面もあって……と思っていたら、莉桜ちゃんはバッサリと切ってた。なんか紙を持ち出した優月ちゃんは、一応烏間先生の名前は書いてくれているけど、大きく『例外』って書いてる。

 

「E組でマシなのって、磯貝と前原くらい?」

 

「えー、そうかなぁ……」

 

「前原は女タラシだからどうかと思うわ」

 

「……でも、前原くんは優しいし、周りをよく見てる人だと思うけどな……女の人を自覚して口説いてる分、まだいいと思うし……」

 

「アミサ、それ自覚しないで口説いてる人がいるってことになるんだけど」

 

「……?そうだよ?」

 

「「「そうだよ!?」」」

 

「すごく優しくてみんなのことを考えてて頭もいい完璧なリーダーなんだけど……仲間の人がつけたあだ名は、『弟系草食男子を装った喰いまくりのリア充野郎』……って言ってた。あと、『弟貴族』とか、『弟ブルジョワジー』とか、言われてるみたい」

 

「何その属性もりもりの男の人w」

 

「なんかエピソードないの?」

 

「んー……と、たしか、敵に従わざるを得なかった元仲間なお姉さんに対して一騎打ちを仕掛けて、『この勝負、俺が勝ったら君は俺がもらう』って言ったんだって。ちなみに本人的には仲間にって意味だったんだけど、周りにはそう聞こえなかったって教えてもらったの。これ、そんなすごいセリフなの?」

 

「タラシは分かったのに、セリフの意味はわかってないのね」

 

「みんなが言ってたからそうなんだなぁ……って」

 

「アンタらしいわ;」

 

 ロイドさんと前原くんを比べるのは違う気もするけど、聞いた話を教えるくらいなら問題ないよね?磯貝くんが非の打ち所がない委員長って言うのは私も賛成……私が困ってるのに気づいて言い出すまで待っててくれたり、一緒に探し物探してくれるくらい優しい人だもん。

 

 他にも誰かいないのー?と盛り上がる中で、桃花ちゃんがカルマくんが顔だけならかっこいいって言っててちょっと嬉しくなったのに、すぐ素行不良なのが残念ってみんなに同意されたのにはムッとしてしまう……少し不満だったのが顔に出てたみたいで、愛美ちゃんが隣でくすくす笑っていた。

 

「でも、意外と怖くないですよ?今回事件に巻き込まれて、実はよく考えて喧嘩してるんだってわかりましたし」

 

「……まあ、普段はおとなしいし……ってよく考えた結果喧嘩に持ってく不自然さに気付こうよ奥田さん……!」

 

「野生動物か。……アミサに対してはペットみたいだけど」

 

「そうよ、そうなのよ!で!……この会を開いた本命はあんたよアミサ!」

 

「ひゃい!?」

 

 2人のかっこいいところをたくさん話して、誤解されてるのを無くすのが出来ないなら、ホントにほとんど聞き役で終わるつもりだったのに……莉桜ちゃんに勢いよく指をさされて指名されたせいで驚いて、変な声が出た。す、好きな人、か……なら普通にE組の友だちのことをあげれば……

 

「いないの?……あ、もちろん異性の、恋愛的な意味でってことだからね!」

 

「……?考えたこと、ないかも……」

 

「「「えー!?」」」

 

「カルマくんと渚くんは!?」

 

「カルマくんも渚くんも、私なんかと一緒にいてくれる大切な人だよ……あと、そもそも異性としての好きってどんな気持ちなのか、わかんなくて……ごめんなさい」

 

 見事に友だちじゃダメだと先回りされて、一応しっかり考えることにした。カルマくんと渚くんについて聞かれたけど、私にとっての2人は、『当たり前』から外れた『異端』だと、誰にも認められなくて苦しんでいた環境()で初めて私を見てくれて、そして初めてできた大切な人たち……それに、普段の生活でも1番自然と甘えさせてくれる存在。

 ……それ以外に感情があるのかは、考えたことがないし、わからない。そう言えばみんな納得してくれたようで、でもこの歳でその感情を知らないのはもったいない、とみんな私に教えようと頭を捻り始めた。

 

「あー……たしかに難しいよね。なんだろ、やっぱり一番はドキドキする人じゃない?その人のことが頭から離れなくて気付いたら考えちゃってるとか……」

 

「その人と話してると安心するって言うか、一緒にいて楽?っていうか……」

 

