UA115000オーバーありがとございます!
しおりが挟まれている場所が、恋愛事情の部分が多くて、気に入って貰えてるのが分かり、ホクホクしてます......///
今回も原作改変で、本来いない人がいます。
是非、最初と終盤をスクロールして比べて読み比べて欲しいなと思ってます!
理由はあとがきに
烏間side
7月……椚ヶ丘中学校3年E組の子どもたちの中学校生活が、ただ行事を楽しみ学業に励む学生生活から担任である超生物の暗殺を虎視眈々と狙う暗殺教室へと様変わりして3ヶ月。俺が受け持つ体育の時間を使った暗殺技術の訓練も4ヶ月目に突入しようとしていた。
ジャージ姿でナイフやエアガンを扱うE組の生徒たちと、スーツを着たまま生徒と組手や指導を行う俺が校庭で訓練している……その光景はいつの間にかこの場所では当たり前のものになっている。
今はナイフ術……ペアを組んで素振りを行ったあと、各自準備が出来た者からコンビ、または単独で俺に対してナイフを当てに来る実践訓練だ。宣言してから仕掛けても、不意打ちで仕掛けてきても構わないルールとしている……その方が、俺自身の訓練にもなるからだ。
「視線を切らすな!次に標的がどう動くかを予測しろ!全員が予測すれば、それだけ奴の逃げ道を塞ぐことになる!」
訓練4ヶ月目に入るにあたって、奴の暗殺に重要なアタッカーとなり得る『可能性』がありそうな生徒が増えてきた。
────磯貝悠馬、前原陽斗。
「行くぞ!」
「おうよ!」
運動神経がよく、仲も良い2人のコンビネーション……2人がかりなら……俺がナイフを当てられるケースも増えてきた。
コンビでのナイフ術は、個人の能力だけでなくペアとどれほど意思疎通ができるかも重要になってくる。ペアの動きを予測し、動線を邪魔しないようにしながら如何にナイフを当てる隙を作るかが勝負の決め手だ。この2人は幼馴染らしく相手の考えや動き方を口に出さなくても理解し合っている……いいペアだ。
────赤羽業。
「ちぇ、……ちょっとセンセー、動かないでよ〜」
「足払いを狙っているのが見えるぞ、他へ意識を向けさせる方法を考えろ」
「……ふふ、そんなこと言ってて……大丈夫?」
「っ!……真尾さんはいないぞ」
「なんだ、気づいてたか」
一見のらりくらりとしているが……その目には強い悪戯心が宿っている。どこかで俺に決定的な一撃を与え、赤っ恥をかかそうなどと考えているようだが……そう簡単にいくかな?
基本単独で挑んでくるが、毎度トリッキーな仕掛けを隠し持っていたり戦術を考えて実践したりとなかなかの曲者だ。……ケンカでE組落ちとなったと聞いていたが、ここでは立派な戦力、対人戦闘に慣れているようで武器の扱いも頭一つ抜き出ている。
ここに1人の女子生徒……気配遮断と他者との追随を許さない身体能力、周囲の思考を読むことに長けた真尾有美紗さんが加わると、前述の磯貝君と前原君のコンビを優に超える脅威になりえるが……今回は組んでないようだな。このクラス唯一の触手大量破壊コンビは、ほぼ相談なく息をするように連携してくるから気を抜けないしおもしろい。
────岡野ひなた。
「よっと、」
体操部出身で意表をついた動きができる、近接戦闘特化の生徒。
以前バランス感覚の授業を行った際に、体操技術を駆使すれば相手の予想外な攻撃ができると学んだのか、今では積極的に繰り出してくる。唯一、ナイフを手で持つだけでなく、ナイフを靴に仕込んで足技でも仕掛けてくる存在だ。
────片岡メグ。
「はあっ!」
男子並みの
単独でも機動力の高さが厄介だが、ペアを組んだ際の指揮能力もかなり高い。勝敗を分ける一瞬の決断と統率力を兼ね揃え、前衛も後衛もこなせるオールラウンダーと言えるだろう。
「『そして殺せんせー。彼こそ理想の教師像だ。彼のような人格者を殺すなんてとんでもない』
……人の思考を捏造するな、失せろ
そういった瞬間に口で「シクシクシクシク」と言いながら、砂場でタージ・マハルを作り始めた超生物……相手をするのも面倒なので放置しておくことにする。
寺坂竜馬、村松拓哉、吉田大成の3人は未だに訓練に対して積極性を欠く……体格に優れ、本気を出せば即戦力となりうるが……。全体を見れば生徒達の暗殺能力は格段に向上している。この他には目立った生徒はいない……いや、そういえば
────ぬるり、
────ジャラ、
「っ!!」
──────トスッ
「……あっ、」
「い、痛ったた……」
まるで、蛇が絡みつくような音のないねっとりとした突然の殺気を感じ、慌てて防御をすると、吹っ飛ぶ1人の男子生徒……潮田渚君。小柄故に多少はすばしこいが、それ以外に特筆すべき身体能力は無い、温和な生徒。
渚君の攻撃を防御した直後、上から音もなく降ってきて俺の首筋にナイフを当てた女生徒、真尾さんが地面に着地して、慌てたように潮田くんに駆け寄り、首の辺りを押さえる彼に怪我がないかを確認しているのを見て、俺も我に返った。
「……!すまん、ちょっと強く防ぎすぎた」
「あ、へ、へーきです」
「渚くん、だいじょぶ……?ごめんね、そのままナイフ当てに行っちゃった……」
「いや、バレちゃったものは仕方ないから。アミサちゃんが投げられるよりは全然いいよ」
