今回は(も)、原作改変する球技大会回!
それを前提にお読みください。
梅雨の時期はジメジメじとじとしていて、空気だけじゃなく、どこか心の中まで暗くなる……そんな事件も何度か起きたけど、明けてしまえばみんなの気分も一緒にカラッと晴れて、だんだん暑くなってきた……もうすぐ、夏になる。
E組教室のある山も、長雨が終わって濃い緑色の葉っぱを揺らしはじめていて……生き物大好きな陽菜乃ちゃんなんて、晴れた空を見ながらこれだけ自然がいっぱいあるから色んな種類の生き物に会える〜、って目をキラキラさせて喜んでたっけ。
いつも一緒に登下校することが多い、いかにもスポーツ少年って感じの杉野くんも例外じゃないみたい。アウトドアの季節だからこそ早く体を動かしたいって、朝、駅前で合流してから中学校の校門をくぐった今でもずっとそう言い続けている。
杉野くんにとって野球が1番でも、それ以外の運動も基礎は軽々こなしていける彼は、これからのことを考えてすごく楽しそうだ。みんなでやるアウトドアか……どんなことができるかな?
「じゃあ、釣りとかどう?」
「いいね、今だと何が釣れるの?」
釣り……確か、私の釣り手帳もこっちに持ってきてたっけ。クロスベルとかリベールには、
日本と
「夏場はヤンキーが旬なんだ。渚くんを餌にカツアゲを釣って、逆にお金を巻き上げよう」
「…………ヤンキーに旬とかあるんだ」
……カルマはやっぱりカルマだった……釣りは釣りでもカツアゲ
「だ、ダメだよカルマ……渚くんを餌にしちゃ……!」
「アミサちゃん……っ!そうだよ、そこにツッこんで欲しかt…」
「渚くんと寄ってきた人を一緒に釣り上げられるような釣竿なんてどこにもないよ、渚くんをすぐに助けられない……!」
「「そこ!?」」
「ぶっ、あははははっ!!着眼点が、アミサらしすぎる……っ!!げほっ、げほっ!」
思ったことを言っただけだったのに、渚くんと杉野くんにすごい勢いでツッこまれ、カルマには大爆笑された……むしろ笑いすぎてむせてる。あれ、それじゃなかったのかな……?
だってカルマは停学期間中によく家を出ていっては大量に戦利品だって持って帰ってきてたことがあったけど、釣竿なんて持って行ってなかったし……私が不良とかナンパとかに絡まれた時にもカツアゲ……でいいのかな、ボコボコにした人たちから「これ迷惑料ね〜」ってもらってくことあったし。
……あれ、これまでのことを考えると、これってむしろ、渚くんじゃなくて私が餌でもつれるんじゃ……女だし、小さいし。
「あー、笑った。……先に言っとくけど、間違ってもアミサは餌にしないから変なこと考えないよーに」
「え……なんで分かったの?」
「俺でもわかったぞ、今の」
「そうそう、アミサちゃんの考えそうなことだからね……って、まずやらないってば!もう普通に遊ぼうよー……海とかさ……」
「お、いいねー!」
「海……、……正直めっちゃ見たいけど男連中の前に連れていきたくないな……」
「もうそれ、どこにも行けないよね……」
「海かぁ……」
クロスベルにいた時、ミシュラムっていう所のビーチにみんなで行ったなぁ……。つかの間の休息って感じで特務支援課のみなさんと、お姉ちゃん含めたアルカンシェルのメンバー、その他お世話になってる人たちと一緒に行ったんだっけ。
ビーチバレーをするお兄さんたちを応援して、砂のお城を作って、ホワイトストーンっていうキレイな石を見つけて……キーアちゃんに次いで年少だったからか、みんなによくしてもらったのが懐かしい。……舞台公演の日にお姉ちゃんたちの無事は確認できたけど、他のみんなは、元気かなぁ……
思考がどこかに行ってしまいそうになった時、ずっと私の前を歩いていた杉野くんが足を止めて後ろにいることに気がつく。見ているのは、ものすごい豪速球を投げる男の人……あれは、
「……杉野くん……?…………」
「お、杉野じゃないか!ひさびさだな!」
「なんだよ、たまには顔出せよな~」
「こんにちは、先輩!」
「……っ、おう!」
「来週の球技大会、投げるんだろ?」
「んー、そーいや決まってないけど、投げたいかな…」
「楽しみにしてるぜ!」
フェンス越しに元クラブメイトと拳を合わせる杉野くんを見て、私とカルマ、渚くんは笑いあった。私たちの友だちである杉野くんの実力を認めて、考えてくれる……それどころかまた顔を出せばいい、楽しみにしているって声をかけてくれる居場所があることが嬉しかったから。
