暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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22話 湿気の時間

 

 6月。長雨の続く、梅雨の季節。

 

「殺せんせー……何?その頭」

 

「ああ、水分を吸ってふやけました。湿度が高いので」

 

「生米か;!?」

 

「雨粒は全部避けて登校したんですがねぇ……湿気ばかりはどうにもなりません」

 

 通学路には紫陽花が咲き始めて綺麗な反面、じとじとジメジメが気になる時期……私たちの担任である殺せんせーは湿気を吸収して頭が大きくなっていました。あの超スピードで雨は避けれても、ボロボロ校舎で雨漏れもあるE組ではどうにもならないみたい。いつも金欠な先生は頭に生えたキノコも食べちゃってた。

 

 これは、そんな梅雨のとある日に起きた出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長雨続きで憂鬱になりそうな毎日が続く中、私とカルマくんは駅の近くにあるとあるカフェへ来ていた。ケーキが有名な女性向けのお店だからか、中には女性が多くて男性が入りづらそうな内装で……でもデートでなら数組いるような気がするそこに、なぜ私たちがいるかといえば、このお店の限定ケーキがお目当てだった。

 なんでも梅雨の期間、雨が降っている日に男女で入店するとお店オリジナルのケーキが安くなるらしく、今日の帰りのホームルーム前にそれを食べたいから一緒に行こうとカルマくんに誘ってもらったのだ。

 カルマくんは甘いものが好きだし、私もそんな限定感のあるものならぜひ食べてみたくて二つ返事でOKすれば、カルマくんは小さくホッとしたように息を吐いて席に戻っていった。……そんな、ホッとするようなことなのかな……普段から一緒に帰ってるんだし、寄り道だって別に断らないのに……もしかして、他にも誘ってみたけどみんなダメだったとかなのかな。

 

「いらっしゃいませ、お決まりでしたらお声がけくださいね」

 

「あー、えっと……これを」

 

「……!はい、かしこまりました。一応決まりですのでそれらしい証明をお願いしてもいいですか?」

 

「……証明……アミサちゃん、おいで」

 

「わ、ありがとう……歩くの遅くてごめんね」

 

「気にしなくていいってば、離さないように繋ぐよ」

 

「……?うん」

 

「……ふふ、彼女さんには内緒なんですか?」

 

「……アプローチ中。……これでいい?」

 

「はい、お席にどうぞ」

 

 お店について、入口で傘を閉じるのにまごついて遅れて入店すると、私の指とカルマくんの指とを絡めて手を引かれ、なにやらレジで店員さんとやり取りをしてから席に通される。展示してあったお目当てのケーキのポップを見ようとしたら隠されちゃったんだけど、席に届いてからのお楽しみって言うから、彼がそうしたいならそれでいいのかなとスルーすることにした。

 なんだかニコニコと楽しそうな店員さんに席に届けてもらったケーキは、イチゴかな……ピンクっぽさを強調している気はしたけど、甘すぎることもなく美味しくて、大きさもちょうどいい。雨の日限定なのがもったいないくらい、と思ってたらお皿を下げに来てくれた店員さん曰く、「雨でどこにも行けない人達にゆっくりしてもらう為に考えたキャンペーン」なんだそうで……居場所を作ってくれてるんだ、素敵な取り組みだなぁと思う。そうして、ケーキとセットになっている紅茶を飲みながら、2人でのんびりおしゃべりしていた時だった。

 

「……?電話……杉野くんだ」

 

「は、杉野?」

 

「うん、……ずっとコールしてるし、出た方がいいよね……でもお店の中だと迷惑に……」

 

「あー、ならもう会計しちゃってさ、このまま外出ようよ。アミサちゃんは先に行って電話出てればいいから」

 

「え、あ……ありがとう……なら、お金置いとくから、お願いします。……あ、杉野くん?今お店出るから少し待ってて──」

 

「え、俺から誘ったんだからこれくらい奢るからいい、って……もう行っちゃったし」

 