どうやら彼ら2人はコンビで暗殺宣言無しのナイフを仕掛けてきていたらしい……赤羽君と来なかったと思ったら、真尾さんは渚君と組んでいたのか。渚君の攻撃でできた隙に、しっかりナイフを当ててきているあたり……その攻撃に意識を向けさせて跳躍していたために、止めるに止められなかったのだろう。
それにしても、俺に向けた闘志、殺気が全く見えなかったために、彼のことを考えた防御を取れずに結構本気で吹っ飛ばしてしまった。怪我がないようで安心したが……、気のせいか?今感じた得体の知れない気配は……
俺は、今の君を目にした衝撃からか忘れていた……いや、考えないようにしていたのかもしれない。俺の感じた得体の知れない気配は、1つではなかったことを。
◆
「本日の体育はここまで!」
渚くんと一緒に烏間先生に仕掛けたあと、ケガをさせかけてしまっまたことでなんとなく、再び挑む気にはなれなくて……渚くんだけじゃなく、カルマやカエデちゃん、愛美ちゃんとペアをいくつか変えながら組み手をしているうちに体育の時間は終わっていた。
息一つ乱さず、普段と変わらずストイックな様子を崩さずに校舎に戻っていく烏間先生は授業中でも私生活でも中々隙が見えない……今も陽菜乃ちゃんが放課後のお茶に誘ってるけど、防衛省からの連絡待ちだとかで断ってる。
……なんていうか、壁というか……私たちから一定の距離を保ってそれ以上近づかないようにしているようで……それは私たちのことを考えてくれているから、というのはよく分かるけど、ただ任務のために、なのかな……
「……?誰だ、あの人……」
「新しい先生……?なんかすごい荷物持ってるけど」
クラスの誰かの呟きに、飛んでいきかけていた思考から戻ってきた。みんなの目線の先には、烏間先生と一言二言話したあとにこちらへ近づいてくる大柄な男の人……彼はにこにこと笑顔を浮かべながら抱えた大量の荷物を広げ始めた。
「やあ!今日から烏間を補佐してここで働くことになった、
広げた荷物の中身は食べ物だった。ケーキとか、飲み物とか……詳しい子たちが言うには、『ら・へるめす』とか『もんちち』とか、ブランドものの高価なやつみたい。私はそういうのは全然知らないから、あまりピンと来ないけど……既に手をつけ始めている子たちもいれば、磯貝くんのようにこんな高価なものは恐れ多い……!みたいに恐る恐ると近づく人もいて、滅多に口に出来るものじゃない美味しいもの、なんだと思う。
この人曰く、烏間先生より後に来たからみんなと馴染むのにこれから日にちをかけるのでは時間がかかりすぎる、だからまずはみんなで食べ物を囲んで仲よくなりたい、ということだった。
「けーき……」
「おぉ!あんたが殺せんせーか!食え食え!まぁ、いずれ殺すけどな」
……いつの間にか殺せんせーまで混ざっている。
「アミサちゃん、食べないの?美味しいよ!」
「……カエデちゃん……えっと、……」
「あ、そっか。僕らが連れていくのって基本近場だし……ブランドものって言われてもアミサちゃん分からないか」
「う、うん……それに、いきなりケーキとかいわれても……」
「……なんだ、お前はいらないのか?もしかして甘いもんは苦手だったか?それは悪かったなぁ……俺が砂糖ラブなせいで今日は甘いもんしかないんだ」
「!」
甘いものが大好きで美味しそうに食べているカエデちゃんの近くで、その様子を見ているだけだった私を見つけたのか、鷹岡さん……明日以降体育では烏間先生に代わって授業をするらしいから鷹岡先生かな……どっちでもいいか、鷹岡さんに急に声をかけられて驚いた。
私も甘いものは好き、だけど……鷹岡さんが話している姿を見て、ちょっとした時に人を舐めるように観察する些細な仕草を見て、この人の中身と表面がぶれて見えた気がして……そんな人から物を受け取っていいものかと躊躇ってしまっていた。でもそんなことを直接言うわけにもいかないから、慌てて当たり障りのない言葉で覆い隠す。
「い、いえ……その、私、外国育ちで……あんまり知らないといいますか……食べ物のブランドと言われても、よく分からなくて……だから、まずは見ていようと思って……」
「食べ物を食べずに見てるって何?!……相変わらずのアミサ節だねぇ……」
「あー、まあ、いきなり来ていきなり出されちゃ戸惑うわな!気にすんな気にすんな!これから時間はある、少しずつ慣れてくれりゃあそれでいい!」
「烏間先生と同じ防衛省の人なのに、随分違うんスね」
「なんか近所の父ちゃんみたい」
「!……いいじゃねーか、父ちゃんで!同じ教室にいるからには、俺たち家族みたいなもんだろ?」
……また、だ。どこか私たちの反応を観察して、その反応に合わせて好まれるだろう対応を返す……いい方に考えていいのなら、臨機応変に私たちの心を早く掴めるよう動ける柔軟な人……実際みんな鷹岡さんのことを受け入れていると思う。
だけど、今の今まで知らなかった人のことを、ここまで早く受け入れられるものなのかな……みっちり私たちに関わってくれてる烏間先生と同じ所属だから?私ならその程度じゃ信用も信頼できない。
それに、……明日からこれまで指導してくれていた烏間先生の授業じゃないんだよ?多分だけど烏間先生は本職が教師じゃないからこそ、私たちを暗殺する人材として対等に見ているからこそ、関係に一線を引いていたんだと思う。……じゃあ、最初からその一線を飛び越えて関わろうとする鷹岡さんは、私たちのことをどう見てるの……?
