アーツ初出しは、リニューアル前だと鷹岡襲来でしたが、よくよく話を見てたらここにも使いどころがあったので改編してます。
詰め込んだ結果、また長くなりました!
ゆっくり読んでください!
殺せんせーにクロスベルのアルカンシェルに連れて行ってもらってから数日。あの日が晴れたのは空の気まぐれだったのか、またしとしとザァザァ雨の降る日に逆戻り……梅雨の時期が明けるのは、もう少し先になりそうだ。
雨の中私は1人、E組教室を目指して傘をくるくると回して雨粒を飛ばしながら山道を登る……どう頑張っても山登りしたら足元とかベタベタになっちゃうから、雨の日は早めに教室に着いておきたいんだよね。
まあまあ激しい雨で前が見えにくいけど、私の前には誰か歩いているようで……黒いカーディガンが見えた時点でやっと誰だかはっきり分かった。私が気づいた位に彼も振り返る。
「ん……?……あ、アミサ」
珍しい、いつもなら遅刻ギリギリばかりなのに、朝一番のこの時間から学校に向かうカルマくんがいるなんて。足を止めて私を待つ彼の近くまで、早足で向かう。
……あの日から、カルマくんは私のことを呼び捨てで呼ぶようになった。
「本当はアミーシャの方が本名だし馴染みがあるだろうからそっちで呼びたいけど、まだ『アルカンシェルのリーシャの妹』だってことを隠してるみたいだし、それを知ってる数少ない人物であるのが気分いいから、せめて日本名の方で呼び捨てにしてみた。いいよね?」
……ってものすごく早口で説明されて、その勢いに私が思わず頷いちゃったのはしょうがないと思う。
でも、カルマくんからはちゃん付けで呼ばれるよりも呼び捨ての方が不思議としっくりきたし、もっと仲良くなれたような……それに、基本苗字を呼び捨てにする彼からの特別な呼び方みたいなのが、なんだか嬉しかった。
カルマくんが呼び捨てにするなら私も、と試しに呼び捨てにしてみたら、一瞬びっくりした顔をしてその後すごく優しい顔で笑うから……それを見た私の心臓が跳ねた気がした。……すぐにおさまったから何が起きたのか、今でもよく分からないけど。
「カルマくん、おはよう」
「…………」
「……ぅ……、……カ、カルマ、おはよう」
「ん、おはよ」
私は呼ぼうとはしてるんだけどどうしても呼び慣れなくて、まだくん付になっちゃうことの方が多いんだけど……そのたびに無言の笑顔で見てくる上に呼び捨てで呼ぶまで返事をしてくれない。前にその事を渚くんに相談してみたら、
「アミサちゃんって、呼び捨てで呼んでる人いないでしょ?初めてが自分だから嬉しいんだよ……あと、絶対見せつけるためだと思う……」
……と言っていて、頑張って呼び捨てに慣れるように励まされた。嬉しいのかどうかは言ってくれないから分からないけど……毎回満足そうに私の頭を撫でるから、カルマく、……カルマとしてはこっちの方がいいんだとは思う。
「そういえば、烏間先生からの連絡聞いた?また転校生って」
「……うん。これって律ちゃん以来の転校生暗殺者……だよね?」
「だろーねぇ……今回は俺らの迷惑になんない暗殺してくれるといいけど」
「迷惑だったら?」
「サボる」
「即答した……」
くるくると傘を回しながら、私たちは雨の中E組校舎へ向かう……今日から新しい
そうそう律ちゃんといえば、リーシャお姉ちゃんから受け取った私の
だけど……次世代の導力器ならデータや画像、映像を送れるらしいけど、私のエニグマって通話機能くらいしかデータ部分はないと思ってたのに、この少しの間でよく入り込めたと思う。……律ちゃんすごい。
「アミサ〜?何ぼーっとしてんのさ、置いてくよ」
「っ!……ま、待って……!」
◆
教室に着いても朝のホームルームになっても、転校生さんのことでみんなどこかザワザワとしていた。ほぼ確実に暗殺者確定の仲間が増えるんだから、殺せんせー暗殺の立派な戦力に……なるんだけど、前例に律ちゃん(というか、私たちのことを全く考えてない開発者)がいるからどうしても警戒してしまう。
そんな空気の中でも自分を殺しに来るのであろう相手に対して、殺せんせーはなぜか歓迎モードだ。
「律さんの時は少し甘く見て痛い目を見ましたからね……先生も今回は油断しませんよ。いずれにせよ、皆さんに
「そーいや律、何か聞いてないの?同じ転校生暗殺者として」
「はい、少しだけ。初期命令では私と『彼』の同時投入の予定でした……」
そう言って彼女が語り出したのは、私たちにとって信じられないようなことばかりだった。