 なかなかコールが止まないってことは大事な連絡かもしれない、けどお店の中で電話するのはマナー違反だからどうしよう……と迷っていれば、カルマくんが会計を受け持ってくれるとのこと。だからお財布から千円札を出して机に置いて、待たせたら悪いしと急いで電話に出ながら店の外に向かう……カルマくん、何か言ってたけど返事できなくてごめんなさい。

 

「…………うん、今お店出たから、いいよ。どうかしたの?」

 

『どうかしたって言うか、……今どこにいんの?』

 

「えっと、駅の近くにある……〇〇カフェってとこ。限定ケーキ食べに来たんだ」

 

『へー、そんなのあるのか……俺も今度神崎さんを誘って……、……じゃなかった、そこなら近いな。あのさ、真尾にやって欲しいことがあって』

 

「やって欲しいこと?私にできることならやるけど……なぁに?」

 

『えーっとな……、……前原の彼女役、やってくんね?』

 

「え、私が前原くんの彼女役……?」

 

「は?」

 

 そこまで聞いたところでカルマくんが会計を終えて追いついてきたみたいで、……ものすごく低い声を出したかと思えば私の方へ早足で近づいてきた。電話の向こうでは杉野くんが『カルマがいんのか!?』とか言いながらものすごく慌ててるのが聞こえるけど……だ、だいじょぶなのかな?

 

「あ、カルマくん。お会計ありがと……足りた?」

 

「十分、後でお釣りも返すね。それよりも、それ、貸して?……はぁ……すーぎーのー?」

 

『わー!悪かったってばカルマ!一応こっちもダメ元で『だから言ったじゃん……僕達と帰らない時点で、アミサちゃんはカルマくんと一緒にいるって』ごめんってば渚!じゃあどうしろって言うんだよ!』

 

「……あのさぁ、そっちで盛り上がってないで分かるように話してくれない?」

 

 スピーカーモードにして私も一緒にくわしく話を聞いてみると、杉野くんたちが下校している途中で前原くんがお付き合いしているC組の彼女さんと歩いているのを見つけたのが最初だったらしい。その彼女さんが実は浮気をしていて前原くんと二股、しかも前原くんを『何かあった時に頼れる用』にキープしていたことが判明。彼女さんの浮気相手はA組の人らしく、浮気をしていた彼女さんが悪いのに「前原くんがE組だから」と逆ギレと正当化で責めてきた……相手(前原くん)の立場がE組、つまり自分よりも弱いからと見下してきたのだという。一方的にやられそうになった時に通りかかった理事長先生にも、助けられたような堕とされたような言い様で仲裁されたんだとか。

 

 ……で、その現場を生徒のゴシップ収集目的で覗き見ていた殺せんせーが「仕返ししましょう」と言い出して、屈辱を与えられた前原くんのために協力できるE組の力を使って屈辱を与え返そうと今に至る、……らしい。

 とりあえず私に電話をかけてきた理由はその仕返し作戦に私の参加を要請したかったんだってことは分かった……理由は分かったのだけど……カルマくんはまだお怒りの様子で……

 

「……で?そこでなんでアミサちゃんに彼女役させる意味があるわけぇ……?」

 

『いやさ、くわしい内容は任せたいとこに関係ないから省くけど、プライドの高い奴らに屈辱を与えたあとに、更に心をへし折るレベルの屈辱を与えるにはそのほうがいいんじゃないかってことに……』

 

「ふーん、なるほどね……そこに至るまでの詳しいことはわからないけど、前原を振った女に対して屈辱を与えた上、新しい彼女の素晴らしさとかそんな彼女へ優しい対応をする前原を振ったことへの後悔をさせたいと」

 

『……お前、今のだけでよく分かったな……そのとーりだよ。ただ、真尾以外に引き受けてくれそうなE組の女子メンバーがいなくてさー……そんで、ダメ元ではあったけど電話したってわけ』

 

「そりゃ、E組女子に片っ端から声掛けてるナンパな奴の彼女役なんて誰でも嫌っしょ。アミサちゃんは、分かってないからこそスルーしてるみたいだけど」

 

 別に、それなら私も手伝ってもいいと思うのだけど……彼女役、は、……そういう感情がわからない私がやっても意味が無いと思うんだけどな……

 

