杉野side
「進藤」
俺は試合が終わってから……というより、最後のカルマと磯貝の野球を野球として行わないプレーによって、完全に理事長の戦略についていけなくなってから、地面に座り込んでしまっている進藤の元へ駆け寄った。E組の他の奴らには、先に女子の方へ合流しに向かうよう言っといたから、俺がいなくても何とかなるだろ、多分。
「ごめんな、ハチャメチャな野球をやっちまって……でも、分かってるよ。野球選手としてお前は俺より全然強ぇ……これでお前に勝ったなんて思ってねぇよ」
「……だったら、なんでここまでして勝ちに来た。結果を出して俺より強いと言いたかったんじゃないのか?」
確かに、あの朝の時間……俺はお前に立場の差を見せつけられた。まだ、俺のちっぽけな力1つでは抗いようがない、俺1人ではどうにもできない『学校』というでかい組織に認められた上下関係……
普通なら諦めるしかないんだろうけど、俺達は普通って言えないしな。自分が何よりも好きだと言える野球で負けたくなかったし、あの教室で身につけた新しい強みを、たくさんの人の前で示したかった、見て欲しかった。俺等が素人ばかりだから、なんていうのは関係ない……俺等だから、できる姿を進藤に見せてやりたかった。
「んー……、……渚は、俺の変化球練習にいつも付き合ってくれたし、カルマや磯貝の反射神経とか、皆のバントの上達ぶり、すごかったろ?」
球場の出入口に使った道具を持ちながら歩いていくE組男子の面々を見つつ話す。球技大会に向けての放課後を使った練習……最初から人がやるには無茶だけど、やること自体は無理ではない殺監督のトレーニングの数々。……普段ならサボっててもおかしくないカルマだって珍しく真面目に参加していたそれで、E組の技術は格段に上がっていた。
「最後のお前の打席……俺、本当は敬遠しようと思ってたんだ。カルマや磯貝はあの度胸試しのようなアレをやる気だったってのにな、俺だけビビってた……。ここで俺が打たれたら、お前に大打撃で点数差つけられて負ける、やる気があっても2人が大怪我する可能性だってないとは言いきれなかった……それよりは敬遠して引き分けで終われるように努力したほうがいいんじゃないかって。でもさ、真尾に言われちまった……お前に、俺は何を見せたいのかって」
「…………」
「俺は、俺の野球の腕とか俺の野球が好きだって気持ちより……ちょっと自慢したかったんだ。昔の仲間に、今の俺の
「……本当に、教えられちまったな。お前のすごい所……覚えとけよ杉野。次、やる時は高校だ!」
「おうよ!」
「……それと、異端児……いや、真尾さんにさ、謝っておいてくれよ」
「いや、そこは自分で謝るところだろ。真尾、あの後言ってたじゃん……お前が相手のこと、真っ直ぐ見て受け入れる所は嫌いじゃないって」
「……そうか、わかったよ」
真尾、お前のことを認めるやつができたぞ……本校舎とE組との差は埋まらないかもしれないけど、もうこいつはお前のことを異端児なんて絶対言わねぇと思う。
差し出した俺の右手を進藤の右手が握る。いくつもマメのできた、野球を真剣にやってるからこそできる手……負けてらんないな、俺も。……来年も地球があればだけど。
「……なんだろうな、真尾さんってすごい不思議な視点というか、価値観を持ってると思わないか?E組でどうなんだよ」
「いやー……短時間でそう思わせる真尾をさすがと言うべきなのかなんというか……」
「……いつも通りなんだな」
「まぁな、みんなの妹分だよ」
「俺は新しい価値観を教えられた気分だな。ここにいちゃ見えなかった、凝り固まった思考に新しい風を入れられな気分だ……E組にいるのが不思議なくらいだし、個人的には応援したいところだ」
「……」
認めるどころか……直接やり取りしてねぇのに、なんかファンらしきものが増えたぞ、真尾。
◆
カルマside
「おめでと〜!男子!あんな
「女子もおめっとさん。三村に聞いたけど、あの第4ピリオドの真尾のダンクから巻き返したらしいじゃん」
「あの後からアミサが動くたびにマークも動く動く……メグがいつの間にかノーマークになることもあったくらい!」
「ただ、明らかにラフプレーが増えてさ……野球の審判と同様、相手側に肩入れしてるから全然ファウル取ってくれないの。アミサ本人の顔色が変わってなかったから分かんないけど、怪我してないかちょっと心配……」
俺らの試合が終了して、野球場から出たあたりで女子達が駆け寄ってきた。ちょうど合流した時にベンチにいた三村や岡島から女子がエキシビで勝ったということは聞いていて……そんな報告聞いたら、男としては負けてられないじゃん?
