暗殺教室─私の進む道─   作:0波音0

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28話 球技大会の時間・男子の戦い

 

「見た!?あの、本校舎のヤツらの悔しそうな顔!」

 

「スッキリしたー!」

 

「バスケのMVPはアミサだね」

 

「え、私じゃないよ、メグちゃんだよ……!」

 

「何言ってんの、あの流れをガラッと変えて見せたのはあんたでしょうが!」

 

 会話から分かるように、女子バスケットボールのエキシビションはなんと、私たちE組が勝つことができた。

 試合中は集中しすぎていたからか得点なんて全く気にしないまま走り続けていて……試合終了の笛の音がなった瞬間もよく分からず、気がつけば私はE組女子チームに押しつぶされるように抱きしめられていた。そこでようやく勝ったことを知って……少しだけでも本校舎の人たちを見返すことが出来た気がして、気持ちがよかった。

 

 そして今に至る。私としては40分最後まで出続けて、一人で30得点入れたメグちゃんが絶対MVPだと思うんだけどな……私なんて、第4ピリオドの試合開始直後に相手ゴール下まで走ってからゴールに向かって上に跳んで、ゴールリングのすぐ近くに投げてもらったメグちゃんのパスを受け取って、そのままリングに叩き込んだだけなんだけど。

 

「うぅ……私、最初のシュート以外何もしてないのに……」

 

「いや、まず中学生の女子がダンクすること自体そんなにないから」

 

「なんでその身長であの高さのゴールに届くのよ、ほんと……あの時カルマが『アミサならできる』って提案した時は、冗談だと思ったのに」

 

 私はハッキリ言って力も体力もある方じゃなくて、その代わりに細かい動きや小さな武器を駆使して動くのが得意だと思ってる。相手の持つボールをたたき落としたり外へ弾いたりすることくらいしかできないから、マークに付こうとする相手チームをやり過ごしながらアシストに徹してた。だから、私が点数を決めたのは最初の一つだけで、全体のほとんどがメグちゃんなのだ。

 

「得点王に関してはメグで異議なしだけどね、ゲームメイク的にはやっぱりアミサなんだよねぇ……」

 

「ホントそれ。最初の一発のおかげで相手が警戒して、ほとんどのマークがアミサちゃんに付いてたし……アミサちゃんが動けば片岡さんや岡野さんに付いてたマークもそっちを向いてたもんね」

 

「代わりに相手、アミサちゃんに関しては遠慮なく潰しに来てたよね……ファウルギリギリの危険なラフプレー……」

 

「それすら気にせずいつの間にか消えるアミサっていう図が出来上がってたから流石よ……」

 

「そのおかげで第4ピリオドのメグはほぼフリー……あとさ、最初のダンク決めた後、私には不敵に笑うカルマが重なって見えた」

 

「「「私も」」」

 

「あ、そういえば……女子の練習見に来てたカルマ君が、ダンク決めた後にああやって言えってアミサちゃんに教えてました」

 

「奥田さんよく見てたね……完っ全にそれのせいじゃん」

 

 事前練習で分かった通り、私はバスケットボールそのものには完全不向きだから、ボールをもらうことがあっても一切ドリブルをしないでフリーの人にすぐ叩き渡して(ベンチから優月ちゃんに「イグナイトパスだーっ!」って叫ばれたけど、誰かに「それ別作品!」とも叫ばれてた)、空いてる場所があれば走り込み、守備範囲にボールを持った敵プレイヤーが来れば叩き落とし……なんて、私はもう無我夢中で。自分のことで精一杯だったから気づいてなかったのだけど、私が出ている間何度もラフプレーを仕掛けられていたらしい。

 プッシングで転ばせようとしたり、明らかな進路妨害をしたり……普通なら大きなケガをしてもおかしくない状況だったのにあっち側に肩入れしてる審判は完全に見て見ぬ振りをしていたんだとか。多分、最初のダンクで私の運動能力を悟り……下手にコートへ残すよりは『勝手に』転んで怪我をしたから退場した、という図を作ろうとしたんだろう。

 だけど、私はそんなプレーをただ進路を妨害する障害物と捉えて、気にもしなかった……だって、障害物なら壊すか避ければいいんだから。まあ、相手は人間だし、壊すことなんてやってはいけない事だからとことん避けてたんだけど……そのおかげで第4ピリオドの10分間、出続けることが出来たんだと思う。

 

「なんにせよ、宣言通り女子は勝ってみせたわけだけど」

 