私は、なぜか得体の知れない気持ち悪さを感じて、盛り上がるみんなと静かに距離をとっていく……、トン、と誰かにぶつかったのを感じて顔を上げると、私の方へ来てくれたカルマと陽菜乃ちゃんだった。
「……?……あ、ごめ……」
「アミサちゃん……顔、真っ青だよ〜……?」
「ねぇ……あいつ、どう思った?」
「……私は、はじめてこの教室に来て見た授業が烏間先生のだった。この人は、指導教官としてすごい人だって感じて……この人だったら指導、受けてみたいって思った。……鷹岡さんは、壁を感じないから本心で話してるとは思う、けど……、私たちを観察する眼が、気持ち悪くて……それに、なんか……」
「……なに?俺等しかいないから言って」
「……、……中学生には、甘いものを渡しておけば……言うこと聞くだろうって言ってるように、感じて……」
「……それがアミサの直感か……」
「そっかぁ〜……私も、烏間先生の方がいいなぁ……」
「陽菜乃ちゃんは、烏間先生大好きだもんね」
「うん〜…」
残念そうというか、少し悲しそうな陽菜乃ちゃんと一緒に校舎を見上げると……教員室の窓にもたれ掛かりながらこちらを見ている烏間先生がそこにいて、私と陽菜乃ちゃんは一度顔を見合わせたあとに彼に向かって笑顔で大きく手を振った。私たちは、烏間先生のことが好きなんだよ、授業を受けたいんだよっていう思いを込めながら。
烏間先生からは反応がなくて、でも私たちの行為を見て一瞬固まったから見てはくれたんだと思う。「振り返してくれなかったねー」なんて、陽菜乃ちゃんと話す私の横で、カルマは終始難しい顔をして鷹岡さんのことを見ていた。
◆
翌日。今日の体育から鷹岡さんの授業だ……中休みに一緒にサッカーで遊んだ人たちもいて、とてもフレンドリーで親しみやすい先生だったと言っていた。だからきっと訓練も楽しいものになる……みんな、そう信じて疑ってないみたいだった。
やっぱり、私がただ考えすぎてるだけなのかな……憂鬱な気分を周りに見せないように隠しながら、体操服に着替えて来ようと着替えを持って席を立った時、カルマが手ぶらで制服のまま教室を出ようとしていた。
「……カルマ?次、体育だよ。着替え……」
「あー、俺サボる。あいつどうにもわざとらしいし胡散臭くてさ〜……って、……どうかしたの?」
「……っ……な、にが?どうもしてないよ。……そろそろ行かなきゃだから……」
なんで、もう私の隠してるはずの不安がバレてるんだろう。それでも正直にこの説明出来ない気持ち悪さを言うことも出来なくて笑顔を貼り付けて誤魔化すと、カルマは眉間に皺を寄せて少し考え込み……教室を出ようとしていた足を戻して、自分の席に座った。
いきなりどうしたのだろう、着替える気になったのかと思って見ていれば、彼は平然とカバンからゲームを取り出して電源を入れ……え、カルマ、もうすぐ授業……
「……、あいつの授業、出る気は無いけど最初は教室で見てるから。途中からは分かんないけど」
「へ……?」
「俺も嫌な感じがする。それに、アミサの直感は馬鹿にできないから……気をつけてね」
多分これが、今回の件で彼なりの最大の譲歩なんだろう。本能的にリスクを避けて……だからといって何かあった時に飛び込めないわけではない位置に待機するという妥協案を出す。
……まあ、カルマが見ている間に異常がなさそうならどこかにフケる気満々みたいだけど。その場でピコピコゲームを始めて、本当に動く気がなさそうだったから私は一つ頷いて着替えを持つと、先に他の女子たちが着替えている空き教室へと向かった。
「……ま、何もないかもしれないしね」
◆
校舎から少し離れた校庭の片隅に私たちは集まり、体育が始まるのを待つ。鷹岡さんはどんな
姿勢を崩していても何も言わない、軽い私語に私語で返す、そもそもチャイムが鳴った時に校舎から出てきてここまでくる……もう、違いが出ている。私の持論かもしれないけど、訓練をするということは普通の体育に比べて危険もレベルも上のことをするということ……みんな、烏間先生の授業なら自然と整列して、真剣に向き合う気持ちがあったというのに。
「よっし、みんな集まったな!では今日から新しい体育を始めよう!ちょーっと厳しくなると思うが……終わったらまたうまいもん食わしてやるからな!」
「そんなこと言って、自分が食べたいだけじゃないの?」
「まーな、おかげ様でこの横幅だ。……さて、訓練内容の一新に伴ってE組の時間割も変更になった。これをみんなに回してくれ」
自分の体型をネタにして、みんなの笑いを取りに来る……やっぱり普通にいい人?軍隊出身と言っていたわりに家族のように接してくれるから、一線を引く烏間先生よりは近くに寄りやすいといえば寄りやすいし、でもやっぱり緊張感はどこにもないし……どっちつかずの思いのまま、私は私の結論を出せずにいた。
……前の人から回された、新しい時間割を見るまでは。
「な、何だよこれ……」
それは、とてもありえないものだった。午前中3時間にだけ組まれた教科の授業……午後から夜9時にかけて行われる訓練……必要最低限の中学生としての生活すら保証されていない。
この人は理事長先生に許可をとったというけど……当たり前だ。あの人は『E組は何よりも下になければならない』という考えを持つ人で、訓練ばかりで勉強に力を入れなければ必然的に学力は落ちる……承諾しないわけがない。
「この時間割についてこれれば、お前らの能力は飛躍的に上がる。まずはスクワット100×3回、次に……」
「ちょ……、待ってくれよ、無理だぜこんなの!勉強の時間これだけじゃ成績落ちるよ!理事長も分かってて承諾してんだ!遊ぶ時間もねーし……出来るわけねーよこんなの!」
当然納得できる生徒は誰も居なくて、 私たちの声を代弁するかのように陽斗くんが抗議の声をあげる。それを困ったように聞いていた鷹岡さんは、笑いながら手を陽斗くんの頭の上に置いて……、……置いて?いや、あれは置いてるんじゃなくて、押さえてる……?
