「えっと、改めて……真尾有美紗って、ずっと名乗ってたけど……本名はアミーシャ・マオ。えっと、……呼びやすい方で呼んでくれればいい、かな」
「これって俺らも自己紹介していい流れ?……あー、と……赤羽業、……です」
「し、潮田渚です、よろしくお願いします!」
『私は自律思考固定砲台、みなさんには〝律〟と呼ばれています!よろしくお願いしますっ』
「私は彼らの中学で担任をしています。殺せんせーとお呼びください」
「確かファーストネームとファミリーネームが逆なんでしたっけ?カルマさん、ナギサさん、リツさんにコロせんせーさんですね。私はリーシャ・マオです……妹がいつもお世話になってます」
「私はイリア・プラティエ……知ってると思うけど、ここのアーティストよ。……赤髪と青髪の坊やたちはアミーシャと同級生なのよね……ということは14、15ってとこかしら?シュリとほぼ同い年じゃない?歳は……」
「イリアさん、自己紹介くらい俺1人で出来る!……シュリ・アトレイド……アミーシャよりも1つ年上だ」
「「(てことは俺ら/僕らよりも年上じゃん……!?)」」
『わぁ、かっこいい女の方ですね!』
「「(しかも女性だった!?)」」
クロスベルに到着して。私が今まで隠していたことの1つ……大陸を越えて世界中で有名である劇団《アルカンシェル》、私がそこの二大大型新人として有名になった1人であるリーシャ・マオの妹であることをサプライズで明かした後、私たちは舞台裏の控え室へ入れてもらっていた。
リーシャお姉ちゃんとイリアお姉さん、あと部屋で待っていたシュリさんが並んで座り、私たちはその向かいのソファに座る形で対面した。殺せんせーだけは体が大きいのと足の触手を隠すためにも、本人は少し渋っていたけど1人だけ足の短めの1人用の椅子に座っている……こうすればアカデミックローブの裾で足を隠せるのだ。
そこで、私はしっかりした自己紹介をしていないということで本当の名前を殺せんせー、カルマくん、渚くん、律ちゃんに告げる。それに続いてカルマくんたちもお姉ちゃんたちに対して名前を告げていき、お姉ちゃんたちも1人ずつ自己紹介していく。有名な人から私たちのために自己紹介してもらうなんて経験、そんなにある事じゃないからかみんな緊張しているみたいだったけど、少し経てばもう空気は軽くなっていた。
「なるほどね〜、それで『真尾有美紗は本当の名前じゃない』ってワケ。俺もやっと納得したよ」
「カルマ君、よく気付いたよね……僕、段階踏んで教えてもらってもわからなかったのに……」
「先生もです……先生なんて、思いっきりリーシャさんの名前を口にしてたのに!生徒のことをまだまだ見れてない証拠ですね……」
『私はアミサさんのデータが一部見つからなかった時点で海外のサーバーにアクセスし、探してはいましたが……まさか、名前を少し変えただけでここまで分からなくなるとは思いませんでした』
「あ、あはは……」
……という、三者三様の驚きと若干の悔しがる感想をそれぞれから貰い、私は苦笑いするしかなかった。イリーナ先生みたいにカタカナの名前そのままで生活することも考えたけど、私の性格上、コミュニケーションが取れるわけもなく確実に浮いてしまうからと、せめて日本の生活に紛れ込めるようにと本名の順番を入れ替え、ありそうな語感にまとめ、漢字を当てたのだ。
それだけの至極単純なことだったから、そんなに気付けなかったことにカルマくん以外から落胆されるとは思ってもいなかった。むしろ私としては隠していたのだからバレていなくて万々歳、だったのだけど。
「……あ、そういえば1回、アミサちゃんと名前のことでそれっぽい話、したことあったの思い出した」
「え……?私、言ったこと無いと思うんだけど……」
「正確には話っていうか考え方?ほら、5月の全校集会の時。俺と出席番号が離れるから、名前と苗字が逆なら女子の1番なのにって言ってたじゃん。普通そんな考えすぐに出ないと思うんだよねー……アミサちゃんが、ファーストネームから始まる名前に慣れてたから出てきた言葉なんじゃない?」
「……あ」
結果的にバレてないけど、結構迂闊だったかもしれない、私。
そうして挨拶も一段落付いた頃、だいぶお互いに会話する余裕が生まれてきた私たちを見ていたお姉ちゃんが、ふと私と目が合ったかと思うとニコリと笑い、カルマくんと渚くんの方を向いて確信したように尋ねた。
「……カルマさんとナギサさんが、アミーシャをここまで明るくしてくれたんですね」
「……?」
