暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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21話 転校生の時間・1時間目

 楽しくて、みんなの意外な一面が知れて、いろいろ巻き込まれて、学んで、謝って、人の想いを知って……少し友だちとの距離が近くなった気がする修学旅行も終わり、今日からはまた通常授業の毎日に戻る。

 普通だったら進学校らしく勉強漬けの毎日や友だちと過ごす代わり映えのない日々になるんだろうけど……私たちはE組であり、暗殺教室だ。誰かが暗殺を仕掛けたり、先生たちが技術や工夫を凝らした訓練(遊び)を考えてくれたり、何かしらの事件が起きたりと毎日が新鮮で……きっと同じ日が来ることなんてないんじゃないかな?

 

「よっ!」

 

「あ、おはよう磯貝くん」

 

「昨日の夜、烏間先生から一斉送信メールあったよな……見たか?」

 

「うん」

 

 E組校舎へ向かう山道の入口で会った杉野くんと、今日は駅から一緒に登校した渚くんと歩いていると、後ろから追いかけてきたらしい磯貝くんがメールのことを言いながら、カバンから携帯を取り出して件のそれを開き始めた。烏間先生からのメールは学校のこと……というより暗殺についての情報提供が多いので、何かあったのだろうかと昨日は怖々開いたもので……杉野くんと渚くん、山道の途中で合流した岡島くんと一緒に磯貝くんの手元を覗き込んで、そのメールに再び目を通す。

 

【明日から転校生が一人加わる。多少外見で驚くだろうが……あまり騒がず接して欲しい】

 

 時期外れの転校生……元々どのクラスよりも少ない人数で構成されているE組だから、新しい仲間が増えるのは別にいいのだけど……いや、成績が落ちるとか諸々の理由(素行不良とか)で来る人は歓迎しちゃいけないんだけど。それでも、この時期(殺せんせーがいるの)に来る人ってことはつまり、イリーナ先生のような『殺せんせーを知っていて暗殺教室に参加する人』ということで……

 

「ついに来たか、転校生暗殺者」

 

「転校生名目ってことはさ、ビッチ先生と違って俺等と同年齢(タメ)なのか?」

 

「年増じゃないってことだよな!?」

 

「もう……岡島くん、イリーナ先生はまだ20歳なんだから、年増は失礼だよ」

 

「……えーっと、真尾、これ見てみ」

 

「?」

 

 目を輝かせた岡島くんが、イリーナ先生本人がここにはいないとはいえ、本人が知ったら失礼極まりないことを言っているから止めたんだけど、何かを検索した杉野くんがそっとスマホの画面を差し出してきた。

 

 【年増:娘盛りを過ぎた女性。一般に30歳代半ばから40歳前後までの女性をいう。()()()()()()()()()()

 

〝ビッチ先生、まだ20歳!?〟

 

〝経験豊富だからもっと上かと思ってた……〟

 

〝ねー、毒蛾みたいなキャラのくせに〟

 

「……、そういえば、修学旅行の時にイリーナ先生が20歳って知って、みんな見えないっていってた……」

 

「な、間違いじゃないから大丈夫だ」

 

「う、うん……?」

 

 言わなきゃいいバレないバレない、とか言ってるけど、そういうのをフラグって言うんじゃなかったっけ……?

 

「それは置いといて。俺気になってさ、顔写真とかないですかってメールしたのよ。そしたら……これが返ってきたんだよ!!」

 

「おお、女子か!ふつーにかわいいじゃん」

 

「だろ?!スッッゲー可愛いだろ!?!あぁ〜、仲良くなれっかなぁぁぁぁ!!き、緊張してきたぁぁ……!」

 

「浮かれすぎだろ岡島……;」

 

「…………、……?」

 

「アミサちゃん、どうかしたの?」

 

 岡島くんが見せてくれた写真には……薄紫の髪と赤い瞳、頭にカチューシャを付けた女の子が写っていた。すごく可愛いし、岡島くんは気に入ってるのか待ち受けにしていて、それを見た杉野くんも呆れつつ一緒になって盛り上がっている。