「あとあれかな……他の女の人と一緒にいると、私も近くに行きたい、いいな、ずるいって思ったり?」

 

「これだけじゃないけど、他の男子と違って特別なら、好きになる可能性はあるかもね」

 

「……………、……」

 

 いつも頭から離れない、考えている人……ドキドキする人、と言われてもピンと来なくて困ってしまったのだけど、一応考えてみる。

 

 その人と話していると安心して、一緒に居ると楽な気持ちでいられる……当然カルマくんと渚くんの2人ともだ。1番私が安心して近くにいられるし、何かあったら頼りに行くのもこの2人だから。……でも、これはみんなの言う『好き』では無いのだろう……そう思った。だってこれは今では4班のみんなにも同じように感じでいることだから、この『好き』はきっと友だちとしての好きなんだろう、と思う。

 他の女の人と一緒にいると、私も近くに行きたい、いいな、ずるいと思う……これも、どうだろう……?渚くんはどこにでも溶け込める柔らかい雰囲気を持つ人だから誰とでも仲良くしてるし、気にしたことも無い。カルマくんは、多分E組に落とされた原因でもある喧嘩っ早い自分を自覚してるのもあって、そもそも私とか渚くんとかと一緒にいる人のところにしか自分から行くことがないから、他の女の人と交流する姿が想像できないのが大きい。

 

「……どう?」

 

「……安心できるのはE組のみんなも一緒だし……ずるいってなるほど他の女の人と一緒にいるの見たことない……し、そもそもカルマくんと渚くんって好きな人いるの……?私、邪魔じゃない……?」

 

「あー、そっちに飛んだかー」

 

「大丈夫だと思うよ〜、ダメだったらなんか言ってきたりとか離れてくだろうけど、そんなことないでしょ?」

 

「……男子は男子でなんかやるって岡島が招集かけてたんだよね。あっちで何か分かったこととかないのかな」

 

「さすがに教えてくれないでしょ、こっちと一緒で男子は男子の秘密ってしてそうだわ」

 

 その後は有希子ちゃんも同じように気になる人はいないのか聞かれていて、彼女は本心からいないって言ってそうだったけど、男の子たちから人気がある有希子ちゃんの気になる相手は聞いておきたいってなったみたいで、カエデちゃんと莉桜ちゃんにくすぐられていた。笑いながらじゃれていると襖が開く。

 

「おーい、ガキども。もうすぐ就寝時間だってことを一応言いに来たわよ〜」

 

 ビールの6缶パックを片手に一応先生をしに来たイリーナ先生だった。だるそうに来てるけど、本当に一応覗きに来た程度なんだろう……どうせ夜通しおしゃべりするんでしょ、と言い残して出ていこうとしたくらいなんだから。

 次の矛先を見つけたみんなは、ここぞとばかりにイリーナ先生を部屋の中に招き入れる。経験豊富な大人の話……それを聞き出すために、みんなで持ち寄って夜に食べようとしていたお菓子で交渉すれば、イリーナ先生は意外とあっさりと乗ってくれた。

 

「「「えぇーーーっ!?」」」

 

「ビッチ先生、まだ20歳!?」

 

「経験豊富だからもっと上かと思ってた……」

 

「ねー、毒蛾みたいなキャラのくせに」

 

「そう、濃い人生が作る毒蛾のような色気が……誰だ今毒蛾っつったの!?」

 

「ツッコミが遅いよ……」

 

 女子全員でもてなせば、イリーナ先生は窓際に座ってビールを飲み始めて、そしてみんな驚く彼女の実年齢……私たちと5つくらいしか違わないなんて、誰も予想していなかったから。多くの男の人との恋愛談や、授業で話してもらえる経験談、資料は私たちでは早々触れる機会が無くて縁遠い、もっと年上の人が経験するようなものばかりだから、てっきり……

 

「はぁ……いい?女の賞味期限は短いの。あんた達は私と違って……危険とは縁遠い国に生まれたのよ。感謝して全力で女を磨きなさい」

 

「「「………」」」

 

 イリーナ先生がお菓子を口に運びながら、普段の如何にもビッチな態度を一変させて、真剣に思っているとわかる言葉を私たちにぶつけてくる。……そうだ、彼女は私たちの外国語教師だって言っても本職は殺し屋……殺し屋はいつも命の危険と隣り合わせなんだから、命を扱うという本当の意味を、重みを知らない中学生には同じ道を歩いて欲しくないんだろう……。みんなが生意気とか、ビッチ先生らしくないとか言っている中で、私はそう考えていた。