「……えっと?」
「お、お姉ちゃん!?」
「ふふ、アミーシャから連絡が来るたびに、必ずお二人の話題が出ますから。特に多いのはカルマさんの名前ですけど……二人とも、こうして会う前から名前だけは知ってたんです。──アミーシャが一度完全に連絡を絶ってしまった時……支え続けてくれたんですよね。姉としてお礼させてください……妹を、アミーシャを見捨てずにいてくれて、本当にありがとうございます」
「……お姉ちゃん……」
そう言ってカルマくんと渚くんの2人に頭を下げるお姉ちゃんを見て、私はようやく悟った……どれだけ私が、お姉ちゃんに心配をかけていたのか、ということを。
6歳くらいの頃からお姉ちゃんとお父さんと一緒にゼムリア大陸の各地を転々として回っていて、お姉ちゃんと同じ訓練メニューをこなしていく毎日をずっと一緒に過ごしてきたんだ。私が自分でついて行くと選んだ道だったとはいえ、5つ歳の離れた私をお姉ちゃんはいつも気にかけてくれていた。
そんな生活以外を知らない環境で育ったから、お姉ちゃんは離れてからも友だちのいたことのない私のことを気にして、いつも連絡してくれていた。なのに、あのE組に落とされた直後、先生や人を信用できなくなった時、私は信じられる相手であるはずのお姉ちゃんにすら繋がりを持つことが怖くて、拒絶してしまって……ひさしぶりに連絡が取れた時に、電話に出たお姉ちゃんがかなり慌てていた理由が全く分からなかったくらい、私は壊れていたのかもしれない。
お姉ちゃんが仕事のためにクロスベル入りするのに合わせてついて行って、とある事件の解決に協力して、クロスベルの動乱に合わせて私は日本に来ることになって……それからお姉ちゃんに会いに来る時以外は離れて過ごしていたのだ。
唯一近況がわかる連絡が途絶えて、どれだけお姉ちゃんを困らせ、心配させていたんだろう……最近の連絡も私の知っている通り穏やかなままだったから、気付かなかった……気付こうともしてなかった。
「……そんな、僕達は偶然アミサちゃんに出会って、それからは守りたい友達として、一緒にいたんです。一緒にいることに意味なんて無い……ただ、大切な友達だから……だから、当たり前なことをしただけです。……ので、あの、頭上げてください!」
「俺は……俺のせいでアミサちゃんを、危険に晒したことがあって……それでも、俺自身が危ない時に正気を保ったままでいられたのも、アミサちゃんがいたからで。……最近は他の理由もできたけど、見捨てる見捨てないとかは関係ない。俺自身が一緒にいたくているんだから、リーシャさんも安心しててよ」
「……そう言ってくれる方達でよかった、ありがとう」
それぞれらしい言葉でお姉ちゃんのお礼を受け取るカルマくんと渚くん。2人が私なんかと一緒にいてくれるのはなんでだろう、なんて、しょっちゅう思ってた。
だけど面と向かってそれを聞くわけにもいかないし、聞いたら2人と気まずくなったりいなくなっちゃったりするんじゃって考えたら、どうしても聞くのが怖くて……気がつけば今までそのままにしてしまっていた。
だけど、友だちと一緒にいることに理由なんて必要なかったんだ。一緒にいたい、それだけでいいんだ。
私が知ろうとしなかった、2つの事実を確認出来てどこかホッとした時、次はイリアお姉さんがにやりと笑う番だった。
「ところでぇ……妹ちゃん?あんたの男はどっちなの?」
「い、イリアさん!?」
「あんた初対面で何聞いてんだ!?」
「……え、イリアお姉さん、〝あんたの男〟って何ですか?」
「何ってそりゃあ、彼氏に決まってるじゃない!大事な妹分の彼氏なら私にだって弟同然だわ……リーシャだって妹の恋人が誰なのかくらい気になるでしょ!?」
「そ、それは……まぁ……」
「……?……??」
あれ、好きな人を聞くって言うのは恋バナ……これって、男子禁制での話題だって修学旅行の時に莉桜ちゃんが言ってなかったっけ……?この場に男の人はカルマくんに渚くんに殺せんせーがいて、この場でペラペラ話していいものかが私には分からない。
お姉ちゃんとシュリさんはイリアお姉さんがいきなり話題を変えた上突飛な質問したことに驚いてるし、何にしても私に彼氏はいないから答えようがないんだけど……
だからとりあえず、いつものように当たり障りのない応えを返しておいたら、イリアお姉さんは「まぁ、アミーシャだしね」と私がそう答えることを予想できていたみたいで、軽く流してあっさりと引いた。イリアお姉さんにしてはグイグイ来ないな……とは感じていたけど後から聞いてくることもなかったから、私は不思議に思いつつもまぁいいかと特に気にもとめないでお姉ちゃんとシュリさんの3人で今回の舞台についての話で盛り上がることにした。