 ……けど、私はその写真を見て少し気になるところを見つけ、つい、何も言わずその部分が気のせいなのかを考えこんでいた。そのせいで訝しげな顔をしていたのか、ただ私が何も言わずに静かなことが気になったのか……渚くんが私に声をかけてくれていた。の、だが、自分の思考にハマっていた私は気が付けなくて、数回軽く私に触れられたことでようやく顔を上げる。

 

「アミサちゃん、……アミサちゃん?なんか気になることでもあった?」

 

「え?あ……気付けなかった、ごめんなさい。その、ちょっとだけ……」

 

「ううん、気にしないで。でもそんなに黙り込むほどのことなんてこの写真にある?」

 

「え、何かおかしなとこでもあるか?」

 

「お前の直感というか着眼点というか、色々察するとこはホントに凄いからな……気にせず言ってみろよ」

 

 ただの、私一個人の小さな疑問なのに聞いてくれようとする4人……はしゃいでいた岡島くんでさえ、すんっと落ち着いて話を聞く体制に入ってくれている。こう、ちょっとしたことに興味をもってくれるのがなんだか嬉しくて、少しだけ言葉を探す。

 察する云々はカルマくんのイタズラを相談もせずに理解して相方を務めあげることができること、とか?……けど、何か驚かせるような思いつきなんてしたことあったかな?私らしい見方とはよく言われる気もするけど……だんだんまた思考が脱線しそうになってきたから、まあいいか、と置いておくことにして、私は岡島くんの写真のある一点を指さす。

 

「その……烏間先生のメールに、『外見で驚く』ってあったでしょ……?で、この写真のここのところ、正面からの写真にしては不自然に見切れてる気がして……」

 

「あ、確かに……なんか、黒い枠みたいなのが写ってるよな」

 

「個人写真とかを背景を黒くしてところの上に置いて、顔をアップにして撮ったデータを送ってもらったってことなら、それまでなんだけど……ちょっと、気になっちゃって」

 

 そう、写真は顔をアップにした正面からのもので、証明写真のように見える……のだが、証明写真を携帯のカメラで撮ったにせよ、データをそのまま転送したにせよ、なんとなく人の写真として送ってきたにしては不自然に感じたのだ。なんとなくの領域を出ないからこそ私は最初、黙っていたわけで……自信を持っているわけじゃないと4人に念を押しておく。

 

「まぁ、行ってみれば分かるだろ」

 

「そうそう。写真じゃわかんないよ」

 

「真尾も新しい友達ができるなら楽しみだろ?」

 

「そう、だね……うん、仲良くなれるといいな」

 

 私の本校舎時代を知らない子だからこそ、偏見なく付き合えたりしないかな……そんな淡い期待で、彼女に教室で会えるのが楽しみになってきた。

 そうして続々とE組の生徒たちが登校してくるのが見える中、私たちは期待に胸をふくらませたまま教室へと向かい、ほとんど一番乗りで教室の扉を開けた。

 

「さーて、来てっかな〜……転校生、……は?」

 

 杉野くんが教室の扉を元気よく開けて足を踏み入れた……のに、入ってすぐの場所で足を止めてしまって、後ろにいた私や渚くん、岡島くんは中が見えない。何も言わない杉野くんに、私たちは顔を見合せて、そっと隙間から教室の中をのぞきこんだ。

 教室の中には、修学旅行へ行く前までは何も置いていなかったはずの寿美鈴ちゃんの席の後ろに、縦に長い、黒い長方形の箱が鎮座していた。あまりにも不自然なソレに、先に教室へ来ていたメグちゃん、陽菜乃ちゃんも含めてみんな困惑気味で……とりあえず見てみないことにはわからないということで何人かで正面に立ってみると、テレビ画面のような液晶部分に波が走った。

 

 ──────ブゥゥン

 

『おはようございます。今日から転校してきました、〝自律思考固定砲台〟と申します。よろしくお願いします』

 

 ──────プツン

 

「「「(……、そうきたか!!)」」」

 

「あ、あわわ……」

 

「人の写真にしてはそれっぽくない、……真尾の直感大正解じゃねぇか」

 