……でも、その後に続いた言葉、自然な会話の流れで吐き出されたそれに、私は身を固くした。
「でも、いいよな杉野は。E組は毎日遊んでられるだろ?」
「俺ら、勉強も部活もだからヘトヘトでさぁ」
「よせ、傷つくだろ……進学校での部活との両立、選ばれた人間じゃないならしなくていいことなんだ」
……E組差別。この人たちは、悪気があって言っているわけじゃない……だって、この人たちにとってはそれが『当たり前』の考え方で、周りも訂正する人なんていない……それを肯定しているんだから。さっきまで仲良さげに対等な立場として声をかけていたのに、今では当たり前の様に杉野くんを下の立場として認識してる……違う、この人たちはE組の杉野くんより、自分たちが上の立場であるのが当たり前なんだって無意識に主張してるんだ。
……杉野くんは、「こいつらはそんなことを言う奴らじゃない」って信じてたんだろう……ハッキリと立場が違うんだと言われて目を見開き、諦めたように下を向いてしまった。
……友だちがそんなことを言われて、そんな様子を見て黙っていられるような私たちじゃない。自分の正義がはっきりしているカルマを筆頭に、私たちは杉野くんたちに近づく。
「へーぇ、すごいね。まるで自分が選ばれた人間みたいだね」
「うん、そうだよ!気に入らないか?なら、球技大会で教えてやるよ……人の上に立つ選ばれた人間とそうでない人間……この歳で開いてしまった大きな差をな」
「……なら、私たちだって教えてあげます。私たちE組に選ばれた杉野くんのすごいところを……あなたたちには無いものを持ってるんだってこと」
「カルマ……真尾……」
「……ふん、流石は異端児か……エンドのE組に〝落とされた〟ではなく〝選ばれた〟とはな。……球技大会、俺らに無いものを見せてくれることを楽しみにしてるよ、杉野」
本当に……それを正しいことなんだって信じてるんだ、この人たち。それを聞いたら私も我慢出来なくて、思わず前に出て言いたいことを言ってしまった……私が声を出した瞬間に一気に視線が集まって体が震えたけど、後悔なんてしてない。まっすぐ相手の顔を、野球部のキャプテンの目を見ながら告げたから、私が本気で言っていることが伝わったんだろう。
彼は、私たちの宣戦布告を真剣に捉えた、馬鹿にしなかった……戯言と受け取らなかった。……あんな言い分を自然と言ってきたのに、それには、正直驚いた。
「……私、あなたたちみたいに立場云々で相手を差別する人は嫌い、……大嫌いです。……だけど、相手の言葉をきちんと受け取るところは好感がもてます。……なんで、みんな差別を当たり前だと思うんだろう……ここじゃなかったら……」
「……行くよ、アミサ」
「…………」
きっと、この学校のシステムが無ければ、この自分が正しいと思うことを信じて相手に伝えようとするところ、真剣に相手の言葉を受け取るところを、私は好きになれただろう。……でも、大事な友だちを傷つける限りは、私は好きになることは無い相手だ。
去り際にそう言い残し、カルマに促されて教室へ向かう私は、私の後ろ姿を野球部のキャプテンが何かを思うように見ていたことに気がつくことはなかった。
◆
そして、ホームルームの時間を利用して『クラス対抗球技大会』のメンバー決め、作戦などを考えることになった私たち。E組はトーナメント戦に出ない……というか出させてもらえない代わりに、大会の最後、バスケットボールと野球、各競技の部活動選抜チームと球技大会の試合が終わったあとの全校生徒の前で対戦しなくてはならない。
部活動で元々真剣にやっている人がクラス対抗戦のチームメンバーに入ってしまうとそれだけで実力差が出てしまうから、5クラスあるせいでトーナメントにすると1チーム余るから、というなんとも言えない理由で本戦から外されたE組と試合して、文武両道の力を示す。
トーナメントで負けたとしてもE組がボコボコに負けるのを見てスッキリ終われる、そしてE組に落ちたらこんな目にあうんだぞという警告……まぁ、とにかくいつものやつだ。
殺せんせーはそれを知らなかったみたいで心配そうにしているけど、私たちは前の自分たちとは違う。