◆
渚side
「……えっ、と……恋のお話は、男の人がいるとこはダメって教えてもらったけど、違うの……?」
「あら、予防線がはられてる」
『アミサさんのクラスメイトの女子のみなさんは、過保護、というやつなんですよ!』
「そんな感じがするな……特に知識に無い部分を聞かせないようにしてるあたり」
「そうねぇ……他人の恋路を暴くような話を男の前でするのはNGだろうけど、個人の感情を話すくらいなら問題ないわよ!」
「イリアさん、それ結局アミーシャの恋路は暴いてませんか?;」
「固いこと言わないのリーシャ。……で?で?」
「……んー……、ドキドキする人はいる、けど……でも、それが全部、恋としての好きっていうわけじゃないん……だよね?友だちとして好き、かもしれない……だったら、私は……好きな人、っていうのは、まだ分からない……かも」
「っ!……はぁ?誰だよ、ソイツ……」
アミサちゃんは最近中村さんを筆頭に何か吹き込まれているのか、カルマくんが自覚した上でアピールするようになったからか、前よりも少しカルマくんのことを意識し始めていると思う。あれだけ前から一緒にいたのに、カルマくんからの無自覚の好意に気付いていなかったアミサちゃんがかなり進歩したとは思うけど、まだアミサちゃん自身の感情は追いついていないみたい。
アミサちゃんが一生懸命話す言葉を聞いていたカルマ君が、明らかにあるワードに反応したのに呆れていたら、律が僕のスマホを点滅させて気を引こうとしているのに気がついた。
『(……渚さん渚さん、今カルマさんが明らかに反応したんですが何故か分かりますか?)』
「(えーっと、文字で打つからキーパッド出してくれる?……ありがとう)」
『(……カルマさんは、アミサさんのことが異性として好きで……ドキドキする人はいるって言ったことに反応した、と。何故ですか?)』
「(好きな人に、自覚できてないとはいえ好きな人がいるかもしれないって知って焦ってるんだよ……心配することないのにね。アミサちゃんが好意を向けてる相手なんて分かりやすいのに)」
『(……なるほど!これが女子のみなさんがよく言ってみえる、気づいてないのは本人だけってやつですね!)』
「(一応カルマ君がオープンにするまでは隠しておいてあげて)」
『(了解しました!)』
律は機械だから、人の感情が分からない。それでも僕等の様子を見て、雰囲気を感じて、学ぼうとしている……今もカルマ君の雰囲気が明らかに違ったことには気づけたけど、情報として何も根拠がないから聞きに来たんだろう。
ちゃんと聞こえないようにプラカードで文字を表示してやり取りするあたり、律もE組に染ってきている感じがする。で、文字でやり取りしているってことは画面が見える人にはやり取りがわかるわけで……僕の隣に座る殺せんせーが頬をピンクに染めてニマニマしてるのが目に入った。そんなにあからさまにしてたらバレるって;
傍から見るとアミサちゃんが好意の感情を一番向けている先はとても分かりやすいし、僕等のやりとりだったり、彼本人の雰囲気の変化だったりでイリアさんにもピンと来たんだろう。
それで、きっと彼女は気付いたんだ……多分このまま追求しても答えが得られないアミサちゃんに聞き続けるよりも、僕達に焦点を絞った方が早いってことに。
「なーんだ自覚なし……つまんないわね。じゃ・あ。坊やたちはどうなの?アミーシャのこと……好きだったりしないわけ?」
アミサちゃんがリーシャさんとシュリさんと一緒に舞台の話で盛り上がり始めたのを見計らって、イリアさんはなんの遠慮もなく切り込んできた。
聞かれて一応改めてアミサちゃんに対する気持ちを整理してみる……好きかどうかなんて、当然好きに決まってるけど、僕にとってのアミサちゃんって、女の子として好きというよりは危なっかしい妹を守りたいっていう感じの、庇護欲に近いんだと思う。だから恋愛対象としての好きではなくて……親愛とか友愛なんだろうなって。
それになにより、僕等にとっては公然の事実があるわけで……イリアさんが聞きたいであろう答えを言いこそしないけど、僕等は一斉に上手いこと話題に入らないよう平静を装っている彼を見る。
「「『…………』」」
「……、……ねぇちょっと、なんで3人とも俺の方を見るの!?」