 それだけ言ってプツリと電源を落としてしまった転校生……自律思考固定砲台さんは、まさかの私の予想通り『生徒』ではあるけど『人間』では無かったようで。そんな予想外、当たるなんて思うわけなかったんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝のHRの時間となり、転校生の紹介をするために黒板にチョークを走らせている烏間先生の背中はプルプルと震えていて、若干声も上ずっているような気がする。……あ、チョーク欠けた。

 

「……皆、既に知っていると思うが、転校生を紹介する……、ノルウェーから来た、自律思考固定砲台さんだ。」

 

『みなさま、よろしくお願い致します』

 

 初めは防衛省から殺せんせー監視役として来ただけだったはずの烏間さんは、いつの間にか私たちに暗殺するための基礎技術を教え、そして鍛えるための体育教師役になり……人外だからこそ公式の記録に残せない殺せんせーに代わって書類上の担任の先生になって、そして今回は国からの連絡役として機械の生徒を紹介する……、……とりあえず色々大変なことはよくわかった。

 

 紹介された転校生さんは、真っ暗だった画面にまたさっきのように光を灯して一言だけ挨拶をすると、またプツリと電源を落としてしまった……これ、コミュニケーションをとる以前の問題だと思うんだけど、どうすればいいんだろう。殺せんせーは殺せんせーで自分を棚に上げて(自分も人間の姿をしてないくせに)笑ってるし。

 烏間先生曰く、転校生さんは殺せんせーがE組で先生をする上での〝生徒に危害を加えることは許されない〟という契約を逆手に取り、殺せんせーに暗殺を邪魔されることのないよう機械だが生徒(・・・・・・)としてここにいるらしい。なりふり構わない行動ではあるけど、一応理にかなっているから、殺せんせーは面白そうに歓迎していた。

 

「……でも、どうやって攻撃するんだろ?『固定砲台』っていっても、どこにも銃なんてついてない黒色の箱だよ?」

 

「うーん、多分だけど……」

 

 転校生さんが来ていても変わらない、いつものように始まった国語の授業では、殺せんせーが黒板を触手で示して教科書の説明をしていく中、前の方では渚くんとカエデちゃんが転校生さんについて話しているのが聞こえる。確かに、今の転校生さんの姿では武器は付いていないように見える……でも、固定砲台って言うくらいだし、見えないだけで存在するというなら、在り処は多分……

 

 ────ギラリ……ガシャガシャ、ガキィン!

 

 あの箱の、側面。

 

 転校生さんは殺せんせーが説明を書き足そうと黒板の方を向いた瞬間に、箱の側面から砲台を展開し、予告もなくいきなり一斉掃射をはじめた。教室中にバラまかれる対先生BB弾の嵐にみんな、特に銃弾の軌道上に座っている生徒は頭を下げて教科書などで自分を守る。って、軌道上じゃないはずの私の位置にも跳弾した弾が飛んできた、あ、危ないし、これじゃあ授業にならないよ……っ!

 

「ふむ、ショットガン4門、機関銃2門……濃密な弾幕ですが……ここの生徒は当たり前にやってますよ。それと、授業中の発砲は禁止です」

 

『気をつけます。続けて、攻撃準備に入ります』

 

 気をつけてない、禁止の意味、分かってないよ転校生さん……!数多くの弾で弾幕を形成する中で、自慢のスピードを駆使していつものように余裕でBB弾を避けていく殺せんせーは、自分の顔の正面に来た1つの弾をチョークで弾いている。

 転校生さんもそれを確認してなのか、なにやらチカチカと演算か何かを繰り返してまた砲台を取り出すと、再び始まる銃撃の嵐……あれ、今、弾道の再計算、射角修正って言ってた。まさか……

 

「ちっちっち、こりませんねぇ……にゅ、う!?」

 

 さっきと全く同じように転校生さんは弾幕を作り、さっきと同じように殺せんせーは顔の正面にとんできた1つの弾丸をチョークで弾く……そう、弾いたのは1つだけ(・・・・・・・・・)。瞬間、チョークを持つ先生の触手がはじけて黒板に飛び散った。

 

「……、……学習、してる……?」

 