「……大事な友だちのためだもん。私も手伝えるなら協力したい、けど……私、前原くんのことは友だちとして好きだけど、恋愛感情なんて分からないし……いきなり彼女役なんて上手くやれる自信ないよ……?」

 

「てかそもそも俺がさせないけど」

 

『だよなー……いきなり悪かったよ』

 

「…………ならさ、別に彼女じゃなくてもいいんじゃない?」

 

『は?』

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NOside

 

「はあっ、はあっ、ひ、酷い目にあった……」

 

「はぁ、はぁ……もう、なんなのよ……こんな屈辱……っ!」

 

「!……たいへん……っ」

 

 とあるコンビニから、一組の男女が何があったのか疲れきった様子で、よろよろとした足取りで出てきて、軒下に座り込んだ。その姿は雨に濡れ、木の枝が、木の葉が体中について泥まみれで……男女がお互いに険悪な雰囲気を醸し出していることもあってかコンビニの店員やお客さんたちは苦々しい顔をしている。

 何か屈辱的なことでもあったのか……いや、そんな格好でコンビニに駆け込まざるを得なかった時点で何かあったに決まっているのだが、男女は険悪なまま傘をさしてコンビニの屋根の下から出ようかと立ち上がりかけていた。

 

「あのっ……お兄さん、お姉さん、だいじょぶですか……?」

 

 そんな二人におそるおそる声をかける少女がいた。どこか、誰かの面影があり、見知った雰囲気に似ている気がする少女は、金髪に近い茶色のおしりまでありそうな長髪に白いワンピース、薄手の黒いカーディガンを羽織った容姿をしていた。少女は自分のさしていた傘を放り投げる勢いで男女に駆け寄ると濡れるのも気にせずその場に跪き、持っていたトートバッグからタオルを取り出して女性に、一回り小さいハンカチを男性に手渡そうと差し出す。

 

「お姉さん、これどうぞ。……ごめんなさい、大きなタオル、1つしかなくて……お兄さん、小さいけどよければ……」

 

「は、何を……」

 

「……あんたも、私達のことを笑いに来たんでしょ、いらないわよ!」

 

「わ、笑いに来たなんて……そんなつもりはありません!そんなに濡れていては、風邪をひいてしまいますから……それに、お兄さんもお姉さんも綺麗なのに……泥だらけでは、もったいないです。だから……」

 

 そう言って近くにいた男性の方に体を向けてそっと、顔をハンカチで拭う少女……顔を拭うために距離が近づいても少女は気にしている様子がなく、逆に男性の方はいきなり近づけられたキレイめの顔と小さな体に似合わないプロポーションに思わず照れを見せる。

 その光景を止める間もなく見せられた女性はそれに嫉妬したくても、自分のことも純粋に心配する様子を見せる少女に怒るに怒れなくなっていた。

 

「ほら、綺麗に拭けば、かっこいいお顔になりました!お姉さんは今は泥だらけですけど、きっと……綺麗な方なんですよね……かっこいいお兄さんが選んだ方なんですから」

 

「……、……受け取ってあげるから貸しなさいよ」

 

「……!はいっ!」

 

「な、なぁ……俺は瀬尾智也だ。椚ヶ丘中学校のA組で生徒会議長をしてる。……君……その、名前とか聞いてもいいか……?」

 

「私ですか……?私は、」

 

「ま、……ヤッベなんにも考えてなかった……

あー……マオー!」

 

 ニコニコ笑いながらタオルを差し出す少女に、女性は遂に受け取る姿勢を見せた。それに対して花が咲くように笑った少女に、女性は毒を抜かれ、バツが悪そうに髪や顔、服の上からタオルで拭いていく。

 それを横目に男性は、惚けたような顔で名乗った……大抵の女子は『椚ヶ丘中学校のA組(エリート)』というブランドに食いつき、色々といい思いができるという経験則からだ。そして流れで少女についてを聞こうと尋ねたが、少女はそれほど魅力的に感じていないのかキョトンとしている。それでも質問に素直に応えようと口を開いた、ちょうどその時。少女の名前であろうものを呼ぶ男の声が聞こえた瞬間、少女は先程まで以上にパアッと効果音がつきそうなほど嬉しそうな笑顔を見せた。

