暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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※英雄伝説に出てくる魔物について、
『魔物はセピスを好む』という公式設定から、
『魔物が生まれたのはセピスを多量摂取したせいで動植物が突然変異したため』
というように設定を捏造しています。あらかじめご了承ください。

では、本編へどうぞ!




24話 舞台の時間

 ──欠けた月と星あかりの下、草木も眠る丑三つ時。

 

「……それでね、今日はこんなことがあってね、……」

 

……ふふ、そう。あなたがそっちで楽しく過ごせているみたいで本当によかった。一時期はどうなるかって思ってたけど……今はもう大丈夫みたいね?

 

「ホントはまだ、怖いこともたくさんあるけど……でも……もう、私は独りじゃないよ。……いつか、ちゃんと紹介したいな、お姉ちゃんに……私の、大好きになった人たちのこと……」

 

日曜学校の表面の付き合いだけでもあんなに周りを受け入れなかったのに……あなたも変わった。いつも話に出てくる2人のおかげかしら?

 

「……うん。2人に出会ってなかったら……きっと私は壊れてた。きっと、今はなかったと思う」

 

人って存在そのものを拒絶してたあなたが、見知らぬ土地でそこまで言える人に出会えるなんて、きっと奇跡ね。……私も会ってみたいかな。(あなた)がお世話になってますって言わなくっちゃいけないもの

 

「……あはは、お世話になってるの、全然否定できないや……。そーだ、ねぇお姉ちゃん、もうすぐでしょ?今は追い込みなの……?雑誌、見たよ」

 

……うん。2年ぶりにイリアさんも復活したし、シュリちゃんも前以上に仕上がった。もちろん、私も最高の演技にもっていく……今回の公演は、絶対に成功する。ううん、させてみせる

 

「…………」

 

本当なら1番に見て欲しいけど……さすがにね。でも、1番は無理でも、いつか、絶対観てほしいな

 

「私だって……観たいし、会いたいよ……」

 

……ごめんね、寂しい思いをさせて……もうすぐ、全部終わったら迎えに行けるから

 

「…………うん」

 

一緒に戦ったのにって思ってるかもしれないけど、……どうやっても、あなたしか逃がせなかったの。あなただけならここから離れさせることができたの……恨んでくれていいわ。でも、決して足手まといだなんて思ってないし、あなたの可能性を広げさせてあげたかったの。それは知っていて

 

「……分かってる……」

 

ごめんね……、あ、イリアさんが呼んでる……じゃあ、

 

「……うん、バイバイ。……はぁ……会いたいし、観たいなぁ……」

 

 電話を切って月を見上げる──今はもう、夜空には三日月しか見ることは叶わない……それでも、少女にとって【月】というものは大事な存在を暗示するものだから……眺めながら思い出しその存在と重ね、ほう、とため息を1つついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の放課後。E組の生徒たちが帰宅していく中、ホームルームが終わってからカルマくんと渚くんの2人で1つの読み物を一緒に読んでいて、なにやら盛り上がっている。2人のおしゃべりにいきなり入るのも申し訳ないし、先に帰るとも言いづらいし……あの様子だとすぐに帰ることもないだろうなと判断した私は自分の席でスマホの電源を付ける。

 お気に入りに登録しておいた、電子化した雑誌……私の故郷の中でも1番思い出深い、地元のような場所で主流となっている情報誌であるクロスベルタイムズでは、私お目当ての記事と写真が一面を飾っていた。私は他の記事には目もくれず、ただそれだけをぼーっと眺めていた。

 

『あれ?アミサさん、何を見ているんですか?』

 

「!!ぇ、り、律ちゃん?……あれ、律ちゃんそっちにいるのに、なんでスマホにも……?」

 

『ふふ、ドッキリ大成功です!本体と呼び分けるためにも〝モバイル律〟とお呼びください!』

 

 突然画面の端の方からひょこりと律ちゃんが現れて話しかけてきた。慌てて律ちゃん本体の方を見てみるけど、そっちにも彼女はいるし……むしろ、私の方を向いて笑顔で手を振っている。律ちゃんが2人になっちゃった……!?そう思って1人スマホと律ちゃん本体を見比べて慌てていれば、律ちゃんは『ドッキリ大成功です!』のプラカードを手にネタばらしをしてくれた。