元々は律ちゃんと『彼』が同時投入予定だったのに、『彼』の
このクラスの中で触手を破壊したことがあるのは、私とカルマと律ちゃんの3人だけ……そのうち私とカルマについては協力して2人で仕掛けた結果だ。単独で殺せんせーの指を飛ばした実力を持つ律ちゃんがその扱い……どんな怪物がやって来るというのだろう。
さすがにその話を聞くと殺せんせーの顔は歓迎だけでは収まらず、汗を浮かべて警戒の色が走っている。
────ガラララッ
そして教室に響いた扉を開く音……みんな、慌ててそちらに注目する。だけどそこに居たのは、全身真っ白の装束に身を包んで目もほとんど隠した、少し……ううん、かなり怪しい人だった。
あれが、転校生さん……?その人は無言で手を差し出して───ポン、と音を立てて鳩を出現させた。
「はは、ごめんごめん驚かせたね。転校生は私じゃないよ……私は保護者。まぁ、白いし……シロとでも呼んでくれ」
目、しか見えないけど……いや目もあんまり見えないけど、なんか、胡散臭い笑顔でカラカラと笑う人……シロさんは、これから来る転校生さんの保護者らしい。前触れもなくいきなり来たし、入ってきて早々手品をされてもビックリするしかないと思う。
「まあ殺せんせーでもなきゃ、誰だって……」
そういった渚くんの言葉通りこんな事では動揺しないだろう殺せんせーの方を見てみれば……あれ、教卓の近くの床に服だけ残して、先生の本体がいない?どこに行ったんだろうと思っていれば、視界の端……天井の近くで何かがヌルッと動いたような……あ。
「ビビってんじゃねーよ、殺せんせー!!」
「奥の手の液状化まで使ってよ!!」
「い、いやぁ、律さんがおっかない話するもので……。は、初めましてシロさん。それで肝心の転校生は?」
「初めまして、殺せんせー。ちょっと性格とかが色々と特殊な子でね、私が直で紹介しようと思いまして。はい、おくりもの」
愛美ちゃん作の毒薬を飲んでから使えるようになった奥の手……液状化を使って、シロさんが突然挙げた手による暗殺から逃れようとしたみたい。律ちゃんから聞いた話にビビりすぎだよ……これから暗殺に来ると分かってる相手の関係者に、いきなり手の内を見せちゃうあたりが殺せんせーらしいと言えばらしいのだけど。
そんな殺せんせーは、にゅるんと服の中に戻ってきて元の体を作り直すとシロさんに手渡された羊羹をなんの疑いもなく受け取り、さっそく包み紙を剥がして口に運んでいる。暗殺を疑って逃げたのに、物は受け取るんだ……先生の好きな甘いものだからかな。
……転校生なら烏間先生に連れられてやってくるはず、それなのにその烏間先生は廊下に立って教室の中を見ているだけ。シロさんも自分で転校生さんを紹介するって言ってるし、烏間先生も会ってないのかもしれない……色々と、掴みどころのない人だと思う、このシロっていう人。
「……?」
今、渚くんの席の方を見てた……?あの人目までほとんど隠しちゃってるし、私の席は一番後ろだから余計にうまく読み取れないけど、その辺を見つめて固まってはいる気がする。
「何か?」
「……いや、皆いい子そうですなぁ。これならあの子も馴染みやすそうだ。席はあそこでいいのですよね、殺せんせー」
私が感じた違和感と同じことを感じたのだろう殺せんせーによって、止まっていた動きを戻してぐるりと教室中を見回して言うシロさん。その声色は抑揚もあるし、しみじみという感じが伝わってくるけど……どこか冷たい。
見回す視線が、私や律ちゃんのいるあたりに来たときにまた一度止まったのが気にかかったけど、転校生さんは律ちゃんが『彼』っていうあたり男の子だから、私の左隣が席になる……その彼の座る場所を確認したのと、転校生さんは律ちゃんと同時投入の予定だったって言ってたから、彼女のことを見ていたんだろう。
……だけど、私はシロさんからどこか嫌な雰囲気と先程も感じた胡散臭さを感じて、目を合わせなくてもいいように咄嗟に下を向いた。
「では、紹介します……おーい、イトナ!入っておいで!」
シロさんの声で私は顔を上げて、彼が呼びかけた方向……シロさんが入ってきたドアに注目する──遂に、その姿が見える……!
──────ヒュオッ
その時、私は背後からザァザァ降り続く雨の音以外の音を聞いた気がして、反射的に椅子から立ち上がってカルマの方へと体重をかけた、のとほとんど同時だった。
────ドゴンッ!