 

「あ、陽斗くんっ!」

 

「「!?」」

 

 通りの向こうから現れたのは、先程女性との二股云々で、散々罵倒し、蹴倒し、笑いものにしたはずのE組に籍を置いている前原陽斗で。男女にとっては見下すべき、差別の対象だと言うのに……目の前の少女はなんの抵抗もなく、男女に小さく頭を下げると嬉しそうに立ち上がり、傘を閉じて前原に駆け寄った。

 飛びつくように傘へ入ってきた少女の肩を自然と抱き、怪我や汚れがないか──男女を気遣うために膝をついてワンピースの裾が濡れ、黒く変色しているのを見つけて眉を寄せた前原を見て、男性も女性もキッと睨みつけた。それに、前原もすぐに気が付いて少女を自身の後ろに隠す。

 

「は、お前ら……!」

 

「へー……私と別れたばかりなのに早速次の女?心が醜いだけじゃなくて、手も早くて汚いのね」

 

「ほら、君もそんな男なんかを彼氏にしなくても、もっと……一緒にいるべき(ひと)がいるだろ?早く離れた方が君のためだ」

 

 前原一人だったらもっと汚く罵られていただろうが、今は自身が汚れることも厭わずに助け気遣ってくれた少女がそばにいる……その事もあってか少しばかり優しく、男性にいたっては離れるように諭す始末。それを聞いた前原は、何を言っているんだとばかりに怪訝そうに眉を寄せると、ため息をついた。

 

「……何言ってんだよ、こいつは彼女じゃねーし。な、マオ?」

 

「はい!私の名前は、『前原マオ』と申しますっ!陽斗お兄ちゃんの妹なのですっ」

 

「「!!?」」

 

 ニッコリと笑って自身の名前を告げた少女は、たった今、自分たちが見下し罵倒したばかりの前原の妹だという。どこかの指定服でも、椚ヶ丘の制服でもないワンピースを着ていることから、椚ヶ丘中学校ではない中学なのか、かなり小柄な身長からしてまだ小学生なのかはわからない。だが、確かに男女の差からか顔立ちはあまり似ていないものの、髪の色や女性、男性への声のかけ方などは兄妹でそっくりに思えなくもない。

 前原もよくよく見れば少女をかなり気にかけているのか、濡れない様に傘を傾けつつ、また男女の正面に立って何か不都合がないように守ろうとしているところも伺えた。

 

「お前らこそなんだよ、マオにちょっかいかけようとしてんの?」

 

「いや、そんなわけ」

 

「そうだよなー、お前らの言うE組に落ちるようなやつの妹に声なんてかけるわけないわな!マオは男にも女にも優しいから、って……何?お前また勘違いでもさせた?」

 

「え、またってひどい……陽斗くんみたいに誰にでも優しくて、気遣える子になりなさいって言われたの、考えて動いてるだけなのに……」

 

「そうだよなー、お前はそういうやつだよ……分かってて声をかけてる俺はともかく、お前はそれで知らない内に虫を引っつけてくるんだよなぁ……」

 

「「ぐっ……!」」

 

 前原が少女の頭を撫でながら兄妹らしい会話をくりひろげ、何も分かっていなさそうな少女の視界に入らないところで、見ているしかできない男女を軽蔑するような目で見下ろしている。

 その時、通りの向こうからまた一つ少女の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

「……マオー?」

 

「!……え、……あ、か、カルマさんっ!?」

 

「ん、行ってこいよ」

 

 現れたのは前原と同じくE組に属する、成績優秀なくせに素行不良で落とされた、赤羽業。その姿を捉えるやいなや、少女は慌てて前原を伺い、彼が頷いたのを確認しておずおずと赤羽の傘へと入っていった。

 

「……もう、ベタベタじゃん何、傘ささずになんかやってたの?」

 

「えっと、あそこのお兄さんとお姉さんさんがドロドロで……」

 