「……さて、男子の野球はどうなってるかな」

 

 私の頭を撫でながらボソリと野球をするグラウンドへと視線を走らせる凛香ちゃん……そうだ、まだ男子の野球が残ってる。早く見に行きたくて凛香ちゃんの体操服の裾を軽く引っ張ると、彼女は少しビックリした顔をしてから少し笑って、私の言いたいことを察したのか撫でるのをやめ、裾を掴む私の手を取り少し早足で野球の会場へと向かい始めた。

 

「あ、速水さん!アミサちゃん!」

 

「……最近、凛香ちゃんがアミサちゃんのお姉ちゃんポジションを頑張ってるようにに見えるんだよね〜」

 

「アミサちゃんはアミサちゃんで、頼ったり寄りかかったりするようになってるし……」

 

「席が近いのもあって世話焼きまくってるもんね……とと、私達も早く行こ!」

 

 みんなで早足になって会場に向かう途中、私の右足首にピリッとした違和感が走った気がしたけど……それすら気にならないくらいみんなで勝ち取った勝利が気持ちよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい!野球部相手に勝ってるじゃん!」

 

「よぉ、どーだったよ、あのダンクの後から」

 

「ふっふっふ、女子、完全勝利!」

 

「うおっ、すげぇな!」

 

 辿り着いた野球の試合会場では、フェンス越しにベンチで待機している三村くんや岡島くんが出迎えてくれた。得点板を見るとなんとE組が3点先制!

 カルマが女の子の練習を覗きに来た時に教えてくれたんだけど、殺監督が300kmなんていう普通じゃない速球で練習して、『()()()()()』に目を慣らしたあと、ピッチャーであるキャプテンと同じフォーム、同じスピードの『遅い球(一般的にはプロ級)』でピッチング練習をしたんだって。だからこそ、本物のピッチャーの球が、300kmに比べてその場に止まって見えるらしく、バント、バント、バント、……最後は杉野くんのバントに見せかけての打撃(ピッティング)でここまで来たんだとか……すごい!

 

「ただなー……一回の表から早くもラスボス登場ってね」

 

『い……今入った情報によりますと、野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で、選手達も先生が心配で野球どころじゃなかったとのこと。それを見かねた理事長先生が、急遽指揮を執られるそうです!』

 

 そんな実況放送の声が聞こえた途端、試合中の野球部員たちも、周りで見ていた生徒たちも一気に盛り上がった……それはつまり、E組が引き寄せていた『殺る』空気をリセットされてしまったということ。そして、理事長先生マウンドに上がり、野球部員たちになにやら話しかけて……タイムが終わり、理事長先生がベンチに下がった後の野球部は……

 

「な、なにあれ……」

 

「あー、杉野以外はバントしかないって見抜かれてるな」

 

 極端な前進守備で内野の守りを固めていた。普通の野球なら審判が止める……危険行為でもあるし、バッターの視界に入り集中を乱す守備はスポーツ精神を反するとされているから。だけど、ルール上フェアゾーンであればどこを守っても問題ない……審判が野球部に肩入れしている側だからこそ成り立つ戦術だ。

 

 こんなプレッシャーは予想していなかったからか、ボールに紛れて顔色でサインを送っているらしい殺監督も打つ手無し……三村くんに教えて貰った場所、野球場の隅でフィールドに潜り込んでいる先生は、サインも出せずにへこんで顔を覆っているみたい。

 陽斗くんに続いて岡島くん、そして千葉くんもストライク三振でアウトとなってしまい、3塁にまで出ていた杉野くんは何もさせてもらえないまま戻ってくるしかなかった。

 

「一回の表、お疲れ様。すごいじゃん男子」

 

「女子もお疲れさん。いやー、あれはスカッとしたわ」

 

「女子が頑張ったんだから、次は男子だよ。カッコいいとこ見せてよね!」

 

「あー、でもなぁ……理事長がかいがいしく進藤を改造中だよ……」

 

 攻守交代の短い時間で交わされるのは、やっぱり突然やってきた理事長先生についての話題で……彼はスポーツマンシップを考えるといい顔をされないがルール上は問題のない行為を平然と行い、更にはベンチでキャプテンを誠意改造中だ。普通ならありえないような戦法でも、名目は『E組を潰すため』でしかないからこのエキシビションの目的に適っていて……見ている人たちに違和感とか何も無いんだろうな。