「っ!?」
「うわぁっ!?」
「なに!?」
律ちゃんと私の背後にある教室の壁が破壊され、髪が真っ白な一人の男の子が入ってきて……何事も無かったかのように席についた。私はほぼ立ち上がっていたようなものだったから、慌ててカルマくん側に避けることができたから平気だったけど……、そのままでいたらあの壊れた壁の砂埃とか壁の木屑をもろに浴びていたんだと思うと少しゾッとする。
それでも少しは舞っているホコリに咳き込んでいたら、カルマが立ち上がってそっと背中をさすってくれて。慌ててお礼を言って、……立ちっぱなしなのも嫌だったし、息が整ってから椅子だけ持ってカルマの近くに
……転校生さんはというと、俺は教室の壁よりも強いことが証明された、それだけでいい……って確認するようにブツブツ言っている。……私たちが言いたいことはただ一言。
「「「いや、ドアから入れよ!!!?」」」
殺せんせーが真顔でも笑顔でもなく、なんか中途半端なよく分からない表情をして固まってしまうくらい、衝撃的な登場だった、うん。
彼は堀部イトナという名前らしく、シロさんは彼を紹介ついでにしばらく見守っていくみたい。この話が読めない転校生暗殺者さんも、白ずくめの保護者さんも、今まで以上のひと波乱を起こしていきそうだ。
「ねえ、イトナ君……ちょっと気になったんだけど。今、外から手ぶらで入ってきたよね?外、土砂降りの雨なのに……なんでイトナ君、一滴たりとも濡れてないの?」
カルマくんがそう言うのを聞いて彼の姿を確認してみれば、イトナくんが壊した壁から見える景色が白く見えるくらいの土砂降りの雨が降っているのに、どこも濡れていない。
壁の外側に傘を置いてきたとか……ダメだ、彼が入ってきたあたりの屋根は設置されてないから、傘をたたんだ瞬間にびしょ濡れになってるはず。
雨に当たらないようなスピードで駆け抜けてきた……それもダメ、泥はねとかで制服がそこまで汚れてないし、何より人間が殺せんせーのような芸当ができるはずがない。
色々考えてみるけど、カルマの疑問は確かに気になる質問でクラスのみんなも気になるのかイトナくんの方に注目している。その視線を受けて、彼はキョロキョロと教室の中を見ていたかと思えば……椅子から立ち上がって、こっちに歩いてきた。
「……お前は多分、このクラスで一番強い。けど安心しろ……俺より弱いから、俺はお前を殺さない」
そう疑問には全く答えてない答えを言いながら、彼はカルマの頭を撫でる……ふと、隣に座っている私の方を見ると目を見開いた……気がする。そしてそのまま椅子に座る私の顔を覗き込むように顔を近づけてきて、至近距離で目が合って。
「な、……なに……?」
「…………お前、……」
そのまま数秒目が合ったまま静止した彼をビクビクしながら見つめ返していれば、イトナくんは無言で私の頭もそっと撫でた後に離れていった……な、何の意図があって彼がそんなことをしたのかが皆目検討もつかない。彼はそのまま殺せんせーの方へと歩いていく。
「俺が殺したいと思うのは、俺より強いかもしれない奴だけ……この教室ではまず、殺せんせー……あんただ」
「強い弱いとはケンカのことですか、イトナ君。力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」
「立てるさ。だって俺達……血を分けた兄弟なんだから」
「「「!?き、き、き、……兄弟ィィ!?」」」
「負けた方が死亡な……兄さん。放課後、この教室で勝負だ」
衝撃の事実、転校生さんは殺せんせーの弟だった……!?でも殺せんせーはタコ型超生物、イトナくんの見た目は人間……この時点ではそれが本当なのかどうか分からないし、殺せんせーは生まれも育ちも一人っ子だって主張している。……まず殺せんせー、親っているの……?
だけど、少し引っかかることは確かにあった。律ちゃんの言った、『彼の調整に時間がかかった』……調整って、人間相手に使う言葉なのかなって。
イトナくんは放課後に勝負だと宣言して、今度はシロさんと一緒に教室前の扉から廊下へ出ていった。クラスのみんなが殺せんせーを問い詰める中、私とカルマは同じようにイトナくんに撫でられた頭に手を触れていた。私はいきなり撫でられた驚きと、何か言いたそうだった雰囲気から……多分、カルマは困惑。身長が高い分、頭を撫でられた経験なんてほとんどないだろうし、ましてやその相手が自分を確実に下に見ている言動をしていて……経験したことのないものが重なって理解できないんじゃないかな。
「なんだったんだろう……今の……」
「……さーね。ていうか、アミサもなんであんな簡単に撫でられてんの?無防備すぎるでしょ」
「そ、そのままカルマに返すよ、私のは不可抗力だもん……!」
「じゃあ、俺だってそうだよ」
「…………あ、そっか」
「うん」
「「「(殺せんせーと転校生の関係で盛り上がってる中、お前ら呑気だな!?)」」」
「アミサちゃん、そこで納得しちゃうんだ……」
前言撤回、多分、困惑じゃなくて、拗ねてる。カルマの言葉を聞く限り、軽く見られたことからなのか、カルマ自身の頭を撫でられたことに対してなのか、私が撫でられたことに対してなんだとは思うけど……あれ、なんでそこに私が入ってるの?
◆
4時間目の授業が終わってお昼ご飯の時間にイトナくんは教室に帰ってきた……大量のお菓子とともに。すぐ近くの席なわけだし少し見てみたけど、『お昼ご飯』って言えるものが全くなかった……見事にお菓子、お菓子、ジュース、お菓子、ギリギリ食料の栄養食という甘いものだけ。
みなさんとお昼ご飯にしましょう!とかって教卓の方にいる殺せんせーも同じようなラインナップで、余計に兄弟疑惑が加速したことにムズムズと居心地が悪そうだ。焦ったのか落ち着こうとしたのか、殺せんせーは今日ここに来る前に買ってきたらしい、グラビア雑誌……というものを読み始めた……ら、隣でも動く気配が、
「「「(巨乳好きまでおんなじだ!!)」」」
「これは俄然信憑性が増してきたぞ……!そうさ!巨乳好きは皆兄弟だ!!」
「3人兄弟!?」
「わぁ、3人とも読むスピード全く一緒……」
「アミサ、見なくていい」
「凛香ちゃん、なんで……!?」
「「「「なんでも」」」」
サッと立ち上がった岡島くんと、殺せんせー、イトナくんを見比べようとしたら、凛香ちゃんに目を塞がれて止められた上、最後、一緒にご飯食べてたカルマ、 凛香ちゃん、千葉くん、愛美ちゃんみんなに言われたんだけど……!?