「いや、だって……ね?」
『先程渚さんから伺いましたし……』
「渚君!?」
「先生ちゃんとメモってますよ?ほらここに、『出会って約2年、自覚したのは修学旅行の夜だった……』」
「ちょ、バッ!殺せんせー!!!」
本人は適当にはぐらかすつもりでいたんだろうけど、殺せんせーも、僕も、律も3人とも彼の恋愛感情を知っているわけで。殺せんせーなんて修学旅行の時にメモってた『男子生徒情報③』とかいう手帳を広げてにやにやして煽ってるし。
……文句を言いつつ慌ててるけど、3人から同時に指摘されたら逃げようがないって言うのはわかってるんだろう……カルマ君はうっすらと顔を赤くして目をそらした。
それだけで十分だったんだろう、イリアさんは「そーかそーか」とに楽しそうにニコニコ……いや、あれはニヤニヤの方があってるかもしれない、そんな顔で立ち上がるとカルマ君の頭をぐしゃ、と撫でた。
「私が言うのもなんだけど、この姉妹って変なとこで天然だから大変でしょ?ま、妹ちゃんもあんたには特別懐いてるのは見ててよく分かるし……応援してるわよ、赤髪君!」
「……………………、あーもう、……はい」
さすがにごまかしようがないと諦めたのか、撫でられたまま顔を真っ赤にして俯くカルマくんを僕達はちょっと生暖かい目で見るしかなかった……今、カルマ君と目が合って睨まれたけど、そんなに顔が真っ赤だと怖くないって。
話の流れで姉のリーシャさんがどの辺で天然かという話題になって、イリアさん曰く……アルカンシェルの稽古をすぐに始めるために家賃が安いからと少しは改善したらしいけどあまり治安の良くない旧市街にあるアパートを即決で借りてたり、今でも危険意識がまるでないまま普通に暮らしていたり、自分が不良に絡まれてるのに気が付かず目の前を素通りしたり、その不良達に容姿のことで邪な目を向けられていても気が付かなかったり。
……これ、家の件以外は全部アミサちゃんもだいたい同じことやってなかったっけ?見た目だけじゃなくて色々と変なところでも姉妹そっくりだった。……これは本気で目を離すのが怖い。同じことをカルマくんも思ったのか、少し赤みの引いた顔で、でもどこか決意した目でアミサちゃんの方を見ている。
その時偶然こちらを見たアミサちゃんとカルマ君の目が合ったのか、アミサちゃんはパチパチと数回瞬きをしたかと思えばカルマくんの顔に手を伸ばして、
「……カルマくん、顔赤いけどだいじょぶ……?私の手、冷たいから……冷やしてあげる」
「だ、だいじょーぶだから……一回離れて、お願い」
…………アミサちゃんはやっぱり天然兵器だと思った僕は、悪くないと思う。
◆
カルマside
「さて、時間もちょうどいいし……そろそろ私たちは舞台入りしますか。……妹ちゃんのことだから、席は取らずに来たんでしょ?」
「うん、前にイリアお姉さんが『あんたはリーシャの妹なんだから関係者席でしょ』って言ってたから。……だから、4人分お願いしたいな〜……って?」
「たっく……もちろんいいけど、次からはちゃんと連絡入れなさいよ?バルサモを案内につけるわ、彼について行ってちょうだい」
「ちゃんと見とけよ、アミーシャ!俺のちゃんとした初舞台……今度こそ、邪魔されずに最後まで踊り切るからな!」
そう言ってイリアさんはアミサちゃんの頭をくしゃりと撫でると控え室から出ていき、追いかけるようにシュリさんも出ていった。出ていく間際にシュリさんの言っていた言葉、これはアルカンシェルのファンの間で有名なイリアさんが故障した、あの事件のことだろう。もうそんな面影が全く見えないくらいしっかりした足取りのイリアさんに、最後まで踊り切るという決意を持ったシュリさん……アルカンシェルの劇団員の人達はまだ、完全にその時の傷は癒えていないだろうに、とても強い人達だと思う。
「アミサちゃん……サプライズってこれ?」
「うん、普通に席取るよりも絶対いいところで見られるよ?関係者席って、必ず確保してあるし、いつでも来なさいってイリアお姉さん言ってくれてたから」
「……いつ?」
「……2年前……?」
「「『はぁ……』」」
……そして、アミサちゃんの言っていたチケットを取らなくても大丈夫っていう意味がようやく分かった……まさか関係者席に座るからだなんて考えてもみなかったって。しかも2年前の約束って……イリアさんが許可してくれなかったら観劇できたか怪しいんじゃない?いつも通りすぎるアミサちゃん節に、思わず揃ってため息が出た。