最後なんて俺の得意分野だったこともあって、殺監と……もう野球中じゃないから戻していいか、殺せんせーの無茶振りにも遠慮なく乗って、奴等に対して挑発+αでストレス発散してやった。
俺ら男子の野球エキシビションが終わったことで、今日の球技大会全てのプログラムが終わったってこと……後は教室に帰るだけとなり、E組は男女共々口々にお互いの健闘を讃え合っている。
そんな中で、俺が会いたくて探していたのは1人だけだったんだけど……さ、あの子どこにいんの?
「で、多分誰よりも心配してただろうカルマ、お前は行かないのか?」
「……ねぇ、そのアミサは?」
「「「…………え?」」」
「「「は?」」」
俺の指摘で途端に周りを確認したり、スマホを持ってる人は確認しだしたりと慌てる女子達……え、もしかして、
「ちょっと待って見てたところから移動する時……っていうかさっきまでいたよね!?」
「もしかして、途中ですれ違った本校舎の生徒の人混みではぐれちゃった?」
「り、律!アミサちゃんのスマホに連絡取れない!?」
「は、はい!やってみます……、……ダメです、GPSの位置からしてスマホは教室……こちらに持ってきてないみたいです。エニグマの通信機能も同様……」
マッジで誰も把握してないのかよ!?ぐるっと周りを見回しただけでも女子が観戦していた位置からここに来るまでに距離はあるけど、校舎へ入る道はそんなにないしほぼ一本道だったはず……なら迷子って線はほとんどない。それにアミサはバカじゃないから、人の波に飲まれたままじゃなくて端によって流れから抜けるくらいはしてるはずだ。
もう、この短時間でこうも事件起こすとか、本トに一瞬たりとも目が離してられない……俺は球技大会の疲れも一瞬で忘れて、とりあえず頭に乗せていたグローブを近くにいたちょうどいい高さの渚君の頭の上に被せる。
「……探してくる」
「ちょ、なんで僕の頭の上に置くわけ!?……って、もういないし!」
本ト……どこにいるわけ?終わったら直接会えると思っていたのにいないとか、どこにいても予想外を引き起こす彼女の不在に慌てていた俺は、
……アイツらは、いつの間にか俺が俺自身をさらけ出せるような場所に、信頼してもいいかなって思える仲間になりつつあるのと同時に……
「カルマってさ……、E組に来た時からアミサのこと明らかに特別扱いして大切にしてるなーとは思ってたけど……」
「なんか最近、それとも違う感じするよね?」
「男子、何か知らないの?」
「あー……磯貝、もうさすがに言っていいよな?」
「……いいんじゃないかな、もう本人隠してなさそうだし」
「だよなー……好きだってよ、真尾のこと。修学旅行の時に男子で問い詰めてやっとそん時自覚しやがった」
「そんな前から!?ていうか、あんだけ一緒にいて自覚したのその時なわけ!?」
「俺等も好きだからあれだけのことやってるんだと思って話してたんだよ!そしたらさぁ……」
「付き合ってないなら誰かが告白してお前のポジションに収まるかもなって言ったら、『ダメに決まってるじゃん』って。それで初めて自覚したっぽい」
「ということは、最近のあの露骨なアピールも焼きもちを隠さなくなったのも……自覚したからこそ吹っ切れて周りを牽制してるってこと……?」
「それにアミサはアミサの方で多分カルマのことが好きよね?自覚はしてないけどカルマからの一方通行ってわけでもないから……うっわ、ややこしっ!」
「ですよね〜。ここまであからさまなのに、なかなか進展しなくて先生かなりやきもきしてます」
「殺せんせー、いつの間に……」
……とんでもなくゲスくて、下世話なヤツらの集まりだってこと。まさか俺の片思いが俺がいない間に女子にも暴露されてるなんて、知るはずがなかった。