と、視界の端っこに雑誌を読むイトナくんの腕がお菓子の山にあたり、1つ机から落ちかけたのを見つけて、反射的にキャッチする……思わず掴んじゃったんだけど、む、無言で戻すのもあれだよね……?お菓子の山と掴み取っちゃったチョコを見比べてから席を立ち、お菓子の山を回ってイトナくんの正面からそっと差し出す。
「……その、イトナくん……お、落ちたよ?」
「……あぁ……、……やる」
「……へ……?あ、ありがと……?」
「…………」
……えっと……貰ってしまった、チョコレート……イトナくんは雑誌を伏せて私の方を見て話してくれてるんだけど、不思議なことに全く目が合わない。何ていうか、服の一点……ネクタイのあたりをジッと見つめているようで……
どこか汚れてたり裏返しになってたりするのかな、とその場でカーディガンをつまんだり、後ろを見ようとくるくる回って確認していると後ろから誰かに肩を掴まれて、そのまま無言で席に連れていかれた。誰か、なんて特徴的な赤髪ですぐに分かったんだけど。
「……カルマ?どうし、」
「だ〜か〜ら〜、無防備すぎるんだってばぁ……」
「え、ど、どうしたの?具合悪いの?」
「真尾、今のはお前が悪い……イトナの奴、ガン見だったしな」
「え、え?」
「ほ、ほら!アミサちゃん、ご飯の残り食べちゃいましょう!?」
無防備だって言ったあとから机に伏せて話さなくなってしまったカルマに焦っていたら、千葉くんには私が悪いと言われ、愛美ちゃんは慌てたようにお弁当の残りを指して私を呼び、凛香ちゃんは、……静かに箸に卵焼きを掴んで私に向けていた。
それはこのまま食べてってことなのかな、と私?と自分を指さして確認すると頷かれたので口を開けると、放り込まれる卵焼き。私の作ったものよりも甘めでふわっとしてて美味しい……え、あの、凛香ちゃん「次は……」って、私のお弁当まだあるよ、なんで凛香ちゃんのお弁当から次のおかず選んでるの……!?
「(速水のあれって……無言だけどあーん、だよな)」
「(まさかイトナ君が見てたのはアミサちゃんの胸だなんて言えないし、意識をそらそうと思いついてやってみたら予想以上にアミサちゃんが素直に食べてくれて、餌付けしてるみたいで楽しくなっちゃったのかもね。アミサちゃん、美味しいもの食べてる時の顔ってホントに幸せそうだから)」
「(俺、デザートにサクランボあんだけど、あーんしたら食べてくれんのかな!?)」
「(アミサちゃんのことだから、なんにも疑わずに口開けそうだけど...…前原君、目の前で「女子だからまぁ許す」みたいな目をして見てるカルマ君が怖くないなら、やってみたら?)」
「(……、……やめとくわ、ガチで殺される未来しか見えねぇ)」
◆
そして、イトナくんが暗殺宣言をしていた放課後。雨も上がってお日様の光が差し込む教室の中では机を使ってリングが作られ、私たちはリングの外から囲み、殺せんせーとイトナくんはリングの中で向き合っていた。イトナくんはおもむろに襟巻きと制服の上着に手をかけると、それらを脱ぎ捨てて殺せんせーをじっと見つめている。
「ただの暗殺は飽きてるでしょ、殺せんせー。ここは一つルールを決めないかい?──リングの外に足がついたらその時点で死刑!……どうかな?」
「なんだそりゃ、負けたって誰が守るんだそんなルール……」
「いや、そうでもないよ杉野。皆の前で決めたルールを破れば
「そういえば、私もみんなの前で言ったからかな。手で食べるお菓子は手で食べてね、っていうの、律儀に守ってくれてる。たまに対先生BB弾の粉末、表面にまぶしてるのに……」
「それ、食えなくね……?」
「触手、弾けながら食べてくれてる」
「マジで律儀だな;」
殺せんせーは、先生であることに誇りを持っている。その先生としての信用を落とすというのは先生自身が許せないことだし、死ぬことと同義だから……このルールもきっと受けるんだと思う。
「……いいでしょう、そのルール受けますよ。ただしイトナ君、観客に危害を加えた場合も失格ですよ」
「では、合図で始めようか……」
案の定受けた殺せんせーは、追加で私たちの安全も加えてきた。こういうことをしてくれるから、この先生は信用できるんだ。それにイトナくんが頷いたのを確認したシロさんが、合図をとるらしい……え、シロさんってイトナくんの保護者なんだよね……?これって実質2対1なんじゃ……
「暗殺……開始!!」
────ザンッ
……その音が響いた瞬間、私たちの目は一箇所に釘付けになった、なるしかなかった。それはいきなり切り落とされた殺せんせーの触手じゃない、驚いて動揺してる殺せんせーでもない、
「イトナくんの髪……触手……!?」
ピチピチと音を立てて蠢くそれは、殺せんせーと同じ触手だった……これでいくつかのことに説明がつく。