 

 そんなふうに少しのあいだ聴き逃していたのだけど、気がつけばイリーナ先生の落としてきた男の人の話を聞くことになっていたらしく、姿勢を正してふと横を見たら……

 

「ひぇっ、こ、殺せんせー……!?」

 

「おいソコォッ!なに女の園に混じってんのよ!!」

 

「いいじゃないですか、私だって聞きたいですよ」

 

 何か、いた。その何か、は、いつの間にか女の子の大部屋に紛れ込んだ殺せんせーだったみたいで、顔をピンクに染めてニヤニヤとイリーナ先生の話を聞こうとしていた。あれ、殺せんせーって、男の人……の扱いでいいん、だよね……確かこの恋バナというのは男子禁制って言ってなかったっけ……?

 

「逃げやがった!捕らえて吐かせて殺すのよ!!」

 

「「「おー!」」」

 

 紛れ込んで聞こうとするなら、代わりに恋バナの1つや2つ話していけというみんなの要求を、脱兎のごとく逃げ出して回避しようとしている殺せんせー……イリーナ先生の号令に合わせてみんなが対先生武器を手にして飛び出す。

 

 

 

 それからはもう、廊下では凄まじいことになっていた。声を聞いている限り、殺せんせーは男の子の部屋の方でも何かやらかしたらしくて、まさかの挟み撃ちになって勝手にテンパって大慌てしている。……その中でも男子の筆頭がカルマくんだったことに驚いた……普段仕掛けるなら個人か少人数なのに、みんなと一緒に殺るなんて、意外だなって……あ、今ちょっとかすった。

 そんな光景に何となくほっこりしつつ、私はそこまで殺せんせーを捕まえて恋バナを吐かせたいとは思っていなかったから、この騒ぎが落ち着くまで少し静かなロビーまで避難することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「……行ってくれば?」

 

「……他の奴らには適当に言っといてよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロビーに設置された自販機の前に立ち、ラインナップを見ていく……無難なお茶とか水とかもいいけど、一応寝る前だからあんまり甘くないものの方がよかったりするのかな?……あ、煮オレがある……レモン煮オレ……カルマ君がいつも飲んでるのはいちご煮オレの紙パックだからこれとは違うけど、これもきっと好きなんだろうな……

 

〝気付いたら考えちゃってるとか〟

 

 ……、あれ、なんで今、その事を思い出したんだろう。振り切るように頭を振ってその考えを追い出そうとしている時だった。

 

「……何か飲むの?」

 

「……っ!?」

 

 急に後ろからかけられた声にバッと振り向けば、たった今考えていた人(カルマくん)がそこにいて首をかしげていた。ほんの少し前まで殺せんせーを追いかけてたからかな……少し顔が赤く、息も切れているようだった。私は驚きすぎて内心バクバクしているけど、顔に出さないように意識しながら正面に向き直る。

 

「あ、ごめん、そこまで驚くとは思わなかった」

 

「う、ううん、平気。殺せんせーはもういいの?なんかみんなの話聞いてる限り、男の子の部屋の方でも何かやっちゃったみたいだけど……」

 

「あー、……あんまよくないけど、いっかなって。せっかくアミサちゃん見つけたし、ちょっと話したいなと思ってさ」

 

 そう言うと自販機へ歩いていき、お金を入れ始めるカルマくん。……あんまりよくないのに、いいってどういう事だろう……?疑問に思いながら見ているとガコンガコンと2回落ちる音が……え、2回?

 

「ん、アミサちゃんフルーツ好きだし飲みやすいと思うよ」

 

「え、あ、お金……!」

 

「いーよ、奢り。そっちで飲もうよ」

 

 手渡されたのは、私がさっき見てたレモン煮オレで。慌ててお金を出そうとしたけど手をひらひらさせながら断って、カルマくんはソファの方へ歩いていっちゃった……。こうなったら絶対受け取ってくれないからありがたく奢ってもらうことにして、私もカルマくんの隣に座り、初めて飲むレモン煮オレに挑戦……あ、思ってたよりも甘過ぎなくて飲みやすいかもしれない。口をつけた瞬間にちょっと驚いた顔をしたのが見えたのか、隣で笑う声がした。

 

「これ思ってたより、おいしい……レモンの味がちゃんとある」

 

「でしょ?」

 