「心配しないで、殺せんせー。暗殺訓練で基礎体力はついてるし……良い試合をして全校生徒を盛り下げるよ、ねー皆!」
「おーう!」
「もち、決まってんじゃん!」
「少しはいいとこまで行くんじゃない?」
「案外勝てちゃうかもね〜」
スポーツ万能、それに指揮能力のあるメグちゃんの音頭にのって、バスケの試合に出る女子たちの士気は上がっている。
一応、エキシビションマッチという名のE組を見世物にする行事とはいえ、E組側から「不公平だ」なんていう反論を出させないための実力差を考えた特別ルールが設けられていたりする。
男子の野球では攻撃と守備の分担が認められていて、女子バスケットボールの場合では試合中に交代が何度でもできる……つまり、疲れた選手と元気な選手を何度も入れ替えてずっと全力を出し続けることも可能ということ。だから、ほとんど未経験のメンバーが集まっていても、勝つ可能性はある、のだけど……
「俺等、さらし者とかカンベンだわ。おまえらで適当にやっといてくれや。じゃあな」
「あ、おい寺坂!……ったく……」
男子の方はといえば、早々に寺坂くん、吉田くん、村松くんが教室を出ていってしまって早速戦力が減ってしまった……3人とも体格がいいのもあって、もったいないとしか思えない。E組の人数は元々少ないから人がいればいるだけ助かるけど、でもやる気がないのを無理に誘えないし、必ず出なければならないわけでもない。野球については3人を除いて挑むしかないみたいだ。
「野球といえば頼れんのは杉野だけど、なにか勝つ秘策とかねーの?」
「……無理だよ、最低でも3年間野球してきたあいつらと、ほとんどが野球未経験の
陽斗くんが空気を変えるように言い出したことで、みんなが杉野くんに注目する……朝のことを引きずっているのか、諦めたように口を開く。いつも明るくて、好きな野球には特に力を入れている杉野くんがほとんど見せない顔で言うほどなのか……そんな空気が少し流れた、時だった。
「だけどさ、殺せんせー……
ぐっと、手に力を込めて自分の思いを言う杉野くん。朝は何も言い返せなくて下を向いていた彼だけど、約3ヶ月をこのE組で過ごしてきて前向きな思いをもつことに慣れてきたような気がする。そして、その思いをちゃんと明かせば……E組の先生たちは必ず協力してくれる。
もちろんその思いを受け止めた殺せんせーは……いつの間にやら早速野球のユニフォームを着込んで、手には色々道具を抱え、ものすごくワクワクしていた。体罰になるから暴力の代わりにちゃぶ台返しって……ドラマでしか見たことないよ、そんな熱血コーチ。
「最近の君達は目的意識をはっきりと口にするようになりました。『殺りたい』『勝ちたい』どんな困難な目標に対しても揺るがずに。その心意気に応えて、殺監督が勝てる作戦とトレーニングを授けましょう!」
生徒の本気の思いなら正面からぶつかって応えてくれる……そんな殺せんせーがあそこまでノッてるなら、きっとだいじょぶ。そう思えるだけの実績がこのクラスにはある……あとは、その殺監督のノリにみんながついていけるかだと思うけど……それも心配ない気がする。
「よし、男子に負けてられないし、女子も作戦考えるよ!私と倉橋さん、矢田さん、中村さん、岡野さんが第1ピリオドから基本出るとして、あとは交代しながら随時様子を見て……」
「……メグちゃん」
「……?どうしたのアミサ」
「……私、E組に来てからは隠してないけど……本校舎にいた時は体育以外で運動してるところ、周りに見せたことないの。それにその体育も、周りに紛れたくてだいぶ手を抜いてて……これって、作戦に使えたりする……?」
「……!それ、ほんと?どんなことができるかによるけど、相手の余裕を崩す一手にはなるかも……」
「私にできること、全部見せるから……男の子の野球だけじゃない、女の子の方も……私、勝ちたい。みんなは、いい所がない人たちじゃないって……証明したい」
「……うん、勝とう。律のサポートを入れてこの14人で」
「……ただ……ルール、全然分からないから……教えて?」
「アミサ;」
「アンタらしいわよほんと;」
◆
その日の放課後から、男の子と女の子に分かれてそれぞれの競技練習が始まった。殺せんせーは杉野くんのやる気に応えようと基本的に男の子の野球を見ているから、女の子の方は烏間先生が監督してくれている……ある意味体育の延長みたいだし、陽菜乃ちゃんが烏間先生が教えてくれることに大喜びしていた。