さっき入口でアミサちゃんに対応していた支配人の人が関係者席に案内すると呼びに来てくれた。そこで他の3人は席を立ったけど、俺はまだ準備があるからと残っているリーシャさんに伝えないといけないことがあるから先に行くよう伝える。
不思議そうに出ていく3人を見送ってリーシャさんに向き直れば、彼女は笑顔で促してくれた。
「お待たせしました、私にお話ですか?」
「……単刀直入に聞くよ。リーシャさんって、アミサちゃんが《魔眼》を使った話は聞いてる?」
「……えっと、どういうことですか?《魔眼》って、……アミーシャにそんなクラフトは……」
「本人曰く、こっちにいるお兄さんが使える空間呪縛のものに近いもの……みたいなこと言ってたけど。俺が見たのとクラスメイトの目撃情報では、存在しない痛みを与えてるみたいだったから、とりあえず《魔眼》って呼ぶって」
「……、……心当たりは、あります。ですがそんなクラフトを使ったなんてアミーシャからは全く……」
「あー、くそ、やっぱり黙ってたか……今までに2回、使ってるんだ。1度目はリーシャさんがさっき言ってた連絡がつかなくなった時期、俺らを捨てた元担任に対して無意識に。2度目は修学旅行の時、その……俺のせいでアミサちゃんが拉致られて……一緒に捕まった女子を助けようとして。後から問い詰めたら使用直後に目が眩しくて見えない、熱い、痛いって副作用みたいなのがあったみたいで……」
「そんなことが……」
「……ゼムリア大陸には日本と違って魔物がいて、それを相手に戦う力を持ってるってことは本人から聞いたんだけど……流石に本トは使えないはずの力を無理やり引き出してたって言うのは伝えとかなきゃって。……あと、……アミサちゃんを、危険に巻き込んで……すみませんでした」
そういって、俺は立ち上がりリーシャさんに対して頭を下げた。頭を下げるなんてこと、ほとんどしたことないけど……アミサちゃんを巻き込んでしまったことを彼女の家族に会えたら、なんとしてでも伝えたかったから……その為だったら惜しくもなかった。
彼女が髪を切ってまで俺を助けてくれた時に、俺が守るって改めて誓ったのに……守れなかったんだから当たり前のこと。
それに、アミサちゃんのことだ……尊敬して目標で大好きだとまで言っていた姉に、心配をかけるようなことは連絡してないだろうとは思っていた。停学中渚君にメッセージを送れるようになったあと、次に連絡を取ったのが彼女の姉だったのに……その時の彼女は〝電話の向こうの心配〟を全く理解できていないようで、ただただ話すことに精一杯で、今日はこんなことがあったというような淡々とした報告ばかりをしてた。
普通、相手が身内なら相手の様子を伺いながら相談やダメだったこともポロッと口にしてもおかしくないのに……多分、無意識に話すことを選んでいたんだと思う。その延長でアミサちゃん自身も分かっていないことだった《魔眼》の使用について伝えることもなかったんだと俺は考えてる。
「……頭、あげてください……教えてくれて、ありがとうございます。それに多分ですけど……アミーシャは巻き込まれたなんて思ってないと思いますよ?」
「……え……」
リーシャさんの言葉に驚いて、反射的に顔をあげると……そこには優しくこちらを見て笑っているリーシャさんがいた。俺は大事な1人の妹を危険に巻き込んだんだから、責められても仕方ないと思っていたのに……降ってきた声はとてもあたたかさを含んでいた。
「アミーシャは6歳の頃から私と父と一緒にいました。幼いのに自分の力を制御するための訓練をこなして、どんなに潰れそうになってもめげずについてきて、そんなあの子を見続けた私たちに懐いて……逆に表面上で付き合いの終わると分かっている相手には全く興味を持たず、溶け込めない、溶け込もうとすらしない、そんな子です。……そんなあの子が、12になって半年くらい経ってから話す話題にいつも出てくるようになった2人の名前……それがカルマさんとナギサさんです」
そこまでは、俺も聞いたことがあった。母親のことは覚えてないくらい父と姉と一緒に過ごしたこと、何をかは教えてくれなかったけど特訓をとにかくこなしていたこと、自分の表面だけを見る人を信じられなくて友達と呼べる人なんて1人もできなかったこと……。
それら全てをひっくるめて全部自分が歩く道だからと、それ以外に分からないからと全てを諦めた顔を俺は見ていた。そんな顔をして欲しくなくて、他の表情が見たくて構いはじめて……隣にいるのが当たり前になって。いろんな顔が見られるようになった時には気が付けばいつの間にか惹かれていて……今ではただ一緒にいたくてそばに居る。