 でもスムーズに話せたのはここまでだった。それからはしばらくお互い煮オレを飲むだけで、うまく話が続かない。今まで一緒にいる間にも何も話さない時間とか、普通にあったのに……隣を変に意識してしまって、どうすればいいのか分からなくなってきた。……もう、みんなが変なことを言うからだ。

 

「ねぇ……」「あ、あの……」

 

 とりあえず、何か言わなきゃと思って声を出すと見事に声が被り、思わず顔を見合わせて数秒……

 

「さ、先にいいよ?」「お先にどーぞ……って、」

 

 相手に促したのも同時でつい2人して笑い出してしまった。でもおかげで少し落ち着いて、さっきまで変な空気だったのがなくなったように感じる。

 

 じゃ、お言葉に甘えて先に話そうかな……と前置きをしてカルマくんが、話し出す。

 

「茅野ちゃんが言ってるのを聞いたんだけど……バチバチした何かに助けられたって。それってもしかして……」

 

「……多分、カルマくんが考えてるとおりだと思う。私がE組行きを言われた時に、先生(あの人)に捨てられた時に使ったのと同じ、《魔眼》……こういうのって、急に発現することもあるから珍しくないんだけど、私の知ってるやつと効果が違うからちょっと微妙だけど……」

 

「祇園でもなんか技みたいなの出してたじゃん?なんでそんなゲームみたいな技を使えるのか、とかは聞いていいの?」

 

「……話してもいいんだけど、長くなっちゃう、かな……これを言うには、私の故郷で発達してる技術の話からしなくちゃいけなくなるし……」

 

 そう、話すこと自体は別にいい……カルマくんなら、突拍子もない私の事情を聞いても受け入れてくれるんじゃないかって思えるし……逆にいたずらの幅が広がるって嬉々として計画に組み込みそうだ。

 問題は日本(こっち)にはない技術である導力についてとか、魔獣の存在についてから話さなくてはならないために、どうしても時間がかかってしまうことだ。それに、話せないこともあるから言葉を選ばなくてはいけない……でも、今はうまくまとめる自信がない。だから、今は整理がつくまで答えるわけにはいかなかった。

 

「……いつかは、話してくれるんだよね?」

 

「……うん。あ、でもどんな技かくらいなら今言えるかも」

 

「え、あの《水月》ってやつ?」

 

「うん。例えば……カルマくん、ちょっとこのクッションに私がやらなさそうな動きで技を仕掛けるの、できる?」

 

「ナイフとかでいいの?」

 

「うん」

 

 不思議そうにしながらカルマくんはクッションを上に投げて、落ちてくる前に手のひらの上や手首を使って対先生ナイフを遊ばせたあと、床に向けてクッションごとナイフを叩きつける。それを見たあと、私はクッションとナイフを彼から受け取り……

 

《──水面に映るは、月の如し──……水月》!」

 

 クラフトを発動すると同時に彼と全く同じ動作、同じ勢いでクッションにナイフを叩きつけた。

 

「……なるほどね、コピー技ってこと?」

 

「うん、私の身体能力でできるものだけをコピーするから、練習すれば習得できるかもしれないけど……全く同じものを即発動できるのは1回だけなの」

 

「へー……っ!え、じゃあ、祇園のアレって……」

 

「もう一度、あの技を見せてもらわないとできない、かな」

 

「……今まで、危険な目にあってもこの技を使ってこなかったのは……」

 

「……ホントに、危険な時に使えないといけないと思って……2年近く、温存してたの……ごめんね、もっと早く使ってたら、カルマくんに怪我させないですんだ事もあったのに……」

 

……なんでそんな大事なものを俺を守るために使うのさ……

 

 小さく、少し呆然としたように呟いた言葉が聞こえてしまって……苦笑いで返す。

 

「……大切だから、だよ。あんまり役に立てなかったけど」

 

「……そっか、ありがと。俺さ、あの時なんでこんな強い力あんのに前に出ないのって、もう俺の助けいらないじゃんとか思っちゃってさ、……ごめん」

 

「!私の勝手なんだから、もう、あの時のことでの謝りはおしまいだよ」

 

 本当に……今日は4班のみんなで謝ってばかりだ。カルマくんもそう思ったらしくて笑顔に戻しながら私からクッションとナイフを受け取ってくれた。

 