「陽斗く、」
────ガスッ!
「ぐ、あ……!」
「『できない』じゃない、『やる』んだよ。言っただろ?俺達は『家族』で俺は『父親』だ……世の中に父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」
鷹岡さんは、そのまま躊躇なく、動かないように固定した陽斗くんのお腹を蹴り上げた……陽斗くんは地面に落とされ、胃液を吐いて蹲っている。事が起きたのも、鷹岡さんが豹変したのも一瞬のことで、みんな何が起きたのか分からなかった。
すぐに近くにいた磯貝くんやひなたちゃんが彼を支え、容態を確認している……思い切り蹴られていたが、意識はあるようだ。
「抜けたいやつは抜けてもいいぞ?その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。けどな、俺はそんなことしたくないんだ。お前らは大事な家族なんだから……父親としてひとりでもかけて欲しくない!家族みんなで地球を救おうぜ、なっ?」
そう言って三村くん、有希子ちゃんの肩を組んで有無を言わせない口調で強要する鷹岡さん……「お前は父ちゃんについて来てくれるだろ?」って。
明らかに怯えの色を見せている有希子ちゃんは、それを押し殺すように笑顔を見せて……鷹岡さんに向き直る。
「私は嫌です。烏間先生の授業を希望します」
ハッキリと、告げた。その瞬間に鷹岡さんは舌なめずりをして、有希子ちゃんの顔を張り飛ばした。慌てて杉野くんや渚くんが彼女に駆け寄る……ぐったりとしていて、辛そうだ。
「お前ら、まだ分かってないようだな……『はい』以外にはないんだよ」
……私は、気づいていたのに。
……この人の裏側を、外見からは見えない内面のブレを、見ていたはずなのに。
……やっぱり、受け入れちゃ、いけない人だったんだ。
私は万が一のために、とポケットに潜ませていた機械に手をかけ、蓋を開ける。陽斗くんと有希子ちゃん……2人の距離はそんなに離れてないから十分範囲に入る。
「……エニグマ、駆動……!」
「文句があるなら……、なんだ、この光は……?」
鷹岡さんの話す言葉を無視して、私はエニグマを両手で握り意識を集中させ、右手で緑色と青色のクオーツをいくつかなぞる。フワリ、と私の周りに青い独特の光が生み出され、みんなが私の方を見ているのを感じる……エネルギーの余波で私の髪が、服が、エニグマに付けたキーホルダーが揺れる。
アーツ特有の青い光もそうだけど、今から使おうとしているのは自然界の風に干渉するアーツだから、空気が揺れ動き始めたのを感じたのだろう……鷹岡さんが訝しげに私を見つめてきた。
「青い光……エニグマ……まさか貴様ッ!」
一応ゼムリア大陸の導力技術は国の上の立場だったり軍隊所属の人なら知っている人もいる……ま、もし私の行動に気づいて止めに来ても、発動準備の整った今、もう遅いけど。
「癒しの吐息を……≪
瞬間、有希子ちゃんを中心に風のアーツを象徴する緑色の光が広がり……陽斗くんと有希子ちゃんの周りを、その近くにいた他数人を巻き込んで風と緑色の光が駆け巡った。数秒もなかったその光が空気に溶けて消えた時、ハッとしたように陽斗くんが勢いよく体を起こした。
「あれ、腹が痛くない……」
「私も、どこも……まさか、」
「……貴様、何をした?」
それを確認してパチリと、エニグマの蓋を閉じてポケットにしまった私は、怒りの感情を浮かべてこちらを睨みつけている鷹岡さんを真っ直ぐ見返しながら立ち上がる。その怒りは無理もない……たった今、彼が教育的に罰を与えたはずの2人が回復し、その要因が私だと明らかだからだ。
怖がりの私が、まっすぐ見返すのが意外だって?そんなもの、私が大切にしているものを傷つけたんだから、怖いと思う気持ちなんてそうそうにどこかへ行ってしまった。
「あなたなんかに……、私の大切なクラスメイトを傷つけるあなたなんかに、お話しする筋合いはありません。それに私は、絶対にあなたを父とは認めない……私の父は、1人だけ……すべての技術を私たち姉妹に託して逝った、尊敬する1人だけです」
「ほう、父ちゃんに逆らうのかァ……いいぞ、文句があるなら拳と拳で語ろうか?父ちゃんそっちの方が得意だぞ!」
「アミサちゃん……!」
構えを作り拳をぐるぐると回す鷹岡さんを、私は敢えて見つめる。反論した上怖がらず、逃げようとする素振りさえ見せない私に苛立ったのか、私目掛けて振り落とされる拳を、私はほとんど動かないで避けて見せた……まるでカルマと磯貝くんが球技大会のバットを避けたあの動きのように。
「なっ……!このガキッ!」
「ッ!」
拳が当たらなかったのが気に食わなかったのだろうか……鷹岡さんは余計に苛立ったように再度腕を振り下ろしてきた。それはさっきのものとは違う、軽く怯えさせようと手加減した動きじゃない、本気混じりの私だけを狙った攻撃。