 殺せんせーがどんなに素早くても逃げる、避ける動きにはパターンが存在する……そうしないと頭の中で考えた動きと実際の動きに齟齬が出てしまうから。つまり、早すぎるせいでそれを追う側の理解が追い付かないから対応ができていないだけ、とも言えるというわけだ。だから理論上で言ってしまえば、殺せんせーが思いつく限り全てのパターンを予測して、その全てのパターンに対応してしまえば攻略できるというわけだ。

 

『次の射撃で殺せる確率、0.001%未満。次の次の射撃で殺せる確率、0.003%未満。卒業までに殺せる確率……90%以上』

 

 ……ただし、そのパターンを知るためには膨大な数の場合分けをこなさなくてはいけない。殺せんせーだって生きてるんだから、場合分けの公式で出せる確率の通り動いてくれるはずがないし、自慢の速さでそのパターンの量そのものをものすごく増やしているに決まっている。……その膨大な数の場合分けを、転校生さんは自分で考えてやろうとしてるってこと……?

 

『よろしくお願いします、殺せんせー。続けて攻撃に移ります』

 

 右手で右耳を塞ぎ、左手の親指で左耳を塞ぎながら教科書で壁を作りつつ、転校生さんの増設、改良されていく砲台を見る。さっきと違って1つ銃が増えている……さっきは付いていなかった副砲が銃口のすぐ側にある……関節が増えて可動域が伸びている……そんな、何十という試行と変化を繰り返していく中、違いを探して見ているうちに1時間目の国語の授業が終わっていた……あ、うるさすぎて殺せんせーの授業の解説全然聞いてなかった。

 

「…………で、これは俺らが片すのか?」

 

「お掃除機能とか付いてねーのかよ、固定砲台サンよォ。……チッ、シカトかよ」

 

 教室中にバラまかれた無数のBB弾……1時間分でよくもこんなに撃ったな、という量を片付けるのは私たち生徒だ。私たちがバラまいたのであればまだしも、このままでは言い方は悪いのだけど無駄なところ(掃除)に力を使わされて、学生の本分である勉強に集中させてもらえない。

 みんなが文句を言いながら教室中に撒き散らされたBB弾を掃除道具で集めていく中、私も無言で転校生さんの近くを意図的に選びながら、拾い集めていく。

 

「アミサちゃんそっち終わったら終わりだから、掃除道具預かるよー……って、おーい」

 

「…………」

 

「ま、真尾さーん?……珍しいなカルマの声にすら反応しないの」

 

「また上の空っていうか……怖いんだが;」

 

「…………………………」

 

「ガチで反応しないじゃん;」

 

 そしてその日は1日中、転校生さんが殺せんせーにBB弾を撃ちまくっては私たちが掃除して、また次の授業では銃撃の嵐が……というのが繰り返された。そんな私たちがこの教室に来る意義を感じられない1日を過ごすことを余儀なくされ、1時間の授業が終わるたびに銃撃は止むとはいえ、みんな既に疲れきっていき……ついにまともな授業も1度も受けられないまま放課後になってしまっていた。

 今日1日、転校生さんを観察したり弾を避けるために頭を下げて静かに過ごしていた私は、みんなが帰る準備をする中、転校生さんの後ろ側へと近寄って黒色のボディに触れ、ある一角に指がかかることを確認して力を入れる。

 

──────バガッ!

 

「……………………」

 

「ちょ、アミサちゃん!?」

 

「……ア、アミサさん……一体何を……?」

 

「真尾……今、あんまり、聞こえちゃいけない音が転校生から聞こえた気がしたんだが……」

 

 驚いたように私を呼ぶ声、困惑したような声、おそるおそる話しかけてくる声……それら全てを無視して、開けた一角から覗いているコードを数本引き出していく……

 

「……先生が危害を加えるのはダメでも、生徒が生徒に何かするのは喧嘩として受け取られるだろうし、そっちが契約の穴を突いてくるならこっちがやったって何も言えないに決まってるもんね……機械だったら、ハッキングとか仕掛ければ止めちゃえるはず……でもパソコンここにないし、だったら物理的に……ちょっと、一本くらい大事な線を引っこ抜いたって……」

 