「多分、あの子は一緒にいたいだけ。あの子は寂しがり屋だから……巻き込まれたとかそんなことは関係なく、ただ本当に自分をわかってくれる人と一緒にいたいから、自ら危険に飛び込んでいく……自己犠牲しちゃうところはどうかと思うけど、私はそんな人がやっとアミーシャにもできたんだって分かって嬉しいの。だから、謝らないでほしい……むしろ、アミーシャのことをみてくれてありがとう」
「……リーシャさん」
リーシャさんの言葉がスっと心に入ってくる。アミサちゃんも、俺と同じようにそばにいたいと思ってくれているのかな……それなら、すごく嬉しいんだけど。
「そんな人がそばに居てくれるなら私は安心して
「っ!?は、ぇ、気付いて……?」
「ふふ、こう見えても私、気配とかに敏感なんです。アミーシャは意識がそれてたので聞いてなかったでしょうけど、私はイリアさんとのやり取りも全部見てました。……さぁ、そろそろ観客席へ行きましょう?皆さん待ちくたびれてると思いますから」
最後の最後に爆弾を落とされた……リーシャさんには、アミサちゃんに向けてる感情、はじめからバレバレだったらしい。やっぱりこの人は彼女の姉だ……抜けているように見えるのに、どこか勝てそうにない。
◆
関係者席に座っていると、もうすぐ開演時間だからか客席はほとんど埋まり、立ち見の客もいっぱいになっているらしい。私たちはアーティストの関係者が来た時のためにあらかじめ空けてある席に案内され、カルマくんのことを待っていた。
開演ギリギリになって席についたカルマくんは、「なんていうか、本トにアミサちゃんの姉なんだなって。……敵わないよ」といって、席にもたれていたけどどこかスッキリした様子だった。何を話してきたのかは分からないし教えてくれないけど、カルマくんは話しそうにないし……重要なことならお姉ちゃんが後からいうだろうから気にしない。
「なかなか遅かったですねぇ……ほら、飲み物を買っておきましたから。はいカルマ君の分、こっちがアミサさんのでこっちが渚君の分です」
『私も楽しみですっ!……正面のカメラを舞台に向けてくださいっ!』
律ちゃんはアルカンシェルの劇団員の制服をダウンロードしたのか、画面の中でアーティストになりきってクルクルと回っている。それに殺せんせー、いないと思ってたらいつの間に……そうして飲み物を受け取って前を向く頃には会場の照明は全て落ちていて……開演のブザーが鳴り響く。
【──皆様、お待たせしました。これより、劇団アルカンシェルの新作リニューアル公演の幕を上げさせて頂きます】
────大好きな人たちの演技を、大好きな人たちと一緒に見られるなんて……すごく、幸せだ。
◆
イリアお姉さんの演じる『太陽の姫』は大きく迫力のある豪快で荘厳さのある姫、リーシャお姉ちゃんの演じる『月の姫』はゆったり静かながらまるで本当に月の光を浴びているかのような綺麗な姫、そしてシュリさんの演じる『星の姫』は元気いっぱいで活発な幼い星たちが瞬くような姫……それぞれがそれぞれの個性溢れる演技でとても心がひかれる舞台だった。
殺せんせーなんて、「G……C……Aもなかなか……」って、最初は胸にしか目がいってなかったみたいだけど、途中からはかなり惹き込まれたのか無言で魅入っていたし、他の人たちも何も言えないくらい感動したみたい。
今、私たちは先生たちと一緒に再度先程の控え室に入って帰る前に挨拶をしようと主役3人を待っているところだ。そして、扉が開いた向こう側から……
「あー、久々に出しきったわ!!」
「あ、お疲れ様ですみなさん」
「アミーシャ、見てたか!?俺のジャンプどうだった!?」
「わぁッ!えと、シュリさんのジャンプ、すごく安定してた……リニューアル前まではおっかなびっくりって感じがあったのに、今日のは全部堂々としてて……かっこよかった!」
「へへ、だろー?お前も舞台稽古付き合ってくれよ、また前みたいにさ!」
「……、私なんかじゃ足元に及ばないし、お姉ちゃんほどのことはできないし……そもそもこっちに全然帰って来れないのに」
「何言ってんだよ、リーシャの妹として欲しいんじゃなくて、アミーシャの魅せ方が綺麗なの知ってるからな!」
「!……ありがと、シュリさん」
早速飛び込んで感想をねだってきたシュリさんと髪をかきあげながら笑顔のイリアさん、そして少し頬を上気させながらものほほんとしてるお姉ちゃんがいた。