メグちゃんと彼女が名前を上げていた陽菜乃ちゃん、桃花ちゃん、莉桜ちゃん、ひなたちゃんの5人が中心になって練習することで、第1ピリオドから基本的に出ていくメンバーとの連携を体で覚えていく。バスケットボールはコートに出る全員が活躍できて、全員が得点できるチャンスがある、だからこそ、みんなの体力とか、できる役割とか、交代のタイミングとかも知っておきたいんだって。
「本校舎の人達に運動能力とか諸々を知られてないのは、カエデちゃんとアミサちゃんだから……上手く使いたいよね」
「あ、私はそこまで戦力にカウントしないでもらって……」
「イヤするわよ、あいつらのペース崩すには対策されてない人ってかなり有利になるんだから」
「えぇ……」
カエデちゃんが若干落ち込んでる……サポートに周りたい派らしいカエデちゃんは、協力したいけど多分1ピリオド分も出る体力ないのに〜、と心配みたいで。一応ピリオドごとの交代じゃなくて、適宜OKだから気にしなくてよさそうだけど、カエデちゃんは周りをよく見て気を回してくれる人だから責任感的に落ち着かないのかもしれない。
「んー……とりあえず、茅野さんは交代のつなぎ要員でいこう。それなら長時間じゃないし、上手く妨害にまわってくれれば助かるし」
「ありがとう〜!」
「で、どこでアミサを使うかよね……最初から使うと相手は大会にも出てる選抜メンバーってことは、すぐ対策立てられちゃうだろうからもったいないし……」
「かといっていいタイミングで使わないと、知られてないってよさを使えないよね」
今度は私の立ち位置で悩ませてしまっている。正直バスケットボールは体育の授業で何となくしかやった事ないから、戦力になれるかと言われると……で、私から口出しはできない。
「よし、知らないまま考えてても埒が明かないし、アミサのできることを見てから決めよう。ついでにみんなのも見たいから並んでー!」
「「「はーい」」」
そして始まったのが、バスケットボールで必要になってくるものを一人一人テストのようにやってみることだった。ドリブルから始まり、パス、パスカット、そしてシュート……1つずつ私の動きを見つつみんなも確認した結果、わかったことは。
「……アミサ、バスケのルール通りの正しい動きでやらせると壊滅的なのに、ファウルとかルール違反にならない程度にオリジナルの身体の使い方でやらせると完璧なの、どういうこと?」
「私もわかんない」
謎の結果に終わった。
ドリブルをすると片手でも両手でも、どう地面についてもどこかにとんで行ってしまうくらい、ハッキリ言って壊滅的で。パスとシュートは、バスケットボール本来の投げ方だと上手く飛距離を出して投げられず、狙い通りにいかない。
なのに、片手でボールを持って、持ってない側の肩から反対の外側へ払うように投げると狙い通り、しかもものすごく早く投げられる。パスカットも、メグちゃんやひなたちゃんを相手にやってみた結果、全てのボールに対応できる代わりに味方のいる方へボールを繋げられないことが分かった。
自分から言い出したことではあるけど……これ、本当に役に立てるんだろうか……
「……ごめんなさい、役に立てない気がしてきた……」
「いや、そんなことないから!特殊すぎてどうしようか迷ってるだけだから!!」
明らかに頭を抱えさせて困らせてるから、迷惑にしかなってない……やっぱり後ろに下がってた方が邪魔にならないんじゃないかな……。そう思い始めた時だった。
「あれ、女子休憩中?」
「カルマじゃん、男子の練習は?」
「一段落してみんなぶっ倒れてるから休憩〜。殺監督、300kmの球で練習させようとするから目が疲れてきてさ」
「それ現実の野球選手で投げるやついるの?」
「そんな練習しててカルマ君がぶっ倒れてないのをさすがだと思えばいいのか、手ぇ抜いてんのかってツッコめばいいのか」
「どっちだと思う?」
なぜか女の子チームの練習場所に、疲れを全然顔に出してないカルマがやってきた。様子見に来たとか、かな……みんなといつも通りにやり取りしてるような気がするけど、体運びが重たそうだし手をズボンのポケットから出そうとしない……多分、しっかり練習してきたあとだ。