「ん、分かった。そういえば《水月》はまぁいいや……例えばさぁ、ゲームとかなら技を使うための数値とかあるじゃん?なんか副作用とか代償とかあったりするわけ?特に《魔眼》はアミサちゃんの技じゃないんでしょ?」

 

「副作用……私、説明したと思うけど《魔眼》を使えるってこと知らなかったの。だから無理やり力を引き出して使ってるようなもので……、うん、まあ……」

 

「…………で?」

 

「………、……………使った後、目が眩しくて見えなくなって、目の奥が熱くて、痛かったかなぁ……なんて……あぅっ」

 

 副作用というか、代償というか……それを言ったら、また怒られる気しかしなくてとても言いづらく、言葉を濁したところ……カルマくんが諦めてくれるはずなくものすごくいい笑顔を向けられ……黙っていることはできなかった。……正直に言ったのに、無言でデコピンをされた……怒られるよりもちょっと心に来たかもしれない。

 安易に使うの禁止、練習もだからねと言われて……実は折をみて少しずつ使う練習をしようとしていた私は、ビクりと肩を揺らしてしまい、その考えもバレて盛大にため息をつかれた。

 

「はぁ……とりあえず、知りたかったことは聞けたからいいや…………で、アミサちゃんは何を話したかったの?」

 

「……私、は……」

 

 最初の話初めに同時に声をかけたとはいえ、あの空気をどうにかしたかっただけで私は何かすごく言いたいことがあるってわけでもなくて……どうしようかと、私が話し始めるのを待っている彼の顔を見ているうちに、ふと、ずっと言いたいと考えていたことを思い出した。

 

「カルマくん、少し頭下げて……?」

 

「……?いいけど……、っ!?」

 

「やっぱり、少し腫れてる……」

 

 煮オレを机の上に置いて、カルマくんを手招く。座っていてもカルマくんの頭は高い位置にあって、少しこちらに下げてもらい……前からカルマくんの頭を軽く抱き込むようにして後頭部に触れる。祇園の路地裏で拉致される前……カルマくんが高校生に鈍器で殴られた場所だ。だいぶ時間が経ったこともあって腫れは引いてきているみたいだけど、まだ少しだけ熱を持っていて存在を主張しているようだ。

 いきなり触ってしまったからか、カルマくんは微動だにしないけど……気にせず腫れたところから手を離し、抱き込んだまま怪我に触れないようにしながら頭を撫でる。

 

「あの時、私が捕まって……そのせい、だよね。いつもだったらあれくらいの気配……カルマくんなら、ものともしないはずだもん。私が飛び出したせいで、勝手に人質になって……また、いらない怪我させちゃった……ごめんなさい」

 

 ……みんな、いろいろ謝ってたけど、カルマくんがやられた直接的な原因はやっぱり私だと思う。カエデちゃんと有希子ちゃんも捕まっていてそちらにも意識を取られながら、近い方を先に助けようとした結果なんだろうから。迷惑をかけ続けて、危険を呼び込むようなことにもなってしまって……もうそろそろ、呆れられて見捨てられるんじゃないかって思えて。でも、せめて謝りたいと思っていたのに助けてもらってすぐは、頭の中がグチャグチャになっていたし、……帰りは気づいたら眠ってしまったしで、謝る機会がなくなってしまっていたのだ。

 

「……アミサちゃん、一度離して」

 

「!……うん」

 

「……はぁ……意味分からずにこれやってるんだからタチ悪いよね……」

 

 カルマくんが固まって動かない間、遠慮なく撫でさせてもらってたわけだけど、急に身動ぎしたかと思えば頭を撫でる私の手に手を添えて離すように頼まれる。言われた通りに解放すると、カルマくんは煮オレを持っていない方の手で、頭をガシガシとかきながら私から離れていった。机の上に缶を置いて、大きくため息をつくのを見て……これは呆れられたかな、って覚悟を決めて下を向いた、ら。

 

「いっ……!」

 

「どうせ、自分だけのせいだって思ってたんでしょ。……アレは、人数差とか非戦闘員ばっかなのを考えずに油断してた俺のせいなんだから、アミサちゃんが気にすることはないの。……だから、俺の方こそごめん……ビッチ先生に聞いたけどでっかい痣になって……腹、痛むんでしょ?」

 

 向き直ったカルマくんに再びデコピンをされた。同じところを2度もデコピンされたせいか、地味に痛むおでこを両手で押さえて見上げれば、優しくこっちを見る顔があって……本当に、なんでこんな私を見捨てないでくれるのか、不思議でしかたがない。