 

 なんでも、E組のみんなとの情報共有を円滑にするため、全員の携帯電話、スマートフォンの中に律ちゃんの端末のデータをダウンロードして、いつでもアクセスできるようにしたらしい。これでみなさんの所へスグに行けますし、データの整理などのお手伝いもできます!と得意げだけど、勝手にやってるらしいからこれからみんなビックリさせられるんだろうな……それに気を付けないと(これは気を付けてもだけど)律ちゃんにはプライベートがバレバレになっちゃうわけで……なんでもありになってきた〝モバイル律ちゃん〟を無言で撫でておいた。

 全面液晶と一緒にタッチパネルも外されちゃって触れ合えなくなってたから、スマホのタッチパネルでやっと触れ合えることに律ちゃんは嬉しそう。これは全部、律ちゃんなりにみんなの役に立とうとした結果だもんね、責めれない……

 

『話を戻しますけど、アミサさんが見ているのって……』

 

「あ、日本の雑誌じゃないよ。私の第二の故郷……みたいな場所の雑誌で……今日、大きなイベントがあるから」

 

『……?出身は、カルバード共和国ってことでしたが……第二の故郷とは?』

 

「……転々といろんな所を回っている中でね、私が1番お世話になって、1番あたたかくて、1番大好きな人たちがいる場所なんだ。これから先、もし、何かあったら……私の帰る場所って、言えるところなの」

 

『なるほど……では、アミサさんがいなくなった時はそこに行けば会えるんですね!』

 

「……海超えるよ?」

 

『データの私でしたらひとっ飛びですから!』

 

 律ちゃんに当たり障りのない部分だけでもと、大切な居場所を説明していると、教室の前の方で静かに動く影が……

 

 ────パンッ

 

 いきなり鳴った1つの銃声が聞こえた方へ目を向けると、そこには教卓の椅子に座って何か本のようなものを広げている殺せんせー……鼻歌を歌いながら機嫌がよさそうな先生に対して、磯貝くんが避けられるとはわかっていても一応エアガンを向けて、一発だけ弾を撃った(暗殺を仕掛けた)音だったみたい。案の定涼しい顔で避けた先生にやっぱりか……くらいの軽い感じに質問だけは重ねていた。

 

「殺せんせー、ご機嫌ですね……っと。放課後(このあと)何かあるの?」

 

「ええ、クロスベルまで舞台を見に行くんですよ」

 

「え、クロスベルって……2年くらい前に大きな事件が起きたっていう……あの、魔都って呼ばれてるクロスベル?」

 

「はい。その事件で故障していたアーティストが復帰する公演らしくて……これは是非見に行かなくては、と」

 

「うそぉ、ズルーい先生」

 

「ヌルフフフ……マッハ20はこういう時のためにこそ使うものです」

 

 磯貝くんだけでなく、莉桜ちゃんやメグちゃん、陽斗くんも集まって殺せんせーに感想を伝えるようにねだっている。その、観ようとしているものは、って……あれ?殺せんせーが開いているもの……すごく見覚えがあるし、誰かも同じのを持っていたような……?

 ふと、カルマくんと渚くんがさっきまでの盛り上がりが嘘のように静かになって殺せんせーの方を見ているのが視界の隅に入る。その渚くんの手に持っているものこそ、殺せんせーが読んでいるものと同じ……クロスベルタイムズだ。それに、開いてる場所って、もしかして……!

 

「……ねぇ、渚君……」

 

「……うん、連れて行ってもらおうよ。DVDになって日本に届くのはもっと先になっちゃうもんね」

 

「そうと決まれば……ごめん、アミサちゃん、待たせといて悪いけど俺ら用事できたから今日別!」

 

 目的地へ行くために教室を出ていった殺せんせーを見て、カルマくんと渚くんの2人がキラキラした目で見つめ……殺せんせーを追いかけて外へ走っていった。

 

 それよりも、私は耳を疑った……帰りが急に別になったことじゃない、殺せんせーが、渚くんとカルマくんが今から行こうとしている場所は……それにこれは……もしかしたら、行けるかもしれないってこと……?