◆
「あの、えっと……」
「……さすがに、僕が分からない……とか言わないよね?」
「……、浅野くん……」
あの人混みから抜け出してどうしようかと思っていた時、背後から手を引いて、人の少ない方へ誘導してくれたのは浅野くんだった。
彼曰く、偶然すれ違う時に流されかけて慌てている私を見つけて、人混みに埋まっているままだと怪我をするか踏まれそうだったから放っておけず、一緒にいた仲間を先に行かせて私を拾いにきたってことだった。
正直壁際まで行ったはいいけどそこから困っていて不安だったからかなり助かったのだけど、……拾ったって。……確かに小さいからできるかもしれないけど……拾われたの、私。
「よかったよ、ここで流石にわからないって言われたらね……」
「さ、さすがに、何度も会ってるから……」
「何度会っても『誰でしたっけ』って言う時あるからね、キミ」
「……う、…ごめんなさい。……あの、あそこから抜け出すの助けてくれて、ありがとう。……あと、野球……A組優勝おめでとございます」
「ああ、ありがとう。E組こそ、エキシビションは男女どちらも勝利したようだし……バスケはキミが流れを引き戻したって聞いたよ」
「……私、何にもしてない、から……そうみんなにも言ったのに」
「そんなことは無い。バスケの選抜チームにはもちろんA組所属のバスケ部からも選ばれていてね……小さな選手にかなり翻弄されたと報告を受けているよ。最初のインパクトが強すぎて、その警戒を最後まで引っ張ったのが敗因とか言ってたけど……切り替えができていないね、勝者であるためには明らかに足りてない部分だ。……と、ここでいいかな」
話しながら歩き続け、人の波が落ち着いた壁際まで連れてきてもらい、そこで私たちは向き合う形で立ち止まる……あと少しもすればほとんどの生徒は本校舎の教室へ帰っているだろう。そうすれば人がいなくなった所で楽に道を歩けるようになるはずだ。
……浅野くんには感謝しているが、私は早い内にE組のみんなの所へ帰りたい気持ちの方が強かった。いつ本校舎の人に浅野くんと一緒にいるところを見られるか分からないし、それで何か言われるのも、私が自分から来たわけでもないのに言われるのは、なんか嫌だ。
もちろん戻ろうとしなかったわけじゃない……離れようとはした、だけど人混みから抜けるために浅野くんから掴まれた右手がそのままで、下手に距離を離せなくて……だからそのまま話すしかなく……
……早く、男の子のところに合流してお疲れ様って、かっこよかったよって言いたいのに……それに誰にも行き先を告げられなかったから、迷惑をかけていそうだ……私は内心かなり焦っていた。
「……あの、浅野くん……私、みんなのとこに、」
「真尾さん、何度も言うようだけど。キミは選ばれし人間、E組にいるべきじゃない……その頭脳、今回判明した身体能力……E組に残しておくには惜しすぎる力だ。聞けばE組落ちの原因は教師に非のある暴行未遂の上、赤羽を庇ったかららしいじゃないか……落ち度のない人間を底辺に残すほど、僕等は堕ちてるつもりはないよ」
「……っ、私だって何度も言ってます……私の居場所は、A組にはありません……E組は、みんなと違う私を受け入れてくれた……そこなら縛られた当たり前がなくて、私は異端でもなんでもない私でいられるの。……それに、私の大事な人たちのことを……カルマを、底辺だなんて言わないで……っ」
みんなの所に行きたい、その思いでなんとか私から話し出したのに遮られてしまった……その内容にイラッときてついつい言い返す。彼は、彼らは……本当に何で上下関係をつけたがるんだろう……私にとってはそんなもの、人間関係の中では二の次、三の次でしかない。立場なんて気にせず、その人の中身を見て判断したい……浅野くんのことだって例外じゃないのに。