……冷静じゃない、相手を舐める動きは単調だから避けやすいのは当たり前だけど、怒りで逆にターゲットを絞るって……腐っても軍人ってことだ、どんな頭の作りをしてるのだろう、この人。
鷹岡さんのさっきまでの私への向き合い方が変わったことで威力も速度も変わり……少しだけ反応が遅れた事を自覚した時には避けるのは無理と判断して、私は
遅れたこととまだ習得しきれていない動きということもあってキレイには拳を捌ききれず、火傷のような熱い感覚が左頬を掠めていく。しくじったけど油断の消えた今、間髪入れずに私を狙うもう1つの拳は落ち着いて捌こう……とした瞬間、私の体は後ろに引かれて鷹岡さんが視界から消え、自分より大きな存在に背中から抱きしめられていた。
「……チッ、間に合わなかった……」
……なんで、カルマがここにいるんだろう。荒い息で私を抱きしめ、彼の早い心臓の音がやけに響く。私と場所を入れ替わり、鷹岡さんに背を向けていた彼は、下手をしたら代わりに殴られていたかもしれないのに……
驚きすぎて何も言えないまま、腕の中から出して貰えた私は、カルマに手を引かれながら渚くんたちの近くへ連れていかれる。
「カルマ、珍しいな授業サボった時は絶対最後まで来ないのに」
「……サボるつもりだったよ。でも今回はアミサに頼まれて仕方なく見てた。胡散臭い授業に出る気はなかったけど……こんなことになるなら最初から守ってた方がよかった」
「……かるま?なんで、」
「……明らかに授業がおかしくなってたし、イトナの時みたいな光が見えたから。烏間先生のでしょ?さっきのって……、……顔、左側腫れてる」
「う、うん……まだ、習得する前だったから捌ききれなくて……」
「アミサちゃん、無茶したね……」
「だって……我慢、できなかったんだもん。カルマと磯貝くんだってできたんだから、あれを避けるくらい私もできる」
「だからって……」
「やめろ、鷹岡!それ以上……生徒達に手荒くするな。暴れたいなら、俺が相手を務めてやる」
「「「烏間先生……!」」」
ふと、鷹岡さんの方へ意識を戻すと、烏間先生が鷹岡さんの拳を押さえつけていた。カルマが殴られずに済んだのは、本気の二発目の拳を烏間先生が止めていたからだったらしい。
烏間先生が来たことで、私たちは一気に安堵の気持ちで溢れる……先生が私たちと距離を開けていたとしても頼りになる人だということは、この3ヶ月一緒にこの教室で生活を続けてきてみんなが知っている事だったから。
「そろそろ介入してくる頃だと思ったぞ、烏間ァ……だがなこれは暴力じゃない……教育なんだ。暴力でお前とやりあう気は無い……
私に避けられ、烏間先生に止められた鷹岡さんは、焦るでもなく怒るでもなく大して問題のないような顔をして対先生ナイフを取り出して提案をしてきた。
曰く、烏間先生が
それを聞いて、希望を見出した私たちは顔を明るくさせる。ナイフ術の成績優秀者は烏間先生に当てることができる人もいるくらいだ……何もしないよりも可能性が出てきた、って。
だけど、そんな私たちを嘲笑うかのように付け足された条件に、みんなの顔色は真っ青になる。
「ただし、もちろん俺が勝てば今後一切口出しさせないし……使うナイフはこれじゃない。殺す相手が俺なんだ、ナイフも本物じゃなくちゃなァ……安心しな、寸止めでも当たったことにしてやるよ。俺は素手だし、これ以上ないハンデだろう?」
対先生ナイフを投げ捨て、鷹岡さんが自分のカバンの中から取り出したのは本物の、刃がついたナイフ。人を、傷つけるかもしれない凶器。
ナイフなら、と覚えのある生徒が何人か前に出ようとしていたけど、使う武器がそれだと分かると足を止めてしまった。みんながそれに恐怖しているのを分かった上で鷹岡さんは楽しそうに1人選ぶように烏間先生へ強要する……生贄とするのか、見捨てるのか、それを選ばせるかのように。
烏間先生は地面に突き立てられた本物のナイフを抜くと、少し迷いながらも歩き出し……
───私たちの目の前まで来て足を止める。
「……渚君、赤羽君、……真尾さん。やる気はあるか?」
「「「!?」」」
烏間先生が選んだ生徒は、カルマと渚くん、そして私の3人だった。戦闘、武器の扱いに長けているカルマはまだ分かる……だけど、もしかしたら烏間先生は昨日2人で仕掛けたことで、気づいたのかもしれない。渚くんのもつ、得体の知れない気配の正体に……私の、微かにでも出してしまった殺気に。
「選ばなくてはならないならおそらく君達3人の内誰かだが……その前に俺の考え方を聞いてほしい。地球を救う暗殺任務を依頼した側として……俺は君達とはプロ同士だと思っている。プロとして君達に払う最低限の報酬は、当たり前の中学生活を保障することだと思っている。だから……このナイフを無理に受け取る必要は無い」