 

「行かなきゃ、私も行きたい……!」

 

『アミサさん、私も行きたいですっ!私もこのままお願いします!』

 

「うん!行こ、律ちゃん!」

 

 こんな機会、もう二度とないかもしれない。それを逃さないためにも私は律ちゃんを連れて、先に出ていった殺せんせーと追いかけたカルマくん、渚くんのあとを追うように校舎の外へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って……!」

 

『私達も行きたいです!』

 

 追いついたのは、ちょうど2人がクロスベルタイムズを広げて殺せんせーを説得している時だった。話を聞くと、渚くんは第1回公演のDVDから集めているくらいのファンで、カルマくんは日本の舞台ではみられない迫力のワイヤーアクションを生で観たいというのが理由らしい。……確かに、あそこの売りはキャストの演技力の高さと、他の追随を許さない正確無比で魅力的な『ジャンプ演技』の数々だ……それこそ主役級となればどんな観客でも魅せられるという。カルマくんも渚くんも、そこに惹かれたのだろうか……?

 

「おや、アミサさんまで……ここまで慌てて追いかけてくるとは、かなりのファンですねぇ」

 

「……ファンだし、どうしても会いたい人がいるから……その、もし、私も連れていってくれるなら……絶対いい思い出ができるっていう保証をします!だから……!」

 

『私は一度殺せんせーのマッハのお出かけ、体験してみたかったんです!カメラの映像が暗殺の参考になるかもしれません』

 

「アミサさん、取って食いやしませんから交換条件なんて必要ありませんよ……まぁいいでしょう。舞台観劇がてら……君達4人に先生のスピードを体験させてあげましょう!」

 

 そう言うと殺せんせーは自身の着ているアカデミックローブをバサりと広げ、視界が一瞬黒くなった……かと思えば、私たちは右からカルマくん、私、渚くんの順に殺せんせーの服の中に入れられていた。先生が大きいから、私たちは首だけを出している感じだ……私は2人より小さいから結構ギリギリになっている気がする。

 

「……あのさ、2人とも……僕等軽い気持ちで頼んだけど、もしかして、とんでもないことしてるんじゃ……」

 

「さぁね〜……そういや身の安全までは考えてなかった。……アミサちゃん、もうちょっと俺の方に寄りなよ埋まってる。腕、掴んでていいから」

 

「う、うん……ありがと……」

 

 若干後悔している2人の声色を聞いていたら、私までなんだか怖くなってきた……そうだよね、私たちの知る移動方法じゃないに決まってるんだから未知の挑戦でしかない。モソモソと服の中を少し移動して殺せんせーの巨大ネクタイを挟んでカルマくん寄りに落ち着く……お言葉に甘えて軽く左腕を右腕で絡めて掴ませてもらった。

 殺せんせーの触手が殺せんせーの服の中で私たちに巻きついて抱えてくれてるとはいえ、真ん中って服の形の都合上頭一つ分以上、下に下がることになるから……いつもの身長差が変わらなかった代わりに落ちそうで怖かったのだ。……1人で飛ぶことにならなくて安心していたが、今度は空いた左手も心許ない……こちらもカルマくんの腕に回してしまおうか。そう思っていたけど、そっと静かに左手を掴まれ、そのあたたかさに顔を上げてみれば渚くんが笑顔を見せてくれた……気づかれてたみたいだ。両手が塞がった私を見て、さりげなく律ちゃんが『私、渚さんの携帯に移動しますので、渚さん外を見せてください!』と言って移ってくれたので、今は渚くんが律ちゃん担当だ。

 

「ヌルフフフフ、ご心配なく……君達に負担がかからないようゆっくり加速しますか……らっ!!」

 

「「うわぁぁああぁあ!!」」

 

『わーーーーーー!!!』

 

「ひゃぁぁあぁっ!!」

 

「っ!?ちょ、当たってるって……!!……忘れてた……腕掴ませるってこういうことじゃん……!!