……なのに、この人は目の前で話しているはずなのに、本心が見えない……いつもどこか分厚い雲で覆われているようで本音というか、底が何一つ見えないのだ。だからこそ私自身を許せないし、反発を続けるし、恐怖心を抱いている。
ここまでは少しの違いや違う話を間に挟むことはあっても、中学1年生の頃からいつも会った時に必ずしてきた会話だ。その時はまだD組にいたからまだ分かる……だけど、本格的にE組に入ってからもこうして声をかけられるとは思っていなかった。
だからこそ分からなかった。
「……1年生の時も、2年生の時も思ってた……浅野くんは何で私なんかに構うんですか……?クラスも違って、たまに会ってお話しするくらいなのに。A組には誘うし、今日みたいに助けてくれることもあるし……。……それは理事長先生の命令だから……?そんなの、」
「っ、違う!!」
大人のいうことだからって従うのは、私は絶対にしたくない、そう続けようと思ったのに、突然の大声での否定で、私は目を固く閉じてびくりと肩をすくませる。
そうしたら、目の前で慌てるような気配があって……今の浅野くんは、怒った……わけではないのだろうか。恐る恐る目を開けたら、困ったような顔で繋いだ私の右手を浅野くんが両手で握り直す所が目に入った。
「す、すまない!……怯えさせるつもりはなかったんだ……確かに理事長も目をかけるほどの学力と身体能力……今のA組の底を上げる力となるって意味で勧誘し続けていたのは否定できない。でも、違う、そんなのは建前だ……本音は、僕がそうしたいと思ってるか ら……」
「……え……」
「君とはずっとクラスが違って、近くにいることもなかったから共通の話題というものが分からなくて……なんとか話をしようと思うと、つい成績の話に落ち着いてしまうんだ。僕達が確実に共通していて話せる内容が……」
「浅野く、」
「入学当初から、キミは大人しいながらも自分の信念を曲げずに貫き通す強さを見てきた。人から聞いた話ではなくて、相手を見て、話して自分で判断する公正なところも。あの日、図書室で声をかけたのは偶然じゃない、僕自身……話しかけるタイミングをずっと見計らっていたから」
彼は、いったい────
「……僕はキミを一人の女性として大切に想ってるんだ」
……今、はじめて雲を通していない素の浅野くんを見た気がする。見た気がするけど、……何かとんでもないことも言われた気がする。
今までは建前のような話題ばかりだったから、浅野くん自身の言葉が聞こえてこなくて少し遠巻きにするしかなかった……だけど今、彼の真っ直ぐ私を見る目に嘘とか騙そうなんて色が見えなくて、戸惑うしかなかった。
だって、会うたびに私の周囲を否定するような物言いばかりだったから……今、言われた言葉の意味は伝わってはきたけど、そのまますぐに信じることなんてできなくて……これは、浅野くん自身の思いなの?それとも、私を支配下に置きたいがための方便なの?……って、どうしても考えてしまう。
「それって……その、大切って、……友だちだからとか、」
「女性としてと言っただろう。……キミが結構天然でズレてる所があるのも知ってたさ……だけど、直接言葉で伝えたものは真っ直ぐ受け取ってくれるのもキミだろう?だったら、僕の言いたいことはちゃんも分かっているはずだ」
一応とばかりに聞いてはみるけど、やっぱり
……私、E組だよ?椚ヶ丘中学校で異端児って言われてるくらい、みんなと違うんだよ?差別されている対象で……浅野くんのお父さんはその筆頭な理事長さんなんだよ……?