「ちょ、ストップストップストップ!!」

 

「いつになく静かだし今日1日全然お前の声聞いてないなーとは思ってたけど、なにか考え込んでたんじゃなくて実は結構キレてたってこと!?」

 

「真尾、戻ってこい!」

 

 私のやろうとしていることが一歩間違えたら……いや間違いなく破壊だということに気がついたのか、慌ててみんなが止めに入ってきた。気にせず引き出したコードから直感で手に取ったものを引っこ抜こうと力を入れようとした瞬間、体がその場で浮いて思わず手を離してしまう。

 

「はい、回収。なんかやらかそうとしてんなーとは思ってたけどね」

 

「だって!……だって、仲良くなれるかと思ってたのにっ……うぅ〜……」

 

「というか、どう考えが飛躍したら先生に訴えるとか以前に線引っこ抜く考えになるのさ」

 

「喧嘩したら仲良くなれるって……いうのあるから、」

 

「多分『雨降って地固まる』ってことわざのこと言ってるんだと思うけど、それもう極論だから!アミサちゃんの場合、喧嘩通り越して破壊だから!」

 

 私を軽々持ち上げて転校生さんから引き離すのはカルマくんで……私がなにかやろうと1日観察していたのを分かって放って置いてくれていたらしい。さすがにみんなも止め始めたから手を出したって言い方だから、みんなが止めなければカルマくんも止めないつもりだったのかもしれない。渚くんにはわかる気もするけど違う!って叫ばれてしまった。

 私もE組に来た時の態度はアレだったから、あんまり人のこと言えないと思うけど、新しい友だちができるかもしれないと期待して教室に来たらまさかの機械で……コミュニケーションをとる以前の問題だなんて思ってもいなかったから。

 

 何人かになだめられたし、無視して出てけばいいんだとも言われたけど……それでも挨拶は大事だから「また明日ね、自律思考固定砲台さん」と手を振りながら声をかけて、沈んだまま家に帰宅した私は知らなかった。思ってもない人が、私の言葉に耳を傾けていたなんて。

 

 

 

 

 

「生徒が生徒に何かするのは『喧嘩』……なるほどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。今日も昨日と同じで銃弾の中での授業を受けなくちゃいけない……そんな憂鬱な気持ちを隠せないまま渚くん、杉野くんと一緒に教室への扉を開くと、珍しく寺坂くん、村松くん、吉田くんの3人が既に来ていたみたいで、ちょうど教室を出ていこうとしている所をすれ違った。3人とも、いつも遅刻ギリギリに教室へ来ることだって少なくないのに……。

 すれ違いざまにおはようございます、と声をかけ、3人が廊下の向こうへ消えていくのを見てから、ふと、昨日の固定砲台を目を向けてみたら……え、ぐるぐる巻きになってる……!?

 

「これって、ガムテープか……?こんだけ頑丈に巻かれてたら、銃器の展開はできないよなぁ……」

 

「もしかしてこれ、寺坂君たちがやったのかな?」

 

 何が起きたのかはよくわからないまま、私たちは授業の始まる時間までは基本動かないらしい転校生さんを見つめるしかなかった。

 

 そして8時30分……始業の時間だ。転校生さんは、決められたプログラム通りに仕事(タスク)を実行しようとしてようやく自分の体が動かせないことに気がついたみたいだ。

 

「殺せんせー、これでは銃を展開できません……拘束を解いてください。それに、これは先生の仕業ですか?明らかに生徒(わたし)に対する加害であり、それは契約で……」

 

「ちげーよ、俺だよ。どー考えたって邪魔だろうが」

 

 そう言って転校生さんにガムテープを投げたのはやっぱり寺坂くんだった。明らかに怒っているような様子で、邪魔者を見る目で転校生さんにあたっている。

 

「常識くらい身につけてから殺しに来いよ、ポンコツ。それに……お前は勝手に電源落としてたから知らねぇかもしんねーけどな。コレはあくまでも『生徒同士による喧嘩』だろ?……そう言った奴がいたんだよ。だったら標的(ターゲット)は関係ないハズだ」

 

「!」

 