カルマくんの疑問だった『どうして手ぶらなのに一滴も濡れていないのか』……全て触手で弾けばすむことだからだ。アルカンシェルから帰ってきてE組校舎から家に帰る途中に律ちゃんが言ってた……私たちの負担にならないよう、風圧、チリ……触手を駆使してそれらを避けていたのを確認した、と。イトナくんだって同じことが出来ても不思議じゃない。
殺せんせーとの兄弟疑惑……殺せんせーが自分のことを話さないからちゃんとした関係とかは説明出来ないけど、何故先生が兄でイトナくんが弟なのかは分かる。同じ触手持ちで先生が先に、イトナくんが後から触手を手に入れたから……
それに私が引っかかっていた『調整』という言葉……あの触手は先天的なものじゃない、植え付けられたものでそれを制御する必要があるから、じゃないかな……
「…………………こだ……」
殺せんせー…?先生の顔が、だんだん黒く……、
「どこで手に入れた、その触手をッ!!!」
殺せんせーの顔が、真っ黒に染まって……これは、ものすごく怒ってる……?ビリビリするような空気に、思わず何かに縋りたくなる……一瞬さ迷わせかけた手を慌てて胸元でぎゅっと握りしめる。何を弱気になってるんだ、私。
「両親も違う、育ちも違う……それでも君達2人は兄弟だ」
見ているだけでも伝わって来る殺せんせーのド怒りに、なんてこともないように話すシロさん。やっぱり私の立てた2つ目の仮説は当たってそうだ。
「しかし怖い顔をするねぇ……何か、嫌なことでも思い出したかい?」
「…………シロさん、どうやらあなたにも話を聞かなくてはならないようだ」
「聞けないよ、死ぬからね」
腕を上げたシロさんの袖口から紫色の光が溢れて、殺せんせーのちょうど後ろくらいにいた私はちょうど真正面からその光を浴びることになった……まぶしい。目を細めながら腕で目を隠すと、すぐ隣で暗殺を見ていたカルマが無言で私の前に立った……もしかして、壁になってくれた……?
すぐに光は落ち着いたようで、カルマのカーディガンの裾を軽く掴みながら横からリングの中を見ると……殺せんせーが、硬直していた。……なんで?こんなの、暗殺するのに絶好のチャンスに、
「この圧力光線を至近距離で照射すると、君の細胞はダイラタント挙動を起こし、一瞬全身が硬直する……全部知っているんだよ。君の弱点は、全部ね」
「死ね、兄さん」
やっぱりイトナくんがこんなチャンスを見逃すはずがなかった。怒涛の攻撃を殺せんせーに仕掛け、数多の触手乱打は先生の体を貫いたかのように見えた。
「殺ったか!?」
「いや……上だ」
「な、なに……あれ……?」
「そーか、真尾とカルマは知らないよな。殺せんせーって、月に1回脱皮するんだ……あの皮は、衝撃を吸収できるくらい強い、それも爆弾の威力も殺すくらい……」
貫かれたように見えたのは殺せんせーの形をした薄い皮……それは杉野くんの話を聞く限り、殺せんせーの奥の手のようだ。殺せんせー自身は天井の蛍光灯につかまって荒い息を整えようとしている。……これ、かなりイトナくんが優勢な状況じゃないかな。だって、そうでしょう?月に一度しか使えない技なのに、この段階で出さざるを得なかった……それだけイトナくんの攻撃に焦りを感じてるわけだ。
「脱皮か……でもね、殺せんせー。その脱皮にも弱点があるのを知っているよ?」
本気で殺せんせーの暗殺をしに来てるイトナくんは先生の息が整うのを待つはずがない。息をつく暇もないくらいの触手をぶつけていく……
「その脱皮は見た目よりもエネルギーを消耗する……よって、脱皮直後は自慢のスピードも低下するのさ。常人からすればメチャ速いことに変わりはないが、触手同士での戦いでは影響はデカいよ」
殺せんせーは防戦一方……反撃をする暇もないくらい、スピードが落ちてるってこと。
「加えて、イトナの最初の奇襲で腕を失い再生したね。
腕1本の再生と脱皮……これだけで互角ってことは、さらに腕を落とされたらどうなるのだろう。
「また、触手の扱いは精神状態に左右される。予想外の触手でのダメージによる動揺、気持ちを立て直す暇もない狭いリング」
殺せんせーはカルマにジェラートを食べられたことに周りが見えなくなって、床にぶちまけられた対先生BB弾に気づけず踏んだ。理事長先生にいきなり投げられた知恵の輪に慌てて自分で自分の触手に絡まってた。……それくらい、テンパるとうまく動けなくなる。
「更には……保護者の献身的なサポート」
また、あの光。一瞬の硬直を見逃さないイトナくんは、先生の脚を更に2本切断した。
「フッフッフ、これで脚も再生しなくてはならないね。なお一層体力が落ちて殺りやすくなる」
「安心した。兄さん、俺はお前より強い」
……殺せんせーがこのE組に来たのは4月、今までに先生をここまで追い詰めた人はいなかった。殺せんせーは地球の爆破を企んでる……だから
……終わり?
何が終わりなの?
殺せんせーを殺さなくちゃいけない、この生活が終わるの?