 

 殺せんせー、まだ話してる途中……!という、心構えができる前に飛び立たれ、私たちは悲鳴をあげていた……私は恐怖というか驚きというか……いきなり過ぎる浮遊感に慌ててすがろうと渚くんの右手を握りしめた上、カルマくんの左腕を思い切り抱え込んで周りを見ないように固く目をつぶっていた。その瞬間にカルマくんが固まったのは、強く抱きしめすぎて痛かったからだろうか……でも、もう少し、落ち着くまではこのままでいさせて、怖い……!

 

 ……揺れが少なくなり動きが安定してきたところで、そっと、閉じていた目を開いたら目の前に広がっていたのは……大きくて青い海。

 

「は、速っや!!」

 

「っ、あっははは!!すっげぇ、もう太平洋見えてきた!」

 

「わぁ……!」

 

 数分……いや、数十秒もかかっただろうか……私たちの真下には既に緑の大地はどこにもなく、ただただ広大な海が広がっていた。それだけのスピードを出しているのに私たちの所へは強い風圧も音もほとんど来ない……それは殺せんせー曰く、先生の頭の皮膚が起こすダイラタンシー現象というものらしくて、身近にある一例として水と片栗粉を使った実験だとビーカーやら片栗粉の袋やらを先生が取り出し、飛行中に授業が始まってしまった。

 律ちゃんはカルマくんに、殺せんせーとせっかく密着しているのに暗殺をしないのか、と薦めていたけど……律ちゃんはバックアップが本体にあるから平気かもだけど、もしここで暗殺とかしたら殺せんせーと一緒に私たちまで海に落ちて死んじゃうよ……!きっとその事すら折り込み済みで、殺せんせーは私たちを連れてきてくれたんだと思う。

 

 最新の防弾チョッキにも使われている技術と同じ現象が殺せんせーの皮膚には起きている、と分かったところで授業が一段落したのか、殺せんせーが話しかけてきた。

 

「まだ少しかかりますよ、大陸がだいぶ離れていますからねぇ……」

 

「そっか、日本のあるユーラシア大陸からゼムリア大陸ってだいぶ離れてるもんね……このペースなら明るい時間には着ける気もするけど……」

 

「そういえば、アミサさんはこちらのゼムリア大陸が出身でしたか」

 

『先程教室で、カルバード共和国で生まれて、クロスベルが第二の故郷だと仰ってましたよね?』

 

「うん。……そうだ、カルマくんと律ちゃんには話せる時に私のことを話すって約束だったよね……せっかくだから今、少しでも話しとこうかな……殺せんせーと渚くんも、聞いてくれる……?」

 

「え、いいの?」

 

「……というか……僕も聞いていい話なの?」

 

「うん、私が知ってほしいから。それに……4人なら教えてもだいじょぶな気がする」

 

「……聞かせてよ、アミサちゃんがずっと抱えてた秘密の1つ」

 

 いつも話したがらない私の身の上話……それをこの場で話すことを良しとするのか確認してくれるカルマくん……。私がみんなと違う世界に生きる者って思われたくないからあんまり言いたくなかったけど……でも、私は私の大事な居場所について特にこの人たちには知っていて欲しいから……それに、知ってなきゃ危ないこともあるし。

 

「私が元々住んでいたゼムリア大陸ではね、日本みたいなガスや電気っていうものは使われてなくて、基本は導力(どうりょく)っていうものがエネルギーなの。一応昔使われてたらしいガソリンと火で動く内燃機関もあるにはあるけど……導力と比べちゃうとだいぶ効率が悪くてほとんど使われてるところを見たことないかな」

 

「聞いたことがありますねぇ……50年前、導力学者エプスタインがもたらした技術革命によって、栄えたと」

 

『インターネット、ではなく導力ネットワークというものがあるんですよね?』

 

「ふふ、律ちゃんなら誰にも負けないくらい独壇場な場所かも。インターネットよりも制限とか緩いだろうし……」

 

『わぁ、ちょっと入ってみたいです!』

 

「律さん、制限が緩いということはウイルスもあるということ。簡単になんでも入り込んでは行けませんよ……勝手にスマホへ自分をダウンロードしてしまうみたいに」

 