 杉野くんはピッチャーとしてマウンドに上がる前に、その進藤くんの方をじっと見つめていた。それもそうだろう、先週、私たちと一緒に見た彼とは全然違う……価値観は違っても野球に打ち込む姿は本物だって思えたのに……野球部としての誇りをもっていた彼はどこにいってしまったんだろう。

 

 それを振り切るように、静かにマウンドに上がった杉野くんはすごいの一言だった。球速は本人が言っていたけど、遅いのだとか……確かに進藤くんの投球に比べてしまえば、目で追えてしまうスピードだと思う。

 だけどその代わりに、目の前で消えるような変化球が彼の、杉野くんが努力して身につけた武器だ。野球部でピッチャーをやっていた頃はその遅いストレートだけが武器で、それが原因でレギュラーを落とされて……だけど、裏を返せば野球部の人たちは杉野くんがそのストレートしか投げれないと思ってるわけだ。

 杉野くんはみんなの心配をよそに野球部の人たちの裏をかいてストライクを取っていき、この回を無失点で抑えた。次はE組の攻撃だから、バッティング順が回ってくるカルマと、次の三村くん以外はベンチに戻ってきている。

 

「いやー、マジでよかった……一応守備練習もやったとはいえ、野球部の本気は付け焼き刃じゃ捕れると思えねぇからな」

 

「攻撃もな。でも『こんな練習意味あるのか!?』みたいなのもあったのに、いざ本番迎えてみたら本校舎のヤツらのブーイングが可愛いもんって感じちまうの」

 

「ある意味あの練習、ちゃんと意味あったんだなー……」

 

「男子にそこまで言われるとか何やったの殺監督……」

 

「……どこで知ったんだよっていう秘密暴露を聞かされながらのバッティング練習とか」

 

「……手を抜いてますけどあなたに抜けられるわけありませんよね?みたいな超見下されながらの盗塁練習とか」

 

「それは……本校舎のヤツらの悪口くらい気にならなくなるわ……」

 

「ていうか本校舎連中より悪意がない?」

 

「まー……サボり魔のカルマがちゃんと練習に来てた理由の半分がこれのおかげだろうなって言えば、なんとなく分かるだろ……」

 

「だな、何度か秘密暴露しながらキャッチャーやってる殺監督にバット振り落とそうとしてたもんな……そんで、練習来なきゃバラすとでも大方言われたんじゃね……?」

 

「「「あぁ……ありそう……」」」

 

 今の話を聞いてて思ったんだけど……カルマ、女の子の方によく来てたのって、様子見だけじゃなくて休んでると殺監督の獲物にされるから、物理的に逃げてきてたんじゃない……?そんな気がしてきた。でもそんな言われたくない秘密とかあるのかな?……あるか、誰にも言いたくない秘密くらい。

 

「じゃあ、もう半分は?」

 

「そりゃ……いつもつるんでる杉野の仇だろ」

 

「なんも口にしねぇけど、あいつも気にしてんだろうよ」

 

「……カルマ、杉野くんのこと、渚くんを通じてだけど信頼してるからね」

 

「真尾がいうなら信憑性高いな」

 

 さぁ、そんな会話をしてれば2回目のE組側の攻撃がそろそろ始まる、次の打順はカルマから……ってあれ?さっきの場所に殺監督がいない。それに試合再開かと思ったらバッターボックスに今度はカルマがいない。

 バットを持って四角の中……さっきイリーナ先生が声に出して読んでたルールブックの言葉でいうなら、ねくすとばったーずさーくる……?という場所の中でまだ野球部の前進守備を見ている。

 

「どうした、早く打席に入りなs……」

 

「ねーぇ、これズルくない理事長センセー?こんだけ邪魔な位置で守ってんのに、審判の先生何にも注意しないの。一般生徒(おまえら)もおかしいと思わないの?……あー、そっかぁ、お前等バカだから、守備位置とか理解してないんだね」

 

 

 

 

 

 ・ ・ ・ 。

 

 

 

 

 

「小さいことでガタガタ言うなE組が!!」

 

「たかだかエキシビションで守備にクレームつけてんじゃねーよ!」

 

「文句あるならバットで結果出してみろや!!」

 

 

 

「か、カルマ君……」

 

「そりゃ怒るわ……」

 

「でも……、あれ……、……」

 

「アミサ?」

 

 お、怒るよねそりゃあ……。だけど、……E組はカルマのああいう態度を見慣れてるから「またやってるよ」「カルマなら自分達の言えないことでもハッキリ言うわな」みたいなことしか思ってないけど……あの挑発、カルマ自身は怒らせることが目的だったのかな……?……あ、殺監督がさっきの場所に戻ってマルってしてる。

 

 そのままの空気の中E組の攻撃に移ったけど、理事長先生に何か色々言われていた進藤くんの球速はさっきまでより格段に速くなっていて……誰もバットに当てることも出来ずスリーアウトとなってしまった。でも、球種は全部ストレート……あの日、私たちが見た練習の時は、曲がる球も投げてた気がするのに……スピード勝負に出てるってこと?それとも、E組ごときこれで十分だとばかりに球種を捨てた?