「だからって自分が濡れてちゃ意味ないでしょ。たっく……マオらしいね」

 

「えへへ……」

 

 前原と同じように傘を傾け濡れないように気遣う赤羽が、そっと少女の手を取り、少女も抵抗せず受け入れる姿をを目撃することになった男女は、驚愕するしかなかった。あんな不良と純粋そうな少女が仲良さげにしているだなんて……

 少女と赤羽は仲が良さそうに話していたかと思えば、手を引く赤羽を止めた少女が男女の方を振り向き小さく会釈……それを確認した赤羽が手を繋ぎ直し、2人は遠ざかっていった。

 

 呆然と見送るしか無かった男女に、前原は爆弾を落とした。曰く、あちらが本当のカップルなんだと。

 

「兄としては複雑だけどさ……あぁ見えてカルマは真っ直ぐな正義感の塊だから。だから安心して任せるんだよ……間違ってもお前らみたいなやつには渡す気は無い。相手が弱い立場だと見るやすぐに平気で見下すやつの元になんてな」

 

 そう言って前原は少しだけ距離の空いた、赤羽と少女の跡を追いかけていった。合流したあとも仲良さげにじゃれ合う三人を見て、男女は更に屈辱感を感じただろう。

 

 あんな最低だと思っていた男に、あんな人を気遣える妹がいたなんて。

 

 心が醜いとまで蔑んだのに、妹に対して優しい兄をしていたなんて。

 

 優しさに惚れかけたのに、既に素行不良とされるやつのものになっていたなんて。

 

 ……これだけではないだろうが、男女は悔しさに唇を噛んで雨の中消えていった三人の方を見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンビニから姿が見えなくなったであろう場所で足を止め、残りの仕返しメンバーに私たちの役割が終わったことを連絡し、3人で安堵の息をつく傍ら……私は被っていた茶髪の長髪ウィッグを外す。久しぶりに腰より長い髪になって、いつもといろいろ違って焦った……顔のメイクは家に帰ってからしっかり落とすとして……演技とはいえ、カエデちゃんに借りた白いワンピースを汚してしまった……カエデちゃんになんて言おう……

 

「……こ、これは……大分上手くいったんじゃね?」

 

「だねー……アミサちゃん、もういいってさ。……大丈夫?」

 

「き、き、……緊張、した……私、失敗してない……?思ったよりも、陽斗くん……、……前原くんが来るまで、怖かったよ……」

 

「下の名前でも言いやすい方でいいぞ。なかなか俺の下の名前呼ぶやついないしな」

 

 そう、私はカルマくんの出した代案である、『陽斗くんの妹』として一芝居打つことになったのだった。殺せんせー監修の仕返しの中身は全く教えてもらえなかったのだけど、私の役割の直前であの瀬尾くんと土屋さんの2人が泥だらけでコンビニのトイレに駆け込むから、そのあとを頼むとだけ言われていた。

 そこで元々杉野くんが私に頼もうとしていた彼女設定をカルマくんが妹設定として脚本をいじり、私だと分からないようにする変装をカエデちゃんと菅谷くんに任せてあの作戦を決行した、というわけだ。

 

 作戦の流れとしては、最初に自分からは名乗らず、とにかく2人を持ち上げてニコニコ対応して、特に瀬尾くんの方には私が可能な限り接近して『心配をしているんです』、という雰囲気を全面に出す。

 次に陽斗くんが合流してからはお兄ちゃんが大好きな妹、それのイメージが難しいのなら陽斗くんの誘導に乗っかればいいという完全に陽斗くんへ負担が大きい無茶振りな指示が出された。陽斗くんは陽斗くんで、私の妹としての名前を決めることを忘れていたため、慌てて普段通り呼んだら違和感がなくてそのままイントネーションだけ変えたらしい。私のファミリーネームが名前でも違和感のないものでよかったと思った瞬間だった。

 

「……それにしても……陽斗くんが来てからもびっくりしたんだけど、なにゆえカルマくん……?」

 

「俺も急に決まって驚いたんだけど……終わったあとに迎えるだけのつもりだったのに、なんで俺も登場してんの?」

 