……やっぱり、烏間先生はそれで私たちに一線を引いていたんだ。
プロとして、先生と生徒という立場を除いても対等な立場として、真っ直ぐ私たちを見てくれるこの目。この目を見たから私はこの人を指導教官として信頼するし、私たちの先生だと自信を持って言える。
「烏間先生、私が……」
「待って」
カルマは選ばれればやるかもしれないけど制服姿で動きにくいだろうし、私を守ろうとした動揺が残っていそうだ。だからといって渚くんに危険なことをさせたくない、そう思って戦闘経験のある私が名乗り出ようとした……時だった。渚くんに止められたのは。
「……渚くん……?」
「……カルマ君、アミサちゃん、……僕がやるよ。既にアミサちゃんは1度、僕達のために動いてくれた……だったら次は僕の番だ、……いいよね?それに……前原君と神崎さんの事、許せない」
「俺はどっちでもいいけど……やれんの?」
「やるよ、だから2人とも……信じてくれる?」
「ふーん、……いいよ」
「でも……、ううん、わかった。……渚くん、1つだけ……武器は本物だけど、これは〝相手を倒さなくていい〟の。鷹岡さんは戦闘、渚くんは……暗殺、だから」
「!うん……烏間先生、僕がやります」
そう言って烏間先生からナイフを受け取り、渚くんは鷹岡さんの前に出ていく。対先生ナイフと本物のナイフでは重さが違う……物理的な重さだけじゃない、命を軽く奪えてしまう、傷つけてしまう……手にかかる、覚悟が。
だけど、渚くんならだいじょぶだって自然と思えたから……私は信じる。
「おい、渚は当てれんのか?」
「無理だよ……プロ相手に本物のナイフなんて……」
「だいじょぶ、だよ……」
「!真尾……」
「渚くんなら、だいじょぶ」
「さぁ、来い!」
その途端、場は一気に静まり返る。
鷹岡さんは、余裕の表情で構えをとる。こんなチビ、目をつぶっていても余裕で勝てる。数回攻撃させて、それらを全て見切り、あとは見せしめにしてやるだけだって。
だけど、渚くんは倒す必要が無い……当てれば勝ち。
「捕まえた」
誰もが気がついた時には終わっていた。渚くんが鷹岡さんの背後に周り、ナイフを首筋に突きつけ、もう片方の手で目を塞いでいた。
誰もが唖然としていた。渚くんでは当てられるはずがない、そう思っていたクラスメイトたちも。渚くんを指名した、烏間先生すらも。
私はただ、真っ直ぐその光景を見つめていた。
「そこまで!勝負ありですね。……まったく、本物のナイフを生徒に持たせるなど正気の沙汰ではありません。怪我でもしたらどうするんですか」
ついに殺せんせーが介入してきた……いや、かなり前から参加しようとはしていたのだけど、教科担任に教育内容は一任される上、暗殺対象が暗殺する側の教育に口出しできないために見ている以外になかったんだ。
ようやく手出しができるとばかりに渚くんからナイフを取るとバリバリと噛み砕き始めた。それを見て、ようやくみんなが動き出す。
「やったじゃん、渚!」
「よく振れたよな、本物のナイフ……」
「いや、烏間先生に言われたとおりにやっただけで……それに、アミサちゃんにも言われたしね。〝倒す必要は無い〟って」
「……結果的に、倒してるけどね……カッコよかったよ、渚くん」
「あはは……って、痛っ!?なんで叩くの前原君!」
「いや、悪ぃ……なんか信じられなくて……でもサンキュ、今の暗殺スカッとしたわ!」
陽斗くんが叩いたのも分かる……夢なのかどうか確かめようとしたんだろうけど、それなら自分をつねろうよ……もしくは、今の体運びで避けれるんじゃないかって無意識に試そうとしたのかな。
みんな、これでもう安心だと気を抜いているみたい。だけど、まだ終わってない。
「このガキ……!!」
「「「!!!」」」
鷹岡さんが息を荒らげていつの間にか立ち上がっているから。
「父親も同然の俺に刃向かって……まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか……!?もう一回だ!心も体も全部へし折ってやる……!」
「確かに、次やったら絶対に僕が負けます。……でも、ハッキリしたのは鷹岡先生、僕らの『担任』は殺せんせーで、僕らの『教官』は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押し付ける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が僕はあったかく感じます。本気で僕らを強くしようとしてくれてたのには感謝します……でもごめんなさい、出ていってください」