 そんなことを考えていれば、男の子たちが攻撃を終えてベンチに戻ってきて、守備に入る準備に入っている。

 

「……カルマ、さっきのって……」

 

「……さーね、監督の命令。……でもあのタイミングで言わせるってことは、殺監督に何か考えでもあるんじゃない?」

 

 自分の打順を終えてベンチに戻ってきたカルマにあの挑発の意図を聞いてみたけど、やっぱり殺監督の意向だったみたい……カルマ自身は言いたいことがやっと言えてスッキリしたって顔してるから、殺監督の戦略をこなすことも含めて一石二鳥だったのかも……?

 

 そのままの勢いで二回の裏は野球部が2得点、三回の表はE組無得点……1点差で最後の野球部の攻撃に入ることになった。

 ふと、打順の書かれた電光掲示板を見ると4番目に進藤くんの打席が来ることが表示されている。……進藤くんはピッチャーとしてだけじゃない、二回の裏でも威力を発揮したように打撃にも才能がある。私たちが見れなかった一回の表では、4打席目の杉野くんで満塁からの3得点を上げたって聞いている。……今の状況、それとまるっきり同じじゃないかな?

 

 私たちがここに合流した頃から理事長先生がずっと彼につきっきりで何か話しかけていた……その彼を最後の見せ場で使わないで終わるだろうか?

 

「……渚くん、」

 

「……?どうかしたの、アミサちゃん」

 

「あのね……もしも、もしもだけど……杉野くんが自分に負けそうになるなんてことがあったら……伝言、頼んでいい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして始まった、最後の攻撃……それは、

 

『あーっと、バント!?野球部バント地獄のお返しだ!!』

 

 予想通りそっくりそのまま、一回の表でE組がやってみせた攻撃を『手本』という名目でやって見せるというものだった。野球部という素人に比べれば格段に高い技術を持つ集団が、バントという小技を試合に組み込むことは普通なら見ている生徒は納得出来ない……E組でも出来ることをなんでやるんだって思われてしまうから。

 だけど、それはあくまで野球部が先にやり始めた場合のこと……先にE組がバントで攻撃をするところを見せたから、野球部という技術を持つ集団に『手本を見せる』という形でそれを使う大義名分を与えてしまったということだ。

 

 E組側も『強豪とはいえバント処理までは確実じゃない』という部分をついた攻撃だったんだ。その強豪より技術を持っているはずのないこちらは攻撃を許すしかなくて……あっという間にノーアウト満塁のピンチに。

 そして……

 

『ここで迎えるバッターは……我が校が誇るスーパースター、進藤君だー!!』

 

 E組が仕掛けた時と最大の違いは、打てば確実に強打となってしまう進藤くんが相手であること、そしてE組はここで打たれてしまうと逆転されてしまい負けが確定すること、だ。

 最後の作戦タイムとして、ピッチャーの杉野くんの元に守備のメンバーが集まっている……多分、進藤くんをどうするかの話し合いだと思う。敬遠すれば強打を打たれて大差で負けることなく同点になり、次で上手く処理すれば引き分けで終われるかもしれない。

 だけど、それをしてスッキリ終われるかというと……

 

「おーい、磯貝、監督から指令」

 

「……マジっすか」

 

 そんな沈んだ空気の中、何やら声をかけに走り寄るカルマの姿が見えた。カルマは内野守備じゃないから、作戦の話し合いに参加しないかと思ってたけど……何やら磯貝くんに話しかけて、その磯貝くんは聞いた瞬間に呆れたのかとんでもない作戦に付き合わされるのか、軽く脱力している。

 殺監督が動いたってことは十分やり返す材料が揃ったということ……それが分かっているから、無茶な指令でもきっとだいじょぶだって磯貝くんは受け入れたんだ。

 

 ……それでもまだ、不安そうに迷っているように顔を上げない杉野くんが見えて、私は祈るように胸元で組んだ手に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渚side

 