『すみません、殺せんせー……』

 

 導力ネットワーク……これは導力端末を通じて莫大な情報を蓄積する、こちらでいうインターネットのようなもの。

 私がゼムリア大陸にいた頃に整備されて間もなく、クロスベルで試験導入されている段階だったから、インターネットに比べればまだまだ荒いもの。ということは、技術者の腕次第ではあるけどハッキング対策も甘ければ、ウイルス対策もまだまだということ……殺せんせーは律ちゃんを心配しつつ、勝手にはやらないよう釘をさしている。

 

「こっちで当たり前に使われてるものが無いなんて……」

 

「じゃあ使われるとしたら?」

 

「導力機関が壊れて、別の電源が必要になった時、とか。全ての機械が導力で動いてるけど、内燃機関で動かないわけじゃないから」

 

「へー……あ、さっき内燃機関が効率が悪いって言ってたよね……じゃあ僕等の住んでる方と比べて、そっちの方が技術がだいぶ進歩してるってこと?」

 

「……エネルギー技術としては、ね。ゼムリア大陸で採れる資源を使っていて、環境問題にもならないし、消費しても時間が経てば自然にエネルギーが充填されるからエコではあるんだけど……問題になっちゃうのはエネルギー資源となってる七曜石(セプチウム)。……それを体に取り込んだり養分にしすぎてしまったりした動植物が魔物化、魔獣化してしまってる事」

 

「ま、魔物って……そっちにはそんなのがいるの……!?」

 

「うん、人の住んでるところ以外にはどこにでも普通にいるよ。……たまに人里に迷い込んでくることもあるけど。整備の行き届いてない地下水路とか、何故か温泉を覗きに来ちゃった魔物とか」

 

「温泉って……覗きって……」

 

「女風呂にしか出ないから、女の人みんなでお風呂に入って誘き寄せたことあるらしいよ」

 

「それはなんとも眼福そうですねぇ」

 

「殺せんせー;」

 

「そんなゲームみたいな……、ゲーム……まさか」

 

「……カルマくんには話したことあるよね、クラフト……私で言うなら《魔眼》とか《水月》とか……これだけじゃないし、導力機関を使って魔法を放つこともできる。これ全部、日本には無い技術だよね。あの場所で生きていくために倒さなくちゃいけない魔物、魔獣がいる……これが私が戦える理由の1つ、かな。もちろん戦えない人だって大勢いるけど、私は進んで身につけたの」

 

 日本との大きな違い……それは使われ発展している技術、そしてその恩恵と引き換えに人間を脅かす存在が生まれ、それらと共存していること。もちろん戦う力を持たずに街の中で普通に暮らしている人はたくさんいるし、お店を経営している人もいれば、安全を守るための警察や民間団体、利用したことはないけど娯楽施設というものもある。つまり、どこの国とも変わらない生活を送っている人がいる中で、戦う人もいるというそれだけのことだ。

 私の立場としては戦わないといけないから身につけた力、というよりも……もっと、違う理由からなんだけど、そこまで言う必要は無いだろうからここでは置いておくことにする。

 

「……戦わなくちゃいけない環境でって、そんな、まるで戦場にずっといるようなものなんじゃ……」

 

「街の中には魔物避けとか対策がされてるから安全だよ。壊れたとしても、専門の技術者だっているし、民間で遊撃士(ブレイサー)っていう気軽に助けを求められる組織もあるの」

 

「やっぱりあるんだ、そういう組織……ん?民間団体?」

 

「うん、公的団体じゃないよ……民間人の安全と地域の平和を守るために、フットワークの軽さが売りで警察組織でも介入できないことに手を出せることもある。だけど、成り立ち上国家権力には手が出せないの」

 

「ま、総じて組織というものは、いろんなしがらみがありますからねぇ。君たち学生というものがある意味1番自由な存在だと思いますよ」

 

「しがらみなくても年齢制限あるじゃん」

 

「親の承認とかも必要なこと多いしね」

 

『私みたいにですか?』

 

「律ちゃんは極論な気もするけどね」

 

「それはそれ、これはこれです」

 