 

「俺もアミサちゃんに怪我をさせるきっかけになってる……だから、おあいこってことにしない?それに、どっちかと言えば俺は謝るよりも他の言葉の方が欲しいな〜?」

 

「……あ、ぅ……、……助けに来てくれて、ありがとう……すごく怖かったけど、来てくれるって、信じてた」

 

「……ん、よし」

 

 詰まりながらもお礼の言葉をいうと、先程とは逆転してカルマくんが私の頭を撫でてくれた。

 あの時、誰かに助けを求めたくても言葉にできなくて……でも頭の中では助けを求めるなら、この人しかいないって思ってた。そうしたら、本当に来てくれて……それに、何も考えられなくなってた私を連れ戻してくれた。あたたかくて何だかドキドキするような気持ちのまま、撫で続けるカルマくんの手を握り、頬に当てる。

 

「……やっぱり、カルマくんの手はいつもあったかい。あったかくて、安心する、私の(しるべ)……」

 

「……アミサちゃ、……ん……?」

 

「?どうか、したの……、……あ」

 

 私はいつも、この手に助けられてきた。我を忘れて人として堕ちるところを引き戻してくれた。パニックになっていた所を落ち着かせてくれた。それ以外でも普段から私を導いてくれる……その感謝が伝えたくて自然と浮かんできた言葉と笑顔を向けた。

 それに対してカルマくんが何か言いかけ……たと思ったら、私の背中側を見て無言になったから、気になってそちらを見てみれば……

 

「……あー、もー、じれったい……!」

 

「真尾の行動怖ぇ……あれ、いろんな意味で暴力だよな」

 

「胸に顔押付けてるようなもんだったもんな、羨ましい!」

 

「アミサちゃん、ほんとに幸せそうですね……」

 

「でも、自分が何やらかしてるのかは分かってないよね、多分」

 

「ちょっと、殺せんせー重いって」

 

「いいじゃないですか、ヌルフフフフフ……」

 

「ねえ、バレるって、もう少し静かに……!」

 

 

 

「もうバレてるんだけど。何やってんのお前等……消されたいの?」

 

「「「げ。」」」

 

 いつの間にやら廊下であった先程までの騒ぎは収まり、中心にいたメンバーが廊下の影からこちらを覗き見ていたらしい。いつからいたんだろ……、全然気にしてなかったから気付かなかった。

 

 ゆら、と静かに立ち上がったカルマくんは、これまたいたずらを仕掛ける時のような笑顔を浮かべると……覗いていた彼らの近くに音もなく近寄っていき、ナイフを弄んでいた。殺せんせーはまたいつの間にか逃げ出していて、姿がない……他のみんなは特に男子がカルマくんをなだめようと色々声をかけている。カルマくんのとりあえずの標的は殺せんせーだったみたいで、今は壁を背にしてみんなとおしゃべりしているみたいだ。

 

「本ト、いつからいたわけ……」

 

「お前ら2人がクッション相手にナイフ振り回してたあたりかな」

 

「え、それって」

 

「カルマ君、顔真っ赤だったよね……アミサちゃん絶対何してるのかわかってないし。あの突拍子もない行動には慣れてたつもりだったけど、本当に斜め上を行くよ……」

 

「渚君まで……はぁ……」

 

 あんまり声は聞こえてこないけど、カルマくんが頭を抱えているのは見える。そこでふと気づく。私は育ってきた環境の影響で、気配には敏感な方だし、五感が鋭い自覚がある。害を与えそうな気配は意識していなくても察知しやすい……でも、彼らがいることに気がつけなかった。私はいつの間にか、意識して警戒しなくてもいい相手、と思っているのかな。

 

 まだハッキリしないから、なんとも言えないけど。とりあえず、私の方にも向かってきている何人かの女の子たちとお話することに集中しようと思う。

 

 

 





「カルマと話してどうよ?」

「んー……やっぱり、優しいし……受け入れてくれるし……あったかいなぁって再確認した、かな」

「あー……あっちは変わった気がするけどこっちはダメだ」



++++++++++++++++++++


これで、修学旅行編はおしまいとなります。
長くなりましたが、如何だったでしょうか?
カルマの自覚はここでさせたくて、今まで色々頑張ってきました。今後どうなるかは謎……殺せんせーはホクホクしていることでしょう。
あ、オリ主は、まだ無自覚です。

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