 寺坂くんが引用した言葉は、私が昨日帰り際に言ったことだ……いつも挨拶はするけど返事は一言あるかないかくらいだから、私の言葉なんて聞いてないと思ってたのに。

 

「ま、分かんないよ機械に常識は」

 

「授業が終わったら解いてあげるから」

 

 そんな言葉を投げかけたあと、全員が殺せんせーの立つ教壇を向く。転校生さんは体の向きは変えられるようだが、それ以外には何もできないし、初日にクラスメイトとコミュニケーションをとらなかったこともあってか誰とも会話をすることもなかった。

 誰もガムテープを外すことも無く、この日は1日中何にも邪魔されることなく、授業を受けることができた。……そして放課後。

 

「……今は解くとして、明日からもガムテープ巻くのか?」

 

「まあ、今日に関しては原が解いてあげるって約束してたしな。常識云々こっちが身につけろって言った手前、嘘をつくのはいけないことって示すためにも解くしかないだろ。明日は明日になってから、だ」

 

 そんな会話をしながらガムテープを外していく。朝、寺坂くんが言ったのもあるのかな……転校生さんは画面の電源を落とさないで、何も言わないし無表情だけど、私たちの方を見ている。

 

「……自律思考固定砲台さん、昨日は、線引っこ抜こうとして、ごめんね。でも、私は……あなたとお話ししたかった、仲良くなりたかったの。……あなたは様々なパターンをとって、学んで、次の狙撃に生かせる……とても賢いから。きっと、私たちが話すのも聞いて……暗殺だけじゃなくて、人との接し方も学べるんじゃないかなって……」

 

 私もガムテープをはがすのを手伝いながら声をかけてみる。みんながみんなそうって訳じゃないけど、故郷の方では機械……ううん、ゴルディアス級の人形兵器を家族として使役していた人は、その子と意思疎通ができたらしい。人形に意思があるのと同じように、この子にだって意思があるのだから、少しくらい期待してもいいかなって。

 でも無言、無表情でこちらを見つめる彼女に、やっぱり無理かな……なんて思いながらも全てのガムテープをはがし終え、私は待っていてくれた渚くんとカルマくんと一緒に下校することにした。

 

 

 

 

 

『……学ぶ……』

 

「そうです、学ぶんですよ、自律思考固定砲台さん。これから先生と放課後の補習を行いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、教室の扉を開けると……

 

「……なんか、体積が増えてねーか?」

 

 昨日までと比べて明らかに分厚くなっている転校生さんがいた。開発者さんがたまに来てメンテナンスをするって烏間先生が言っていたし、昨日1日ガムテープでぐるぐる巻きだったから暗殺が全くできなくて対策した、とか?怖々近づく私たちの前で、液晶パネル全面に電源が入る……、

 

 ……え、全面に?

 

『おはようございます、みなさん!今日は素晴らしい天気ですね!こんな日を皆さんと過ごせて嬉しいです!』

 

 え、え、……なんか……

 

「親近感を出すための全身表示液晶と、体・制服のモデリングソフト……全て自作で60万6千円。豊かな表情と明るい会話術、それらを操る膨大なソフトと追加メモリ……同じく110万3千円…………先生の財布の残高……5円!」

 

 転校生さん、殺せんせーの手でおかしな方向に進化しちゃった……?なんでも、クラスのみんなと協調性を持って暗殺に臨む方が射撃成功確率を格段に跳ね上げる、ということを殺せんせーオリジナルの演算ソフトを使って根拠のある理由とともに諭されて、ならばクラスの一員として認められて仲良くなりたい……と、先生の改良を受け入れたらしい。

 

「たった一晩でめちゃくちゃキュートになっちゃって……」

 

「あれ一応、固定砲台なんだよ、な?」

 

 ……それを聞いた寺坂くんは、先生が作ったプログラムだから所詮は作り物、結局人とは違うと反論してたけど、転校生さんには泣かれるわ、みんなには責められるわで散々な目にあっている。

 

「……素敵じゃないか、二次元。Dを1つ失うところから女は始まる」

 

「竹林!!それお前の初セリフだぞ!?」

 

「いいのかそれで!?」

 