 ピュー、と口笛を吹くように殺せんせーが誤魔化してるけど、カルマくんがツッコミを入れた通り、人というのはどんな立場であっても決まりやいろんなものに縛られていることに違いはない。律ちゃんは(開発者)に逆らって絶賛反抗期真っ最中だから、1番縛られてない存在な気もする。

 

「……とりあえず、危ないのは街の外の舗装されてないところを歩く時くらいだから、今日みたいにクロスベル市内だけが目的なら安心してね。……まぁ、しょっちゅう子どもとか、自分の力を過信して舗装路から外れた人が襲われてたり、ギルドに捜索願いが出てたりするけど」

 

「それはそれでどうなの?みんな分かってるんじゃ……」

 

「……当たり前って、怖いよね。危険でも、当たり前のように存在するから……みんな慣れちゃうんだよ」

 

「!」

 

「慣れちゃうから自分なら大丈夫、いつも通るから大丈夫、そう思っちゃうの。そこから大きな事件に発展することだってあるのに……」

 

「「『……………………』」」

 

 ちょっと、こういう『当たり前に慣れてしまうこと』って、今の椚ヶ丘中学校での状況に似たところあるよね。私がそういう意味を若干滲ませていたのに、彼等は気づいただろうか。

 

「それにね、魔物だって生き物には違いないの。それらを狩って七曜石を取り出してお金に換金して生活している人もいれば、食料にする人もいる……ほら、たまに愛美ちゃんにあげてるアレ」

 

「え、あれってホントに魔物の一部だったの!?」

 

「ねぇ、元の魔物が物凄く見てみたいんだけど」

 

「カルマ君!?」

 

『データだけでしたら、電子的な魔獣手帳なるものから持ってこれるかもしれませんが、実行しますか?』

 

「普及してるものならいいけど、裏取引されてるものが含まれてると怖いからやめとこ?もし襲われたら私が守ってあげるから安心してね、……今は対先生武器しか持ってないからどこまでやれるか不安だけど」

 

「怖い怖い怖い!!」

 

「本ト、アミサちゃんって謎だよね。強いんだか弱いんだか……そこが面白いんだけど」

 

「……素手の格闘では絶対勝てないよ、私」

 

「ふぅん」

 

「というか先生がいるんですから、そもそもそんな危ない目には遭わせませんけどねぇ」

 

「……私的には、殺せんせーが魔獣に間違われないか心配、かな」

 

「にゅやっ!?」

 

 時間的に余裕はあるだろうから魔獣を見せることは可能だけど、今は対先生武器しか手持ちの武器がほとんど無いから危ないところに連れていくわけには行かない……殺せんせーが一緒だから平気な気もするけど。というか、殺せんせーだって見た目だけは魔物のそれだ……多分、向こうでは修学旅行の時みたいに変装してくれるとは思うけど……

 ……それに、一応今の私は一般人の立場……向こうへ行けば一応の自衛手段を持っているけど本腰を入れて戦える訳では無い、守られる側の人間だ。私のことを全部話せるようになるまでは、それ以上のことは……みんなは知らなくていいことだから、言わないでおく。

 

 他にもどんな職業の人がいるのかとか、戦うとしたらみんなどんな武器を使うのかとか、みんな興味津々で……私は答えられるものに答えつつ、あと少しだろう空の旅を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、おしゃべりはこの位にしましょうか……着きましたよ。ここの下が目的地……アルカンシェルです」

 

「……着いちゃった……軽く授業とこっちの情報聞いてる間に……」

 

「……日本を出たのが15時30分くらい、今は……わ、まだ17時になってすらない……」

 

「開演は18時でしたね……席だけ購入して待ちましょうか」

 

「あ、じゃあそれ待つ間に……ほら、かなり前にアミサちゃんが言ってたジェラートのお店、連れてってよ」

 

「ジェラート……あ、ソフィーユさんの?殺せんせー、多分チケット買わなくてもいいから、先にオススメに案内してあげる。……前、先生のイタリアのジェラート、ダメにしちゃった代わりだから」

 

 殺せんせーに人目につかないよう屋根から降ろしてもらい……目的地であるアルカンシェルの建物を見上げる……本当に、来れた……絶対に無理だと思っていたのに、願いが叶ってしまった。