私たちが殺さなくちゃいけないんだ、暗殺のサポートをしなくちゃいけないんだっていう重圧の日々が終わるの?
……違う、……私たちの、今の、ここでの生活が終わるんだ。
殺される側のはずの先生によって教えられるこの環境……改善した、私たちの学習法の数々……上がった成績……下を見るしかなかった私たちが上を見る、駆け上る意欲……そして、『殺せんせーを殺す』、その殺意で繋がった私たちの絆……それらが全部。
そしてそれが終わったからには『エンドのE組』という、ただの落ちこぼれたちの集まり、劣等感の塊に堕ちるそんな生活に戻るということ。
それに……後から後から出てくる、私たちの知らない殺せんせーの弱点。本当なら、私たちの手でその弱点を見つけて、後からやってきた他人なんかにじゃなくて……私たちの手で、殺したかった。
……私はいつも肌身離さず持っているナイフと、
だけど、暗殺対象を助けるなんておかしなことだし、かといってあっちに加担したくもない。もやもやする気持ちをどうしようも出来なくて、私は唇を噛んで下を向いた。
「脚の再生も終わったようだね……さ、次のラッシュに耐えられるかな?」
「……ここまで追い込まれたのは初めてです。一見愚直な試合形式での暗殺ですが……実に周到に計算されてる。あなた達に聞きたいことは多いですが……まずは試合に勝たねば喋りそうにないですね」
「まだ勝つ気かい?負けダコの遠吠えだね」
「シロさん、この暗殺方法を計画したのはイトナ君では無い。あなたでしょうが……1つ計算に入れ忘れていることがありますよ?」
存外殺せんせーが近くから聞こえて、私は顔を上げる……すぐ、眼の前にいる。ふと、隣を見ると渚くんもナイフを手に持って殺せんせーを見つめていて……あぁ、もしかして。
思いついたことを確認してみようと、私は机の上に対先生ナイフをそっと置いた。
そんな私の行動を不思議そうに見るのは、私の前に立っていたカルマくらいで、他の人はみんなリングの中に注目している。ちら、と殺せんせーがこちらを見た気がした。
「計算に入れ忘れ?……無いね、私の性能計算は完璧だから。──殺れ、イトナ」
────ドドドッ
今まで以上の渾身の一撃が、殺せんせーに襲いかかる。だけど、私はもう心配してなかった……だって。
「おやおや、落し物を踏んずけてしまったようですねぇ〜」
私と渚くんのナイフを先生が床に置いて上にハンカチ、その上に殺せんせーが乗り、イトナくんの攻撃に合わせてハンカチごと移動した……っていうところかな。見事にナイフへぶつけたイトナくんの触手は弾け、彼は相当動揺しているみたいだ。シロさんの入れ忘れた計算……それは、私たちE組生徒の予想外の行動だ。
「先生と兄弟……同じ触手を持つ者同士ということなら、対先生ナイフが効くのも同じ……そして触手を失えば動揺するところも同じです。そして、先生の方が君よりちょっとだけ老獪ですよ!」
触手を破壊されたことで動揺して、動けなくなったイトナくんを殺せんせーの脱皮した皮で包み、先生は皮ごとイトナくんを窓の外へと放り投げる!
「先生の抜け殻で包んだからダメージはないはずです。ですが、君の足はリングの外についている。先生の勝ちですねぇ……ルールに照らせば君は死刑、もう二度と、先生を殺せませんねぇ」
ニヤニヤと笑う舐めた顔色の殺せんせー……形勢逆転、私たちの先生が勝っちゃった。どこかホッとした私は自然と笑顔になって……もう怖くないと掴んでいたカルマのカーディガンから手を離した。
「生き返りたいのなら、皆と一緒にこのクラスで学びなさい。計算では測れないもの……それは経験です。君より少しだけ長く生き……少しだけ知識が多い。先生が先生になったのはね、
「……勝てない?俺が、弱い……?」
あれ、なんだか雲行きが怪しくなってきた……?ザワザワと揺れるイトナくんの触手が黒く染まっていく。殺せんせーの場合、ものすごく怒った時に顔が黒く染まっていた……ということは、イトナくん、キレてる……?
「俺は、強い……この触手で誰よりも強くなった……誰よりも!」
一瞬で窓を吹き飛ばし、窓に足をかけたイトナくん。殺せんせーはこの暗殺で体力的に不安はあるけど、逃げられるだけの力はあるはず。だけど、周りで見ているみんなは……!