「いや、俺も知らなかったんだが?……ん、過去チャット見ろ……?……殺せんせーの独断らしいわ」

 

「せんせー……;」

 

「思いついて効果的だったかもだけど、完全に俺らに丸投げすんなよ……」

 

「いやお前らめちゃくちゃ自然だったから安心しろ?」

 

 そして、お互い予定外の登場となったカルマくんはといえば、急遽瀬尾くんの心を折るために投入された、らしい。何かあったらフォローに入れるよう繋げておいた電話で私や陽斗くん、ターゲットの2人との会話を聞いていた殺せんせーが言い出して、急に決まったらしく……事前に説明のなかった私は陽斗くんだけじゃなくてカルマくんまでもがあの場へ登場したことにかなり驚いた。といっても作戦が動き出してからの殺せんせーの思いつきだったから、カルマくんが登場してから先は3人ともアドリブでしかない……よく破綻しないで最後までやりきれたものだと思う。

 思いついた殺せんせー曰く、汚れた姿を見ても幻滅しないでかっこいいと褒め、優しく接する女性が目の前にいれば、瀬尾くんなら隣にいる浮気相手をすぐに罵る今の彼女から絶対になびく。それならその女性と仲が良さそうな男性……しかも彼らが見下す立場(E組)でも下に見れない(成績上位)ようなやつが現れればもっと屈辱的だろう、と思ったんだって。

 

 しばらくそのまま待っていれば、今回の作戦に参加していたメンバーが私たちの元にやってきて、口々に振り返り始める。

 なんか、私とカルマくんが知らないところでは、これまでの暗殺教室(クラス)で学んできた技術を使った壮大な計画だったらしい……渚くんとカエデちゃんと杉野くん、ひなたちゃんと磯貝くんに凛花ちゃんと千葉くん、愛美ちゃんに菅谷くん、桃花ちゃんと陽菜乃ちゃん……お、大所帯だったんだね……。

 

 お互いの健闘を労うのに一段落したところで、私たちの役割にも話がまわって来た。あ、カエデちゃんにワンピースのことを謝ったら、役に立てたんだからよかったと笑って言われてしまった……ほんとに、感謝です。洗って返そう……

 

「それにしても、真尾、お前すごいな……」

 

「?」

 

「あの2人の前に立つ姿も、前原の妹をしてるとこも、カルマと2人でアドリブ演じてる時も全部いつものお前と違って見えたからさ」

 

「んー……あの2人の前では、とにかく優しくするにはどうしようって思って、年下が年上を心配するつもりで接したの。むしろ、1人で立つのが怖かったから……知らない人に接する子どもって見られればいいかなって。陽斗くんは陽斗くんのお兄ちゃんムーブ?っていうのかな……誘導(それ)に乗ればよかったし、カルマくんは、……なんだろ……?」

 

「なんだろって……」

 

「だって事前に知らないでいきなり来たんだもん、心の準備も何もしてなかったし……でもなんか、大好きな人に会えて嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい……みたいな感じ、が、あの時自然と出てきて……カルマくんもサラっと会話を続けて手も繋いでくれたし、恥ずかしかった、けど……だから上手くできた、のかな……」

 

 というよりも私なんかの相手役になってしまったカルマくんには申し訳ないばかりで……彼は私なんかにはもったいない人なのに。言いながらだんだん顔が熱くなってきて……彼らの顔を見ていられなくて下を向くと、そばにいたカエデちゃんと凛香ちゃんに無言で頭を撫でられた。

 

「ま、少しはスッキリしましたかねぇ……汚れた姿で大慌てでトイレに駆け込む、それだけでも彼らには随分な屈辱でしょう。加えて優しくされた女性は見下した相手の妹であり、手に入れようにも自分に勝ち目のない相手と仲がいい……劣等感や後悔、嫉妬までかき立てるとは先生も考えつきませんでした」

 

「えーと、なんつーか……ありがとな、俺のためにここまで話を大きくしてくれて」

 