「黙……って聞いてりゃ、ガキの分際で……大人に、なんて口を……!!」
渚くんが頭を下げる。彼の言葉は私たちの総意だ……もう、誰1人として鷹岡さんのことを認めている生徒はいない。怒りで顔を真っ赤にさせ、青筋を立てた鷹岡さんは逆上して渚くんに殴りかかってきて……
「アミサ、やれるね?」
「ん、いつでも」
誰かが静止する前に、カルマが渚くんの襟首を掴んで後ろに投げ飛ばして場所を代わり、私の不完全な見様見真似な防御とは違い、完全に模倣した動きで鷹岡さんの拳を完璧に、横へ捌く。
怒りで、見下していた中学生にしてやられて、正気では無いにしろ全力のそれを捌かれた鷹岡さんがバランスを若干崩す。
鷹岡さんにとっての今の敵は、カルマだ……完全に意識がカルマだけに向いた、その時。
「ねぇ、気づいてないの?」
「は……、ぐぅっ!?!」
軽い笑みと共にその場でしゃがみ、バランスを崩した側へ倒れるように、一気に足払いをかけるカルマ。
そして───
「つかまえた」
カルマと同時に走り出していた私が、カルマが捌いて鷹岡さんがバランスを崩した側に回り込み、足払いで完全に崩れた体勢をこの人が整える前に、体重をかけている側の服を地面に向かって引っ張ってしっかり転ばせる。
そのまま今見たばかりの、渚くんの動きと全く同じように背後から、私は、そのままではナイフほどの凶器ではない戦術導力器だからこそ寸止めなんてせず、それをしっかり首筋に押し当ててみせた。
「ねぇ、やっぱり烏間先生より明らかにレベル低いよこの人。力とかはすごいのかもしれないけどさぁ……烏間先生なら俺が足払いしかけようとしてるのにも、アミサがいるかどうかにも、すぐに気付くからね」
「もう1回、って言うから希望通りに『さっきと同じことをもう1回』やってみたけど……1人じゃないし、本物のナイフじゃない……これじゃ、だめ?」
「えー、昨日の体育で烏間先生ができた気配探知ができてない時点で、こいつが烏間先生に劣ってるの見え見えだからいいんじゃない?」
「そう、だよね?……じゃあもう1回も……私たちの勝ち」
「な、な、な……ッッ!!?」
みんながぽかんとする中、そのままの体勢でいつものようにカルマと話していれば、また1回目と全く同じように地面に転がされた鷹岡さんが言葉にならない声を出している。自分で条件出したんだから、1回目でやめてればよかったのに……しっかり、烏間先生が指名した3人ともで鷹岡さんを地に沈めてみせた。
「……1回目の条件は暗殺だったから渚君を指名したが……完全に見せしめを超えた戦闘に持ち込まれても対応するのか、君達なら」
「烏間先生」
「手……?……あ、ありがと、ございます」
す、と静かにやってきた烏間先生が軽く頭を振って溜息をつきながら屈み、私の手を引いて立ち上がらせてくれると、先生は私と場所を入れ替えてカルマの方へ軽く押し出す。
「俺の身内がすまなかった。あとのことは心配するな……今まで通り俺が教官を務められるよう上と交渉する」
「や、やらせるか……俺が先に、掛け合って……!」
「交渉の必要はありません」
烏間先生が続投するために上へ掛け合う……それを阻止しようと体を起こした鷹岡さん……でも、そんな先生の声を遮るように威圧する声が私たちに向けてかけられる。
ゆっくり、校舎の方から歩いてくるのは椚ヶ丘中学校の絶対的なトップである理事長先生だった。どうやら新任教師の手腕に興味があって、授業の様子を見ていたらしい。
……理事長先生は合理主義、それにE組の立ち位置を下にするための教育としては鷹岡さんの教育が適している……このまま続投を指示するのだろうか。
だけど、そんな考えは杞憂だったらしい。
「あなたの教育はつまらない。教育に恐怖は必要です……が、暴力でしか恐怖を与えられないのでは三流以下。そしてその暴力で負けたのなら、その授業は説得力を失う。……解雇通知です。
そう言いながら、鷹岡さんのそばに跪き、口の中に解雇通知をねじ込むと手を拭きながら立ち上がる。ふと、上げられた彼の顔がカルマに庇われるように隠されている私の方を見たのを感じ、慌てて姿勢を正す。
気にせず近くまでやってきた理事長先生は、そんな私の少しだけ腫れた頬に触れながら小さな声で呟くのが聞こえた。
「……君も無茶をするね、月のお姉さんに心配をかけてしまうよ……?」
「……っ!」
周りには聞こえないほどの声だったけど、私には十分で……なんで知っているのだろうなんて、理事長先生だからで十分な気がしてきた。多分、私の経歴までは調べていないんだろうけど、家族構成くらいは頭に入れているんだろう。
そのまま去っていく理事長先生のあとを追うように悔しげに叫びながら、鷹岡さんは、走り去って行った。
解雇通知、すなわちクビ……ということは、烏間先生が私たちの先生として残留決定……!