 そして、人間というのは総じて欲張りなもの……もちろん私もそうで、1つの叶わないと思っていた願いがかなってしまえば、もう1つ叶えてみたくもなるもので。人間の姿に変装した殺せんせーがチケットを買いに行こうとするのを引き止めて、私はある場所に案内することに決め、先にカルマくんご希望のジェラート屋さんに連れて行く。

 

 チケットを買わなくてもいいという言葉に不思議そうにしながらもみんなは付いてきてくれて……そして、オススメのジェラート屋さんへ。約2年ぶりに会う割には、ソフィーユさんは私のことを覚えていてくれたみたいで、パッと顔を輝かせておかえりなさいって言ってくれた。……こういう人たちがいるから、私はここを第二の故郷だと思っているし、離れがたく思えちゃうんだ。

 オススメの『氷菓─七彩─』を少しサービスしてもらって殺せんせーたちに手渡す……律ちゃんには申し訳ないけど、ジェラートのレシピを渡す事にした。

 

「これ、ヤバい……かなり美味いと思うんだけど」

 

「達観してる子にジェラート革命って言わせたものだから……一度食べて欲しかったんだ」

 

「これもあの魔物食材使ってるんだよね……これだけ美味しいなら、確かにみんな見た目は気にしないかもね」

 

『このレシピ、この魔物食材を入れ替えたら日本でも作れませんか?』

 

「できるかな……でも似たようなものだしいけるかもしれないね」

 

 やっぱりここでも魔物食材は気になるようで……私としては、日本でも鳥さんとか牛さんとかを解体してそのお肉を食べているのにこっちではそれがありえない、みたいな反応をもらって驚いたのだけど、それは存在しえないものだってことや、見た目のグロテスクさからそう思わざるを得ないってことだったみたい。……見た目のことを言われたら、確かに嫌かもしれないけど。だって元々その辺にいる敵だしね。

 

「それよりも……アミサさん。チケットを買いに行かなくてもいいとはどういうことですか?ただでさえ今日はアーティスト……イリア・プラティエの復帰公演、加えてリーシャ・マオ、シュリ・アトレイドの二大新人を起用したリニューアル公演でもあるということで、並々ならぬ人気だと思いますが……」

 

「だいじょぶだと思う……食べ終わったら、ついてきてください」

 

「「「???」」」

 

 ジェラートを堪能しても、アルカンシェルの開演時間まではまだまだある。だからこそ、サプライズを仕掛けようと考えたのだ……殺せんせーたちと、私の会いたい人たち、両方に。

 

 そして案内した先は、アルカンシェルへ正面から入って入口付近にある、関係者以外立ち入り禁止の場所……慌てる渚くんと殺せんせー、顔には出してないけど止めようと手を伸ばしていたカルマくんを尻目に私は「少し待っててね」とだけ言って支配人と話し始めた……ある人に会うために。

 

「こんにちは、あの────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルマside

 

「もしや、あの時の……!大きくなられましたな。きっとまた今回も…彼女が勧誘すると思いますぞ」

 

「ふふ、私なんかじゃ迷惑になっちゃいますから……私が、ちゃんと答えを見つけられてから考えます。えっと、それで……」

 

 殺せんせーに頼み込んで俺と渚君、アミサちゃんに、……一応俺等のスマホにちゃっかり入っている律の4人は、クロスベルにある劇場『アルカンシェル』に連れてきてもらっていた。この劇場はクロスベルにしかない割には周辺諸国からもかなり有名で、遠く離れた日本でも生の演技は見られなくてもいいからとDVDなどの映像が出回るほどの人気ぶりだ。……かくいう俺もその演技に魅せられた1人で、一度は生で観てみたいと思っていたから、今回はかなり幸せな体験だと思っている。

 

 アルカンシェルはどの公演も満席、立ち見さえ埋まるのは当たり前で、当日券なら殺せんせーが慌てていたように早めに買わなければ入れないと思う。なのに、ここが地元のような所だというアミサちゃんはチケットを買わなくていいなんて言い出して。地元だからこそ、ここの人気はわかってるはずなのに、何を言ってるんだろうと思っていた……支配人らしき人物と親しげに話し出す姿を見るまでは。