「メッッチャくちゃ凄かったです!!今回のこれもDVDになるんですよね、絶対買ってまた見ます!」
『撮影OKということでしたので、余すところなく撮らせていただきました!後からアミサさんと共有しますから、客席からの見え方などのフィードバックにも利用してもらえればって思ってます!』
「いやはや……素晴らしかったです、現地まで見に来て大正解でした!生き別れた姉妹の愛情、勢力としての対立、そして第三勢力となる星の姫の登場……アクロバティックな動きとダイナミックな縦の空間横の空間を使った舞台装置、演技の数々……生で見るからこその感動がありました!」
「……この感想戦に混ざるのめちゃくちゃ恥ずいんだけど……、えっと、ワイヤーアクションが有名って聞いてたからさ、どんな風にやってるのか見たかったんだよ。でも、全然分からなかった……全部自然体で、ほとんどあってないようなものじゃない?それを顔に出さず、動きにも出さず表現するのヤバかった、……です」
私たちはそれぞれで感想にならない感想……もはや凄すぎて言葉にならないところが多すぎたそれを伝え、言い足りないところはまた連絡した時までにまとめておく約束をし、明日のことも考えてそろそろこの地を去ることになった。
「妹ちゃん、いつでも帰ってきなさいよ!さっきシュリも言ってたけど、私はアンタをうちにスカウトすること、一切諦めてないからね!いつ見てもプロポーションといい体運びと言いうちに最適な姉妹だわ〜」
「ひゃっ、あ!?い、イリアお姉さんっも、揉まないでください……っ」
「……あとは赤髪君の進展、期待してるわよ〜♡」
「ちょ、は?!」
「あれ、リーシャ姉?」
「私はちょっとアミーシャに持たせるものがあるからお見送りしてきますね」
一応ただの人間設定の殺せんせーに抱えられて飛んでいく姿を見られるわけにはいかないから、アルカンシェルのみなさんとは劇場の中でお別れ……のはずだったんだけど、お姉ちゃんだけは海辺まで着いてきていた。
アルカンシェルから離れたところで渡すってことは、劇場関係者の皆さんには内緒のもの……ってことだよね?そう思ってたんだけど、お姉ちゃんはカルマくん、渚くん、律ちゃん、殺せんせーそれぞれに小声で何かを告げに行って……最後に私のところに近づいてきた。
「アミーシャ、これ」
「……!……これ、私の戦術
「あなた専用に調整された、今、クロスベルで手に入る最新のエニグマ……これとクォーツ、多分回復薬までは必要にならないと思うけど、その他一式、持っていって」
「……、……でも、向こうで使うことなんて……っお姉ちゃん?」
「……日本政府からの【仕事】の依頼……私はアルカンシェルがあるから断ったけど、依頼内容については知ってる……今日一緒に来ていた先生こそが国家機密なんだってことも」
「……!!」
私の疑問とほぼ同時にゆっくりと抱きしめられる……傍から見ればまた離れ離れになる姉妹の別れを惜しむ姿にでも見えるだろう。でも、このタイミング……これはそれだけじゃない。そう思っていれば小声で囁かれた……そうか、お姉ちゃんは本当になんでもお見通しなんだ。周りには聞こえないくらいの小さな声で殺せんせーの正体を知っていることを告げられ、少し驚いたけど同時に納得もした。
「カルマさんに話を聞いたわ。あなたが日本に送ってから、使えないはずのクラフトが使えたって話……やっぱり、覚えてないのよね?」
「……うん、覚えて、ない……けど、……最近ね、知らないはずの場所とか声が思い浮かぶことがあるの……何かは分からないんだけど……」
「……そう。私としてはあんな忌まわしいもの、ずっと忘れていて欲しい……だけど、蓋は開き始めてるような気がする。もしかしたら向き合うことになるのかもしれない」
「…………っ」
「迷って、迷って、それで決めなさい。あなたの選んだ選択なら、きっと後悔しないと思うから……何時でも連絡してね。────いってらっしゃい」
「……いってきます、お姉ちゃん」
そして、私と離れたあと……もう一度、私たちにお辞儀をしてお姉ちゃんは街の中へと帰っていった。その後ろ姿が見えなくなってから、行きと同じように殺せんせーの服の中に詰め込まれて……私たちは日本に向けて飛び立つことになった。
「いやはや……素晴らしかったですねぇ……」
「本当に。アミサちゃんのおかげで本当にすごくいい思い出もできちゃった……」
『アルカンシェルの今回の公演の曲でしたらダウンロードしましたから、いつでも聞けますね!』