考える間もなく、迷わず私は手の中の導力器の蓋を開いていた。
「ガァッ!!」
「っ!エニグマ駆動……
戦術導力器を使った
その即時発動ができるものの中で、私が唯一使えるこのマスターアーツ...…教室全体に不思議な紋様が現れ、私を中心に光が収束し、私の目の前に1枚のタロットカードらしきものが現れた瞬間...…、私が敵認識しているシロさん、イトナくんの目から、
「……な...…にッ!?」
「まさかこれは、発動者以外をステルス状態にする幻属性のマスターアーツ!?君は……ッ?!」
「え、何が起きてるの...…?」
「シロとイトナと真尾以外、みんながうっすらとしか見えなくなった...…?!」
「アミサさん!また君はッ」
「……、フッ、これは仕方がないね」
────ピシュン
マスターアーツを発動し、その場から動けない私の方を見たシロさんは、殺せんせーを含めた私以外みんなの姿が消えた教室に動揺しているイトナくんに腕を向けると、何かを飛ばして……小さな音とともに、イトナくんはその場に崩れ落ちた。
「すいませんねぇ、殺せんせー。どうもこの子は……まだ登校できる精神状態ではなかったようだ。お嬢さんの機転にも助けられたね、危うく標的以外に攻撃してしまうところだったよ」
「……アミサさん、マスターアーツの解除を」
「……もう、危なくない...…?分かった。……みんな、目の前の机を、対先生ナイフで叩いて。移動するだけだとステルスは解除されない……何かを攻撃したり、道具を使うっていう、ステルス外の動きで解除されるの」
「机を……、」
「あ、ホントだ!」
「……よかった、みんなにケガなくて……って痛いっ!」
「あ、本トだ。叩いたら姿がハッキリしたや」
「カルマ、なんで叩いたの……」
「いや、そんなの自分でわかってるでしょ?」
危険が無くなったと判断した殺せんせーにマスターアーツの解除を求められ、私は目の前のタロットカードを破る……その途端、足元の紋様が消え、私の言う通り対先生ナイフで机を叩いたみんなの姿が次々とハッキリしはじめる。
シロさんがイトナくんを俵担ぎにしている中、隣にいたカルマが私の背中をちょっと強めに叩いてきて……そんな私たちの方へ殺せんせーがぷんぷんと怒りながらやってきた。2人が言いたいことはわかってる、だけど、今回に関しては私も譲れないものがある。
「アミサさん!!助かりましたが、何故あのアーツを選んだんです!アレは発動者以外をステルス状態にして姿を隠すことができますが、あなた自身の姿は隠せないんですよ!?」
「だって、殺せんせーは逃げれても、戦闘態勢に入ってなかったみんなは、絶対あんな触手から逃げれない……それに私、マスターアーツはこれしか使えないから……ルール上、イトナくんはもう負けてるんだから、勝手に2対1にしたシロさんが許されるなら、暗殺後に私が介入したって怒られる筋合い、無いもん」
「だからってねぇ!!もし、イトナ君が動けたら標的はあなたになっていたかもしれない!だからカルマ君だって怒ってるんですよ!?」
「「「!」」」
「……私にとっては、みんなが傷つかない方が大事」
「あぁ、もう……」
「……分からずやってんじゃないなら、俺はもういいや」
「カルマ君諦めないでください……」
「え、諦めてないけど?分かっててやったんなら理解してるだろうし、次やるなら俺がフォローに回るから」
「……考えようによっては、先生の気苦労する行動が倍増してますよね?」
「さーね」
私は、今の行動に後悔はない。危ないことをしたとは思ってるから、怒られることもわかってたし、褒められたいともお礼が欲しいとも思わない、ただ、私が譲れないんだ。
いつになく私が譲らないのを見て殺せんせーが頭を抱えている横を通って、イトナくんを抱え直したシロさんが教室の出入口に向かって歩き出した。
「あぁ、殺せんせー?転校初日でなんですが……しばらく休学させてもらいます」
「って待ちなさいシロさん!担任としてその子は放っておけません。1度
「いやだね、帰るよ。力ずくで止めてみるかい?」
教室から出ていこうとするシロさん……彼が暴走していたイトナくんを止めてくれたのはありがたいけど、今日来たばかりでいきなり休学なんて……。
シロさんの言葉通り、止めようとした殺せんせーはシロさんの方に触手を伸ばし……
────パンッ
……触手が溶けた。
「対先生繊維……君は私に触手1本触れられない。心配せずともまたすぐに復学させるよ、殺せんせー……3月まで時間はないからね。」
責任もって私が……家庭教師を務めた上でね。そういって、触手を持った暗殺者と奇妙な保護者は去っていった。
◆
「で、何してんの殺せんせー……」
2人が出ていった後、リングにしていた私たちの机を元に戻している時に殺せんせーは、顔を染めて
「……シリアスな展開に加担したのが恥ずかしいのです。先生どちらかといえばギャグキャラなのに」
「自覚あったんだ!?」
「かっこよく怒ってたね〜……〝どこでそれを手に入れたっ!その触手を!!〟」
「いやあぁぁ!!言わないで狭間さん!!改めて自分で聞くと逃げ出したい!」
綺羅々ちゃんがかっこよくあの時の殺せんせーを真似ているのを見て、殺せんせーが更に真っ赤になってモジモジし始めた。
「掴みどころのない天然キャラで売ってたのに、ああも真面目な顔を見せてはキャラが崩れる……」
「いや、掴みどころのない天然キャラって……いるじゃんもう、掴みどころのないどころか、突拍子もない天然が、E組に」