「……キミを認めない奴等からは僕が守るよ。…
「だからって、
右手を浅野くんの両手で握られたまま、真剣に向き合う彼の言葉……それを遮るように、私にとって聞き慣れた安心する声が聞こえた。
浅野くんの背後に彼と同じくらいの体格の赤髪の彼が見え……彼は浅野くんを追い越して私の後ろまで来ると左肩を軽く掴んで自分の体の方へと引く。その為に私は右手を浅野くんと繋いだまま、体はカルマに引き寄せられていることになって……自然と引っ付くことになるカルマの心臓の音はかなり早くて、少し息が荒い。
私がいなくなってしまったから慌てて探してくれてたんだということが分かる……あ、今小声で「律、発見したからこれから連れて帰る」って言うのが聞こえた。これは、E組を巻き込んだちょっとした大事になってるかもしれない。
浅野くんは背後から来ていたこともあってカルマが来るのが見えていなかったみたいなのに、視界に入れても冷静な態度を崩すことはなく正面からカルマを見据えている……
「……赤羽か……見て分かる通り、今彼女は僕と話しているんだが。邪魔しないでくれないか?」
「プルプル震える小動物を迎えに来て何が悪いの?邪魔するに決まってるでしょ……アミサ、みんな心配してた……頼むからスマホでも何でも連絡手段はちゃんと持っといてよ……めっちゃ捜した」
「あ、ごめ、」
「怯えさせるつもりは無いさ、真尾さんは真剣に僕の話の真偽を見極めようと聞いてくれていたんだしね。そうだろう?さっさとこいつを追い払うから待っていてくれ……だいたいなんでお前は名前を呼び捨てなんだ」
「え、え、追い払うって、」
「アミサ、こんな奴ほっといてさー、E組帰ろ?男子も野球、頑張ったんだから労ってやってよ。……ふふん、一緒にいる時間が違うんだから当然でしょ?」
「なっ……クラスが一緒だからと調子に乗るなよ、結局は素行不良には違いないだろうサボり魔め……」
「だからさぁ………」
「…………うぅ…………;」
……と、思っていたのに……目の前で、というか私をはさんでバチバチ言い合いを始めてしまった2人……私はもうこの状況をちゃんと飲み込めていない。というか、なんでそもそもちょこちょこ私に話しかけながらこの2人は口喧嘩しているんだろう。私の返答を求めてるのかすら怪しくなってきてて、返事をする間も与えてくれないし。
どうすればいいのか分からなくなってきたから、ちょっと現実逃避して今の光景を客観的に考えることにする……私より30cmくらいの身長差がある2人に前後から挟まれていて、周りからは私は完全に隠れているだろう今の状況……あれ、これって……
「真尾さんはどう思うんだ?」
「アミサ、なんか言ってやってよ」
「あ、え、えっと、私って今宇宙人なの……!?」
「何をどうしたら今その感想が出てくる。」
「何をどうしたら今その感想が出てくるの。」
「……あれ?なんの話しだったっけ……?」
「……これに関してはコイツに乗せられて置いてけぼりにしていた僕も悪かったか……」
「いや先にしかけてきたのは浅野クンだからね?……大方身長差で周りから見たら捕獲された宇宙人な状況、みたいに思ったんだろうけどさ……本トアミサの思考回路って謎に突っ走るよね」
なんか、声を揃えて言われた。
だって、2人ともいつもどおりの口調、話す速さなのに……言葉の色んなところにお互いに向けたトゲが見えて、なんか、見えない火花がバチバチしてるというか……私が入り込む隙間がなくなっているんだから、別のことを考えていても仕方なくないかな。
2人が言い合いしていることで、私が完全に展開についていけなくなっていることをやっと気づいてくれたのか……2人して大きくため息をついてはいたけど、やっと言い合いをやめてくれた。……睨み合いはまだしてるけど。
「……はぁ、まあいい……真尾さん、有耶無耶になる前にさっきの質問に答えが欲しい。……A組においで」
「……懲りないよね浅野クンって。アミサはE組の一員だよ……俺等の、俺の大事な子。……E組に帰ろ、アミサ」
2人して、違うことを言ってるのに、同じように私を掴む場所に軽く力を込めている。浅野くんは私の右手を、カルマは私の左肩を……私は人から向けられる想いは難しすぎて分からないけど、喜怒哀楽の感情に対しては鈍くない……と思ってる。