「律ちゃん、さすが……今度、私も練習してみようかな……」
「…………」
行きとは違い、授業をしないで感想とかを言い合う空の旅……そんな中、いつの間にかみんなの話題は最後にお姉ちゃんがそれぞれに伝えたメッセージについてになっていた。
「……まさか彼女が、だとは……脅威がひとつ減ったことを喜べばいいのか……」
「……何がですか?」
「あぁいえ、これは先生と彼女だけが分かっていればいいことなので。君達ははどんなことを?」
「僕は、ファンだってことをアミサちゃんが伝えてくれてたから……雑誌にサイン、書いてもらえて。後は、アミサちゃんと一緒にいてくれてありがとうっていう個人的なお礼とか、かな」
『私はアミサさんのエニグマに接続できそうなら解析をしてもいいって許可をもらいました!アミサさんが無理しないよう、いざとなったら私が制限をかけれるように、と。日本にはない技術……解析するのが楽しみです!』
「…………………………」
「……カルマくん?」
色々と盛り上がっている中、カルマくんだけが最後にお姉ちゃんに話し掛けられてからずっと無言だ。気になって呼びかけてみれば、ハッとしたようにこちらを見て、それから私をまじまじと見てからゆっくり口を開いた。
「…………ねぇ、アミーシャが本名なんだよね。そう呼んだ方が嬉しかったりする……?」
「え、それは……私の本当の名前だから……で、でも、アミサって言うのもほとんど響きが同じだから……どっちでもいい、かな」
「……ふーん」
それだけ言うとカルマくんは前を向いて、また無言に戻ってしまった……けど、何かを決めたような感じがあって迷っていたものが吹っ切れたのかな、という気もする。……今の私との会話で、何が吹っ切れたのかとかはかなり謎でしかないんだけども。
「(あの時、リーシャさんに言われた……アミサちゃんは他にも隠し事をしているってこと)」
「カルマさん。1番アミーシャを見てくれてるあなただから……きっと気づいてると思うけど、あの子はいろんなことを隠してしまいがちですよね」
「そりゃあね、あとから知らされることとか結構あるよ」
「多分、あの子はこれからも隠し続けます。隠し事の中には、アミーシャ自身も自分を守るために忘れていて、時限爆弾のように眠っているものがある……それを私の判断で言うわけにはいきません」
「……えっ」
「でも、姉としてあの子の居場所を作ってあげるために……少しだけ。……私達姉妹には本当は歩むべき道があるんです。ずっと昔の祖先から続く、暗くて密やかな道……私達は幼い頃からそれだけのために生きてきたようなものでした。私はある人に諭されて、
「光……」
「重いかもしれないけど、私はカルマさんに期待しているの。あなたがアミーシャにとっての光になれるか……私はここから見守らせていただきますね」
「……やってやろーじゃん」
「……?」
「ふぁ……おはよ、アミサ」
「!……名前……」
「……本当の名前で呼ぼうかなって思ったけどさ、当分は俺が他の奴らに知られたくないし……前の方がいいならやめるけど」
「……、……カルマ」
「!……なーに?」
「……なんでも、ないよ。私もそう呼ぼうかなって」
「ちょ、昨日1日で何があったの!?」
「カルマが積極的だし、お互い呼び捨てになってるし!」
「な、渚!お前昨日あいつらとクロスベル行ったんだろ、何か知らないのか!?」
「あー……アミサちゃんの家族と対面して、カルマ君の好意が応援されて、あと何か直接言われてやる気になってるみたい」
「なるほどわからん。とりあえず、偶然行った外国で家族に会える確率に驚きだわ」
「(まさかアミサちゃんが初めから家族に会う目的で着いてきた……なんて、誰も思わないよね……)」
++++++++++++++++++++
舞台の時間、基、クロスオーバーでした!
今後はカルマとオリ主は呼び捨てで呼び合います。
この作品を書くと決めた上で、クロスオーバーさせるならこの話しかないだろうと大部分を改変させて頂きましたが、どうだったでしょうか?
オリ主の天然っぷりと鈍感さは、書いてたらこうなりました……なんでこんな性格になったんだろう
(作者が、この性格なら飄々としたカルマを振り回せそうだと考えたのが始まり)
また、今回のお話でオリ主はオーブメントを手に入れたので、オーバルアーツ……魔法の使用ができるようになりました。しかし、アーツを使うのに必要なEPを回復する手段がない(回復薬を持って帰らなかったので)……よって、かなり制限される形になります。