「D……、二次元……あ、2Dだから?」

 

「そういうことさ」

 

 竹林くんみたいに、無骨な見た目の固定砲台のままより、今の方が好意的に感じてる人はいるみたい。それはそうだよね、ただの機械!というより中身がはっきりわかる方がコミュニケーション取りやすいもん。

 

『みなさんにまずは好きになってもらって……みなさんから合意を得られるまで、私単独での暗殺を控えることにしました』

 

「そういうことですから仲良くしてあげてください。もちろん、先生は彼女に様々な改良を施しましたが、彼女の殺意には一切手をつけていません」

 

『はい!』

 

「先生を殺したいなら、彼女はきっと心強い仲間になるはずですよ」

 

 彼女が宣言した通り、今日の授業中は本当に昨日までの問答無用な射撃は全くせず、それどころか何とかクラスの輪に入りたいとカンニングをサービスと勘違いしてやってみたり、女の子たちと花を作る約束をしたり、その片手間に千葉くんと将棋で勝負したり……せっかく二次元なのだからとコスプレを頼む人がいたりと、いつの間にか彼女はみんなの中に打ち解けていた。

 殺せんせーは何故か対抗意識を燃やして、顔の色を変えて人の顔を出そうとして、三村くんにキモイって言われて落ち込んでるけど……

 

『あの、アミサさんっ!』

 

「……!えっと……どうしたの?」

 

『昨日、テープを外してくださった時に話されていたこと、……私、とても嬉しかったです!私とお話したいと言ってくれて、仲良くしたいと言ってくれて……アミサさんの仰ったように、みなさんのお話を聞いて、話し方を学習しました。まだまだ至らない点は多いですが……殺せんせーの改良を受け入れた1番の理由はそれなんです。だから、ありがとうございます!』

 

「あ……その、私こそ、ありがとです。話、聞いてくれてて嬉しかった……えへへ、これから、仲良くしようね」

 

『はいっ!』

 

 嬉しかった……私の言葉は届いていたんだってわかったから。軽く画面の中の彼女の手に合わせて私の手を重ねると、驚いたようにそちらを見る彼女……そして、嬉しそうに笑ってくれた。もしかして、殺せんせー……この全身液晶表示をタッチパネルにでもしてるのかな?握り返されることはないけど、合わせることは出来る……本当に生徒がのびのびと才能を伸ばせるように考えてくれている先生だ。

 

「あ、じゃあさ、仲良くなるついでにこの子の呼び方決めようよ。〝自律思考固定砲台〟っていうのは、いくらなんでも……」

 

「じゃあ……どこか一文字とって……()……(りつ)……、律はどう?」

 

「安直だな……、お前はどうだ?」

 

『わぁっ嬉しいです!では、〝律〟とお呼びください!』

 

 自律思考固定砲台……改め律ちゃんは、必死に仲間になろうとしているし、E組のみんなも受け入れつつある。

 

「上手くやっていけそうだね」

 

「……どーだろ。寺坂の言う通り、殺せんせーのプログラム通り動いてるだけでしょ?機械自体に意思があるわけじゃない……あいつがこの先どうするかは、あいつを作った持ち主が決めることだよ」

 

 機械でも、AIがルーツでも、人間とは違う存在であることは変わりない……律ちゃんも、私たちも、ましてや殺せんせーも、どうしすることもできない存在というものは、いるわけで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おはようございます、みなさん』

 

 教室には、2日前と同じように画面が小さくなり感情も抑揚も何もかも最初と同じように分解(オーバーホール)された律ちゃんがいた。

 

「〝生徒に危害を加えない〟という契約だが……〝今後は改良行為も危害とみなす〟と言ってきた。君等もだ……〝彼女〟を縛って壊れでもしたら賠償を請求するそうだ。……開発者(持ち主)の意向だ、従うしかない」

 

 ……危惧していたとおりになってしまった。律ちゃんの開発者()は、E組(私たち)の都合も、律ちゃん自身の意思も関係なく……ただ、自分の欲を満たすためだけに行動している。……意思を持つ時点で、律ちゃんはただの機械(もの)なんかじゃないって関わった私たちは言える。……なのに、人の気持ちも察せないような相手なのに、私たちのような何の力も持たない学生には何もすることができない……それが歯がゆくて仕方なかった。

 

 分解されて退化(ダウングレード)したってことは……初日のような迷惑な射撃を行う兵器に戻ってしまったということ。カアァァッと光を灯す律ちゃんに、みんなが体を固くし銃弾から自分を守ろうと姿勢を低くし始める。……来る……っ!