それだけ、2人からの真剣な思いは伝わってきた……だけど、私の中ではずっと気持ちは変わってないから。やんわりと、握られてなかった左手で浅野くんの両手を外していく。
「……浅野くん、ごめんなさい。私のことを守ろうとしてくれてるのは分かったけど……私はやっぱりE組がいい。……大事な居場所で、帰りを待ってくれてる人たちがいるから。一緒にいたい人たちがいるから。……だから、A組には行けないです」
「ということだから連れてくね。……アミサがちゃんと出した結論なんだから、無理矢理なんてことはしないでしょ?」
「……当然だ。だが、今回は引くからといって僕は諦めるつもりは無いし、……僕の気持ちに嘘はない。即答しなかったということは、特にそいつと何か関係があるわけでもないんだろう?……まだ返事はいいから、考えておいてくれ」
「……、返事……」
「……アミサを保護してくれたことには感謝しとく。……行くよ」
そうしてカルマに連れられるがままE組校舎への道を歩く……浅野くんは追ってこなかった。だけど、気になって一度振り返ったら、さっきの場所から私たちをじっと見つめているのが見えて……
……浅野くんの気持ち、か。素直に気持ちを受け取ってもいいというなら、彼が言いたかったのは『私のことを恋愛対象として見ている』ということなんだろう。私は言われるまで、その向けられた想いに全く気づいていなかった……正直今でも実感してない。本当にいつから、だったのかな。
気がついたら、E組校舎へ向かう山道の入口にたどり着いていてカルマは足を止めた。ここまで来てしまえば関係者以外の人通りはほとんどないし、安心できる……ほっ、とようやく息をつけた気分でいた時にカルマから声をかけられた。
「もう、めっちゃ心配した……野球終わって女子が来たかと思えばアミサはいないし。慌てて探しに行けば浅野クンなんかに絡まれてるし。本トに……目が離せない」
「カルマ、来てくれてありがと。こういう時、小さいのは不便だね……」
「どーいたしまして。……俺が着くまでに、何か、された?」
「さ、れてない」
「……、はぁ……質問変えてあげるよ。……何か言われた?」
「…………」
言われた。
いつものことではあるけど、E組を底辺って。
私がE組に行くことになったのはカルマが全部原因だって。
……私のことを大切に想ってるって、告白された。
前半はともかく後半を人に軽く言ってしまっていいものなのか……そう考えると何も言えなくなって、私はカルマと目を合わせられず、口を開けたり閉じたり、言葉にならない時間を繰り返すしかなかった。
「……まあ、なんとなく察しはつくけど。やっぱり敵はE組だけじゃないってわけね……」
「カルマ……?」
「ん?なんでも。……ねぇ、アミーシャ」
「!」
カルマが、私の本名を呼んだ。わざわざ呼び方を変えたってことは、普段の会話とは違うことを話すってことだろうか。自然と私は顔を上げ、真剣な顔をした彼と目を合わせていた。
「俺も、伝えたいことがある。……だけどアミーシャが理解できなくちゃ意味無いし、俺自身がまだアミーシャの光になれてない」
「伝えたいこと……え、光……?」
「そ。全部は聞いてないけどさ、リーシャさんに教えてもらったんだよ。……アミーシャには本来歩むべき道があるってこと……それが暗くて密やかなものだってこと。リーシャさんはその暗い道の中でアルカンシェルっていう光を見つけて新しい道ができた……同じように、まだ見つかってないアミーシャにとっての光に俺がなれるかもしれないって言われた」
「お姉ちゃん、が……」
お姉ちゃんがあの時カルマと話してたことはこれなの……?1番隠しておきたい人に1番隠しておきたいことを欠片でも知られていることに私は動揺した。……なんで、お姉ちゃんはカルマにだけ話したんだろう……他にも渚くんも、律ちゃんも、殺せんせーもいたのに……
だけど、お姉ちゃんがアルカンシェルに出会って、特務支援課の人たちと……ロイドさんと出会っていろんな面で変わったことも事実。そんな存在に成り得るのが、お姉ちゃんはカルマかもしれないっていうの……?