「俺、やれんのかな……カルマと磯貝を危険な作戦に当たらせときながら、全力で投げれんのかな……」

 

 杉野は、最後の防衛なるだろうこの時、今日この試合を通して初めて不安そうで自信の無い顔を見せた。……ピッチャーが最終判断をしないと殺監督の作戦を実行に移せない……だから作戦を伝えに来たカルマ君も、作戦を聞いて困ったように笑う磯貝君も、最後だと気を引き締める僕らも、杉野を見ている。

 

 もしかして、アミサちゃんはこぅなるかもしれないのを予見して僕に伝言を託したのかな。そうだとしたら、今、伝えるべき時なんじゃないか……そう思った僕は、一歩前に出た。

 

「杉野」

 

「……渚?」

 

「アミサちゃんがさ、杉野に伝えたいことがあるって伝言もらったんだ。もしも『杉野が自分に負けそうになってたら伝えて』って言われたんだけど……」

 

 

 

〝杉野くんが、進藤くんに見せたいものって、何?〟

 

 

 

「……!そっか、そうだよな……」

 

 この伝言の真意は、僕にはわからない。だけど伝えられた方の杉野からすれば、迷いを吹っ切るには十分だったみたいだ。

 

「ごめん、みんな……ちょっとネガティブになってた。もう平気だ……俺は俺の球を全力で投げる、だから、」

 

「ん、あとは俺等次第ってね」

 

「はー……マジでやるのか……いくぞ!」

 

 爛々と目の奥に悪魔的な光を宿してにこやか(・・・・)に笑ってみせるカルマ君と、本気でやるのか……と溜息をつきながらもこんな作戦を考える殺監督に呆れつつやる気をみせた磯貝君が杉野の音頭にしっかりと応える。

 それを見た僕らは顔を見あわせてひとつ頷き合い……守備位置へ。これで、僕らのエースはもう大丈夫……やってみせよう、僕らの、この試合最後の守備(暗殺)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話し合いが終わったのか、マウンドの方からカルマと磯貝くんが歩いてくる。どんどんどんどん近づいてきて……野球部がやっていたような、明らかな前進守備位置へ。

 

『こ、この、前進守備は!?』

 

「明らかにバッターの集中を乱す位置で守ってるけど、さっきそっちがやった時は審判は何も言わなかった……文句ないよね、理事長?」

 

 やっぱり、さっきの殺監督が指示した挑発には意味があったんだ。もしあの時何も言わなかったら、この前進守備は審判から止められていただろう……『さっきは注意できなかったが、これは明らかにスポーツ精神に反する行為だ』とか適当な理由をつけて。

 だけど、E組(こちら)からハッキリとクレームを付けたことで審判にも野球部にも、そして見ている一般生徒たちにも『この前進守備はおかしい事じゃないのか』と主張し、それを黙認する審判の様子を見せつけた……バント戦法と同じだ、同じことをやり返しても文句を言わせないということ。

 

「……ご自由に。選ばれた者は守備位置くらいで心を乱さない」

 

「へぇ、言ったね……じゃあ遠慮なく」

 

 そう言ったカルマと、ため息をついた磯貝くんは更に足を踏み出して……

 

『ち、近い!前進どころか、ゼロ距離守備!?振ればバットが当たる距離だ!』

 

 ホームベース1歩手前、言葉通り野球部キャプテンの目と鼻の先で足を止めた。

 

 きっと理事長先生はキャプテンの集中を極限まで高める何かをしている……現に最初の前進守備を見ても彼は動じてなかった。

 けど、さすがにあのゼロ距離守備をされることは予想外すぎる行動だったのだろう、私たちがいる場所からでもキャプテンがカチリと固まったのが見て取れた。……どんなに集中していたって、こんなことされたら誰でもこうなるよね……

 

「気にせず打てよ、スーパースター……ピッチャーの球は邪魔しないから」

 

「フフ、くだらないハッタリだ。構わず振りなさい、進藤くん……骨を砕いても打撃妨害を取られるのはE組だ」

 

 か、カルマ……楽しそう……挑発に挑発を重ねてるけど、普通の感性を持つ人なら『当ててしまう』『怪我をさせてしまう』という思いに囚われる……だから、本気では振れないはず。

 キャプテンはカルマと磯貝くんが打撃妨害を取られるつもりがない、っていう態度をハッタリだと思っている……確実にバットが当たる位置にいるんだから当然だ。……普通ならハッタリなんだろうね……だけど、E組(わたしたち)は暗殺教室で学んできてるんだ、普通じゃないんだよ?