「そーなの?」
「「「(お前だよ真尾/アミサ)」」」
「律のキャラ被りがどうとか言ってたくせにこっちはいいんかいって感じだよな」
「でも驚いたわ……あのイトナって子、まさか触手を使うなんて」
ずっと、あの暗殺劇を見ていたイリーナ先生がポツリと言った言葉を機に、私たちはちょうどいいとばかりにそれに乗る……先生の正体について。
「ねぇ、殺せんせー……そろそろ説明してよ。先生の正体について……先生の正体、いつもはぐらかされてたけどさ」
「あんなの見せられたら、もう聞かずにはいられないぜ」
「そうだよ、私たち生徒だよ?聞く権利あるよね……?」
何故、触手を持っていることに対してあんなにも怒ったのか。何故、私たちが誰も知らない、防衛省で依頼してきた側である烏間先生すら知らない、殺せんせーの弱点をシロさんが知っていたのか。……何故、先生は生まれたのか……
「仕方ない、真実を話さなくてはいけませんねぇ……実は、先生……人工的に造り出された生物なんです!」
てん てん てん まる。
「だよね」
「で?」
「にゅやッ、反応薄!?これって結構衝撃的な告白じゃないですか!?」
これぞ、衝撃の告白!って勢いで言われたけど、正直予想できていたことだったし全然衝撃でもなくただの事実確認のようなものだった。ので、私たちが知りたいのはその先のこと……予想もつかない、真実の方だ。
「残念ですが、今それを話したところで無意味です。先生が地球を爆破すれば、皆さんが何を知ろうがすべてチリになりますからねぇ……逆に、もし君達が地球を救えば……君達は後からいくらでも真実を知る機会を得る」
……言わない、つもりなんだ。もしくは言えないのかな、……言葉巧みに今、私たちが知ってもどうにもならないって伝えてるように聞こえたよ。
「殺してみなさい、
そう、それが私たちと先生の関係。普通ならありえないはずの縁、それを結びつけたのはまさにそれなのだから。
殺せんせーが恥ずかしがりながらも出ていった教室で、私たちは考えた。私たちは暗殺者……でも、まだまだ未熟で少し訓練を受けただけの、何の力も持ってないに等しい子どもでしかない。私たちだけで、達成できる依頼なわけがない……なら、どうすべきか。
◆
「烏間先生」
「……君達か、どうした大人数で」
「あの、もっと教えてくれませんか?暗殺の技術を……」
「……今以上にか?」
E組みんなで考えついた行動……それは、私たちよりも経験を積んで、知識も豊富な大人に頼ること。頼って、自分たちのスキルアップを目指すことだった。
今までのE組は、『先生という存在を殺してしまいたい』と明確な殺意を持って暗殺に挑んだ私とカルマ以外は、どこか他人事のように暗殺へ臨んでいた。
全員で銃撃をして、誰かの弾で殺せたらいいや。
誰かに任せて、それで殺せたらいいや。
自分がやらなくても、きっと誰かが……って。
だけど、律ちゃんが来て、私たちの教室で私たちへの依頼なのに横取りされるのは嫌だと思った。イトナくんが来て、私たちが殺りたいターゲットなのに今まで接してきたのは私たちなのに後出しのように追い詰めるのは腹が立った。
このままでは、何のためにこの3ヶ月をここで努力してきたのかが分からなくなる……だから、思ったんだ。私たちの担任を自分たちの手で殺して、真実を知りたいって。
「……いいだろう。では、希望者は放課後に追加で訓練を行う……より厳しくなるぞ!」
「「「はい!!」」」
「では早速、新設した垂直ロープ昇降20m、始めッ!!」
「「「厳しッ!?」」」
烏間先生、これ、授業でやる気だったのかな……準備が良すぎる。だけど先生の協力が得られて、私たちはまた一歩先に進んだ気がした。
立ち止まれば、先は全く見えなくても……進めば、道は晴れてくる。そろそろ私たちの教室も梅雨明けだ。
そういえば、烏間先生に呼び出されてたんだった。この訓練終わったら行かなくっちゃ。
「次ッ!」
「はい」
「はぁーい」
「ッ!?真尾さん、赤羽君、降りてこい……」
「「え」」
「お前等、なんだよサラッと昇りやがって!しかも腕だけで昇るとか!」
「えっと……(ここでは初めてやることだけど)できることだったから、できちゃった……?」
「俺元々喧嘩で鍛えてたから腕の力は強い方だしね。アミサ、スカートなんだから下で見てればよかったのに」
「?スパッツ履いてるから、見えてもへーきだよ、ほら……」
「ブッッ!!!」
「岡島が鼻血出したぞ!!!」
「アミサーッッ!スパッツ履いてようがスカートをめくるんじゃありません!!」
「な、なんでメグちゃん怒ってるの……?」
「……この無防備危機感皆無娘……はぁ……」
「……烏間先生」
「来たか。真尾さんの出身はゼムリア大陸だったな。一応オーブメントを見せて欲しい」
「……見せる前に……烏間先生たち防衛省は、殺せんせーを暗殺するために暗殺者の手引きをしているんですよね?」
「……そうだな。日本には暗殺者というのは馴染みがない……怖いか?」
「いえ、むしろ……、……きっと、私として見てくれると信じてますから」
「それはどういう……、!」
「……みんなには、言わないでください。もしも、言う時が来れば……私から」
「……そうか。……俺は真尾さんのことも1人の生徒として扱う。今まで通りだ」
「!!……はい」
「そういえば、カルマと殺せんせーが怒ってなあなあになってたけどさ……真尾のあれって、なんだったんだ?」
「さぁ?」
「あの教室には化け物が……匹。フフ、面白い」