「だから、待ってて。俺が自信を持ってアミーシャの光になれると思えたら、ちゃんと言うからさ」
「……分かった。カルマのことは信じられるから……待ってる」
カルマは自分が受けなくてもいいリスクをちょっとでも感じると、サボったりワザと聞かなかったりして自然な動きでそれらを避けていく。だけど、カルマがもっている正義が揺らぐことは絶対にないし、やると決めたらやり遂げてくれる……まあ、決めるまでが大変だけど。
私にはカルマが目指しているものが何なのかは分からないし、お姉ちゃんも何か1枚噛んでるみたいだけど、彼の目はいつも以上に真っ直ぐで決意の色が見えるから、だから信じれる。
……だからただ、私は待つだけだ。本当の私を知ってしまったら、例えカルマだとしてもずっとそばにいてくれるとは思えないから。受け入れてくれるんじゃないかって、期待もあるけど……もしもを考えると、私は踏み出せない。……結局の所、私は臆病なんだ。
まさか、そんな臆病な私が、みんなのために少しだけでも力を使う日が訪れるなんて。堂々と前に出て、立ち向かうことがあるなんて……今の私には信じられないことだったのだけど。
※あの時、睨み合っていた2人と1人
「(こいつ……)」
「(口には出してないけど……)」
「「((確実に彼女へ同じ気持ちを向けてる……敵だ!))」」
「(2人して同じこと言わなくてもいいのに……でも揃うなんて仲いいなぁ)」
「それはそうと……よっと、」
「!?!?!?え、あの、カルマ……!?」
「なーにー?あ、このまま行くからね。暴れたら投げ捨てるよ」
「いつかの再来!?な、なんでいきなり、私は抱っこされてるの……?」
「右足、痛いんでしょ?ずっと庇ってる。平地ならともかくこの山道を登らせるほど、俺は外道じゃないから」
「え、えぇ、重いからやめてって前も、(そういえば、カルマが最初に肩を掴んだのも、手を引いたのも左側……体重をかけても負担がない側に引き寄せてくれてたんだ。)」
「怪我したのを隠してるのが悪いし、軽いから」
「あ、帰ってきた〜!」
「アミサ!あんた、1人になるかもしれないならせめて律を連れていきなさい!」
「だ、だって、こんなことになるなんて思わなかったんだもん……!」
「ていうか、カルマクーン……?見せつけてくれちゃってぇ……?」
「山道登るのにお姫様抱っこって、少女漫画か!」
「ちょ、は……?なんで……?」
「あ、カルマー、女子も知ってんぞ」
「はぁ!?何バラしてくれちゃってんの!?」
「いや、お前そろそろオープンにしすぎてて女子に勘づかれてたぞ」
「ここまで一応黙っててやったんだから寧ろ感謝しろよ?」
「う……ぐ……、……て、ていうか、違うから、これは他意があったわけじゃなくて、アミサが足痛めてるの隠してたからであって、別に見せつけるとかそんなんじゃ……あー、もうビッチ先生でいいや、手当してやってよ」
「『でいいや』とは何よ!やってあげるけど!」
++++++++++++++++++++
気づいたら浅野君登場してたし、お相手のカルマより先に告白しちゃったミラクル発生。オリ主ワールドも炸裂。どうしてだろう。
一応オリ主は、分かってないわけでは無いです。ただ「自分なんかに」と自己評価が低いのと、自分の本来の道を考えると自由な恋愛が想像出来ていないだけだったりします。今後どうなることか……
次回、鷹岡先生が来ます。