 

 杉野くんが投げる……進藤くんは球を打つよりも前進守備をする2人をビビらせる目的だろう、どんなに近くにいても本気で振るんだということを示すように……大きく、力を入れてバットをスイングした────瞬間、カルマと磯貝くんはほとんど動かないでバットをかわしてみせた。

 

「そんだけ……?ダメだよ、そんなに遅いスイングじゃ……次はさ、……殺すつもりで振ってごらん?」

 

 理事長先生は、彼らの、あの舞台に上がった人みんなの能力を計算に入れることができていなかった。

 

 カルマと磯貝くんの動体視力、度胸の強さ……そして甲斐甲斐しく育てたキャプテンが、どこまでなら耐えられるかという精神力。もはや野球を野球としてやってない、みんながみんな、異常な光景に飲み込まれていた……

 

「う、うわぁあぁああぁあ!!」

 

 キャプテンは最後の意地でか、なんとかバットを振り抜いたけど、腰の引けたスイングでは球を遠くにとばせるわけがない。

 

 地面にバウンドして真上に跳ね上がったそれをカルマが難なくキャッチし、ホームベースで構える渚くんへ……それを三塁に投げて二塁選手をアウトに……完全に戦意を喪失した進藤くんが走ってないから安心して一塁へ……なんと、この局面でE組はトリプルプレーの達成、球技大会のルール上同点でさえなければ3イニングで終了、つまりこの回、野球部の攻撃を押さえ込んだということは……

 

『げ、ゲームセット!なんと、なんと……E組が、野球部に勝ってしまった……!!』

 

「キャーーっ!」

 

「E組男女、エキシビション両方ともに勝利ーッ!」

 

 本校舎の人たちの、野球部の癖にE組なんかに負けたのかという落胆の声と共にフェンスから離れていく姿……E組の女の子たちの勝てたという応援していた女の子メンバーの歓喜の声……それぞれの反応の差はかなり大きいものだった。しかも、目の前の男子野球の試合だけじゃなくて、女の子の方もバスケ部に勝利していたから余計に。

 今年の球技大会は、男の子も女の子もどちらのE組も活躍して、本校舎の思惑を完全に阻止し、盛り下げることに成功したのだ。

 

 つまらなそうに、ガッカリしたようにぞろぞろと帰り始めた本校舎の人の波……彼らは知らないんだろうな、この試合の裏側では、2人の先生(かんとく)の数々の戦略のぶつかり合いが起きていたことなんて。

 

「勝った……?」

 

「うん、勝ったよアミサ!ほら、男子も帰ってくるから行くよ!」

 

「う、うん……!わ、まって……!」

 

 野球場から出てくる男の子たちの元へおめでとう、お疲れ様と言うためにフェンスの出入口の方へ向かっていくE組の女の子たち……私もすぐに追いかけようとしたのだけど、その動きはエキシビションマッチを見ていた本校舎の一般生徒たちが教室へ帰る流れの波に逆らう行為に等しくて、私の背の小ささでは飲まれてしまいそうだ……そんなに距離がないはずなのに、気がついたら私は一緒にいたはずのE組の女子たちからはぐれてしまっていた。

 

 スマホや戦術導力器(エニグマ)があれば律ちゃんに頼んで誰かに連絡を繋いでもらうところだけど、まさか必要になるなんて思わなくて、荷物になるかもしれないとE組校舎がある山のてっぺんに置いてきてしまった。

 ……まあ、人の波には終わりがあるし、待っていればどこかでみんながいる場所に行けるはずだと、人の波を避けてなんとか端のほうへ寄りながら考えていると、不意に後ろから右手を掴まれ人の波とは違う方向へ引っ張られる。反射的に振り返った。

 

「……っ!?……え、あなたは……」

 

 

 





「こっちにおいで、そこにいてはまた流されてしまうよ」

「え、え、あの……」

「ほら、こっちに校舎へ抜ける道があるんだ」

「う、うん……」

──ピリッ

「…っ、……?筋、痛めたかな……」



++++++++++++++++++++



男子編はほとんど原作を変えず、オリ主視点で考察は入れてみました。
この話はどこでも好きですが、描写できなかったところから選ぶなら、個人的には女子視点なので入れられなかった、カルマの「足元出てくんなよ殺監督、踏んでほしいの?」のシーンが好きです。殺せんせーなんでもありだなーというところと、最初にその感想が出てくるあたりカルマはドSだなーと再実感する場面……

あと1回、球技大会編は続きます。


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