 話を聞く限り、最初はちっぽけなことが理由だった。でも、E組としてはどんなにちっぽけな理由でも、仲間1人のことでも放っておきたくないという想いがあるからこそ、ここまで大事になったのだと思う。……それに、この3ヶ月でどこまでできるようになったか知りたいって言うのもあったんだろうし。

 

「どうですか、前原くん。まだ自分が弱いものを平気でいじめる人間だと思いますか?」

 

「……いや、今のみんなを見たら、そんなことできないや。一見お前ら強そうに見えないけどさ、みんなどこかに頼れる武器を隠し持ってる。……菅谷の偽装、矢田と倉橋の交渉、奥田の薬学、千葉と速水の狙撃、磯貝と岡野のナイフ術……それに、真尾とカルマのアドリブ力、だな。目立ってたのはこのあたりだけど茅野も渚も杉野も……殺せんせーも、……そこには、俺が持ってない武器もたくさんある」

 

「その通りです。強い弱いはひと目見ただけじゃ計れない。それをこの日の経験で、これまでのE組の暗殺で学んだ君は、この先弱者を蔑む事は無いでしょう」

 

「……うん、そう思うよ、殺せんせー」

 

 吹っ切れたような、晴れやかな笑顔を見せる陽斗くんに、作戦メンバーは自然と顔を見合わせて笑顔になった。最後は殺せんせーらしく授業のようにまとめちゃったけど……だけど、こんな日常の一コマでも学べることはあるんだってわかったから、いいかなって思う。

 

「あ、やっべ。俺このあと他校の女子とメシ食いに行く約束してたわ……じゃあみんな、ありがとな!また明日!」

 

 ……まぁでも、今回の発端である陽斗くんの女癖の悪さは、治りそうにないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、翌日。E組で学んだ暗殺技術を殺せんせー(ターゲット)ではなく間接的にとはいえ一般人に使ったことが烏間先生にバレ、みんなで怒られることになる。

 

 私とカルマくんは計画の殆どを知らなかった上、最後の最後の暗殺技術を何も使っていない部分でのみ関わっていたこともあって、今後このような事がないように、といった厳重注意だけで済んだのだけど……他のみんなは最初から計画を知っていて実行したために、殺せんせーを含めて(というか殺せんせーが悪ノリしたから)雷を落とされたんだとか。

 ……私が計画を聞こうとするたびに、カルマくんが私たちの出番だけを聞こうとしてそれ以外の部分を一切耳に入れなかった理由はもしかしてここにあるのだろうか……?カルマくん、そういうのを察する嗅覚はいいから……;

 

 

 

 





「で、男女限定=カップル限定スイーツを食べに行ったカルマ君……どうだったんだ?」

「チッ、アミサちゃんが軽く言っただけだから忘れてると思ったのに……てか電話の相手杉野だったのになんで前原が知ってんだよ」

「舌打ちすんな。それに関してはホームルーム前のみんながいる中で堂々と誘ったのはお前だろ?」

「あー、……ケーキは美味かったよ。カップルに見せるために……恋人繋ぎだっけ、手も繋いだけど……多分カップル限定だと気づいてない上、遅れてる自分の手を引いてくれたくらいの認識じゃないの……?」

「あー……ありそうな気がするわ……」





「真尾、いろんな意味でほんとごめんな〜」

「だいじょぶだけど……みんな、いきなり過ぎるんだよ……。仕返しの話もそうだし、私の偽名考えてないのもだし、……カルマくんも急に登場するとか……」

「ちなみに、カルマが急に来た時はどう思ったんだ?」

「んーと……なんか優しくて……ううん、いつも優しいんだけど、それ以上に大切なものを見る目って感じで、なんか……は、恥ずかしかった……」

「(カルマ、脈ナシでは無さそうだぞ)」



++++++++++++++++++++



オリジナルの湿気の時間が出来上がりました。
本編だとカルマが参加しない話なので、とばそうとも考えたのですが……なんとなく、オリ主を仕返しに参加させるとしたらこうかな、と。色々オリジナル要素がどんどん出てきて、あ、これは1話書けると思ったのでその勢いで投稿してます。

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