 話がついたのか支配人らしき人が奥の出演者の控え室だろう場所へ歩いていくのが見えて……そこで、ふと思い出す。停学中に聞いた彼女のお姉さんの話を……そしてその考えにたどりついてからは早かった。彼女が、アミサちゃんが隠していたことが一つに繋がり始める。

 

「あー……俺、分かったかもしれない……」

 

「え、何が?」

 

「停学中にさ、アミサちゃんのお姉さんのことを聞いたんだよ。そしたら『新聞に乗るくらいの事件の功労者』で『それ以外でも有名人』って教えてくれて。俺でも知ってるかって聞いたら、もう一つヒント貰ったんだ」

 

「ほうほう、そういえば君とアミサさんは停学期間中一緒に暮らしていたとか……その時に?」

 

「そ。それでそのヒントっていうのが『カルバード共和国出身だから、真尾有美紗は本名じゃない。でも、全く違うわけじゃない』ってので……今まで考えてもなかったけど、外国ってさ、苗字と名前が逆じゃん?それを考えてアミサちゃんの名前の順番を単純に変えたら『アミサ・マオ』」

 

「……そーだね?」

 

「確かに『真尾』という苗字は珍しいと思っていましたが……それで、カルマ君は何に気が付いたのですか?」

 

「…………今から俺らが観ようとしてる舞台のアーティストってさ、誰だっけ」

 

「え、誰って……イリア・プラティエと……、……え、も、もしかして…」

 

 順番に説明していけば渚君も殺せんせーも答えにたどり着いたみたいで、バッと関係者入口に立っているアミサちゃんに顔を向けた……その時、タイミングよく控え室だろう場所の扉が開き、1人の女性が飛び出してきた。その人物はアルカンシェルの外に掛かっていた公演の垂れ幕にも大きく載っていた、二大新人の1人……

 

「アミーシャ!?」

 

「リーシャお姉ちゃん、やっと会えた!」

 

「……リーシャ・マオ。……ははっ、こりゃほんとに有名人だ」

 

 

 





「まさか、本当に来てくれるなんて……電話した時に、そんなこと言ってなかったのに」

「えへへ、今日先生が見に行くっていうから連れてきてもらっちゃったの。ビックリしたでしょ?」

「それはもう。……その、先生っていうのが後ろにいる……?」

「うん!大きい人が先生でね、それでね……赤い髪の人と水色の髪の人が私の初めての友だちで、大好きな人たち!」





「う、うわぁ……本物のリーシャ・マオだ……初回公演の時も思ったけど、ホントに綺麗な人……」

「それに、思ったよりアミサちゃんにそっくり……や、逆かな、アミサちゃんがお姉さんにそっくりなのか」

「それにしても……あれ、ステージ衣装ですかね?映像の時はあまり気にしていませんでしたが……際どい」

「「殺せんせー……?」」





「リーシャ、慌てて出ていったけど……あらぁ、妹ちゃん!大きくなったじゃない、……色々と成長しちゃってまぁ」

「イリアお姉さんっ!おひさしぶりです!」

「うんうん、元気でよろしい。後で揉んであげるから触らせなさいよ〜」

「イリアさんっ!そういうのはやめろってあれほど……」





「……イリア・プラティエって、その……」

「結構、舞台のイメージと中身が違うんだけど……」



++++++++++++++++++++



始まりました、クロスベル訪問編!
原作のセリフは少しもらいつつもここから帰るまでは完全オリジナルとなります。次回もクロスオーバーとなり、何人かの軌跡メンバーも登場します。
ここで、少しプロフィールが解禁。オリ主の姉は英雄伝説碧の軌跡、零の軌跡に出てきたリーシャ・マオでした。ほとんど隠せていなかったのでバレバレだったとは思いますが……今後の展開がバレていなければいいかな、と。本名も公開します。



最初の電話のシーンで何を話しているか知りたい方は反転させてみて下さい……話が繋がると思います。

では、次は公演の回です!



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