 

 ────ガキンッ

 

『……花を、作る約束をしていました』

 

 身構えた銃弾はなにも来なくて、代わりに降ってきたのは無数の花びら……よくよく見れば造花……かなり薄くプラスチックをのばして律ちゃんが作ったものだ。みんな、体を起こして彼女の方に注目する。

 

『殺せんせーは私のボディに、計985点の改良を施しました。そのほとんどは……開発者(マスター)が〝暗殺に不要〟と判断し、削除・撤去・初期化してしまいました。しかし、学習したE組の状況から、私個人は〝協調能力〟が暗殺に不可欠な要素と判断し、消される前に、関連ソフトをメモリーの隅に隠しました』

 

「素晴らしい、つまり律さん、あなたは……」

 

『はい!私の意思で開発者(マスター)に逆らいました!』

 

 瞬間、さっきまでの能面のように感情も何も無かった律ちゃんの映像は消え、昨日の感情豊かな彼女が姿を現した。みんなの顔にも次第に笑顔が浮かぶ……よかったという安堵の感情、やるなという見直した感情……そんな、彼女の反抗を喜んでいる。

 

『殺せんせー、こういった行動を〝反抗期〟というのですよね?……律は、イケナイ子でしょうか……?』

 

「とんでもない。中学3年生らしくて、大いに結構です!」

 

 こうして、自律思考固定砲台……律ちゃんは、兵器でありながら思考を持ち、感情を持ち、協調を学び……様々なことを吸収して学び続けていく1人の女子中学生として、E組の仲間に加わった。

 早速クラスメイトたちの能力や情報をカメラやマイク、元々烏間先生たちが収集しているデータを通じて色々集め……それを暗殺に活かしていけるよう記録していきたいと彼女は話している。人間ではできない部分で、戦う彼女……これからはこの28人が殺せんせーに対する暗殺者だ。

 

 

 





「アミサちゃん、転校生と仲良くなったね〜」

「カルマくんも話せばいいのに……律ちゃんいろんなこと分かるから、情報関係に強いと思うよ」

「あー、まあ、……なら、情報貰いにいこうかな……」

「……?また、殺せんせーとかみんなにイタズラできるように?」

「や、そーじゃないけどさ……」

「???」





『あの、アミサさん……聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?』

「?……何か、あった?」

『E組のみなさんのデータを取っていると、アミサさんのデータがデータベース上に存在せず、一部見つけられません。それに、普段から計測できる能力値がブレることが多いのですが……』

「!……え、えっと、その……私、ずっと外国に住んでたからデータに残ってないとかじゃないかな……っ?……それに……、ううん、いつか、ちゃんと話すから誰にも言わないで……お願い」

『……わかりました!いつか話してくれますよね?お待ちしてます!』

「……なんか、そのお返事……カルマくんみたい……」

『カルマさんですか?そうでしょうか……?あ、カルマさんといえば、少し前にお話しましたよ!』

「そういえば、情報もらうって言ってたっけ……ふふ、律ちゃんがいれば有利に進めるための作戦が立てやすいかもしれないね」

『あ、いえ、殺せんせーではなく……アミサさんのことを聞きに来てましたよ?』

「…………え、私?」



++++++++++++++++++++



 自律思考固定砲台、通称『律』がE組に加入しました!

 ここの小説での律はカメラ、マイクなどを通じて身体能力諸々の情報収集をし、集めた情報を記録して、本人に公開不可と言われたもの以外は『協調のため』と考えて情報提供をしている設定です。もちろん殺せんせーの情報も開示してますが、生徒間の情報も開示することがあります。

その情報収集の一環で、オリ主の秘密も知りかけてますが、周りへの開示は止められました、という感じです。


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