「で、何揃いも揃って頭抱えてるわけ?烏間先生は?」
「いや、烏間先生も結論出てないのよ、この子の能力のバラつき具合に」
「?それまとめたノート?見せてよ」
メグちゃんが私たちのできることを簡単にまとめている作戦ノートをカルマが受けとり、流し読みし始め……しっかり私のページを見たあとに呆れ顔になった。
「やっぱり、役に立てないよね……こんなバラつきのありすぎる戦力じゃ……」
「いや、らしいなーと思って。これアミサにとってはナイフ投げとか、たまにやってる攻撃防御の時と同じ感覚でやってるやつは上手いってことでしょ?」
「……あ」
「……言われてみれば、確かに」
「てことは、できること以外はやらせなきゃいい。だから試合に出すなら最終ピリオドの初っ端。なんかアミサにしかできなさそうな事やらせて、注目させた以降は絶対警戒されるからパスカット要員させつつ逃げ回らせておけばいい」
「なるほど……いけるかもしれない」
ちょっと見ただけでできそうなことを思いつくカルマはやっぱりすごい。落ち込んでた気持ちが浮上して、他の女の子も一緒に作戦を考え出したところを見つめる。
「じゃあ、その『アミサにしかできなさそうなこと』は何かってことなんだけど」
「んー……例えば、こういうのは?」
「ちょっとカルマ君、アミサの身長わかってる?プロでも殆ど見た事ないよ?身長のあるメグでも多分できないでしょコレ」
「できたとして、フォロー役がいないって。誰がボール出すのよって話」
「流石にこれは……」
「え、アミサならできるでしょこれくらい」
「ボール出してくれたら多分できるよ……?」
「「「……え?」」」
◆
──そして、球技大会当日。体育館ではバスケットボール、グラウンドでは野球の試合が行われていた。
本戦が終わったあとはE組対部活選抜チームのエキシビション……みんな、E組がボコボコにされることを期待していて、自分たちの出番が終わったこともあってか観客の数がかなり多い。
女子のバスケットボールとは違って男子の野球は時間制じゃないから、試合までまだ余裕があるみたいでE組の男の子たちは、みんなで応援に来てくれていた。
私の出番はカルマが提案した通り第4ピリオド……本校舎の人たちは私が運動できるってことを知らないし、ギリギリまで温存して切り札的に使いたいってみんなに言われたから、基本は飲み物を準備したりタオルを渡したりとマネージャー的なことでコソコソしてる。あとは応援かな。
第1ピリオドではとにかくメグちゃんが凄かった……周りが負けを期待する中、1人でバンバン点数を入れていって、ある意味アウェイな空気を思いっきりぶち壊していた。周りからのブーイングもすごいのになんのそのって感じで。他の人たちもバスケットボールはほぼ未経験ながら基礎体力の面では互角に戦えていて、いい流れができている。
……だけど、第3ピリオドの交代で入ったカエデちゃんに何があったのかトラベリングとかのファウルを多く取られてしまい、流れが選抜チームの方に……ピリオド間の短い休憩で戻ってきた彼女は完全に落ち込んでいた。
「ごめんなさい……やっぱ私が足引っ張っちゃった……」
「そんな事ないって、茅野さん」
「女バスのキャプテンのぶるんぶるん揺れる胸を見たら、怒りと殺意で目の前が真っ赤に染まって……!」
「茅野っちのその巨乳に対する憎悪はなんなの!?」
……まさかの巨乳に対する憎悪が原因だった。確かに学校指定の体操服を着ている私たちと違ってバスケ部の人たちは部活で使う公式のユニフォーム……体のラインがハッキリと見える作りだから、大きい人はかなり目立つと思う。
「おーい、女子ー!」
「俺ら、ギリギリまではここにいるけど、第4始まったくらいに移動だから、最後まで頑張れよー!」
「諦めんなよ、全力で盛り下げろ!」
「もちろん!まだ分かんないからね〜っ!」
「こっちにはまだ、……ね!」
「男子こそ、私らがそっちに行くまでにやられんじゃないわよ!」
観客席の方からE組男子の激励が飛ぶ。周囲から浮いたその応援で
もうすぐ休憩が終わる……ここからの第4ピリオドはカエデちゃんと代わって私が出ることになっている。直前まで入念に打ち合わせをしたし、これまでに何度も練習をしてきた。それでも、こういう公の場で自分の力を晒すのは初めてで、どうしても緊張するし、怖い。自分を落ち着けようと一度目を閉じた時だった。