「「「よっしゃー!!」」」
「ねー、烏間先生、生徒の努力で体育の先生に返り咲けたわけだしさ……なんか臨時報酬があっても良くない?」
「そーそー、鷹岡先生、そーいうのだけは充実してたよね〜」
「……フン、甘いものなど俺は知らん。財布は出すから食いたいものを街で言え」
莉桜ちゃんや陽菜乃ちゃんが烏間先生と街で遊びたい、ということをおねだりして無事に承諾を得ることに成功する。みんな大歓声だし、こっそりイリーナ先生まで便乗してる。
「にゅやッ先生にもその報酬を!!」
「えー、殺せんせーはどうなの?」
「今回はろくな活躍無かったよな〜」
「いやいやいや!!烏間先生に教師のやりがいを知ってもらおうとあえて静観していて……!」
「それでケガ人3人出してるんだよねー」
「しかも治療してくれたのもせんせーじゃなくて真尾だしな」
「もう放っといて行こ行こ烏間先生!烏間先生は何食べるの〜?」
確かに、烏間先生とはいろいろ話してたみたいだけど、殺せんせーは今回私たちに対して介入してきたのは必要最低限だった。それで言ってしまえば、完全に見てただけのイリーナ先生もどうなんだろ?イリーナ先生がいいなら殺せんせーもいい気がするけどな。
烏間先生を念願のお茶に誘えて、陽菜乃ちゃんは嬉しそう。腕を引っ張って校舎に向かって行く中で、たくさん話しかけている……なんだか、先生の表情が前よりも明るい気がする。
「だが、出かけるのは放課後だ。……前原君と神崎さん、痛みは?」
「あ、もう全然っす。さっきの光が体に入っていった時から吐き気も何も」
「私も……」
「……それならいい。アーツによる回復術なら既に跡も何も残っていないはずだが、一応教員室に来てくれ。神崎さんはイリーナに診てもらうといい……真尾さんは頬の治療をしよう。それともアーツで治すか?」
「あ、いえ……この程度でアーツはもったいないかなって……」
「……なるほど、回復薬は?」
「……使うと思ってなくて……、でも、ちゃんと休息を取れば上限まで回復するから、だいじょぶです」
「そうか、わかった」
私たちとの間に一定の壁を作って、私たちを守ってくれていた烏間先生。それは大人としての責任で、烏間先生自身も迷いながら考えてくれたこと。
だからこそ、すぐに取り払うことはできなくても、今回のことは烏間先生の方からも歩み寄ってくれる一件になった。
──────ヌルヌルヌルヌル……
「うわ、土下座しながらついてきた!?」
「そこまでして食いたいか!?」
「何卒何卒何卒何卒何卒何卒何卒何卒何卒何卒何卒何卒何卒何卒何卒何卒ッッッッ!!!!!!」
「きゃー!!!!!」
「怖いわ!!!!!」
「気持ち悪い!!!!」
殺せんせーは、あいかわらずだけどね。
「そういやカルマ、真尾が言ったから完全にサボらず様子見てたみたいなこと言ってたけど、お前鷹岡の本性に気付いてたのか?」
「……胡散臭いとは元々思ってたよ。でも今回の件、俺があいつを信用しなかったのは、アミサがあいつの事を『先生』と呼ばず頑なにさん付けしてたことと、敬語のまま一切砕かなかったから」
「え、」
「アミサちゃんの話し方で……?」
「アミサは信用できない人には敬語で話すし、敬称……ましてや俺等が嫌う『先生』なんて、『教師として』信用できなければそう簡単に呼ばない。たった2日間のことだけど、話してる内容が全部本心にしか見えないのに、俺等を監視、観察する態度があるのも気持ち悪いって言ってたっけ」
「気づいてたなら……」
「いや、お前等すでにケーキで懐柔されてたじゃん?」
「言っても意味無いって思ったもんね〜、私は最初から烏間先生がよかったもん。だからアミサちゃんの気持ちも聞いてたんだ〜」
「「「…………」」」
「真尾!」
「アミサちゃん!」
「陽斗くん、有希子ちゃん……?どうかしたの?」
「いや、ちゃんとお礼言えてなかったからよ……治療、お前だろ?サンキューな!」
「ビッチ先生と確認したけど、跡も何も残ってなかった。……ありがとう」
「……怖く、ないの?」
「「?」」
「当たり前の力ってわけじゃないのに、怖く、ないの……?」
「あー……怖くはねぇな。イトナの時にやってたのもそうだろ?むしろすげぇと思うし、俺は助けてもらったんだ」
「うん、アミサちゃんがその……アーツ、っていうのを使ってくれたから、今私たちは元気なんだもん」
「……ありが、と……」
※鷹岡クビの翌日朝、E組教室にて
「……カルマ」
「……なに」
「…………いつまで、引っ付いてるの?」
「…………。」
「(カルマ君、アミサちゃんがまた自分から危険に飛び込んだ時に自分が間に合わなかったからって……)」
「(近くで守っとけばよかったとか代われたのにとか言ってたけどさ……)」
「(いつもより引っ付かれて真尾が超困惑してる……)」
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鷹岡襲来……少し、流れの都合上、お話は削って再構成したら、いないはずのカルマが参加してた。
初っ端の烏間先生との訓練風景と、鷹岡のもう1回を対比させてみたくてこんな構成にしてみました。
スクロールして比べてもらえると嬉しいです。