「……アミサ!」
「!」
「……ぶつけといでよ、E組の切り札の力!」
「……うん!」
名指しでされた応援はカルマからのもの。「行け、E組!」って、向けられた拳はE組の男子みんなからのもの。私だけじゃない、みんなへも向けられた応援は力になる……俄然、やる気が出てきた。
上着を脱いでカエデちゃんに預け、先にコートへ入って待ってるメンバーの元へ歩いていく。
「え、相手の交代、異端児じゃん……マネージャー役じゃなかったわけ?」
「あいつ一緒のクラスだったけど、体育あんまり成績良くなかったよ」
「こんなののどこが切り札よ、笑わせるわ」
──だいじょぶ。もう、怖くないよ。だから、私は相手チームに向けて笑ってみせた。
◆
片岡side
第4ピリオド開始の挨拶のために私たちはコートの中央で相手チームと向かい合っている……相手は私たちに色々言ってきているけど、審判は相手の味方だから注意しないし止めることもしない。
ちら、と端に並んでいるアミサを見てみると、周りの声をちっとも気にもしないで目を閉じているのが見えて、少しほっとした。
アミサは今回、ゲームの中心であるポイントゲッターに置いたわけじゃない。むしろ、彼女を相手に警戒させて他への目を逸らさせるのが目的だ。
彼女をバスケのチームに組み込むにあたってカルマだけじゃなく渚たちに話を聞いたら、アミサは本校舎時代から見学したり明らかに今より本気を出さずに参加していたらしく……渚は、目立つことで反感を買って、また周りを拒絶しないかってかなり気にしていた。
……それなのに、人一倍彼女を大切にしているカルマはあまり心配していないようだった……「アミサが今まで自分を出して提案することなんてなかったから」って。今の様子を見ていれば、本当に心配は杞憂だったみたい……笑ってる。
────ピーッ
試合開始の笛がなる。
その音と同時にボールが上がる。
相手は交代なしだからだいぶ消耗してて、ジャンプボールは問題なく私が取れるのは計算通り。中村さんが取ったボールを私に戻してきて、相手のバスケ部がこのピリオド前と変わらずすぐに迫ってきた。
私は手に持ったボールを近くの自チームメンバーにパスすることなく、中村さんがボールを取った瞬間に静かに走っていたあの子に向けて……相手ゴールに向けて思い切り投げた。
────ガゴンッ!
……トーン、トン、トン、トン……
……その音が鳴り響いた瞬間、体育館の音が全て消えた。何が起きたんだろうって。
誰も予想できなかったはずだよ……私が投げたボールをいつの間にかゴール下に移動したアミサが受け取って、完璧にノーマークで綺麗にダンクシュートを決めることなんて。
「……おいでよ。ボールは奪えなくても、体を動かすのは得意だから」
──静まり返って誰もが何も言えなくなった本校舎の生徒達、それに反して体育館に響いたE組の歓声。選抜チームに、私たちに向けて笑ってみせたアミサに、不敵に笑うカルマが重なって見えたのは、気のせいかな。
「やべぇ……」
「あぁ……」
「「「真尾、かっけぇ」」」
「片岡のバンバン点数入れまくってるのもすげぇけど、空気を一変させちまったのもすげぇ」
「てか、最後の笑みといい言葉といい、カルマが重なって見えたんだけど」
「あ、最後の言葉言えって言ったの俺」
「ご本人様かよ;」
「で、カルマ君。心配してたんでしょ?」
「んーや、全然。アミサが自分でやるって言い出したことほとんどないしさ……多分1回背中押せばイケると思ってた」
「……その割には野球の練習休憩の度にいなくなったり、終わった後に迎えに行ったりいろいろしてたみたいだけど」
「……気の所為じゃない?」
「ちょ、そっち行ったよ!」
「あんたはキャプテンのマークでしょ、なんで外してんの!?」
「(上手い具合に引き付けてる……)」
「(片岡さん、いつの間にかノーマークだし;)」
++++++++++++++++++++
前半戦、女子チームのバスケ編でした。
男女まとめようとも思いましたが、オリ主が女子の時点で『これは女バスの話も書かなくては』という使命感から、こんな感じに。
女バス練習風景入れた結果、いい感じに誰かさんの影響受けまくってます。
次回は男子編……野球の方に移ります。